韓国電池3社、EV向け積極投資にもかかわらず株価急落のワケ

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電気自動車(EV)の電池製造を増産すべく、2021年1〜3月に大規模な投資計画を明らかにした韓国LG Energy Solution(LGエナジーソリューション)と韓国SK innovation(SKイノベーション)、韓国Samsung SDI(サムスンSDI)の韓国電池3社。だが各社の株価が21年3月に入り大幅下落している。生産能力の増強により、中国寧徳時代新能源科技(CATL)をはじめとする中国勢に対抗し、EV市場で主導権を狙うはずだった。だが大口納入先の方針転換と、米国際貿易委員会(ITC)の判決をめぐる訴訟リスクが影を落としている。

 LGエナジーソリューションの親会社であるLG Chem(LG化学)の株価(終値)は、米国における投資計画発表直後の21年3月15日には96万6000ウォンまで急騰したが、その後、急落した。同3月23日の終値は77万5000ウォンと15日から20%以上も下落している。同社の米国における投資計画は、25年まで5兆ウォン(約4840億円)以上を投資し、年産70GWh以上のバッテリー生産能力を追加確保するという大規模なプランだった。

 1兆2000億ウォン(約1160億円)を投資し、年産30GWh規模のハンガリー第3工場を新設すると21年1月に発表したSKイノベーションも、同3月に入り株価が下落している。21年2月2日に31万7000ウォンと高値を付けたが、同3月23日には20万2000ウォンまで急落した。

 ハンガリーのバッテリー工場に約1兆ウォン(約970億円)を新規投資し、生産規模を年産最大50GWh に拡大すると21年2月に発表した韓国Samsung SDI(サムスンSDI)も同様だ。21年2月26に67万4000ウォンだったのが、同3月23日には62万4000ウォンまで下落した。

VWグループが自前工場に転換、LGとSKに打撃

 韓国メディアや証券業界の分析によると、株価下落の理由は大きく2つある。まず世界第2位のEV販売台数をほこるドイツのVolkswagen Group(フォルクスワーゲングループ)が21年3月15日、新たなEV向け電池の採用計画を発表した影響だ。

 VWグループはこの日、自社EV向けに、規格を統一した角形電池セル(Prismatic Unified Cell)を23年から導入することを明らかにした。30年には自社EVモデルの80%に搭載する計画で、EVシフトを推進させるため、自前で年産40GWhのEV用電池セル工場を欧州6カ所建設するという。年産40GWh×6カ所は相当な生産量だ。

 VWグループのEVプラットフォーム「MEB (Modular Electric Drive Matrix)」向けの電池供給において現在、LGエナジーソリューションは欧州市場で1位、SKイノベーションが同2位である。韓国電池3社のうち、EV向け角型電池セルを生産しているのはサムスンSDIだけだ。LGエナジーソリューションとSKイノベーションの主力はラミネート型の電池セルである。EV向け電池は3〜4年先の分まで受注しているので今すぐ供給が切れるわけではないが、VWグループが角形電池セルに移行することで、韓国電池3社への影響は不可避だろう。だからこそ株価が急落したわけだ。

 VWグループは前述の発表会で、EV普及のためには電池製造費用を安く抑えることが重要と強調した。鍵を握るのは、VWグループが19年に株式20%を取得したEV向け電池を製造するスタートアップ、スウェーデンNorthvolt(ノースボルト)とみられる。ノースボルトは角型電池セルを生産しておりこの日、VWグループと140億ドル(約1兆5300億円)規模の受注契約を結んだことが明らかにされた。

趙 章恩(ITジャーナリスト)

 

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2021. 4.

