[日本と韓国の交差点]「完全に新しい韓国」、文在寅大統領への期待

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朴槿恵前大統領が弾劾、罷免されたため7カ月前倒しで行われた韓国大統領選挙で、文在寅(ムン・ジェイン)候補が当選した。文氏は「完全に新しい韓国」をスローガンに掲げ、「不正腐敗を繰り返してきた積弊勢力を清算する」「原則と常識が通じる国らしい国を作る」と強調してきた。

 文氏の得票率は41%、朴前大統領を擁護し保守票を集めた自由韓国党のホン・ジュンピョ候補(24%)に558万票の差をつけて勝った。世論調査はずっと、文氏が40%以上の支持を得て当選すると予測していた。1位と2位の票差は歴代最多である。2012年12月の大統領選挙で文氏が朴氏に敗れた時の票差は約108万票差だった。

 今回の大統領選に出馬した候補は15人(2人は途中棄権)。そのうち、主な政党の代表者である5人が票を争ったため票が割れた。今までの大統領選挙は保守派の代表と進歩派の代表、2人のうちどちらかが当選するパターンだった。

20 ~40歳代で強い支持

 中央選挙管理委員会の発表によると投票率は暫定77%。前回(76%)より1.4%ポイント上昇した。史上初の事前投票(身分証さえ持っていれば全国どの投票場でも投票可能。指紋認証も併用する)と補欠選挙のため投票時間を2時間延長したことが投票率を上げた。

 地域別開票結果をみると、朴前大統領の地元である大邱市、慶尚北道はホン候補の得票率の方が高かった。慶尚南道も、わずかではあるがホン候補が優勢だった。ただし、その他の地域では文氏が1位だった。

 地上波放送局3社が共同で実施した出口調査結果によると、全国の20~50代が文氏を支持した。文氏の得票率は、20代(19歳含む)48%、30代57%、40代52%、50代37%、60代25%、70代以上23%。ホン氏は60代46%、70代以上51%とシニア層からは圧倒的に支持された。

 韓国では複数のメディアが「20~30代の若者がろうそく集会と弾劾、今回の大統領選挙を通じて、国民が政治に関心を持って声を出せば国を変えられることを経験した。1987年民主化運動を経験した50代とろうそく集会を経験した20~30代が韓国を変える改革勢力になるだろう」と分析した。

「国民だけを見て正しい道に進みます」

 文氏は9日深夜、当選確定を受けて、以下のあいさつをした。

 「本当にありがとうございます。国らしい国を作るため一緒に歩んできた偉大な国民の偉大な勝利です。新しい大韓民国のため他の候補とも手をつなぎ一緒に前進します。私は国民すべての大統領になります。私を支持しなかった国民も大事にする統合の大統領になります」

 「尊敬する国民の皆様。国民の切実な望みと念願、絶対に忘れません。正義の国、国民が勝つ国を必ず作ります。常識が通じる国らしい国を必ず作ります。渾身の力を込めて新しい国を必ず作ります。国民だけを見て正しい道を進みます。偉大な大韓民国、正義の大韓民国、堂々とした大韓民国、その大韓民国の誇らしい大統領になります」

「何よりも雇用を大事にし、同時に財閥改革もします」

 5月10日午前8時、中央選挙管理委員会は全体会議を開き、文氏の当選確定を公式に発表した。今回の大統領選挙は補欠選挙に当たるため、大統領就任式や大統領間の引き継ぎはない。

 文氏の大統領としての任期は中央選管の発表直後から始まった。8時10分頃には韓国軍の最高位であるイ・スンジン合同参謀議長が文大統領に軍の状態を電話で報告。文大統領は「大統領としてわが軍の力量を信じている。国民の安全のために万全を期してほしい」と応じた。

 午前9時には自宅がある西大門の住民に見送られ家を出た。午前10時には歴代大統領の墓地がある国立ソウル顕忠院(国立墓地)を参拝。その後、国会に到着して国会議長と歓談。野党になった自由韓国党のほか、国民の党、正しい政党、正義党を訪問して党代表と歓談し、「野党と随時議論し、協治する。国政に協力してほしい」と伝えた。

 正午には国会で大統領就任宣誓を行った。その後「国民への言葉」として以下のように述べた。

 「2017年5月10日は真正な国民統合が始まった日として歴史に残るでしょう」

 「旧時代の間違った慣行と決別します。権威的大統領文化を清算します。国民とコミュニケーションします。国民と目線を合わせる大統領になります」

 「安全保障に関わる問題を急いで解決します。必要ならすぐワシントンに飛んでいきます。北京と東京にも行きます。条件が整えば平壌にも行きます。韓米同盟はより強化します。THAAD問題解決のため米国および中国と真摯に交渉します。自主国防力強化のため努力します」

 「分裂と葛藤の政治も変えます。国内外は厳しい経済状況です。何よりも雇用を大事にし、同時に財閥改革もします。文政府の下では政経癒着という言葉が完全に消えてなくなるでしょう。差別のない世の中を作ります。機会は平等に与え、選抜課程は公正に、結果は正義に満ちたものにします」

 「この大統領選挙は前任大統領の弾劾によって行われました。不幸な歴史は終息すべきです。私は大韓民国の大統領の新しい模範になります。清廉な大統領になります。国民の誇りになります。約束を守る正直な大統領になります。公正な大統領になります。特権と反則のない世の中を作ります」

