サムスンが給与の5倍の奨励金、人材引き留めで待遇改善競争

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 2021年に米Intel(インテル)を抜き、世界半導体市場の売上高で1位となった韓国Samsung Electronics(サムスン電子)と、歴代最多売上高を記録した韓国SK hynix(SKハイニックス)。好業績に沸く両社が従業員に支給したボーナスと基本給に上乗せして払われる奨励金(インセンティブ)が大盤振る舞いだとして、韓国内で話題になっている。報道によると、サムスン電子のメモリー事業部で課長クラスの従業員は、給与のほかに4800万ウォン(約460万円)の奨励金を受け取るという。背景には韓国内の競合はもちろん中国企業を含めて人材の奪い合いが激化しており、待遇改善で優秀な人材を囲い込みたいという狙いがある。

 サムスン電子とSKハイニックスは毎年年初に、前年度の営業利益に応じて従業員に成果報酬を支給している。両社の21年半導体部門の営業利益は約41.6兆ウォン(約4兆円)と前年比で実に2倍近く増えた。半導体需要の急増や米中貿易摩擦によるサムスン電子のファウンドリー受注増加などが背景にある。両社は半導体人材流出を避けるために待遇を競い、給与のほかに成果報酬や奨励金、激励金、特別賞与などの名目でボーナスを支給している。

 21年年初の奨励金の額は、サムスン電子の方がSKハイニックスよりも多かった。額を公表直後にサムスン電子が半導体分野の中途採用を始めたことから、SKハイニックスからサムスン電子へ転職を希望する人が増えたという。逆に22年年初の奨励金の額は、SKハイニックスの方がサムスン電子よりも多い。そのため、サムスン電子の社員がSKハイニックスへ転職したがっているという報道があった。

 両社は従業員を自社に引き留めようと待遇改善の競い合いを始めた。21年12月にサムスン電子が基本給の200%に当たる特別賞与を従業員に支給したところ、翌週にSKハイニックスは基本給の300%に当たる特別賞与を従業員に支給。これを知ったサムスン電子は、半導体メモリー事業部の従業員にさらに同300%、半導体研究所やパッケージングなどメモリーを支える部署の従業員に同200%を追加支給――といった具合だ。最終的にサムスン電子のメモリー事業部は、SKハイニックスよりも多い基本給の500%に当たる特別賞与を受け取った。

 22年1月に入っても待遇改善競争は続いている。SKハイニックスは目標を超過した利益に応じて支給される成果給を、最高限度額である年俸の50%にしたと発表。サムスン電子も負けずに同水準を支給する見込みという。

 韓国メディアによると21年9月時点での両社の平均年俸は、SKハイニックスが8109万ウォン(約780万円)、サムスン電子が7500万ウォン(約725万円)で、SKハイニックスの方が上である。同じ年俸50%の成果給でも金額には差が出てしまう。

 2021年大卒初任給(年俸)もSKハイニックスの方が上だ。SKハイニックスが5040万ウォン(約480万円)に対しサムスン電子は4800万ウォン(約460万円)である。複数の韓国メディアは、「このままでは半導体業界で最高の待遇を用意するSKハイニックスに人材が流れ、10年内にSKハイニックスがサムスン電子を追い越すのではないか」というサムスン電子従業員らの不満の声を報じた。

 年俸の差にサムスン電子の労働組合も反応している。同社の労働組合は22年2月4日、韓国雇用労働部(部は省)中央労働委員会に労働争議調整申請の手続きを行った。サムスン電子労働組合は、競合他社の待遇に比べて給与や奨励金の額が少ないとし、21年10月から経営陣と交渉を続けていたが、交渉が不調に終わったからだ。労働組合の要求は、全従業員の年俸を1000万ウォン(約96万円)一括で引き上げること、年初に樹立した営業利益目標を超過達成すると超過利益の20%の範囲で支給する奨励金を年間営業利益の25%に変更すること、などである。同社の労働組合は、同社創業以来初めてとなるストライキを予告。韓国メディアは実現可能性が非常に少ないとしながらも交渉の成り行きを注目している。

 章恩(ITジャナリスト)

 

(NIKKEI TECH)

2022. 2.