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https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00030/

EVリコール問題も意に介さず、韓国電池3社が打倒CATLへ積極投資

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韓国Hyundai Motor(現代自動車)の電気自動車(EV)「Kona Electric」が電池の発火でリコールとなった件で、費用分担は現代自動車が3割、電池のサプライヤーである韓国LG Energy Solution(LGエネルギーソリューション)が7割とすることで合意したと韓国メディアが報じた。費用総額は1兆4000億ウォン(約1360億円)前後と見込まれている。

 この件では、韓国国土交通部(韓国の部は日本の省に相当)がKona Electricで発生した火災事故の調査に乗り出し、電池セルの製造不良(負極タブの折り畳み)による火災発生の可能性を確認したと発表。電池を製造したLGエネルギーソリューションの責任が問われ、費用分担の割合が注目されていた。

 費用分担が報じられた2021年3月4日、LGエネルギーソリューションの親会社であるLG Chem(LG化学)と現代自動車はそれぞれ、リコール費用に基づいて20年の営業利益を下方修正した。責任や費用分担を巡って双方が争った時期もあったが、今回の合意で協力関係は継続することになり、今後は現代自動車からの発注量も増えるとみられている。

テスラ向けに米国の生産能力増強か

 それから約1週間後の同月12日、LGエネルギーソリューションはリコールのニュースを打ち消すがごとく大規模な投資計画を発表した。25年まで5兆ウォン(約4850億円)以上を投資し、米国に少なくとも2カ所の電池工場を新設することで、年産70GWh以上の生産能力を追加で確保する。さらに、米国での生産品目に、急成長しているEV用円筒型電池を加えることも明らかにした。従来は、エネルギー貯蔵システム(ESS)用ラミネート型電池を生産していた。

 米国でこれから生産する円筒型電池については、同月10日に英Reuters(ロイター)が「LGエネルギーソリューションは、米Tesla(テスラ)の『4680』電池セル生産のために米国と欧州で工場新設を検討している」と報じており、テスラ向けの可能性もある。ただし、LGエネルギーソリューションは投資計画の中で4680に関しては何も言及していない。4680は、テスラが20年9月に発表した、直径が46mm、長さが80mmの円筒型電池だ。既存の「2170」よりも大きく、EVの航続距離を伸ばせるという。

 米国に工場を新設するのは、バイデン米政権のEV転換政策に合わせて米国内での生産能力拡大を急ぐためである。米国は「Buy America」のスローガンの下、米国産EVを優遇する方針を打ち出している。米国産EVとして認められる条件に「電池セルが米国製であること」があり、北米市場で大手自動車メーカーやEVスタートアップ、ESSメーカーから大量に受注したことから、LGエネルギーソリューションは生産能力拡大を進めているという。米国では、テキサス州の大寒波で停電が続いて大混乱が生じており、ESSの需要増も見込まれている。

 LGエネルギーソリューションによれば、電池の需要は旺盛で、毎年3兆~4兆ウォン(2910億~3880億円)を投資して工場を新設していかないと生産が間に合わない状況だという。資金確保は問題ないとの見通しを示した。米国内での安定したサプライチェーンを構築することで、リコールを乗り越え米国のEVやESSの需要を取り込む。従来は受注してから投資していたが、今後は需要を見越して投資を先行する戦略に転換したという。

 LGエネルギーソリューションは、米General Motors(ゼネラル・モーターズ、GM)との合弁会社である米Ultium Cells(アルティウムセルズ)でも追加投資を検討している。既に米国オハイオ州に年産35GWh規模の工場を建設しているが、次世代技術を適用した電池を生産する第2工場の建設も21年上期に決めるという。第2工場の稼働は、23年を予定している。GMは25年までEVの販売割合を最大40%に引き上げる計画を打ち出している。GMのEV向けに電池を安定供給すべく、第2工場の生産能力も同じく年産35GWh程度の規模になるという。


趙 章恩(ITジャーナリスト)

 

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2021. 3.

