アップル天下の日本でサムスン躍進、スマホシェア拡大に韓国歓喜

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米Apple(アップル)がスマートフォン(スマホ)シェア過半を占める「iPhone天国」の日本で、韓国Samsung Electronics(サムスン電子)のシェアが上昇している。アップルや中国勢との競争に脅かされるようになってきた王者サムスン電子にとって、これまでシェアが少なかった市場の攻略が欠かせない。最後の激戦地になるとみられるのは中国市場だ。

 韓国メディアは2022年5月中旬、「アップル天下の日本で、サムスン電子が約10年ぶりにスマホのシェアを獲得した」と大きく報じた。調査会社である米Strategy Analytics(ストラテジーアナリティクス)が発表した調査結果を引用し、「22年1〜3月の日本におけるサムスン電子のシェアが13.5%に高まり、2位に浮上した」などと書いた。

 ストラテジーアナリティクスの調査によると、日本におけるサムスン電子のシェアは、12年に15%弱を確保して以降、16年には3%台まで下落した。今回のサムスン電子のシェアは約10年ぶりの水準であり、韓国メディアは大いに盛り上がっている。

 同調査による22年1〜3月の日本市場におけるシェア1位はやはりアップルだ。6割近いシェアを維持している。それでも韓国メディアは「韓国製スマホの墓場」ともいわれる日本市場でシェアを拡大したサムスン電子を偉業としてたたえている。

 サムスン電子が日本市場で確保した13.5%というシェアには、世界で人気を集めている同社の最新フラッグシップスマホ「Galaxy S22シリーズ」の影響は含まれていない。日本市場において同機種は22年4月の発売であり、調査期間中は未発売だったからだ。そのため22年4〜6月以降の日本市場において、サムスン電子のスマホシェアは、さらに伸びるという展望もある。

 サムスン電子が日本でシェアを伸ばせたのは、地道なプロモーションの成果だろう。17年からスマホ本体の「Samsung」ロゴを消し、ブランド名の「Galaxy」のみを表記するように変えた。さらに19年には東京・原宿に世界最大規模の体験施設「Galaxy Harajuku」をオープンした。人気K-POPグループ「BTS」を起用したキャンペーンも日本で浸透している。

 KDDIが22年3月末に3Gサービスを終了し、スマホを求めるユーザーが増えた点もサムスン電子にとって追い風になった。

 章恩(ITジャナリスト)

 

(NIKKEI TECH)

2022. 5.

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https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00060/

日米が最先端半導体で協力、韓国の対応は? 米大統領訪韓に注目

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 韓国の公共放送であるKBSをはじめとした同国の複数のメディアは2022年5月4日から5日にかけて、日本経済新聞が同2日に公開した記事「日米、最先端半導体で技術協力 2ナノなど開発・量産」に触れる形で、大きく報じた。半導体素材を生産する日本と、安定的な半導体供給網確保に力を入れている米国がタッグを組むことで、韓国の半導体産業の立ち位置に変化が生じる可能性がある。同20~22日には、バイデン米大統領が訪韓を予定する。それに合わせて韓国政府がどのような対応を打ち出すのかに注目が集まる。

 複数の韓国メディアは、日経新聞の記事にある「日米両政府は最先端の半導体の供給網(サプライチェーン)構築で協力する。回路線幅が2ナノ(ナノは10億分の1)メートルより進んだ先端分野での協力や、中国を念頭に置いた技術流出防止の枠組みづくりなどで近く合意する」「台湾勢などに調達を依存する危機感から日米連携を強化する」という部分を強調。韓国政府の新たな対応の必要性について触れる記事が多く見られた。

 現在、韓国Samsung Electronics(サムスン電子)は、ファウンドリー市場で圧倒的な世界1位である台湾TSMC(台湾積体電路製造)に追い付き追い越そうと激しい競争を繰り広げている。そこに日米が、最先端半導体である2nm世代プロセスの工程でタッグを組むことで、競争の構図に変化が生じる可能性がある。

 韓国政府は21年5月、半導体産業の競争力強化を目指す国家戦略「K-半導体戦略」を発表した。冒頭の報道を受けて韓国内では、K-半導体戦略を上回る強力な支援策と、米国とのより強い半導体同盟が必要という声が高まっている。

 22年5月10日に韓国大統領に就任する尹錫悦(ユン・ソクヨル)氏は、「国家経済と安全保障の核心は半導体」「半導体超強大国を目指す」「半導体・バッテリー・AIなど先端産業の競争力確保」「21年に1280億米ドル(約16兆7600億円)だった半導体輸出額を、27年には1700億米ドル(22兆2600億円)に拡大する」などと繰り返し発言している。就任後に半導体戦略の強化策を打ち出す可能性がある。

 韓国メディアは22年3月、米政府が韓国と台湾、日本に「チップ4(Chip4)同盟」を提案したと報じた。その時点では、サムスン電子と韓国SK Hynix(SKハイニックス)の中国事業を考慮すると米政府の提案は受け入れがたい、というのが韓国内の主な反応だった。しかし政権交代と日米半導体協力の報道の後は、韓国内も「チップ4同盟もやむなし」といった受け止め方に変わりつつある。


 章恩(ITジャナリスト)

 

(NIKKEI TECH)

2022. 5.

