[日本と韓国の交差点] 潘基文氏、慰安婦問題で「油うなぎ」との批判

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憲法裁判所で朴槿恵大統領の弾劾審理が続いている最中、韓国は既に次の大統領を誰にすべきなのかで盛り上がっている。

 現在有力な候補は二人。一人は保守派の代表である潘基文(バン・ギムン)前国連事務総長、もう一人は進歩派の代表、ムン・ジェイン前「共に民主党」代表だ。韓国の大統領選挙は毎回、保守派候補と進歩派候補の競争になる。

 ムン氏は2012年末に行われた大統領選挙にも進歩派の代表として出馬し、朴大統領と票を争った。韓国中央選挙管理委員会の報告によると、2012年大統領選挙の得票率は朴氏が51.55%、ムン氏が48.02%だった。シニア層は朴氏を支持、若い層はムン氏を支持する傾向が強かった。

バン前国連事務総長が事実上出馬宣言

 バン氏は、海外メディアから厳しい評価を受けることもあったが、韓国では韓国人初の国連事務総長として尊敬されてきた。その生涯をライターが取材して2007年出版した本『バカのように勉強し、天才のように夢見よう』が青少年必読書になるほどにヒット。生まれ育った忠清北道陰城郡の生家周辺は、自治体が予算を投じて「バン・ギムン平和ランド」として生まれ変わった。バン氏の大統領出馬説が出始めた2016年下半期以降に実施された複数の世論調査を見ると、全国の50代以上が主な支持層である。

 バン氏は国連事務総長の任期を終えて1月12日、韓国に帰国した。当日、仁川空港にバン氏の支持者らが大勢集まり花束を贈呈して名前を連呼。その前でバン氏は出馬宣言とも言える演説をし、記者会見にも応じた。

 演説では、以下のように述べた。
「私は国連事務総長として、人類の平和と弱者の保護、貧しい国の開発、気候変動への対処、男女平等のために10年間一生懸命努力しました。成功した国はなぜ成功できたのか、失敗した国はなぜ失敗したのかを近くで見守りました。指導者の失敗が民生を破たんに追い込むのも見ました」

 「(韓国)経済は活力を失い、社会は不条理と不正で汚れてしまいました。富の格差、理念や世代間の葛藤を終えるべきです。国民の大統合を成し遂げるべきです。これ以上は覇権と既得権を見過ごせません。(韓国)社会の指導者全員に責任があります。これからは責任感、他人への思いやり、犠牲の精神が必要です」

 「多くの方に『大統領になる意志』はあるのかと聞かれました。『大統領になる意志』が『分裂した国を一つに束ねて世界の一流国家にするために努力する』という意味なら、私は明白に覚悟ができていると言えます。一方、『どんな手段を使ってでも政権を手に入れる、権力を手に入れる』のが『大統領になる意志』なら、私にそれはありません。誰が政権を握るのかは重要ではありません。政権交代ではなく政治交代を成し遂げるべきです」

 バン氏が主張する「政治交代」は、2012年の大統領選挙で朴槿恵氏も使っていた表現で、斬新なものとは言えない。それどころか、「既存の政治家とは違う」ことをアピールすべく政党には入らないと強調してきたバン氏が、実はセヌリ党と深い関係にあると思わせる結果になった。

[日本と韓国の交差点] 韓国、通貨危機以来の低成長予測

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2017年、韓国は「人口オーナス」元年を迎えた。人口オーナスとは、15~64歳までの生産年齢人口が減少する一方、扶養すべき高年齢人口が増加して経済的負担が大きくなることをいう。韓国は2017年からついに生産人口が減少する。

 複数の韓国メディアが、人口オーナスの先輩と言える日本の事例を新年特集として紹介。シャッター街と化した地方都市や、高齢化にビジネスチャンスを見出したコンビニの食材配達サービスなどを取り上げた。韓国はどうすればいいのか日本から学ぼうという動きが出ている。

 韓国では、生産人口が減少すれば消費が落ち込み、長期不況に陥るとみられている。韓国の企画財政部(韓国の「部」は日本の「省」に当たる)は、2017年韓国の実質経済成長率を2.6%と展望した。同部が経済成長率を2%台と展望したのは、1999年に外貨危機が起きて以来のこと。従来は経済成長を楽観視し3%台の数字を出す傾向があったが、2017年度については「不確実性」を理由に低い数値を打ち出した。ちなみにOECDは2.6%、韓国の民間研究所は2.3%前後と予想している。

