韓国では大規模言語モデルの実用化が既に開始、NAVERがHyperCLOVAを高齢者向け安否確認に

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2020年に米OpenAIが「GPT-3」を公開して以来、韓国でも米グーグルの「LaMDA」や米Microsoft社と米NVIDIA社の「MT-NLG(Megatron-Turing Natural Language Generation)」のように汎用性が高い大規模言語モデルの競争が激しくなってきている。ネット企業やキャリア各社は韓国語の大規模言語モデルを開発し、コールセンターにかかってくる電話のテキスト化や顧客の感情分析、高齢者向けの対話、レコメンド、記事作成、マンガや小説創作など多様なサービスに利用している。

 韓国語の大規模言語モデルといえば韓国最大のネット企業であるNAVER社が2021年5月に公開した「HyperCLOVA」がもっとも有名だ1)。NAVER社のポータルサイト上にあるブログ、ニュース記事などのデータを活用して開発した2040億パラメータ規模の言語モデルである。

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趙 章恩=(ITジャーナリスト)  

《日経Robo》 2022. 7.  

-Original column

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/mag/rob/18/00006/00105

Samsungの対米半導体投資に米政府が巨額の補助金、韓国内で渦巻く懸念

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韓国Samsung Electronics(サムスン電子)の対米半導体投資に対する米政府からの補助金に対し、韓国内では多くの懸念が渦巻いている。同社の決断に伴い、中国にあるメモリー半導体工場はどうなるのか、韓国内の半導体投資が減るのではないか、といった不安の声が高まっている。

 米国商務省は2024年4月15日(米国現地時間)、米CHIPS・科学法(CHIPS and Science Act)により最大64億米ドル(1米ドル=154円換算で約9800億円)の補助金をサムスン電子に支給する予備的覚書(PMT)に署名したと発表した。補助金の対象になったことで同社は米国防部との協力も可能になった。米バイデン大統領は同社への半導体補助金支給に関して、「米国と韓国の同盟が(ビジネス)チャンスを生み出している」「半導体はAI(人工知能)のような先端技術に欠かせないものであり、米国の国家安保を強化するだろう」とコメントした。

†米CHIPS・科学法(CHIPS and Science Act)=米バイデン大統領が2022年に米国の安全保障を強化するために制定した。2030年まで米国が世界最先端半導体の20%を生産することを目標に、米国内の半導体生産設備投資に520億米ドルの補助金を支給する。半導体の輸入に依存せず、米国内で最先端半導体の設計、生産、パッケージング、購買まで全てが完結するようにし、半導体不足で自動車生産が止まるといったことをなくそうとしている。

 サムスン電子が補助金として受け取る64億米ドルという金額は、米Intel(インテル)の85億米ドル、台湾積体電路製造(TSMC)の66億米ドルに続く3番目の大きさとなった。サムスン電子の米国内の生産設備はファウンドリー事業(半導体受託生産会社)の拠点となる。同事業の最大手で好調が続くTSMCや、赤字が続き巻き返しを図るインテルと、米国内の顧客を奪い合う熾烈(しれつ)な競争が米国内で始まることになる。

 サムスン電子は2022年から米国テキサス州テイラー市に最先端の半導体生産工場を建設中である。今回、これに加えて半導体パッケージング施設とR&D(研究開発)施設を新築し、2030年まで総額400億米ドル規模の対米投資を行う計画という。現地の新規雇用も2万人を超える見込みである。

 韓国からはSK hynix(SKハイニックス)も同社初となる米国生産拠点を計画している。2028年下期の量産を目標に、米国インディアナ州に半導体パッケージング工場を建設する。台湾の調査会社TrendForceによれば、先端半導体(16nm世代以下)の国別生産キャパシティーは、2023年の台湾68%、米国12.2%、韓国11.5%、中国8%に対して、2027年は台湾60%、米国17%、韓国13%、中国6%、日本4%と、米国のシェアが拡大すると見ている。

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趙 章恩=(ITジャーナリスト) 

(NIKKEI TECH) 

2024. 4. 