-Original column

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00053/

韓国LGエナジー上場で1兆円調達、CATL猛追 ホンダと合弁報道も

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韓国LG Chem(LG化学)の電池子会社であるLG Energy Solution(LGエナジーソリューション、以下LGエナジー)が2022年1月27日、韓国取引所に上場した。同社は公募価格だけでも12兆7500億ウォン(約1兆2000億円)という巨費を調達。電気自動車(EV)用バッテリーの世界シェアで首位の中国・寧徳時代新能源科技(CATL)を追い越そうと意気込む。LGエナジーは調達した資金を主に北米における生産設備の拡大に投じる。韓国の複数メディアは、同社とホンダが北米に共同出資会社設立を検討していると報じている。

 韓国では22年1月に入ってから、LGエナジーの新規上場の話題でもちきりだった。韓国内では、LGエナジー株の値上がりは間違いないと見て、借金をしてまで申し込む個人投資家が殺到。LGエナジー株の個人向け申込日だった22年1月18~19日の2日間、韓国では金融機関の個人向けの貸付金額がなんと7兆ウォン(約6700億円)を超えた。

 22年1月11〜12日には、機関投資家からの需要を積み上げる「ブックビルディング(需要申告)」が実施され、LGエナジー株の公募価格が1株30万ウォン(約2万9000円)に決まった。公募価格で計算するだけでLGエナジーは上場によって、12兆7500億ウォン(約1兆2000億円)の資金を調達する計算だ。

 22年1月27日の上場初日の終値は50万5000ウォン(約4万8000円)と公募価格の倍近くとなり、韓国取引所の時価総額において韓国Samsung Electronics(サムスン電子)に次ぐ2位にいきなり浮上した。

上場で得た資金によって北米のバッテリー生産量を約3倍に拡大

 LGエナジーは新規株式公開(IPO)で集めた資金について、約5割を北米地域におけるバッテリー生産設備の拡大に投じる計画だ。残りの4割を韓国と欧州、中国の生産設備拡大に、1割を次世代バッテリー研究と安全性強化のために投資する。

 上場直前の22年1月26日には、同社とGMの共同出資会社であるUltium Cells LLC(以下、Ultium Cells)が、米ミシガン州に北米で3番目のEV向けバッテリー工場を新たに建設することを発表した。26億ドル(約2400億円)を投資し、25年上半期に量産開始。最終的には年間50GWhまでバッテリー生産量を拡大する計画だ。

 Ultium Cellsの工場は、第1工場に当たる米オハイオ州の生産設備が22年下半期に稼働開始予定だ。年間バッテリー生産量は35GWh超となる見込みである。米テネシー州の第2工場は23年下半期に稼働開始予定。こちらのバッテリー生産量も年間35GWh超を見込む。

 LGエナジーはUlitium Cells以外にも、北米バッテリー生産拠点の拡大を急ぐ。同社は米ミシガン州ホーランドに12年から独自運営する工場を持つ(年間40GWh)。さらに24年には、欧州の自動車メーカーであるStellantis(ステランティス、旧FCA)と同社の共同出資会社が、カナダ・オンタリオ州に建設するバッテリー工場が稼働を始める予定だ。この拠点のバッテリー生産量は年間40GWhとなる。

 LGエナジーは、自動車メーカーとの共同出資会社を中心にバッテリー生産量をさらに拡大し、25年には現在の約3倍にあたる年間430GWh超(北米で年200GWh、欧州で年100GWh、中国で年110GWhなど)まで生産能力を広げる計画だ。

 韓国の複数メディアは、LGエナジーとホンダが、バッテリー生産のための共同出資会社設立を検討していると報じた。報道によると両社は年40GWh規模のバッテリー生産拠点を米国に設置する計画という。

 ホンダとの共同出資会社が正式に決まれば、LGエナジーの北米におけるバッテリー生産能力はさらに拡大する。韓国メディアによると、ホンダは北米においてGMと協力関係にあるため、GMと共同出資会社を設立したLGエナジーに近づいたのではないかと分析している。

 実際、22年1月10日に実施されたLGエナジーの記者懇談会で、同社副会長でCEOのKwon Young-soo氏は、「GMと韓国・現代自動車(Hyundai Motor)、ステランティスとバッテリーの共同出資会社を推進中で、今は明かせないが他の企業とも合弁契約を結ぶ予定」と打ち明けた。

 章恩(ITジャナリスト)

 

(NIKKEI TECH)

2022. 1.

