[日本と韓国の交差点] 不正請託禁止法なのに「公正でない」との疑惑?

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韓国で、3月27日に公布された「不正腐敗防止法」――正式名称は「不正請託及び金品など收受の禁止に関する法律」、――が話題になっている。

 不正を防止し、公正で透明な社会を作ることを狙った法律だ。公職者が公正に職務を遂行することを保障し、公共機関に対する国民の信頼を確保することが目的である。公職者には、国会・裁判所・政府機関の公務員と公共機関・公共団体の職員、学校教職員、記者が含まれる。

 政府機関の一つである国民権益委員会が欧米の制度を参考にして法案を作成し、3月3日に国会が可決した。2016年9月28日から施行される。

 不正腐敗防止法は公職者に以下のことを求めている。

「一切の接待や経済的利益(金品)を受け取ってはならない。見返りを望んで接待や金品を提供してもならない」
「公職者は特定の人の利益のために自分の地位を利用してはならない」
「自分の職務内容に関連する講演を外部で行って、謝礼を受け取ってはならない」
「公職者とその配偶者は1回100万ウォン(約11万円)、年間300万ウォン(約33万円)以上の金品や接待を受けた場合は3年以下の懲役または3000万ウォン(約330万円)以下の罰金刑に処す。見返りの有無は問わない。金額が100万ウォン未満の場合も請託の対価であれば受け取った金額の2~5倍の過怠料を賦課する」
「政府は公職者が公正で清廉に職務を遂行できる勤務環境を作る努力する」

 韓国では公務員や公共機関の職員になる際に「国と国民のために尽くし、不正腐敗に手を染めることのない清廉潔白な公職者になる」と宣言する。賄賂を受け取れば処罰される。しかし、彼らが金品を受け取っても、それが何の「見返り」なのか証明できないために処罰できないケースが数多くあった。賄賂ではなく純粋なプレゼントと主張されれば処罰できなかったのだ。不正腐敗防止法が施行されれば、理由に関係なく金品の受け渡しや接待は処罰の対象になる。

 学校の教職員と記者も対象にしたのは、国公立学校の教職員と政府が出資したKBS(韓国放送)とEBS(教育放送)の記者を対象にしたところ、一部の教職員と記者だけが対象になるのは公平ではないという主張があったからだ。記者に対して自分に有利な記事を書いてもらうため接待をする人や、自分の子供をよろしくと教職員に金品を渡す人がいる。ある私立学校では、教師採用の見返りに理事が寄付金をもらったことが問題になっていた。

 韓国メディアは「(公職者と記者に対する)接待ゴルフはなくなるか」「(公職者や記者が金品を断る可能性があるため)お歳暮・お中元の市場は縮小するか」などと報じている。韓国でゴルフは数年前までお金持ちの特別な娯楽だったため、接待といえばゴルフだった。最近の若い記者は取材元と距離を置き、一切何も受け取らない。ゴルフもしないし、酒も飲まない人の方が多い。

立法した国会議員が自らを例外に

 韓国の国会によると、不正腐敗防止法の適用対象は約300万人になる見込み。不正請託は大きく15種類ある。

「法令に違反して税金や反則金などを減軽・免除するよう促す行為」
「昇進や異動など人事に介入する行為」
「入札・競売・試験などで職務上の秘密を漏らすよう促す行為」
「補助金・奨励金・交付金などを、法令に違反して特定団体や個人に支出するよう促す行為」
「公共機関が実施する各種評価・判定業務に関し法令に違反して操作する行為」

 どれも、公職者に頼んではいけないと常識で判断できることばかりだ。

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By 趙 章恩
 日経ビジネス
 2015年4月7
-Original column

[日本と韓国の交差点] 韓国で給食を巡る議論が沸騰

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韓国南部の慶尚南道(キョンサンナムド、略して慶南道。道は県に当たる行政区域)は4月1日、すべての小中高校生に対して無料で給食を提供する「無償給食」を中断した。慶南道政府が無償給食に割り当てられていた予算を別のことに使うことにしたため、慶南道の住民で小中高校生がいる家庭は子供1人当たり月4万~6万ウォン(約4400~6600円)の給食費を払わないといけなくなる。