-Original column 

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00107/

「半導体選挙」の様相を呈する韓国総選挙、与野党は支援公約で競う

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韓国では2023年4月10日に第22代国会議員を選ぶ総選挙が行われる。選挙日は臨時休日になる。同年3月31日に聯合ニュースが全国18歳以上の1000人を対象にした世論調査では、「必ず投票する」が回答者の80%、「できれば投票する」が同15%と、選挙に対する関心度は極めて高い。

 今回の選挙は「半導体選挙」と呼ばれるほど与野党の半導体公約が目立つ。米国、日本、中国など各国の政府が半導体生産拠点を自国に誘致するため巨額の補助金を支給する中、韓国も税額控除だけでなく補助金を支給すべきだという雰囲気になっている。韓国政府はこれまで半導体産業に補助金を出していない。2024年3月時点の韓国半導体の輸出額は116.7億米ドル。全輸出額に占める割合は20.6%と、韓国を代表する産業である。しかしこのままで韓国半導体産業のグローバルな競争力が失われるかもしれないという危機感が漂っている。市場調査会社の米Gartner(ガートナー)が2024年1月に発表した世界半導体市場の売上高1位は米Intel(インテル)、2位は韓国Samsung Electronics(サムスン電子)だったが、同年3月の英Omdia(オムディア)の調査では1位はインテル、2位に米NVIDIA(エヌビディア)が入り、サムスン電子は3位という結果になった。

 韓国政府は同年3月27日、国務総理が主宰する「第5次国家先端戦略産業委員会」において、2047年まで先端戦略産業特化団地を造成し、民間の投資が活発になるよう補助金を含め投資インセンティブ制度を拡充する方案を検討すると公表した。韓国内ではついに政府が半導体産業に対する補助金を検討し始めたという見方になっている。

 韓国における2大政党の1つである「国民の力」は与党として、政府の「京畿道南部半導体メガクラスター」造成に合わせ、半導体新規設備投資に対して主要競争国の支援に相当する直接的な補助金の支給を推進し、世界における半導体の覇権争いで優位な地位を維持すべきだとしている。補助金の根拠を確立するために「国家先端戦略産業競争力強化及び保護に関する特別処置法(半導体特別法)」と「国家基幹電力網拡充特別法」の改定を公約した。半導体施設投資認許可の手続きも簡素化すると公約した。

 野党の「共に民主党」は、半導体設備投資に対する大手企業15%・中小企業25%の税額控除を維持しながら京畿道南部から東部にかけて「半導体エコシステムハブ構築」を公約した。システム半導体(非メモリー半導体)と先端パッケージングに対する支援を拡大し、ファブレス半導体設計企業を育成、半導体素材・部品・装置の中小企業と大手企業の協力を強化するとした。半導体生産拠点は洋上風力発電と太陽発電を利用した再生エネルギーを使うRE100に対応する。電気や用水など半導体生産に必要なインフラ設備投資の一定割合を政府が支援することも公約した。現在の半導体設備投資に関わる税額控除は一時的なもので2024年末と期限が定められている。共に民主党は期間を延長し民間の投資を誘導するとしている。

 ただし国民の力の補助金は財源をどうするのか、共に民主党のハブ構築はいつどのように構築するのかといった細部の計画をまだ公開していない。

 章恩=(ITジャナリスト)

 

(NIKKEI TECH)

2024. 4.

 

-Original column

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00106/

サムスン電子が「数年内に半導体世界1位」復活宣言、AIアクセラレーターとHBM3Eで

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韓国Samsung Electronics(サムスン電子)が2024年3月20日に同国水原市コンベンションセンターで開催した第55期株主総会において、副会長のハン・ジョンヒ氏は「未来核心キーワードであるAI(人工知能)・顧客経験・ESG(環境・社会・企業統治)のイノベーションを続け、多様な新製品、新事業、新ビジネスモデルを発掘できる組織と推進体制を強化する」とした。