-Original column

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00052/

サムスンが1.2兆円投資しOLEDテレビに再参入、LGと対決か同盟か

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韓国Samsung Electronics(サムスン電子)が巨額投資する次世代ディスプレー「QD-OLED」が、2022年1月初めに米ラスベガスで開催されたテクノロジー見本市「CES 2022」でデビューした。現在、大型で高価格帯を主とするテレビ向けのOLED(有機EL)パネルは、韓国LG Display(LGディスプレー)の独壇場であり、サムスンは新たなQD-OLEDパネルでLGディスプレーの牙城に挑む。一方で韓国内では、サムスンがLGディスプレーのOLEDパネルも採用するのでは、という観測が浮上している。背景には低価格の液晶パネル市場で中国勢が台頭し、韓国2社が有機ELを採用したプレミアムテレビ市場に活路を見いだしているという事情も見える。

CES 2022で正式デビュー、次世代ディスプレー「QD-OLED」

 サムスン電子副会長のHan Jong-hee氏はCES 2022の記者説明会で、QD-OLEDパネルを採用したテレビを発売することを正式に明らかにした。22年上半期中の発売を見込み、年間100万台を生産するという。説明会では、55型と66型のテレビ向けQD-OLEDパネルと34型のモニター向けQD-OLEDパネルを展示した。QD-OLEDテレビ自体は展示しなかったものの、同社が発売を計画する65型のQD-OLEDテレビは、CES 2022の「Best of Innovation Award」を受賞した。

 QD-OLEDは、サムスンが19年から25年までに生産施設構築と研究開発に13.1兆ウォン(約1.2兆円)もの巨額を投資する次世代ディスプレーだ。QD-OLED のQDは、電気・光学的性質を持つナノメートルの大きさの半導体粒子のこと。QD-OLEDでは、光の三原色の中で青色素子を発光源とし、ナノスケールの半導体粒子をカラーフィルターの代わりに使って、RGBで残る緑や赤を生成する。同社はQD-OLEDテレビを「現存する最高画質のテレビ」になるとする。

 実際、サムスンのQD-OLEDパネルは22年1月10日に、スイスの検査・認証機関であるSGSにより、色彩再現力が高く視野角による画質低下が少ないという認証を獲得している。

 実はサムスンにとってテレビ向けの大型OLEDパネルは再参入に当たる。サムスンは12年に、55型の大型OLEDテレビを公開した。しかしその後、製造工程に課題が判明し、大型のOLEDパネルから撤退。より低価格な液晶(LCD)をベースにした「QLED」テレビを主力としてきた。今回のQD-OLEDテレビの発売は、サムスンにとって満を持しての再出発となる。

液晶パネルは中国勢が席巻、韓国勢はプレミアムテレビに活路

 現在のテレビ市場は、価格優位性があるLCDを採用したテレビがまだ市場の主役だ。低価格なLCDパネル生産で市場を席巻しつつあるのが京東方科技集団(BOE)や華星光電(CSOT)といった中国勢だ。

 中国勢の価格攻勢によってLCDパネル生産の収益性が悪化しはじめた韓国勢は、同事業を縮小していく考えを示す。サムスンがOLEDテレビ事業を再開する背景には、収益が悪化するLCDパネルの生産ラインをQD-OLEDパネルに転換し、1台1500ドル以上といわれる大型のプレミアムテレビ市場に活路を見いださざるをえないという事情がありそうだ。

