2008年6月30日でWinsowsXPの販売が終わるというニュースは韓国にとって「え、また!」というぐらい動揺を抑えきれないニュースとなった。Windows 98のパッチ提供終了のせいで電子政府システムを利用できなくなったり、Vistaの登場でオンラインバンキングやまたまた電子政府システムを利用できなくなって大騒ぎしたのが1年ほど前だった。その時からMS依存度が高すぎる、なんとかオープンソースに切り替えようと話は持ち上がるものの、いまだに政府や企業の重要なシステムはWindowsとIEを基準に製作されている。
日本もそうだが、韓国もセキュリティや専門性の問題から社内専用ソフトを利用する企業が多い。しかしVista環境ではそもそもそれらの専用ソフトが動かないとか、パソコンのシステム要求仕様が高すぎるため、使用中のパソコンにインストールすると動作が遅すぎて仕事にならないといった問題があることから、今でもXPを使っているところは多い。
最も問題なのは行政機関がMSに依存しすぎていることだ。韓国政府は電子政府システムを始め、316の地方自治体の2145システムを対象にVistaとの互換性を点検している。「尻に火が付いた」状態だ。
しかも、政府の公共調達のパソコン規格は2008年9月までXPになっている。7月から3カ月間、調達に参加しているパソコンメーカーはMSのせいで、規格を満たせないために発生する罰金を払いながらVista搭載パソコンを納品するしかない。組み立てパソコンは2009年1月までXPを搭載できるが、MSと直接契約してOEMでWindowsを搭載している大手パソコンメーカーは7月からVistaを搭載せねばならず、調達規格を満たせないことになってしまうからだ。MSは相手がどんな反応をしようが結局はMSの言いなりになるしかないと、市場支配力を悪用している面もある。
さらに、XP販売中止を知らない人が多すぎる。販売中止になってもサポートはしてくれるので、なんとかなるだろうという心境だ。新聞やネットで告知されてはいるものの、韓国の秋葉原といわれる龍山のパソコン販売店では7月に入ってからもVistaが搭載されたパソコンをXPにダウングレードしてほしいと要求する顧客がほとんどだという。
韓国PCバン(PCバンとは韓国のインターネットカフェ)経営研究所の調査によると、2008年4月に全国PCバンで使用されているパソコン7455台をサンプルに調べた結果、Vistaを搭載したパソコンはなんと、たった1台もなかったという。Windows XP HomeとXP Professionalが98%を占めていた。海外でも事情は似ていて、2007年12月米フォレストリサーチが5000企業を対象に行った調査でも、XPが89%、Vistaは6.3%しかなかった。
パソコンメーカーの担当者らはMSに不満が多い。「今までWindows 98、XPと新しいOSが登場するとパソコンがドカンと売れた。しかしVistaは違う。新しいパソコンを買った人もXPにダウングレードしたり、大口の法人顧客からはVistaのせいで社内ソフトが作動しない、どうしたらいいんだと苦情ばかり。パソコンを売るどころかVista苦情係になってしまって困っている」とあるメーカーの担当者は言っている。
ひどいケースでは、Vistaのせいでソフトが動かないのを全てパソコンの問題にして製品の交換や修理を要求するという。対策として、韓国のパソコンメーカーと販売店ではXPへダウングレードできるようにしてきた。ところがWindows XPは販売終了してしまうとなると、ダウングレードサービスも早晩中止せざるを得ない。この頃パソコンが売れないのはVistaのせいだと怒り出す人までいた。OSを開発するMSとパソコンメーカーは仲良くするしかない。これまで、新しいOSが発売されるたび、それを盛り上げてきたのはパソコンメーカーと量販店だった。しかしVistaは誰にもかまってもらえない状況が続いている。
パソコンメーカーはこれを機に、販売時に搭載するOSは決めず、Windowsでもリナックスでもユーザーが好きなOSを搭載できるようにしようとしている。今までフリーOSは違法コピーを量産するとして、Windowsを搭載してきたが、もうMSの尻拭いはしたくないというのが本音だ。
追い打ちをかけたのが、超低価格パソコン(Ultra-Low-Cost Personal Computer、略称ULCPC)向けに2010年6月30日まではWindows XP Home Editonの販売を続けるという話だ。
これの方針転換について、韓国では「6月30日でXP販売を終了しておきながら、中国では2010年6月まで延長して通常版XP(Windows XP Home Edition)を供給することにした」と受け止められている。ここで指す「低価格パソコン」の定義が曖昧だからだ(編集部注:米マイクロソフトでは「小さい液晶」「スペックが低いCPU」「モバイル用途」をULCPCの例に挙げているが明確な定義はしていない)。ユーザーはXPをもっと使いたいのに企業が勝手に販売を中止するのは、韓国がMSに依存しすぎていてなめられているからだと憤慨している。
2008年1月、韓国MSはVista発売から1年間で300万ライセンスを販売したと発表した。しかしその期間の韓国内パソコン販売台数は約450万台、3台に1台はXPのまま販売されている。またVista搭載パソコンを購入してXPにダウングレードした人の数は入れていないので、実際に300万台のパソコンでVistaが動いているわけではない。MSはVistaの次なるOSとしてWindows 7を発売するという。2010年にもまた騒動が起こるだろう。
(趙 章恩=ITジャーナリスト)
日経パソコン
2008年7月16日
-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20080716/1006084/