米国の保護主義と利上げを不安視

 企画財政部は、米国の動きが波乱要因になるとみている。トランプ政権が保護貿易主義を強めて韓米FTAに影響を与え、関税を厳しくする事態などが発生すれば、輸出に大きく依存する韓国経済は大きな打撃を受けるしかない、というわけだ。

 企画財政部は米国の利上げが及ぼす影響も懸念している。米国が金利を上げれば韓国銀行(中央銀行)も追随する。金利が上がれば韓国の自営業者は大きな打撃を受ける。韓国の自営業者は平均して、年間所得の3.5倍に達する借金を抱えている(韓国銀行調べ、2016年9月時点)。OECDの統計によると韓国の自営業者は全勤労者の27.4%を占める。この値は世界4位(2013年調べ)で、OECD平均の15.8%よりかなり高い。

 不確実性に備える措置として通貨スワップがある。地上波放送KBSニュースは1月2日、韓日通貨スワップ協定を再締結する交渉が中断することなく続いていると報道した。ユ・イルホ経済副総理は、「通貨スワップとは不確実性を減らすために締結するもの。韓国政府として色々な国と締結したい」と発言した。

経営の壁は「政治・社会の不安」との回答が最多

 しかし何よりも大きな不確実性は国内の政治だろう。朴槿恵大統領の友人チェ・スンシル氏の国政介入と朴大統領の収賄疑惑について、特別検事による捜査が続いている。憲法裁判所が弾劾を認めれば、2017年に大統領選挙が実施される。大統領が変われば、すべての政策が切り替わる。

 韓国経営者総会が259社の代表取締役を対象にアンケート調査を実施したところ、経営の壁になるのは「政治・社会の不安」との回答が24.6%と最も多かった。これに以下の回答が続いた――「民間の消費不振」21.1%、「企業の投資心理萎縮」14.6%、「世界の保護貿易強化」12.9%、「中国の経済成長鈍化」12.3%、「米国の金利引き上げ」4.7%、「過度な規制」3.5%、「労使関係の不安」2.3%。経済成長率は、企画財政部より厳しく2.3%と展望している。

By 章恩

 

 ビジネス

 20171

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http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/215834/010400055/

[日本と韓国の交差点] 朴大統領の弾劾実現した、市民の電話攻勢

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韓国国会が弾劾訴追案を可決した翌日の12月10日、ソウル市中央の光化門広場ではこの日もろうそく集会が行われた。「国民が望む通り、ついに弾劾訴追案が国会を通過した」と喜ぶ人々と、「弾劾は始まりに過ぎない。韓国を変えるためにはこれからが大事。朴槿恵大統領が退陣して法の裁きを受けるまで集会を続ける」と悲壮感を顔に浮かべる人々が入り混じる集会となった。

 弾劾訴追案は12月9日、議員300人のうち299人が参加して採決された。議決するためには200票以上の賛成が必要なところ、野党3党と無所属の票は合わせて172票。与党のセヌリ党がどう出るか注目されていた。

 ふたを開けると賛成234票、反対56票、棄権2票、無効7票。弾劾に賛成するセヌリ党議員が予想より多い結果となった。

 国会が弾劾訴追を議決したため、朴大統領は職務権限を停止された。同大統領が憲法に違反したかどうか、弾劾するかどうかを、憲法裁判所が決める。この間、ファン・ギョアン国務総理が大統領の権限を代行する。憲法裁判所が弾劾を決めれば、朴大統領は大統領職を罷免され、60日以内に大統領選が行われる。複数の韓国メディアは、世論を反映して弾劾を確定する判決を憲法裁判所が1月中には下し、2017年の春頃、大統領選挙が行われる可能性が高いと報じた。

 朴大統領は11月29日、第3次対国民談話で「私は、任期の短縮を含む進退を国会の決定に任せます。国政の混乱と空白を最小限にし、政権を安定した環境の下で移譲できる方案を作ってくれれば、その日程と法の手続きに従って大統領職から退きます」と発言した。国会に進退を任せるというわけだ。

 国民の間では「最後の最後まで他人任せで責任をとろうとしない」と談話の内容を酷評する意見が多く、第3次対国民談話の後、朴大統領を弾劾して今すぐ辞めさせるべきという世論がさらに広がった。

