[韓国ソーシャルイノベーション事情] デジタル時代だからこそ価値がある? 韓国で話題の手書き代行ビジネス

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<K-POPの人気アイドルがファンにメッセージを送る際、手書きのメッセージをSNSにアップすることが増えてきた。デジタル全盛の今、韓国では手書き代行などの代行サービスが流行。その背景には深刻な社会状況も見え隠れする──>

 最近韓国にいる時は手にペンを持って文字を書くことをしなくなった。海外に行く際に飛行機の中で入国審査カードを書くことぐらいしか手書きが必要な場面がない。メモを取る時も全てスマートフォンのメモ帳アプリに入力することに慣れてしまった。

 情報化の時代なので、企業や行政機関とはなんでもネット経由データでやりとりするし、日常生活でもスマートフォンでほとんどのことを済ませる。決済もモバイルペイメントなのでサインもいらない。

 贈り物にもパソコンで書いてプリントしたカードや手紙を付けるか、無料メッセンジャーアプリを利用してお店で商品と引き換えられるモバイル商品券とメッセージを送る。年賀状も大抵ネット上でメールアドレスか携帯電話番号宛てに送り合うので、手書きの年賀状を送る機会はほとんどない。そのせいか、最近は手書きのカードを見ると感動してしまう。

 こういう時代だからか、韓国の芸能界では「結婚します」とか「反省しています」とか、ファンに向けたメッセージを手書きし、それを写真に収めて自身のSNSに掲載するのが流行っている。

 つい先日、韓国では「K-POPアイドルご先祖様」と呼ばれる、90年代半ばから2000年代初めにかけて活躍した第1世代アイドル「H.O.T.」のリーダー、ムン・ヒジュンが結婚を発表した時も、マスコミ発表の前に、ファン宛ての手書きの手紙を写真にして自身のSNSに投稿した。以前は所属芸能事務所がマスコミに報道資料を送るか、ファンクラブ経由で知らせていたが、最近は「手書き手紙をSNSに投稿」がルールのようになっている。徴兵で軍にいるアイドルは、ファンサービスとして自筆手紙を軍のサイトに掲載する。手書きだと誠意がこもったとして、ファンにも喜ばれる。字がきれいだったり、自筆イラスト入りだったりすると、さらに人気はうなぎ上りである。

 インターネットでは手書き代行サービスというビジネスも登場した。以前から店内ディスプレイに使うPOPの手書き、メニューの手書き代行などはあったが、代行サービスとして人気があるのは手紙である。

 韓国には日本のメルカリのように、個人同士がなんでも売買できるアプリがいくつもある。そこに2011年あたりから「才能取引」、「才能販売」というジャンルが登場、手書き代行も才能取引として売り込む。

 例えばこんな感じである。

 アプリに会員登録して、売りたい商品、この場合は手書きのサンプルを写真で撮って掲載する。手書きA41枚当たりいくら、1文字当たりいくらなど、値段は販売する側が決める。購入する人はアプリ経由で支払い、アプリ側は15%ほど手数料を除いた分を取引完了後販売者に振り込む。取引完了は購入者が手書きを受け取った時である。購入者が、手書きが気に入らなければ修正も要求できる。修正回数に関するルールや手書きが気に入らなかった時の仲裁はアプリ側が行う。

 手書きは面倒だからと、ワードで書いたテキストを渡して手書きにしてほしいという単純な依頼もあるが、「別れの手紙を手書きで代筆します」、「告白の手紙を手書きで代筆します」といった販売者がいるのを見ると、単純に手書きだけでなく中身まで考えて代行してほしいという人もいるようだ。また、KPOPアイドルのライブで目立つ「手書きうちわ、手書きプラカード作成代行します」という登録者も多かった。

 才能取引には、手書きの他に、パワーポイント資料作成代行、翻訳代行、恋愛相談、毎日の衣装コーディネート、毎朝電話でギターを弾きながら歌い起こしてくれるモーニングコール、本人に代わってインターネットショッピングサイトや企業に苦情を言ってくれる代行サービス、旅行スケジュール提案など、面白い才能がたくさん登録されている。才能取引だけを専門に扱うアプリもどんどん増えている。

 韓国メディアによると、4年制大学を卒業しても正社員になれる割合が非常に低い就職難が続いたことで、失業状態の若い世代がアルバイト感覚でこうした代行サービスに登録するケースが多いという。ごく稀ではあるが、才能取引で本当に才能が開花し、起業する人もいたそうだ。


