米インフレ抑制法その後、現代自動車と韓国バッテリー3社の北米投資増も課題は鉱物

.

気候変動対策などのために4300億ドル規模を投じる米インフレ抑制法(Inflation Reduction Act、IRA)のガイダンスが2023年4月18日から適用となった。同法が定める要件を満たす電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)を購入すると最大7500米ドルの税額控除を受けられるというものだが、ガイダンスではその条件が大幅に修正され、極めて厳しいものとなった。北米でEVの最終組み立てを行うだけでなく、車載電池(バッテリー)の部品の一定割合を北米で造ったり、重要鉱物の一定割合を米国や米国が自由貿易協定(FTA)を結ぶ国などから調達したりする必要がある。これにより、韓国の現代自動車グループや起亜自動車、日産自動車が北米で生産するEV「リーフ」は対象外となった。

 インフレ抑制法のガイダンスは2023年6月中旬までパブリックコメントを募集中であり、韓国政府と企業は積極的に意見を提示し米政府と交渉を続けている。というのも韓国バッテリー大手3社は重要鉱物の輸入先を増やそうとしているが、まだ中国からの輸入に依存している。そのため、ガイダンスに中国の鉱物はもとより、中国企業との合弁で調達した鉱物・部品も⼀切使⽤してはならないといった条件が盛り込まれないようにすることが目標である。ガイダンスにある、「FTA未締結国で抽出した鉱物でもFTA締結国で加工し50%以上の付加価値を創出すれば税額控除の対象になる」という条件をうまく利用して、中国の原材料を韓国で加工して米国で売るという流れを守りたいからだ。

 現代自動車グループは自社負担の割引プロモーションで客離れを食い止めようとしているが、税額控除対象外になったことで、消費者からすると現代自動車グループのEVセダン「IONIQ 6」が競合する米Tesla(テスラ)の「Tesla Model 3」より高くなってしまった。IONIQ 6は2023年4月に米ニューヨークで開催した「2023 World Car Awards」で「World Car of the Year」「World Electric Vehicle of the Year」「World Car Design of the Year」の3冠を達成したものの、北米市場の販売台数が予想を下回っているのはやはりEV税額控除の対象外になったことが響いているとみられている。

 現代自動車グループはEV税額控除をめぐり対米投資を見直すと強気の発言をしたこともあったが結局は、米ジョージア州にある年間30万台の生産能力を持つEV工場に55億ドルを投資、2023年4月には韓国のバッテリー企業SK On(SKオン)と50億ドル規模、2023年5月には韓国LG Energy Solution(LGエナジーソリューション)と43億ドル規模の合弁会社をそれぞれ設立し北米でEV向けバッテリーを生産することにした。3つの生産拠点は2025年に稼働を開始する。SKオン とLGエナジーソリューションの2社と合弁したことで、北米でバッテリーセル生産規模が年間65GWhとなり、約60万台に搭載できるバッテリーを確保できるようになった。現代自動車グループとLGエナジーソリューションの合弁はこれが2度目である。1度目は2021年にインドネシアで年間生産10GWh規模のバッテリーセル生産工場を合弁で設立しており、2024年の上半期に量産を開始する。現代自動車グループは「米国生産EVに最適化したバッテリーセルを調達し、高性能・高効率・安全性の高いEVを販売する」と意気込む。現代自動車グループはグローバル市場でのEV販売を2030年に187万台へと伸ばして世界EV生産トップ3になり、グローバルEVの半分を北米で販売することを目標としている。環境対策と税額控除で勢いよく成長している米国EV市場を取りこぼすわけにはいかないからだ。

 韓国バッテリー3社の北米生産拠点投資も着実に増えている。LGエナジーソリューションは、米GM、欧州Stellantis(ステランティス)、ホンダ、現代自動車グループと、SKオンは米Ford(フォード)と現代自動車グループ、Samsung SDI(サムスンSDI)はGM、ステランティスと合弁で北米工場を稼働する。

趙 章恩(ITジャーナリスト)

 

(NIKKEI TECH)

2023. .6

-Original column

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00087/

サムスン電子が日本に半導体拠点新設、後工程の日韓シナジー効果に期待

.