弾劾に反対する議員に抗議が殺到

 弾劾訴追を決定づけたのは、ろうそく集会だけではなかった。国民が国会議員に対して行った「電話攻撃」も後押しした。

 野党・共に民主党のピョ・チャンウォン議員は11月30日、弾劾に反対する議員を自身のSNS上で名指しした。その翌日、ソウル大学院に通う院生が、セヌリ党議員131人について、選挙区と主な活動内容、事務所や議員本人の携帯電話番号をリストアップしてソウル大学生向けのオンライン掲示板に掲載した。

 韓国では選挙期間中、候補者が本人名義で加入した携帯電話番号から有権者の携帯電話にショートメッセージを送信し、支持を求めてもよいことになっている。国会議員の携帯電話番号が自身の携帯電話に残っていた人達が情報を共有し、国会議員の携帯電話番号リストが出来上がった。

 これが瞬く間にSNSで広がり、市民らがセヌリ党議員らに対して「弾劾に反対するのはなぜか」と抗議する電話をかけたり、ショートメッセージを送信したりし始めた。韓国の新聞は、「未読メッセージ2000件」などと表示されたスマートフォンの画面を見て茫然とするセヌリ党議員らの写真を掲載した。市民の電話攻撃の威力はすさまじく、一部議員は携帯電話番号を変更するに至った。弾劾に反対する議員のリストがネット上で話題になって以降、セヌリ党の一部議員は弾劾に賛成すると公式に表明した。

By 趙 章恩

 

 日経ビジネス

 2016年12月

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http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/215834/121300054/

[日本と韓国の交差点] 朴槿恵大統領の談話受け、さらに怒る韓国国民

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11月29日午後2時30分、朴槿恵大統領が3回目の対国民談話を発表した。5分ほどの談話の内容は「大統領の任期短縮や退陣、全てを国会の決定に任せる」というものだった。

 朴大統領は、「与野党が議論して国政の混乱と空白を最小化し、安定して政権移譲できる方案を作れば、その日程と法手続きに沿って大統領職から離れる」と述べた。

 また、朴大統領はチェ・スンシル一族の国政介入と不正蓄財に関して再度謝罪したが、「個人的な利益を追求したことは一度もない」と検察の捜査内容を強く否定した。朴大統領は談話の発表が終わると、記者らの質問は一切答えず、「近々色々なことの経緯について詳しく話すので、質問はその時にしてほしい」言い残してその場を去った。

 朴大統領の口から「退陣する」という話は出なかった。

韓国民から「談話には満足できない」の声

 地上波放送のSBSが朴大統領が談話を語った直後に街角インタビューを行ったところ、インタビュー応じた市民のほとんどが批判的なコメントをした。

「朴大統領自ら退陣を決めるべき。国会に任せるとは無責任すぎる」
「退陣する意向があるなら、何月何日に辞めますと自分から言うべきである。一方的に国会に丸投げするなんておかしい」
「退陣するのかしないのか、大統領としての最後の決断までも他人任せだとは。ずうずうしいにもほどがある」
「国会で朴大統領の退陣を決めたら従うだろうか。信用できない。退陣するまで抗議する」
「最後まで他人のせいにして、自分の責任ですとは言わないので笑ってしまった」

 毎週土曜日に朴大統領の退陣を求める集会を行っている市民団体らも、朴大統領が談話を発表した直後にコメントを発表した。

「朴大統領は自分の去就についてすべてを国会に任せたと話したが、本当は退陣するつもりはなく任期の最後まで粘るつもりなのだ。朴大統領は検察の捜査で明るみになった本人の不正についても知らないふりを続けている。これは許されない」
「これ以上国民を苦しめたり、国を混乱させたりすることなく、即退陣するよう朴大統領に求める。それが唯一の解決法だ」

 SBSが自社のホームページ上で行ったアンケートでは、談話の内容について「満足できない」が5万1768人、「満足する」が850人だった(午後4時30分時点)。ケーブルテレビのJTBCが同じく自社ホームページ上で行った緊急世論調査では、「朴大統領は無条件に今すぐ辞任すべきである」が4180人、「談話に関係なく弾劾すべき」が2087人、「談話の内容に満足した」は40人、その他が34人だった(午後4時30分時点)。

By 趙 章恩

 

 日経ビジネス

 2016年11月

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http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/215834/112900052/