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https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00028/

EV火災事故の原因はLGの電池か、韓国企業の争いでCATLに漁夫の利

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韓国Hyundai Motor(現代自動車)は2021年2月23日、中型クロスオーバー電気自動車(EV)「IONIQ 5」を公開した。グループで展開するEV専用プラットフォーム「E-GMP(Electric-Global Modular Platform)」を初めて適用した車種である。E-GMPは、米Apple(アップル)が開発中のEV「アップルカー」を巡る報道でも注目されていた。

 IONIQ5は、韓国内の事前予約初日に2万4000台ほど売れた。21年の販売目標である2万6500台を難なく達成できそうだ。同車は、世界のEV市場で現代自動車の実力を占う試金石とみられている。現代自動車は、セダン「同6」や大型SUV(スポーツ多目的車)「同7」も投入してEVのラインアップを増やす計画である。

LGの電池が火災事故の原因か

 IONIQ 5公開翌日の2月24日、韓国国土交通部(韓国の部は日本の省に相当)は自動車安全研究院と共同で実施した、現代自動車のEV「Kona Electric」の火災事故に関する調査の結果を発表した。電池セルの製造不良(負極タブの折り畳み)による火災発生の可能性を確認したという。同様に原因とみられていた電池セルの分離膜損傷に関しては、再現実験の途中であり、今のところ実験では火災が発生していない。

 国土交通部は、韓国で最初のKona Electricの火災事故が発生してから2カ月後の19年9月に調査を始めており、今回初めて結果を発表した。現代自動車は、リコール関連費用の総額(韓国内向け車両と輸出車両)を1兆ウォン(約954億円)と推定。最終的な費用は、電池のサプライヤーである韓国LG Energy Solution(LGエネルギーソリューション)と分担した上で計上するという。

 これに対し、LGエネルギーソリューションは直ちに反論した。「リコールの理由になった電池セルの製造不良は、再現実験では火災を引き起こさなかったので直接的な原因とはいえない」「BMS(電池管理システム)の充電マップについて、当社が提案したロジックを現代自動車が誤って適用したのを確認した」などと主張し、電池は火災事故の原因ではないという立場を取っている。

 現代自動車は火災事故の原因を電池と判断し、21年3月29日からKona ElectricやEVセダン「IONIQ Electric」、EVバス「Elec City」のBSA(Battery System Assembly)を交換すると発表した。対象車両は、LGエネルギーソリューションがLG Chem(LG化学)から分社する前の17年9月~19年7月に中国・南京の工場で生産された電池セルを搭載したもの。この電池セルには、両極端子に絶縁コーティングが施されていない。対象台数は、韓国内が2万6699台、国外が5万5002台である。現代自動車としては、火災事故の原因をLGエネルギーソリューションの電池ということにして、早くリコールを終わらせ、IONIQ 5の販売に力を注ぎたいようだ。

 リコールの原因や費用分担を巡る現代自動車とLGエネルギーソリューションの攻防はまだ続きそうだが、韓国ではこのリコールでSK innovation(SKイノベーション)が注目されている。

趙 章恩(ITジャーナリスト)

 

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2021. 3.

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https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00027/

「アップルの下請けはお断り」、プライド優先させた現代自動車

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 米Apple(アップル)の電気自動車(EV)「アップルカー」を韓国Hyundai Motor(現代自動車)が生産するという話は、どうやら頓挫したようだ。現代自動車と傘下のKia Motors(起亜自動車)は2021年2月8日、「我々はアップルと自動運転車の開発に関する協議をしていない」とのコメントを発表した。アップルの下請けになるのは、現代自動車にとって受け入れがたい選択だった。


英Reuters(ロイター)が「24年を目標にアップルが自動運転EVを開発している」と報じたのをきっかけに、このアップルカーをどこが生産するかに関心が集まり、「アップルが現代自動車と交渉している」「アップルが起亜自動車に4兆ウォンを投資する」といった報道が相次いでいた。しかし、現代自動車グループが否定したことで、アップルカーを巡る狂騒は新たな展開を見せようとしている。


結果的には得をした?