 この制度には賛否両論がある。賛成派はこう主張する。
「国が定めた義務教育を終えられるよう給食も国が支給すべき」
「子供にみじめな思いをさせないため、貧乏であることを証明しなくてもいい、みんなで一緒に食べよう、ということで無償給食が始まった。なのに、なぜ慶南だけ時代に逆行する取り組みを行うのか」

 慶南道内では、無償給食中断に抗議すべく集団登校拒否が起きた学校もある。

 一方、無償給食に反対する人たちはこう考える。
「貧乏な家庭の子供だけ支援すればいい。平等もいいけどお金持ちの子供にまで無償給食を提供する必要はない」

食事について生徒の扱いを変えるのは教育上正しいか

 慶南道は今後、生活保護世帯など貧困であることを証明した家庭の子供にだけ無償給食を実施する。貧困の基準は4人家族で月収入が250万ウォン(約27万円)以下であること。一方、慶南道は、無償給食を中断する代わりに、年間50万ウォン(約5.5万円)を教育費として使える専用クレジットカードを貧困層に支給する考えだ。

 慶南道は今回の措置を取るのは財政赤字が原因と説明している。ただし進歩派と言われるメディアやネット掲示板、記事のコメントなどは「本当に財政赤字のせいなのか?」「無償給食は野党側の主要政策なので、与党寄りの知事が当選して中断させたのではないか」「福祉縮小の始まりなのか」などと見ている。

 ソウル放送(SBS)のラジオ番組は3月30日、慶南道の主婦をゲストに招き、地域住民はこの問題についてどう思っているのかを特集した。多くの主婦が「突然の一方的な決定に保護者は戸惑っている。食べ物で子供を差別する制度は教育的に正しいことなのだろうか。無償給食の予算を貧困層の教育費として使うというが、その制度は既に存在する。なぜ無償給食を中断するのか分からない」という反応を見せた。このラジオ番組の内容を新聞が取り上げ、ポータルサイトのニュースコーナーで「最も読まれた記事ランキング」上位にランクインするほど注目された。

 韓国では今でも親しい間柄で「食事は?」という挨拶言葉を交わす。「アンニョンハセヨ」よりも頻繁に使う表現だ。それほど食べることを重要視しているのだ。自治体の財政には限りがあるので子供に対する支援にも優先順位を付ける必要があるのかもしれない。だが慶南道の住民は、「それなら塾代にもならない教育費支援よりも、無償給食の方がもっとたくさんの子供を満足させるのではないか」と見ているようだ。

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By 趙 章恩
 日経ビジネス
 2015年3月31
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[日本と韓国の交差点] 韓国大手企業、新規雇用減、最低賃金値上げなし

 3月19日、韓国メディアは一斉に「円安で回復した日本の大手企業が大幅なベースアップを行った」と報道した。韓国でも、最低賃金を巡る議論がちょうど盛り上がっているので、日本のベースアップは多くの関心を集めた。韓国政府は景気を回復させるためには民間消費を増やす必要があるとして、大手企業に対して「法人税を安くした分、最低賃金と給料を値上げしてほしい」と要求した。だが、韓国の大手企業の代表らは政府の要求を断った。

 韓国の雇用労働部(部は省)は毎年3月から6月の間に翌年度の最低賃金を決め、8月に公表する。雇用労働部を中心に労働者、企業、有職者から構成される最低賃金委員会が、最低生活費や平均賃金などを調べて話し合いをし、最低賃金案をまとめて雇用労働部長官に提出する。雇用労働部長官が最終的に検討して発表する段取りになっている。

 韓国政府が最低賃金制度を導入したのは1988年のこと。当時は従業員10人以上の製造業だけに最低賃金制度が適用された。2000年からは従業員を雇う全ての事業主が最低賃金を守らなければならないようになった。ただし、親族だけで経営するお店は例外だ。

アルバイトだけでは生活できない

 2014年3月現在の最低賃金は1時間5580ウォン(約610円)である。大手企業の給料は、日本より韓国の方が高いかもしれない。しかし非正規職になると1時間約610円の最低賃金しかもらえないことが多い。所得の格差は非常に大きい。

 韓国内では「5580ウォンでは食堂で食事もできない」「最低賃金を値上げすべき」という声が大きくなっている。4年制大学を卒業しても正社員になれず、非正規職を転々とする若者が増えている中、最低賃金は若者の生計を左右する重要な問題になった。

