[日本と韓国の交差点] 日本メディアの“征韓論”に韓国は激怒した…か

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韓国のメディアが11月15日、週刊文春が「韓国の『急所』を突く!」「安倍総理が『中国はとんでもない国だが、まだ理性的に外交ゲームができる。一方、韓国はただの愚かな国だ』と発言した」という内容の記事を載せたと報道した。同日午前、韓国の外交通商部(部は省)は、「日本の外務省から『週刊文春の報道は間違いである、安倍総理はそのような発言をしたことがない』との連絡があった」と発表。週刊誌の報道に敏感に反応することはないという態度を示した。

 それでも韓国政界は安倍総理が暴言を吐いたと非難した。与党・セヌリ党のホン・ムンジョン事務局長は同日、「安倍総理とその側近が韓国を卑下する発言を続ける限り、韓国と日本の関係は難しくなる」「安倍総理は首脳会談しようというが、このような状況で首脳会談を開いても両国の関係発展に関して議論できるだろうか」と発言した。

 民主党のチョン・ビョンホン院内代表は、「政府は報道内容を確認して断固として対応すべき」と主張した。

 週刊文春の記事は内容も残念だが、タイミングも残念だった。11月14日には、韓国の国会議員7人と財界人9人が日韓協力委員会総会のため東京を訪問していた。日韓協力委員会は日韓の友好関係を強めるための政財界の集まりである。日本側の初代会長は岸信介元総理、現在は麻生太郎副総理が会長を務めている。

 5月に一度中止になった総会を、11月になって改めて開催することにしたという。両国の硬直した関係を少しでも改善するためだ。15日には安倍総理が同総会に出席し、祝辞を述べた。週刊文春の記事がなかったら、日韓関係が改善に向かう一歩になっていたかもしれない。

 11月13日には、ソウル市長を務めるパク・ウォンスン氏が、海外メディアとの懇談会で次のように述べ、日本と仲良くしたいとアピールしていた。

「日韓の中央政府は国家的利害関係のために難しい関係になることもある。しかし、都市と都市、民間と民間の関係は政府に関係なく平和、共生のための強い基盤を作れる」
「日韓関係はローカルとローカル、人と人の関係を強化すべき」

ユニクロを着て、アサヒビールを飲みながら反日

 さらに10月末あたりから、韓国内でも反日=愛国といった扇動に疲れたとして、現状に疑問を抱く世論が少しずつ広がっていた――日本とうまく交流する方法はないのか。国際社会の中で韓国政府の反日は妥当なものと見られているのか。保守派といわれる朝鮮日報も、進歩派といわれるインターネット新聞も「日本と対立し続けるのはよくない。北朝鮮問題がある限り、日本との軍事協力は重要だ。歴史問題には線を引く必要があるが、感情的になり過ぎてはいけない」と主張。朴槿恵大統領に変化を求めていたところだった。

 朝鮮日報は11月16日、「週刊文春の『日本の金融機関が支援しなければ、サムスンだとしても1日で滅びる』といった内容の報道についてサムスンに聞いてみた」として、サムスン電子の意見を取材した記事を掲載した。朝鮮日報のインタビューに答えたサムスン電子の関係者によると、「サムスン電子は借り入れがほとんどなく、日本の資金には全く依存していない」そうだ。

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[日本と韓国の交差点] 振替休日があると生産性が下がる?

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韓国安全行政部(日本の総務省に相当する省庁)は10月29日、2014年から振替休日制度を導入すると発表した。お正月(旧暦)、お盆(旧暦)、子供の日(5月5日)が土・日曜または他の公休日と重なる場合、その翌平日を公休日にする。「官公署の公休日に関する規定」の改定案を国務会議が可決した。

 「官公署の公休日に関する規定」は文字通り官公署の公休日を定める規定だが、大手企業もこの規定に沿って公休日を決めている。この改訂により、1年に1~2日公休日が増えることになる。2014年の場合、9月7~9日の旧暦お盆連休のうち7日が日曜日と重なるので、9月10日を振替休日にする。連休が3日間から4日間に増える。