2023年5月14日、韓国メディアは韓国Samsung Electronics(サムスン電子)が300億円超を投資し横浜市に先端工程の試作品製造ラインを新設すると一斉に報じた。2025年の稼働を目標にしているという。日本政府の半導体補助金を申請し、100億円以上の補助を受ける予定という報道も見られた。同日付の日本経済新聞社の記事では「サムスンは『コメントは控える』としている。」とあった。

 2023年初め、サムスン電子は日本各地にあった設備・素材・イメージセンサー・パッケージングなど半導体関連研究施設を「Device Solutions Research Japan」(横浜市)にまとめた。横浜にあった家電部門の研究所も研究分野を半導体に変更した。

 韓国メディアは2023年3月からサムスン電子が日本に半導体研究拠点を新設すると報道してきたが、いよいよ具体的な投資計画がまとまったようだ。同社が2023年2月に東京で開催したエンジニア採用説明会「Tech & Career Forum」の後から、韓国メディアはサムスン電子が日本にシステム半導体研究拠点と、日本企業と共同研究した試作品を製造する工場を新設し、破格的な条件でエンジニアを大量に採用すると報じてきた。

 サムスン電子が日本に半導体の拠点を新設するという報道は韓国で大きな話題となった。ただ、一部の報道では、日本の企業をサムスン電子の韓国半導体工場近くに誘致することなく、なぜ日本に拠点を新設するのか、日本政府は次々に世界トップの半導体企業を誘致しているが韓国はどうなっているのかと批判的だった。しかし大勢としては、サムスン電子が日本に半導体研究拠点と試作品の製造ラインを持つことは韓国・米国・日本・台湾の半導体協力体制を強化し、日本企業と半導体後工程(パッケージング、配線結線、テストなど)の共同研究をしやすくするとして、日本だけでなくサムスン電子にもメリットがあると報じている。

 韓国メディアはかねて、半導体ファウンドリーの世界市場で圧倒的1位であるTSMC(台湾積体電路製造)とサムスン電子の差は半導体後工程にあると繰り返し指摘してきた。メモリー半導体だけでなくシステム半導体でも世界1位を目指すサムスン電子の目標に近づくためには、後工程に強い日本の企業との共同研究が欠かせないという声がある。

 サムスン電子は2022年11月に、先端パッケージング技術FOWLP(Fan-Out Wafer level Package)を利用することで、既存のグラフィックメモリーGDDR6と同サイズのパッケージで2倍の帯域幅と2倍の容量を実現した「GDDR6W」を公開した。デジタルツインやメタバースといった4K/8Kの高画質映像が必要なサービスに向けた高性能・大容量・高帯域幅メモリー半導体とする。同社はメモリー半導体自体の性能強化だけでなく、同じパッケージの中にメモリーチップを2倍以上搭載できる次世代パッケージングにも対応するとして投資を拡大していた。最近はハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)の性能向上のためメモリー半導体とシステム半導体を1つのチップにする先端パッケージング技術の研究が盛んになり、半導体メーカーが技術を競い合っている。前工程に当たる半導体の微細化工程の研究が計画通り進んでいないことから、パッケージングで性能を向上させる動きもあるという。

趙 章恩(ITジャーナリスト)

 

(NIKKEI TECH)

2023. .5

-Original column

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00086/

韓国半導体業界のCHIPS法対策、期待の首脳会談も「具体的な成果なし」と厳しい評価

2023年4月に米韓首脳会談、5月には日韓首脳会談が行われ、韓国の大統領室は米国や日本と経済・安保・先端産業・人的交流などの協力を強化するとしたことが会談の主な成果であったと発表した。両首脳会談ともに韓国経済の重要な位置を占める「半導体」が主なキーワードとして登場した。