 ただし、現代自動車グループが候補から完全に外れたと判断するのは早計かもしれない。韓国では、声明に出てくる文言が「EV」ではなく「自動運転車」となっていることから、協議は打ち切られたのではなく主導権争いのために一時的に中断しただけとの見方もある。仮に協議が物別れに終わったとしても、現代自動車グループはアップルのパートナー候補に選ばれるくらい技術力があると全世界にアピールできたので、結果的に得をしたのではないかという意見もあった。

 現代自動車や起亜自動車の株価はアップルカー関連報道が出るたびに上昇していたが、2月8日のコメント発表後は急落した。しかし、翌9日にはEV新型車への期待から現代自動車の株価は再び上昇した。

 2月9日には、起亜自動車がオンラインの投資家向けイベント「CEO Investor Day」で中・長期戦略を発表。独自ブランドで勝負する姿勢を強調し、「クルマを製造・販売する会社から顧客に革新的なモビリティー経験を提供するブランドになる」と宣言した。現代自動車グループのEV専用プラットフォーム「Electric-Global Modular Platform(E-GMP)」を適用した7車種を26年までに公開し、30年に年間88万台以上のEV販売を目指す。

 さらに、EVをスマートフォンのようなスマートデバイスとして使えるように、インフォテインメントを強化し、搭載するソフトウエアをユーザーが選択できるにする。21年3月に公開するEV(コードネーム「CV」)には、自動運転レベル2(部分自動運転)に当たる自動運転技術「HDA2(Highway Driving Assist 2)」を搭載する。




趙 章恩=(ITジャーナリスト)

 

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2021.2 .

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https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00026/

サムスンがテスラと5nm半導体開発か、買収候補にはルネサスも]

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車載半導体不足で世界の自動車メーカーが生産停止するなど、深刻な問題が起きている。そんな中、韓国Samsung Electronics(サムスン電子)は車載半導体への投資を加速させている。同社は米Tesla(テスラ)との連携を深め、最先端プロセスの半導体生産で先行する台湾積体電路製造(TSMC)を追撃する構えだ。

 2021年1月25日、韓国メディアは、サムスン電子のファウンドリー事業部とテスラが5nm EUV(極端紫外線)プロセスのIVI(In-Vehicle Infotainment)用半導体を開発していると報じた。これまでテスラはIVIに米Intel(インテル)の「Atom」系プロセッサーを使っていたが、それをサムスン電子との共同開発品に切り替えるのではないかと予想されていた。

 サムスン電子がテスラとの連携を深めようとする背景には、半導体受託生産を巡るTSMCとの激しい競争がある。

 サムスン電子は現在、テスラの自動運転コンピューター「Hardware 3.0(HW3)」の半導体を生産している。この半導体は、米国オースティン工場の14nm フッ化アルゴン(ArF)プロセスで生産している。ところが、HW3の次世代版であるHW4の半導体は、TSMCが7nmプロセスで生産すると報道されている。

 つまり、サムスン電子にとってテスラに5nmプロセスを訴求することは、IVI用半導体にとどまらず自動運転用半導体の生産も受託するために重要なのだ。ただし、テスラはEVの電力効率向上に向けて、7nmの次は5nmを飛ばして3nmを採用するのではないかとの分析もある。サムスン電子とテスラが共同で5nmプロセスの半導体を開発しているとしても、車載半導体で覇権を握るのは、サムスン電子とTSMCのうち3nmプロセスの量産で先行したほうだろう。

 台湾の調査会社である集邦科技(TrendForce)によると、20年10~12月における半導体ファウンドリーの市場シェアはTSMCが55.6%で圧倒的な1位、サムスン電子が16.4%で2位だった。21年の市場シェア予測も、TSMCが54%、サムスン電子が18%と、差は大きい。ただし、10nm以下の微細プロセスでは、TSMCとサムスン電子の比率が6対4と、差が縮まるという。

