[日本と韓国の交差点] 韓国人気歌手が巻き起こした「セクシー」論争

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韓国で、女性人気歌手の新曲が「扇情的」だとして物議をかもした。20歳そこそこの女性KPOPアイドルたちは、水着同然のコスチュームで歌って踊る扇情的な姿を売りにしてきた。「今さら何が扇情的なのか」と思っていたら、今回は「小児を性の対象にしている」との批判だった。

 女性向けコミュニティーサイトや、この歌手が曲のモチーフにしたという本を出したトンニョク出版社が、「韓国の歌手IUの新曲『ZEZE』と『23』の歌詞、そしてミュージックビデオの映像が、小児を性の対象にしておりとても不愉快である」と抗議したことから論争が始まった。

童話の主人公ZEZEはセクシー

 ZEZEは韓国で最も有名な児童文学本「私のライムオレンジの木」に登場する主人公の少年だ。原著はブラジルの作家José Mauro de Vasconcelosの自伝的小説「Meu Pé de Laranja Lima」。韓国では1978年に韓国語版が出版され300万部以上が売れた名作で、現在もなお売れ続けている。韓国人に「心に残る本は?」と質問すると、大抵の人は「私のライムオレンジの木」と答える。それほど韓国人にとっては特別な本である。

 ZEZEが登場する曲の歌詞は「ZEZE、あなたは純粋だけど本当は狡猾ね。子供のように透明に見えるけど汚い。早く木に登って、葉に口づけして、いたずらはだめ、木を痛くしたらだめ、ここで最も若い葉を持って行って、一本しかない花を持って行って、Climb up me」と続く。しかもアルバムのジャケットには、ZEZEとみられる少年が網ストッキングのようなものを履いて、キノコの横に寝そべって片足を上にあげるポーズをとるイラストが描いてある。

 IU本人が「ZEZEを性の対象として描く意図は断じてなかった」と謝罪したものの、ファンミーティングの場で「(『ZEZE』の詞を作ったきかっけについて)5歳の少年ZEZEは純粋だけどある面では残忍で矛盾があり、だから魅力的でセクシーだと思った」と話したことから議論に拍車がかかった。ネットユーザーらは、「まだ子供であるZEZEがセクシーだなんて、どういうことだ」と問題にした。

 著名な作家や音楽プロデューサー、芸能人らも、賛否それぞれの立場からSNSで議論に参加。「明白に小児を性的対象にしている、これは許せない」「音楽は芸術で表現の自由が認められる、どう解釈するかは聴く人の自由だ」と議論を戦わせた。11月9日には英誌The Guardianがこの議論について報道した(関連記事「K-pop star IU’s song accused of ‘sexualising’ book’s child hero」)。

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By 趙 章恩

 日経ビジネス
 2015年11月6

-Original column

[日本と韓国の交差点] 韓国を揺るがす「大学入試の日」が変わる?!

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 11月12日は韓国の大学入試、「大学修学能力試験」の日である。当日は受験生の邪魔にならないよう公務員は出勤時間を遅らせ、地下鉄やバスは本数を増やす臨時ダイヤで運行する。試験会場周辺は騒音防止のため交通制限を行い、英語聞き取り試験の時間帯は飛行機の離着陸を中断する。韓国中が受験生に気を使い、ぴりぴりした雰囲気になる。パトカーや白バイが、遅刻しそうな受験生を乗せて試験会場に送る場面は、日本のテレビにもよく登場する。

 韓国の教育部(「部」は「省」に相当する)の資料によると、全国の在籍学生数(幼稚園から高校までを含む)は1986年の1031万人をピークに毎年平均10万人ずつ減少し続け、2015年には682万人にまで減少した。2015年は史上初めて、大学生の数まで減少した。(参考:「韓国、4年制大学の学生数が史上初めて減少」)

 学生の数が減ると受験生の数も減り、大学入試は楽になるはず。だが、人口減少を受け大学も定員を減らしているので、名門大学に入るための競争は激しさを増すばかりである。就職難のため、名門大学に入れるかどうかで今後60年以上の人生が決まってしまうからだ。

受験票は水戸黄門の印籠

 大学修学能力試験日が近づくとデパートやスーパーには特設コーナーが登場する。試験当日の必需品である保温弁当箱と魔法瓶、サプリ、合格を祈願する受験生へのプレゼントなどを販売するコーナーだ。

 保温弁当箱と魔法瓶は、受験生は朝8時から午後5時まで試験会場の外に出られないので必需品だ。サプリは、疲労回復効果がある高麗人参や、記憶力を向上させる効果があると宣伝されているビタミンD・天然カルシウム・天然鉄分などを配合したものの人気が高い。プレゼントには、昔から餅が人気。最近はヨッ(白や茶色の飴。歯にくっつくことから大学にくっつけという意味で贈る)も注目を集めている。

