発火事故への皮肉?LGがバッテリー評価実験を公開してスマホ新製品を宣伝

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 サムスン電子のGalaxyS8に先立ち、韓国で2017年3月10日にスマートフォン新機種「G6」を発売したLG電子。発売当初は人気を得たものの、1週間も経たないうちに販売台数が停滞、今ではGalaxy S8にすっかり話題を奪われてしまった。

LG電子は、スマートフォン新機種G6は端末が丈夫でバッテリーも爆発しないと宣伝している
(出所:LG電子)
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動画やマンガを見やすい縦長画面が特徴

 G6のよいところは「シンプルなデザイン」「使いやすさ」「丈夫」の3点である。

 ディスプレイは5.7インチでQHD+(2880×1440)。画面の縦横比は18対9。今までのGシリーズは16対9だったので画面は縦長だ。一度により多くの情報を表示できるので、何度もスクロールしなくても済むし、本体は握りやすくなった。デュアルウィンドウで画面を上下に分け、動画を視聴しながらメールをチェックするような使い方も楽にできる。

 18対9は映画館スクリーンの画面比にもっとも近いので、動画を観るときもより没入できるそうだ。最近はモバイルインターネットの速度も速くなり、動画ストリーミングアプリを利用する人がとても多いので、動画が観やすいスマートフォンというのは重要なポイントになる。

 韓国では、この18対9の画面比が称賛されたのだが、そこにはWEBTOONが観やすいという点も影響している。WEBTOONはWebで連載するマンガのこと。といってもマンガをPDFにして配信したものではなく、Webで連載することを前提に制作したデジタルマンガである。そのためページ割ではなく、画面の上から下へコマが続く。スマートフォンの画面が縦長になったことで、WEBTOONのコマが一度によりたくさん表示されるので読みやすくなったのだ。このように、G6は前作のG5に比べ画面を観やすくしたうえで、消費電力を30%抑えている。

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趙 章恩=(ITジャーナリスト)

 

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2017.3.

 

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バッテリー騒動はもう過去?未発表でもサムスン新スマホに予約殺到の不思議

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サムスン電子は、2017年3月29日に米ニューヨークと英ロンドンでスマートフォン新機種「Galaxy S8」を公開する予定だ。つまり韓国時間では3月30日に全貌が明らかになるわけだが、なんと韓国の量販店では既に予約販売が始まっている。


サムスン電子のWebサイトに掲載されたGalaxy S8の公開イベント予告
(出所:サムスン電子)
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 端末も値段も決まっていないのに予約販売を開始するとは前代未聞だが、公式な発表はなくても、欧米のメディアにGalaxy S8とみられる端末の写真が掲載されたりスペックがある程度公開されたりしたので、その情報を頼りに予約しているようだ。

 量販店側は、「ユーザーがどのカラーとサイズ(ディスプレイの大きさ)を好むのか、仕入れの参考にするため予約を受け付けている」、「毎日のように新聞やテレビのニュースでGalaxy S8のことが話題に上るからか、発売済みと勘違いして機種変更に来る顧客もいるので早めに予約販売を開始した」と説明した。

 韓国のキャリア3社の予約販売は、4月7日に始まる予定だ。Galaxy S8の正式な発売は4月21日を予定している。キャリアは予約順に一足早く端末を配送し、予約者が正式発売日より前にGalaxy S8を入手できるようにするという。これも異例なことだが、端末だけ早めに渡し、事務手続きは4月21日から行う予定になっているのだ(つまり端末が届いても、Wi-Fiに接続してインターネットや一部アプリは使えるが、音声通話などSIMが必要な機能は4月21日まで使い始められない)。

 サムスン電子は4月1日から韓国内にあるサムスン電子の代理店とキャリアの代理店にGalaxy S8を展示、誰でも触って体験できるようにするという。

「名誉挽回の力作だ」と期待する声も

 端末価格、キャリアの「端末購入支援金」(2年間の加入を条件に、端末価格の一部または利用料を2割引にする)がどれぐらいもらえるかは、4月になってから決まりそうだ。

 複数の韓国メディアはGalaxy S8の端末出荷価格は100万ウォン(約10万円)を超える見込みだと報道している。かなり高額だが、それでも売れそうな気配である。

 Galaxy S8は、Galaxyシリーズの端末としては、2016年10月に販売中止となったGalaxy Note 7以来久々の新作となる。スマートフォン関連のオンラインコミュニティなどの反応を見ると、「サムスン電子が名誉挽回のため全力を注いだスマートフォンに違いない」など、期待を寄せる書き込みが非常に多かった。