By 趙 章恩

 

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韓国ソーシャルイノベーション事情

 

 2016年12

[韓国ソーシャルイノベーション事情] どんな時にもユーモアを 朴大統領退陣デモに集まったユニークな人たち

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 韓国では毎週土曜日、朴槿恵大統領の退陣を求める集会が全国各地で行われている。ソウル市光化門周辺だけでなく、大邱、釜山、光州など、大都市の繁華街で、毎週土曜日集会が行われている。韓国の朴大統領が犯したスキャンダルとなぜ韓国人が怒っているのかについては、ニューズウィーク日本版本誌(2016-11-29号)の特集にもなった。

 欧米のメディアはもっと辛辣で、韓国の大統領が”shaman-fortune teller”の娘チェ・スンシル氏と手を組んで不正蓄財をしていたと報道している。チェ氏は民間人であるにもかかわらず、朴大統領の古い友人という立場を利用して大統領府から政府の機密文書を手に入れ国政に介入、国家予算も牛耳り不正蓄財した。韓国検察の捜査も進んでいる。検察は朴大統領を悪い友人に利用された被害者ではなく、不正に加担し不正を指示した共犯として捜査していることも明るみになった。

 韓国のオンラインコミュニティやSNSは朴槿恵大統領の退陣を求める書き込みであふれている。SNSにはオフラインで抗議活動をしたという「認証写真(自分のしたことを証明する写真を投稿すること)」も数多く投稿されている。KPOPアイドルの間でも、光化門で行われた抗議集会の現場に自分もいたことを証明する写真、朴大統領の退陣を求める発言をしたことを証明する写真をTwitterやInstagramで投稿するのが流行っているほどだ。

 韓国民主化運動の中心部であった光州市では、自宅のベランダに「国民の命令だ。朴槿恵は退陣せよ」と書いたプラカードを張り付ける運動が始まった。SNSでは自宅のベランダにプラカードを張り付けたという認証写真がどんどん増えている。

 こんな状況でも韓国人が忘れないのが諧謔、ヘハクである。諧謔は気のきいた冗談、ユーモア、風刺といった意味で、韓国ではウップダともいう。ウップダは「笑える+泣ける」の造語である。面白くて笑えるけど、その裏にある事情を知ると笑えない、という意味を持つ。大統領退陣集会ではウップダとしか言いようのないプラカードが数多く登場した。

「スンシルとの大事な縁。拘置所で育んでください」(朴大統領は対国民謝罪でチェ・スンシル氏のことを自分が大変だった時に助けてくれた大事な縁でつながっている知人だと説明した)

「支持率も実力だよ。親を恨みな」(朴大統領の支持率は11月4日時点で5%と歴代最低値を記録。チェ氏の娘は高校時代Facebookに「金も実力だよ、金がないなら親を恨め」と書き込んでいた)

「朴槿恵を漸漬した三神ハルミは反省せよ」(韓国で神話では赤ちゃんは三神婆さんという出産の神様が漸漬(チョムジ、授ける)するものと言われているので、朴槿恵大統領をこの世に登場させた三神婆さんに反省を求めている。この他に「勤務怠慢の死神は反省せよ」バージョンもある)

 100万人が集まった11月12日ソウル市光化門集会では、面白い旗も登場した。グループごとに旗を持って行進するが、労働組合、農民会といった旗に紛れてこんな旗もあった。「カブトムシ研究会」、「シマウマ研究会」、「民主猫総連帯」、「私立突然死博物館(自然史博物館のパロディ)」、「全国キャベツ連帯」、「全犬連(韓国の経団連にあたる全国経済人連合のパロディ)」、「ぴょんぴょん連合-怒ったウサギは何も怖くない」など、一体何者なんだろうと気になってしまう旗が多かった。

 Twitterなどで公表した各研究会の正体は、大学生や猫・うさぎを飼っている若い人達で、ネットで出会い意気投合した。「集会は特別に政治的な人が参加するのではない。誰でも自由に参加して自分の意見を表出するのが集会。こんな私たちも集会に参加しています、とアピールするため旗を作った」という。