 今年は独特な合格祈願商品が登場した。「心配人形」はインディアンのお守りを模したもの。心配事を話して枕の下に入れて寝ると悩みを解決してくれるという。日本のマンガ「ドラゴンボール」に出てくるクリスタルのドラゴンボール7個セット(持っていると願いが叶うと宣伝している)も登場した。ソウル大学やハーバード大学など名門大学のロゴ入り文具やソウル大学の図書館で使っているというデスクライトなど有名大学にちなんだ商品もある。

 この時期になると、韓国ならではのマーケティングが登場する。11月12日から年末にかけて、大学修学能力試験の受験票は水戸黄門の印籠のような役割を果たす。これを持っていればどこに行っても特別扱いされるのだ。大田市鉄道公社は11月12日、受験生が無料で乗車できるようにする。全国のテーマパークは1日パスポートを6割引で販売する。レストランチェーンでは特別メニューを無料で提供する。デパートではセール価格で洋服が買える。

占いで答えを決める?

 11月に入って、韓国のテレビも新聞は、バラエティー番組やお笑い番組までも大学修学能力試験の話題一色になった。交通情報を24時間流す交通放送ラジオ局ですら、受験生を持つ親向けの放送をしている。大学修学能力試験特集を組み、有名予備校の入試コンサルタントに大学修学能力試験で高得点を得る秘訣を聞いたり、心療内科の医師に試験会場で緊張しないマインドコントロールのコツを聞いたりという具合だ。

 11月7日付朝鮮日報は入試を前に占いにすがる受験生の話を紹介した。占い師は、受験生の生年月日を基に占い、試験対応法を教えてくれるという。例えば、「五択問題で2番か5番か迷ったら2番。全然分からない場合は5番を選択しろ」という具合だ。30分の占い時間に1万円以上の料金がかかるが、予約も取れないほど繁盛しているとか。1枚3万円以上する合格札も人気だという。

 朝鮮日報は、眠気覚まし薬として「リタリン」という向精神薬を服用する受験生が増えていて危険とも報じた。

 11月4日付の中央日報は、大学修学能力試験の小論文や口述テストに出題されそうな1年間の出来事をまとめて紹介した。MARS(中東呼吸器症候群)、シリア難民、ネパール震災、姦通罪廃止、米国の同性結婚合法化などが並んでいる。大人にとっても難しいテーマばかりである。

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By 趙 章恩

 日経ビジネス
 2015年11月9

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[日本と韓国の交差点] 韓国から見た日韓首脳会談、評価は二分

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韓国の朴槿恵大統領と日本の安倍晋三首相が11月2日、就任後初めて会談を行った。日韓首脳会談そのものも2012年5月以来、3年6カ月ぶりである。11月3日付の韓国の新聞はいずれも、この日韓首脳会談を大々的に報じた。中国を含めた3カ国の首脳会談よりも扱いは大きかった。

 主な新聞の見出しは以下のとおり。
  • 朝鮮日報:「顔を合わせた100分、韓日正常化の一歩」「韓美(米)同盟のために過去史の衝突を我慢した朴大統領」
  • 東亜日報:「韓日慰安婦問題を早期妥結へ、期限は空欄」
  • 中央日報:「慰安婦、言うべきことは言った」
  • 毎日経済新聞:「朴・安倍首脳会談で、慰安婦問題の早期妥結に向け交渉を加速」
  • キョンヒャン新聞:「韓日首脳、自分の言いたいことを言っただけ」
  • 国民日報:「慰安婦問題が争点、妥結には至らず」
  • ソウル新聞:「韓日慰安婦問題を早期妥結するための交渉を加速化」
  • 世界日報:「やっぱり、慰安婦問題の解決法はなかった」
  • 韓国日報:「朴・安倍、慰安婦問題の協議を加速することで合意」
  • ハンギョレ新聞:「また後回しになった慰安婦問題の解決、韓日首脳は協議の加速を指示しただけ」

 韓国では日韓首脳会談が開催される予定と報じられた10月末から、会談を歓迎する記事があふれていた。ほとんどの韓国メディアが「ともかく首脳が2人で話をすべき」「韓日関係の決定的転換点」「成果に執着せず、とにかく会談すべき」「選挙がない今のうちに首脳会談をすべき」といった内容の社説を掲載した。

 見出しからわかるように、日韓首脳会談に対する評価は両極に分かれている。「朴大統領と安倍首相が会談を行っただけで意義がある。韓日関係を改善しようという両首脳の意志を確認できただけで成果がある」と前向きに評価する意見が多いが、「朴大統領があれだけ強調していた慰安婦問題は深堀することなくうやむやですませた。何のための首脳会談だったのか」と韓国政府の外交を批判的に見る意見も少なくない。

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By 趙 章恩

 日経ビジネス
 2015年11月4

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[韓国ソーシャルイノベーション事情] アジア初グーグルキャンパスがソウルに登場、スタートアップ支援で社会が変わった?