 今年の株主総会は初めて経営陣が少額株主と対話する時間を設けた。質問やコメントが集中したのは半導体部門である。「SK hynix(SKハイニックス)は赤字でも株価が上がっているのにサムスン電子はどうして株価が上がらないのか」「AIの到来は既に10年も前から予想されていたのにチャンスを逃した。これからもう少し未来を見据えた経営をしてほしい」と厳しいコメントをする株主がいて、経営陣らが「半導体は2024年1月から黒字であり、競争力を回復して業況の影響をあまり受けない事業にする」と説明する場面もあった。

 サムスン電子の半導体事業は2023年の実績悪化により半導体世界1位の座を米Intel(インテル)に譲った。市場調査会社の米Gartner(ガートナー)によると、2023年の半導体売り上げはインテルの487億米ドルを筆頭に、第2位がサムスン電子の399億米ドル、第3位は米Qualcomm(クアルコム)の290億米ドルだった。

 サムスン電子の半導体部門を統括する社長のキョン・ゲヒョン氏は、2024年は同社が半導体事業を始めて50年になる年であり、未来を切り開く成長の年であるとして、半導体の競争力を取り戻すとした。2024年2月に公開した業界最大容量の12段積層で36Gバイトの第5世代HBM3E(広帯域幅メモリー、High Bandwidth Memory)を中心に市場を先導し、2~3年内に半導体世界1位を取り戻すとも宣言した。ファウンドリー事業はGAA(Gate-All-Around)基盤3ナノメートル工程でモバイルAPの安定的な量産を開始し、2025年にはGAA基盤2ナノメートル先端工程の量産を可能にするという。2030年まで器興(キフン)次世代半導体R&D団地に20兆ウォン(約2.3兆円)を投資し、半導体研究所を質・量ともに2倍に育てるとした。

 また、AIアクセラレーター「MACH-1 Inference (推論)Chip」を開発していることを公式に発表した。AIアクセラレーターはAIの計算処理を高速化するための専用ハードウエアである。MACH-1はAIの学習速度を高めるGPU(Graphics Processing Unit)とメモリーの入出力間で発生するボトルネックをアルゴリズムで8分の1に減らし、電力効率を8倍向上させたSoC(System on a chip)という。キョン氏によると、現在のAIシステムはメモリーのボトルネックにより性能の低下とパワーの問題があるという。MACH-1はHBMより安価で電力効率の高い汎用メモリーでもAIアクセラレーターを実装できるようにした。

 韓国ではMACH-1が商用化されれば、軽量AIチップとして業界のゲームチェンジャーになると話題になった。キョン氏は「MACH-1の技術検証が終わってSoCの設計に取りかかっている。年末には実際にチップを造り、2025年初頭にはMACH-1チップで構成したシステムを公開できるだろう」と説明した。サムスン電子は韓国と米国にAGI(Artificial General Intelligence、汎用AI)コンピューティングラボを新設済みで、MACH-1の開発を行っている。サムスン電子はAIアーキテクチャーの根本的なイノベーションを推進すると意気込んでいる。

 

 章恩=(ITジャナリスト)

 

(NIKKEI TECH)

2024. 3.

 

-Original column

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00105/

MWC 2024は「5GよりもAI」の韓国大手3キャリア、全集中で脱・通信依存

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 2024年2月26日から29日にかけてスペイン・バルセロナで開催された世界最大級のモバイル関連見本市「MWC 2024」。日本の携帯電話事業者(キャリア)や中国の華為技術(ファーウェイ)が5G(第5世代移動通信システム)を拡張した5G-Advancedや5.5G、次世代の6G(第6世代移動通信システム)に関連した技術を展示する中、韓国のキャリア3社はAI(人工知能)に集中した。

 韓国政府は家計に占める通信費支出の軽減を目指し、キャリア3社に何度も料金の引き下げを要求している。奨励金を規制していた「移動通信端末装置流通構造改善に関する法律(端末流通法)」を廃止する計画で、0ウォン端末の販売や加入者を奪うためナンバーポータビリティーを利用する際には奨励金を上乗せすることについても問題ないとしている。3社は通信よりその他のサービスで利益を上げるため、韓国Samsung Electronics(サムスン電子)のオンデバイスAIスマートフォン「Galaxy S24」の発売に合わせ、それぞれAIでサービスの差別化を狙っている。