 11月21日付のニューヨークタイムズが注目したのはこのジョークだ。

 チェ・スンシル氏寄りの芸能人で数々の恩恵を受けたとバッシングされていた有名歌手イ・スンチョル氏は、それを否定するかのように自身のTwitterに書き込みを残した。「米国大統領選挙でヒラリーが当選すれば米国初の女性大統領、トランプが当選すれば米国初のクレイジーな大統領が誕生するが、韓国は2012年の大統領選挙で両方やってのけた」(朴大統領は韓国初の女性大統領で韓国初のクレイジーな大統領という皮肉)

 インターネットショッピングモールでは「あの日のために」という特設コーナーを作って、風が吹いても火が消える心配がないLEDろうそくやLEDトーチを販売している。与党セヌリ党のキム・ジンテ議員が「(ろうそく集会の)ろうそくは風が吹けば全部消える。民心はいつ変わるかわからない」など市民の集会なんか怖くないと発言したことから、市民らは朴大統領が退陣するまで怒りは収まらないことを見せるため、LEDろうそくを買い求めている。

 朴大統領は29日任期短縮などに応じるとの談話を発表したが、正式に退陣するまで、毎週土曜日の集会は続きそうだ。朴大統領の支持率は、11月25日時点で4%(韓国ギャラップ調べ)と史上最低値である。




By 趙 章恩

 

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韓国ソーシャルイノベーション事情

 

 2016年11月

[日本と韓国の交差点] 金正男報道は、朴大統領弾劾への興味そらすため?

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金正男氏とみられる人物がマレーシアで殺害された事件をめぐって、韓国メディアが連日、報道合戦を繰り広げている。「速報」「単独報道」の見出しがあちらこちらで飛び交う。しかし、その多くが日本とマレーシアメディアの報道を後追いしたもので、北朝鮮の情勢に関して韓国がもっとも情報を持っていないのではないかとの不安が広がっている。

 韓国では、朴槿恵大統領の弾劾に北朝鮮問題まで重なり、落ち着かない日々が続いている。今でも毎週土曜日にはソウル市内の光化門広場で、朴大統領の退陣を求めるろうそく集会が行われる。その現場に、弾劾に反対する朴大統領支持者らも集まる。弾劾反対集会の現場では発行者不明の「偽新聞」が配布され、それを情報ソースとする根拠不明の北朝鮮関連ニュースがSNSで拡散している。

 2月27日付の中央日報によると、金正男氏は「北韓(編集注:北朝鮮)が国家主導で起こした化学武器使用テロ」で殺害されたとみなすべきとの意見が出ている(マレーシア警察は最終捜査結果をまだ発表していない)。マレーシア当局が逮捕した容疑者らはFTF(外国人テロ戦闘員=Foreign Terrorist Fighter)というわけだ。FTFは過激派組織「IS(イスラム国)」が全世界の若者を集めてテロリストにしているのを受けて登場した用語。国連安全保障理事会の定義によると、テロを実行・準備・計画・参加する目的で本人の国籍国以外の国に移動する個人を意味する。

「北韓は化学武器を使用」

 中央日報は韓国政府関係者の話として、「北韓の工作員がマレーシアまで行き第3国人を雇って空港で(金正男を)殺害した。(神経性毒ガス)VXを使用し、他の民間人や空港施設を2次被害に陥れることも恐れなかった。これはFTFがしていることと同じだ。『北韓をテロ支援国に再指定(2008年に解除)すべき』という美国(編集注:米国)と(韓国政府は)同じ考えである」と報じた。

 複数の韓国メディアによると、韓国の外交部(韓国の「部」は日本の「省」)は、国連が使用を禁じた大量殺傷を目的とする化学兵器を北朝鮮が所有し、実際に使用したとみなしている。韓国政府としてはVXガスを使用した対韓国テロを警戒しないわけにいかない。そのため、同政府は北朝鮮をテロ支援国に再指定して、民間企業の対北朝鮮輸出はもちろん、全ての援助を断ち切るべきと厳しい姿勢を見せている。

 2月27日に開かれた国会情報委員会全体会議に、国防部の情報本部長が出席。金正男氏殺害事件について今までの経緯を説明し、対策を講じた。統一部(北朝鮮関連政策を担当する省庁)のチョン・ジュンヒ報道官は、同日の定例記者会見で、「北韓が化学武器を、民間人を相手に使用したことを強く糾弾する。化学武器禁止協約違反であり、国際規範に露骨に違反した」と批判した。

 外交部のユン・ビョンセ長官は、国連人権理事会とジュネーブ軍縮会議に出席するため26日に出国した。仁川空港で記者らに向けて「(会議では)北韓が化学武器を保有することの危険性と、それを使用することの不当性について説明し、国際社会の対策、特に北韓当局の責任究明と(VXを製造・使用した)関連者に対する例外なき処罰を求める」と話した。

