[日本と韓国の交差点] 盛り上がれない韓国のワールドカップ

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2014ワールドカップが開幕した。日本では全国各地に設置されたパブリックビューイングの前に大勢の人が集まって、試合を観戦していると聞く。日本代表戦が行われた6月15日、サムライブルーに染まった渋谷の光景を韓国メディアも紹介していた。

 ワールドカップの応援といえば韓国も日本に負けていない。韓国代表チームの公式サポーターは赤い悪魔(Red Devil)。赤いTシャツを着た人達が街にあふれ、大いに盛り上がる。十数万人がソウル市庁前広場に集まり、ステージの上ではアイドルグループがワールドカップ応援ソングを歌い、お祭り騒ぎの中で韓国代表を応援する光景が海外メディアにもよく登場する。

 住宅街の居酒屋、家電量販店などテレビがある場所に、いつの間にか人が集まり、ゴールが決まれば見ず知らずの人とも抱き合って喜ぶ。それが、これまでのワールドカップだった。ワールドカップ期間中はどの飲食店でもテレビのチャンネルはスポーツニュースか試合中継に固定、映画館やサッカー場、野球場などでもワールドカップの試合を中継し、ワールドカップの話題で盛り上がるのが当たり前だった――。

 しかし、今年のブラジル大会はとても静かだ。赤い悪魔が例年主催していたソウル市庁前広場の街角応援も、今年は場所を変え、あまり騒がず小規模で応援することになった。全国各地の市庁前広場でも、自治体の協力の下、街角応援が行われていたが、今年は街角応援を一切しないと決めた自治体もある。FIFAの公式スポンサーであるコカコーラや現代自動車が主催する街角応援はあるが、どれも前回の南アフリカ大会に比べて規模を大幅に縮小している。

依然として続くセウォル号事故後の自粛ムード

 韓国でワールドカップが盛り上がらない理由はいろいろある。何よりもセウォル号沈没事故後の自粛ムードが続いている。6月14日時点でまだ12人が行方不明のままだ。政府合同焼香所が、ソウル市庁前をはじめとする大都市の市庁前に今も残っている。事故の責任を巡る裁判も始まったばかりだ。セウォル号の事故を忘れて笑って騒ぐのは申し訳ない、焼香所の前で街角応援をするわけにはいかない、ということで、ソウル市庁前広場の街角応援は光化門(グァンファムン)広場に移動することになった。新聞社と官庁が集まっている狭い場所なので、これまでのように十数万人が集まることは難しい。

 セウォル号沈没事故以降、韓国政府が抱える問題点が次々に明るみになっていることから、ワールドカップどころではないという雰囲気もある。いつもなら5月あたりから企業のワールドカップ便乗マーケティング合戦が盛り上がる。今回は企業も静かなマーケティングに徹している。

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2014年6月16日

趙 章恩=(ITジャーナリスト)

日経パソコン
 

-Original column

[日本と韓国の交差点] 韓国メディアが注目する「怒る母親」世代

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6月4日の全国地方選挙が終わると、韓国メディアは一斉に2014年の地方選挙は「怒る母親(Angry Mom)」が選挙の流れを変えたと報道した。修学旅行中の高校生が犠牲になったセウォル号沈没事故の後、政府や関連機関の対処に怒った40代の母親達が、「韓国を変えないといけない。子供によりよい未来を残したい」と政治に関心を持ち、野党候補に票を投じたという分析だった。

 地上波放送局3社共同出口調査の結果を見ると、40代女性による投票はすべての地域において、野党へのものが与党へのものを上回った。ソウル市、釜山市、京畿市といった大都市では、野党候補に投票したと答えた40代女性が62%を超えた。


 韓国地方選挙の投票率は56.8%。中央選挙管理委員会が期待した投票率60%には届かなかった(関連記事「韓国地方選挙、「事前投票制度」で投票率向上目指す)。市長・道(日本の県に当たる自治体)知事選挙の結果は17の自治体で野党候補が9地域、与党候補が8地域で当選した。政府批判的なムードが高まっていたが、50代以上のシニア層は大統領選挙の時と変わらず与党を支持したため、ほぼ半々の結果になった。