 最大手の韓国SK Telecom(SKテレコム)は以前から「グローバルAIカンパニー」になると宣言しているだけに、MWCでは「通信キャリアのためのAI」をテーマにTelco LLM(Large Language Models、キャリア向け大規模言語モデル)とAIサービスを展示した。同社は汎用LLMではなくTelco LLMを利用することで通信業務の理解度が高まり、利用者の意図もよく把握できるとする。これにより、新規サービスの企画やAIコールセンターの運営、顧客管理、マーケティングなどもより的確に行えるようになるという。今の課題である利益の伸び悩み、インフラ投資・運営費用の上昇、イノベーションの停滞を克服するためにもAIは欠かせないという。

 SK TelecomはTelco LLMを利用したサービス事例として、AIコールセンターやAIアプリ、AI半導体を展示した。AIコールセンターは基本的な対応を人に代わってAIが処理し、オペレーターが対応する際もどう応えるべきかをAIが社内文書を検索して提示する。AIアプリは通話内容を録音して要約する。こうしたAIサービスを支えるのがAIサービスモデル開発企業やデータセンター事業者に向けたAI半導体「SAPEON X330」である。系列会社であるSAPEONが開発し、台湾積体電路製造(TSMC)の7nm世代プロセスで生産する。SK Telecomは同チップをAIカンパニーになるために必要なAIインフラと位置づけており、AIを誰もが安価に利用できる社会作りを目指してSAPEONの性能向上を続けるという。

 さらに同社はMWC 2024の会場で、ソフトバンク、ドイツのDeutsche Telekom(ドイツテレコム)、中東のe&(イーアンド)グループ、東南アジアのSingtelグループと「Global Telco AI Alliance(GTAA)」の創立総会を開催した。2024年内にジョイントベンチャーを設立してTelco LLMやAIサービスの開発で協力する。開発するAI言語モデルは韓国語・英語・日本語・ドイツ語・アラビア語の5カ国語をはじめ、世界中の多様な言語を支援する。GTAAのメンバーによるサービス地域と加入者数は世界50カ国の約13億人に上る。SK Telecom はGTAAに参加するキャリアを増やすことや、グローバルAIエコシステムの主導権を確保することに意欲的だった。

 

 章恩=(ITジャナリスト)

 

(NIKKEI TECH)

2024. 3.

 

-Original column

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00104/

韓国モバイル業界で奨励金競争再び、端末流通法廃止で家計支出の通信費負担を緩和

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日本では2023年末にスマートフォンの過度な安売りを防ぐ狙いで端末の値引き規制が強化されたばかりだが、韓国では逆の法改定が始まろうとしている。韓国の大統領室、科学技術情報通信部(「部」は日本の「省」に当たる)、放送通信委員会は、家計支出に占める通信費の負担を緩和するために、「移動通信端末装置流通構造改善に関する法律(端末流通法)」の廃止を推し進めようとしている。

 端末流通法は2014年に携帯電話事業者(キャリア)3社、具体的にはSK Telecom(SKテレコム)、KT、LG U+(LGユープラス)による奨励金競争を制限するために生まれた法律である。実際には端末の販売奨励金に制限を設けた。当時韓国では、キャリア3社と端末メーカーの奨励金競争により、同じ機種・同じ料金プランでも販売代理店ごとに端末価格や加入条件が全く異なることが問題になっていた。ある代理店はSNSで0ウォン端末の広告を流し、深夜に先着順で販売するなど、同じ端末なのに大きな価格差が生じていた。そこでキャリア3社の競争軸を奨励金から通信料金やサービスに誘導し、誰もが平等に安価な携帯電話端末を利用できるようにするという趣旨で端末流通法が施行された。