 収益性が悪化するLCDパネルに対し、OLEDパネル市場は今後、伸びが期待できる。実際に英調査会社のOmdiaは、22年のOLEDテレビの出荷量を当初予測の650万台から800万台へと上方修正した。サムスンがOLEDテレビ市場に再参入することで、さらに市場拡大が期待できるとしている。

 現在、大型のOLEDパネル市場を席巻するLGディスプレーとサムスンが技術競争することによっても、OLEDテレビ市場を活気づけるとみられる。サムスンのQL-OLEDが青色素子を発光源にするのに対し、LGディスプレーのOLEDパネルは白色素子を発光源とする。

 サムスンの再参入を受けて立つLGディスプレーも21年末、輝度を過去製品から最大30%向上し、機械学習ベースのアルゴリズムで色彩表現力を高めた次世代ディスプレー「OLED EX」を発表した。画質だけでなくデザインも改良し、65型パネルのベゼルを6mm台から4mm台に縮めた。

 章恩(ITジャナリスト)

 

<NIKKEI X TECH>

2022. 1.

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https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00051/

サムスン絶好調、半導体でIntel超え ファウンドリーでTSMC追撃

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 世界的な半導体不足が続き、2021年は半導体チップ生産を請け負うファウンドリー(受託生産)市場がこれまでにない好況となった。メモリー半導体で世界シェア1位、ファウンドリー市場で世界シェア2位の韓国Samsung Electronics(サムスン電子)も絶好調だ。同社の21年7~9月期の業績は、売上高が73兆9800億ウォン(約7兆1000億円)と四半期ベースで過去最高を更新した。営業利益は15兆8000億ウォン(約1兆5000億円)であり、実にその約6割を半導体事業が稼ぎだした。

 米国の市場調査会社IC Insightsによると、21年の半導体企業の世界売上高ランキングにて、サムスン電子が米Intel(インテル)を抑えて世界1位になる見通しという。サムスン電子が実際トップに立てば、18年以来、3年ぶりの首位奪還になる。

サムスン電子は、半導体ファウンドリー市場で世界首位の台湾TSMC(台湾積体電路製造)を追撃する姿勢を見せる。

 同社は21年11月末、長らく懸案となっていた米国への投資を正式に決めた。約170億ドルを投資し、米テキサス州テイラー市に同州オースティン工場に次ぐ第2のファウンドリーを建設する。テイラー市の工場は、2024年下半期の稼働目標とする。

 韓国の平沢(ピョンテク)や華城(ファソン)、器興(キフン)にあるサムスン電子の半導体工場でも生産ラインや事務棟の増設を進めている。同社は生産能力を今の2倍以上に高め、幅広い企業からの受託生産に応えたい考えだ。

グーグル、エヌビディアなどに次ぎ、STマイクロからも受注

 サムスン電子から見ると、TSMCの背中はまだ遠い。台湾の市場調査会社である集邦科技(TrendForce)によると、21年7~9月期の半導体ファウンドリー市場シェアはTSMCが53.1%(前期52.9%)で圧倒し、サムスン電子は2位の17.1%(前期17.3%)だった。TSMCも24年までに1280億ドルという巨費を投じて、米アリゾナ州や日本の熊本市に生産拠点を確保する考えを示す。

 サムスン電子は、徐々にではあるがTSMCの牙城を切り崩しつつある。

 韓国メディアによると、サムスン電子は、米Google(グーグル)や米NVIDIA(エヌビディア)、米Qualcomm(クアルコム)、米IBMに次いで、米STMicroelectronics(STマイクロエレクトロニクス)から、MCU(Micro Controller Unit)の生産を受注したという。

 STのMCUは、iPhoneが採用する部品の一つだ。16nm世代プロセスの工程で生産する。既に2年先までの生産計画が埋まっているという。

 小型で高性能なMCUは、スマホやクルマなどで需要が広がっている。先端工程ではないものの、顧客の細かい要求に沿って生産する必要がある。世界のMCUのほとんどをTSMCと台湾聯華電子(UMC)という台湾勢が生産している。サムスン電子がファウンドリー市場でTSMCとの競争に勝つためには、MCUは非常に重要な品目になる。

 サムスン電子は、米Tesla(テスラ)からの受託生産も決まっている。7nm世代プロセスの工程で生産した自動運転用のチップを、22年1月からテスラに納入する。このチップは、テスラのEV(電気自動車)トラック「Cybertruck」に搭載されるといううわさだ。テスラは、ファウンドリーとの長期的な協力関係を築くために、TSMCではなくサムスン電子を委託先として選択したといわれている。


趙 章恩=(ITジャーナリスト)

 

<NIKKEI X TECH>

2021. 12.