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 2015年5月、ソウル市の南側「江南(カンナム)」にアジア初の「グーグルキャンパス」がオープンした。江南といえば何年か前に世界的に大ヒットしたPSYの「Gangnam Style」の舞台である。東京の渋谷や青山のようにビジネス街でもあり若い人が集まる繁華街でもある。

 90年代から2000年代の初めまでも江南はITベンチャー街としても有名だった。江南地区の大通りであるテヘラン路にはオンラインゲーム会社やポータルサイト運営会社、WEBサイト制作会社、デジタルコンテンツ制作会社、ベンチャーキャピタルなどがびっしり入居し、テヘランバレーと呼ばれた。江南には24時間働くベンチャー人が集まり、食堂もサウナも文房具店までも24時間営業していた。

 ベンチャーから始まり財閥並みの大手企業に成長したポータルサイトのNAVER、オンラインゲームのNCSOFTなどは江南を離れさらに南に移動、郊外に巨大な自社ビルを建てた。今では江南から南へ車で30分ほど離れた板橋(パンギョ)がITベンチャー街になった。政府のインキュベーションセンターも、財閥系のSI会社も板橋に引っ越した。その後静かになった江南は金融街になり、交通が便利で緑も多いことから再開発で高級マンションが建てられた。

 そこにグーグルがやってきた。

 グーグルキャンパスソウルは世界で3番目、アジアでは初めてのグーグルキャンパスである。三成(サムスン)駅、COEX展示場から近い場所にある。ここは起業したばかりか、もしくはこれから起業したい人のための拠点である。グーグルの説明によると、韓国のスタートアップコミュニティを活性化するのがグーグルキャンパスの役割だという。

キャンパスの中はどうなっているかというと、無料会員登録をすれば誰でも利用できるカフェ兼仕事場、起業して3年以内社員数8人以下のスタートアップ企業8社が入居しているオフィス、会議室、イベントスペース、シャワー室、授乳室などがあり合わせて2,000平米の規模である。オフィスは賃貸料が発生するが、江南地域では考えられないような破格な安さで入居できる。

 カフェの入り口には夢と情熱があふれるスタートアップの求人広告があり、それを眺めているだけで最近求められているIT技術やサービスは何があるのか、トレンドを把握できたりもする。

 会議室やカフェでは、グーグルのスペシャリストが起業したい人のために相談にのったり、他の国にあるグーグルキャンパスにいるスタートアップ企業や投資家と交流できるほか、育児のため会社を辞めた母親のために赤ちゃんと一緒に参加できる起業スクールを開いたり、毎週木曜の夜は起業に興味がある人向けのパーティーが行われるなど、毎日何かしらイベントが行われている。

 2015年10月27日からは成長と共生(Growth:Symbiosis)、多様性と共同(Diversity: Together)、スタートアップとグローバル(Startups:Global)をテーマに、スタートアップにとって必要な心構え、世界のスタートアップ動向、先輩スタートアップ企業の成功談などを聞く勉強会が行われた。講師はグーグル本社の社員やFacebook、Yahoo本社の社員たちで、大反響となった。


韓国でスタートアップを支援しているのはグーグルキャンパスだけではない。韓国政府も投資を惜しまないでいる。もちろん、スタートアップを支援する背景には深刻な就職難がある。それ以上に、大手企業に入社できても「38度線(38歳で部長クラスにならないとクビになる)」、「五六島(56歳まで会社に残る人は給料泥棒、釜山にある地名だが発音が同じなのでこう言う)」と呼ばれ不安な日々を過ごすよりは、自分の仕事がしたいという挑戦的な若者も増えている。

 グーグルキャンパスソウルのようなインキュベーションと人が集まって仕事もできるカフェを併設している施設は全国に数えきれないほどたくさんある。その中でも有名なのは、政府系の施設で「コンテンツコリアラボ」、「K-ICTデバイスラボ」、「スマートコンテンツセンター」、「創造経済革新センター」いうところがある。ここではアイデアさえ良ければ、技術開発や試作品作りを政府が派遣した専門家が助けてくれる。ほぼ無料でビジネスを始められるようサポートしてくれるのだ。アイデアさえいいものがあれば、政府がおんぶにだっこでスタートアップさせてくれる。

 それでもグーグルは「グローバル」という切り口で韓国の若者を魅了した。米国に拠点を置き世界中で影響力を持つグーグルならではの国際的なイベントも魅力的だし、グーグルと接点を持つことで、いいものを作ればグーグルに買収してもらえるチャンスもある。

