新型コロナで屋外配送ロボの競争が韓国で激化、病院や出前サービス、レストランで相次ぎ採用

.

LG Electronics社は2020年8月、ホテル向けの屋外配送ロボットを公開した(図1)。ソウル市のMayfield Hotel & Resortにおいて建物内外を行き来しながら客が注文した商品を屋外テラスのテーブルまで届ける用途で使われる。LG Electronics社としては初の屋外で稼働するロボットである。

 LG Electronics社はかねて、仁川国際空港で稼働する掃除ロボットやサービスロボット、ファミリーレストラン向け調理ロボットなどを提供してきた。2018年にはロボット製品群のブランド「CLOi」を打ち出している。

趙 章恩(ITジャーナリスト)

 

《日経Robo

2020. 9.

 

-Original column

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/mag/rob/18/00006/00060/

中国に奪われるSamsungの技術、流出防止へ厳罰化進める韓国

.

 韓国の水原地方検察庁産業技術犯罪捜査部は2020年8月7日、韓国Samsung Display(サムスンディスプレー)の研究員2人とディスプレー設備メーカー代表1人の計3人について、「産業技術の流出防止および保護に関する法律」「不正競争防止および営業秘密保護に関する法律」などへの違反容疑で身柄を拘束し起訴したことを発表した。韓国では、中国をはじめとする国外への技術流出に厳罰を求める声が高まっている。

中国に技術が渡る前に押収

 水原地方検察庁によると、Samsung Displayの研究員AとBは、19年11月から20年5月にかけて、同社の有機EL(OLED)製造に用いる透明樹脂(OCR)のインクジェット印刷工程の仕様をディスプレー設備メーカーX社の代表Cに教え、主要な設備を造らせた。同工程は、Samsung Displayが3年間で100億ウォン(約8億9300万円)以上を投資して開発した世界初のものである。

 さらに、AとBは19年11月、同社のOLED製造用LTPS(低温ポリシリコン)結晶化設備の光学系図面を不正に使用し、同設備の核心部品を製作するとともに、20年4月にCにこの図面を提供したという。AとBは、X社の株式を借名で取得していた。

 A、B、CはSamsung Displayの技術を持ち出してX社で設備を造り、中国に売ろうとしていた。だが、試作品を造ったところで全て押収となり、中国には技術が流出しなかったもようだ。

 Samsung DisplayのOCRインクジェット印刷工程は、液状のOCRを射出・塗布することでディスプレーパネルとカバーガラスを接合するというもの。同社は20年10月からOLEDディスプレーの後工程ラインにこの技術を本格導入する計画だった。

 同社は同年2月ごろから、ディスプレーパネルとカバーガラスの接着手段を、これまでの透明テープ(OCA)からOCRに切り替えるための設備投資をしていた。証券業界では、同社のOCA購入費は年間2000億ウォン(約179億円)を超える規模であり、OCRへの切り替えによって大幅にコストを削減できるとともに、フォルダブル(折り曲げ可能な)OLEDディスプレーの生産を伸ばせるとみていた。

 本件を巡っては、20年4月に韓国の国家情報院産業機密保護センターが情報を入手し、水原地方検察庁に事件を配当。両機関が協力して捜査を進めた。水原地方検察庁は捜査過程を公開し、「素早い捜査と捜索、押収によってSamsung Displayの技術が中国に流出するのを防いだ」との談話を発表した。

 同社の技術が狙われたのは、今回が初めてではない。18年にも水原地方検察庁は同社のフレキシブルOLEDディスプレーの後工程ラインに使われる3次元ラミネート関連設備の仕様書やディスプレー図面などの産業技術、および営業秘密の流出を巡り、同社の協力会社であるToptec(トップテック)の役員と社員計11人を起訴した。この事件では、前述の技術や営業秘密を使って設備を製造し、疑いの目を向けられないように設立した別会社を通じて中国企業に売り渡していたという。対象となった技術は、Samsung Displayが1500億ウォン(約134億円)を投資した核心技術だった。Toptecは容疑を否認し続けている。1審判決は20年8月末の予定である。

趙 章恩=(ITジャーナリスト)

 

<<NIKKEI X TECH>>

2020.8 .

-Original column

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00013/

SamsungとHyundaiが自動運転分野で急接近、電池や車載情報システムでも協業へ

.