大企業の反対を説得

 振替休日の導入に関する議論は国会で2008年から始まった。与野党は当初、すべての公休日を対象とすることで合意した。これに対して、日本の経団連に相当する韓国経営者総協会が猛反対した。「韓国の公休日は年15日。外国に比べて休日が少ないわけではない。振替休日を導入すると、企業の生産性が落ちる」との理由だ。

 与野党は以下のように韓国経営者総協会を説得し、お正月・お盆・子供の日だけ振替休日を適用することにした。

 「有給休暇は1年に10日。勤務年数が10年以上になると年15日休める。しかし、有給消化率は34%にすぎない」
 「韓国人の労働時間は週平均40.2時間(2011年時点)。OECD加盟国の平均32.8時間、日本の33.9時間、米国の34.0時間に比べて長い。長時間労働による過労死など、労災が増えているのは問題である」
 「公休日を増やすことで観光レジャーといった民間消費が増える。サービス産業の活性化につながる」

それでも中小企業は休めない

 ところが、中小企業は振替休日を導入しない模様だ。今回の振替休日制度を定めたのは、公務員を対象にした大統領令「官公署の公休日に関する規定」。すべての労働者を対象とする「勤労基準法」ではない。

 野党の民主統合党は、「中小企業が振替休日を導入しない場合、振替休日で休めるのは勤労者の17%にとどまる。職業によって休日まで差別を受けることになってしまう」と問題視。すべての勤労者が平等に休めるよう勤労基準法も改訂すべきだと安全行政部に要求している。

 振替休日に関するニュースのコメント欄には、韓国経営者総協会と振替休日を導入しようとしない中小企業経営者を非難する書き込みが1000件以上書き込まれている。

 「振替休日は勤労者の当然の権利なのに、経営者は『与える』ものであるかのように考える。今まで振替休日制度がなく働いた分を返してもらいたいぐらいだ」
 「最高営業利益を毎年更新している財閥企業が、せいぜい年に1~2日の振替休日を導入するぐらいで生産性云々とは。社員を部品としてしか見ていない証拠だ」
 「中小企業では土曜日も出勤しなければならない会社が多い。公休日に休んでも有給休暇を使ったとみなされる。結局有給で休めるのは年に1~2日だったりする。振替休日なんて夢のような話。中小企業は求人難だというが、それには理由がある」
 「振替休日制度を法律にして、守らない企業から罰金を徴収してはどうか。勤労者すべてが平等に休めるようにしてほしい」

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[日本と韓国の交差点] ユネスコの人類無形遺産に韓国のキムチ作り

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韓国の文化財庁は10月23日、ユネスコの人類無形遺産を審査する機関が、日本の和食、中国のそろばん計算知識と並んで韓国のキムジャン(Kimjang: Making and Sharing Kimchi)を登録するよう勧告したと発表した。12月に行われる第8回ユネスコ無形遺産委員会が是非を決める。

 ユネスコが注目したキムジャンは、キムチを大量に漬けて親戚や近所の人たちと分け合う慣習である。白菜がおいしい11月に、春まで食べる分のキムチを大量に漬ける。買い出しから漬ける作業まで3日以上かかる大変な作業なので、キムジャンをする家を順番で決め、親戚や近所の人が集まって手伝う。手伝ってくれた人にはキムチをおすそ分けする。順番でない時には、自分も手伝いに行く。

 キムジャンは企業にとっても、社会貢献のための一大イベントである。社員総出で漬けたキムチを、低所得層に配る。自治体も福祉予算と住民からの寄付金を元手にしてキムジャンをし、一人暮らしのお年寄りや両親を亡くした子供たちに分ける。キムチとお米があれば最低限の食事ができるからだ。

 ユネスコの審査機関は、「韓国が代々受け継いできたキムジャンは、韓国人に分け合いの精神を根付かせた。一緒にキムジャンをし、苦労を共にすることで、連帯感を高める効果もある」と評価した。