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https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00059/

サムスン対ソニー、互いに譲らず イメージセンサー市場の行方

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成長著しいイメージセンサー市場にて、韓国Samsung Electronics(サムスン電子)とソニーグループ(以下、ソニー)が激しいシェア争いを繰り広げている。サムスン電子は、2030年に非メモリー半導体であるシステム半導体市場で世界1位を目指している。同社は、ソニーが絶対王者として君臨するイメージセンサー市場を果敢に攻める。しかし21年の同市場のシェアは互いに譲らず、両社のシェアは縮まっていない。新たなプレーヤーも同市場に参入しており、22年はさらに激しい争いになりそうだ。

 米国の調査会社であるStrategy Analytics(ストラテジー・アナリティクス)は22年3月末、21年のスマートフォン(以下、スマホ)向けイメージセンサー市場の企業別売上高シェアを発表した。同調査によると1位はソニーで、前年から1ポイント減となる45%のシェアとなった。2位はサムスン電子だ。同3ポイント減の26%のシェアである。3位は米OmniVision Technologies(オムニビジョン)であり、同1ポイント増の11%のシェアだ。

 サムスン電子は20年、同市場においてソニーとのシェアの差を17%まで縮めた。しかし21年はソニーとのシェアの差が19%と若干ひらく結果となった。

 サムスン電子は02年、イメージセンサー市場に進出し、15年には早くも業界2位のシェアを確保した。近年はスマホ向けに小型で高解像度のイメージセンサーを次々に投入し、シェア拡大を続けてきた。例えば19年には業界初となる、0.8μmの1ピクセル(画素)サイズで1億800万画素のイメージセンサー「ISOCELL Bright HMX」を発表。21年にはやはり業界初となるピクセルサイズ0.64μmの2億画素イメージセンサー「ISOCELL HP1」を公表している。

 サムスン電子は、ソニー超えを目指すために生産設備の拡充にも余念がない。自社のDRAM生産ラインをイメージセンサー生産ラインに変更したばかりでなく、世界3位のファウンドリー事業者である台湾聯華電子(UMC)とも提携。イメージセンサーの生産の一部を委託した。UMCが台湾に建設中の新しい工場では、23年からサムスン電子のイメージセンサーを量産する計画だという。サムスン電子はこうした生産ラインを確保することで、イメージセンサー市場においてシェア30%台を狙う。

 22年3月に開催されたサムスン電子の株主総会において、同社デバイスソリューション部門社長兼CEO(最高経営責任者)のKye Hyun Kyung氏は、「微細ピクセル技術の優位性と、1億画素イメージセンサーの普及で、21年のイメージセンサーのビジネスは顕著な成長を成し遂げた」「22年はイメージセンサーの微細ピクセル技術のリーダーシップを持続し、普及クラスのモバイル製品にも供給を拡大する」と説明した。市場シェアは若干減少したものの、売上高は着実に伸びていることを強調した。

 シェア拡大に欠かせない新規顧客獲得も進んでいる。例えばサムスン電子のイメージセンサー「ISOCELL GN5」とディスプレーは、22年4月に発売された中国vivo (ビボ)の最新の折り畳みスマホ「X Fold」に採用された。ISOCELL GN5はピクセルサイズ1.0μmで5000万画素のイメージセンサーだ。速さと精度を向上したオートフォーカス機能が特徴である。

 22年3月末には米Motorola Mobility(モトローラ・モビリティ)が開発中のスマホの旗艦モデル「Motorola Frontier」とみられる写真がネット上に流出した。この写真からは、サムスン電子の2億画素のイメージセンサーISOCELL HP1をMotorola Frontierが採用した可能性が見て取れる。

 章恩(ITジャナリスト)

 

(NIKKEI TECH)

2022. 4.

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https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00058/

「半導体超強大国」を目指す韓国尹次期大統領、日韓関係改善は?

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 韓国次期大統領に、保守系最大野党「国民の力」の尹錫悦(ユン・ソクヨル)氏が就任することが決まった。尹氏の大統領就任を前に、韓国産業界では、現在の文在寅(ムン・ジェイン)大統領が積極的に進めてきた半導体やバッテリー産業の支援策が引き継がれるのかどうかが注目されている。尹氏の選挙時の公約や当選後の動きからは、現政権以上に半導体やバッテリー産業を後押しする姿勢がうかがえる。さらに現政権で冷え切った日韓関係についても改善が期待されている.