 2023年5月7日、ソウルの韓国大統領府で岸田文雄首相と尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領との日韓首脳会談の後に発表された共同記者会見文書では、「韓国の半導体メーカーと日本の優秀な素材・部品・装備企業が共に堅固な半導体供給網(サプライチェーン)を構築できるよう協力を強化する」「宇宙、量子、AI(人工知能)、デジタルバイオ、未来素材など先端科学技術分野の共同研究とR&D(研究開発)協力推進に対する議論がなされた」といった、日韓協力の重要性を強調した内容が示された。会談前には両国が輸出管理で優遇する「グループA(旧ホワイト国)」再指定も発表された。2019年にあった、日本の韓国向け半導体素材3製品輸出規制の強化後、韓国は日本からの輸入に依存していた材料を積極的に国産化し、取引先を増やして乗り越えた。韓国メディアはホワイトリスト復帰が韓国企業に与える影響はそれほど大きくないとしながらも、日本から材料を輸入する際の手続きが簡素化し取引しやすくなったことから今後の取引に変化がありそうだと評価した。

 翌5月8日にソウル市内で行われた岸田首相と6つの韓国経済団体との懇談会でも、半導体をはじめ米国を中心に進んでいるグローバル供給網の再編に関する日韓協力の必要性が題材となった。懇談会に参加した大韓商工会議所会長兼SKグループ会長の崔泰源(チェ・テウォン)氏は岸田首相とグローバル供給網全般に関する話をしたとして、「韓国と日本は重要な経済協力パートナー」「大韓商工会議所は半導体、バッテリー、モビリティー、エネルギーなどの分野で韓国と日本の企業間協力を進める」と説明した。

 同日、韓国の企画財政部(「部」は日本の「省」に当たる)を中心に、4月に行われた米韓首脳会談の成果を基に「米国と協力し最高の半導体同盟になる土台づくり」のための具体策を議論する会議が開催された。この場で秋慶鎬(チュ・ギョンホ)経済副首相兼企画財政相は、「米国と先端技術同盟・文化同盟の基盤を構築した」としながら、次世代半導体、先端パッケージング、先端素材・部品・装備といった三大有望分野を中心に米国と協力し、米商務省の「CHIPS and Science Act(CHIPS・科学法)」や、「Inflation Reduction Act(IRA、インフレ抑制法)」が韓国企業の負担にならないよう米国と相互利益のため緊密に協議を続けると述べた。

 実は韓国では米韓首脳会談前に最も期待されたのが、CHIPS・科学法やインフレ抑制法によって韓国企業の中国内半導体生産設備投資を制限されたり、EV補助金の対象外となって米国内のEV販売に支障が出たりといったことを首脳会談で問題提起し、ある程度解消することだった。

 CHIPS・科学法により米商務省は米国で先端半導体を製造する企業を対象に390億ドル規模の投資補助金を支給する。企業は総投資の35%まで補助金を申請できる。補助金を受け取る代わりに米国の安保を脅かす特定国家(中国)にある半導体製造設備の生産能力は今後10年間で5%以内しか拡大できない。対中国半導体装備輸出規制により韓国Samsung Electronics(サムスン電子)と韓国SK Hynix(SKハイニックス)の中国における半導体工場の先端工程への転換が難しくなる可能性や、韓国メーカーの半導体製造に関わる情報を米国側に提出しないといけないため企業秘密が漏れてしまうという懸念もある。

趙 章恩(ITジャーナリスト)

 

(NIKKEI TECH)

2023. .5

-Original column

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00085/

「脱・家電」のサムスンとLG、Z世代向けライフスタイルを提案

 2023年4月19日から21日にかけて韓国最大規模のIT展示会「World IT Show 2023」(WIS 2023、ソウル市COEX展示場)が開催された。主催は韓国のICT政策を担当する科学技術情報通信部(「部」は日本の「省」に当たる)、後援は産業通商資源部である。同展示会は、韓国の大手企業からスタートアップに至るまでが自社の技術力を一般消費者やバイヤーにアピールする場となっている。

 2023年に15回目を迎えたWIS 2023は、「世界の日常を変えるKデジタル」をテーマに約460社が出展した。マスク着用の義務が解除されたこともあり、久々に新型コロナウイルス感染症パンデミック(世界的大流行)以前の活気を取り戻した。各国の駐韓大使や大使館職員向けの展示会ツアーが主催者の科学技術情報通信部によって行われるなど、輸出商談会にも力が入っていた。