キムジャンキムチなら安全・安心

 キムチは韓国人の食生活には欠かせない食べ物だ。どの家の冷蔵庫にも必ず入っている。昔は冬になると野菜が手に入らないので、保存が可能なキムチを秋に大量に漬けた。今はスーパーに行けば、1年中いつでも、白菜や唐辛子、にんにくが手に入るのでわざわざキムジャンをする必要はない。常に7~8種類以上のキムチも売っている――白菜キムチ、カクトゥギ(四角く切っただいこんキムチ)、きゅうりキムチ、ごまの葉キムチ、ねぎキムチ、アルタリキムチ(楕円形の小さいだいこんのキムチ)、水キムチ(とうがらしを使わず白菜、大根を入れて発酵させ透明な汁を飲むキムチ)、ガッキムチ(ガッという名前の葉っぱ野菜のほんのり苦いキムチ)。自分好みの味のキムチを注文して、定期的に宅配してもらうこともできる。

 それでも秋になるとキムジャンをする家が多い。家ごとに伝統の味があるからだ。日本でいう「おふくろの味」が、韓国人にはキムジャンキムチにある。

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[日本と韓国の交差点] サムスン入社を目指し塾通いする大学生

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10月13日、サムスングループは新卒者採用試験SSAT(SamSung Aptitude Test)を韓国5大都市と米国のロサンゼルス、ニューヨーク、カナダのトロントで実施した。サムスングループの2013年下半期の新卒採用は5500人の予定。これに史上最多の10万3000人が応募した。このニュースは日本でも話題になった。応募者の中から条件をクリアした9万3000人が受験、サムスングループの社員1万人が試験監督として参加した。

 サムスングループの2013年上半期の新卒採用には8万人が応募した。よって、2013年だけで18万人、インターン希望者2万人を含めると合計20万人がサムスングループの採用試験に応募したことになる。

 応募した18万人は「とりあえず応募してみた」という人たちではない。TOEICで高スコアをマークし、大学の成績はB以上(ほとんどの科目で優、たまに良があるぐらい)という最低限の条件をクリアした新卒者である。サムスングループは英語の試験と大学の成績で応募者をふるいにかけ、条件をクリアした人にSSATを受験するチャンスを与える。

 SSATは1995年から始まったサムスングループ独自の採用試験である。SSATで高得点を取った入社2~3年目の社員が出題する。SSATの問題は大きく言語、数理、推理、時事常識、職務能力の項目に分かれている。130分間で185問を解く。SSATが終わるとその場で3000字の自己紹介書を書く。

 13日にSSATが終わると、韓国のメディアは一斉にSSATで出題された問題とその解説、試験会場の様子を大きく取り上げた。試験会場の外で合格を祈る母親の姿もあり、大学入試と変わらない熱気だった。

 サムスングループは、SSATで上位となった30%ほどを対象に面接を行う。面接のやり方はグループ会社の業種別、職群別に違う。1泊2日の合宿面接をしたり、専門知識を問う追加試験を行ったり、色々なパターンがある。SSATは3回まで受験できる。

2万人の募集に40万人が応募

 10月は大手企業の下半期新卒採用が集中する時期である。サムスングループの他にも5日はLGグループ、6日は現代自動車グループ、12日はKTが独自の採用試験を行った。その他の大手企業もほとんどが10月、書類審査合格者を対象に独自の採用試験を行う。去年まで系列社ごとに採用試験を行っていた大手企業も、2013年からはサムスングループのようにグループ全体で1つの採用試験を行い、本人の希望と適正に合わせて系列会社に配置する方式に変えた。

 韓国の大手企業は、中途採用の場合は、欧米のように空きが出ると採用する。求職者はこれに備えて、履歴書と経歴書を事前に登録しておく。しかし新卒の場合は「公正な採用」であることを強調するため、年2回の公開採用制度を維持している。韓国では学閥、地縁、血縁で決まるコネ入社がとても多かったからだ。