 それに最近の韓国の若者は、英語も第2外国語もペラペラの人が多く、韓国の中だけで仕事するのはもったいない。取材で出会ったスタートアップの青年らは、ほとんどが起業は韓国でするが、いずれは他のアジアの国や、米国、ヨーロッパ、中東、アフリカなどに進出するという目標を持っていた。人材がどんどん海外に出ていくことを懸念する人もいるが、ネットワークでつながった今の世の中に国境はあまり意味がないかもしれない。若い人にはもっと自由に羽ばたいて活躍することを期待したい。




By 趙 章恩

Newsweek コラム&ブログ
韓国ソーシャルイノベーション事情
 2015年11月3
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[日本と韓国の交差点] 韓国政府が歴史教科書を国定に限定へ

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 地上波放送SBSのニュースは10月17日、歴史教科書の国定化に反対する市民団体がソウル市内で行った集会を取り上げた。全国466の市民団体が実施したこの集会「韓国史教科書国定化阻止ネットワーク」には800人が参加した(警察の推定)。中には制服姿で参加する高校生の姿もあった。

 ソウル大学や韓国科学技術院、梨花女子大学といった主な大学の入り口には、歴史教科書の国定化に反対する学生らが署名した手書きポスターが貼られた。ポスターは「国民の意見を聞くことなく政府が一方的に国定教科書にすると決めたのは間違いである。国定教科書にするのは歴史を歪曲するため。政権の正当性を主張する手段として利用することに反対する」といった内容だった。

 教育部(「部」は日本の「省」に当たる)は10月12日、「中学校の歴史教科書と高等学校の韓国史教科書の発行体制改善方案」を発表した。中学の歴史教科書と高校の韓国史教科書は国定のもの1種に限定し、全国の学校で「正しい歴史」を教えるという内容だ。現在は教育部が行う検定をパスした複数の教科書があり、各学校がその中から選択している。今回の教育部の決定により、全国の中学・高校は2017年3月の新学期から国定教科書で教えることが義務となった。

親日行為・独裁・朝鮮戦争

 掲示板サイトやSNSでは歴史教科書の国定化をめぐって賛成派と反対派が対立し、お互いを攻撃する書き込みが後を絶たない。韓国ギャロップが10月13~15日に行った世論調査では、歴史教科書の国定化に「賛成」が42%、「反対」が42%と意見が真っ二つに分かれた。反対派の中心は若い世代と野党支持者。例えば20代の66%が国定化に反対する一方で、60歳以上は61%が賛成している。

 ファン・ウヨ社会副総理は10月12日、「現行の教科書にある間違った記述を部分的に修正する方法では問題を根本的に解決することはできない。このため政府が直接、教科書を発行することにした。未来の主役となる青少年が正しい国家観と歴史観を持つようにすべきである。政府が教科書を作れば『(植民地時代に民族を裏切った)親日行為と軍事政権による独裁を美化し、特定人物を賛美することになる』と非難する意見もある。そういう非難こそ現行の歴史教育が特定の理念に偏っていることを示すもの」と発表した。

 与党のセヌリ党も国定化に賛同している。セヌリ党は「現行の教科書は高校生に北朝鮮の体制を賞賛する内容を教えている」「韓国戦争(本誌注:朝鮮戦争を指す)を起こしたのは北朝鮮ではなく韓国だと教える教科書もある」と主張。このような主張を書いた垂れ幕を製作し、全国各地に設置した。朴槿恵大統領も13日、歴史教科書を国定化する必要があると発言した。

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By 趙 章恩

 日経ビジネス
 2015年10月20
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[日本と韓国の交差点] TPP進展受け「韓国は参加しなくていいのか」の声

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TPP(環太平洋経済連携協定)交渉に参加する12カ国は10月5日、大筋合意に達したと発表した。韓国はこれまでTPP交渉参加にそれほど関心がなかったはず。だが5日の発表を受けて、韓国メディアは火がついたようにTPP特集を組み始めた。

 「超巨大貿易市場TPP妥結、一歩遅れた韓国」「TPP参加国のGDPは世界の4割、韓国はTPPに参加しないのかできないのか」「米日が安保に続いて経済同盟も強化、韓国は疎外」など、TPPに参加しなかった韓国政府を問い詰める見出しが続いた。

 米国は2011年から2013年4月まで、TPP交渉に参加するよう韓国に繰り返し呼びかけていた。韓国は一度断ったものの、2013年末には交渉に参加したいと米国に打診した。しかし既に時遅し。韓国がTPP交渉に加わるには、先にTPP交渉に参加している12カ国の同意が必要となった。