 日本も最低賃金制度があり厚生労働省が地域ごとの金額を公表している。東京の場合は2014年10月以降、888円である。日本の求人雑誌やコンビニ求人の張り紙を見ると、ほとんどが最低賃金以上の金額を提示している。最低賃金しかもらえない韓国とは差がある。日本のフリーターはアルバイトだけで生活できるというが、韓国では夢のような話である。

 ソウル市傘下の区役所や公的団体の場合、2015年から「生活賃金」を適用している。生活賃金は、生活するために必要な最低限の費用を支給する制度。金額はソウル市の物価や平均家計所得や支出を考慮して算出する。ソウル市が先導的に導入したモデルである。ソウル市の生活賃金は1時間6687ウォン(約730円)。最低賃金より時給が約120円多い。しかし生活賃金を導入したのはソウル市傘下の公共機関だけで民間企業に広がってはいない。

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By 趙 章恩
 日経ビジネス
 2015年3月23
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[日本と韓国の交差点] 日本のベストセラー『嫌われる勇気』が韓国でもバカ売れ

2014年の話題作として日経ビジネスでも取り上げられた『嫌われる勇気』が韓国でも5週連続でベストセラー1位になった(関連記事「『嫌われる勇気』を持てば、幸せになれる~対人関係に悩まない生き方~」)。『嫌われる勇気』は日本で出版された当初から「日本でベストセラーになっている」と韓国でも話題になった。2014年11月に韓国語版が出版され、今年2月あたりから販売部数が伸び、著者の岸見一郎氏と古賀史健氏が3月に入って韓国を訪問したことで再び火が付いた。

 韓国の新聞、週刊誌、女性ファッション誌、テレビ番組、ラジオなどあらゆるメディアが韓国語版の『嫌われる勇気』の書評を掲載し、若者に一読を勧めた。韓国では「~する勇気」という言葉が流行語になり、「勇気」に関する本が次々と書店に登場している。『嫌われる勇気』が紹介した心理学者アルフレッド・アドラーが提唱する個人心理学を取り上げる新聞の特集記事やテレビ番組も続出した。

 3月14日には地上波放送のSBS(ソウル放送)がニュースの時間に「嫌われる勇気、アドラー心理学に熱狂する人々」と題した特集を、EBS(教育放送)ラジオが『嫌われる勇気』の内容を精神科医が解説する2時間番組を放送した。ケーブルテレビ局のMBN(毎日経済新聞)も「嫌われる勇気を持つこと」についてニュースの時間に大きく取り上げた。韓国最大手新聞の朝鮮日報も同日、『嫌われる勇気』の著者インタビューを大々的に掲載し、アドラーの心理学について紹介した。

 『嫌われる勇気』の著者である岸見氏と古賀氏が3月11~13日に韓国を訪問し、抽選で選ばれた読者向けにサイン会や講演を行った。定員300人の有料講演会はあっという間に受付終了。SNSは抽選に落ちて嘆くつぶやきで埋め尽くされた。著者講演会を主催した韓国最大手書店のキョボ文庫はあまりの反響に驚き、講演内容を別途紹介すると読者らに約束したほどだ。

30~40代の女性の間で特に人気

 『嫌われる勇気』は嫌われてもいいから自分勝手にしろとか、人に嫌われろという内容ではない。「自分のことをよく知り自分から変わろう、幸せになるために勇気を出そう」「人生は他者との競争ではない」「人の期待を満たすために生きてはいけない」というのがテーマだ。

 韓国の読者は、この本が発するメッセージに共感している。
「自分の悩みのすべてがこの本に書いてあって驚いた」
「他人が下す評価に落ち込むことはない、自分らしく生きる勇気を出そうと応援してくれる本なので好き」
「この本の内容に100%賛同するわけではないが、自分の人生がうまくいかないのは親のせいだと思っていた自分を反省した」
「子供に読ませたい」

 朝鮮日報によると、『嫌われる勇気』は20~50代の幅広い世代に読まれている。中でも30~40代の女性に人気だという。仕事も結婚も育児もがんばっている30~40代の女性は、みんなに対して良い人でいたい、がんばっていることを認められたい、その一心で努力するが結局うまくいかず人間関係に悩むことが多いからかもしれない。