 現代車の2013年下半期の新卒採用は、1200人の定員に10万人が応募した。履歴書と自己紹介書、資格証など書類審査をパスした1万人を対象に、独自の採用試験HMAT(Hyundai Motor group Aptitude Test)を行った。HMATは2013年下半期に初めて行われたもので、現代車グループの社員に求められる協力性、挑戦精神を測定する。

 通信キャリアのKTは300人の募集に対して4万5000人が応募し、倍率は150倍に達した。書類審査で3000人ほどを選び採用試験を行った。

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By 趙 章恩

2013年10月21日

-Original column
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20131021/254808/

[日本と韓国の交差点] 市・市民・企業が参加する防止運動で韓国の自殺が減少

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韓国ソウル市とサムスン生命保険社が共同で行った自殺防止キャンペーン「命の橋(Bridge of Life)」が、ある広告祭でグランプリを受賞した。この広告祭は、シンガポールで9月に開催された「2013 Spikes Asia」。「命の橋」はアウトドア広告部門において、20カ国4832編の応募広告の中から選ばれた。

 「命の橋」は、2013年6月に行われたカンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバルでも、Titanium and Integrated Lions賞をはじめ9つの賞を受賞している。2013 Clio AwardsでもGrande award、PR部門Gold awardを受賞した。

 「命の橋」は、自殺の名所をヒーリングの名所へと変えるプロジェクト。ソウル市とサムスン生命保険社が2012年9月から始めた。韓国はOECD加盟国の中で、自殺率(人口10万人当たり自殺する人の割合)1位を10年連続で記録している。ソウル市消防災難本部の集計によると2003~2011年ソウル市の真ん中にある漢江の橋から飛び込み自殺をした人は1090人。中でも麻浦大橋(マポデギョ)からの飛び込みが188件と最も多い。

 麻浦大橋はオフィス街の「麻浦」と、汝矣島を結ぶ橋で長さは1.6キロ。汝矣島は漢江市民公園や国会議事堂、テレビ局、金融街があるソウルの中心地だ。交通の便がとても便利で、歩いて橋を渡る人も多い。ソウル市消防災難本部はこの橋から飛び込み自殺をする人が多い理由を、地下鉄の駅から歩いてすぐに行ける、人通りが多いので飛び込んだあと誰かに見つけてもらうことができる、と分析している。自殺する人には「見つけてもらいたい」という心理があるようだ。

 ソウル市の都市安全室はいくつかの対策を取ってきた。麻浦大橋に防犯カメラやSOS電話設置を設置する。飛び込めないように柵を高くする。すぐ救助隊が駆けつけられるようにする――。だが、それでも毎週、飛び込み自殺が発生している。

「何か悩みがあるの?」と橋が語りかける

 ソウル市都市安全室は物理的な方法で自殺を止めることは難しいとして、2012年7月に「命の橋」プロジェクトを発表。デジタル技術を使って、生きたくなるメッセージを投げかけることで自殺を防止する取り組みに着手した。開始は2012年9月。

 歩行者が麻浦大橋の歩道を歩き始めると、センサーが作動して橋が歩行者に話かける。橋の手すりの上面がデジタルサイネージのようなメッセージボードになっていて、歩行者の動きに合わせてLED照明が付き、様々なメッセージを発する。
「ご飯食べた?」
「ここ寒くない?」
「何か悩みがあるの?」
「大変だったんだね」
「一緒に歩こう」

 さらに「時がたつのって早いよね」って嘆いたり、なぞなぞクイズを出したりする。「人生で最も輝く時期はまだ来ていないよ」「明日は日が昇る」といった応援のメッセージも登場する。

 橋の端から約0.8キロの中間地点にはおいしそうな料理の写真や、おじいさんやおばあさんが幸せそうに笑っている写真、赤ちゃんとお母さんの写真などを表示する。

 これらのメッセージは専門家が作ったものではない。「命の橋」に飾る写真と、自殺しようとする人に伝えたいメッセージをソウル市が公募した。8000人の市民が応募し、その中から選んだメッセージを使っている。

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By 趙 章恩

2013年10月15日

-Original column
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20131015/254569/