 展示ブースで最も人を集めていたのが韓国を代表する2社のSamsung Electronics(サムスン電子)とLG Electronics(LGエレクトロニクス)である。いずれもモバイル端末やスマート家電を中心に、1990年代半ば以降に生まれたZ世代の新たなライフスタイルを提案するコンセプト展示が人目を引いた。

日常のイノベーションを強調したサムスン

 今年(2023年)のサムスンは例年と違って伝統的な家電を一切展示せず、韓国で最も人気の最新スマートフォン「Galaxy S23」による日常のイノベーションを強調した。展示会の同社ブースではキャンピングカー、大学の講義室、ワンルームマンションを再現したコーナーに、Galaxy S23やノートパソコン、タブレットPC、ワイヤレスイヤホンなどのモバイルデバイスを置いて、Z世代の日常生活を再現していた。Z世代の生活の中心にスマホを据えて、サムスンのデバイスがもたらす利便性をアピールした。テレビがなくてもGalaxy S23で十分に動画やゲームを楽しめることも強調した。

 Galaxy S23の各種機能を体験できるコーナーの一つに、ネオンサインが輝く夜の街をイメージした暗い一角があった。100倍ズームや暗闇の中でも明るく鮮明に撮影できる機能をアピールするためのコーナーだ。このほかサムスンは持続可能なライフスタイルとして環境問題を意識し、ブースを設置する際にリサイクル可能な木材を使ったり、廃プラスチックでキーリングを作る記念品コーナーを設けたりもした。

趙 章恩(ITジャーナリスト)

 

(NIKKEI TECH)

2023. .4

-Original column

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00084/

ついにメモリー半導体の減産決めたサムスン電子、米国半導体補助金の申請やいかに

韓国Samsung Electronics(サムスン電子)が2023年4月7日に発表した2023年1~3月期連結決算(速報値)と合わせて、1998年以来となるメモリー半導体の減産を公表した。売上高は63兆ウォン、営業利益は6000億ウォンだった。営業利益が1兆ウォンを下回るのは2009年1~3月期以来の14年ぶりである。韓国の証券業界の分析によると、半導体部門の赤字が4兆ウォン前後あるものの、新型スマートフォン「Galaxy S23」が大ヒットしたおかげで赤字は免れたようだ。

 速報値が市場の期待を下回ったことから、サムスン電子は実績下落の要因と同社の対応についての説明文を別途公開した。それによると、メモリー半導体は多数の顧客企業の在庫調整が続いたことから需要減が続き、システム半導体も景気低迷やオフシーズンの影響などでいずれも営業利益が前期比で下落したため、「有意味な水準までメモリーの生産量を下方修正中」とした。ただし、短期生産計画は減産を決めたものの、中長期的には堅調な需要が見込まれることから、クリーンルーム確保のためのインフラ投資を続け、技術リーダーシップ強化に向けた研究開発投資も拡大するとした。サムスン電子は2023年2月に子会社のSamsung Display(サムスンディスプレイ)から20兆ウォンを借り入れ、施設投資と研究開発に使うと公示した。

 メモリー半導体の世界トップ3のうち、韓国SK Hynix(SKハイニックス)と米Micron Technology(マイクロンテクノロジー)は2022年秋ごろから減産に入っているものの、サムスン電子は人為的な減産はしないという立場だった。サムスン電子はこれまでメモリー半導体の需要が減少して価格が下落して営業利益が赤字になっても減産に踏み込まず、競合他社がメモリー市場から撤退するか破産するまでチキンゲームを続けることで成長してきた。もちろん、メモリー半導体は需要が伸びたからといってすぐ生産量を増やせるわけではないので、半導体サイクルのアップダウンを考えると減産を決めるのが難しいという事情もある。

 台湾の調査会社TrendForceによると、2022年10~12月期の世界DRAM市場シェアはサムスン電子が45.1%と前期の40.7%から4.4ポイント増、SKハイニックスは前期比1.1ポイント減の27.7%、マイクロンは同3.4ポイント減の23%と需要減の中でシェアを伸ばし競合と格差を広げた。