[日本と韓国の交差点] 日韓軍事情報協定めぐり韓国で巻き上がる反対論

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韓国の国防部は11月14日、日韓の防衛情報を共有するための韓日軍事情報包括保護協定(GSOMIA)に仮署名したと発表した。同協定の目的は、日韓の間で軍事情報を共有して、北朝鮮の核とミサイルに対応することにある。

 韓国のテレビ、新聞など全メディアは14日18時30分頃、速報として一斉に報道した。地上波放送SBSの速報によると、仮署名は韓国国防部東北アジア課長と日本防衛省調査課長が行った。これにより、軍事情報包括保護協定実務協議も終了したという。

 韓国は今、朴槿恵大統領の去就を巡って、非常事態としか言いようがないほど国政が停滞し、混乱している。そんな中で国防部(韓国の「部」は日本の「省」にあたる)が、国内での十分な議論もないまま韓日軍事情報包括保護協定に仮署名した。日本との軍事協定をこのタイミングで、速戦即決で締結したのはなぜかと韓国で問題になっている。

青瓦台に至る韓国史上初の集会

 11月12日、ソウル市光化門では3回目の朴槿恵大統領退陣を求める抗議集会が行われた。集まった人は年齢も職業もさまざまだった。子供を連れた家族や中高校生、全国各地の農民会や労働組合、大学の名前が書かれた旗を持ったグループなどが目に入った。ソウル市は集会に参加した中高校生らの安全を確保すべく、保健教師を現場に派遣した。

 光化門から人があふれ、だいぶ離れた明洞辺りまで集会の行列が続いた。集会の参加者は、警察の推計では26万人。ただし、複数の韓国メディアがソウル市の地下鉄とバスの乗車データから推計したところ100万人を超える規模だった。

 この日の集会は、韓国史上初めて、青瓦台(大統領官邸)の入口にあたる景福宮ロータリーまで行進できた。警察は当初、青瓦台周辺では集会を開催できないようにしていたが、ソウル行政裁判所が許可した。「多数の国民が自らの意思を表現するため集会に参加している以上、条件なく認めるのが(韓国が)民主主義国家であることを証明することになる」との理由だ。

 12日は米国各地のコリアンタウンでも在米韓国人が集まり、朴大統領の退陣を求める集会を開いた。

 集会が開かれた後の13日、朴大統領の友人であるチェ・スンシル一族の国政介入と不正腐敗を捜査する検察は、参考人として朴大統領にも取り調べを行うと発表した。チェ氏の不正を黙認したのか、不正を手助けするよう大統領府の秘書らに指示したのか、などが焦点になるという。大統領は起訴されない特権があるが、現役の大統領が検察の取り調べを受けたというだけでも政治的汚点になる。

共有情報は厳格に管理

 軍事情報包括保護協定とは、国同士でお互いの軍事機密を提供し合うもの。戦術データ、暗号情報、システム統合技術などが対象になる。秘密は、第三国に流出しないよう厳格に守る。

 日韓が合意した同協定の主な内容は、以下の3つである。
(1)情報提供当事者が書面で承認することなしに、第三国政府等に軍事秘密情報を公開しない。あらかじめ許可された目的以外の目的で使用しない。
(2)情報を閲覧する権限は、公務上必要で有効な国内法令によって許可を得た政府公務員に限る。
(3)情報を紛失または毀損した場合は、情報提供当時局に即時通知し、調査する。

By 趙 章恩

 

 日経ビジネス

 2016年11月

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http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/215834/111500051/


[日本と韓国の交差点] 朴大統領側近の不正を暴け、メディアは暴露合戦

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 10月29日の夕方、ソウル中心部のチョンゲ広場に、「朴槿恵退陣」「チェ・スンシルと朴槿恵、どっちが本当の大統領なのか」「こんな国でいいのか」などと書かれたプラカードを持った市民が集まった。韓国警察は1万2000人を超える人が集会に参加したと発表。ここ数カ月の間にソウル市内で行われた反政府集会の中で最も規模が大きかった。


 「韓国ギャラップ」が10月28日に発表した世論調査の結果によると、「朴大統領が国政を上手く運営している」と答えた人は17%にとどまった。9月の調査では33%だったので、1カ月ほどの間に半分近くに減少した。どんな時でも朴大統領を支持する「コンクリート支持層」と呼ばれる地元「慶尚北道」と「60代以上のシニア層」でもそれぞれ27%、36%と50%に満たなかった。