[日本と韓国の交差点] 「セマウル運動」を途上国に

.韓国の外務部(部は省)は2013年9月27日、韓国政府国連開発計画(UNDP)の間で「韓―UNDPセマウル運動グローバルイニシアチブ」に関する了解覚書を交わしたと発表した。

 セマウルとは韓国語で「新しい村」という意味。セマウル運動は朴正煕大統領(当時)が1970年代に政府主導で始めた経済発展支援、国民の意識改革運動を指す。都市と農村の格差を縮めるために、農村の生活環境の近代化と所得の増大を目指した。

 セマウル運動当時の写真や映像を見ると、70年代の韓国の農村は今の韓国からは想像もできないほど貧しかった。セマウル運動は農村に大きな道路を造り、茅葺屋根を瓦屋根に変えることから始まった。政府が全国3万4000もの洞・里(日本の町村単位)の住民に、何を作るべきか決めるように促したところ、村会館や橋の建設、道路の舗装、電気・水道設置などが真っ先に候補に挙がった。その後、農地拡大、計画的で科学的な営農、農水産物の流通構造改善、農水産物の品質改善と生産性向上といった政策に展開していった。

 セマウル運動で村が生まれ変わり、農民の所得も上がった。政府が残したセマウル運動の記録によると、1971~1978年までセマウル運動のために政府は5519億ウォン(約500億円)を投入。1兆9992億ウォン(約1800億円)の経済成長効果があったという。

 セマウル運動は、政府主導で農村を変えるための「チャルサラボセ(暮らしを良くしよう)」運動であるが、次第に勤勉、協同、自助、自立を強調する国民の意識改革運動へと発展した。70年代後半からは、都市部でもセマウル運動が始まった。主な活動として、セマウル清掃(住民が街の清掃に参加する)、「セマウル金庫」への貯蓄奨励、バンサンフェ(自治会)の開催などに取り組んだ。

 セマウル金庫は、政府が設立した金融協同組合。バンサンフェは近所の住民の連帯感を維持し、政府施策を広めるための自治会。月1回程度の頻度で開催された。欠席すると罰金が徴収された。

 1980年12月に社団法人セマウル運動中央会が発足し、セマウル運動は政府主導から民間組織主導に変わった。

国連がセマウル運動を評価

 セマウル運動はユネスコに登録されたほど、海外から評価を得ている。ユネスコ世界記録遺産国際諮問委員会(The International Advisory Committee of the UNESCO Memory of the World)は2013年6月、「韓国のセマウル運動は、世界最貧国だった韓国が国内総生産で世界15位(2012年、世界銀行)にまで成長できた礎石であり、このような経験は人類にとっても貴重な財産である」と称賛して、セマウル運動に関する記録や写真、映像など約2万2000点をユネスコ世界記録遺産(Memory of the World)に登録した。

 「韓―UNDPセマウル運動グローバルイニシアチブ」は、アジア、アフリカを中心とする途上国の農村地域を開発し、農村の貧困層を少しでも減らすために、韓国が貧困を乗り越えた経験を生かそうという試みである。韓国のセマウル運動を国際社会で通用する普遍的な農村開発事業モデルにするため、韓国とUNDPの専門家が共同研究を行うことにした。セマウル運動の考え方を3~4の途上国に導入してモデル事業を実施し、その事業推進戦略と事業成果を国際社会に広める。

 国連が21 世紀国際社会の目標として制定した「ミレニアム開発目標」(THE MILLENNIUM DEVELOPMENT GOALS)の中で、なかなか進捗しなかったのが発展途上国における農村の貧困解消である。

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[日本と韓国の交差点] 韓国、「増税なき福祉」の公約はなかったことに?