-Original column

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00050/

クラフトビールに新風、キムチ冷蔵庫メーカーが作る梨生姜ビールとは一体=趙章恩

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韓国 異色のクラフトビールが人気=趙章恩

 小規模な醸造所がつくる個性的なクラフトビールに、意外な食材を混ぜ合わせた異色のビールが口コミで人気を集めている。例えば、ロッテ製菓のガムに使われる原液を入れたビールや、キムチ冷蔵庫メーカーが企画した保管温度によって味が変わる梨生姜(しょうが)ビール、激辛ラーメンとのコラボレーションで生まれたマンゴービールなどに好奇心をくすぐられる人々が増えている。

 韓国でクラフトビールが登場したのは2002年。20年には酒税法改定で酒類製造免許を持つ事業者が大手ビールメーカーに生産を委託できるようになり、酒税も安くなった。

残り273文字(全文550文字)

週刊エコノミスト

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趙 章恩(ITジャーナリスト)

 

週刊エコノミスト

2021. 11.

-Original column

https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20211130/se1/00m/020/065000c

Netflixと韓国通信事業者が泥沼訴訟、インフラコスト巡り平行線

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ネットワークへの投資は通信事業者だけが負うべきなのか――。韓国では、ネットワークのコスト負担を巡って、米Netflix(ネットフリックス)と通信事業者の間で泥沼の訴訟合戦が繰り広げられている。欧州でも巨大IT企業に対し、通信インフラコストの一部負担を求める声が大きくなってきた。韓国における訴訟の行方と論点を紹介する。

ネットワーク使用料を支払う義務を巡りネットフリックスとSKBが訴訟

 ネットフリックスは2020年4月、韓国SK Telecom(SKテレコム)の子会社でインターネット・サービス・プロバイダー(ISP)である韓国SK Broadband(SKB)を相手に訴訟を起こした。

 ことの経緯はSKBが、ネットフリックスに対して同社のインフラを使うことへの対価となる「ネットワーク使用料」を求めていたことにある。SKBはネットフリックス利用者のトラフィックが急増する中、他の利用者の安定したインターネット環境を守るため、ネットフリックスのサーバーがある東京と香港をつなぐ国際ネットワーク区間容量を増速せざるを得なくなったという。

 これを受けてネットフリックス は、「特定サービスにネットワーク使用料を要求するのは、(すべてのインターネットトラフィックは公平に扱われるべきだとする)ネットワーク中立性原則に反する」とし、交渉に応じたりネットワーク使用料を支払ったりする義務がない点を確認するために訴訟を起こした。21年6月に出たソウル中央地方法裁判所の一審判決は、交渉義務がないことを確認する請求は却下、その他請求は棄却という、ネットフリックスに不利な判決となった。

 ソウル地裁の一審判決の主な内容は以下の通り。(1)ネットワーク中立性は「通信事業者が自社ネットワーク上に流れる合法的なトラフィックを不合理に差別することを禁じる原則」であり、ネットワーク使用料の議論とは直接的関連がない、(2)原告(ネットフリックス)は被告(SKB)を通じてインターネットに接続するという有償役務を提供してもらっていることから、原告は被告に有償役務への対価を負担するものと認定する、(3)どのように対価を支払うかは2社間交渉で決めるべきである――、といった具合だ。