 サムスン電子は、18年10月にプロセッサーとイメージセンサーを発表して車載半導体事業を強化すると宣言して以降、自動車メーカーへの売り込みを進めてきた。19年1月に、ドイツAudi(アウディ)にIVI用半導体「Exynos Auto V9」の供給を開始。20年1月には、米Harman International Industries(ハーマン・インターナショナル・インダストリーズ、17年に買収完了)と共同開発した5G(第5世代移動通信システム)対応のテレマティクス制御ユニット(TCU:Telematics Control Unit)が、ドイツBMWの電気自動車(EV)「iNEXT」(21年発売予定)に採用された。サムスン電子は、先進運転支援システム(ADAS)やIVI、テレマティクスなどの分野を中心に攻勢をかけている。



趙 章恩=(ITジャーナリスト)

 

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2021.2 .

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自動運転EV「アップルカー」は薬か毒か、試される自動車メーカー

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 2020年1月8日、韓国メディアは一斉に、韓国Hyundai Motor(現代自動車)と米Apple(アップル)が自動運転機能を持つ電気自動車(EV)「Apple Car(アップルカー)」の生産に向けて協議していると報道した。各社の報道内容をまとめると、アップルが現代自動車に対して24年までに米国の工場で30万台の生産を提案し、両社は協議を進めてきたという。報道直後、現代自動車の株価は20%ほど急騰した。

 現代自動車は当初、アップルと協議中であることを認めたものの、同日の公示で「多くの企業から自動運転EVに関する共同開発の協力要請があったが、現時点で決まったことはない。確定し次第、あるいは1カ月以内に再公示する」と発表した。その後も同社の株価は上昇し、1月12日になってやっと落ち着いた。

 韓国証券業界の分析は「アップルとの協力は現代自動車にとって新たな市場を作る絶好のチャンス」と「アップルの下請けに転落する」の真っ二つに分かれた。両社はどのような形で協力するのか、それとも協力しないのか、2月8日の現代自動車の再公示が注目されている。

 英Reuters(ロイター通信)など複数の報道によると、アップルは24年の自動運転EV生産を目標に複数の自動車メーカーと協議している。同社は14年から「Project Titan」という名称のEV開発プロジェクトを進めており、一時中断を経て19年に再びプロジェクトを加速させたという。

 現代自動車は20年12月、EV専用プラットフォーム「Electric-Global Modular Platform(E-GMP)」を公開した。800Vの高圧充電に対応しており、18分以内に80%充電できる。1回のフル充電で最大500㎞、5分の充電で最大100㎞の走行が可能だ。21年発売予定の中型CUV(クロスオーバー・ユーティリティー・ビークル)「IONIQ 5」を皮切りに、22年発売予定の中型セダン「同6」や、24年発売予定の大型SUV(多目的スポーツ車)「同7」に適用する。アップルが現代自動車を協業相手として選んだのは、このE-GMPがあるからともいわれている。

24年にレベル4以上の自動運転か

 韓国証券業界で現代自動車とアップルの協業をチャンスと分析する側は、現代自動車がアップルカーの生産を率先して引き受けることで、競合が躍進する芽を摘み、EV事業を軌道に乗せられるとみる。さらに、最初のパートナーに名乗りを上げれば、現代自動車はアップルの下請けにならず、対等の関係を築けるとの見方もある。協業によって両社は24年にレベル4(一定の条件下で無人運転が可能)以上の自動運転EVを生産できると期待する。

 両社の協業は、電池の開発も含むとみられる。アップルにとってEVでの強敵は米Tesla(テスラ)であり、同社と価格でも張り合うには電池コストの低減が不可欠だ。アップルがリン酸鉄リチウムイオン電池を開発中との報道もあった。現代自動車も全固体電池の研究を進めているほか、韓国電池大手のLG Energy Solution(LGエネルギーソリューション)、Samsung SDI(サムスンSDI)、SK innovation(SKイノベーション)の3社とも緊密な関係にある。

趙 章恩(ITジャーナリスト)

 

<<NIKKEI X TECH>>

2021. 1.