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朴槿恵大統領を当選に導いた決定的公約――65歳以上の老人に毎月20万ウォン(約1.9万円)の基礎老齢年金を支給する――がなかったことになりそうだ。韓国のメディアは9月23日、一斉にこう報じた。朴大統領が公約した基礎老齢年金は、財源が不足のため、65歳以上全員ではなく低所得層を中心に選別して支給する方針に変わるという。

 朴大統領は2012年12月の選挙運動期間中、次のように公約した。

 「増税なき福祉拡大は可能だ」

 「国民年金に加入していなくても高齢者が年金で生活できるよう、現在9万4600ウォン(約9000円)の基礎老齢年金を20万ウォンに増額する」

 「基礎老齢年金は65歳以上のすべての国民に支給する」。

 基礎老齢年金は、地上波テレビが中継した大統領候補のテレビ討論の中で、朴大統領が最も強調した公約である。野党候補らが「基礎老齢年金の財源は確保できるのか」と質問すると、朴大統領は「私が国民に選択してもらえれば(大統領になれば)実行します」と答え、高齢者から高い支持を得た。地上波放送3社が大統領選の投票日に実施した出口調査によると、50代は62.5%、60代以上は72.3%が朴大統領を支持した。

 与党であるセヌリ党のファン・ウヨ代表は9月24日、ラジオ番組に出演し、こう釈明した。

 「65歳以上全員に支給するというのは国民のみなさんの誤解。65歳以上の低所得層に最大月20万ウォンを支給するというのが公約」

 「国家財政の範囲内で、生活が苦しい高齢者から段階的に支給するという意味であり、公約破棄ではない」

 これに怒った人々がネット上で、大統領選挙当時、「65歳以上全員に月20万ウォン支払う」と宣伝したセヌリ党の資料やセヌリ党議員のTwitterのつぶやき画面をキャプチャーして証拠写真として投稿。大騒ぎになっている。

 基礎老齢年金以外にも、高い支持を得た福祉公約がいくつかある、国家予算を管理する省庁の企画財政部は、これらについても財源不足を理由にすべて守るのは難しいとしている。共働き家庭を支援するため5歳までの保育費を無料にする、癌・心臓疾患・脳血管疾患・難治病の4大重症疾患治療費の全額を国が負担する、大学の授業料を半額にする、といった公約だ。

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[日本と韓国の交差点] 越北しようした男性を警備中の韓国軍が射殺、これは殺人か?

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韓国軍の報道官が、「9月16日午後2時20分頃、臨津江(イムジンガン)を泳いで北朝鮮に渡ろうとした民間人男性を、警備していた哨兵が射殺した」と発表した。この男性を見つけた哨兵は、韓国側へ戻るよう3回、警告放送をした。だが、男性が渡河を続けたので警告射撃。それでも止まろうとしなかったので射殺したという。

 韓国軍の発表によると、臨津江周辺は統制区域で民間人が入ってはいけないことになっている(農業をするために立ち入り許可をもらった一部の人を除く)。同川は幅が800メートルほどしかなく、泳いで北朝鮮に渡ることが可能だという。韓国軍の法規では、臨津江周辺は敵(北朝鮮)と最も接近している地域であるため、軍の統制に応じず逃げる者は射撃することになっている。射殺は適切な処置だったと説明した。

 男性が射殺された臨津江から5~6キロほど離れた場所には臨津閣という観光地がある。ここには、北朝鮮が故郷で帰る場所がない人が秋夕(チュソク、韓国のお盆で旧暦8月15日、2013年は9月19日)に集まり、茶禮(チャレ)を行う場所になっている。茶禮は、その年に採れたお米や果物をご先祖様に供える行為をいう。事件当日も、茶禮のために臨津閣を訪問する人が多かった。

 「軍事分界線内であることを理由に兵士が民間人を射殺した」というニュースは韓国中に衝撃を与えた。観光地のすぐ近くで北朝鮮に渡ろうとする人がいて、哨兵が射殺する事件が起きたことに、「韓国は休戦中で、北朝鮮は主敵である」ことを改めて考えさせられた。