 「自由民主主義と市場経済を正しく立て直し、危機を克服して統合と繁栄の時代を切り開く」「(米韓同盟は)自由民主主義と市場経済、人権の価値を共有しながら包括的戦略同盟を強化する。相互尊重の中韓関係を発展させ、未来志向的な日韓関係をつくる」――。次期大統領に当選確定後の演説で、尹氏はこのように語った。


 次期大統領に選ばれた直後、尹氏は、韓国の経団連にあたる韓国全国経済人連合のメンバーである財閥グループの会長らと会合を重ねた。会合を受けて尹氏は、「企業がより自由な判断で投資し成長できるような活動の阻害要因を除外していくのが政府の役割だと考えている」「政府はインフラをつくり、企業が雇用を生み投資する。企業が成長すれば国も成長する」という趣旨のコメントをした。

 尹氏は「企業を経営しやすい環境をつくる」がモットーだ。同氏は、「(企業側から不満が漏れていた)現在の勤労時間や最低賃金制度などを見直す」と繰り返し発言している。「週52時間勤労制・最低賃金値上げ」など、労働者側寄りだった現在の文政権とは違う点をアピールしている。

中小企業優遇から転換、大企業の声を政策に反映する尹氏

 もっとも尹氏は、文政権が推し進めてきた半導体やバッテリーという韓国を代表する産業を後押しする政策については、一層強化するとみられる。

 尹氏は韓国の大統領選において、「半導体超強大国を目指し、50兆ウォン規模の基金をつくる」「半導体分野で10万人の人材育成」といった点を公約に掲げた。韓国半導体産業が強いメモリー半導体の競争力を維持しながら、システム半導体やAI(人工知能)チップ、ファウンドリーなど非メモリー半導体分野においても、他国を追い抜くために投資を拡大することを強調する。

 尹氏はこの他、研究開発・施設投資の税額控除拡大や、全国に半導体拠点を置く半導体未来都市建設、半導体工場の電力や工業用水などのインフラ支援、経済安全保障のため韓国産業通商資源部や複数の省庁が担当している半導体部品・原材料供給網の点検を大統領官邸レベルに引き上げる点も公約に掲げた。

 現大統領である文氏は、半導体やバッテリー産業を後押しする一方、中小企業育成を重視したため、韓国Samsung Electronics(サムスン電子)や韓国SK Hynix(SKハイニックス)といった財閥系大企業をおろそかにしているという見方があった。

 例えばSKハイニックスの京畿道龍仁市における半導体クラスター計画だ。同計画は2019年発表後、環境規制や土地補償問題などで地域の住民との話し合いが難航している。韓国半導体業界は、半導体投資の絶好の機会を逃してはならないとして、こうした問題に政府が介入し、規制緩和によって解決することを期待していた。尹氏はこのような大企業の声も政策に反映しようとしており、韓国半導体業界からの期待が高まっている。

 韓国半導体業界は大統領選後、尹氏に対し、ソウル市内にある大学の半導体学科入学定員を増やせるよう規制緩和してほしいと要望した。韓国半導体業界はこれまでも、半導体学科の年間卒業生を現在の650人前後から1500人へと増員を求めていた。しかし現在の文政権は首都圏一極集中を避けるために、ソウル市内の大学の学生と教員の定員を制限していたが、尹氏は現政権の方針を転換する。優秀な人材を確保するため半導体をはじめとした先端産業に関連する学科の定員は、大学定員とは別枠で管理する方針を明らかにした。

 ソウル市内の大学は、企業と連携した半導体学科の他、バッテリー学科やスマートファクトリー学科などを新設している。このような企業と連携した学科は、企業が必要とする実務的な人材を育てることを目的とする。企業が学生の授業料や生活費を負担する代わりに、学生は卒業と同時に支援した企業に就職する。

 章恩(ITジャナリスト)

 

(NIKKEI TECH)

2022. 4.

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https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00057/

ウクライナ危機でニッケル高騰、韓国バッテリー業界がLFPに注目

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 ロシアによるウクライナ侵攻の長期化によって、電気自動車(EV)向けのバッテリー原材料価格が高騰している。ロシアはEV向けバッテリーに使われる原材料であるニッケルの保有量が世界3位であり、世界供給の約1割を占めているからだ。米Tesla(テスラ)や中国比亜迪(BYD)をはじめとしたEVメーカーは、バッテリー原材料高騰を理由にEVの値上げを発表するなど影響が出始めた。バッテリーを半導体に次ぐ産業に育てたい韓国にとっても、対策が急務になっている。

高騰するニッケルの代りに浮上する「LFPバッテリー」

 2022年3月17日から19日まで、韓国ソウルにある複合施設「COEX」にて、韓国産業通商資源部(「部」は日本の省に当たる)などが主催する二次電池産業展示会「InterBattery 2022」が開催された。198社が展示に参加し、4万人以上が来場するなど、韓国の国を挙げてのバッテリー産業後押しを示すかのように盛り上がりを見せた。