 韓国は、TPP交渉に参加している国と韓国がFTA(自由貿易協定)を締結すれば、これらの国が韓国のTPP交渉参加を断ることはないとして、熱心にFTA締結に取り組んだ(関連記事「韓国TPP交渉への参加~「実質的には韓日FTA」との批判も」)。

 複数の韓国メディアによると、米国通商代表部のウェンディ・カトラー代表補は、「韓国がTPPに参加するのは自然な流れだ」として、積極的に参加を呼びかけた。しかし、韓国政府は2013年4月、中国とのFTAを大事にして、TPPに参加しない方針を表明した。

 ところが、その3カ月後に、韓国外交部(「部」は日本の「省」に相当)はTPPが韓国の国益になるという分析結果を発表。2013年末になると韓国政府は「TPPに参加したい」と立場を変えた。今度は米国側が韓国のTPP交渉参加を断った。韓国メディアはそれ以降、TPPのことをほとんど報道しなくなった。

TPP交渉に参加しなかったことを与党が批判

 TPP交渉の大筋合意が報じられた翌日の10月6日、チェ・キョンファン経済副総理兼企画財政部長官は、「(韓国政府は)どんなかたちであろうとTPP交渉には参加する方向で検討している。ただし、米(コメ)市場は開放しない」「FTAに集中していたのでTPPは疎かにしていた」と発言した。韓国メディアは「韓国の経済政策を担当するトップがTPPに参加できず焦っているような姿を見せた」と大々的に報道した。

 10月7日、国会で外交関連の国政監査が行われた。国政監査とは年一度、国会議員らが行政機関の仕事ぶりを評価し、政策や予算の使い道などを監査するもの。議員らは国政監査の場に長官を呼び出して質問攻めにする。長官はうろたえ、議員が「そんなことも答えられないのか」と叱るのがお決まりの展開だ。

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By 趙 章恩

 日経ビジネス
 2015年10月13
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[日本と韓国の交差点] 国慶節にらみ韓国版ブラックフライデー開催

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2014年11月に行われた米国のブラックフライデーセールは韓国中が大騒ぎになった(関連記事米国の「ブラックフライデー」に沸く韓国消費者)。ブラックフライデーは11月第4週目の金曜日のこと。米国ではこの日からクリスマスセールが始まる。大騒ぎになったのは、米国のショッピングサイトで家電や洋服などを購入して韓国に海外配送してもらう方が、韓国で購入するより断然安い――という逆転現象が起きたからだ。

 そして今年はなんと、韓国政府が「韓国版ブラックフライデーセール」を企画した。企画財政部(部は日本の省に相当)は9月22日に「コリアブラックフライデー推進計画」を発表し、セールを行うよう韓国の大手流通業に対して協力を要請した。

 コリアブラックフライデーセールは、10月1日から2週間の予定。韓国中のデパート、免税店、ショッピングモール、アウトレット、ディスカウントショップなど、全国の小売店2万6000店舗が参加し、大々的にセールを行っている。国慶節の連休を利用して韓国を訪問する中国人観光客の爆買いを狙った企画だ。もちろん、韓国全体の消費を伸ばして内需を復調させる目的もある。

 しかし、政府の発表から10日間しか準備期間がなかったため、メーカーは参加せず、流通事業者だけが参加することになった。何を安く売ればいいのか、セール品目をめぐり、流通事業者とメーカーの間でトラブルなどが生じた。このため、流通事業者だけが自社の販売手数料を安く抑える形でセールを実施することになった。割引幅が大きくないので、本当に盛り上がるだろうか、懸念する声もあった。

 企画財政部は、地域ごとにある市場の流通業者にもコリアブラックフライデーセールに参加するよう求めていた。開始から2日目に当たる10月2日になって、中小企業庁の担当者が全国に200以上ある市場を訪問し、「コリアブラックフライデーセール宣伝用の垂れ幕や懸賞イベントにかかる費用として500万ウォン(約55万円)を支援するので申請せよ。その代わりセールは7日以上続けないといけない」と説明して回っているそうだ。当然、市場で働く人々からは「今からではセール品目を用意できない」と不満が漏れ、セールをする店舗としない店舗に分かれるようになった。

3大デパートは20%を超える売り上げ増

 米国のブラックフライデーセールは企業が自ら行う安売り。定価から7~8割を割り引く商品もあるため人気が高い。消費者はみな、「買わないと損をする」と考えている。一方、コリアブラックフライデーセールは政府の指示でやるしかないセール。果たして消費を伸ばす効果はあるのだろうか。

 今のところ、効果は出ている。複数の韓国メディアによると、韓国の3大デパートである、ロッテデパート、新世界デパート、現代デパートの売り上げが伸びた。ロッテデパートは10月1~3日の売上高が前年同期比23.6%伸びた。特に靴、バッグ、アウトドアファッションがよく売れた。同社は創業者の長男と次男の間で起きた経営権紛争が「ロッテ王子の乱」と報じられ、ビジネス以外の面で注目を集めていたが、ブラックフライデーを機にイメージの挽回を狙ったようだ。どのデパートよりも積極的に値下げし、セール品目も豊富に用意した。