 欧米のメディアが報じたGalaxy S8のスペックが正しいとすれば、ディスプレイは5.8型と6.2型の2種類。画面比は約18.5:9で、片手で操作しやすい縦長の形状になるようだ。前面部はフルスクリーンで、下にあったホームボタンはなくなり、指紋認識センサーは後面のカメラレンズの横、スマートフォンを使うときにちょうど人差し指が当たる場所に移動する模様だ。

 カメラは前面800万画素、背面1200万画素で、他のスマートフォンに比べて画素数が少ない。これは意外だった。バッテリーはGalaxy Note 7発火事故の影響か、GalaxyNote7より容量が小さくなった。5.8型は3000mAh、6.2型は3500 mAhとなっている。防水防塵、虹彩認証機能もあるらしい。

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趙 章恩=(ITジャーナリスト)

 

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韓国では電子金融取引のハッキングやフィッシング被害は銀行の責任になる

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韓国公正取引委員会は、2017年1月に「電子金融取引標準約款」を改訂し、インターネットバンキングやモバイルバンキングなど各種電子金融取引の利用中に起こったネット金融詐欺被害は原則として銀行に責任があり、銀行側が顧客に損害賠償をしなければならないという内容となった。同委員会は、「電子金融取引は、デバイスを使う電子的装置を通じた非対面・自動化方式の取引」と定義する。


韓国農協のインターネットバンキング利用画面。韓国公正取引委員会は、ハッキングやフィッシングなどにより電子金融取引利用中に起きた被害は原則銀行に責任があるという内容で標準約款を改訂した
(出所:韓国農協)
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 ここでいうネット金融詐欺被害とは、ハッキング、フィッシング、ファーミング、スミッシングなどである。

 フィッシングは、金融機関や公共機関などと偽って電子メールを送り、銀行口座の暗証番号といった個人情報を盗んでお金をだまし取る詐欺。ファーミングは、金融機関のホームページそっくりなサイトを作ってユーザーを誘導し、暗証番号などを盗み取る詐欺だ。そしてスミッシングは、携帯電話のSMS(Short Message Service)を悪用したフィッシングのような詐欺である。

銀行はもっとセキュリティに注力しなければならない

 これまでは、電子金融取引における事故が発生した場合、ユーザーの責任が重いと見られていた。ユーザーがセキュリティを疎かにしていたと判断されがちだった。明白に銀行側に落ち度があることをユーザーが証明できない限り、銀行は責任を取らなかった。

 しかし今後は、銀行側がユーザーに落ち度があったことを証明しなければならなくなった。原則銀行の責任になるので、銀行側はもっとサイバーセキュリティに力を入れ、ユーザーに再三ネット詐欺に気を付けるよう呼びかけることが求められるようになった。金融機関の顧客は、ネット金融詐欺によって損害が発生したことだけを証明すればいい。

  ネット金融詐欺被害に対して銀行がユーザーに支払う損害賠償額は、「被害金額」と「1年満期定期預金利子(被害額の賠償が遅れた場合。遅れた日数分)」の合計額である。顧客の過失によるものと銀行が証明できた場合は、過失に応じて損害賠償の割合も変わる。

  約款の改定は2017年1月に発表されたが、銀行側が難色を示していた。再度改訂されるのかと思われていたところ、3月になってやっと銀行側が受け入れて実際のサービスに適用することにした。

 早ければ4月から改訂版の電子金融取引標準約款が導入される見込みである。銀行側は、約款改訂に合わせてシステム改善作業に取り掛かった。

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趙 章恩=(ITジャーナリスト)

 

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韓中外交摩擦がサイバー戦に発展か?