 外交部によると、当初、同理事会には次官が出席する予定だったが、金正男氏殺害に国際的に禁じられている化学兵器が使用されたことが確認されたため、長官が自ら会議に出席し、事の重大さを国際社会に伝えることにしたという。

韓国政府と国民に対するテロにも警戒が必要

 国家情報院は事件後の2月15日、国会情報委員会で次のように説明した。「金正男殺害は事件の3~4時間後に認知した。殺害は金正恩が発した暗殺命令に基づくもので、金正恩が命令を取り消さない限り、工作員は必ず履行しないといけない。北韓の工作員は最初、北韓の中で金正男の暗殺を試みたため、金正男は2012年シンガポールへ逃避。『命令を取り消してほしい。自分の逃げ道は自殺しかないことをよくわかっている』という内容の手紙を金正恩に送ったこともある。しかしその後も暗殺命令は取り消されていなかったことになる」。

 「中国との関係が悪化すると知りながら金正恩が金正男を殺害したのは、金正恩が偏執狂的な性格だからだとみられる」
 「金正男が韓国に亡命を試みたことはなかった。韓国に2016年に亡命したテ・ヨンホ前・駐英北韓大使館公使の警護を強化している」

 ファン・ギョアン大統領権限代行は2月20日、国家安保会議・常任委員会を開き、以下のように述べた。「(金正男殺害)は容赦できない反人倫的犯罪行為でありテロ行為である。政権を維持するためには手段と方法を選ばない北韓政権の無謀さと残虐性を見せつけた。北韓のテロ手法がより大胆になっているだけに、韓国政府と国民に対して北韓がテロを実行する可能性にも格別に警戒しないといけない」。

 「3月に始まる韓美軍事訓練を通じて北韓の挑発を強力に抑制すると同時に、国民が国家安保に対して信頼と自信を持てるようにする。政界を含め安保に関して国民が団結した声を出す必要がある」

公営KBSの報道は親・朴大統領に偏向?

 韓国では、朴槿恵大統領をめぐるスキャンダルを捜査する特別検事の活動期限が2月28日に終了し、同大統領の弾劾の是非を決める判決がもうすぐ下される。さらに、大統領選挙の前倒しをめぐる保守派と進歩派の闘争がピークに達している。一部進歩派の間では大統領選挙前の「北風」がまた始まったのではないかと懸念する声がある。

 北風とは、1997年に大統領選挙が実施された時、与党ハンナラ党が擁する候補への支持を高めるため、大統領官邸で働く行政官3人が北京で北朝鮮側に接触し、「休戦線付近で武力騒動を起こしてほしい」と依頼した事件をいう。国民を不安にすることで、「北朝鮮に人道的支援をすべき」と訴える野党候補(当時の金大中候補)ではなく、保守候補に票が集まるよう仕向ける狙いだった。大法院(日本の最高裁判所に当たる)の判決で、この行政官3人は国家保安法違反で有罪が確定した。

 これ以来、韓国のネットには、大統領選挙を前にして北朝鮮がミサイルを発射したり、おかしな行動を取ったりすると、「北風ではないか」と疑う書き込みが増える傾向がある。今回も、政府の発表もメディアの報道も疑わしく見えて、何を信じたらいいのかわからない状況に陥っている。

 全国言論労働組合は22日に報告書を発表し、公営放送KBSの報道が偏向していると主張した。KBSが15~22日に報道したニュースをモニタリングしたところ、金正男氏の殺害に関する報道ばかりで、朴大統領の弾劾や特別検事の捜査動向、次期大統領選挙に関する報道は縮小されていたという。

 全国言論労働組合は、さらに次のように指摘した。
 「KBSは特に2月16日以降、民放のソウル放送や文化放送に比べ3倍近く長い時間を金正男氏殺害関連ニュースに割き、朴大統領弾劾ニュースを流す時間を短くした」
 「ニュースに対する価値判断は放送局によって違うが、それにしてもKBSは偏っている。事実関係が不明な推測報道で国民の不安を刺激している。このままでは国民を混乱に陥れる可能性がある」
 「KBSは『北風』報道を行い、大統領弾劾に向かう国民の視線を他へ向けようとしているのではないか。KBSは正確な事実を伝えるという公営放送の役割を全うすべき」