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By 趙 章恩
 日経ビジネス
 2015年3月17
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[日本と韓国の交差点] 駐韓米国大使襲撃事件、韓国メディアは「雨降って地固まる」

3月5日の午前7時40分頃、リッパート駐韓米国大使が講演会場で襲撃され、顔や手に大けがをする事件が発生した。同大使が出席した講演会は、民族和解協力汎国民協議会が主催したもの。この団体は1998年の設立。北朝鮮に対する人道的支援や韓国と北朝鮮の統一に向け社会各層の人々が話し合える場を作ることを目的に政党、宗教団体、市民団体が会員となり活動する協議体である。韓国警察は同大使を刃物で切りつけた男を現場で取り押さえ、捜査を進めている。

 同警察は3月9日午前、捜査状況を説明する記者会見を行った。キム・ギジョン容疑者は「韓国軍と米軍が行っている合同軍事演習に抗議するため襲撃した。2010年7月に駐韓日本大使に向けてコンクリートの破片を投げたことがあるが、あまり脅しにならなかった。なので今回はナイフを用意した。殺害するつもりはなかった」と話しているという。

 3月5日付の聯合ニュースによると、キム容疑者は「南北対話を妨害する演習を中断せよ。戦時作戦統制権(戦争時に軍隊を総括的に指揮、統制する権限のこと)を韓国に奪還せよ」と書いた印刷物を会場に持ち込み、参加者数人に配った後、突然、リッパート大使を襲ったという。

 韓国警察はキム容疑者を殺人未遂だけでなく、国家保安法違反の容疑でも取り調べていると明かした。「目撃者が、キム容疑者は果物ナイフを使ってあごの近くを2回以上切りつけたと証言している。このため、同容疑者に米国大使を殺害する意図があったと判断している」と説明した。

 同警察は、「キム容疑者の犯行の動機や背後に関係者がいるかどうかを調べるため同容疑者の自宅を捜査したところ、北朝鮮体制を擁護する資料が10点見つかった。国家保安法第7条で定める利敵表現物所持の容疑でも集中的に捜査している」「米連邦捜査局(FBI)とも積極的に協力している」とも語っている。

 韓国メディアは、警備体制に問題があったのではないかと指摘している。招待状を持たないキム容疑者が講演会場に入れた、重要人物である大使がいるにもかかわらず荷物検査がなかった、しかも大使のすぐ隣のテーブルに座れた、ことなどが明らかになったからだ。これに対して韓国警察は、当日の警備体制に問題はなかったとしている。

Doing well & in great spirits!

 米国務省のハーフ副報道官は3月6日、駐韓米国大使の襲撃事件に関して「それでも米韓同盟が揺らぐことはない。これからも堅持する」と述べた。

 警備に関しては「参加者名簿がどのように作成されたか、参加者はどのように入場したのかなど事実確認を行っている。駐韓米国大使はソウル警察庁が24時間フルタイムの警護をしていた。ソウルはとても安全で危険地域ではない。襲撃事件については捜査中で、セキュリティーの強化が必要な場合は警護を追加する」と説明した。襲撃事件をテロと見なすかという質問に対して「この事件はひどい暴力行為である。それ以上の言葉でこの事件を規定することはしない」と答えた。

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By 趙 章恩
 日経ビジネス
 2015年3月10
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[日本と韓国の交差点] 韓国、爆弾酒飲んでも寿命が長い意外な理由?

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2015年2月27日、SBS(ソウル放送)のラジオ番組で面白いニュースを聞いた。「韓国人は飲酒に喫煙、辛い食べ物を好み、毎日が競争でリストラも多く、ストレスの多い生活を送っている。それにもかかわらず韓国人の寿命は延びている。その理由は『登山』にある」。

 この番組によると、「韓国人は登山が好きで、毎週のように山に登っているから足に筋肉がついて血液の循環がよい。登山を続けると疲れ知らずの健康体になる。生活習慣が良くなくても健康を保てる」。登山はゆっくり、長い距離を上るほど健康に良い影響を与えるので、心臓に無理がないよう登山を続けるのがいいという話だった。