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駐韓米軍基地にTHAAD(地上配備型ミサイル迎撃システム)を配置することが決まってから、THAADの韓国配置に反対し続けていた中国の、韓国に対する圧力が一層強まっている。

 韓米両政府は、北朝鮮の弾道ミサイルに対応するため駐韓米軍基地にTHAAD配置を決めたが、中国は駐韓米軍のTHAADは距離が近いため中国軍までも監視できる、THAAD配置が北朝鮮を刺激して東アジアの緊張が高まる、という理由から反対してきた。

 「韓米両政府がTHAADの韓国配置を2017年7月までに終える方向で調整中」との報道が出た1月末から、観光や貿易、コンテンツ流通など経済面での中国の対韓圧力が続いている。ネットでは、中国のIPアドレスによるものとされるDDoS(分散型サービス妨害)攻撃やディフェイス攻撃も起こっている。

 DDoS攻撃とは、大量のパソコンなどから一斉に特定のWEBサイトにアクセスすることで通信容量をあふれさせ、WEBサイトの機能を利用できなくする攻撃。ディフェイス(deface)攻撃は、無断で他人のホームページのトップ画面を変えてしまうことである。

ロッテ免税店などが被害に遭う

 3月2日午前、ロッテ免税店の中国語ホームページ(免税品を注文・決済するB2Cサイト)がDDoS攻撃によりアクセスできなくなり、14時頃には韓国語、日本語、英語のホームページもアクセスできなくなった。ロッテ免税店のホームページは、前日の3月1日にもDDoS攻撃を受けていた。2日は3時間ほど免税店のサイトにアクセスできない状態が続き、ネット上で注文を受けられなかった。


ロッテ免税店の中国語サイト。3月2日にDDoS攻撃を受けた。韓国内では、韓中サイバー戦を懸念する声もあり、政府機関がモニタリングを強化した
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 複数の韓国メディアが、ロッテ免税店側のコメントとして「中国発IPアドレスによるDDoS攻撃」だと報じた。ロッテ免税店の売り上げは、7割が中国人観光客によるものである。そのため、DDoS攻撃で3時間注文を受け付けられなかっただけにも関わらず、数億ウォン(日本円にして数千万円)の損失が出たという。

 3月6日時点で、ロッテ免税店のホームページはつながる状態になった(ロッテ免税店はつながるが、ロッテグループのサイトはつながらない状態)。またロッテグループの中国ホームページは、2月28日から3月6日まで、つながらない状態が続いている。ロッテによると、通常の10~25倍ものトラフィックが発生しているので、サイトが麻痺してしまったという。中国のコミュニティサイトやSNSには、ロッテを批判する書き込みがどんどん増えている。

 3月2日には、ソウル市の関連サイトが「Panda Intelligence Bureau」を名乗る組織によりディフェイスされ、サイトにアクセスするとメイン画面にパンダのイラストと共に「ロッテをボイコットせよ。THAADの韓国配置に反対せよ」と書き込まれる事件が発生した。

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世界の流れに逆行?タブレットの売れ行きが好調な韓国ならではの事情

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世界のスマートフォンやIoTデバイスの最新動向を一目で見られる世界最大の移動通信展示会「Mobile World Congress」(MWC)の初日前日にあたる2017年2月26日、サムスン電子は現地(スペインのバルセロナ)でプレスカンファレンスを開催し、スマートフォン新機種ではなくタブレットである「Galaxy Tab」と「Galaxy Book」を公開した。

 Galaxy TabはAndroidタブレットで、9.7型のHDR(High Dynamic Range)映像を再生できるスーパーAMOLEDディスプレイや、スマートデバイス同士でコンテンツを共有しやすくするアプリSamsung Flow、ペン先が0.7mmと細くて描きやすいSペンが特徴である。

 またサムスンのタブレットとしては初めて、オーディオ専門ブランドAKGの技術を搭載したステレオスピーカーを4つ搭載している。Galaxy Book は、OSにWindowsを搭載。10.6型と12型があり、キーボード脱着式で、ノートパソコンのようにも使える。

 サムスン電子は、「画面が大きいだけでなく、マルチメディア、エンターテインメント、効率的な業務、デザインなど、どのような作業にも適している便利なタブレットであり、タブレットの進化を確認できる製品だ」と宣伝した。