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By  章恩

 

 ビジネス

 2017年3月

-Original column

http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/215834/022800059/

[日本と韓国の交差点] 韓国から見た日米首脳会談

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2月11日の朝、韓国メディアのトップニュースは10日に行われた日米首脳会談一色に染まった。記事ランキングでも日米首脳会談の記事が上位に並んだ。

 韓国の公営放送KBSは次のように報じた。
 「トランプ大統領は安倍総理を2度の晩餐と5時間に及ぶゴルフに招待するなど、異例のレベルで歓迎した」

 「両国首脳は安保、貿易など両国の懸案について意見を交わし、北核廃棄に向けた共助を強化することにした。両国の貿易と投資について幅広く協議する対話窓口を新設する」

 「トランプ大統領は首脳会談後の記者会見で『美国(編集注:米国を指す)と日本は双方の経済に利益を与える自由で公正で相互的な貿易関係を築くことにした』と発言した。米国は貿易を、日本は安保を得たという分析もある」

 ほとんどの韓国メディアはトランプ大統領を「予測不可能な大統領」と見て、北朝鮮の核問題や韓米同盟、貿易がこれからどうなるのか、不安要素が多いと評価してきた。トランプ大統領はかつて、対米貿易黒字、防衛費(米軍駐留経費)分担などについて日本を批判。同様の理由で韓国を批判したこともある。このため韓国としては、日米首脳会談でどのような話し合いがされたのか、注目せずにはいられない状況だった。

日本の軍事力強化を懸念

 2月13日付中央日報は、日米首脳会談を以下のように分析した。
 「両首脳は親密な関係を築いた。トランプ政権が美日蜜月関係を作る土台になると評価できる。トランプ大統領は、大統領選挙期間中、日本は安保で無賃乗車していると批判していた。この態度を180度変え、日本を防衛する美国の公約は揺るがないと発言した」

 「美日の結束が韓半島(編集注:朝鮮半島を指す)に与える影響は複合的だ。北核をけん制する点では安堵感を与える。韓国と日本はアジア太平洋地域で美国の軍事的優位を守り、中国の膨張を防ぐ共通の役割を果たしているため、トランプ大統領が安保において、日本と同様に韓国も重視する可能性がある。核の傘の提供と防衛費負担に関して、韓国と日本に同じ基準を適用するはずだ」

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By  章恩

 

 ビジネス

 2017年2月

-Original column

http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/215834/021400058/

[日本と韓国の交差点] 韓国、高齢化社会だからこそ選挙権を18歳に

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 1月27~30日まで、韓国は旧正月の連休だった。旧正月には全国各地に住む親戚が故郷に集まり、先祖に茶禮(チャレ、お正月とお盆に行う法事)をする。子供たちは親戚や近所に住む大人に歳拝(セベ、新年のあいさつ)をし、セベッドン(お年玉)をもらう。物価の上昇に合わせてセベッドンの金額もそれなりに上げないといけないので、かなりの出費になる。「上がらないのは自分の給料だけ」とみんな言うが、その通りである。

 旧正月になると韓国の新聞やテレビでは「今年の民心の行方は」との見出しで、国民の関心事を報道する。親戚が集まってどんな話題で花を咲かせたのかアンケート調査をし、「民心」として報道するのだ。2017年の旧正月はやはり「朴槿恵大統領弾劾」「次の大統領選挙候補」「不景気」がもっとも大きな話題だった。

桜の咲く頃、大統領選に

 韓国はすっかり大統領選挙ムードに入り、韓国メディアは「特別検事の捜査や出てきた証拠・証言から朴大統領が弾劾されるのはほぼ確定」と報じるようになった。「桜が咲くころ大統領選挙になる見通し」などと次の大統領選挙の日程にまで触れている。

 大統領選の日程は、弾劾審理を担当するパク・ハンチョル憲法裁判所長が1月25日にした、次の発言によっている。「(審理の内容や重要性から)3月13日までに弾劾の最終決定を宣告すべきである。7人の裁判官による審理は、審理と判断に支障を与える可能性がある」。

 憲法裁判所では、9人の裁判官が弾劾を審理している。このうち一人は1月31日、もう一人は3月13日で任期が終わる。しかし朴大統領は弾劾審理に伴い職務停止中なので後任を任命できない。

 3月13日には弾劾が決まるとすれば、選挙は4月から5月初旬ということになる。弾劾決定から60日以内に大統領選挙を行うことが規定されているためだ。弾劾が棄却された場合は、12月に大統領選挙が実施となる。