 「2017年5月10日、大韓民国は新たなスタートを切ります。私は命を注いで働きます」

By 趙 章恩

 日経ビジネス

 2017年5月

-Original column

http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/215834/051100063/

[日本と韓国の交差点] 韓国大統領選、安哲秀氏の支持率が上がった理由

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5月9日に行われる第19代・韓国大統領選挙まで、残り1カ月を切った。

 北朝鮮は弾道ミサイルを再び発射。米中首脳会談で、北朝鮮の核・ミサイル開発の解決に向けて協力を強化することに両国首脳が合意した。

 海の上の軍事基地と呼ばれる米海軍の航空母艦カール・ビンソンは4月8日、シンガポールからオーストラリアに向かう計画を変更し、再び朝鮮半島に向かった。北朝鮮に対して存在感を示すためだ。同空母は3月15日から2週間、韓米連合軍事訓練のために釜山港に入港していた。

 韓国内では、大統領不在による外交・安保の停滞が深刻に受け止められている。その影響からか、大統領候補の支持率にも変化が表れ始めた。

 19代大統領選挙には、各党から選ばれた5人が出馬している。進歩派は、共に民主党のムン・ジェイン(文在寅)候補と正義党のシム・サンジョン候補が。保守派からは、自由韓国党のホン・ジュンピョ候補と正しい政党のユ・スンミン候補が。そして進歩と保守の間にある中途派からは国民の党のアン・チョルス(安哲秀)候補が立った。

 各新聞とテレビ局が4月9日に行った世論調査では、文在寅氏と安哲秀氏の支持率がほぼ拮抗。安哲秀氏の支持率の方が高いと報道するメディアもあった。今までは文在寅氏が圧倒的な支持を集めていた。

 複数の韓国メディアは、「20~40代が支持する文在寅氏と50~60代が支持する安哲秀氏の競争になった」と報道している。完全な進歩派か、保守と進歩の間にある中途派か、の選択になった。

 50代以上の根強い保守支持層が安哲秀氏を支持し始めたことから、同氏の支持率が急上昇しているという。保守派支持層は、保守派の候補が当選する可能性はないので、次善の選択として安哲秀氏を支持している。進歩派だけど、文在寅氏は支持しないという人達がこれに加わった。

 文在寅氏は学生時代に民主化運動に参加した。弁護士出身で、故ノ・ムヒョン大統領の秘書室長、共に民主党の党代表を歴任した。安哲秀氏は元医者。パソコンのウィルス退治ソフトを開発しベンチャーを立ち上げた起業家でもある。KAIST(Korea Advanced Institute of Science and Technology)・ソウル大学教授、国民の党の元共同代表を歴任した。

 2人とも2012年の大統領選挙には、進歩派の大統領候補として出馬した。進歩派支持層の票が分散するのを避けるため候補を一本化しようと安哲秀氏が選挙前に候補を辞退。朴槿恵前大統領と文在寅氏の一騎打ちとなった。進歩派候補だった2人が今回、ついに大統領選挙でぶつかることになった。

 文在寅氏と安哲秀氏は12年には同じ進歩派の候補だったが、現在は正反対のイメージになった。文在寅氏はセウォル号事件の被害者家族と一緒に断食をしたり、ろうそく集会に熱心に参加したり、庶民の味方というイメージを築いた。

 保守支持層からは「親北で過激な人」と見られている。「財閥改革」「積弊を清算する」「大統領になったら金剛山観光を再開、開城公団を拡大する。北核問題を解決するためには対北経済協力が必要で、これは韓国企業の利益にもなる」などを主張してきたからだ。

 一方の安哲秀氏は成功した起業家で学者、エリートのイメージが強い。保守派の「『正しい政党』とも手をつないで協治する」と発言したことから保守支持層にとって受け入れやすい人物といえる。

By 趙 章恩

 日経ビジネス

 2017年4月

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http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/215834/041100062/

[日本と韓国の交差点] セウォル号が韓国社会に生んだ新たな分断

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3月25日夜9時過ぎ、韓国海洋水産部(韓国の「部」は日本の「省」)はセウォル号の船体引き揚げに事実上成功したと発表した。2014年4月16日、修学旅行に行く高校生325人と教師14人、その他乗客104人、乗組員33人合わせて476人を乗せて済州に向けて仁川港を出たセウォル号は、韓国南西部にある珍島周辺の海で沈没、死亡295人、行方不明9人という大惨事となった。

 それ以来1075日ぶりに船体が海の上に姿を現した。25~26日には、事故現場から最も近い彭木(ペンモク)港を多くの人が訪れた。被害者を追悼するためだ。

 海洋水産部は3月22日からセウォル号の船体引き揚げに取り掛かっていた。依然として明らかになっていない事故の原因究明と、9人の行方不明者の遺体を探すためである。船体引き揚げが決まり業者が選定されたのは2015年8月だが、天候や技術的な問題から準備作業が長引き、実際の引き揚げ作業を開始するまでに時間がかかった。

 船体の引き揚げ作業を担当するのはShanghai Salvage中国交通省が所有する国営企業だ。2015年8月に実施された国際入札で選ばれた。落札後、約350人の作業員が珍島の海上に建てたコンテナーで寝泊まりし1日3交代で作業をしてきた。

 海洋水産部によると、韓国政府がShanghai Salvageに支払う費用は、当初予定の916億ウォン(約92億円)から膨張している。引き揚げが難航したことで作業期間が長くなったからだ。途中で引き揚げ方法も変更。この結果、費用は2000億ウォン(約200億円)に及ぶことになりそうだ。複数の韓国メディアによると、Shanghai Salvageはセウォル号引き揚げによる利益より、「難度の高い引き揚げを成功させた企業」として認知される宣伝効果を重視しているという。