 ソウル市長選の場合、韓国ギャロップの調査によると、20代は69.9%、30代は74.5%、40代は66.0%が新政治連合(野党)候補であるパク・ウォンスン現ソウル市長を支持した。一方、50代は57.5%、60代以上は76.5%がセヌリ党(与党)のチョン・モンジュン候補を支持した。


教育監選挙では進歩派が圧勝


 ところが、教育監の選挙結果は様相が異なった。17の自治体のうち、13の地域で野党に近い進歩派の候補が当選(教育監は政党に所属しない)。進歩派の圧勝と言っても過言ではない結果になった。2010年の地方選挙では進歩派教育監は6人しか当選しなかった。今回は保守派支持層が多い釜山市でも、市長は与党候補が当選したものの、教育監は進歩派候補が勝利した。


 韓国の全国地方選挙では、各自治体の教育行政を担当する教育庁の代表者「教育監」を選ぶ選挙も行われる。韓国の教育行政は日本と似ている。市・道ごとに教育庁があり、教育と学芸に関する政策と行政業務を担当する。市・道議会内に教育委員会があり、教育関連法制度の審議・議決を行う。教育委員会の委員は市・道議会の議員で構成する。自治体ごとにいくつかの教育支援庁があり教育庁の業務をサポートする。


 教育監は日本の教育長に当たる地位。予算編成、学校の設立と廃校、教育課程編成など教育政策に関する絶大な権限を持つ。教育部(部は省)や大統領も指図することはできない。そのため、2006年から市民が直接選ぶ制度になった。



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2014年6月9日



趙 章恩=(ITジャーナリスト)



日経パソコン

 



[日本と韓国の交差点] 韓国地方選挙、「事前投票制度」で投票率向上目指す

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6月4日は、韓国の地方選挙の投票日である。市長または都知事、教育監、区長、地方議会議員(市議会、区議会など)などを選ぶ選挙で、投票用紙が7枚もある。

 韓国では今回の地方選挙から、全国単位で初めて「事前投票制度」を導入した。これに伴い、従来の不在者投票制度は廃止する。事前投票は、不在者投票と同じく、本来の投票日に自分の住所地にある投票所で投票ができない人のための制度である。しかし不在者投票と違い、事前投票はとても楽に投票できるようにした。


 不在者投票は、投票日の28日前までに、中央選挙管理委員会に郵便で申し込む。郵便で届く投票用紙を持参して、滞在先の不在者投票所で選挙日6日前に投票する。不在者投票所は、役所と一部の大学が当てられていた(2013年は413カ所)。主に、徴兵で軍にいる軍人や大学進学のため都市にいる大学生、警察官、障害のある人や長期入院している人、選挙管理委員会の職員が利用していた。不在者投票は28日前には申し込まないといけないため、投票日の直前になって急用ができた場合は投票を諦めるしかなかった。


 一方、新たに導入された事前投票は、事前の申し込みは必要ない。選挙日直前の金曜と土曜日の2日間(今回は5月30~31日)、朝6時から夕方6時まで全国どこの事前投票所でも、身分証を持っていくだけで投票できる。事前投票所の数は全国3506カ所に及ぶ。役所に限らず、仁川空港など人が集まる場所にも事前投票所を設けたので、旅行に行く前に空港で投票できるととても好評だ。


 日本の期日前投票制度は、選挙期日の公示日または翌日から投票日前日まで、選挙人名簿に登録されている市区町村と同じ市区町村の役所・役場にある期日前投票所で投票する。韓国は選挙人名簿を地域別ではなく全国統合選挙人名簿で管理しているので、全国どの事前投票所でも投票できる。


投票率を高める効果


 韓国は投票日が臨時公休日となるので、6月4日は休日だ。6月6日も公休日(顯忠日)なので、6月5日に休暇を取れば4~8日まで5連休になる。


 6月6日は顯忠日(ヒョンチュンイル)といって、日本による植民地支配から独立するために戦い亡くなった人や、朝鮮戦争で亡くなった軍人を追悼する日である。この日は半旗を掲げ、騒いだり派手なことをしたりするのを慎む。クラブでも静かな曲しか流さない。最近は、顯忠日が本来持つ意味を忘れ、ただの休みの日としか思わない若い世代も多い。


 このため今回の地方選挙は、連休の影響で投票率が史上最低になるかもしれないと懸念する声があった。しかし事前投票制度の導入により、連休でも投票率低下を食い止められそうだ。