 韓国には大手通信事業者が3社あり、その内、SKテレコム以外の韓国KTと韓国LG U+はネットフリックスと提携関係にある。実はこの2社、ネットフリックスとネットワーク使用料の対価を巡る交渉を終えているもようだ。KTとLG U+は、ネットフリックスとSKBの訴訟についてコメントを控えている。

 韓国のネットサービスの業界団体であるOTT(Over The Top)協議会は、両社の訴訟について「1社でもネットワーク使用料を払わない場合は、その分をコンテンツに余分に投資できるため、全ての会社が公正に払うようにすべきだ」という意見を述べた。韓国の大手インターネット企業である韓国NAVER(ネイバー)と韓国Kakao(カカオ)も、「(ネットフリックスのような)グローバル企業も平等にネットワーク使用料を支払い、公正なインターネットビジネス環境になることを期待する」とコメントした。

 韓国ではかねて、韓国内のコンテンツプロバイダーが通信事業者に対してネットワーク使用料を支払ってきたという経緯がある。

趙 章恩(ITジャーナリスト)

 

<<NIKKEI X TECH>>

2021. 12.

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https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00049/

北米投資加速する韓国バッテリー3社、原材料中国依存のリスク

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韓国LG Energy Solution(LGエナジーソリューション、LGES)と韓国SK on(韓国SK Innovationから分社)、韓国Samsung SDI(サムスンSDI)という韓国バッテリー3社が米国内の生産拠点拡大を加速している。バイデン米大統領は2021年8月、30年までに米国で販売する乗用車と小型トラックの50%以上を電気自動車(EV)と燃料電池車(FCV)にする目標を盛り込んだ大統領令を発令した。米国で生産したバッテリーセルを搭載したEVは追加控除が認められる見込みであり、韓国バッテリー3社は今こそが北米に生産拠点を拡大するチャンスとみる。欧米の自動車大手と相次ぎバッテリー生産のための合弁会社設立に動く中、韓国内ではバッテリー生産の原材料を中国に依存するリスクがささやかれている。

LGはGM、ステランティスと合弁、25年に年150GWhの生産能力

 EV向けバッテリーで韓国最大手のLGエナジーソリューションは、米国におけるバッテリー生産拠点を順調に拡大している。同社は既に韓国の現代自動車(Hundai Motor)や米GMなどから多くのEV向けバッテリーを受注している。22年1月には新規株式公開(IPO)を計画し、IPOで調達した資金を生産設備に投資する。

 GMと韓国LG Chem(LG化学)の共同出資で設立した「Ultium Cells LLC」は、米オハイオ州と米テネシー州にそれぞれ年間35GWhのバッテリー工場を建設。24年に年間70GWhのバッテリー生産能力を確保する計画だ。LGエナジーソリューションは、GMとの間に起きたリコール問題も乗り越えた形で、両社は良好な関係を保っている。

 実際、バイデン米大統領が21年11月17日(米国時間)、米ミシガン州にあるGMのEV工場「Factory ZERO」を訪問した際のエピソードにもそれがうかがえる。バイデン氏は、Ultium Cells LLCが生産した200kWhのハイニッケルバッテリー「NCMA(ニッケル、コバルト、マンガン、アルミニウム)」を搭載したEVピックアップトラック「Hummer」に試乗。急発進するなどして記者らの前で「いい車だ」と絶賛した。NCMAバッテリーは、ロングセルでバッテリーパック内部のセル配列を既存の3段から2段に単純化したのが特徴だ。構造の単純化で物理的容量が増えエネルギー密度を10%以上向上したという。

 LGエナジーソリューションは21年10月、欧州の自動車メーカーであるStellantis(ステランティス、旧FCA) とも合弁会社設立に合意。年間40GWh規模のバッテリーセルとモジュールを生産する工場を米国に建設する計画を発表した。22年夏に着工し、24年1~3月期からステランティスが米国やカナダ、メキシコで生産する次世代EVに、このバッテリーを搭載する計画である。

 LGエナジーソリューションは単独でも米ミシガン州にバッテリー工場を追加建設する。そのため同社のバッテリー生産能力は25年に、北米だけで年間150GWh規模のバッテリー生産能力に達する見込みだ。