 サムスン電子は2022年から生産ライン再整備でメモリーの生産を10%減らしてはいたが、今回は20%ほど減産するものとみられる。決算報告などからサムスン電子の在庫資産は2022年末時点で52兆1879億ウォンと初めて50兆ウォンを超えた。DRAMの在庫は通常5週間分ぐらい確保するところを21週分に達したという噂もあった。今回も当初は減産せずに競争を続ける姿勢を見せたが、このままではメモリー半導体の価格が生産原価以下になる可能性があるほど需要と価格が下げ止まらず、期待した中国市場の需要がなかなか回復しないことも影響したようだ。サムスン電子の減産決定でメモリー半導体の在庫が減り価格の下落も止まると見込まれることから、韓国では早速サムスン電子の株価が上がり続けている。

趙 章恩(ITジャーナリスト)

 

(NIKKEI TECH)

2023. .4

-Original column

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00083/

韓国勢が電池展示会で中国勢のお株を奪うLFPを初公開、EV需要の変化に対応

.

2023年3月15日から同17日(現地時間)にかけて、韓国ソウルにある複合施設「COEX」にて、2次電池産業展示会「Inter Battery 2023」が開催された。主催は韓国産業通商資源部(「部」は日本の「省」に相当)である。「Battery Connecting To ALL」をテーマに、韓国政府の「K-バッテリー発展戦略」を担うLG Energy Solution(LGエナジーソリューション)、SK On(SKオン)、Samsung SDI(サムスンSDI)の大手3社(以下、Kバッテリー3社)をはじめ、バッテリー関連の素材・原料、EV(電気自動車)、電力貯蔵システム(Energy Storage System)、バッテリーリサイクルといった幅広い分野の477社が出展した。

 今年の展示会では韓国勢が得意とする3元系ニッケル・コバルト・マンガン(NCM)電池だけでなく、中国勢が得意とするリン酸鉄リチウム(LFP)電池を初公開し、中国勢の市場シェアを奪いにいくという姿勢に注目が集まった。全固体電池のプロトタイプやコバルトフリー電池の展示もあった。


 海外勢のトレンドとしては、韓国企業との取引を望む米国やオーストラリア、インドネシア、カナダなどの自治体や団体が出展し、鉱物採掘状況や税制優遇策などに関する説明会を開いたのも印象深かった。

 駐韓米国大使館はバッテリー電気自動車(BEV)関連のフォーラムを開催。インディアナ州、オハイオ州、ミシガン州、テネシー州、ケンタッキー州の幹部らが来韓して、EVバッテリー企業の米国進出を手助けすべく、税制優遇策などをアピールした。北米で最終組み立てとなるEVを対象に補助金(税額控除)を支給する米国の「インフレ抑制法」により、韓国バッテリー企業は北米に進出せざるを得ない状況だ。その工場を自分の州に誘致しようという各州の意気込みが見られたフォーラムだった。

 駐韓オーストラリア大使館はバッテリー鉱物関連のセミナーを開催し、ニューサウスウェールズ州、クイーンズランド州、中央政府のThe Critical Minerals Officeの担当者が自国の鉱物生産状況を説明した。韓国政府は鉱物の輸入を特定国に依存せず核心鉱物の再資源化を2022年の2%から2030年は20%に引き上げることを目標にした「核心鉱物確保戦略」を進めている。これを受けて韓国産業通商資源部はInter Battery 2023を、鉱物を⽣産する国と幅広く交流できる場にした。

趙 章恩(ITジャーナリスト)

 

(NIKKEI TECH)

2023. .3

-Original column

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00082/

韓国通信大手3社がOpen RAN導入へ、ドコモや富士通など日本勢との連携も加速

.