 新世界デパートは10月1~3日の売り上げが同36.7%伸びた。衣類、ジュエリー、時計が特によく売れた。現代デパートはおなじ期間の売上高が同27.6%伸びた。現代デパートも衣類、雑貨などファッション部門が好調だった。

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By 趙 章恩

 日経ビジネス
 2015年10月5
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[日本と韓国の交差点] 就職難が変えた韓国の家族の風景

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9月27日は陰暦8月15日。韓国ではお盆、秋夕(チュソク)である。土日を入れて4日間の連休だった。秋夕には親戚一同が集まり、新米のご飯と収穫したばかりの果物、たくさんの料理を作り茶禮(チャレ、お正月とお盆に行う先祖のための祭礼)を行う。お盆が近づくと「主婦の苦労を知ろう」「夫の実家だけでなく妻の実家にも行こう」など、テレビの秋夕マナーキャンペーンが始まる。

 今年は特に、親戚が集まった場で姪や甥に「就職は決まったの?」と尋ねるのは絶対タブーだと、地上波テレビのSBS(ソウル放送)がマナーキャンペーンを行った。就職情報サイトJobkoreaが9月16日にアンケート調査を行い、「秋夕で集まった親戚から聞かれたくない質問」を聞いたところ、1位が「就職は?」、2位が「年俸はいくら?」、3位は「太ったんじゃない?」、4位は「結婚はいつするの?」だった。

 Twitter Koreaも9月「#マナーが_お盆を_作る(映画『キングスマン』のセリフをパロディにした)」キャンペーンを行った。家族間、親戚の間でもマナーを守って楽しいお盆連休を過ごそうという内容だった。Twitter Koreaは「秋夕には親戚から嫌な質問をされがちなので行った」と説明した。

 韓国メディアは2015年のお盆について、多くの大学生が帰省せず、会社員は海外旅行、帰省渋滞はいつもより少ないと報じた。地上波のMBCニュースは9月27日、帰省ラッシュはもう昔話だと報じた。車のナビゲーションシステムを使って渋滞を迂回する、高速鉄道を利用するなどの変化もあるが、秋夕の祝い方も変わったという。昔は秋夕の連休の間、家族や親戚とずっと過ごすのが当たり前だった。ところが最近は親戚が集まるのは半日もしくは1日だけ。あとはショッピングや旅行をして連休を過ごすという。

 大学生の場合は、「親戚に会って就職のことを聞かれたくない」という理由で帰省せず、就職のための勉強を続ける割合が非常に高いという。韓国の大学の学生会はお正月とお盆にソウル市内の大学キャンパスから各地方へ向かう帰省バスを運行してきた。通常の高速バスより3割ほど安く利用できるのでとても人気があった。ところが今年は利用者が激減して帰省バスを運行しない大学が増えたという。

工学を専攻しないと就職できない

 秋夕の風景を変えたのは、なんといっても史上最悪の就職難。韓国では就職難と青年失業が何年も前から問題になっているが、報道をみると2015年は特に厳しいようだ。

 9月19日付の朝鮮日報によると、就職難により韓国では文系の大学生が複数専攻で工学部を選択する割合が急増した。2011年まで、文系の学生が工学部を複数専攻する割合はゼロに近かったが、2015年からどの大学でも目立って増え始めたという。企業が商品の企画や営業、事務の仕事までも工学部出身を優遇するので、学生らは仕方なく工学部を複数専攻しているという。

 ソウル大学の場合、2015年3月に入学した文系新入生の24.4%が複数専攻するなら工学部を選択すると答えた。大学も就職サポートのため、文系と理系に分けず本人の望み通り複数専攻をできるよう制度を変えている。文系・理系を決めず、色々な専攻科目を受講できるようにする大学もある。

 政府機関の韓国産業人力公団は、2015年9月から文系大学生を対象に工学部の科目を教える講座を始めた。工学部の学生が高校で学ぶ内容からやり直し、工学部を複数専攻できるようにする講座である。韓国の大手企業は、複数専攻で工学部を選択した学生も通常の工学部出身者と同じように優遇するので、この現象はなくなりそうにない。

 雇用政策を研究する韓国雇用開発院の調査によると、2014年末時点で理工系卒業生の就職率は65.6%、文系卒業生の就職率は45.5%と差が大きい。全国経済人連合会(韓国の経団連のような団体)が韓国の企業を対象に行った2015年度新規採用調査でも、サムスン電子、LG電子、現代自動車は新規採用の8割以上を理工学出身にすると答えた。