 韓国中が大騒ぎになっているのは、朴槿恵大統領が古い友人である民間人のチェ・スンシル氏(現在はチェ・ソウォンに改名)に機密文書を渡し、重要な演説から、長官の人事、経済やスポーツ・文化・外交・北朝鮮などあらゆる政策について彼女のアドバイス通りに行動していたとされる疑惑のせいだ。

 チェ氏は、朴槿恵大統領を仕事の面でも私生活の面でも70年代から世話していたとされる。「まさか朴大統領がチェ氏の言いなりになっているはずがない、デマに違いない」という支持者の声もむなしく、朴槿恵大統領は10月25日に国民に向けて謝罪文を発表。大統領に就任する直後までチェ氏に文書を渡しアドバイスを求めていたと認めた。

 韓国では、ヒラリー・クリントン米大統領候補の私用メール事件と朴大統領の機密文書流出を比べる記事もあった。クリントン氏は、国務省の許可を得た「.gov」の付くメールアドレスではなく私用のメールアドレスを使ったために機密情報が漏れた可能性があるとしてFBIの捜査を受けている。朴大統領は大統領免責により司法捜査の対象にはならない。

秘書や側近にも飛び火

 朴大統領の選挙対策本部長だったキム・ムソン議員が10月27日、「朴大統領の隣にチェ氏がいた。それを知らない人がどこにいる。知らなかったというのは嘘だ」と記者らに発言したことで、大統領秘書らが事実を隠蔽していたことも問題となった。大統領秘書らはこれまでチェ氏が誰なのか知らないと主張していた。

 検察当局は10月29日、文書流出に関わったとされる側近らの事務室を捜索するため大統領府を家宅捜索した。しかし、検察が大統領府から空の段ボール箱を重たそうに持ち出す様子が報じられ、「検察は捜査するふりをしているだけ」との批判が巻き起こった。

野党は総攻撃体制

 共に民主党のウ・サンホ院内代表は10月30日、緊急記者懇談会を開き、「検察はチェ氏の身柄をすぐに拘束すべきである。検察はチェ氏が側近と口裏を合わせ、真実を隠蔽する時間を稼ぐのを手伝っている。この2~3日の動きをみると、露骨に真相を隠ぺいしようとする組織がある。不正にかかわった人達が台本通りに動いている」と述べた。

By 趙 章恩

 

 日経ビジネス

 2016年11月

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http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/215834/110100050/


[日本と韓国の交差点] 韓国、不正禁止法で接待が減ると経済に悪影響?

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 韓国で9月28日、「不正請託及び金品等の収受禁止に関する法律」が施行された。公職者の不正・腐敗を防止するための法律である。韓国ではこの法律を、最初に提案した人の名前をとって「キムヨンラン法」と呼んでいる(日本では汚職防止法と呼ばれている)。2012年当時、政府の国民権益委員会委員長だったキム・ヨンラン氏が提案、2015年3月に国会の同意を得た。

 地上波放送局は早速、キムヨンラン法が施行され社会が変化すると街の声を報じた。「接待が減れば、早く帰宅できて自分の時間が持てるのでライフスタイルが変わるに違いない」「公職者への接待が多すぎて毎日のように深夜に帰宅していた。これからは家族と夕食を食べられそう」と期待する声が多かった。

 この法律は、公職者、公務員、政府関連機関・公共機関の職員、学校の教職員(私立学校、大学病院含む)、マスコミ関係者が対象。対象者の配偶者にも適用される。国会議員は、国家公務員法により公務員の範疇に入るので対象となる。対象者は約400万人にのぼる。

 対象者は、以下の場合に処罰される。
1)職務(または配偶者の職務)と関連がある人から、1回あたり3万ウォン(約2700円)を超える接待を受ける
2)1回あたり5万ウォン(約4500円)を超えるプレゼント・中元・歳暮を受け取る
3)1回あたり10万ウォン(約9000円)を超える祝儀・香典を受け取る

 接待は飲み物代も含めて3万ウォンを超えてはならない。祝儀・香典も花代と現金の合計が10万ウォンを超えてはならない。3・5・10万ウォンの金額は、廬武鉉大統領が2003年に制定した「公務員行動綱領」を参考にしたものなので、現在の物価からすると厳しすぎるという意見もあったが、原案のまま施行されることになった。