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https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00024/

サムスン、LGのIoT家電戦略 力点はスマートホームへ [現地レポート:韓国編]

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毎年1月に米国で開催される、世界最大級のコンシューマーエレクトロニクス関連の展示会「CES」で、2016年からIoT・AI機能を搭載した家電をアピールしてきた、韓国の2大メーカー、サムスン電子(Samsung Electronics)とLG電子(LG Electronics)。両社が力を入れるIoT家電の最新事情や戦略について、ITジャーナリストの趙 章恩氏に現地から報告してもらう。

 韓国では長年、「家電はLG」という認識が一般に定着していた。スマートフォン(スマホ)は、世界トップシェアのサムスン電子の「Galaxy」シリーズを使う人が圧倒的に多いが、冷蔵庫や洗濯機といった生活家電は丈夫で長持ちするとしてLG電子が人気だ。LG電子は2020年8月、前身の金星社時代に販売した電子レンジの最も古いモデルを持っている人を探すキャンペーンを実施、勝者3人に最新のキッチン家電3種をプレゼントした。

 LG電子はこれまで、韓国初の家電を数多く発売してきた。古くはラジオ、白黒テレビ、家庭用エアコン、洗濯機、電子レンジ、キムチ冷蔵庫など。この10年ではロールアップ型のOLED(有機EL)テレビや衣類管理機など、従来は存在しなかった市場を生み出した。「家電はLG」から「プレミアム家電はLG」へ、多機能・高級化戦略が目立つ。

 しかし最近は、サムスン電子の追い上げが激しい。テレビは既に世界市場でも韓国市場でもサムスン電子の方がシェアが高く、エアコン、洗濯機、乾燥機など生活家電では両社とも4割ほどのシェアで韓国市場を二分している、という報道もある。

「家電を私らしく」

 家電では後発のサムスン電子は1990年代後半から「デザイン」を重視する戦略を採ってきた。デザインだけでなく、家電とスマホ、AI・IoTでユーザーの利便性を高められるよう、ハードウエアとソフトウエアをつなぐ融合デザインも重視してきた。

 2019年には「Project PRISM」と名付けた戦略によって生活家電を一新した。同年6月には、光がプリズムを通ると虹色に光るように、ユーザーがカラーも素材も機能も好きなように組み合わせることができるオーダーメード家電「BESPOKE」シリーズを発売した(図1)。冷蔵庫、キムチ冷蔵庫、食洗器、オーブンなど、まずはキッチン家電を展開している。ソウルのロッテデパート本店、新世界デパート江南店など、サムスン電子製品を取り扱うどの売場に行っても、最も面積を占めているのはBESPOKEという力の入れようだ。

 BESPOKEは「BE+SPEAK」で「言う通りになる」という意味が込められている。外側パネルの材質は9種類から選べる。冷蔵庫は1ドアから4ドアまであり、2ドア+1ドアまたは4ドア+2ドアといった具合に、自宅のキッチンのサイズに合わせて自由に組み合わせられる。

 BESPOKEが追及するのは、製造より創造(Creation)、標準化より個人化(Customization)、そして異業種との協業(Collaboration)である。ターゲットは個性を追求したいミレニアム世代(1980年~94年生まれ)。韓国のこの世代はコストパフォーマンスより心を満たす消費を重視する傾向が強く、自分が満足できるのであれば価格にはこだわらない。

 「家電を私らしく」という同社の戦略は当たった。2020年上半期に売れた同社製冷蔵庫の6割はBESPOKEシリーズだった。韓国では単身世帯の増加により、丈夫な家電よりデザイン優先、AI・IoTでユーザーが操作しなくても機器が状況を判断して空気をきれいにしてくれたり、アプリケーションでモニタリングや操作ができたりする、付加機能を重視する傾向が出始めていた。

 そこに、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で「ステイホーム」の時間が長くなり、キッチン家電の需要が伸びた。レジャーや旅行にお金を使えない分、自己投資として自宅のリフォームやインテリアを一新することが流行った。デザインなどを自由に選べるサムスン電子のオーダーメード家電がマッチしたのだ。BESPOKEは既に、韓国・米国・欧州・中国・インドで意匠権を68件登録済み。2021年は種類を増やしてエコシステムを築くとしている。

趙 章恩(ITジャーナリスト)

 

《日経 ELECTRONICS》

2021.1 .