 中央選挙管理委員会が公開した5月30~31日の事前投票率は11.49%、2010年地方選挙の不在者投票率は1.87%だったので、かなり高い数字を記録した。年齢別に見ると、20代が15.97%、30代が9.41%、40代が9.99%、50代が11.53%、60代以上が12.22%だった。20代が最も多いのは、軍人と警察官の事前投票率が高いためと見られる。


 2010年の地方選挙における最終的な投票率は54.4%だった。中央選挙管理委員会は今回、事前投票率が高かっただけに、2010年より5ポイントほど高い60%を目標としている。



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2014年6月4日



趙 章恩=(ITジャーナリスト)



日経パソコン

 



[日本と韓国の交差点] 韓国地方選挙、「事前投票制度」で投票率向上目指す

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6月4日は、韓国の地方選挙の投票日である。市長または都知事、教育監、区長、地方議会議員(市議会、区議会など)などを選ぶ選挙で、投票用紙が7枚もある。

 韓国では今回の地方選挙から、全国単位で初めて「事前投票制度」を導入した。これに伴い、従来の不在者投票制度は廃止する。事前投票は、不在者投票と同じく、本来の投票日に自分の住所地にある投票所で投票ができない人のための制度である。しかし不在者投票と違い、事前投票はとても楽に投票できるようにした。


 不在者投票は、投票日の28日前までに、中央選挙管理委員会に郵便で申し込む。郵便で届く投票用紙を持参して、滞在先の不在者投票所で選挙日6日前に投票する。不在者投票所は、役所と一部の大学が当てられていた(2013年は413カ所)。主に、徴兵で軍にいる軍人や大学進学のため都市にいる大学生、警察官、障害のある人や長期入院している人、選挙管理委員会の職員が利用していた。不在者投票は28日前には申し込まないといけないため、投票日の直前になって急用ができた場合は投票を諦めるしかなかった。


 一方、新たに導入された事前投票は、事前の申し込みは必要ない。選挙日直前の金曜と土曜日の2日間(今回は5月30~31日)、朝6時から夕方6時まで全国どこの事前投票所でも、身分証を持っていくだけで投票できる。事前投票所の数は全国3506カ所に及ぶ。役所に限らず、仁川空港など人が集まる場所にも事前投票所を設けたので、旅行に行く前に空港で投票できるととても好評だ。


 日本の期日前投票制度は、選挙期日の公示日または翌日から投票日前日まで、選挙人名簿に登録されている市区町村と同じ市区町村の役所・役場にある期日前投票所で投票する。韓国は選挙人名簿を地域別ではなく全国統合選挙人名簿で管理しているので、全国どの事前投票所でも投票できる。


投票率を高める効果


 韓国は投票日が臨時公休日となるので、6月4日は休日だ。6月6日も公休日(顯忠日)なので、6月5日に休暇を取れば4~8日まで5連休になる。


 6月6日は顯忠日(ヒョンチュンイル)といって、日本による植民地支配から独立するために戦い亡くなった人や、朝鮮戦争で亡くなった軍人を追悼する日である。この日は半旗を掲げ、騒いだり派手なことをしたりするのを慎む。クラブでも静かな曲しか流さない。最近は、顯忠日が本来持つ意味を忘れ、ただの休みの日としか思わない若い世代も多い。


 このため今回の地方選挙は、連休の影響で投票率が史上最低になるかもしれないと懸念する声があった。しかし事前投票制度の導入により、連休でも投票率低下を食い止められそうだ。


 中央選挙管理委員会が公開した5月30~31日の事前投票率は11.49%、2010年地方選挙の不在者投票率は1.87%だったので、かなり高い数字を記録した。年齢別に見ると、20代が15.97%、30代が9.41%、40代が9.99%、50代が11.53%、60代以上が12.22%だった。20代が最も多いのは、軍人と警察官の事前投票率が高いためと見られる。


 2010年の地方選挙における最終的な投票率は54.4%だった。中央選挙管理委員会は今回、事前投票率が高かっただけに、2010年より5ポイントほど高い60%を目標としている。



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2014年6月3日



趙 章恩=(ITジャーナリスト)



日経パソコン

 



[日本と韓国の交差点] 日本の原発判決が韓国に与えた影響

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セウォル号沈没事故以降、韓国社会はこれまでよりも「災害対策」と「安全」に敏感になっている。このような大惨事を予防するため、さまざまな産業が安全対策を再検討している。