2020年7月21日、韓国のSamsung Electronics社副会長の李在鎔(イ・ジェヨン)氏とHyundai Motor Group社首席副会長の鄭義宣(チョン・ウィソン)氏が会合を開いた。Hyundai社は、LG Electronics社やSK Group社とは電装品や電池で取引があるが、Samsung社とは何もない。

 韓国財界の資産総額1位のSamsung社と同2位のHyundai社の経営トップ同士が交流したことで、両社が関心を持つモビリティやロボティクスの分野で新たなビジネスが生まれるのではないかと韓国内では期待が高まっている。

 Samsung社の李氏ら経営陣は、Hyundai社の「Hyundai Kia Namyang Technology Research Center」を訪問し、開発中のレベル4自動運転車や水素燃料電池バスに試乗。Hyundai社の鄭氏ら経営陣からモビリティやロボティクスなど同社の新ビジネスに関して説明を受けた。李氏と鄭氏の交流は、鄭氏が2020年5月にSamsung SDI社の天安工場を訪問して全固体電池関連で意見交換をして以来、今回が2度目である。同社の全固体電池は要素技術の開発段階であり、商用化は2027年以降になりそうだ。

趙 章恩=(ITジャーナリスト)

 

《日経Robo

2020. 8.

 

-Original column

コバルトフリー電池が韓国で実用化へ、高まるTeslaへの対抗意識

.

 2020年7月19日、韓国メディアは、韓国TopBattery(トップバッテリー)がコバルトフリー正極材(活物質)を開発したと報道した。同社は、リチウムイオン電池やエネルギー貯蔵システム(ESS)の開発・生産を専門とするベンチャー企業である。

 TopBatteryは新開発のコバルトフリー正極活物質を、電気自動車(EV)用バッテリーを手掛けるベンチャー企業の韓国Eurocell(ユーロセル)に供給する。Eurocellは、20年末からこの正極活物質を使ったリチウムイオン電池を電動スクーターに搭載する計画だ。

 TopBatteryの正極活物質はスピネル型マンガン系に分類されるもので、マンガンの割合を75%と従来品よりも多くし、ニッケルの割合を25%と少なくした。同社によると、通常はニッケルの割合を増やすことでコバルトフリーを目指すが、それだと電池の寿命と安全性に限界があることから、安価なマンガンの割合を増やした。この正極活物質を使った電池の重量容量密度は135mAh/g、平均放電電圧は4.7Vだという。

 TopBatteryは、13年12月に韓国で初めてESSやEV向けリン酸鉄リチウムイオン電池を開発した。その後、年36万個を生産できる自動化ラインを設立し、量産を始めた。

業界全体でコバルトフリー目指す

 現在、「バッテリーご三家」と呼ばれるLG Chem(LG化学)、Samsung SDI(サムスンSDI)、SK innovation(SKイノベーション)をはじめとする韓国の電池業界は、コバルトフリーを志向している。コバルトは埋蔵量が少ない上、今も紛争が続くコンゴの生産に依存しているため、供給が安定せず価格が上昇し続けている。EVの普及推移から30年を境にコバルト不足も懸念されている。

 世界の人権問題を調査・是正勧告している非政府組織(NGO)のAmnesty International(アムネスティ・インターナショナル)は17年、コンゴのコバルト採掘で児童労働や危険労働が放置されていると告発する報告書を発表した。19年末には国際連合児童基金(UNICEF)も、コンゴ南部の鉱山で児童約4万人が1日1~2米ドルの賃金で働いていると公表した。これらの報告によって、コバルトを利用する大手企業は「採掘の労働環境に目をつぶって安く仕入れることにしか興味がない」などと批判されるようになった。

 そこで、電池メーカーは短期的にはコバルトを倫理的な方法で確保しながら、長期的にはコバルトフリーを目指している。前出の韓国バッテリーご三家も、コバルトをはじめとする鉱物の確保に当たり、紛争鉱物問題に取り組む団体であるResponsible Minerals Initiative(RMI)に加入している。

趙 章恩(ITジャーナリスト)

 

<<NIKKEI X TECH>>

2020. 8.

-Original column

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00012/

FeRAMの集積度を1000倍に、0.5nmまで微細化 Samsung支援の研究

.