 職務と関連がある人から規定を超える接待や金品を受け取った場合は、受け取った金額の2~5倍を過怠料として賦課する。

 職務と関連がない人から受け取っていい金品は100万ウォン(約9万円)未満。これを超える金品を受け取った場合、3年以下の懲役または3000万ウォン(約270万円)以下の罰金を課される。

 キムヨンラン法をめぐり、大韓記者協会と私立学校教職員らは言論の自由と教育の自由を侵害するとして違憲訴訟を起こしていた。憲法裁判所は2016年7月28日、キムヨンラン法を合憲とする判決を下した。憲法裁判所は、「マスコミと教育が社会全体に及ぼす影響は大きく、この分野の腐敗は波及効果が大きい。従って、マスコミ関係者と私立学校関係者を法の適用対象に含めるのは正当である」と説明した。

通報第1号は大学生

 キムヨンラン法の施行に伴い、警察庁は不正請託専門捜査班を設置した。通報は日本の110番にあたる112番で受け付けている。通報第1号は、大学生からの電話だった。「同じ講義を聞く他の学生が(講義をする)教授に缶コーヒーをあげるのを見た。これは不正請託だ」という。しかし教授の名前も大学の名前も明かさなかったので、警察は書面で通報するよう案内したという。

 韓国版GooglePlayに、キムヨンラン法に関連する次のアプリが登場した。
・3万ウォン以下で食べられる接待用飲食店を紹介するアプリ
・5万ウォン以下のギフトを紹介するカタログショッピングアプリ
・自分の行動が不正請託に当たるかどうかチェックできるアプリ
・キムヨンラン法に関する法律解説アプリ
・割り勘した分をすぐ相手の口座に振り込めるモバイルバンキングアプリ


By 趙 章恩

 

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 2016年10月

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http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/215834/100400049/

[日本と韓国の交差点]「北の核で24万人が死亡」との試算に驚く韓国

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北朝鮮が9月9日、5度目の核実験を行った。韓国国防部(韓国の「部」は日本の「省」)は、この核実験は過去最大の爆発力があったとの分析結果を公表した。

 1月に続いて、今年2度目の実験だ。北朝鮮は2006年、2009年、2013年とおよそ3年周期で核実験を繰り返してきた。1年に2度も核実験を実施したのは今回が初めてのこと。複数の韓国メディアが、近く追加の実験を行なう可能性もあると指摘した。

 北朝鮮は、韓国政府が地上配備型ミサイル迎撃システム(THAAD)を配備すると7月に決めたことに反発して、弾道ミサイルの発射を繰り返している。韓国のテレビやラジオに登場する軍事専門家らは、こう分析する。「金正恩は、事実上の核保有国としての地位を固めるには今がチャンスと思っているはず。2016年11月には米国の大統領選挙、2017年12月は韓国の大統領選挙があり、韓米の目が選挙に向いてしまう」。

 韓国国防部のムン・サンギュン報道官は9月12日の定例記者会見でこう発言した。「安全保障の観点から、韓日の間で軍事情報包括保護協定(GSOMIA)を結び、北韓(編集部注:北朝鮮)の核・ミサイル脅威に関する情報を密に共有する必要がある。日本側が早期締結の必要性について言及した。我々政府と軍は『国民の理解を十分確保してから』という立場である。(協定を締結するためには)国民の理解が必要だ」。韓国と日本は現在、日米韓3国情報共有約定を結んでおり、米国を間にはさんで情報を共有している。

核武装を巡る議論が高まる

 セヌリ党の議員はこの日、国会に集まり「北朝鮮の核に対抗して韓国も核武装すべきではないか」というテーマで討論を行なった。賛成派は「平和を守るために抑止力を高めるべく核武装を含む全ての手段を講じるべき」「防衛的な措置だけでは北韓の核を止められない。核配備を含む強力な対応が必要」といった意見を提示した。

 一部の議員はこれに反対。「核武装するためには『核兵器の不拡散に関する条約』(NPT)から脱退しないといけない。米国や国際社会との関係から考えて、(韓国が)核武装するとの選択肢は現実的でない」「(韓国の)核武装は韓米同盟に亀裂を入れることになる。現実的に難しい」と発言した。