サムスン電子のタブレットPC「Galaxy tab S3」
(出所:サムスン電子)
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韓国のグーグルはスタートアップの育成に本気だ

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2017年2月21日、グーグルは記者会見を開き、韓国に設立して2年が経過した「グーグルキャンパスソウル」でのスタートアップ支援成果と、韓国のスタートアップ事情について説明した。日本では、アマゾンがスタートアップの商品を専門的に扱うストア「Amazon Launchpad」をオープンして話題になっているが、韓国にはまだアマゾンが進出していないこともあり、「スタートアップと言えばグーグル」のイメージが強い。

 同キャンパスは2015年5月、ソウル市の南側にオープンした。朝9時から夜10時まで、誰でもパソコンを持ち込んで仕事をしたり打ち合わせをしたりと自由に使える。カフェとオフィス用設備、スタートアップのための有料スペースが設けられている。


ソウル市の南側にある「グーグルキャンパスソウル」の様子
(出所:グーグル)
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スタートアップ関連イベントを多数開催

 オープンから今まで同キャンパスに入居したスタートアップは17社。総額170億ウォン(約17億円)の投資を受けて、巣立っていった。オープンスペースを利用するには無料の会員登録が必要だが、現在2万1000人が会員になっている。カフェの飲み物はコーヒーが1杯約300円で、周辺にあるほかのカフェよりも割安の値段になっている。

 同キャンパスは、さまざまな人が起業またはスタートアップの一員になれるチャンスを与える場として、大きな人気を集めている。それは、スペースを提供するだけではなく、年間190回以上スタートアップ関連イベントを開催したからだ。子育て中の女性を対象にしたスタートアップ育成プログラム「Campus for Moms」や、韓国内のスタートアップが採用説明会を開く「Campus Recruiting Day」など、話題になったイベントもある。

 グーグルキャンパスソウルは2017年5月より、新しいイベントとして、スタートアップが一回り成長するために必要な収益化戦略、マーケティング戦略、クラウドコンピューティング活用といった実務を教える予定だという。教えるのはもちろんグーグルの社員で、ネットビジネスをよく知る専門家らである。

 さらに、スタートアップがグーグルの社員を2週間無料で雇えるイベントも計画している。グーグルの社員と一緒に、スタートアップが抱えている問題を解決したりコンサルティングしてもらったりできる貴重なチャンスでもある。

 またグーグルキャンパスソウルはスペースに限りがあるため、入居できなかったスタートアップのために、グーグルのパートナー会社のオフィスを間借りできるようにもするという。世界各国にあるグーグルキャンパスにオフィスを構えて海外のスタートアップと交流もできる「Campus Exchange」も、より幅広く実施する。

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韓国でも問題視される長時間労働、オンラインゲーム会社で「夜勤禁止令」

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 韓国の有名オンラインゲーム会社Netmarbleは、2017年2月13日に「夜勤禁止令」を出し、今後社員は夜9時までに帰宅するようにした。

 Netmarbleの本社ビルは、ソウル市の西にあるITベンチャー街にあるが、「灯台」というニックネームが付くほど、夜遅くまで灯りが消えないビルとして有名だった。それだけに、同社の夜勤禁止令は韓国で大きな話題になった。


画面●韓国Netmarble社のWebサイト。同社はゲーム業界の長時間労働問題を改善するため、2月13日より「夜勤禁止令」を実施した
(出所:Netmarble)
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 初日の13日にはマスコミが本社ビルの外で待機、同社のオフィスの灯りが何時に消えるか取材したほどである。13日は、24時間稼働している「ユーザー相談センター」の担当者以外は、夜9時前に帰宅できたようだ。

週末勤務や帰宅社員への業務指示も禁止

 今回の夜勤禁止令は、同社の「勤務環境改善案」によるものだ。長時間労働を避けるため、どうしても夜遅くまで仕事をしないといけない場合は夜勤申請書を提出し振替休日を取る。週末出勤も禁止で、帰宅した社員にメッセンジャーで業務指示をするのも禁止にした。