 引き揚げられた船体は海水を抜く作業をしたのち、木浦(モクポ)新港に移動。事故の原因究明と行方不明者の遺体捜索に本格的に着手する。船体調査委員会が10カ月ほどの時間をかけて調査することも決まった。同委員会は、国会が推薦した専門家5人と、遺族が推薦した専門家3人で構成される。

CNNは「national trauma」と位置づけた

 セウォル号の船体引き揚げが始まった3月22日、CNNやAFPなど世界各国のメディアも作業の状況を詳しく報じた。CNNはセウォル号大惨事を以下のように説明しながら、「National trauma」と位置づけた。

 2014年4月16日、セウォル号の中に300人近い高校生たちが残されたまま沈没していくのを、全国民がテレビの生中継で見た。沈没し始めた船内で客室の窓を割ろうと必死になっている人の姿も映っていた。セウォル号の船長と乗組員は「動くな、客室内で待機せよ」と案内放送した後、自分たちは真っ先に逃げた。

 大人の言う通り、客室内にいた高校生らは、危険な状況に気付くことなく、傾き始めた船の中で楽しそうにはしゃぐ動画を残した。それが徐々に、助けを求める動画に変わり、親兄弟に最後のメッセージを残す動画に変わった。「どうして客室に残れと言ったのか」「なぜ助けられなかったのか」と怒りを感じない人はいなかっただろう。

 生存者の証言によって、救助活動が常識的には考えられないほど疎かだったことが判明した。子供たちを「助けられなかった」「何もできなかった」という心の負債が、テレビでセウォル号が沈むのを見た人達にいまでも残っている。セウォル号で犠牲になった子供たちのことは、船体引き揚げに関する記事のコメント欄やSNSだけでなく、日常の会話の中でもよく話題になり、みんな忘れることができないように見える。セウォル号大惨事はまさにナショナルトラウマである。


By 趙 章恩

 日経ビジネス

 20173

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http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/215834/032700061/

[日本と韓国の交差点] 朴氏の「真実は明かされる」発言に怒り沸騰

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韓国の憲法裁判所は3月10日、裁判官8人全員が賛成して弾劾訴追案を「認容」する判決を下した。判決主文には「被請求人である大統領・朴槿恵を罷免する」と書かれた(請求人は国会と国会訴追委員法制司法委員長)

 弾劾の判決は言い渡されると同時に効力が発生するので、3月10日11時20分をもって朴槿恵氏は前大統領になった。朴氏は、自宅の修理が終わっておらず、警護体制もまだ整っていないとの理由で、判決から2日経った3月12日午後7時過ぎに大統領官邸を出た。記者会見をすることも、公式コメントを残すこともなかった。朴氏は韓国で初めて罷免される大統領になってしまったが、自宅前に集まった支持者らには嬉しそうな笑顔を見せた。

 大統領官邸報道官だった自由韓国党(前セヌリ党) のミン・キョンウク議員が取材陣に明かしたところによると、朴氏は自宅前で出迎えた「親朴」と呼ばれる議員らに「時間はかかるが、真実は必ず明かされると信じている」とのメッセージを残したという。主な韓国メディアは朴氏のこの発言を「(朴氏が)憲法裁判所の判決に事実上不服を申し立てた。判決に不満を示した」と大々的に取り上げた。

野党は一斉に批判

 この発言が報道された後、3月12日夜から、野党側は朴氏を一斉に批判した。共に民主党のユン・クァンソン報道官は、「朴氏は最後まで自身の国政壟断(朴氏が、友人であるチェ・スンシル氏の国政介入と不正蓄財を助けたとされること)は認めたくないようだ。憲法裁判所による弾劾認容をいまだに不服としているようで遺憾である」とコメントした。

 国民の党のチャン・ジンヨン報道官は、「朴氏が憲法裁判所の判決を承服し、国民の統合に寄与することに期待した。しかし、やはりむなしい期待だった。最後の最後まで『真実は必ず明かされる』云々と語り、憲法裁判所の決定を不服としたのは遺憾である。自分の過ちをわかっていないのは、朴氏個人にとって不幸であるだけでなく国家にとって不幸だ」と論評した。

 保守派の正しい政党(セヌリ党から脱党した議員らが所属)のチョウ・ヨンヒ報道官は、「(朴氏が)憲法裁判所の判決を尊重し、(弾劾を求める国民とそうでない国民を)統合するようメッセージを残すと期待した。だが、分裂と葛藤が続く余地を残したのは遺憾である。それも、自らの口からではなく、代理人の口からだった。朴氏は憲法裁判所の決定を厳粛に受け止め、その結果を尊重すべきである」と論評した。

 自由韓国党(前セヌリ党)は、特別な論評を残さなかった。イン・ミョンジン非常対策委員長が、判決が下った直後に記者会見を開き、次のように述べるにとどめた。「憲法裁判所が弾劾を認容する決定を下したことに対して、自由韓国党は責任を痛感している。与党としての責務を果たすことも、今まで国民が築いた韓国の国格(国の品格)を守ることもできなかった。国民の皆様に心から謝罪する」

 弾劾裁判の請求人である国会弾劾訴追委員長クォン・ソンドン議員(正しい政党所属)は、「法治主義と国民主権を確認できた判決」と評価した。大韓民国憲法第1条2項には、「大韓民国の主権は国民にあり、全ての権力は国民から生じる」と書いてある。