 韓国Ulsan National Institute of Science and Technology(蔚山科学技術院、UNIST)教授のJun-hee Lee(イ・ジュニ)氏らのチームは、強誘電体メモリー(FeRAM)の集積度を1000倍以上に高められる理論を発表した。FeRAMは、次世代メモリーの有力候補の1つ。今回の研究成果によって、現在は10nmあたりで停滞気味のメモリー製造プロセスを0.5nmまで微細化できるようになるという。

酸素原子4個に1ビットのデータを格納

 FeRAMは、強誘電体を記憶素子とする不揮発性メモリーの一種である。強誘電体に電圧を与えると分極が生じ、電圧をゼロにしても分極が持続する(残留分極)。正負の残留分極を論理値の「0」「1」に対応させている。

 Lee氏らの研究では、強誘電体材料として酸化ハフニウム(HfO2)を用いている。Lee氏らは、HfO2に特定の電圧を与えると原子間の弾性相互作用が消える現象を発見した。弾性相互作用を打ち消す遮蔽膜が形成されるのだ。この現象をスーパーコンピューターで再現したところ、あたかも真空中であるかのようにHfO2中の酸素原子4個の位置を個別に制御できることを確認した。この酸素原子4個ごとに1ビットのデータを格納することが可能だという。

 従来は、「ドメイン」と呼ばれる数千個の原子から成る群に1ビットのデータを格納していた。ドメインは約1000nm2であるのに対し、酸素原子4個のまとまりは0.2nm2とはるかに小さい。データを格納する単位が⼩さくなることで、メモリーの集積度を⾼められるわけだ。

 半導体メモリーでは、記憶素子が限界レベルより小さくなるとデータの格納能力が消失する「スケーリング」という問題がある。Lee氏らの研究成果は、この限界を突破する可能性を秘めている。

 Lee氏によると、FeRAMの先行研究はドメインを小さくすることに焦点を合わせたものが多かったが、同氏らのチームは発想を転換して「ドメインは必要なのか」という疑問から出発した。フラットバンド理論を強誘電体に応用したことが、従来の固定観念を覆す発見につながった。CMOSプロセスに適用できるので、商用化の可能性も高いとみられる。「原子を分割しない限りにおいて、個々の原子に情報を格納する手法は最良の集積化技術だ。この技術を応用することで半導体の微細化がさらに加速することが期待できる」(同氏)。

 Lee氏は、ソウル大学物理学部で凝集物質理論を研究して博士号を取得した経歴を持つ。新素材に関する研究のバックグラウンドが今回の理論発見に結び付いたといえる。現在はシミュレーションだけを実施した段階で、これから実験で理論を証明する計画である。なお、同氏らの研究成果は、英『Science』誌に2020年7月2日付で掲載された1)。

 Lee氏らの研究は、Samsung Electronics(サムスン電子)の未来技術育成プロジェクトとして選定されたものの1つで、Samsung Science & Technology Foundation(サムスン未来技術育成財団)の支援を受けていたほか、韓国政府の科学技術情報通信部(韓国の部は日本の省に相当)の「未来素材ディスカバリー事業」にも指定されていた。今後、この研究から商用化可能な技術が開発されれば、サムスン電子のメモリーに優先的に適用される。

趙 章恩(ITジャーナリスト)

 

<<NIKKEI X TECH>>

2020. 7.

-Original column

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00011/

新型コロナでロボット活用進む韓国、非対面サービスの需要増に期待

.

.

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策として防疫ロボットの需要が高まっている。

 例えば、韓国の通信事業者SK Telecom社の本社では、2020年5月から自律移動ロボットが訪問者の体温測定やビル内の消毒などを行っている。消毒については、人がいない空間を自動で認識して消毒液を噴霧するほか、夜間にビル内を走行して紫外線ランプを照射する。さらに、マスクを正しく着用していない人や密集している人々も自動で認識し、マスク着用や社会的距離の確保を依頼する。

 これまで警備員や外部業者に委託していた訪問者対応や消毒といった仕事をロボットで置き換えることで、効率良く防疫体制を整え、感染リスクを減らす狙いがある。



.

趙 章恩(ITジャーナリスト)

 

《日経Robo

2020. 7.

 

-Original column

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/mag/rob/18/00006/00057/


熱愛発覚後も人気冷めぬ『愛の不時着』カップル、“大人の恋愛”に称賛

.

 日本でも『愛の不時着展』が開催されるなど、引き続き話題を集めている韓国ドラマ『愛の不時着』。年明け早々飛び込んできたのが、このドラマで主演を務めたヒョンビン(38才)とソン・イェジン(38才)の熱愛ニュース。世界中のドラマ視聴者が2人の恋の行方を見守っていただけに、報道から約1か月経った今も韓国のSNSやテレビを賑わし続け、2人の好感度がさらに上昇する人気ぶりだという。ソウル在住のKDDI総合研究所特別研究員・趙章恩さんがリポートする。