 オンラインゲームは24時間365日サービスを提供している。そのためゲームサイトの点検やゲームのアップデートは、利用者が少ない深夜の時間帯に行われるのが一般的だった。同社はまず一部のオンラインゲームから深夜のアップデートをやめ、1カ月ほど深夜にアップデートをしないと起こる問題点を見つけ、解決していくことにした。

 社員の採用を増やし、社員一人一人の仕事量も調整する。社員の勤務環境改善によりオンラインゲームのアップデートや新規サービス開始の遅れが予想されるが、Netmarble側は「仕方ないこと」だと割り切った。

 実は韓国では、数年前からオンラインゲーム業界の長時間労働、過労による自殺や突然死が問題になっていた。2016年から野党である正義党の議員らがゲーム産業の労働環境について実態調査を実施し、国会で公聴会も開いたこともあった。野党側は、「長時間労働をしても、会社側は年俸に手当が全部含まれているとして時間外勤務手当を支給しないことも問題だ」と主張し、不公正な雇用契約、不当な長時間労働を政府が取り締まるべきだと求めてきた。

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韓国の警察サイバー安全局が「ランサムウエア注意報」、感染被害13万人

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韓国の警察庁サイバー安全局は2017年2月6日、全国民に「悪性コードランサムウエア被害注意報」を発令した。

 ランサムウエアはウイルスの一種で、ハッカーがメールやWebサイトに悪性コードを仕込むといった手口を使ってユーザーのパソコンに感染させる。このウイルスはパソコン内に入り込むと、ファイルを全て暗号化するなどの処理をして使えなくしてしまう。そして犯人は「匿名で利用できるビットコインで身代金を払えば、ファイルを元通りに戻せるパスワードを送る」など、ユーザーに金品を要求して脅迫するのだ。

 2016年の年初まで、ランサムウエアは英語のメールに悪性コードが添付されるケースがほとんどだった。添付ファイルをクリックすると大変なことになりそうな気配がぷんぷんしていたが、最近はメールのタイトルや添付ファイル名が巧妙になってきた。さらに、Webサイトに訪問しただけで感染するケースが増えたため、警察が注意を呼び掛けている。

韓国製ワープロソフトの文書も暗号化対象に

 2月7日、韓国のインターネットセキュリティ会社らは、韓国人をターゲットに作られた最新ランサムウエア「VenusLocker」に注意するよう呼びかけた。社内の会計担当者から源泉徴収票が届いたようにみせかけたメールと、韓国の大学や研究所を名乗りアンケート調査に応じるとプレゼントをするという内容で添付ファイルをクリックするように仕向けたメールが大量に出回っている。

 添付ファイルを開くと、パソコン画面に「ファイル復旧費用をビットコインで払え」というメッセージが表示され、パソコンの中に保存してあった写真や文書ファイルなどが開けなくなる。最新のランサムウエアは、韓国の官公庁で使う文書作成ソフト「アレアハングル」形式のファイル(.hwp)までも暗号化する。現地事情に合わせて、暗号化するファイル形式を研究しているようだ。

 最近は、身代金を払わずインターネットセキュリティ会社にデータの解読を依頼する人が増えたせいか、ハッカーはランサムウエアに感染させるための悪性コードをさらに分析しにくくした(これを難読化という)。

 韓国インターネット振興院に届け出があったランサムウエアの被害件数は、2016年は1438件。前年比で86.8%増加した。未来創造科学部(部は省に当たる)が2016年12月に韓国の従業員1人以上の会社9000社を対象とした調査で、「この1年の間にインターネットセキュリティ侵害事故を経験した」と答えた企業は3.1%。前年比で1.3%増加した。侵害事故の内訳を見ると(複数回答)、悪性コードによる攻撃が91%、スパイウエア感染が19.7%、ランサムウエアが18.7%、ハッキング4.9%、社内関係者による情報流出4.3%、DDoS攻撃2.6%の順だった。ランサムウエアによる被害は、前年は1.7%だったので1年間で11倍近くに増加している。ランサムウエアが韓国で出回り始めたのは2015年4月。2年足らずでここまで被害が拡大した。