 韓国軍が9月17日に発表したところによると、射殺された男性が所持していたパスポートから、日本をはじめとする複数の国に政治難民として申請したが断られた経歴があることが判明した。複数のメディアが「日本が韓国に強制出国させた男性だ」と報じたが、これは、政治難民としての受け入れを断られ、日本に滞在することができなくなったからだと見られる。この男性が誰で、なぜ北朝鮮に渡ろうとしたのか、なぜ日本や他の国に政治難民としての受け入れを申し込んだのか、についてはまだ調査中だという。

射殺に賛否両論の声

 筆者はこのニュースを見て、「韓国は休戦状態にあり、主敵は北朝鮮だ。民間人に扮した北朝鮮のスパイが北に渡ろうとしていたかもしれない。射殺した哨兵は、軍人としてやるべきことをやった。やむを得ないことだったのではないか」と思った。ところが、Twitterや掲示板サイトでは「軍人が民間人を射殺するのは殺人だ」として論争が始まっていた。

 「この男性は、午後2時という白昼に『私を見て!』と言わんばかりに鉄柵を超えて臨津江を泳いで北朝鮮に渡ろうとした。この男性が民間人統制区域に入った時から韓国軍は防犯カメラで監視していたという。なぜこの男性に近づいて止めなかったのだろうか。射殺することなく止めることもできたはずだ」

 「脱北する北朝鮮の人を射殺する北朝鮮軍は残酷だと非難しておきながら、北朝鮮に渡ろうとする民間人を射殺した韓国軍はよくやったと褒める。これはおかしくないか」

 「武装していない民間人を軍人がその場の判断で射殺するのは殺人行為だ。北朝鮮に渡ろうとしたぐらいで殺すなんて残忍だ」

 「韓国は人権保護を重視しており、死刑も執行しない。射殺は正当なのか」

 以上のように、韓国軍がやりすぎたと非難する書き込みが多かった。

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[日本と韓国の交差点] 韓国映画「天安艦プロジェクト」が上映中止に

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韓国で9月5日に封切された映画「天安艦プロジェクト」が表現の自由と安全保障を巡る問題になっている。大手映画館のMegaboxが、全国22の映画館で上映を開始した「天安艦プロジェクト」の上映を中止すると発表したのだ。上映2日目である6日、Megaboxは自社ホームページに「『天安艦プロジェクト』の上映に反対する団体が強く抗議し、集会を開催すると予告した。映画館において、その抗議団体と観客が衝突することが予想される。観客の安全を守るためやむを得ず、7日午前0時から上映を中止する」と告知した。

 2日間で5000人以上が足を運んだ。上映時間75分の短いドキュメンタリー映画であるにもかかわらず、観客の入りが好調だと話題になったばかりだった。大手映画館Megaboxが上映を取り消したため、インディー映画や芸術映画専用の映画館10カ所は9月9日から上映することにした。

 「天安艦プロジェクト」は韓国の哨戒艇「天安」が沈没した事件を、政府の発表とは違う角度から振り返るドキュメンタリー映画である。政府は「北朝鮮の魚雷により爆発した」と発表していた。この映画を制作したアウラピクチャーズはその意図を「政府の発表を否定して天安艦の沈没原因を明かすことが目的ではない。政府機関の発表に疑問を持ってはいけない――と強要することについて考えるための映画だ」と説明している。

 韓国では、ほとんどの国民が「天安艦が沈没したのは北朝鮮の仕業である。これは間違いない」と信じている。このため、国防部の発表におかしな点があると指摘しただけで「パルゲンイ(赤い人=共産主義者に対する蔑称)」「従北(北朝鮮)勢力」と罵られる雰囲気がある。「韓国は自由民主主義国家なのだから政府の発表に疑問を持ってもいいじゃないか」「多様な意見があってもいいじゃないか」という点を「天安艦プロジェクト」で指摘したかったという。

上映開始前から名誉毀損の指摘

 アウラピクチャーズは「天安艦プロジェクト」を2013年4月の韓国全州国際映画祭で初めて公開した。その後、ソーシャルファンディングを利用して一般映画館で上映するための費用を調達した。7月には映像物等級委員会から「12歳以上観覧可」の認証を得て、上映の準備を整えた。