 * * *
 ヒョンビンとソン・イェジン、同い年のスターカップルの誕生に、韓国のSNSでは「お似合いカップル!」「やっと2人が熱愛を認めて嬉しい」といった祝福の声で溢れている。筆者も、2人の事務所が発表した熱愛を認めるコメントを読むうち、ドラマのクライマックス、スイスの草原で2人が見つめ合い微笑むシーンを思い出し「なんて素敵なカップルなんだろう」と嬉しい気持ちだ。熱愛報道後、Netflixでは再びドラマの人気が急上昇し、アジア各国で総合ランキング上位になった。

 ヒョンビンとソン・イェジンの熱愛報道は今回で4度目。1度目は2018年9月に映画『ザ・ネゴシエーション』で共演した後、2度目は2019年1月に米ロサンゼルスのスーパーで2人が一緒に買い物している写真がSNSに投稿されたとき、3度目は2020年1月の『愛の不時着』放送開始時だ。度々熱愛が取り沙汰されては、これまで双方とも否定してきたが、4度目となる今回、満を持して交際を認めたのだ。

 2020年1月に熱愛が取り沙汰されたときは、韓国では結婚説や破局説などさまざまな情報が拡散し、ワイドショーやSNSなどではしばらくの間この話題で持ち切りだった。今回も交際を認めたことで、韓国放送局KBSの芸能番組では、「結婚しそうなスターカップル1位」として2人の特集が組まれるなど前回を上回るお祝いムード。スターの熱愛が発覚すると、ファンが離れたり人気が落ちるのが普通だが、2人の場合はそれをものともせず、今回の交際宣言で逆に好感度を上げている印象だ。

 1月23日、熱愛を認めてから初めて、ヒョンビンがファンの前に姿を現した。韓国エンターテインメントマネジメント協会が主催した「2020 APAN STAR AWARDS」で、『愛の不時着』での演技や視聴率、知名度、好感度などが認められ大賞を受賞したのだ。受賞の感想を述べる際、ソン・イェジンのことはあえて触れないまま終わるだろうと予想していたファンが多かったが、ヒョンビンはそれを気持ちよく裏切った。

 ヒョンビンは、『愛の不時着』を視聴した全世界のファンや監督、俳優らに感謝の言葉を述べた後、「ジョンヒョク(ヒョン・ビン)にとってはあまりにも最高のパートナーだったユン・セリ(ソン・イェジン)。イェジンさんが上手に創り上げたユン・セリというキャラクターのおかげで、リ・ジョンヒョクはよりかっこよく息ができました。この場を借りて本当にありがとうと言いたいです」と、淡泊ながらもソン・イェジンの演技を称えるコメントで愛情を表現した。

ありきたりの「サランヘヨ(愛しています)」ではなく、恋人であり役者としてのソン・イェジンの実力を認め尊重するコメントで締めくくったことがかっこよすぎると、韓国メディアやSNSでは称賛の嵐である。このコメントの中に、2人の関係が表れているのではないだろうか。お互いの仕事ぶりを認め相手を思い配慮する大人の恋愛が垣間見えたことで、2人の好感度はますます上昇した。

 2021年は、ソン・イェジンの俳優デビュー20周年でもある。1月11日のソン・イェジンの誕生日には、誕生日とデビュー20周年のお祝いに熱愛報道まで重なり、ファンの愛情が爆発した。ソン・イェジンのインスタグラムには、広いリビングをぎっしり埋め尽くしたファンからの花束やケーキなどの写真が投稿され、ソウルの商業施設「COEXMALL」の大型スクリーンには、ファンによる大々的なお祝い広告も掲載された。ソン・イェジンがいつも寄付している児童施設や病院などにもファンからの寄付が集まるなど、彼女の人気ぶりが改めてうかがえた。

 この20年間、ソン・イェジンと共演者の熱愛報道は何度かあったが、交際を認めたのはヒョンビンが初めて。かつてソン・イェジンがバラエティー番組に出演した際、「(恋人を明かして堂々と交際する)「公開恋愛」をする芸能人が増えているが、自分は負担が大きいのでしたくない」と話していただけに今回交際を認めたのは意外だったが、それだけ2人の思いが真剣ということなのだろう。

 韓国では、2022年に2人は結婚するのではないかと報じるメディアもあった。ヒョンビンは2011年のインタビューで、「芸能人の生活は不規則なのでこの職業を好きになってくれる人はいても隣で理解してくれる人はいないようだ」と話したことがある。また不思議なことに、ソン・イェジンも2011年、「俳優という職業は私の生活の延長線上にある。それを理解して配慮してくれる人がいい」とインタビューで話していた。2人は交際を始めて以降、ヒョンビンの海外の長期滞在など頻繁に会えていたわけではないようだが、それでも2人の絆はとても強いという。お互いを理解してくれる相手に出会ったからかもしれない。

【趙章恩】
ジャーナリスト。KDDI総合研究所特別研究員。東京大学大学院学際情報学修士(社会情報学)、東京大学大学院学際情報学府博士課程単位取得退学。韓国・アジアのIT・メディア事情を日本と比較しながら分かりやすく解説している。趣味はドラマ視聴とロケ地めぐり。

NEWSポストセブン》

2021. 1.