SKはフォードと合弁、米国で年150GWh規模の生産能力を確保

 韓国バッテリー2番手、SK onも負けてはいない。同社と米Ford Motor(フォード)は21年9月に合弁会社「BlueOvalSK」を設立。27年までに約114億ドル(約1兆2800億円)を投資し、米テネシー州と米ケンタッキー州に年間129 GWh 規模のバッテリー生産工場とEV生産工場を建設する計画を発表した。

 SK onは米ジョージア州に単独投資したバッテリー生産工場を持つ。この工場のバッテリー生産能力が年間21.5GWhであるため、同社は米国内で年間約150GWh規模のバッテリー生産拠点を確保した形になる。SK onは全世界でバッテリー生産能力を23年に85GWh、25年に220GWh、30年に500GWh以上に伸ばす計画を打ち出している。旺盛な米国投資によってこの目標を上回りそうだ。

 SK onは21年12月から、ニッケル含有量を高めたバッテリー「NCM9:1/2:1/2」の量産を開始する。22年上半期出荷するフォードのピックアップトラック「F-150 Lightning」に搭載するという。これまでの同社のバッテリー「NCM8:1:1」バッテリーよりもエネルギー密度を約20%高め、その分走行距離が長くなる。韓国バッテリー3社は、ニッケルの含有量を90%以上にするコバルトフリーに近いバッテリーの開発を競ってきたが、SK onがその口火を切った。

 SK onを含む韓国SKグループは30年まで米国に520億ドル(約6兆円)を投資する計画だ。同社はこれまで、韓国バッテリー3社の中で最も米国におけるバッテリー生産量が多かった。しかしLGエナジーソリューションの追い上げとサムスンSDIの新たな米国投資によって、同社の米国内の立場が揺らぐ懸念がある。そのため追加投資の可能性もありそうだ。

趙 章恩(ITジャーナリスト)

 

<<NIKKEI X TECH>>

2021. 11.

-Original column

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00048/

サムスン陥落、米国の半導体「機密事項」要求に 顧客情報など除く

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半導体不足の実態把握に向けて、米商務省が世界の半導体メーカーに対して2021年11月8日(米国時間)を期日として自発的に情報提供を求めていた件で、韓国Samsung Electronics(サムスン電子)や韓国SK Hynix(SKハイニックス)が資料を提出したことが分かった。顧客との秘密保持契約を守れる範囲内で資料を提出したようだ。一足先に提出した台湾TSMC(台湾積体電路製造)も同じく顧客の詳細情報は除いたようだ。米国がこの情報をどのように活用するのかが次のポイントになる。

 米商務省は21年9月、世界の半導体メーカーや、半導体の大口購買者である完成車メーカーなどを対象に、生産能力や生産工程、リードタイム、在庫、製品別の主な顧客、顧客別の売り上げなどの自発的な情報開示を求めた。長引く半導体不足を解消し、サプライチェーン(供給網)の透明性を図るためだ。ただし営業機密といえる情報まで開示を求めたため、世界に波紋が広がっていた。締め切り前日に当たる11月7日には67社の提出にとどまっていたが、締め切り日の11月8日にはサムスン電子などを含めて189社が情報を提出した。多くの企業がどこまで米政府に情報を提供するべきなのか、最後の最後まで悩んだようだ。

 サムスン電子より先に情報を提出したTSMCなどが「顧客別の売上情報は秘密保持契約違反になるため提出できない。その代わりに自動車やパソコンなど産業別半導体売り上げを提出する」と米商務省に交渉したところ、これを受け入れたという報道もあった。その流れでサムスン電子とSKハイニックスも詳細な顧客情報を提供しなくて済んだようだ。

 複数の韓国メディアによると、サムスン電子は顧客情報のみならず顧客との価格交渉に影響を与えるチップの在庫量も記載せず、提出した情報は全て一般公開しないよう求めたという。米商務省は11月9日(米国時間)メーカーが公開を許可し、同省も問題ないと判断した資料の一部をWebサイトに掲載した(86 FR 53031 Notice for Risks in the Semiconductor Supply Chain_published 9-24-21_comments due 11-8-21、https://www.regulations.gov/document/BIS-2021-0036-0001/comment)。SKハイニックスやTSMCの回答文書の一部もここで公開されている。

