インターネットに政治家の悪口を61回書き込んだ58歳のネットユーザーが常習的な「悪プラー」であるとして懲役5カ月の刑に罰せられることになった。この男性は過去に同じ罪で刑事処罰も受けていたため、「再犯」に当たる今回は実刑を宣告された。なお、韓国では悪プラーとは悪意のこもった書き込みやコメントを書き込む人のことを指す。
しかし、ネットで政治家の悪口を書いたことがそんなにいけないことなのか、この判事の論理からすると、政治家を賛美する内容以外書き込むなということにしかならないと猛反発が起きている。政治家や政治の批判と悪口は紙一重。書き込む側と受け取る側の温度差がありすぎるからだ。
この58歳の男性は2007年からにイ・ミョンバク当時大統領候補をはじめ、国会議員らに関する虚位の情報を書き込んだのが罪に問われているわけだが、この男性が書いたとする悪口は大体、笑っている写真の下に「こんなに経済は苦しいのに笑っている場合か」と書き込んだりとか、「国のことを心配するより自分のことを先にどうにかしろ」とか、悪口といえば悪口だけど、普通に誰でもこれぐらいは言っているじゃない?と思ってしまう。
韓国の選挙法によると、選挙日180日前から選挙日までは候補や政党を支持する、または反対する書き込みをしてはいけない。この男性は選挙運動をしてはならない時期なのに自分が支持する候補のことを書き込んだり、他の候補や政治家の悪口を書き込んだりしたので選挙法違反ということになった。しかし、この男性は別に政党の職員でもなく関係者でもなかった。純粋に特定候補を支持する気持ちから選挙法のことを知らずに書き込んだのかもしれない。
韓国では何人もの芸能人が悪プラーの書き込みに傷ついて鬱になったり、自殺にまで追い込んだりされている。しかし、この類の悪プラーはその数の多さから、犯人を特定できないということで捜査もあやふやになり、つかまった何人かも罰金刑ぐらいで刑務所に入ることもなく終わってしまった。被害者はいるのに加害者はいない(正確に言えば特定できない)のが悪プラー問題なのだ。
例えば、今もっとも悪プラーに悩まされている芸能人は先日、結婚を発表した、日本でも人気の高いクォン・サンウだろう。
結婚自体はとてもおめでたいことなのだが、その相手が気に入らないと、結婚相手である女優が付き合っていた男性芸能人の名前を書き込んだり、どこで見つけたのか過去の写真などを掲載したりといった悪意のある個人攻撃が収まらない。クォン・サンウ本人ですら、結婚を発表すれば悪プラーに悩まされることは予想していたとインタビューで答えているほどだ。クォン・サンウとその結婚相手を苦しめている悪プラーはどうなる?誰が見てもこれはひどすぎるという内容の書き込みが数千件を超えている。これは表現の自由だから構わないとするのだろうか。
驚いたことに、悪プラーに悩まされている業種の一つに病院があるという。医者の態度がデカイ、看護師が不親切、整形手術をしたけど結果が気に入らない、治療費が高い、などなど。いろんなことに文句をつけては、あちこちの掲示板に名指しで「●●病院は利用するな」と書き込む人が出始めると、実際にピタリと患者が来なくなるという。その情報が事実かどうかはあまり論証されず、病院の悪プラーについては、ユーザー側からは病院にも心当たりがあるのではないかという風に思われている結果だ。でも、これらの悪プラーは営業妨害に問われない。
政治家の悪口を書いた「悪プラー」は逮捕され、刑務所行きということが現実に起きている。でも、政治家だって心当たりがあるのでは?善良で誠実に国民のために働いているのに悪口を書き込まれたと怒れるのか?同じ悪口でも政治家や大統領の悪口となると、目の色を変えてけしからんと刑務所に送り込むとは、公平ではない気がする。表現の自由が尊重されているからといって、何でも自由にはならないことは理解しているが、誰の悪口を書くのかによって、「表現の自由」という言葉がばらばらに解釈されるというのはおかしいのではないかと思う。
おっといけない。こんなことを書くと、私も悪プラーと思われるかもしれない。
(趙 章恩=ITジャーナリスト)
日経パソコン
2008年7月30日
-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20080730/1006490/