 韓国ではアルコール度数の高い焼酎(19~20度)やウィスキーをビールに混ぜて飲む「爆弾酒」を好んで飲む。焼酎をビールで割るとアルコール度数が下がるので飲みやすくなる。しかしビールよりは度数が高いので速く酔えるからだ。また韓国のビールは味が薄いので、おいしく飲むために混ぜたという説もある。

 日本酒ブームの影響で、酔うために飲むのではなく、料理やお酒をおいしく味わいながら飲む文化が広がっているが、韓国企業の会食では必ずといっていいほど爆弾酒が登場する。食品医薬品安全処の調査では、韓国人のうち爆弾酒を飲んだことがある人は2013年には30%だったが、2014年には55%に増加した。そのうち90%はビールと焼酎を混ぜる「ソメク(韓国語で焼酎とビールの頭文字をとった略称)」を飲んだと答えた。

平均寿命が5年間で約2年伸びた

 「OECD Health Data 2014(2012年時点のデータ)」によると、15歳以上の韓国人の喫煙率は21.6%で、OECD加盟国平均の20.3%より高い。韓国人男性の喫煙率は37.6%でOECD加盟国の中ではギリシャに続いて2位である。15歳以上の人の年間アルコール消費量はOECD加盟国平均が9.0リットル、韓国人は9.1リットルだった。韓国人は激辛の食べ物や脂身の多いカルビなどを頻繁に食べる。体にいいことはあまりしていないようなのだが、平均寿命は着実に伸びている。

 「OECD Health Data 2014」によると、韓国人の平均寿命は81.3歳でOECD加盟国平均の80.2歳より長かった。韓国人の平均寿命は2006年には79.1歳だったが2012年には81.3歳となり、この5年間で約2年伸びた。ちなみに平均寿命が最も長い国は日本で83.2歳だった。過体重・肥満の人が人口に占める割合はOECD加盟国の平均が56.8%なのに対し、韓国は31.8%に過ぎなかった。

 「OECD Health Data 2014」を見ると、「自分は健康だと思う」と答えた人はOECD加盟国の平均が69.4%なのに対し、韓国人は33.3%(日本人は30.0%)だった。自分の健康を気にする人が多く、健康のためなら何でもする人が多いのも韓国人の寿命を長くしたのかもしれない。韓国でもテレビの人気番組のほとんどは「○○を食べると痩せる」「体にいい食べ物特集」「自宅で簡単にできる健康法」などを紹介する情報バラエティーだ。

 韓国人が医師にかかる診察回数は、国民1人当たり年間14.3回でOECD加盟国の平均6.9回より圧倒的に多かった。患者1人当たりの入院日数は16.1日でOECD加盟国平均の8.4日よりずいぶん長い。韓国にも国民健康保険があるので、診察料は平均本人3割負担、街の医院なら1回当たり数百円程度にすぎない。韓国人1人当たりの医療費支出は年間2291ドルでOECD加盟国平均の3484ドルより少なかった。ちょっとでも調子がよくないと思ったらすぐ病院に行くので、生活習慣がよくなくても健康でいられるのかもしれない。

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By 趙 章恩
 日経ビジネス
 2015年3月3
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[日本と韓国の交差点] 近隣騒音トラブル、韓国では政府機関が仲裁

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共同住宅の上の階や下の階に住む人との騒音トラブルが高じて、日本でも放火や殺人事件が起きている――こんなニュースを見て驚いた。日本人は他人に迷惑をかけないことを大事にするから、住民同士の騒音トラブルなんてあり得ないと思っていたからだ。

 日本でいう騒音トラブル、近隣騒音は、韓国では「層間騒音」と呼ぶ。足音、子供の叫び声、犬の鳴き声、シャワーやトイレの水音、掃除機・洗濯機の音、運動器具の音、椅子を引きずる音、楽器演奏の音などが大きすぎて、下の階や近くに住む住民が日常生活ができないほど苦しむことがある。90年代に入ってから深刻な問題になっている。

 韓国では「層間騒音」が原因でトラブルとなり、放火や殺人事件に発展したケースがいくつもある。最近は、自治会やマンション管理事務所が解決するレベルを超え、社会問題として政府機関が解決法を探っている。