 そんなInterBattery 2022に水を差す格好になったのが、ロシアによるウクライナ侵攻の影響だ。特にEV向けバッテリーに使われるニッケルの価格が高騰していることが、韓国のバッテリー業界に影を落としている。

 EV向けバッテリーに使われる純度99.8%以上のニッケルは、ロシア産のシェアが世界で最も高いという。韓国はロシアのほか、インドネシアやオーストラリア、南米からニッケルを輸入しているため供給が止まることはない。問題は価格高騰である。EV普及拡大でバッテリー原材料価格は上がり続けていたが、ウクライナ侵攻により一気に価格が跳ね上がった。

 InterBattery 2022では、産業通商資源部のムン・スンオク長官、韓国LG Energy Solution(LGエナジーソリューション)と韓国SK On(SKオン)、韓国Samsung SDI(サムスンSDI)という韓国バッテリー3社の代表、韓国電池産業協会会長も出席。原材料供給網問題についてコメントした。

 出席者からは「原材料価格と連動してバッテリー価格も上げるように完成車メーカーと契約をしているが、長期的に不確実性が続く場合はバッテリー側にも影響が生じる可能性がある」「合弁会社の設立などで安定した供給確保と価格競争力確保に力を入れている」「企業が原材料供給先を多様化しても限界がある。原材料供給は外交問題や資源を巡る覇権争いもあるため政府レベルでの長期対策が必要。いつどこでどのような制裁が飛び出るか分からない」といった声が上がった。ムン長官は「バッテリー供給網問題は政府の重大事項と認識している。世界ニッケル供給の24%を占めているインドネシアをはじめ、世界の供給網を確認する。省庁間で意見を共有している」と説明した。

 韓国バッテリー3社は主に、ニッケルの配合量が高いNCM(ニッケル、コバルト、マンガン)系、NCA(ニッケル、コバルト、アルミニウム)系のバッテリーを生産している。今後の事業への影響を避けるため3社は、価格が高騰したニッケルなどの原材料を含まないLFP(リン酸鉄リチウムイオン)バッテリーにも目を向けている。

 LGエナジーソリューションとSKオンは21年10月、ESS(Energy Storage System)向けのLFPバッテリーを開発すると発表した。ただ発表時点では、原材料高騰が理由というよりはバッテリー事業の多角化のためという説明だった。SK onは「需要があれば(EV向けLFPも)準備する」という立場だ。サムスンSDIは今のところ、LFPバッテリーについての発表はない。

 EVメーカー側も、LFPバッテリーの採用を増やす動きがある。テスラや独Volkswagen(フォルクスワーゲン)、米Rivian(リビアン)らがLFPバッテリーを採用することを明らかにしている。韓国メディアによると、韓国Hyundai Motor(現代自動車)も25年以降、新興国向けのEVにLFPを搭載する計画があるという。LFPバッテリーはこれまで、中国メーカーが生産する価格は安いが走行距離が短いEVに搭載されるものといったイメージがあった。だがここにきて、技術進展によってエネルギー密度が高くなり、多くのEVメーカーの選択肢になりつつある。

 韓国のバッテリー原材料を扱う企業も、原材料の安定供給のため海外投資を増やしている。韓国POSCOグループは24年上半期に、アルゼンチンのリチウム工場の稼働を開始する。年間2万5000トン規模から始め、28年には年間10万トン生産を目指す。POSCOグループは18年に、アルゼンチンのオンブレ・ムエルト塩湖のリチウム採掘権を買収し投資を続けてきた。

 現代自動車やLG エナジーソリューション、SKオンは、バッテリー原材料確保の負担を軽減するため、廃バッテリーのリユースとリサイクルにも力を入れる。韓国政府は廃バッテリー関連法を整備し、企業をサポートする方針である。

 章恩(ITジャナリスト)

 

(NIKKEI TECH)

2022.3 .

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https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00056/

ウクライナ侵攻で半導体生産に危機、韓国が対策急ぐ

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ロシアによるウクライナ侵攻で韓国経済が揺れている。韓国Samsung Electronics(サムスン電子)や韓国LG Electronics(LGエレクトロニクス)、韓国Hyundai Motor(現代自動車)はロシアに生産工場を持つほか、韓国企業は家電やスマートフォン、自動車などでロシア市場においてトップシェアを占めているからだ。原材料の供給難によって、韓国の主力産業である半導体産業への影響も懸念される。韓国内では官民で混乱回避に向けた努力が続けられている。

半導体生産に欠かせない希ガスの輸入をロシア、ウクライナに頼る

 韓国経済にとって、ロシアによるウクライナ侵攻の最大の懸念は、主力産業である半導体への影響だ。

 半導体生産に欠かせない希ガスの主要生産国はロシアとウクライナである。ロシアによるウクライナ侵攻後、半導体生産への懸念からサムスン電子と韓国SK Hynix(SKハイニックス)の株価が大幅下落した。両社は常に3カ月分の原材料を確保しているため、今のところ生産に支障はないとしている。