By  章恩

 

 ビジネス

 2017年2月

-Original column

http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/215834/013000057/

サムスンがGalaxy Note 7の発火原因を発表、だが韓国ユーザーの反応はいまいち

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サムスン電子のコ・ドンジン社長は2017年1月23日、ソウル市で記者会見を開き、Galaxy Note 7の発火原因を調査した結果、最終的にバッテリーの欠陥だったと結論付けた。また、新機種Galaxy S8からはバッテリーの安全性検査を強化し、生産した端末の一部を検査する方式から全量検査することにしたと発表した。



 Galaxy Note 7は2016年8月19日に発売された。その後、韓国と米国でバッテリー部分が焦げる、発熱する、発火するといった事故が発生し、9月2日にリコールが決まった。それからサムスン電子と海外の研究機関による原因調査が始まった。

組み立て時にバッテリー不良を見つけられず

 Galaxy Note 7のバッテリーは、サムスンSDI社のものとATL社のものが使われている。スマートフォンの組み立て課程で、サムスン電子側がバッテリーの不良を検知できなかったという。

 サムスン電子はバッテリー部分の発火原因を調査するため、Galaxy Note 7のデバイス20万台とバッテリー3万個をテストしたという。発表によると、結局問題はバッテリーの製造工程にあり、サムスン電子の安全検査でも不良バッテリーを確認できずそのまま使ったせいで発火した、ということだった。

 記者会見での説明によると、サムスンSDI社のバッテリーは、真ん中にある陽極と陰極を分離する分離膜が薄すぎて破損したことで発火。ATL社のバッテリーは、バッテリーのつなぎ目の問題や絶縁テープの不備、薄いセパレーターなど複数の問題が重なったとした。Galaxy Note 7を使った実験でも、実際に40回ほど発火を再現できたという。サムスン電子のハードウエアとソフトウエアには問題がなく、デバイスの輸送課程に問題があるわけでもなかった、とした。

 サムスン電子は再発防止のため、Galaxy S8以降は5段階のバッテリー安全性検査を8段階検査に変更することにした。スマートフォン本体のバッテリーを搭載する部分はより広くし、バッテリーが過熱すると自動で電源を遮断するソフトウエアも搭載する。

 製品のテストも強化する。レントゲン検査とバッテリー解体検査をバッテリーのメーカーに任せきりにせず、サムスン電子でも追加で実施する。また温度・湿度・衝撃・落下などいろいろな条件下で製品を使用し意図的に製品を劣化させて安全性をテストする「ユーザー条件加速試験」を実施することにした。

 サムスン電子は不良品に気付かなかった自分たちにも責任があるとして、バッテリーのメーカーに法的責任は問わないとした。サムスン電子という世界で最もスマートフォンをたくさん売る会社が、なぜバッテリーの欠陥に気付かなかったのかは疑問だが、Galaxy Note 7の全ての問題はバッテリーが犯人だった、ということで落ち着いた。

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趙 章恩=(ITジャーナリスト)

 

日経パソコン

2017.1.

-Original column

http://itpro.nikkeibp.co.jp/atcl/column/14/549762/012500128/?itp_leaf_index

韓国で進む、ドローンを使った国有地の無断占有パトロール

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 韓国企画財政部(国の予算を担当する省庁。部は日本の省にあたる)と韓国資産管理公社は、2016年夏からテスト事業としてドローンを使った国有地の無断占有パトロールを実施している。生産性が40倍以上になったとの報告もある。韓国企画財政部は、2017年1月末までにドローン30台を追加購入することを決めた。

 韓国の国有地は、国全体の約24%を占めている。国有地の多くは人が入る道がないほど険しい山林で、人が直接現場に出向いて無断占有を取り締まるには人件費も時間もかかった。そのため、こっそり国有地を無断占有して工場を建てたり、作物を栽培したりする人が後を絶たず、国有地が“先に使う人の勝ち”といった状態となり管理が行き届いてない地域もあった。

 2014年、400人近い調査員が直接国有地を訪問して調査した際に、国有地の無断占有率は15%前後であることが分かった。韓国資産管理公社は国有地の管理だけで毎月240人を投入していたが、手に負えない状況だった。