2023年2月27日から3月2日にかけてスペインのバルセロナで世界最大級のモバイル関連展示会「MWC Barcelona 2023」が開催された。韓国内では、中国の華為技術(ファーウェイ)が韓国Samsung Electronics(サムスン電子)より5倍以上も大きなブースを構えた点や、今年のMWCの主役の1つであった様々なベンダーの基地局製品を相互接続できるようにする技術「Open RAN」関連の展示が目立った点などが話題になっている。

 Open RAN は、5G(第5世代移動通信システム)から6Gに向けて進展するモバイルネットワーク市場で注目されている技術だ。Open RANを導入することで、通信事業者は適材適所で必要な製品を選べるようになる。既存の基地局は同じ会社の製品をそろえないと通信を確立できないという問題があった。通信キャリアはOpen RANによって特定のベンダーに依存せずに、最新の技術をいち早く導入できるほか、柔軟で効率のよい運用によって設備投資と運用コストを抑えられるという期待がある。

 韓国でも、韓国KTと韓国SK Telecom(SKテレコム)、韓国LG U+という通信大手3社がOpen RANに準拠した基地局のテストを進めている。ベンダー側もサムスン電子が、NTTドコモやKDDI、米Dish Network(DISH)、英Vodafone Group(ボーダフォン・グループ)などに対し、Open RAN対応の5G基地局や仮想化基地局(vRAN)製品を提供している。

 韓国科学技術情報通信部の調べによると、韓国の大手3社の全加入者に占める5G加入者の割合は、いずれも半数を超えた。

 加入者の増加に合わせて韓国通信大手は5G基地局数を増やす必要がある。韓国政府は電波が飛びにくいミリ波28GHz帯の基地局について、展開がなかなか進まなかったことでKTとLG U+の免許を取り消している。韓国ではより電波が飛びやすいSub6帯の5G基地局展開が中心だ。Open RANで5G基地局のマルチベンダー化や設備投資と運用コストの削減を見込めることは、5Gサービスの拡大において重要な要素となる。

韓国政府は中小ベンダー育成にも本腰

 韓国通信大手3社は、Open RAN導入に向けて活発的に動き出している。

 KTは今回のMWCに合わせて、NTTドコモと仮想化基地局を含めてOpen RANのエコシステムを世界に広げていくために協力関係を強化すると発表した。KTとNTTドコモは長く協力関係にある。2022年1月にはNTTドコモや富士通と共に、Open RANの技術仕様に準拠した5G基地局の動作確認を完了。2022年10月には、5Gスマホから発信した信号がOpen RAN対応5G基地局を経由し、コアネットワークに届くまでの相互接続試験に成功していた。

 KTは、Open RANの仕様を策定する業界団体「O-RAN ALLIANCE」にも積極的に仕様を提案している。2022年7月には、KTがO-RAN ALLIANCEに提案した仕様が標準として承認されている。

 ファーウェイ排除を世界で加速するためにOpen RANを後押しする米国政府も、KTのOpen RAN導入に期待する。米国のフェルナンデス国務次官(経済成長・エネルギー・環境担当)は2023年1月、訪韓した際にKTを訪問し、中国勢をけん制するためにもOpen RANの導入を広げてほしいと要請したという。

 SKテレコムも2023年1月、フィンランドの通信機器大手Nokia(ノキア)と協力し、韓国で初めてOpen RANに対応した仮想化基地局を商用ネットワーク内に設置し、安定した5Gサービスとカバレッジ性能を確認できたと発表した。同社は韓国ソウル市郊外にOpen RANテストラボをオープンし、国内外の企業の研究チームと幅広く協力を進めている。2022年12月にはSKテレコムとLG U+がO-RAN ALLIANCEが主催するOpen RAN対応機器の相互接続イベント「PlugFest」で基地局接続テストの結果を公開した。

趙 章恩(ITジャーナリスト)

 

(NIKKEI TECH)

2023. 3.

-Original column

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00080/

韓国大手2社の5Gミリ波を取り消し、政府は「第4の事業者」参入を画策

.

韓国のICT政策を担当する科学技術情報通信部(部は日本の省に当たる)は2022年12月、韓国通信大手3社のうち韓国KTと韓国LG U+(LGユープラス)の5G(第5世代移動通信システム)向け28GHz帯(ミリ波)電波割り当てを取り消した。2社が電波割り当ての際の基地局設置条件を満たせなかったからだ。韓国通信最大手の韓国SK Telecom(SKテレコム)は、ミリ波電波の割り当て取り消しこそ免れたものの、基地局展開が遅れているとして、当初5年としていた同周波数帯の利用期間を半年短縮された。