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By 趙 章恩

 日経ビジネス
 2015年9月29
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[韓国ソーシャルイノベーション事情] SNSとビッグデータから生まれたソウル市「深夜バス」

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深夜バス路線 
ソウル市中心部のチョンガクなどを起点にほぼ全域を網羅している

 2015年9月7日、ソウル市は「ソーシャルでソウル市民を笑顔にさせよう」というテーマでセミナーを開いた。このセミナーは、「ソーシャル特別市」を目指し、2011年あたりからSNSとビッグデータで行政を変え続けてきたソウル特別市(特別市は都のような意味)の事例を発表する場であった。

 セミナーでは、SNSに動画を投稿して月3000万ウォン(約330万円)を稼いでいるというBJ(Broadcasting Jockey、日本のニコニコ生放送のような個人放送局のパーソナリティ)も登場し、韓国におけるSNSの影響力の強さについて語った。行政におけるSNSの利活用効果を研究している大学教授と大学生らも参加し、ソウル市の持続可能なSNS活用法について議論した。教授らは「今まで韓国の行政機関はトップダウン式で政策を決めがちだった。SNSとビッグデータを活用することで、市民の意見を幅広く汲み取れる。公共政策は問題認識、政策立案、執行、評価の4段階を繰り返すが、市民の意見を政策に迅速に反映することで効率が上がる」とソウル市の動きを前向きに評価した。ソウル市はビッグデータ専門家を雇い、データに基づいて未来を予測、前もって備える行政を目指している。

 Twitterを使い積極的に市民とコミュニケーションすることで有名なパク・ウォンスン ソウル市長もセミナーに参加し、若い世代の意見を大事にしたいと語った。パク市長のTwitterIDは@wonsoonparkで、自身のプロフィールを「Social Designer」と書いている。


予算を使わず市民の生活を快適に
ソウル市がSNSとビッグデータで市民の生活をより便利にした代表的な事例が「深夜バス」である。2013年登場した深夜バスは、市長のSNSに寄せられた市民の意見から始まった。

 「深夜の時間帯はなかなかタクシーがつかまらない」
「アルバイトを終えて深夜割増のタクシーに乗って帰ると元も子もない。庶民のためにバスを24時間運行してほしい」


 ソウル市は試験的に2012年末、市内バスの運行を2時間延長してみた。SNS上で市民から喜びの声が届くと、ソウル市は通信キャリアのKTと提携、本格的に深夜バス運行について研究を始めた。個人情報は侵害せず、公益のためにデータを使う、ということでKTもデータを提供した。

 ソウル市はKTから無料で30億件もの通話量データをもらい、夜12時から朝5時まで携帯電話の受発信が多い基地局の位置を調べた。交通カード会社とタクシー会社の協力を得て受け取った深夜時間帯のタクシー乗下車位置データ500万件を基地局の位置と組み合わせ、深夜時間帯の人の流れを1キロ単位に区切ってソウル市の地図に記録した。その流れをつなぐ形で、2013年4月、2つの路線で深夜バスの運行を始めた。運行は地下鉄の終電が終わった時間から始発が出るまで、40~45分ごとに1台にした。

 深夜バスは常に定員の120%も乗車するほど人気を集めた。市民に絶賛された深夜バスは2013年9月から路線を増やし、2015年9月現在、8路線を運行している。ソウル市に「都バス」のような市営バスはないが、ソウル市のバス会社は市の補助金をもらっているので、協力体制は整っていた。

 深夜バスの運賃は昼間のバスの1.5倍程度で、庶民にも負担が少ない。韓国のバスは(地下鉄も)乗り換える度に料金が発生するのではなく、乗った総距離分の料金を払う。深夜バスを乗り換えればタクシーを利用しなくても自宅まで帰れる。ソウル市の無料交通アプリを利用すれば、バスが今どこを走っているのかがわかるので、バスを待ち続けることもない。

 ソウル市の深夜バスは企業から無償でデータをもらい、市が持っているデータもフルに活用したことで予算も大幅に節減できた。通常この規模のバス路線開発には100億ウォン(約11億円)以上かかるそうだが、ソウル市はたった2000万ウォン(約220万円)の予算しか使わなかった。

 現在、ソウル市はSNSとビッグデータを組み合わせて、市内のタクシー配車改善作業、お年寄りの交通事故パターン分析などを行っている。



ソウル特別市のオープンデータプラザ 市に集まった公共データを広く利活用してもらうためデータとAPIを公開している。

「ソーシャル特別市」を目指すソウル市のSNS活用
ソウル市は今年7月、「ソウル市ソーシャルメディア白書」を発行した。SNSを介して行われた、市民と市のコミュニケーションの記録である。