 今一番の心配は原発だ。稼働から30年を超えた原発を稼働させ続けることについて、原発周辺の住民と市民団体らが事故の可能性が非常に高いと懸念している。韓国は経済発展を優先し、安全より利益と効率を重視し続けてきた。このままでいいのかという疑問の声が後を絶たない。


 こうした中、日本の福井地裁が5月21日、大飯原発3、4号機の再稼働を認めないとする判決を下したことが韓国で大きな話題になった。福井地裁の「個人の生命と生活に関する利益である人格権より大事な価値はない」という判決が、韓国の原発周辺に住む住民と市民団体を動かした。


 韓国の国会はセウォル号が沈没した原因の一つとして、李明博前大統領が2009年に、20年だった客船寿命を30年に延長したことが問題だと見ている。同大統領は、客船の寿命を10年延長すると年間250億ウォン(約27億円)の経済利益を得られるとして、規制を緩和した。学者の間では「20年以上運航した客船は事故の可能性が高い。客船の運航寿命を延長して得られる利益より海洋事故による損失の方が大きい」と反対する声が上がったが、当時の韓国政府はこれを受け入れなかった。


 セウォル号は、既に18年にわたって運航されていた中古船を、韓国の船会社チョンへジン社が日本から輸入し、韓国でさらに2年以上運航していた。海洋水産部(部は省)の資料によると、韓国内で運航中の客船は173隻(2013年末時点)。このうち海外から輸入した中古客船は36隻。輸入した客船の平均運航期間は20.7年だった。


当初予定していた寿命を超えて稼働


 設計寿命を延長して使い続けている原発でも、セウォル号と同じことが繰り返されるのではいかという懸念が高まっている――安全より利益を重視して運航寿命を延長したことが大参事につながる。


 韓国原子力安全委員会は、ゴリ原発1号機を2017年まで稼働できるようにした。同機は設計寿命30年で1978年に商業運転を開始した。本来なら2008年で寿命を迎えるものを2017年まで延長している。ゴリ原発は韓国第2の都市、釜山市から車で1時間ほどの距離にある。


 韓国の原発は、釜山周辺の東海岸に集中している。事故があった場合、釜山から近い九州にも影響が出る。もちろん九州地域にある原発で事故があった場合、同じように釜山地域に影響が出る。韓国も日本も原発は自分たちだけの問題ではない。



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2014年5月27日



趙 章恩=(ITジャーナリスト)



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[日本と韓国の交差点] 韓国で続く政府批判~公営放送のセウォル号報道に介入疑惑

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ソウル市中心部の各地で5月17日、セウォル号沈没事故の真相究明と責任者の処罰を求める集会がいくつも行われた。各種市民団体の呼びかけで市民が集まった。政府の最高責任者である朴槿恵大統領の退陣を求める集会を開催する市民団体もあった。この日の集会に参加した総人数について、市民団体は5万人、警察は1万1000人と発表している。

 ソウル市庁の周辺では、女子大生が中心となって沈黙集会を開いた。沈黙集会は、セウォル号の乗員が「客室で待機してください、その場で動かないようにしてください」と船内放送をして自分たちだけ逃げたことを受けて、「『その場で動かないように』という指示にはもう従わない、黙っていない」ことを逆説的にアピールすることを狙ったものだ。安心して子供を育てられる国にしてほしいと、子供を連れた母親たちが行進する小さな集会も住宅街で開かれた。


 朴大統領は5月16日、セウォル号沈没被害者家族の代表を大統領官邸に招いて政府の事故後の対処について謝罪するとともに、事故の真相を究明すると約束した。朴大統領は面談の場で、「セウォル号事故を契機に、韓国が完全に新しい国に生まれ変わるよう努力している」「このようなことが二度と起きないよう、社会の安全システムを根本から見直す。国家大改造というレベルで社会の基礎から立て直すことが、犠牲者への償いとなる」などと発言した。


 それでも市民の声は収まらない。ネット上では政府を批判する声が続いていた。


「どうやって韓国を生まれ変わらせるのかが問題。具体的な方案がない」
「朴大統領は『謝罪します』ですべてが収まると思わないでほしい。真相を暴くのはこれからだ」
「今までの救助活動や捜査状況を見て、大統領と政府機関の言うことは一切信用できない」