-Original column

https://www.news-postseven.com/archives/20210108_1626954.html?DETAIL

BTSのグラミー賞に期待高まる アジア最大級音楽祭で8冠

.

 新型コロナウイルスの感染拡大で大きな打撃を受けながらも、巣ごもり需要をいち早く取り込み大躍進した韓国のエンタメ業界。特に、人気アイドルグループ「BTS(防弾少年団)」は米ビルボードのシングルチャートで全米1位を獲得するなど、世界的なヒットを記録した事は記憶に新しい。そんな中、アジア最大級の音楽祭「MAMA2020(Mnet ASIAN MUSIC AWARDS)」が12月6日開催された。ソウル在住のKDDI総合研究所特別研究員・趙章恩さんがレポートする。

 * * *
 2020年の韓国のエンタメ業界は、2月に映画『パラサイト 半地下の家族』が第92回アカデミー賞で4部門を受賞した事から始まり、『愛の不時着』をはじめとした韓国ドラマが日本で大ブームとなったり、BTSが「Billboard Hot 100」1位を獲得し、第63回グラミー賞にもノミネートされるなど、映画やドラマ、音楽など韓国発のエンタメコンテンツが海外で愛された1年となった。

 米TIME誌は、BTSを「世界で最もビッグなバンド」とし、「今年のエンターテイナー(Entertainer of the Year)」に選定。BTSの躍進を受けて、韓国メディアは2021年1月に開催されるグラミー賞で、BTSが最優秀ポップ・パフォーマンス賞(グループ/デュオ部門)を受賞するのではないかと大いに期待している。

 そんな中、韓国では音楽や映画、ドラマ、ゲームなどエンタメ業界の1年を締めくくる授賞式が相次いで開催されている。特に注目度が高いのが、12月6日オンラインで開催された年末恒例の音楽アワード「MAMA2020(Mnet ASIAN MUSIC AWARDS)」だ。MAMAは、「音楽でひとつになるアジア最大級の音楽授賞式」をキャッチフレーズに、韓国や日本、ベトナム、香港などで毎年開催・放送されてきた。今年はコロナ禍ということもあってか、MAMAの開催中、アメリカや日本、ブラジル、イギリスなど世界68地域でTwitterリアルタイムトレンド1位を獲得するほど視聴者が多かったようだ。

 授賞式では、アーティスト賞、歌賞、アルバム賞など、BTSが計8部門を受賞。大賞4部門を2年連続で総なめにした。今年の活躍ぶりを見れば当然の結果だろう。そのほか、女性グループ賞は日本でも人気が高い韓国ガールズグループ「BLACK PINK」が、インスパイアード・アチーブメント賞はBoAが受賞した。

 BTSメンバーの末っ子ジョングクは授賞式で、「私たちに熱情、覇気、毒気(必死になるという意味)しかなかった時代があったが、ARMY(BTSファンの呼称)の皆さんが真心と愛情を教えてくれた」とコメント。BTSとARMYの絆は有名だが、マンネ(末っ子)の口から「ファンから愛を学んだ」という言葉が出てきたのは、ARMYにとってはこの上ない喜びだったのではないだろうか。

MAMAは、どのアーティストがどの賞を受賞するかよりも、どれだけすごいパフォーマンスを見せたか、どんな仕掛けでファンを楽しませたか、という事の方が話題になる印象がある。今年は特にオンラインでの配信だったこともあり、韓国で「実感コンテンツ」と呼ばれるAR・VRなどの仮想現実や拡張現実を駆使した仕掛けが多かった。舞台上だけでなく客席まで使い、先端技術で実際の映像とグラフィック映像を合成し、現場で見るよりもさらに色鮮やかで華やかな演出を行った。