 

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https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/mag/ne/18/00068/00006/


韓国で盛り上がるウエアラブルロボット、商用化に向けLG社やSamsung社も積極投資

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 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)でソーシャルディスタンスを保つことが日常になり、人の代わりに働くロボットの活躍が目立つ。韓国・ソウルではバリスタロボットや調理ロボットをよく見かける。他にも、大手企業や役所は人の体温とマスク着用を監視する防疫ロボットを、大学病院は検体を運ぶロボットを積極的に導入している。

 最近は、障害者の歩行を補助する装着型(ウエアラブル)ロボットも注目されている。2020年11月に開催された障害者スポーツ大会「CYBATHLON 2020」おいて、外骨格型パワードスーツを使った歩行レース「Powered Exoskeleton Race(EXO)」で韓国チームが1位になったこともあり注目された。

趙 章恩(ITジャーナリスト)

 

《日経Robo

2021. 1.

 

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https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/mag/rob/18/00006/00069/

LGがEV用新型電池の量産を前倒し、テスラ向けにNCMA正極採用

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韓国LG Chem(LG化学)の電池部門を分社したLG Energy Solution(LGエネルギーソリューション)が2020年12月1日、創立総会を開催し事業を始めた。電気自動車(EV)用新型電池を米Tesla(テスラ)などに前倒しで供給し、市場シェア1位を維持するための勝負に出る。

航続距離を600kmに

 同月16日、LGエネルギーソリューションがEV用新型電池を21年第2四半期に量産するとの報道があった。その新型電池は、ニッケル・コバルト・マンガン・アルミニウム酸リチウム正極(NCMA正極)を採用したリチウムイオン電池(NCMA電池)だ。ニッケルの比率が90%と多く、価格高騰や児童労働といった問題が付きまとうコバルトは5%以下に抑えた。アルミニウムを加えることで、安定性を強化している。このNCMA電池をEVに使えば、航続距離を600kmまで延ばせるという。

 NCMA電池の供給先は、テスラと米General Motors(ゼネラルモーターズ、GM)である。NCMA電池の生産開始は22年前後とみられていたが、EVの航続距離に対する要求が高まったことでLGエネルギーソリューションが量産前倒しを決定した。電池メーカー間の争いが激化していることも背景にある。

 韓国の市場調査会社SNE Research(SNEリサーチ)によると、20年1~9月に世界で車両登録されたEVの電池搭載量(容量ベース)は80.8GWhと、前年同期から1.3%減少した。新型コロナウイルス感染症の世界的流行で需要が伸び悩んだ中、LG化学は前年同期比127%増の19.9GWhと供給量を大幅に増やし、シェア1位だった。しかし、2位の中国・寧徳時代新能源科技CATL(同12.0%減の19.1GWh)や3位のパナソニック(同22.8%減の15.8GWh)との差は小さい。韓国勢のSamsung SDI(サムスンSDI)とSK innovation(SKイノベーション)も追い上げている。さらに、電池内製化を打ち出して22年に100GWhの生産目標を掲げるテスラの存在も、競争に拍車を掛けている。

 LG化学とGMが合弁で設立した米Ultium Cells(アルティウムセルズ)でもNCMA電池の開発を進めており、やはり21年中の量産開始を目指している。同社は20年11月、技術者約1100人の採用告知を出した。同社の工場で生産したNCMA電池は、GMの新型車(EVピックアップトラック)に搭載するという。当初計画では22年の量産開始だったが、韓国メディアは、GMがテスラを意識して前倒ししたのではないかと見ている。

NCMA正極材の調達ルートを確立

 LGエネルギーソリューションはNCMA正極材を2社から調達する。テスラ向けは韓国L&F、GM向けは韓国Posco Chemical(ポスコケミカル)である。

趙 章恩(ITジャーナリスト)

 

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2021. 1.