 2008年のブログ開設から始まったソウル市のソーシャルメディアは、2009年Twitter、2010年Facebook、2013年KakaoStory(無料メッセンジャーKakao Talkユーザーが使うミニブログ)、2014年Instagramに公式IDを作り、市民とやりとりしている。白書によると、2012年11月から2014年12月まで、ソウル市の公式ID宛に寄せられた市民のメッセージは2万8289件、ソウル市のフォロワーはSNSすべて合わせて約39万人だった。

 通常、SNSではTwitterやFacebookで同じ情報を発信することが多いが、ソウル市はSNSを使い分けている。災害関連緊急メッセージはTwitter、より詳細に伝えたいことがある時はFacebook、ソウル市の各種イベントの写真はInstagram、といった具合だ。市民はソウル市のSNSからイベント情報、地域情報、旅行情報を得るため、また市内で経験した不便な点を直してもらう苦情受付窓口として使うためフォローしている。

 ソウル市は白書を通じて、「SNSの中に人がいる。市民のことを知るため、市民の多様な意見を政策に反映するため、SNSを活用している。ソーシャルメディア白書は、市民とのコミュニケーションに悩んでいる行政担当者にとって良き資料になるだろう」と明かした。

 日本でも行政機関がTwitterやFacebookなどSNSを使って情報を発信することが流行っている。しかしなかには1年以上も更新がストップしていたり、一方的な告知や宣伝ばかりで市民の意見を汲み取るコミュニケーションになっていなかったりと、上手く活用している事例はそれほど多くない。SNSのIDはひと通り作ったものの、つぶやきを行政にどう反映したらいいのかさっぱりわからないという自治体の担当者にとって、ソウル市は良い事例研究の対象になるのではないだろうか。



By 趙 章恩

Newsweek コラム&ブログ
 2015年10月
-Original column

[日本と韓国の交差点] 韓国の最大手労組が労働市場改革で政府に妥協

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韓国政府の労働市場改革案を巡って、1年近く続いた政府、企業、労働組合の代表が集まる労使政委員会が9月13日の夜終わった。この交渉は2014年10月政府が案を出し、同年12月から始まった。2015年4月に労働組合代表の韓国労働組合総連盟が交渉決裂を宣言したため、いったんは中断した。しかし、8月に同総連盟が労使政委員会に復帰し、9月8日から交渉が再開していた。

 労使政委員会は労働政策に関する大統領の諮問委員会である。労使政委員長、雇用労働部(部は省)長官、韓国経営者総協会(日本の経団連のような団体)会長、韓国労働組合総連盟委員長の4人で構成する。

 労使政委員長は9月13日の夜、韓国労働組合総連盟委員長が政府の案を受け入れ、具体的な手続きや立法については今後協議するかたちで妥協したと発表した。だが、労使政委員会で合意がなったにもかかわらず、労働市場改革案を巡る議論はまだ続いている。メディアもネットも、政府が出した労働改革案に対する賛否両論を騒がしく紹介している。

 交渉が継続していた9月11日、政府と与党のセヌリ党は、労使政委員会で合意に至らなくても、政府がまとめた改革案通りの労働市場改革を9月14日から始めると立場を表明した。このことから複数の韓国メディアは、韓国労働組合総連盟が政府とセヌリ党の圧力に負けて合意したのではないかと報じている。

 労使政委員会に参加していないもう一つの大手組合連盟である、全国民主労働組合総連盟は「労働市場改悪阻止のため11~12月に総ストライキを行なう」と予告した。

 野党の新政治民主連合は「政府のしたいようにするなら、なんのために今まで交渉を続けたのか」と猛反発している。

 韓国政府がまとめた労働改革案は、(1)すべての公共機関と551の民間事業場に賃金ピーク制を導入する、(2)派遣労働者・特殊雇用職の産業災害を認める案をまとめる、(3)勤労時間の短縮及び通常賃金の範囲を明確にする――といった内容だ。

 賃金ピーク制は定年を延長する代わりに一定年齢に達したら賃金を削減すること。通常賃金とは勤労者に定期的に支払う賃金のことで、平均賃金の最低限度、解雇予告手当、時間外勤務手当、有給休暇手当、出産前後休暇給与を算定する基礎となる。このほかに、一定期間が過ぎた派遣労働者を非正規職のまま、より長く雇用できる方向での法改訂も予定している。

 この改革を推進するために、韓国政府は勤労基準法、派遣勤労者保護法、期間制及び短時間勤労者保護法、雇用保険法、産業災害保険法の5つを改訂しようとしている。チェ・キョンファン副総理は「古い慣行を改善して雇用を増やすのが、政府が労働市場改革を進める目的だ」と説明した。

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By 趙 章恩


 日経ビジネス
 2015年9月14
-Original column