 韓国のインターネットセキュリティ会社であるイノティウムを中心に、複数の会社が参加している韓国ランサムウエア侵害対応センター (RanCERT:Ransomware Computer Emergency Response Team Coordination Center)の調査によると、2016年の韓国内のランサムウエア被害者は約13万人。データを復元できなかった場合の被害額は、推定3000億ウォン(約300億円)にのぼる。これは、警察や政府機関に届け出があったランサムウエア被害件数とインターネットセキュリティ会社に持ち込まれたランサムウエアによるデータ暗号化解除依頼件数を合わせた数字である。


画面●韓国ランサムウエア侵害対応センターのWebサイト。韓国で2015年4月に登場し、感染被害が急激に広がっているランサムウエア。韓国のインターネットセキュリティ会社らは、ランサムウエアに特化した侵害対応センターを作り、データの復元を助けている。
(出所:韓国ランサムウエア侵害対応センター)
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会っていない子供にもFinTechでお年玉、さま変わりする韓国の旧正月

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韓国では、2017年1月27日から30日はお正月連休だった。韓国は中国と同じく、お正月とお盆は旧暦で祝う。

 お正月といえば、韓国にも「セベッドン」という子供にお年玉をあげる風習がある。お正月の朝になると、子供たちはできるだけたくさんの大人にセベ(新年のあいさつ)をしてお年玉をもらおうとする。

 このほか、就職した子供は両親や祖父母にお金をプレゼントする「逆お年玉」の習慣があるので、お正月はかなりの出費を覚悟しないといけない。

 以前は直接会ってセベをした親戚の子供にだけお年玉をあげればよかったのだが、FinTech(フィンテック)の時代になってからはそうはいかない。口座番号がわからなくても、相手の携帯電話番号さえわかれば送金できるので、お正月に会えない全国各地の親戚の子供からカカオトークのメッセージが後を絶たない。

アプリで簡単に送金ができる

 韓国のほとんどの銀行は、スマートフォン用の「簡単送金アプリ」を提供している。アプリをインストールして口座番号と口座暗証番号、送金用暗証番号を設定、インターネットバンキングと連動して本人確認をする。これでアプリのインストールは完了だ。そのあとは、アプリに相手の名前と携帯電話番号、送金したい金額、お祝いの言葉を入力するだけで送金できる。

 受取人は送金されたことがショートメッセージで届くので、メッセージをクリックして同じく簡単送金アプリをインストールし、送金額を受け取る銀行名と口座番号を入力するだけで振り込まれる。

 パソコンから利用するインターネットバンキングだと、毎回異なる暗証番号を表示するOTP(ワンタイムパスワード)を銀行から発行してもらい、「公認認証書」という本人確認用のプログラムをインストールしないと振り込みができない。

 これに対して、簡単送金アプリを利用するとアプリ用の暗証番号6桁を設定するだけで少額の送金ができる。かつ口座番号がわからなくても送金できるので、祝儀や香典を送る時にもよく使う。

 簡単送金は、1回30万ウォン(約3万円)または1日50万ウォン(約5万円)まで利用できる。「口座番号が分からないので送金できなかった」、なんていう言い訳はもう通用しなくなったので、お年玉出費は年々増え続けそうだ。

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[韓国ソーシャルイノベーション事情] キャッシュレス社会で韓国の銀行が大変身 カフェ併設に移動型店舗も登場

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 この頃ソウル市内には銀行らしくない銀行が増えている。

 銀行とカフェが提携してテーブルを挟んで銀行窓口とカフェがあったり、デパートの中に支店がありデパートの営業時間に合わせて20時まで通常業務を行ったり、銀行と証券会社が一緒に支店を運営したり、銀行の通常営業時間は9時から16時のところを、銀行員のフレックス勤務制度を導入して12時から19時まで営業する支店もできた。

 大手金融グループの一つであるウリ銀行の一部支店は、銀行兼カフェとして営業している。ウリ銀行によると、店舗を借りる費用を節約でき、支店を利用する顧客も以前に比べ10%ほど増えたという。顧客はカフェの中に銀行があるという感覚で利用しているそうだ。

 デジタルキオスクと言って、ATMと遠隔相談用のモニター、スキャナーが一つになった機械で時間に関係なく窓口同様のサービスを受けられるコーナーも登場した。モニター越しに相談員が登場するので、手続きだけでなく、最近の金利はどうなのか、資産運用のため投資できる商品にはどういうのがあるかといった金融相談もデジタルキオスクから利用できる。シンハン銀行は、デジタルキオスクをコンビニの中に設置し、口座開設、デビットカード発行、振り込みなどあらゆる業務を利用できるようにしている。