 韓国の検索サイトに「層」の文字を入力するだけで、「層間騒音 解消法」「層間騒音 仲裁」「層間騒音 上の階に復讐する方法」などの関連キーワードがずらりと並ぶ。2月19日のお正月(韓国は旧暦でお正月を祝う)連休の際には、テレビのニュース番組が「親戚が集まるお正月連休は層間騒音に気を付けましょう」「大勢の人が集まる際には事前に下の階の人に挨拶しておきましょう」と何度も繰り返していた。

 特にソウル市の場合、市民の83%がマンションや多世帯住宅(2世帯住宅のように一戸建て住宅に複数の世帯が住むこと)などの共同住宅に住んでいる(2012年時点)。人口密度が高いせいか、「層間騒音」に悩む人が多いようだ。韓国の新聞記事を検索すると、層間騒音トラブルのほとんどが共同住宅で起きている。その他の騒音トラブルは、住宅街にある工事現場の騒音や、ゴルフ練習場の騒音がひどいとして訴訟になるくらいに留まる。

 「層間騒音」は経験してみないと、その苦しさが分からないかもしれない。筆者も「上の階の住人の足音ぐらいで苦情を言うなんてやりすぎじゃない?」と思っていたが、知人が住むマンションに遊びにいった際に「層間騒音」を経験した。上の階の部屋に住む子供が走ると、天井が揺れるように足音が響く。掃除機の音は、まるで旅行用キャリーバッグをガラガラ引きずっているように頭の上で聞こえる。椅子を引っ張った時に床と擦れて鳴る、キーッというあの嫌な音まではっきり聞こえるのだ。知人の話では上の階の住人は床の上にカーペットを敷いて足音がしないように気を付けているというが、あまり効果がないようだ。

層間騒音を解決する5つの方法

 韓国で「層間騒音」を解決する方法は大きく5つある。1つ目はマンションの管理事務所にどのような騒音に悩まされているのか説明し、マンションの管理規約に則って仲裁してもらう方法だ。

 2つ目は、国家騒音情報システムにアクセスし、「層間騒音イウッサイセンター」に調査を申し込む方法。同センターは騒音による近所トラブルを解消するため環境部(部は省)が2012年に設立したもの。イウッサイはお隣同士、近所同士という意味だ。騒音が発生する時間帯、騒音の種類、今までの経過(マンション管理事務所を通して注意したが聞いてくれないなど)などを詳しく記載して同センターに調査を申し込むと、騒音の専門家が自宅に来て騒音を測定し、騒音を出している住民に説明してくれる。仲裁サービスは全て無料で利用できる。

 「層間騒音イウッサイセンター」は500世帯以上が住むマンション団地を対象に「共同住宅層間騒音集中管理サービス」も実施している。「住民を対象にアンケート調査や公聴会を実施して騒音トラブルの実態を把握する」「騒音を防止するための管理規約を制定する」「騒音管理委員会を結成して騒音に関する管理規約を住民に説明する」といったサポートを行なう。

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By 趙 章恩
 日経ビジネス
 2015年2月23
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[日本と韓国の交差点] 韓国就職事情、文系大学生に就職口なし

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韓国の2月は卒業シーズンである。韓国は3月から1学期が始まる2学期制だ。この時期になると韓国メディアはどの大学、どの学科がもっとも就職率が高いかなどを記事にする。就職するのが非常に難しいからだ。

 韓国で、就職のために自分の適性とは関係なく理工学系を選ぶ学生が急増していることがニュースになっている。2014年下半期の新卒採用で、営業や総務といった職種でも理工学系の卒業生しか採用せず、文系の卒業生からはエントリーシートすら受け付けない会社が続出したからだ。サムスングループは新卒採用の85%を理工学系の卒業生にしたことで話題になった。中小企業も事情は似ていて、研究開発でも製造部門でも働くことができる理工学系だけを採用している。

 韓国の就職情報サイトによると、企業が理工学系の卒業生ばかり採用する理由は、「ITに関する知識や理工学系の思考方法が必要なビジネスが多いから」「理工学系の方が技術のトレンドを知っていて現場ですぐ使えるから」だという。

 韓国教育開発院が2月初めに公開した「2014年専攻別大学生就職率」によると、工学系を専攻した卒業生の就職率は65.6%。人文社会系を専攻した学生の就職率は45.5%で、工学系の方が20%ポイントも高かった。