 セウォル号沈没事故の真相究明を求める集会の頻度が徐々に増え、ついに5月17日の大規模な集会につながった。


警察が集会参加者を逮捕


 5月17日、警察は集会に参加した人の一部が車道に出て交通を妨害したとして、100人以上を逮捕し、警察署に連行した。集会に参加した人たちは警察に抗議し、SNSで集会の自由を訴えた。


 ネット上では「反政府勢力がセウォル号沈没事故を利用して市民を扇動している。セウォル号事故と関連のない集会を開いている団体は逮捕していい」という意見と「警察は憲法で保障された集会の自由を弾圧している。警察が集会参加者を連行するのは、市民に恐怖を与え、今後集会に参加できないようにするのが目的だ。韓国政府は何が怖くて警察に連行を指示したのか」という意見がぶつかっている。


 集会を報じる記事も、見方が割れている。進歩派のキョンヒャン新聞やハンギョレ新聞は「集会を終えて解散しようとする市民を警察が囲んで無理やり連行した」という集会参加者の声を報じた。一方、保守派の朝鮮日報や中央日報などは「不法集会をしたので警察が逮捕した」と報じている。







2014年5月19日



趙 章恩=(ITジャーナリスト)



日経パソコン

 



[日本と韓国の交差点] 韓国政府の安全対策、まずは「官僚マフィア」をなくすことから?

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セウォル号沈没から1カ月が過ぎようとしている。この事件では、修学旅行中の高校生が犠牲になった。船内に残された乗客を1人として救助することができなかった。このショックはいまだに韓国人を苦しめている。行方不明者を含む304人の犠牲を無駄にしてはいけないという気持ちが、韓国全体を覆っている。

 セウォル号が沈没した原因の捜査が進めば進むほど、韓国社会の醜い実態が浮き彫りになってくる。事故後の政府と船会社の対応には、韓国社会の悪い面が凝縮している。


1人も救えなかったトラウマ


 筆者の周りにはこの頃、「セウォル号沈没後、考え方が大きく変わった」と話す人が増えた。「いつ死ぬか分からないから、家族と過ごす時間を何よりも大事にするようになった」「次は自分が犠牲になるかもしれない。社会を変えないといけないと思って政治に興味を持つようになった」「どこに行っても、まず非常口を確認する。安全意識が高まった」。


 2014年4月16日、客船が沈むのを、多くの国民がテレビの生中継で見た。高校生らがまだ客船の中にいることを知りながら、どんどん沈んでいく船をテレビで見つめるしかなかったことは韓国人のトラウマになった。


 政府葬儀支援団によると、全国各地にある合同焼香所を弔問した人は5月11日時点で172万人を超えた。合同焼香所には、遺体で見つかった安山市ダンウォン高校2年生227人、教師7人、一般乗客27人の位牌が置いてある。


 5月10~11日の週末には、ソウル市内と安山市内でろうそく集会が行われた。セウォル号犠牲者を追悼するとともに、事故の真相究明を韓国政府に求めるものだ。市民約2万人が参加し、ろうそくを持って行進した。


 米国に住む韓国人主婦ら4000人はクラウドファンディングを利用して16万ドルを集め、5月11日付けの米ニューヨーク・タイムズ日曜版に韓国政府を批判する全面広告を掲載した。募金に参加した主婦らは、「セウォル号沈没の真相究明と責任者の処罰をうやむやにしてはいけない。韓国政府がどう対処するのか海外でも関心を持っている。子供を持つ母親として黙っていない、ということを広く伝えるため広告を企画した」と理由を説明する。(関連情報:The New York Times Ad on May, 11th



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2014年5月13日



趙 章恩=(ITジャーナリスト)



日経パソコン

 



[日本と韓国の交差点] 日本とTPPで合意できなかった分を韓米FTAで取り戻す?