 一方、端末流通法によりキャリア3社の営業利益は伸び続けた。販売手数料やマーケティング手数料が3社とも減少し、携帯電話端末の価格も上昇したからだ。例えばシェア1位のSKテレコムの販売手数料は2014年の3兆3595億ウォンから2023年は2兆8706億ウォンに減少した。端末流通法により競争がなくなったことから、サービス開発のための研究開発費用も減少してしまったと指摘する意見もある。「端末流通法は実質、割引禁止法となってしまった。携帯電話端末を安く購入できる機会を国が奪った」と批判する声も大きくなった。

 こうした声を受けてか、2024年1月22日に大統領室はまず、同年2月中に端末流通法施行令の改定に着手すると発表した。同法の廃止には国会での議論が必要で時間がかかるためだ。

 同年2月21日には放送通信委員会が端末流通法施行令改定に関する会議を開催し、施行令にある奨励金を差別的に支給してはならないという条項に新たな例外基準を設けることで、キャリア3社と代理店が期待収益に応じて自律的に奨励金を決められるようにするとした。端末流通法で定めている奨励⾦の代わりに、通信料⾦を24カ⽉の間、25%割り引く選択ができるという条件は、将来、端末流通法が廃⽌された後にも割引が維持されるよう電気通信事業法を改定するという。こうすることで、キャリア3社が奨励金でユーザーを差別するような行為ができないようにする。

 現在は端末流通法により、機種変更でも携帯電話番号ポータビリティー(MNP)でも奨励金は同じとなる。だが、「期待収益に応じて」という例外基準ができたことで、過去にもあったように、MNPの奨励金を高く設定して加入者を奪い合う可能性が出てきた。MNPの利用件数は奨励金競争が盛んだった2013年までは年間1000万件以上あったが、2014年に約800万件、2018年は約500万件、2022年には約400万件に減少した。このようにMNPの利用件数が減り、市場シェアは固定され、キャリア3社が競争する理由がなくなり端末価格が高くなって国民が不便な思いをしている、というのが大統領室、科学技術情報通信部、放送通信委員会の見解である。

 こうした政府の意向を受けたかのように、同年1月26日に発売された韓国Samsung Electronics(サムスン電子)のスマートフォン「Galaxy S24」は発売からわずか10日後に奨励金を2倍に増やした。通常、奨励金を値上げするのは、発売から3カ月以上が経過し在庫を減らしたい時期になったら、である。発売したばかりの新機種の奨励金がすぐに2倍になるのは初めてである。

 

 章恩=(ITジャナリスト)

 

(NIKKEI TECH)

2024. 2.

 

-Original column

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00103/

韓国に誕生した第4の携帯電話事業者、大手3社が投げ出した5Gミリ波の専業サービス

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2002年から実に22年もの間、KT、SK Telecom(SKテレコム)、LG U+(LGユープラス)の大手3社による寡占状態が続いている韓国のモバイル市場。ついに、第4の携帯電話事業者が誕生した。同国のICT(情報通信技術)政策を担当する科学技術情報通信部(「部」は日本の「省」に当たる)は2024年1月31日、5G(第5世代移動通信システム)の周波数オークションにおいて、企業コンソーシアムのStage X(ステージX)がミリ波と呼ばれる28GHz帯の免許を4301億ウォン(約3億2000万米ドル)で落札したと発表した。科学技術情報通信部は2010年から第4の携帯事業者を誕生させようと7回に及ぶ新規参入事業者の募集を繰り返してきた。今回、ステージXが新規参入を果たしたことで、いわゆるナマズ効果†をもたらすとの期待がかかる。

†ナマズ効果(catfish effect)=異質な存在が登場することで活気が出ることの例え。

 ステージXは、2017年にMVNO(仮想移動体通信事業者)サービスを開始したStage Fiveのほか、Shinhan Financial(新韓投資証券)、KAIST(国立韓国科学技術院)、延世医療院(大学病院)、衛星アンテナ大手のIntellian Technologies(Intelliantech)が参加する韓国ローカルのコンソーシアムである。Stage Fiveは韓国のインターネットサービス大手であるKakao(カカオ)グループに属していたが、今回のオークション入札前にコンソーシアム参加企業から8000億ウォンの投資を誘致して独立した。