文系学生は観相の良さまで求められる

 韓国ではついに「文系卒業生の9割は無職」とまで言われるほどになった。韓国の大学生の内訳は理工学系と文系がそれぞれ約15万人とほぼ同数なのに、就職口は理工学系の方が多い。

 企業が文系卒業生に以下を求めるのは当たり前。

  • 大学の優秀な成績
  • 満点に近いTOEICスコア
  • 欧米での語学研修経験
  • 各種資格証
  • 各種公募入賞経歴
  • インターン経歴
  • ボランティア経歴

 さらに、献血回数が多いことや観相(手相のように顔を見てその人の性格や将来を占う)的に良い顔をしていることを要求する企業まである。文系は筆記試験をパスした後も4段階以上ある面接に合格しないといけない。

 しかし、ほとんどの企業は、理工学系の卒業生には細かいことは要求しない。専門知識のテストと1~2回の面接だけで採用が決まる。理工学系でないと就職できないという危機感から、学生が急速に理工学系に流れる現象が起きている。

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By 趙 章恩
 日経ビジネス
 2015年2月18
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[日本と韓国の交差点] 韓国のプチぜいたく、お歳暮には日本酒、連休は日本旅行

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 2月19日は2015年の旧暦のお正月である。旧暦でお正月を祝う韓国では、デパートなどで「ソルソンムル」(日本のお歳暮と同じく、親戚や知人に感謝の気持ちを込めて贈り物をする)の売り出しが始まり、大賑わいとなっている。

 インターネットショッピングサイトの「オークション」が2015年1月7日~2月6日までのお歳暮の動向を分析したところ、1人当たり平均4.8個のお歳暮を注文していた。人気商品の第1位は果物セットやカルビセットといった生モノに近い食品、2位はツナ缶セットやハムセットといった加工食品、3位は健康食品だった。

 テレビのニュース番組が、ロブスターやサーモンなどのお歳暮セットが飛ぶように売れていると紹介していた。韓米FTA(自由貿易協定)のおかげで関税が安くなり、庶民でもこうしたものが買えるようになった。北海道のロイズコンフェクトのチョコレートや大阪の堂島ロールケーキもお歳暮として人気だという。高級なデザートをお歳暮に送るのも今年のトレンドだ。一人世帯が増えていることが背景にある。果物セットや水産物セットをもらっても食べきれないのだ。

日本酒でプチぜいたく

 ソウル市内のデパートに出かけると、日本酒セットをお歳暮用に販売しているところが増えていた。韓国では日本酒を「サケ」と言い、ここ数年、人気が高まり続けている。2011年3月に起きた福島原発事故を受けて韓国政府は、東北地方産の米や水産物の輸入を禁止しているが、日本酒だけは輸入を続けている。国会の保健福祉委員会の調査によると、2012年に韓国が輸入した日本酒は東北地方産を含めて3127トンだった。これが2013年には3647トンに、2014年には7月時点で1823トンに増えている。

 韓国の新聞や雑誌で、東北の温泉や日本酒の蔵元を紹介する記事が増えている。韓国メディアは韓国で日本酒が人気を集めている状況を「スモール・ラグジュアリー」ブームと分析した。スモール・ラグジュアリーは、日本語の「プチぜいたく」とほぼ同じ意味である。家やクルマではなく、酒やコーヒー、パン、チョコレート、ジュースなど食べ物にお金をかける。

 スモール・ラグジュアリーを楽しむ人たちが求めるのは、これらの食べ物がテーブルに至るまでどういう過程を経たのか、安全で希少価値があることを証明する物語である。日本酒は全国各地に蔵元があり、それぞれの職人がお米選びから瓶詰めまで時間をかけて丹念に作る――こういった物語が、大量生産品ばかりの韓国でヒットした要因と言える。

 NHKが2月7日、朝のニュースで、韓国で日本酒がブームになっている様子を報道していた。韓国向けの輸出が急激に伸びており、国別の輸出先では米国に次いで、韓国が2位に付けているという。ちなみに3位は台湾だ。「日本酒飲み放題」を売りにするソウル市内のお店や、産地や使用するお米が異なる複数の日本酒を色々と試飲できる専門店などを紹介していた。NHKの番組は、韓国の女性たちが日本酒を好んで飲んでいる様子も伝えていた。「日本酒は度数が強くなくて飲みやすい」「日本酒は香りがとてもよくておしゃれ」なことを好感しているという。NHKは日本酒が韓国で人気の理由について、「円安で日本酒の値段が安くなった」からと分析した。