 野党の「共に民主党」は9月12日、以下の内容を記した報道資料を発表した。「核武装論は韓半島(編集部注:朝鮮半島)をさらに大きな危険と不安に陥れるだけである。核武装論は、韓半島の緊張を抑制するのに失敗した政府が、その無能さを隠すため提示した無責任な意見だ。(韓国による)核配備は国際社会が決して容認しない。(核武装論を主張する)与党セヌリ党の言動を懸念している」。

 同じく野党の「国民の党」も、「与党の核武装論は、韓半島を戦争に陥れる危険で無責任な発言である」と批判的なコメントを発表した。


By 趙 章恩

 

 日経ビジネス

 2016年9月

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http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/215834/091300047/

[日本と韓国の交差点] 脱北は「移民型」の時代に

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 7月から家族と共に行方がわからなくなっていた北朝鮮のテ・ヨンホ駐英公使が、韓国に亡命したことが判明した。当初、第3国に亡命したとみられていたが、韓国の統一部(韓国の「部」は日本の「省」)は8月17日、テ公使一家が韓国に入国したことを正式に発表した。

 統一部によると、テ公使は、これまでに北朝鮮から韓国に脱北した北朝鮮外交官の中で最も地位が高いという。脱北とは文字通り北朝鮮から脱出することである。統一部は、以下の条件を満たすものを北韓(北朝鮮)離脱住民(脱北者ともいう)と認め、北朝鮮の外に滞在している脱北者が韓国行きを希望する場合、全員を受け入れることにしている。

・北韓離脱住民
・北朝鮮に住所・直系家族・配偶者・職場などがある者
・北朝鮮から脱出した後、外国の国籍を取得していない者

 統一部はこの日、以下を発表した。
「テ公使一家は自由民主主義への憧れと、子供の将来を思って脱北」
「テ公使は海外に長年住んでいたので、外の世界の情報にふれる機会が多く、韓国と北朝鮮を比較できた。金正恩体制は希望がないと気づいたのかもしれない。テ公使の脱北は金正恩体制の内部結束にひびが入るきっかけになるだろう」
「北韓のエリート層の間で『金正恩体制はこれ以上希望がない、もう限界だ』という認識が広がり、支配層の結束が弱まっているようだ」
「1990年代より前は政治的理由で仕方なく脱北する人が多かったが、最近は、より良い生活がしたくて脱北する『移民型脱北』が増えている」

 8月21日付の英エキスプレス紙によると、テ公使一家は英情報機関と6月に接触して亡命の意思を固めた。米国の協力を得て、ロンドンからドイツのラムシュタインにある米軍空軍基地に移動し、そこから韓国に飛んだという。北朝鮮当局がテ公使のパスポートを押収し、北朝鮮に送還する直前だった。

 テ公使一家以外にも脱北が相次いでいる。2016年4月には中国・寧波にある北朝鮮レストランの従業員13人が、4月には中国・陝西にある北朝鮮レストランの従業員3人が脱北者として韓国に入国した。8月25日には、北朝鮮とロシアの貿易を担当する幹部がロシアから韓国へ脱北したというニュースもあった。

ミサイル試射は体制健在をアピールするため

 脱北が続く中、韓国軍は8月25日、「北朝鮮が24日午前5時半頃、韓国の東側の海に向けてTHADDでは防衛が難しいとされる潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を1発試験発射した」「ミサイルは500Kmを飛んだ。前回の試験発射より性能がよくなったように見える」と発表した。韓国軍はこのミサイル試験発射を「韓米合同練習に対する抗議」と「脱北が相次いでも金正恩体制は健在であるとアピールするため」に実施したと分析した。

 ユン・ビョンセ外相は8月28日、テレビ番組に出演し、「ここ8か月間、脱北して韓国に入国した北韓のエリート層は過去最多」「(脱北者が増えているのは)国際社会の対北圧力が効果を発揮したから」「10月に行われる韓米外交・国防長官会議でも北韓にどう圧力をかけられるかを議論する」と発言した。

 ユン長官の発言からも、統一部がいう「移民型脱北」が増えていることがうかがえる。北朝鮮のエリート層の脱北が増えている、つまり、北朝鮮でいい身分を持ちいい暮らしができるけど、北朝鮮ではなく他の国でもっと自由に暮らしたいという理由で脱北する人が増加している。

 統一部が8月26日に開いた定例記者会見で、「海外に駐在している人の脱北が続くのは、金正恩の恐怖政治により北韓内部の不安定の度合いが強まっているから」「北韓が脱北を食い止めるために軍事的挑発をする可能性もあるとみている」という話も出た。