 韓国の銀行では、印鑑なしで署名だけでも取引ができる。銀行口座の開設や各種書類に印鑑を押すことをやめて「デジタル署名」に切り替えたからだ。もちろん、印鑑を使い続けることもできるが、デジタルキオスクでは利用者が身分証や必要な書類をスキャナー経由で送信し、デジタル署名で手続きを行う。

 日本も似たような状況だと思うが、韓国では銀行員の仕事は窓口を閉めてから始まると言われている。銀行員の仕事の中には、各種書類を印刷して保存する、スキャンしてデジタルファイルとしても保存する、データベースにも入力するなど、書類の管理に関わる業務が非常に多く、管理費用もかかった。デジタルキオスクは利用者がセルフ方式で書類のスキャンや入力を行うので、銀行側の負担が減る。書類管理の仕事の負担が減った分、窓口の営業時間を延長することが可能になった。

 釜山銀行は、人が集まる場所に支店を開く「移動型車両店舗」を運営している。市場や公団地域などに支店のクルマが出向き、仕事の関係でなかなか銀行支店に行けない人のために、16時から夜まで営業する。利用者数に応じて営業時間や移動する場所を調整し、臨機応変に運営している。移動型ではあるが支店なので、口座開設、通帳発行、ATMカード発行、貸出、インターネットバンキング申請、外国為替の両替など、主にインターネットバンキングでは対応できないサービスを利用できる。

 韓国の銀行が変身を余儀なくされた理由は、なんといっても銀行の営業利益が落ち込んでいるからだ。低金利により銀行にお金を預ける人が減少している。政治の不安から景気も不安定で、資金を借り入れる企業も減少傾向にある。まずは支店運営費から節約してなんとかやりくりしなければ、ということなのだろう。

 もう一つは、インターネットバンキングやモバイルバンキングの普及により、銀行の店舗を訪問する利用客自体が減少していることも理由としてあげられる。みんな銀行業務をネットで済ませてしまうので、今までのように大きな支店を持つ必要がなくなりつつある。

 韓国HANA金融経営研究所の調べによると、銀行店舗数は2014年末の7,398店から2015年末には7,261店になった。137店減少している。店舗数が減ったのはソウル市を中心に首都圏ばかりなので、人口減少により利用者が減少したというよりは、他の理由が考えられる。同研究所は、インターネットバンキング・モバイルバンキング、SNSを使った個人間の振り込みといったフィンテック(金融+ICTの融合)の利用が進み、銀行の店舗に行かなくても金融サービスを利用するのに何の問題もなくなったからではないかと分析している。

 日本でもインターネットバンキングの普及が進み、銀行のATMでほとんど用事を済ませられるようになった。日本では銀行に行くと、まず何の用事か聞かれ、口座開設でもない限りATMを利用するよう案内される。日本の銀行に行くと、窓口は閑散としているのに、ATMの前には人がずらっと並んでいる光景にびっくりしたものだ。

 韓国の場合、ATMの数も減少した。韓国ではすでにキャッシュレス生活に突入しているからだ。ほぼどこでもクレジットカード払いやモバイルペイメントを利用できるので、現金が手元になくても生活に不便はない。そのためATMに行くこともあまりない。振り込みや税金納付などもンターネットバンキングやモバイルバンキングを使う。

 韓国銀行の統計によると、2014年8万7274台あった全国の銀行ATMが2015年には472台減って8万6802台になった。ATMの台数が減ったのは、統計を集計し始めた1992年以来、初めてのことである。インターネットバンキング・モバイルバンキング利用件数は2015年に年間1億2000万件余り、年平均27%ほど増加し続けている。

 日本よりは遅れたが、店舗を持たないインターネット専用銀行も認可され、来年1月営業開始の準備をしている。インターネット専用銀行とも競争するようになれば、韓国の既存の銀行はさらにまた大きく変身しそうだ。



By 趙 章恩

 

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 2016年12