 とはいえ韓国半導体業界は、半導体工程に欠かせないネオン(Ne)やクリプトン(Kr)、キセノン(Xe)などの希ガスについて輸入に頼っている。韓国関税庁の21年輸出入貿易統計によると、ネオンの輸入はロシアからが5.2%、ウクライナからが23%である。クリプトンはロシアからが17.5%、ウクライナからが30.7%、キセノンはロシアからが31.1%、ウクライナからが17.8%だ。希ガスの多くをロシアとウクライナに依存していることが分かる。

 ネオンは、シリコンウエハーに微細回路を刻むためのDUV(Deep UV)露光工程で使われる。DRAMでは約90%、NAND型フラッシュメモリーはほぼ100%を、DUV露光工程によって生産しているという。

 韓国最大の鉄鋼メーカーであるPOSCOは22年1月、製鉄所の酸素工場内の空気分離装置を活用してネオンガスを抽出する「ネオン生産設備」を完成したと発表した。ただPOSCOの設備でも、韓国内の需要の約16%に相当する分しか生産できないという。

 半導体のエッチング加工工程に必要なクリプトンとキセノンは、ロシアとウクライナからの輸入の割合が非常に大きい。POSCOは半導体工場に納品できる程度のクリプトンとキセノンの生産も進めているが、いつ量産できるかは未定という。

 韓国半導体業界は、原材料供給網の強靭化を図っているとする。しかし半導体製造に不可欠な希ガスは、ロシアとウクライナを除くと中国や米国、フランスくらいしか供給元がないようだ。希ガスはロシアとウクライナが緊張状態だった22年1月から、既に値上がりが止まらない状況だ。

 ウクライナ侵攻による半導体生産の先行き懸念から、今後、世界で半導体不足に拍車がかかる恐れもある。韓国メディアの報道によると現在、世界中からサムスン電子とSKハイニックスへの注文が殺到しているという。22年2月にはキオクシアと米Western Digital(ウエスタンデジタル)が共同で運営する半導体製造工場で、フラッシュメモリーの製造に不純物が混入していたことが明らかになった。さらに米Intel(インテル)は22年3月からデータセンター向けの新CPUを発売することを受けて、DRAMの買い替え需要によるメモリー半導体の価格上昇が見られることも、半導体不足に追い打ちをかけている。

 章恩(ITジャナリスト)

 

(NIKKEI TECH)

2022. 3.

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https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00055/

サムスン「Galaxy S22」が韓国で出足好調、久々3000万台超なるか

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韓国Samsung Electronics(サムスン電子)の最新フラグシップスマホ「Galaxy S22」(以下、S22)の販売が2022年2月25日から韓国で始まった。韓国SK Telecom(SKテレコム)など大手通信事業者3社は、22年2月14日から予約販売を開始。S22は、前機種であるGalaxy S21(以下、S21)と比べて予約が3倍以上となるなど出足は好調だ。中国・小米科技(Xiaomi、シャオミ)などの追い上げで、スマホ世界シェア1位キープが危うくなっていたサムスン電子だが、S22の予想以上のヒットでほっと胸をなで下ろしたところだろうか。

 S22シリーズは、前機種のS21から価格を据え置き、ディスプレーやカメラ、アプリケーションプロセッサー機能などを全体的に向上した。アプリケーションプロセッサーは、Galaxyスマホで初となる4nmプロセス技術を使ったアプリケーションプロセッサー(国によって米QualcommのSnapdragon8Gen1か、サムスン電子のExynos2200)を採用。AI(人工知能)処理専用のプロセッサー「NPU(Neural Processing Unit)」も活用することで、S21よりも約2倍の処理速度を実現したという。イメージセンサーもS21より約23%大きくし、暗い場所での撮影でも多彩な色彩を表現できるようにした。

 前機種のS21は、その前のGalaxy S20との違いが分からないという評価が多かった。S22ではその反省を教訓に、手堅く機能向上を図ったようだ。

 S22シリーズはディスプレーサイズが6.1型のS22と6.6型のS22+、6.8型のS22 Ultraの3種類を用意した。予約販売で最も人気が高いのが、最もディスプレーサイズが大きいGalaxy S22 Ultraだ。SKテレコムは予約分の70%、韓国KTは67%、韓国LGU+は53%がS 22 Ultraとのことだ。3社とも予約者は30~40代の男性が圧倒的に多いという。

 S22 Ultraは、コアなファンが多い「Galaxy Note」の特徴である電子ペン「Sペン」を本体に収納できるデザインを引き継いだ。これがNoteファンの心を動かしたようだ。S21もSペンを扱えたものの、本体に収納できず不便だった。Sペンの機能も改善しており、反応速度がより速くなり、思い通りに字を書いたり絵を描いたりしやすくなった。80カ国語の手書き文字を認識しテキストに変換できる。