By 趙 章恩

 日経ビジネス

 20173

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http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/215834/031400060/

[韓国ソーシャルイノベーション事情] キャッシュレス社会で韓国の銀行が大変身 カフェ併設に移動型店舗も登場

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 この頃ソウル市内には銀行らしくない銀行が増えている。

 銀行とカフェが提携してテーブルを挟んで銀行窓口とカフェがあったり、デパートの中に支店がありデパートの営業時間に合わせて20時まで通常業務を行ったり、銀行と証券会社が一緒に支店を運営したり、銀行の通常営業時間は9時から16時のところを、銀行員のフレックス勤務制度を導入して12時から19時まで営業する支店もできた。

 大手金融グループの一つであるウリ銀行の一部支店は、銀行兼カフェとして営業している。ウリ銀行によると、店舗を借りる費用を節約でき、支店を利用する顧客も以前に比べ10%ほど増えたという。顧客はカフェの中に銀行があるという感覚で利用しているそうだ。

 デジタルキオスクと言って、ATMと遠隔相談用のモニター、スキャナーが一つになった機械で時間に関係なく窓口同様のサービスを受けられるコーナーも登場した。モニター越しに相談員が登場するので、手続きだけでなく、最近の金利はどうなのか、資産運用のため投資できる商品にはどういうのがあるかといった金融相談もデジタルキオスクから利用できる。シンハン銀行は、デジタルキオスクをコンビニの中に設置し、口座開設、デビットカード発行、振り込みなどあらゆる業務を利用できるようにしている。

 韓国の銀行では、印鑑なしで署名だけでも取引ができる。銀行口座の開設や各種書類に印鑑を押すことをやめて「デジタル署名」に切り替えたからだ。もちろん、印鑑を使い続けることもできるが、デジタルキオスクでは利用者が身分証や必要な書類をスキャナー経由で送信し、デジタル署名で手続きを行う。

 日本も似たような状況だと思うが、韓国では銀行員の仕事は窓口を閉めてから始まると言われている。銀行員の仕事の中には、各種書類を印刷して保存する、スキャンしてデジタルファイルとしても保存する、データベースにも入力するなど、書類の管理に関わる業務が非常に多く、管理費用もかかった。デジタルキオスクは利用者がセルフ方式で書類のスキャンや入力を行うので、銀行側の負担が減る。書類管理の仕事の負担が減った分、窓口の営業時間を延長することが可能になった。

 釜山銀行は、人が集まる場所に支店を開く「移動型車両店舗」を運営している。市場や公団地域などに支店のクルマが出向き、仕事の関係でなかなか銀行支店に行けない人のために、16時から夜まで営業する。利用者数に応じて営業時間や移動する場所を調整し、臨機応変に運営している。移動型ではあるが支店なので、口座開設、通帳発行、ATMカード発行、貸出、インターネットバンキング申請、外国為替の両替など、主にインターネットバンキングでは対応できないサービスを利用できる。

 韓国の銀行が変身を余儀なくされた理由は、なんといっても銀行の営業利益が落ち込んでいるからだ。低金利により銀行にお金を預ける人が減少している。政治の不安から景気も不安定で、資金を借り入れる企業も減少傾向にある。まずは支店運営費から節約してなんとかやりくりしなければ、ということなのだろう。

 もう一つは、インターネットバンキングやモバイルバンキングの普及により、銀行の店舗を訪問する利用客自体が減少していることも理由としてあげられる。みんな銀行業務をネットで済ませてしまうので、今までのように大きな支店を持つ必要がなくなりつつある。

 韓国HANA金融経営研究所の調べによると、銀行店舗数は2014年末の7,398店から2015年末には7,261店になった。137店減少している。店舗数が減ったのはソウル市を中心に首都圏ばかりなので、人口減少により利用者が減少したというよりは、他の理由が考えられる。同研究所は、インターネットバンキング・モバイルバンキング、SNSを使った個人間の振り込みといったフィンテック(金融+ICTの融合)の利用が進み、銀行の店舗に行かなくても金融サービスを利用するのに何の問題もなくなったからではないかと分析している。

 日本でもインターネットバンキングの普及が進み、銀行のATMでほとんど用事を済ませられるようになった。日本では銀行に行くと、まず何の用事か聞かれ、口座開設でもない限りATMを利用するよう案内される。日本の銀行に行くと、窓口は閑散としているのに、ATMの前には人がずらっと並んでいる光景にびっくりしたものだ。

 韓国の場合、ATMの数も減少した。韓国ではすでにキャッシュレス生活に突入しているからだ。ほぼどこでもクレジットカード払いやモバイルペイメントを利用できるので、現金が手元になくても生活に不便はない。そのためATMに行くこともあまりない。振り込みや税金納付などもンターネットバンキングやモバイルバンキングを使う。

 韓国銀行の統計によると、2014年8万7274台あった全国の銀行ATMが2015年には472台減って8万6802台になった。ATMの台数が減ったのは、統計を集計し始めた1992年以来、初めてのことである。インターネットバンキング・モバイルバンキング利用件数は2015年に年間1億2000万件余り、年平均27%ほど増加し続けている。

 日本よりは遅れたが、店舗を持たないインターネット専用銀行も認可され、来年1月営業開始の準備をしている。インターネット専用銀行とも競争するようになれば、韓国の既存の銀行はさらにまた大きく変身しそうだ。



By 趙 章恩

 

Newsweek コラム&ブログ

韓国ソーシャルイノベーション事情

 