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By 趙 章恩
 日経ビジネス
 2015年2月3
-Original column

[日本と韓国の交差点] 韓国でも衝撃! イスラム国による日本人殺害

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韓国メディアは2月1日、「偏見なくイスラムの真相を伝えようとした日本人ジャーナリストが殺害された」「亡くなった後藤健二氏はイスラムの友達だったのになぜ。彼は紛争地域に住む子供たちの現状を世界に知らせ、助けた」などの見出しでイスラム国と見られる組織が日本人人質を殺害したことを大々的に報道した。

 また、イスラム国に関わる人道的支援をするだけでも狙われることが分かった以上、日本と同じく米国を支持する韓国も安全ではない――という認識が広がっている。もし韓国人が人質となった場合、韓国政府はどう対応するのか、韓国政府の危機管理体制を見直すべきと指摘する韓国メディアが増えている。

 一方で、日本政府の今後の対応を気にする報道も続いている。朝鮮日報やソウル新聞、YTNなどは2月2日、「日本、自衛隊の軍事活動を拡大する動き」「再武装の名分を得た日本」「積極的平和主義に拍車、葛藤(韓国との摩擦)予告」などと報道している。日本政府がテロ対策や自国民救助という名目で自衛隊の役割を拡大しようとしている、つまり日本が海外で戦争する国になるのではないかという内容だ。

 韓国の検索サイトではこの1週間ずっと、「日本人人質」「日本人ジャーナリスト」が検索キーワードの上位5位内にあった。SNSを中心に後藤健二氏の今までの活動が広く知れ渡り、「助かってほしい」と無事を祈る書き込みが後を絶たなかった。Twitterでは「これ以上イスラム国でジャーナリストが犠牲にならないことを祈る」「後藤健二氏のご冥福を祈ります」というつぶやきが続いている。

 韓国人ですら悲しみと怒りを拭えない中、後藤健二氏と湯川遥菜氏の遺族の対応は韓国中を驚かせた。自分の家族が犠牲になったにもかかわらず、「世間をお騒がせして申し訳ございません」「皆様にご心配、ご迷惑をおかけして申し訳ございません」と謝罪する言葉を先に述べたからだ。これは韓国では考えられない対応である。「危険と知りながら紛争地域に行ったから自己責任だ」という見方もあるが、韓国では渡航が禁止された地域に行って人質となり殺害された人の遺族が、なぜ助けてくれなかったのかと韓国政府を相手に訴訟を起こしたこともあった。

センムル教会人質事件では身代金の支払いに批判

 イスラム関連で韓国人が人質となって殺害される事件が過去に何度かあった。代表的なのは故キム・ソンイル氏事件とセンムル教会事件だ。イラクの武装勢力が2004年、米国との貿易を行なう会社で働いていたキム・ソンイル氏を拉致、韓国軍がイラクから撤収するよう求めたが韓国政府はこれを拒否した。これを受けて武装勢力は、キム・ソンイル氏を殺害した。

 キム・ソンイル氏は大学でアラビア語を専攻し、大学院に進学する費用を稼ごうとイラクで働いていた。武装勢力はキム氏を殺害する場面を録画した動画をネットで公開した。韓国メディアの報道によると、キム氏を殺害した武装勢力が現在のイスラム国だという。

 2007年には、ソウル市郊外にあるセンムル教会の信者23人が、キリスト教を宣教するとして、渡航が禁じられているアフガニスタンに入国。タリバンの人質となり2人が死亡した。タリバンは当時、アフガニスタンにいる韓国軍の撤収を求めていた。韓国政府は身代金(金額は非公開)を払い、韓国軍の撤収を約束して残る21人を救出した。

 韓国メディアはセンムル教会人質事件を、「韓国政府が右往左往した末、テロに屈し、タリバンに直接身代金を支払った。韓国軍をアフガニスタンから撤収させたことで韓米軍事同盟の信頼を低下させた。韓国に大きなダメージを与えた事件」と評価した。

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By 趙 章恩

 日経ビジネス
 2015年2月3
-Original column