 ミリ波の電波は、帯域を豊富に使えるために高速・大容量通信を実現できる。その一方で高い周波数帯であるため直進性が高く、電波が遠くまで飛ばない。ミリ波は多くの基地局を設置する必要があるため、韓国通信大手3社は展開に二の足を踏んでいる。

 実際、韓国通信大手3社は、一般消費者向け5Gサービスを、電波がより飛びやすいSub6帯と呼ばれる3.5GHz帯のみで提供している。ミリ波の28GHz帯の展開は、法人向けスマートファクトリーなど特定企業の敷地内などにとどまる。

 韓国通信大手3社は、ミリ波の展開が遅れている理由として、28GHz帯に対応したスマホが韓国内で販売されておらず、基地局に投資しても使う人がいないと弁明する。一方で端末メーカーの韓国Samsung Electronics(サムスン電子)は、韓国通信大手3社が一般消費者向けにミリ波5Gサービスを提供しないので、スマホにミリ波機能を搭載しなかったと説明する。「鶏が先か、卵が先か」という状況に陥っている。

 こうした事態から韓国では2021年、韓国通信大手3社の5Gプランに加入した利用者による集団訴訟も起きている。韓国通信大手3社はCMで、LTEよりも20倍速いミリ波の5Gを利用できるようになると宣伝したものの、実際には一般消費者向けには提供されておらず、大手3社は不当な利益を得ているという訴えだ。訴えを起こした原告は、5G契約を無効だとして、これまで支払った料金の払い戻しを求めている。

趙 章恩(ITジャーナリスト)

 


(NIKKEI TECH)

2023. 2.

-Original column

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00079/

サムスンが最新Galaxyに2億画素イメージセンサー、打倒ソニーへの試金石

.

韓国で2023年2月7日から予約販売が始まった韓国Samsung Electronics(サムスン電子)の最新スマートフォン(スマホ)「Galaxy S23シリーズ」が好評だ。最上位モデルのGalaxy S23 Ultraは、同社が開発した最新の2億画素イメージセンサーを採用し、高品質なカメラ機能を最大の売りとする。サムスン電子にとって、イメージセンサー市場の絶対的王者であるソニーグループを追撃するための重要な製品でもある。打倒ソニーグループへ向けた弾みとなるか。

 同製品を販売する韓国の大手通信事業者3社の集計によると、Galaxy S23シリーズの予約数は前機種のS22シリーズを上回るなど好調な出足だ。予約販売のうち、6割が最上位モデルのGalaxy S23 Ultraを選択しているという。

 Galaxy S23 Ultraは、サムスン電子のスマホで初めて2億画素のイメージセンサーを採用した。2023年1月に発表したばかりの同社製イメージセンサー「ISOCELL HP2」である。0.6μm ピクセルの画素を2億個備えており、高画質で正確なフォーカスや、より素早い処理を実現した。

 Galaxy S23 Ultraは、2億画素のカメラに加えて、1200万画素のカメラ、2個の1000万画素のカメラを搭載する。動画は最大8K画質で撮影可能だ。夜景モードを使うことで、人工知能(AI)がノイズを取り除き夜間でも明るくきれいに撮影できる。新たに「アストロハイパーラプス(天体写真撮影)」を搭載し、同社は銀河(Galaxy)も撮影できると宣伝している。

 実際、Twitterでは、Galaxy S23 Ultraを使って100倍ズームで月の表面まで鮮明に撮影された写真が、驚きとともにシェアされている。

 Galaxyシリーズの手ぶれ補正100倍ズームの実力は、前機種のGalaxy S22 Ultraから定評がある。例えば韓国のアイドルファンは、普段は米Apple(アップル)の「iPhone」を使っていても、コンサートやイベント前にはGalaxy S22 Ultraをレンタルして100倍ズームで「推し」の写真を撮影するのが流行している。最新機種のGalaxy S23 Ultra は、100倍ズーム機能も向上したとして期待を集めている。

 サムスン電子は2023年2月1日に米国で開催した新機種公開イベントにおいて、「Galaxy S23シリーズは性能と品質全てにおいて過去最高だ」と強調した。イベントでは、Galaxy S23 Ultraで撮影したリドリー・スコット監督の短編映画『Behold』やナ・ホンジン監督の『Faith』も公開し、夜間でも高画質で安定した画面を撮影できる点をアピールした。

 韓国内では、風景写真こそGalaxyのほうが上だが、人物写真についてはiPhoneの方がきれいに撮れるという口コミも根強い。サムスン電子は、Galaxy S23シリーズではフロントカメラを使った自撮りでも画質を強化したと説明している。世界的な景気低迷によってスマホの販売台数が低下する中、同社はカメラ機能の強化でスマホ市場の世界シェア首位を守る考えだ。

趙 章恩(ITジャーナリスト)

 

(NIKKEI TECH)

2023. 2.