 韓国のSNSでは、19年発売のGalaxy Note 10や18年発売のGalaxy Note 9からS22 Ultraに乗り換えたという書き込みが目立った。ついにNoteファンを満足させるスマホが登場した喜ぶコメントが多かった。S22 Ultraの売れ行きが好調なことから、韓国内で、折り畳み形態が特徴のスマホ「Galaxy Z」シリーズにもSペンを収納できるモデルを投入するのではないかという報道もあった。

 S22 Ultraの背面カメラは、Galaxyシリーズで最大となる1億800万画素と1200万画素、1000万画素2つのクアッドカメラを採用した。暗いところで撮影すると、光が反射して映り込むフレア現象を改善したのが特徴だ。SNS投稿のために写真や動画の画質を重視するユーザーが多いことから、フレア現象の改善は、S22 Ultraの先行レビューでも高く評価されていた。写真に写りこんだ影や光の反射を消すAI消しゴム機能も話題だった。

 S22シリーズは、Galaxy Zシリーズと同様に、アーマーアルミニウム(Armor Aluminum)、ボディーの前後面に、米Corning(コーニング)製の強化ガラスを使い耐久性を強化した。S21ではポリカーボネートを採用し、本体が安っぽいという不満が漏れていたことを意識したようだ。

 S22 Ultraは、レッドとスカイブルー、グラファイトの3色をサムスン電子のホームページで販売する限定カラーにした。この3色は、予約販売初日に完売した。

 章恩(ITジャナリスト)

 

(NIKKEI TECH)

2022. 2.

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https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00054/

サムスンが給与の5倍の奨励金、人材引き留めで待遇改善競争

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 2021年に米Intel(インテル)を抜き、世界半導体市場の売上高で1位となった韓国Samsung Electronics(サムスン電子)と、歴代最多売上高を記録した韓国SK hynix(SKハイニックス)。好業績に沸く両社が従業員に支給したボーナスと基本給に上乗せして払われる奨励金(インセンティブ)が大盤振る舞いだとして、韓国内で話題になっている。報道によると、サムスン電子のメモリー事業部で課長クラスの従業員は、給与のほかに4800万ウォン(約460万円)の奨励金を受け取るという。背景には韓国内の競合はもちろん中国企業を含めて人材の奪い合いが激化しており、待遇改善で優秀な人材を囲い込みたいという狙いがある。

 サムスン電子とSKハイニックスは毎年年初に、前年度の営業利益に応じて従業員に成果報酬を支給している。両社の21年半導体部門の営業利益は約41.6兆ウォン(約4兆円)と前年比で実に2倍近く増えた。半導体需要の急増や米中貿易摩擦によるサムスン電子のファウンドリー受注増加などが背景にある。両社は半導体人材流出を避けるために待遇を競い、給与のほかに成果報酬や奨励金、激励金、特別賞与などの名目でボーナスを支給している。

 21年年初の奨励金の額は、サムスン電子の方がSKハイニックスよりも多かった。額を公表直後にサムスン電子が半導体分野の中途採用を始めたことから、SKハイニックスからサムスン電子へ転職を希望する人が増えたという。逆に22年年初の奨励金の額は、SKハイニックスの方がサムスン電子よりも多い。そのため、サムスン電子の社員がSKハイニックスへ転職したがっているという報道があった。

 両社は従業員を自社に引き留めようと待遇改善の競い合いを始めた。21年12月にサムスン電子が基本給の200%に当たる特別賞与を従業員に支給したところ、翌週にSKハイニックスは基本給の300%に当たる特別賞与を従業員に支給。これを知ったサムスン電子は、半導体メモリー事業部の従業員にさらに同300%、半導体研究所やパッケージングなどメモリーを支える部署の従業員に同200%を追加支給――といった具合だ。最終的にサムスン電子のメモリー事業部は、SKハイニックスよりも多い基本給の500%に当たる特別賞与を受け取った。

 22年1月に入っても待遇改善競争は続いている。SKハイニックスは目標を超過した利益に応じて支給される成果給を、最高限度額である年俸の50%にしたと発表。サムスン電子も負けずに同水準を支給する見込みという。

 韓国メディアによると21年9月時点での両社の平均年俸は、SKハイニックスが8109万ウォン(約780万円)、サムスン電子が7500万ウォン(約725万円)で、SKハイニックスの方が上である。同じ年俸50%の成果給でも金額には差が出てしまう。

 2021年大卒初任給(年俸)もSKハイニックスの方が上だ。SKハイニックスが5040万ウォン(約480万円)に対しサムスン電子は4800万ウォン(約460万円)である。複数の韓国メディアは、「このままでは半導体業界で最高の待遇を用意するSKハイニックスに人材が流れ、10年内にSKハイニックスがサムスン電子を追い越すのではないか」というサムスン電子従業員らの不満の声を報じた。