 韓国における5Gミリ波の周波数オークションは今回が初めてではない。1回目は2018年6月に実施され、大手3社がサブ6(6GHz未満の周波数帯)と呼ばれる3.5GHz帯の帯域幅280MHzと、28GHz帯の同2400MHzの電波を落札した。このときの28GHz帯の平均落札価格は2074億ウォンと、ステージXの4301億ウォンに対して半分以下の金額だった。

 それでも大手3社は5Gミリ波の商用サービスを成長させることができなかった。2022年11月の時点で、28GHz帯の割り当ての条件であった基地局建設計画を3社とも達成できず、科学技術情報通信部は同年12月にKTとLGユープラス、2023年5月にはSKテレコムの電波割り当てを取り消した。

 科学技術情報通信部は2023年7月、回収した28GHz帯を第4の携帯事業者に割り当てるための通信市場競争促進方案を発表し、周波数オークションの最低入札価格を742億ウォンに設定した。同年11月から12月にかけて新規参入事業者を募集したところ、Sejong Telecom(セジョンテレコム)、My Mobile Consortium(マイモバイルコンソーシアム)、ステージXの3社がオークションに名乗りを上げた。ところが同年1月25日のオークション初日にセジョンテレコムが降りてしまい、残り2社が激しく入札を繰り返した結果、落札価格は当初よりも3559億ウォンも高い4301億ウォンまで跳ね上がってしまった。

 章恩=(ITジャナリスト)

 

(NIKKEI TECH)

2024. 2.

 

-Original column

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00102/

韓国とオランダが政府・企業・大学をつなぐ半導体アライアンス、ASMLとパイプ構築

 韓国とオランダが半導体に関するアライアンスを構築する。オランダを国賓訪問した韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は2023年12月13日(現地時間)、ハーグでマルク・ルッテ首相と首脳会談を開催し、韓国とオランダは政府・企業・大学をつなぐ半導体アライアンス(Semiconductor Alliance)を構築すると発表した。目標は世界最高の「超格差」を作ることにあり、両国は半導体のサプライチェーンで問題が発生した際には共同対応する。

 韓国とオランダは経済安保に関する対話などを設けて情報を緊密に共有、半導体サプライチェーンの脆弱な要素を補完し、人材養成も協力するという。この他にサイバーセキュリティーや国防分野でも緊密に協力することにした。尹大統領は、「半導体は産業としてだけでなく安保のためにも重要な分野」として、半導体産業のさらなる成長のために政府の支援を惜しまないという立場である。

 尹大統領とサムスン電子の李在鎔(イ・ジェヨン)会長、SKグループの崔泰源(チェ・テウォン)会長はオランダの半導体製造装置大手ASMLの本社も訪問した。この場にはオランダのウィレム・アレキサンダー国王も同席した。ASMLは最先端半導体の生産に欠かせない極端紫外線(EUV)露光装備を独占製造している会社であり、世界の半導体メーカーはASMLの装備を1台でも多く確保するため親密な関係を築こうとしている。ASML側は半導体技術の難易度が上がり開発費用も急騰しているだけに、政治・経済・人材の全てを含めて国と国との協業が重要になってきたとして韓国との協力を歓迎していた。



 章恩(ITジャナリスト)

 

(NIKKEI TECH)

2023. 12.

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https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00101/

メモリー需要がオンデバイスAIで急増か、Galaxy S24に新型DRAM搭載の予測

沈滞していたメモリー半導体市場が再び上昇を始めた。在庫過剰で値段が下がり続けていたDRAMとNANDの取引価格は2023年10月と11月の2カ月連続で上がった。DRAMとNANDの大手企業である韓国Samsung Electronics(サムスン電子)と韓国SK hynix(SKハイニックス)のメモリー事業は急回復し、2023年10~12月の決算は大幅に好転すると韓国の証券業界は見込む。

 同証券業界は、サムスン電子とSKハイニックスの好況は一過性ではなく、2024年以降も続くと見込んでいる。人工知能(AI)ブームを受けてAIサーバーに搭載する高性能のHBM(High Bandwidth Memory)やオンデバイスAI向けのDRAM需要が急増するとともに、この需要は今後も旺盛だからだ。