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米国のバラク・オバマ大統領が4月25日、日本に次いで韓国を訪問した。オバマ大統領の韓国到着後すぐ行われた韓米首脳会談で、両国の大統領は北朝鮮の核実験、韓米FTA(自由貿易協定)とTPP(環太平洋経済連携協定)、2015年に予定している戦時作戦統制権の韓国軍への返還延期について話しあった。

米国への投資を呼びかける


 経済協力に関しては、韓米FTAの完全履行を条件に韓国のTPP参加について協議する――という米国の立場を再確認した。朴槿恵大統領はオバマ大統領に、2012年3月に発効した韓米FTAの取り決めを完全に履行することを約束した。その第一弾として、原産地証明を簡素化し、米国で生産した米国以外の国のメーカーの自動車も韓国に輸出しやすいようにした。これによって米国は、自国のメーカーによる輸出増加だけでなく、生産拠点確保による雇用拡大、法人税収入の増加といった経済効果を得られるようになる。


 韓国のメディアは米韓首脳会談後、日本とのTPP交渉に失敗したオバマ大統領は、韓国に対して一層の圧力をかけるだろうと分析した。各紙の紙面では次の見出しが踊り、韓国政府が米国に引きずり回されるのではないかと心配する記事が目立った。



  • 東亜日報:「日本で経済的実益を上げられなかったオバマ、韓国で背水の陣」

  • ソウル経済新聞:「米国は自動車と農産物輸出拡大、韓国はTPP加入を期待、米に有利な合意だという声も」

  • 韓国日報:「TPP交渉、落ち着いて利益の極大化方案を探そう」

 オバマ大統領は26日午前、駐韓米国商工会議所が主催した経済人懇談会に出席した。サムスン電子のイ・ジェヨン副会長、現代自動車のチョン・モング会長など、韓国財閥企業の代表の前でオバマ大統領は、「韓米両国の同盟と同じぐらい重要な経済協力関係を強固なものにする」「韓国企業が米国への投資を拡大すれば(ビジネスしやすいよう)手助けする」と強調、米国への投資を増やすよう呼びかけた。


「北朝鮮への武力行使を辞さない」


 オバマ大統領は核実験をやめるよう北朝鮮に警告もした。オバマ大統領と朴大統領は26日午後、韓米連合司令部(韓国軍と駐韓米軍を指揮する軍事機関、司令官は駐韓米軍大将、副司令官は韓国陸軍大将が担当)を訪問した。両国首脳が韓米連合司令部を訪問したのはこれが初めてである。


 同司令部で駐韓米軍向けに演説したオバマ大統領は、「韓米同盟は軍事だけでなく、経済や政治など色々な面で成功を収めている」「北朝鮮の核実験はより一層の孤立を招くだけ」「(北朝鮮に対して)軍事力の使用を躊躇しない」と発言した。4月27日付の聯合ニュースによると、北朝鮮は「(韓米首脳会談は)南(韓国)による北朝鮮への宣戦布告にほからない」と反発したという。



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2014年4月30日



趙 章恩=(ITジャーナリスト)



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[日本と韓国の交差点] セウォル号沈没事件で家族の悲しみが怒りに変わった理由

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4月16日朝、客船セウォル号が韓国南西部にある珍島(ジンド)付近の海で沈没した。同号は6000トン規模の大型客船で、仁川港から済州に向かっていた。乗客は合計で476人。安山市ダンウォン高校2年生325人と教師14人も、修学旅行のために乗船していた。事故から5日が経った4月21日朝になっても250人以上が行方不明のままだ。

 事故発生直後、「客室で待機してください」という船内放送が流れた。これを信じないで、自力で船の外へ脱出した人は近くにいた漁船やヘリコプターに救助された。しかしほとんどの高校性が船内放送を信じて客室に残ったと見られる。テレビのニュースは懸命な捜索活動が続いていると報じているが、事故発生から5日間の間、1人として救助できていない。


 韓国中から笑いが消えた。テレビはバラエティー番組の放映を中止し、芸能人らはイベント、コンサート、アルバム発売などを中止した。救助活動に使ってほしいと多額の寄付をする人が相次いでいる。被害者家族が集まっている珍島体育館には、憔悴した被害者家族のためにと全国各地から着替えの服や毛布、衛生用品、健康食品などが届いた。少しでも力になりたいと、珍島体育館を掃除したり、被害者家族のために食事を作ったりするボランティアも後を絶たない。


モラルに反する行いが多発


 事故発生後の週末は行楽客が減り、ソウル市内も高速道路も閑散としていた。誰もがニュースにくぎ付けで何も手につかない状況が続いている。だが、韓国国民の怒りを誘うニュースばかり続いている。