 BTSは「ボリュメトリックキャプチャ」というXR技術(ARやVRの総称)を使い、肩の手術のため活動を休止しているSUGAを登場させた。実際に舞台上にいるのは6人のみだが、新曲『Life Goes On』が始まりSUGAのパートになると、他のメンバーと同様画面に溶け込むようにSUGAが登場し、メンバー7人全員が揃うという仕掛けを施した。あらかじめ専用スタジオでSUGAを4K画質のカメラで360度撮影し、高画質の3次元デジタルデータで再現したという。まるで本当にSUGAが同じ空間にいるような精巧な仮想現実だった。米ビルボードでチャート1位を獲得した『Dynamite』でも曲の後半、AR技術でメンバーの後ろで花火が打ち上げられ、フィナーレでは花火がDYNAMITEの文字に変わる、という演出が施されていた。

 MAMAの目玉はBTSだけではない。デビュー20周年を迎えたBoAの特別ステージも素晴らしかった。BTSより先に韓国初の賞を数多く獲得した先駆者であるBoAは、韓国人なら誰もが口ずさめるのではないかというほどヒットした曲『No.1』と、韓国ボーイズグループ「SHINee」のテミンと難易度の高いダンスを披露した『Only One』、新曲『Better』の3曲を披露。全てかっこよく、デビューから今までを短く編集した映像で『Better』が流れ始めた時は、「20年間あっという間だったな~」という感慨深い気持ちになった。

 BoAといえば、2002年3月にリリースした日本でのファーストアルバム『LISTEN TO MY HEART』で、韓国人で初めてオリコン週間アルバムランキング1位を獲得し、セカンドアルバム『VALENTI』も発売初日に100万枚を超える大ヒットを記録した日本でも馴染み深いアーティスト。最近は日本での露出は減っているが、今は所属事務所であるSMエンターテインメントの取締役を務めながら曲作りも続けている。

 コロナの影響で全てのイベントがオンラインでの開催となってから、テレビやスマホ越しにしかアーティストに会えない1年だったが、韓国エンタメ業界はコロナ禍ならではの試みでファンを沸かせている。MAMAは公式YouTubeからも観られる。最新技術を駆使した超豪華K-POPスターたちのパフォーマンスをぜひその目で確認して欲しい。

【趙章恩】
ジャーナリスト。KDDI総合研究所特別研究員。東京大学大学院学際情報学修士(社会情報学)、東京大学大学院学際情報学府博士課程単位取得退学。韓国・アジアのIT・メディア事情を日本と比較しながら分かりやすく解説している。趣味はドラマ視聴とロケ地めぐり。

NEWSポストセブン》

2020. 12.

-Original column

https://www.news-postseven.com/archives/20201227_1624103.html?DETAIL

次にヒットする韓国ドラマの新潮流は「ファンタジー系」

.

新型コロナウイルスの感染拡大で大打撃を受けたエンタメ業界。多くの人々が自粛生活を余儀なくされたことで、コンサートや映画など接触型のエンタメは壊滅的な影響を受けたが、ネットの動画配信など、「巣ごもり需要」を取り込む新たな動きが目立った年でもあった。その恩恵を最も受けたのが、韓国のエンタメ業界ではないだろうか。特に、『愛の不時着』など韓国ドラマの世界的ブームは記憶に新しい。ソウル在住のKDDI総合研究所特別研究員・趙章恩さんが、今年1年の振り返りと、来年日本で話題になりそうな韓国ドラマを紹介する。

 * * *
 コロナ一色となった2020年、韓国のエンタメ業界は無観客コンサートのネット配信や動画サイトでの新作映画の封切り、テレビ会議システムを使ったファンミーティングなど、「巣ごもり消費」をいち早く取り込もうとさまざまな手を打った。

 この1年でNetflixなどの動画配信サイトの利用者は大幅に伸びており、韓国言論振興財団の調査によると、2019年の47.1%から2020年には66.2%に増加。特に60代以上の増加率は大きく、2019年の17.7%から2020年には39.3%と2倍以上に伸びた。コロナ禍を背景に、動画配信サイトでドラマを観る人が増えたことや、幅広いジャンルのドラマが配信されたことなどが主な要因だろう。韓国でヒットしたドラマが日本でもヒットし、韓国人が面白いと思うドラマが日本人にも受け入れられたことで、韓国の視聴数がさらに伸びるという好循環が生まれていたように思う。

 Netflixが12月14日「note」に公開した記事によると、今年配信した作品の中で「最も多い日数総合TOP10(日本)入りした作品」1位は『愛の不時着』。続いて2位に『梨泰院クラス』、6位『サイコだけど大丈夫』、8位『青春の記録』、9位『キム秘書はいったい、なぜ?』と、半分を韓国ドラマが占めた。さらに同社は、「配信直後から日本で最も勢いのあった韓国ドラマTOP10」も公開。1位はこれぞ“王道のラブコメ”と言える『キム秘書はいったい、なぜ?』。2位は『私のIDはカンナム美人』、3位『青春の記録』、4位『梨泰院クラス』、5位『サイコだけど大丈夫』だった。