 ところがドローンを使ったところ、たった3台と操縦人員6人で240人分の仕事を数日でカバーできてしまった。韓国資産管理公社は2016年11月、「国有地無断占有予備調査」として、ドローン3台をレンタルして農村地域である慶尚南道(道は日本の県に相当)にある国有地83.4平方キロメートルを上空から撮影したところ、容易に無断占有している様子がわかり、無断占有は調査面積の10%に及ぶことも確認できた。その後調査員を無断占有している現場に派遣し、無断使用した地域住民に弁償金を請求できた。

ドローン30台で全国の国有地を調査していく

 ドローンを使った調査では、地上120~150メートルから2000万画素の画像を撮影し、その画像に地籍図を被せて国有地がどのような状態になっているかを確認する。

 ドローンの活躍が予想以上だったことから、企画財政部は2017年1月、国有資産の効率的な管理のため、9億ウォン(約9000万円)でドローン30台を購入する入札を実施した。撮影技術の高さから、海外メーカーが落札する可能性が高いとみられている。

 企画財政部と韓国資産管理公社は、ドローン30台を使って、3年間で全国の国有地全ての無断占有実態を調査する計画である。ドローンで撮影した国有地の画像データを韓国資産管理公社が分析し、分析結果を全国の国有財産管理機関に提供して取り締まってもらう。

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趙 章恩=(ITジャーナリスト)

 

日経パソコン

2017.1.

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http://itpro.nikkeibp.co.jp/atcl/column/14/549762/011800127/?itp_leaf_index

韓国の人気アプリ「配達の民族」で新手の詐欺、架空注文でポイント荒稼ぎ

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韓国の10~30代スマートフォンユーザーには必需アプリとまで言われる「配達の民族」で、新手の詐欺による被害が発生したことが明るみに出た。「配達の民族」は2010年6月に登場した出前アプリだ。2015年10月時点で2000万ダウンロードを突破し、韓国の出前アプリの中では市場シェア1位を占めている。

 「配達の民族」は、アプリを介して、色々な料理の出前や食材の配達を頼めるサービスである。出前を取っていないレストランの料理も、配達してくれる。現金支払いしかできないお店の出前でも、アプリ経由で決済すればクレジットカードや各種モバイルペイメントで支払える。現金を持っていなくても出前を頼めるところは、とても便利である。


画面●App Storeの「配達の民族」アプリ配布画面。韓国シェア1位の出前仲介アプリで、そのポイントを狙った新手の詐欺事件が発生し、話題になっている。自分が登録した加盟店に200個もUSIMを使いまわして大量に注文する架空取引をし、ポイントを貯めて換金した。この手の詐欺は韓国初の出来事である
(出所:アップル)

 またアプリ経由で注文すると、決済金額の一部がポイントとして貯まる(ポイントが貯まるパーセンテージは、会員レベルに応じて異なる)。1000ポイント以上貯まると、次回出前を利用した際の決済代金として使える。犯人グループが狙ったのは、このポイントだった。

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趙 章恩=(ITジャーナリスト)

 

日経パソコン

2017.1.

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スタートアップ支援に乗り出す韓国キャリア、通信以外のビジネスを狙う

 韓国の最大手キャリアKTが、2016年から支援したスタートアップの技術を採用して、2017年から新しいサービスを始めた。KTのユーザーが決済や会員情報変更など本人確認が必要な時に、パワーボイス社の音声認証技術を使って本人確認ができるというものである。

 今までは、携帯電話にSMSで認証番号を送信してそれをもう一度入力するか、指紋認証で本人確認をしていた。パワーボイスの持つ技術の特徴は、録音された声では音声認証ができないことである。本人の生の声でないと認証に成功しないので、なりすまし犯罪を防止できる。生体認証の世界標準といえるFIDO(Fast Identity Online)の認証も取得した。

 使い方は簡単だ。スマートフォンに「KT認証アプリ」をインストールして、韓国語で「声の認証」と7回繰り返し話すと、音声情報が登録される。その後は、本人確認の時に音声認証を選択して「声の認証」と話すだけでよい。


写真●韓国最大手キャリアのKTが開始した音声認証。KTはスタートアップを支援し、社外から新しい技術を取り入れることに積極的になっている。会員向けにスタートアップであるパワーヴォイス社の技術を搭載した音声認証を提供、決済や個人情報変更など本人確認が必要な時により楽に認証できるようにした。
(出所:韓国KT)