 8月25日には米国務省のカティーナ・アダムス東アジア太平洋担当報道官が、「米国は北朝鮮の人権と、北朝鮮の難民・亡命申請者の待遇について懸念している。この問題に関して持続可能な解決策を探るべく、米国は国連人権委員会、国連難民機構を含む国際機構と協力する」「すべての国が、北朝鮮からの難民と亡命申請者を保護すべく協力すべきである」という立場を表明した。

By 趙 章恩

 

 日経ビジネス

 2016年8月

-Original column

http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/215834/083000046/

[日本と韓国の交差点] 8月15日、韓国の光復節はこう過ぎた

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毎年8月15日は韓国の光復節、日本の終戦記念日である。韓国では、日本の植民地支配から解放され国に光が戻った日という意味で光復節という。

THAADと慰安婦合意に批判集中

 朴槿恵大統領はこの日、第71周年光復節慶祝式で祝辞を述べた。

「我々が韓半島(朝鮮半島)と東北アジアの平和繁栄の主役であるという責任感をもって、周辺国との関係を能動的で互恵的(お互いに利益を与える関係)なものに導いていかねばならない」

「我々の運命は強大国の力関係で決まるという被害意識を捨て、悲観的思考をやめるべきである」

「地上配備型ミサイル迎撃システム(THAAD)配置は北韓(北朝鮮)の無謀な挑発から国民の命を守るために選択した自衛的処置だ。これを政争の具にしてはいけない」

「韓・日の関係は歴史を直視しつつ、未来志向の関係を新たに作っていくべき」

「今、私たちに必要なのは、漠然とした期待ではなく冷静に現実を認識した創意的思考である」

 複数の韓国メディアは、朴大統領の祝辞を次のように分析した。

「日本に配慮して、日本側を刺激しない内容とした」「中国に対しては、中国が反対してもTHAAD配置決定に変わりがないことを強調した」

 朴大統領の祝辞について、与党セヌリ党のキム・ヒョンア報道官は「朴大統領は大韓民国を再跳躍させようと、変化と改革に対する強い意志を示した」と高く評価する論評を発表した。

 一方、野党は一斉に酷評した。共に民主党のパク・クァンウン報道官は次のように批判した。「THAAD配置に関して、国民と野党は朴大統領との対話を望んでいる。だが、朴大統領は異見と反論は認めないという態度を貫いている」「朴大統領は慰安婦問題について拙速に合意した。これは歴史を直視するものではなく、歴史を消して妥協しようということだ」。

 国民の党のソン・クムジュ報道官も「朴大統領は祝辞で未来のビジョンを提示しようとした。けれども、自分の不通(他の人の意見に耳を貸さない)と過誤は反省せず、すべての責任を他人のせいにしている。国民と元慰安婦らの同意なく、たった10億円で慰安婦問題に終止符を打ってはならない。光復節を迎えて何より必要なのは、朴大統領と大統領官邸が変化し対話をすることである」と指摘した。

 正義党のハン・チャンミン報道官も「国民の懸念と公憤にもかかわらず、THAAD配置を自衛的処置と主張し、屈辱的な慰安婦交渉については発言しない(朴大統領の)姿は、幽体離脱そのものである(自分のしたことに責任を取らない)」と断じた。

天皇の『深い反省』発言に注目

 8月15日になると韓国のテレビや新聞は日本の植民地支配を振り返り、韓国と日本の関係について論評する。今年は韓国の国会議員が独島(竹島)を訪問。日本の国会議員は靖国神社を参拝。両国が同時に、お互いに遺憾の意を表明する事態となった。

 複数の韓国メディアは、日本の大臣や議員による靖国神社参拝は、太平洋戦争を起こしたA級戦犯を日本を代表する人たちが祀り、侵略戦争を美化する行為だと解説した。

 韓国メディアは、日本武道館で行われた全国戦没者追悼式の様子も詳細に報じた。8月15日付の聯合ニュースや世界日報などは、「日王(天皇)は昨年に続いて『深い反省』という表現を使い、先の戦争における加害責任と反省にふれた。安倍晋三首相は2012年末に就任してから4年連続で、加害責任や謝罪に触れなかった」と紹介した。


By 趙 章恩

 

 日経ビジネス

 2016年8月

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