 一方、日本で人気になる韓国ドラマは、主にNetflixで配信されるものが中心のためこのようなランキングになるが、韓国で今年人気だったドラマは日本とは大きく異なる。韓国メディアのジョイニュース24が今年10月に集計した「2020年最高のドラマ」によると、1位『賢い医師生活』、2位『夫婦の世界』、3位『キングダム シーズン2』、4位『秘密の森 シーズン2』、5位『愛の不時着』、6位『サイコだけど大丈夫』となった。1位の『賢い医師生活』はNetflixで日本でも観られるが、日本ではそれほど話題になっておらず、日本で人気の『愛の不時着』、『サイコだけど大丈夫』は同ランキングでは5位以下だったのが興味深い。

次に「来る」のはファンタジー系ドラマ

 韓国ドラマといえば、ラブコメや時代劇、ほのぼの系ホームドラマ、マクチャンドラマ(ドロドロの愛憎劇)などが定番。特にラブコメ率は高く、医療ドラマかなと思ったらラブコメ、サスペンスドラマかなと思ったらラブコメというほど、これまでどんなドラマにも「ラブライン」と呼ばれる、登場人物が恋に落ち結ばれるまでの駆け引きを無理やり入れることが多かった。しかしここ数年韓国では、「ラブラインの無いドラマ」という宣伝文句が登場するほど、ラブコメ以外のドラマのニーズが強くなっており、これが日本と韓国の人気ランキングに差が生まれる一つの理由ではないかと思う。

 今韓国で人気急上昇中なのが、これまであまり無かった「ファンタジー系」ドラマだ。現在放送中の『驚異的なソムン』(ソムンは「噂」の意、主人公の名前でもある)は、韓国ウェブコミック配信サイト「DAUM WEBTOON」で連載されたマンガが原作のスリラー×ファンタジードラマ。人に取り憑き殺人を犯す悪霊と、悪霊を退治する「カウンター」と呼ばれるヒーローたちの物語で、カウンターは、普段は「クッス(韓国式そうめん)食堂で働いているが、悪霊を感知すると客を放置して出動、それぞれが持つ驚異的な能力で悪霊をやっつけ人々を救う。1話、2話と回を重ねる度に注目を集め、12月13日放送された6話の視聴率は全国平均7.7%、最高視聴率8.3%と高視聴率を記録。ケーブルテレビドラマの歴代視聴率TOP5に入りそうな勢いである。

『驚異的なソムン』は、『愛の不時着』を制作した「スタジオドラゴン」の作品。大手制作会社の作品にも関わらず、この頃韓国ドラマでよく見られるスポンサーの商品を無理やりドラマの中に登場させて視聴者の失笑を買う、といったことが無いのも好感を得ている要因だろう。これまでの韓国ドラマでは、突然スーツのポケットから真空パックキムチを取り出して主人公に差し出し、キムチをクローズアップするといったあからさまなシーンも度々見られたが、こんなことをされるとそれまでの感動が台無しだ。制作やスポンサー側も、そうした姑息な描写が逆効果であることを意識し始めているのかもしれない。

『驚異的なソムン』は、ケーブルテレビの放送に加え、韓国のNetflixでも配信されている。SNSでの評判を見ると、好きな時間に観られるNetflixで観る人がかなりいるようで、Netflix韓国版の「総合TOP10」1位になるほど大人気だ。近々日本でも配信されれば、来年話題さらう人気ドラマとなるのではないだろうか。

【趙章恩】
ジャーナリスト。KDDI総合研究所特別研究員。東京大学大学院学際情報学修士(社会情報学)、東京大学大学院学際情報学府博士課程単位取得退学。韓国・アジアのIT・メディア事情を日本と比較しながら分かりやすく解説している。趣味はドラマ視聴とロケ地めぐり。

NEWSポストセブン》

2020. 12.

-Original column

https://www.news-postseven.com/archives/20201217_1621136.html?DETAIL

BTSの急成長支える「ARMY」パワー 進化するファンとの関係

.