「船長は、乗客には客室に残れと放送しながら、自分は乗客のふりをして真っ先に救助船に乗った」
「事故対策本部はあるが責任者がいないので救助活動は進まない」
「海洋警察と海軍、海洋水産部(部は省)は救助より責任転嫁に忙しい」
「長官と公務員らが被害者家族の前で記念撮影」


 被害者家族が集まっている珍島体育館には、6月4日に行われる地方選挙に出馬する候補らが次々にやってきては選挙運動をしている。与党であるセヌリ党のハン・ギホ最高委員は、「(遅れる捜索に抗議する被害者家族の中に)北朝鮮の指示を受けた反政府勢力が混じっている」といった内容の書き込みを自身のFacebookに残した。「子供を亡くして泣き叫ぶ親にそんなことが言えるのか」と非難が集中して、ハン最高議員は書き込みを削除した。ボランティア団体と称してやってきては被害者家族のための食料品を食べ、救護品を盗む破廉恥な人まで現われている。



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2014年4月22日



趙 章恩=(ITジャーナリスト)



日経パソコン

 



[日本と韓国の交差点]「診療費負担を返せ」~韓国国民健康保険がたばこ会社を訴えた

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韓国国民健康保険公団が4月14日、韓国のたばこ会社KT&G(旧たばこ人参公社)と海外のたばこ会社2社――フィリップモリスコリア、ブリティッシュアメリカンタバココリア――を相手に537億ウォン(約52億円)の損害賠償訴訟を起こした。喫煙によってがんになった患者などの治療のために支払われた健康保険給付537億ウォンをたばこ会社が賠償すべきという訴えである。

 公共機関がたばこ会社を相手に、喫煙による健康被害の損害賠償を求める「たばこ訴訟」は韓国で初めてのこと。訴訟を起こした背景や勝訴する可能性が大きな話題になっている。


 韓国国民健康保険公団は、国民健康保険と職場健康保険(会社員対象)を運用管理する保健福祉部(厚生省のような省庁)傘下の公共機関。2014年1月の理事会で今回の訴訟を起こすと決めた。


 537億ウォンという金額は、喫煙期間が30年以上にわたって1日1箱以上を喫煙した肺がん患者など3484人に対し、国民健康保険公団が2003~2012年の間に負担した診療費から算定した。


 国民健康保険公団は、韓国で日本のたばこを販売するジャパンタバココリアは被告から除外した。韓国内のシェアが少ないという理由だ。


 日本でもかつて「たばこ病訴訟」があった。30~50年にわたる喫煙によって肺がん、肺気腫、肺膿腫瘍などのたばこ病になったとして、原告7人が1998年、JT(日本たばこ産業)と国を相手に裁判を起こし、1人当たり1000万円の賠償金、自動販売機でのたばこ販売差し止め、マナー広告を含む一切のたばこ広告禁止などを求めた。最高裁判所は2005年、原告敗訴と判決した。


国民健康保険公団は健康に関する膨大な資料が強み


 この訴訟が起きる4日前の4月10日、韓国の最高裁判所は、個人が原告となり韓国のたばこ会社を相手に損害賠償を求めた訴訟で、原告敗訴と判決した。原告である元喫煙者30人は1999年、長期間の喫煙により肺がんになったとしてKT&Gと国を相手に損害賠償を求める訴訟を起こした。15年にわたる審理の末、最高裁判所は以下の理由で原告敗訴を確定した。「喫煙と肺がん発生の疫学的因果関係が認められるとしても、肺がんは喫煙だけによるものではない。生物学的、環境的要因でも肺がんは発生するので、喫煙者が肺がんになったのは喫煙によるものと認めるのは難しい」。


 たばこ訴訟の原告敗訴が決まった直後にまた同じような訴訟を起こすのはなぜなのか。国民健康保険公団はなぜ、たばこ会社を相手に訴訟を起こさないといけないのか。国民健康保険公団側の弁護士らは訴訟の理由について4月14日に記者会見を開いた。


 「国民健康保険公団は喫煙によりがんになった患者の治療費として年間総診療費の3.7%に当たる1兆7000億ウォン(約1650億円)を負担している。喫煙によって人々が命にかかわる病気になり、生活の質が低下する状況で、国民健康保険公団が何もしなければ、義務を放棄することになる。たばこは麻薬と同じでやめたくてもやめられない中毒性がある」



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2014年4月15日



趙 章恩=(ITジャーナリスト)



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