 2016年12

[韓国ソーシャルイノベーション事情] デジタル時代だからこそ価値がある? 韓国で話題の手書き代行ビジネス

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<K-POPの人気アイドルがファンにメッセージを送る際、手書きのメッセージをSNSにアップすることが増えてきた。デジタル全盛の今、韓国では手書き代行などの代行サービスが流行。その背景には深刻な社会状況も見え隠れする──>

 最近韓国にいる時は手にペンを持って文字を書くことをしなくなった。海外に行く際に飛行機の中で入国審査カードを書くことぐらいしか手書きが必要な場面がない。メモを取る時も全てスマートフォンのメモ帳アプリに入力することに慣れてしまった。

 情報化の時代なので、企業や行政機関とはなんでもネット経由データでやりとりするし、日常生活でもスマートフォンでほとんどのことを済ませる。決済もモバイルペイメントなのでサインもいらない。

 贈り物にもパソコンで書いてプリントしたカードや手紙を付けるか、無料メッセンジャーアプリを利用してお店で商品と引き換えられるモバイル商品券とメッセージを送る。年賀状も大抵ネット上でメールアドレスか携帯電話番号宛てに送り合うので、手書きの年賀状を送る機会はほとんどない。そのせいか、最近は手書きのカードを見ると感動してしまう。

 こういう時代だからか、韓国の芸能界では「結婚します」とか「反省しています」とか、ファンに向けたメッセージを手書きし、それを写真に収めて自身のSNSに掲載するのが流行っている。

 つい先日、韓国では「K-POPアイドルご先祖様」と呼ばれる、90年代半ばから2000年代初めにかけて活躍した第1世代アイドル「H.O.T.」のリーダー、ムン・ヒジュンが結婚を発表した時も、マスコミ発表の前に、ファン宛ての手書きの手紙を写真にして自身のSNSに投稿した。以前は所属芸能事務所がマスコミに報道資料を送るか、ファンクラブ経由で知らせていたが、最近は「手書き手紙をSNSに投稿」がルールのようになっている。徴兵で軍にいるアイドルは、ファンサービスとして自筆手紙を軍のサイトに掲載する。手書きだと誠意がこもったとして、ファンにも喜ばれる。字がきれいだったり、自筆イラスト入りだったりすると、さらに人気はうなぎ上りである。

 インターネットでは手書き代行サービスというビジネスも登場した。以前から店内ディスプレイに使うPOPの手書き、メニューの手書き代行などはあったが、代行サービスとして人気があるのは手紙である。

 韓国には日本のメルカリのように、個人同士がなんでも売買できるアプリがいくつもある。そこに2011年あたりから「才能取引」、「才能販売」というジャンルが登場、手書き代行も才能取引として売り込む。

 例えばこんな感じである。

 アプリに会員登録して、売りたい商品、この場合は手書きのサンプルを写真で撮って掲載する。手書きA41枚当たりいくら、1文字当たりいくらなど、値段は販売する側が決める。購入する人はアプリ経由で支払い、アプリ側は15%ほど手数料を除いた分を取引完了後販売者に振り込む。取引完了は購入者が手書きを受け取った時である。購入者が、手書きが気に入らなければ修正も要求できる。修正回数に関するルールや手書きが気に入らなかった時の仲裁はアプリ側が行う。

 手書きは面倒だからと、ワードで書いたテキストを渡して手書きにしてほしいという単純な依頼もあるが、「別れの手紙を手書きで代筆します」、「告白の手紙を手書きで代筆します」といった販売者がいるのを見ると、単純に手書きだけでなく中身まで考えて代行してほしいという人もいるようだ。また、KPOPアイドルのライブで目立つ「手書きうちわ、手書きプラカード作成代行します」という登録者も多かった。

 才能取引には、手書きの他に、パワーポイント資料作成代行、翻訳代行、恋愛相談、毎日の衣装コーディネート、毎朝電話でギターを弾きながら歌い起こしてくれるモーニングコール、本人に代わってインターネットショッピングサイトや企業に苦情を言ってくれる代行サービス、旅行スケジュール提案など、面白い才能がたくさん登録されている。才能取引だけを専門に扱うアプリもどんどん増えている。

 韓国メディアによると、4年制大学を卒業しても正社員になれる割合が非常に低い就職難が続いたことで、失業状態の若い世代がアルバイト感覚でこうした代行サービスに登録するケースが多いという。ごく稀ではあるが、才能取引で本当に才能が開花し、起業する人もいたそうだ。


By 趙 章恩

 

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韓国ソーシャルイノベーション事情

 

 2016年12

[韓国ソーシャルイノベーション事情] どんな時にもユーモアを 朴大統領退陣デモに集まったユニークな人たち

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 韓国では毎週土曜日、朴槿恵大統領の退陣を求める集会が全国各地で行われている。ソウル市光化門周辺だけでなく、大邱、釜山、光州など、大都市の繁華街で、毎週土曜日集会が行われている。韓国の朴大統領が犯したスキャンダルとなぜ韓国人が怒っているのかについては、ニューズウィーク日本版本誌(2016-11-29号)の特集にもなった。

 欧米のメディアはもっと辛辣で、韓国の大統領が”shaman-fortune teller”の娘チェ・スンシル氏と手を組んで不正蓄財をしていたと報道している。チェ氏は民間人であるにもかかわらず、朴大統領の古い友人という立場を利用して大統領府から政府の機密文書を手に入れ国政に介入、国家予算も牛耳り不正蓄財した。韓国検察の捜査も進んでいる。検察は朴大統領を悪い友人に利用された被害者ではなく、不正に加担し不正を指示した共犯として捜査していることも明るみになった。