 時間を短縮するため、スマートフォンのIDとパスワードの自動入力機能を利用する人も多いが、セキュリティ上は好ましくない。KTはフィンテックの利用率が増えていることから、決済の際に手間をかけずセキュリティを高めるため、生体認証の一つとして音声認証を始めた。

自動運転やIoT関連スタートアップとの提携も

 またKTは、スタートアップのカビー社と協力して、先進運転支援システム(Advanced Driver Assistance System)を開発している。カビーのシステムは、画像認識や各種センサーを利用し、一人ひとりの運転スタイルに合わせて車の衝突やスピード違反を防止して、車線からはみ出ることがないよう安全運転をサポートする。日本では既に、バスや自動車に導入されているが、韓国では最近導入が始まったばかりである。

 KTはカビーのシステムをロッテのレンタカー1000台に搭載し、そのレンタカーを借りてKTの業務用車両として使うことにした。KTは通信以外の収益源を作るため、自動運転に投資していた。その流れでカビーに投資し、技術開発にも協力するようになったのである。韓国政府は2017年から、全車両に先進運転支援システムの搭載を義務付けることを検討している。KTはスタートアップと組むことで、よいビジネスチャンスを見つけた。

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章恩(ITジャーナリスト)

 

日経パソコン

2017.1

-Original column

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[日本と韓国の交差点] 潘基文氏、慰安婦問題で「油うなぎ」との批判

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憲法裁判所で朴槿恵大統領の弾劾審理が続いている最中、韓国は既に次の大統領を誰にすべきなのかで盛り上がっている。

 現在有力な候補は二人。一人は保守派の代表である潘基文(バン・ギムン)前国連事務総長、もう一人は進歩派の代表、ムン・ジェイン前「共に民主党」代表だ。韓国の大統領選挙は毎回、保守派候補と進歩派候補の競争になる。

 ムン氏は2012年末に行われた大統領選挙にも進歩派の代表として出馬し、朴大統領と票を争った。韓国中央選挙管理委員会の報告によると、2012年大統領選挙の得票率は朴氏が51.55%、ムン氏が48.02%だった。シニア層は朴氏を支持、若い層はムン氏を支持する傾向が強かった。

バン前国連事務総長が事実上出馬宣言

 バン氏は、海外メディアから厳しい評価を受けることもあったが、韓国では韓国人初の国連事務総長として尊敬されてきた。その生涯をライターが取材して2007年出版した本『バカのように勉強し、天才のように夢見よう』が青少年必読書になるほどにヒット。生まれ育った忠清北道陰城郡の生家周辺は、自治体が予算を投じて「バン・ギムン平和ランド」として生まれ変わった。バン氏の大統領出馬説が出始めた2016年下半期以降に実施された複数の世論調査を見ると、全国の50代以上が主な支持層である。

 バン氏は国連事務総長の任期を終えて1月12日、韓国に帰国した。当日、仁川空港にバン氏の支持者らが大勢集まり花束を贈呈して名前を連呼。その前でバン氏は出馬宣言とも言える演説をし、記者会見にも応じた。

 演説では、以下のように述べた。
「私は国連事務総長として、人類の平和と弱者の保護、貧しい国の開発、気候変動への対処、男女平等のために10年間一生懸命努力しました。成功した国はなぜ成功できたのか、失敗した国はなぜ失敗したのかを近くで見守りました。指導者の失敗が民生を破たんに追い込むのも見ました」

 「(韓国)経済は活力を失い、社会は不条理と不正で汚れてしまいました。富の格差、理念や世代間の葛藤を終えるべきです。国民の大統合を成し遂げるべきです。これ以上は覇権と既得権を見過ごせません。(韓国)社会の指導者全員に責任があります。これからは責任感、他人への思いやり、犠牲の精神が必要です」

 「多くの方に『大統領になる意志』はあるのかと聞かれました。『大統領になる意志』が『分裂した国を一つに束ねて世界の一流国家にするために努力する』という意味なら、私は明白に覚悟ができていると言えます。一方、『どんな手段を使ってでも政権を手に入れる、権力を手に入れる』のが『大統領になる意志』なら、私にそれはありません。誰が政権を握るのかは重要ではありません。政権交代ではなく政治交代を成し遂げるべきです」

 バン氏が主張する「政治交代」は、2012年の大統領選挙で朴槿恵氏も使っていた表現で、斬新なものとは言えない。それどころか、「既存の政治家とは違う」ことをアピールすべく政党には入らないと強調してきたバン氏が、実はセヌリ党と深い関係にあると思わせる結果になった。