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https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00023/


電池や半導体で激化する日韓特許紛争、韓国は政府が企業支援

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 2次電池などの先端技術分野で、日韓企業の特許紛争が増えている。今後は、韓国が国産化を推進する半導体製造用材料でも同様の争いが広がるとの見方も出てきた。韓国は、主に中小企業を対象とした支援機関を新設し、将来的な特許紛争の激化に備えようとしている。

輸出管理厳格化がきっかけ

 韓国特許庁(KIPO)は2020年11月27日、ソウル市江南区の韓国知識財産保護院内に「知識財産権紛争対応センター」を開所した。KIPOは、「日本など海外企業の特許攻撃に備えて韓国の輸出企業を支援する知識財産権の紛争専門組織を発足させた」「素材・部品・設備の国産化を進める過程において源泉となる特許を多数保有する日本企業と韓国企業の間で特許紛争が起こる恐れがある」「紛争対応に脆弱な中小企業への支援が必要であることを認識した上でセンターを運営しなければならない」などのコメントを発表した。

 同センターは、韓国Korea Advanced Institute of Science and Technology(KAIST)の諮問団と協業し、主に中小企業の特許紛争を積極的に支援する。諮問団は、KAISTの教授ら約100人が素材・部品・設備の国産化に向けて中小企業の技術開発を促進するために設立した組織である。19年夏に日本政府が半導体製造用材料3品目(レジスト、フッ化水素、フッ化ポリイミド)の輸出管理を厳格化したことが、設立のきっかけになっている。

 KIPOは同年8月に「輸出規制対応知識財産権支援団」を発足し、日本の輸出管理厳格化による素材・部品・設備関連の中小企業への影響を調査し続けてきた。そして、20年7月に産業通商資源部(韓国の部は日本の省に相当)と「知識財産権基盤産業政策樹立のための民官協議会」を共同で開催し、素材・部品・装備に関連した特許を活用した技術開発の成果を共有するともに、知識財産の活用で成長している中小企業のニーズに応えるべく、特許のビッグデータ分析で研究開発の方向性を助言するなど、技術開発を促進してきた。中小企業の研究開発は、従来の実績や社内専門家の経験に依拠していることが多いが、ビッグデータ分析によって思いがけない方向性を見つけるのに役立っているという。他にも、中小企業が特許を担保に融資できる金額を拡大するなど、知的財産権重視の施策を取ってきた。

 新設の知識財産権紛争対応センターは、こうした支援体制をさらに強化する施策である。主な業務は(1)素材・部品・設備に関連した特許紛争へのワンストップ支援、(2)KAIST諮問団との協業による特許紛争支援、(3)海外での韓国ブランド侵害の防衛支援、の3つである。

 特許紛争に関しては、これまで主に米国企業によるものが監視対象だったが、その対象を日本や欧州、中国にも拡大する。さらに、紛争の内容についても特許侵害訴訟に限定せず、無効審判や異議申し立ての情報も収集する。

 韓国の中小企業に対する特許侵害訴訟や無効審判、異議申し立てがあった場合、各企業に合わせたプログラムに基づいて支援する。対象企業は、素材・部品・設備関連を優先する。従来は監視組織と支援組織が分かれていたことから連携に時間がかかっていたが、新設の知識財産権紛争対応センターでは、監視から戦略策定まで一連の支援策をワンストップで提供する。支援期間は最大3年。費用は年間1億ウォン(約950万円)以下とすることで、中小企業の負担を軽減する。

趙 章恩(ITジャーナリスト)

 

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2020.12 .

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