 韓国のオンラインコミュニティやSNSは朴槿恵大統領の退陣を求める書き込みであふれている。SNSにはオフラインで抗議活動をしたという「認証写真(自分のしたことを証明する写真を投稿すること)」も数多く投稿されている。KPOPアイドルの間でも、光化門で行われた抗議集会の現場に自分もいたことを証明する写真、朴大統領の退陣を求める発言をしたことを証明する写真をTwitterやInstagramで投稿するのが流行っているほどだ。

 韓国民主化運動の中心部であった光州市では、自宅のベランダに「国民の命令だ。朴槿恵は退陣せよ」と書いたプラカードを張り付ける運動が始まった。SNSでは自宅のベランダにプラカードを張り付けたという認証写真がどんどん増えている。

 こんな状況でも韓国人が忘れないのが諧謔、ヘハクである。諧謔は気のきいた冗談、ユーモア、風刺といった意味で、韓国ではウップダともいう。ウップダは「笑える+泣ける」の造語である。面白くて笑えるけど、その裏にある事情を知ると笑えない、という意味を持つ。大統領退陣集会ではウップダとしか言いようのないプラカードが数多く登場した。

「スンシルとの大事な縁。拘置所で育んでください」(朴大統領は対国民謝罪でチェ・スンシル氏のことを自分が大変だった時に助けてくれた大事な縁でつながっている知人だと説明した)

「支持率も実力だよ。親を恨みな」(朴大統領の支持率は11月4日時点で5%と歴代最低値を記録。チェ氏の娘は高校時代Facebookに「金も実力だよ、金がないなら親を恨め」と書き込んでいた)

「朴槿恵を漸漬した三神ハルミは反省せよ」(韓国で神話では赤ちゃんは三神婆さんという出産の神様が漸漬(チョムジ、授ける)するものと言われているので、朴槿恵大統領をこの世に登場させた三神婆さんに反省を求めている。この他に「勤務怠慢の死神は反省せよ」バージョンもある)

 100万人が集まった11月12日ソウル市光化門集会では、面白い旗も登場した。グループごとに旗を持って行進するが、労働組合、農民会といった旗に紛れてこんな旗もあった。「カブトムシ研究会」、「シマウマ研究会」、「民主猫総連帯」、「私立突然死博物館(自然史博物館のパロディ)」、「全国キャベツ連帯」、「全犬連(韓国の経団連にあたる全国経済人連合のパロディ)」、「ぴょんぴょん連合-怒ったウサギは何も怖くない」など、一体何者なんだろうと気になってしまう旗が多かった。

 Twitterなどで公表した各研究会の正体は、大学生や猫・うさぎを飼っている若い人達で、ネットで出会い意気投合した。「集会は特別に政治的な人が参加するのではない。誰でも自由に参加して自分の意見を表出するのが集会。こんな私たちも集会に参加しています、とアピールするため旗を作った」という。

 11月21日付のニューヨークタイムズが注目したのはこのジョークだ。

 チェ・スンシル氏寄りの芸能人で数々の恩恵を受けたとバッシングされていた有名歌手イ・スンチョル氏は、それを否定するかのように自身のTwitterに書き込みを残した。「米国大統領選挙でヒラリーが当選すれば米国初の女性大統領、トランプが当選すれば米国初のクレイジーな大統領が誕生するが、韓国は2012年の大統領選挙で両方やってのけた」(朴大統領は韓国初の女性大統領で韓国初のクレイジーな大統領という皮肉)

 インターネットショッピングモールでは「あの日のために」という特設コーナーを作って、風が吹いても火が消える心配がないLEDろうそくやLEDトーチを販売している。与党セヌリ党のキム・ジンテ議員が「(ろうそく集会の)ろうそくは風が吹けば全部消える。民心はいつ変わるかわからない」など市民の集会なんか怖くないと発言したことから、市民らは朴大統領が退陣するまで怒りは収まらないことを見せるため、LEDろうそくを買い求めている。

 朴大統領は29日任期短縮などに応じるとの談話を発表したが、正式に退陣するまで、毎週土曜日の集会は続きそうだ。朴大統領の支持率は、11月25日時点で4%(韓国ギャラップ調べ)と史上最低値である。




By 趙 章恩

 

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韓国ソーシャルイノベーション事情

 

 2016年11月

[日本と韓国の交差点] 金正男報道は、朴大統領弾劾への興味そらすため?

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金正男氏とみられる人物がマレーシアで殺害された事件をめぐって、韓国メディアが連日、報道合戦を繰り広げている。「速報」「単独報道」の見出しがあちらこちらで飛び交う。しかし、その多くが日本とマレーシアメディアの報道を後追いしたもので、北朝鮮の情勢に関して韓国がもっとも情報を持っていないのではないかとの不安が広がっている。

 韓国では、朴槿恵大統領の弾劾に北朝鮮問題まで重なり、落ち着かない日々が続いている。今でも毎週土曜日にはソウル市内の光化門広場で、朴大統領の退陣を求めるろうそく集会が行われる。その現場に、弾劾に反対する朴大統領支持者らも集まる。弾劾反対集会の現場では発行者不明の「偽新聞」が配布され、それを情報ソースとする根拠不明の北朝鮮関連ニュースがSNSで拡散している。