 SKハイニックスは公開資料を通じて、「メモリーは他の半導体に比べ短期的需給変化に対応しやすい」「現在の半導体チップ不足の原因はメモリー半導体ではない」「メモリー半導体の需給は数年間安定的で、(メモリー半導体が主力の)SKハイニックスはどの製品も生産遅延なく、顧客社の電子システム生産に支障を来すような問題を起こしていない」「メモリー半導体の安定的供給のため米国顧客と緊密に協業している」「次世代技術開発と装備・工場建設投資で十分な生産能力を持続的に維持する」「(メモリーは供給問題がないため)過剰生産能力がない状況で超過生産を勧告するのは存在しない問題の解決策を強要すること」などと強調した。米政府が問題視している半導体不足は自動車に入るシステム半導体がメインであり、自社とは関連がないという点を明確にしたかったようだ。

 韓国からはサムスン電子とSKハイニックスのほかに、半導体シリコンウエハーを生産するSK Siltron(SKシルトロン)、韓国の現代自動車(Hundai Motor)の米国法人であるKia Georgiaも情報を提供した。

趙 章恩(ITジャーナリスト)

 

<<NIKKEI X TECH>>

2021. 11.

-Original column

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00047/

SamsungがAIを新分野に続々適用、分子の特性予測、素材開発、エネルギー効率など

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本記事はロボットとAI技術の専門誌『日経Robotics』のデジタル版です
本記事はロボットとAI技術の専門誌『日経Robotics』のデジタル版です


 2021年11月、Samsung Electronics社 副会長のJae-yong Lee氏は5年ぶりに北米に出張し、カナダトロントにあるコンピュータビジョンやマルチモーダルAIを主に研究するSamsung AI CenterやSamsung Electronics社の方向性を決める研究開発組織Samsung Research America社などを訪問した。AIの研究状況を確認し、研究員らに「格差を広げるだけでは巨大な転換期を乗り越えられない」、「誰も行ったことのない未来を開拓、ニューサムスンを作ろう」と強調した。

 トロントのSamsung AI CenterはSamsung Electronics社の7番目のAI研究センターとして2018年に、Samsung Research America社は2014年にそれぞれ設立した。Samsung Electronics社は2023年まで韓国内180兆ウォン、海外60兆ウォン、合わせて240兆ウォンを半導体、バイオ、次世代通信(5G・6G)、未来新技術(AI・ロボティクスなど)に投資する計画を発表済みである。今回の出張は米国内の新規半導体工場建設に関する調整のためではあるが、Lee副会長の日程からかAI・ロボティクス・6G分野のM&Aや新規事業を検討しているという報道もあった。


趙 章恩(ITジャーナリスト)

 

《日経Robo

2021. 12.

 

-Original column

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/mag/rob/18/00006/00091/

Amazonが韓国キャリアと協業、Alexaとのデュアル搭載、英語ではAlexaが、韓国語では自社AIが対応

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2021年10月20日、韓国の通信事業者(キャリア)のSK Telecom社は「NUGU Conference 2021」を開催し、2022年1月より自社のAIアシスタントNUGUと米Amazon.com社のAlexaを同社のスマートスピーカー「NUGU Candle」で2カ国語(バイリンガル)デュアルエージェントとして使えるようにすると発表した(図1)。

 1つのスマートスピーカーから「Alexa」と呼んで英語で話しかけるとAlexaが反応し、NUGUの呼び出し名である「アリア」と呼んで韓国語で話しかけるとNUGUが反応する仕組みである。1台のスマートスピーカーからAlexaとNUGUの両方のサービスを利用できる。AlexaとNUGUのIDを連動するだけで使える。

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趙 章恩(ITジャーナリスト)

 

《日経Robo

2021.11 .

 

-Original column

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/mag/rob/18/00006/00089/