 サムスン電子とSKハイニックスもメモリー半導体が好況サイクルに入るとみて準備は万全だ。サムスン電子はHBMの生産能力を2024年は現在の2.5倍にするために、設備投資を増やすとしている。SKハイニックスは2024年に生産予定のHBMまで売り切れ状態で、HBM設備投資額を2024年は現在の1.5倍に増やすという。

 台湾のリサーチ会社TrendForceが12月5日(現地時間)に発表したデータによると、2023年7~9月グローバル市場のNANDフラッシュ市場規模は前期より2.9%増加した92億2900万米ドルだった。NANDフラッシュメーカー各社が減産を迫られていた状況から一気に様相が変わってきた。NANDフラッシュのグローバルシェアはサムスン電子が依然として1位(31.4%)だが、キオクシアのシェアが減少したことによりSKグループ(SKハイニックスと子会社のSolidigm)が1年ぶりに2位(20.2%)になった。TrendForceによると、DRAMもモバイル向け・PC向け・サーバー向け全てで価格が上昇して出荷量も増えていて、交渉の主導権が半導体企業に戻ってきたという。

 章恩(ITジャナリスト)

 

(NIKKEI TECH)

2023. 12.

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https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00100/

韓国ディスプレー産業の輸出回復、サムスンディスプレイはマイクロOLEDに注力

韓国の科学技術情報通信部(「部」は日本の「省」に当たる)の統計によると、2023年10月のICT(情報通信技術)分野の輸出額は前年同月比4.5%減の170.6億米ドルだった。貿易黒字は暫定44.4億米ドルである。韓国の主力輸出品目であるディスプレーはモバイル向け有機EL(OLED)が好調で、同13.1%増となった。メモリー半導体は同1%増となったものの、他の品目は世界市場の需要減少により軒並みマイナスとなった。システム半導体は同7.4%減、携帯電話が同3.3%減、コンピューター・周辺機器が同26.2%減、通信装置は同23.4%減だった。

 輸出が回復しているディスプレーだが、韓国ディスプレー産業協会によると、ディスプレー世界市場は中国企業が韓国に追い付いている。中国企業を引き離すため韓国は、液晶ディスプレー(LCD)を諦めて有機ELに集中している。

 2023年11月13日、香港では韓国Samsung Electronics(サムスン電子)の投資フォーラムが開催された。世界の機関投資家を集めてサムスン電子と系列会社の技術を紹介する場である。ここで最も注目されたのがSamsung Display(サムスンディスプレイ)である。同社は投資家に向け「他のディスプレー事業者は赤字だが当社は黒字。モバイル向け有機EL世界市場シェアは70%に達し、革新的な特許を確保した」と説明した。実際、同社の営業利益は過去最高を記録した2022年を超える勢いである。また2013年に1度は撤退したテレビ向け大型有機EL市場に再進出し、マイクロディスプレーと車載ディスプレーの有機EL市場も開拓し、2030年に有機ELだけで売上高500億米ドルの達成を目指している。同社によると、世界の有機EL市場規模は2023年の450億米ドル規模から2030年には1000億米ドル規模になると見込んでおり、その半分を獲得する狙いである。

 サムスンディスプレイが注目するマイクロディスプレーはピクセルの大きさが数十μmと非常に小さい微細なパネルである。小さなパネルでも高い解像度を実現できる。そのため通常のサイズのディスプレーとは異なる半導体の超微細工程が必要とされる。シリコンウエハーに有機ELを蒸着させたOLEDoS(OLED on Silicon)の開発及び製造のため、サムスンディスプレイは2023年11月1日、サムスン電子に391億ウォンを支払って、通常実施権を買い取った。これにより、サムスンディスプレイはOLEDoSの開発に必要なサムスン電子の半導体工程における技術を利用できる権利を得た。

 章恩(ITジャナリスト)

 

(NIKKEI TECH)

2023. 11.

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https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00099/