 2月27日付の中央日報によると、金正男氏は「北韓(編集注:北朝鮮)が国家主導で起こした化学武器使用テロ」で殺害されたとみなすべきとの意見が出ている(マレーシア警察は最終捜査結果をまだ発表していない)。マレーシア当局が逮捕した容疑者らはFTF(外国人テロ戦闘員=Foreign Terrorist Fighter)というわけだ。FTFは過激派組織「IS(イスラム国)」が全世界の若者を集めてテロリストにしているのを受けて登場した用語。国連安全保障理事会の定義によると、テロを実行・準備・計画・参加する目的で本人の国籍国以外の国に移動する個人を意味する。

「北韓は化学武器を使用」

 中央日報は韓国政府関係者の話として、「北韓の工作員がマレーシアまで行き第3国人を雇って空港で(金正男を)殺害した。(神経性毒ガス)VXを使用し、他の民間人や空港施設を2次被害に陥れることも恐れなかった。これはFTFがしていることと同じだ。『北韓をテロ支援国に再指定(2008年に解除)すべき』という美国(編集注:米国)と(韓国政府は)同じ考えである」と報じた。

 複数の韓国メディアによると、韓国の外交部(韓国の「部」は日本の「省」)は、国連が使用を禁じた大量殺傷を目的とする化学兵器を北朝鮮が所有し、実際に使用したとみなしている。韓国政府としてはVXガスを使用した対韓国テロを警戒しないわけにいかない。そのため、同政府は北朝鮮をテロ支援国に再指定して、民間企業の対北朝鮮輸出はもちろん、全ての援助を断ち切るべきと厳しい姿勢を見せている。

 2月27日に開かれた国会情報委員会全体会議に、国防部の情報本部長が出席。金正男氏殺害事件について今までの経緯を説明し、対策を講じた。統一部(北朝鮮関連政策を担当する省庁)のチョン・ジュンヒ報道官は、同日の定例記者会見で、「北韓が化学武器を、民間人を相手に使用したことを強く糾弾する。化学武器禁止協約違反であり、国際規範に露骨に違反した」と批判した。

 外交部のユン・ビョンセ長官は、国連人権理事会とジュネーブ軍縮会議に出席するため26日に出国した。仁川空港で記者らに向けて「(会議では)北韓が化学武器を保有することの危険性と、それを使用することの不当性について説明し、国際社会の対策、特に北韓当局の責任究明と(VXを製造・使用した)関連者に対する例外なき処罰を求める」と話した。

 外交部によると、当初、同理事会には次官が出席する予定だったが、金正男氏殺害に国際的に禁じられている化学兵器が使用されたことが確認されたため、長官が自ら会議に出席し、事の重大さを国際社会に伝えることにしたという。

韓国政府と国民に対するテロにも警戒が必要

 国家情報院は事件後の2月15日、国会情報委員会で次のように説明した。「金正男殺害は事件の3~4時間後に認知した。殺害は金正恩が発した暗殺命令に基づくもので、金正恩が命令を取り消さない限り、工作員は必ず履行しないといけない。北韓の工作員は最初、北韓の中で金正男の暗殺を試みたため、金正男は2012年シンガポールへ逃避。『命令を取り消してほしい。自分の逃げ道は自殺しかないことをよくわかっている』という内容の手紙を金正恩に送ったこともある。しかしその後も暗殺命令は取り消されていなかったことになる」。

 「中国との関係が悪化すると知りながら金正恩が金正男を殺害したのは、金正恩が偏執狂的な性格だからだとみられる」
 「金正男が韓国に亡命を試みたことはなかった。韓国に2016年に亡命したテ・ヨンホ前・駐英北韓大使館公使の警護を強化している」

 ファン・ギョアン大統領権限代行は2月20日、国家安保会議・常任委員会を開き、以下のように述べた。「(金正男殺害)は容赦できない反人倫的犯罪行為でありテロ行為である。政権を維持するためには手段と方法を選ばない北韓政権の無謀さと残虐性を見せつけた。北韓のテロ手法がより大胆になっているだけに、韓国政府と国民に対して北韓がテロを実行する可能性にも格別に警戒しないといけない」。

 「3月に始まる韓美軍事訓練を通じて北韓の挑発を強力に抑制すると同時に、国民が国家安保に対して信頼と自信を持てるようにする。政界を含め安保に関して国民が団結した声を出す必要がある」

公営KBSの報道は親・朴大統領に偏向?

 韓国では、朴槿恵大統領をめぐるスキャンダルを捜査する特別検事の活動期限が2月28日に終了し、同大統領の弾劾の是非を決める判決がもうすぐ下される。さらに、大統領選挙の前倒しをめぐる保守派と進歩派の闘争がピークに達している。一部進歩派の間では大統領選挙前の「北風」がまた始まったのではないかと懸念する声がある。

 北風とは、1997年に大統領選挙が実施された時、与党ハンナラ党が擁する候補への支持を高めるため、大統領官邸で働く行政官3人が北京で北朝鮮側に接触し、「休戦線付近で武力騒動を起こしてほしい」と依頼した事件をいう。国民を不安にすることで、「北朝鮮に人道的支援をすべき」と訴える野党候補(当時の金大中候補)ではなく、保守候補に票が集まるよう仕向ける狙いだった。大法院(日本の最高裁判所に当たる)の判決で、この行政官3人は国家保安法違反で有罪が確定した。

 これ以来、韓国のネットには、大統領選挙を前にして北朝鮮がミサイルを発射したり、おかしな行動を取ったりすると、「北風ではないか」と疑う書き込みが増える傾向がある。今回も、政府の発表もメディアの報道も疑わしく見えて、何を信じたらいいのかわからない状況に陥っている。