 年俸の差にサムスン電子の労働組合も反応している。同社の労働組合は22年2月4日、韓国雇用労働部(部は省)中央労働委員会に労働争議調整申請の手続きを行った。サムスン電子労働組合は、競合他社の待遇に比べて給与や奨励金の額が少ないとし、21年10月から経営陣と交渉を続けていたが、交渉が不調に終わったからだ。労働組合の要求は、全従業員の年俸を1000万ウォン(約96万円)一括で引き上げること、年初に樹立した営業利益目標を超過達成すると超過利益の20%の範囲で支給する奨励金を年間営業利益の25%に変更すること、などである。同社の労働組合は、同社創業以来初めてとなるストライキを予告。韓国メディアは実現可能性が非常に少ないとしながらも交渉の成り行きを注目している。

 章恩(ITジャナリスト)

 

(NIKKEI TECH)

2022. 2.

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https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00053/

韓国LGエナジー上場で1兆円調達、CATL猛追 ホンダと合弁報道も

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韓国LG Chem(LG化学)の電池子会社であるLG Energy Solution(LGエナジーソリューション、以下LGエナジー)が2022年1月27日、韓国取引所に上場した。同社は公募価格だけでも12兆7500億ウォン(約1兆2000億円)という巨費を調達。電気自動車(EV)用バッテリーの世界シェアで首位の中国・寧徳時代新能源科技(CATL)を追い越そうと意気込む。LGエナジーは調達した資金を主に北米における生産設備の拡大に投じる。韓国の複数メディアは、同社とホンダが北米に共同出資会社設立を検討していると報じている。

 韓国では22年1月に入ってから、LGエナジーの新規上場の話題でもちきりだった。韓国内では、LGエナジー株の値上がりは間違いないと見て、借金をしてまで申し込む個人投資家が殺到。LGエナジー株の個人向け申込日だった22年1月18~19日の2日間、韓国では金融機関の個人向けの貸付金額がなんと7兆ウォン(約6700億円)を超えた。

 22年1月11〜12日には、機関投資家からの需要を積み上げる「ブックビルディング(需要申告)」が実施され、LGエナジー株の公募価格が1株30万ウォン(約2万9000円)に決まった。公募価格で計算するだけでLGエナジーは上場によって、12兆7500億ウォン(約1兆2000億円)の資金を調達する計算だ。

 22年1月27日の上場初日の終値は50万5000ウォン(約4万8000円)と公募価格の倍近くとなり、韓国取引所の時価総額において韓国Samsung Electronics(サムスン電子)に次ぐ2位にいきなり浮上した。

上場で得た資金によって北米のバッテリー生産量を約3倍に拡大

 LGエナジーは新規株式公開(IPO)で集めた資金について、約5割を北米地域におけるバッテリー生産設備の拡大に投じる計画だ。残りの4割を韓国と欧州、中国の生産設備拡大に、1割を次世代バッテリー研究と安全性強化のために投資する。

 上場直前の22年1月26日には、同社とGMの共同出資会社であるUltium Cells LLC(以下、Ultium Cells)が、米ミシガン州に北米で3番目のEV向けバッテリー工場を新たに建設することを発表した。26億ドル(約2400億円)を投資し、25年上半期に量産開始。最終的には年間50GWhまでバッテリー生産量を拡大する計画だ。

 Ultium Cellsの工場は、第1工場に当たる米オハイオ州の生産設備が22年下半期に稼働開始予定だ。年間バッテリー生産量は35GWh超となる見込みである。米テネシー州の第2工場は23年下半期に稼働開始予定。こちらのバッテリー生産量も年間35GWh超を見込む。

 LGエナジーはUlitium Cells以外にも、北米バッテリー生産拠点の拡大を急ぐ。同社は米ミシガン州ホーランドに12年から独自運営する工場を持つ(年間40GWh)。さらに24年には、欧州の自動車メーカーであるStellantis(ステランティス、旧FCA)と同社の共同出資会社が、カナダ・オンタリオ州に建設するバッテリー工場が稼働を始める予定だ。この拠点のバッテリー生産量は年間40GWhとなる。

 LGエナジーは、自動車メーカーとの共同出資会社を中心にバッテリー生産量をさらに拡大し、25年には現在の約3倍にあたる年間430GWh超(北米で年200GWh、欧州で年100GWh、中国で年110GWhなど)まで生産能力を広げる計画だ。

 韓国の複数メディアは、LGエナジーとホンダが、バッテリー生産のための共同出資会社設立を検討していると報じた。報道によると両社は年40GWh規模のバッテリー生産拠点を米国に設置する計画という。

 ホンダとの共同出資会社が正式に決まれば、LGエナジーの北米におけるバッテリー生産能力はさらに拡大する。韓国メディアによると、ホンダは北米においてGMと協力関係にあるため、GMと共同出資会社を設立したLGエナジーに近づいたのではないかと分析している。

 実際、22年1月10日に実施されたLGエナジーの記者懇談会で、同社副会長でCEOのKwon Young-soo氏は、「GMと韓国・現代自動車(Hyundai Motor)、ステランティスとバッテリーの共同出資会社を推進中で、今は明かせないが他の企業とも合弁契約を結ぶ予定」と打ち明けた。

 章恩(ITジャナリスト)

 

(NIKKEI TECH)

2022. 1.