 韓国の人気アイドルグループ「BTS(防弾少年団)」のシングル『Dynamite』が11月24日(現地時間)、音楽界の最高栄誉とされる「グラミー賞」にノミネートされ大きな話題になっている。アジア出身の歌手がノミネートされたのは初めてで、SNSでは世界中のBTSファン「ARMY」の歓喜の声で溢れた。BTSは、10月にも米ビルボードのシングルチャートで1位を獲得したばかり。ソウル在住のKDDI総合研究所特別研究員・趙章恩さんは、「BTSの大ヒットは、ARMYたちの尋常ではない努力の賜物」と話す。

 * * *
 コロナ禍でエンタメ業界全体が落ち込むなか、この1年で異例の急成長を遂げたBTS。公式YouTubeに頻繁に動画をアップしたり、大々的なオンラインコンサートを実施するなど、自宅にいながらBTSを楽しめるよう工夫した運営側の活動もあるが、BTS人気をここまで押し上げたのは、紛れもなくARMYたちの働きによるところが大きい。

 その働きは、例えばBTSがデビューして間もない頃は、話題になるよう新曲を発表したら、24時間眠らずに新曲動画を繰り返し再生する(再生回数を稼ぐため)、BTSの歌詞をARMYが世界各国の言葉に翻訳し解説を付けてSNSで紹介する、BTSの活動でメンバーのためにならないことや、社会的に納得のいかないことなどがあれば改めるよう所属事務所に直談判したり抗議活動をする、「BTSをもっと知ってほしい」という思いから地下鉄や電車にARMYたち自ら広告を出す、BTSの活動に関する論文を書く…など挙げ始めたらキリがない。

 プロモーター的な役割を担うこともある。10月に開催されたオンラインコンサート『BTS MAP OF THE SOUL ON:E』のチケット販売の際は、チケットの種類が多いうえ、運営側の説明が分かりにくかったことから大混乱が生じたが、ARMYの1人が「どのデバイスからどんな映像をどのように見たいか」でチケットを選択できるよう一目でわかる表を作りSNSで公開、運営側がその表を公式サイトなどに転載して案内し直したことがあった。

また、10月はメンバーのジミンの誕生月だったため、中国のARMYがソウル中区役所と協力し、「明洞ジミンテーマ通り」と題した盛大な誕生祭を実施。ソウル中心地の明洞のあちこちにジミンの写真や看板が登場し、メインストリートの入口には「ジミン楽園へようこそ」と書かれた大型のLEDゲートも設置された。休業中のお店の大型看板がジミンの写真に代わっていたり、レストランやカフェの中を覗くとひょっこりジミンの等身大サイズの立て看板が見えたりして、ARMYではない私でも宝探しのようで楽しい気持ちになった。目玉は明洞芸術劇場前に設置された、スノードームにすっぽり入ったジミンのオブジェだ。夜になると灯りがともり幻想的な雰囲気になるので、明洞の観光スポットの一部としてずっと置いて欲しかったくらいだ。

 韓国では、こうしたARMYパワーに注目する記事が増えている。「歴史上最も強力な“ファンダム(熱心なファン集団)”」、「ARMYは全世代、全世界に存在する」とし、ARMYのような自主的に動くファンは他のアーティストには無い現象であり、その存在自体も単なる狂信的なファンのものとは性質が異なることなどを伝えた。

 ARMYたちの“規格外”の活動には、海外メディアも注目している。英ロイター通信や米ブルームバーグ、米ワシントンポストは、BTSが6月、人種差別の撤廃などを訴える「Black Lives Matter」運動に100万ドルを寄付したところ、ARMYもこれに呼応し同額の100万ドルを集めたことなどに触れ、SNS上の繋がりやハッシュタグを使い、社会問題に積極的に声を上げ行動するこれまでにない部類のファンであることを詳しく報じた。アジア人であるBTSも差別の対象になる可能性があるため、「人種差別問題には積極的に対応する」という米国ARMYたちの声も紹介していた。

 2020年に3周年を迎えたユニセフとBTSが行っている児童・青少年に対する暴力根絶運動「LOVE MYSELF(私自身をまず愛そう)」でも、SNSなどでのARMYの活動により寄付金額は2020年10月末に32億ウォン(約3億円)を突破した。

 アイドルとファンの先例の無い新たな関係性を築くARMYの活躍から目が離せない。

【趙章恩】
ジャーナリスト。KDDI総合研究所特別研究員。東京大学大学院学際情報学修士(社会情報学)、東京大学大学院学際情報学府博士課程単位取得退学。韓国・アジアのIT・メディア事情を日本と比較しながら分かりやすく解説している。趣味はドラマ視聴とロケ地めぐり。

NEWSポストセブン》

2020. 11.

-Original column

https://www.news-postseven.com/archives/20201129_1616739.html?DETAIL