 全国言論労働組合は22日に報告書を発表し、公営放送KBSの報道が偏向していると主張した。KBSが15~22日に報道したニュースをモニタリングしたところ、金正男氏の殺害に関する報道ばかりで、朴大統領の弾劾や特別検事の捜査動向、次期大統領選挙に関する報道は縮小されていたという。

 全国言論労働組合は、さらに次のように指摘した。
 「KBSは特に2月16日以降、民放のソウル放送や文化放送に比べ3倍近く長い時間を金正男氏殺害関連ニュースに割き、朴大統領弾劾ニュースを流す時間を短くした」
 「ニュースに対する価値判断は放送局によって違うが、それにしてもKBSは偏っている。事実関係が不明な推測報道で国民の不安を刺激している。このままでは国民を混乱に陥れる可能性がある」
 「KBSは『北風』報道を行い、大統領弾劾に向かう国民の視線を他へ向けようとしているのではないか。KBSは正確な事実を伝えるという公営放送の役割を全うすべき」


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By  章恩

 

 ビジネス

 2017年3月

-Original column

http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/215834/022800059/

[日本と韓国の交差点] 韓国から見た日米首脳会談

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2月11日の朝、韓国メディアのトップニュースは10日に行われた日米首脳会談一色に染まった。記事ランキングでも日米首脳会談の記事が上位に並んだ。

 韓国の公営放送KBSは次のように報じた。
 「トランプ大統領は安倍総理を2度の晩餐と5時間に及ぶゴルフに招待するなど、異例のレベルで歓迎した」

 「両国首脳は安保、貿易など両国の懸案について意見を交わし、北核廃棄に向けた共助を強化することにした。両国の貿易と投資について幅広く協議する対話窓口を新設する」

 「トランプ大統領は首脳会談後の記者会見で『美国(編集注:米国を指す)と日本は双方の経済に利益を与える自由で公正で相互的な貿易関係を築くことにした』と発言した。米国は貿易を、日本は安保を得たという分析もある」

 ほとんどの韓国メディアはトランプ大統領を「予測不可能な大統領」と見て、北朝鮮の核問題や韓米同盟、貿易がこれからどうなるのか、不安要素が多いと評価してきた。トランプ大統領はかつて、対米貿易黒字、防衛費(米軍駐留経費)分担などについて日本を批判。同様の理由で韓国を批判したこともある。このため韓国としては、日米首脳会談でどのような話し合いがされたのか、注目せずにはいられない状況だった。

日本の軍事力強化を懸念

 2月13日付中央日報は、日米首脳会談を以下のように分析した。
 「両首脳は親密な関係を築いた。トランプ政権が美日蜜月関係を作る土台になると評価できる。トランプ大統領は、大統領選挙期間中、日本は安保で無賃乗車していると批判していた。この態度を180度変え、日本を防衛する美国の公約は揺るがないと発言した」

 「美日の結束が韓半島(編集注:朝鮮半島を指す)に与える影響は複合的だ。北核をけん制する点では安堵感を与える。韓国と日本はアジア太平洋地域で美国の軍事的優位を守り、中国の膨張を防ぐ共通の役割を果たしているため、トランプ大統領が安保において、日本と同様に韓国も重視する可能性がある。核の傘の提供と防衛費負担に関して、韓国と日本に同じ基準を適用するはずだ」

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By  章恩

 

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 2017年2月

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http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/215834/021400058/

[日本と韓国の交差点] 韓国、高齢化社会だからこそ選挙権を18歳に

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 1月27~30日まで、韓国は旧正月の連休だった。旧正月には全国各地に住む親戚が故郷に集まり、先祖に茶禮(チャレ、お正月とお盆に行う法事)をする。子供たちは親戚や近所に住む大人に歳拝(セベ、新年のあいさつ)をし、セベッドン(お年玉)をもらう。物価の上昇に合わせてセベッドンの金額もそれなりに上げないといけないので、かなりの出費になる。「上がらないのは自分の給料だけ」とみんな言うが、その通りである。

 旧正月になると韓国の新聞やテレビでは「今年の民心の行方は」との見出しで、国民の関心事を報道する。親戚が集まってどんな話題で花を咲かせたのかアンケート調査をし、「民心」として報道するのだ。2017年の旧正月はやはり「朴槿恵大統領弾劾」「次の大統領選挙候補」「不景気」がもっとも大きな話題だった。

桜の咲く頃、大統領選に

 韓国はすっかり大統領選挙ムードに入り、韓国メディアは「特別検事の捜査や出てきた証拠・証言から朴大統領が弾劾されるのはほぼ確定」と報じるようになった。「桜が咲くころ大統領選挙になる見通し」などと次の大統領選挙の日程にまで触れている。

 大統領選の日程は、弾劾審理を担当するパク・ハンチョル憲法裁判所長が1月25日にした、次の発言によっている。「(審理の内容や重要性から)3月13日までに弾劾の最終決定を宣告すべきである。7人の裁判官による審理は、審理と判断に支障を与える可能性がある」。

 憲法裁判所では、9人の裁判官が弾劾を審理している。このうち一人は1月31日、もう一人は3月13日で任期が終わる。しかし朴大統領は弾劾審理に伴い職務停止中なので後任を任命できない。

 3月13日には弾劾が決まるとすれば、選挙は4月から5月初旬ということになる。弾劾決定から60日以内に大統領選挙を行うことが規定されているためだ。弾劾が棄却された場合は、12月に大統領選挙が実施となる。


By  章恩

 

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 2017年2月

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http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/215834/013000057/