-Original column

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00052/

サムスンが1.2兆円投資しOLEDテレビに再参入、LGと対決か同盟か

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韓国Samsung Electronics(サムスン電子)が巨額投資する次世代ディスプレー「QD-OLED」が、2022年1月初めに米ラスベガスで開催されたテクノロジー見本市「CES 2022」でデビューした。現在、大型で高価格帯を主とするテレビ向けのOLED(有機EL)パネルは、韓国LG Display(LGディスプレー)の独壇場であり、サムスンは新たなQD-OLEDパネルでLGディスプレーの牙城に挑む。一方で韓国内では、サムスンがLGディスプレーのOLEDパネルも採用するのでは、という観測が浮上している。背景には低価格の液晶パネル市場で中国勢が台頭し、韓国2社が有機ELを採用したプレミアムテレビ市場に活路を見いだしているという事情も見える。

CES 2022で正式デビュー、次世代ディスプレー「QD-OLED」

 サムスン電子副会長のHan Jong-hee氏はCES 2022の記者説明会で、QD-OLEDパネルを採用したテレビを発売することを正式に明らかにした。22年上半期中の発売を見込み、年間100万台を生産するという。説明会では、55型と66型のテレビ向けQD-OLEDパネルと34型のモニター向けQD-OLEDパネルを展示した。QD-OLEDテレビ自体は展示しなかったものの、同社が発売を計画する65型のQD-OLEDテレビは、CES 2022の「Best of Innovation Award」を受賞した。

 QD-OLEDは、サムスンが19年から25年までに生産施設構築と研究開発に13.1兆ウォン(約1.2兆円)もの巨額を投資する次世代ディスプレーだ。QD-OLED のQDは、電気・光学的性質を持つナノメートルの大きさの半導体粒子のこと。QD-OLEDでは、光の三原色の中で青色素子を発光源とし、ナノスケールの半導体粒子をカラーフィルターの代わりに使って、RGBで残る緑や赤を生成する。同社はQD-OLEDテレビを「現存する最高画質のテレビ」になるとする。

 実際、サムスンのQD-OLEDパネルは22年1月10日に、スイスの検査・認証機関であるSGSにより、色彩再現力が高く視野角による画質低下が少ないという認証を獲得している。

 実はサムスンにとってテレビ向けの大型OLEDパネルは再参入に当たる。サムスンは12年に、55型の大型OLEDテレビを公開した。しかしその後、製造工程に課題が判明し、大型のOLEDパネルから撤退。より低価格な液晶(LCD)をベースにした「QLED」テレビを主力としてきた。今回のQD-OLEDテレビの発売は、サムスンにとって満を持しての再出発となる。

液晶パネルは中国勢が席巻、韓国勢はプレミアムテレビに活路

 現在のテレビ市場は、価格優位性があるLCDを採用したテレビがまだ市場の主役だ。低価格なLCDパネル生産で市場を席巻しつつあるのが京東方科技集団(BOE)や華星光電(CSOT)といった中国勢だ。

 中国勢の価格攻勢によってLCDパネル生産の収益性が悪化しはじめた韓国勢は、同事業を縮小していく考えを示す。サムスンがOLEDテレビ事業を再開する背景には、収益が悪化するLCDパネルの生産ラインをQD-OLEDパネルに転換し、1台1500ドル以上といわれる大型のプレミアムテレビ市場に活路を見いださざるをえないという事情がありそうだ。

 収益性が悪化するLCDパネルに対し、OLEDパネル市場は今後、伸びが期待できる。実際に英調査会社のOmdiaは、22年のOLEDテレビの出荷量を当初予測の650万台から800万台へと上方修正した。サムスンがOLEDテレビ市場に再参入することで、さらに市場拡大が期待できるとしている。

 現在、大型のOLEDパネル市場を席巻するLGディスプレーとサムスンが技術競争することによっても、OLEDテレビ市場を活気づけるとみられる。サムスンのQL-OLEDが青色素子を発光源にするのに対し、LGディスプレーのOLEDパネルは白色素子を発光源とする。

 サムスンの再参入を受けて立つLGディスプレーも21年末、輝度を過去製品から最大30%向上し、機械学習ベースのアルゴリズムで色彩表現力を高めた次世代ディスプレー「OLED EX」を発表した。画質だけでなくデザインも改良し、65型パネルのベゼルを6mm台から4mm台に縮めた。

 章恩(ITジャナリスト)

 

<NIKKEI X TECH>

2022. 1.

-Original column

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00051/