-Original column

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00078/

半導体支援巡り二転三転、韓国政府が税額控除率25%の大型支援に踏み切る

半導体産業への支援を巡って与野党の対立が続いている韓国政府の方針が二転三転している。2022年12月末の韓国国会において可決された、半導体などの設備投資を行った大企業に対し投資額の8%を税額控除するという方針をわずか11日で撤回。2023年1月、追加控除を加えると最大25%を税額控除するという新たな方針を発表したからだ。韓国政府は当初、大幅な税額控除は難しいという立場だった。産業界の猛反発を受けて方針転換を余儀なくされた格好だ。

 韓国政府は2023年1月3日、半導体を含む国家戦略技術の設備投資を行った大手企業や中堅企業に対し投資額の15%を税額控除するという新たな税制支援強化策を発表した。中小企業の場合、25%を税額控除する。さらに2023年の期間限定で、直近3年間の年平均投資額を超えて設備投資した場合、追加で投資額の最大10%を控除する。追加控除を含めると、税額控除率は大手企業・中堅企業の場合が最大25%、中小企業の場合に最大35%となる。現在の韓国の税額控除率は大手企業の場合6%、中堅企業が8%、中小企業が16%である。そのため大幅な支援拡大となる。

 日本の財務省に相当する韓国・企画財政部は「半導体設備投資の税額控除率は米国が25%、台湾が5%であり、韓国政府は世界最高水準の税制支援をする」と強調した。支援対象となる国家戦略技術には、ファウンドリー向けの設計IP(Intellectual Property)検証技術や非メモリー半導体のテスト技術などが含まれる。加えて過去最高額である50兆ウォン(約5兆3000億円)規模の政府融資枠も用意した。

 半導体は韓国の主力産業であり同国の経済成長をけん引してきた。しかし2022年から続く景気悪化により韓国経済は大きな打撃を受けている。韓国の経済団体である大韓商工会議所は半導体産業の景気低迷は2023年末まで続く可能性があると指摘。半導体産業に対する政府支援が必要だとして、半導体設備投資の税額控除の大幅拡大や規制緩和などを求めていた。

 最大25%の税額控除率という大きな支援策を打ち出した韓国政府であるが、実はここに至るまで方針が二転三転している。

 韓国与党の「国民の力」は2022年8月当初、大手企業20%、中堅企業25%、中小企業30%という税額控除率を求めていた。しかし野党は、この方針について大手財閥優遇だと反発。大手企業10%、中堅企業15%、中小企業30%の税額控除率にするよう主張していた。

 与野党の対立が続いて硬直状態に陥る中、韓国・企画財政部は、大手企業の場合、8%以上の税額控除率は難しいという主張を始める。法人税収入の減少の懸念からだ。

 最終的にはこの企画財政部の主張が通り、韓国国会は2022年12月23日、法人税の税額控除率を大手企業の場合、8%にする方針を可決した。

 だが議論はここで終わらなかった。現状の6%よりは引き上げられるものの、8%という税額控除率は米国や台湾と比べても少なすぎると韓国産業界が猛反発。韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領も税制支援を拡大するように指示し、韓国政府は一旦可決した方針の見直しを迫られたからだ。

 結局、冒頭の通り、韓国政府はわずか11日で方針転換。大幅な税制支援策を打ち出すことになった。新たな方針には国会同意が必要だ。韓国国会は2023年1月末現在、改正したばかりの法案を再び改正するための議論が続いている。


趙 章恩(ITジャーナリスト)

 

(NIKKEI TECH)

2023. 1.

-Original column

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00077/