 ところが8月7日、天安艦犠牲者遺家族協会と沈没事件当時海軍にいた元将校らが、議政府地方法院(法院は日本の裁判所に該当)に上映禁止の仮処分を申請した。「天安艦プロジェクト」には「事実を歪曲し、犠牲になった兵士46人と遺族の名誉を棄損する恐れがある」というのが理由だ。

 法院は9月4日、この申請を棄却した。理由は次の3つだった。
 「映画の制作と上映は原則的に、憲法上の表現の自由によって保障される」
 「国防部合同調査団の事件報告書と違う意見や主張をしたことが、虚偽の事実で申請者の名誉を棄損したとは言い難い」
 「この映画は、事故の原因について疑惑を持っている国民がいるので(政府機関がこれについて)議論する必要がある――ということを表現する意図で制作された。虚偽の事実を並べたとは言い難い」
 これを受けて9月5日、やっと上映にこぎ着けた。

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[日本と韓国の交差点] 韓国鉄道公社、民営化するべきか? しないべきか?

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2013年8月31日、韓国の大邱駅で信号を見間違えて列車が出発し、駅に進入しようとした別の列車と衝突する事故が発生した。そのうちの1本が線路から外れて横にいた別の列車に衝突。3重衝突事故という大事故につながった。線路から外れた列車は車両の横が破れたようにぐちゃぐちゃになった。乗客は窓を割って車両の外へ避難した。2本ともゆっくり走っていたので人命に被害はなかった。

 韓国の民放SBSはこの事故の原因について、「民営化を進めようとした弊害だ。経験不足の乗務員を配置したことが事故につながったのではないか」と分析した。全国鉄道労働組合は、「会社側は、列車の乗務員や駅員は単純業務という理由で循環勤務をさせている。そのせいで事故が発生した」と主張した。循環勤務とは、同じ人が列車乗務員になったり、駅員になったりすることをいう。

 今回事故の起きた列車を運行しているKorail(韓国鉄道公社)は、赤字を理由に人員を削減するため、社員に循環勤務を強要した。これに反対した鉄道組合は7月24日から休日勤務を拒否している。組合員の代わりに熟練者ではない者を乗務させたために事故が発生したと主張する。「循環勤務は民営化するための下準備。事故の責任は民営化にある」というわけだ。

 乗務員は安全運転のため、通過する駅の構造や信号機の位置をすべて覚えておく必要がある。乗務員の経験があっても、一度離れた人が再度乗務員となる場合は40時間以上の教育を受ける必要がある。既に乗務員の仕事をしている者が新しい路線で勤務する場合も同様だ。事故を起こした乗務員は直近の6年間ほど、乗務員ではなく別の業務を担当していた。休日勤務を拒否した組合員を代替するため、8時間の教育を受けただけで乗務員の仕事に戻った。

 循環勤務制にすれば、現在よりも少ない人数で、また新規採用を減らしても列車を運行できる。駅員が足りない時は乗務員を駅員に異動する、乗務員が足りない時は駅員を乗務員に回す。鉄道労働組合の不満は、駅員と乗務員がそれぞれを掛け持ちするようになれば担当者の専門性が落ち、事故につながる可能性が高まるという点にある。乗務員は乗務員の業務に集中、駅員は駅員の業務に集中できるようにしないとまた事故が発生する、循環勤務をなくすべきだとしている。

Korail改革計画

 Korailが行っている鉄道輸送業務は元々、国土交通部(部は省)傘下の鉄道庁が担当していた。韓国政府は2005年に鉄道庁を廃止し、Korailと韓国鉄道施設公団に事業を譲渡した。

 Korailは、国土交通部(部は省)を株主とする公企業で、韓国全土の鉄道輸送業務を独占している。ただし、赤字営業が続いている。国土交通部の発表によると、累積赤字は2013年6月時点で17.6兆ウォン(約1.6兆円)、負債資本比率は435%に達している。

 韓国鉄道施設公団は鉄道庁から線路の設備を引き継いだ。Korailは同公団に線路利用料を支払って、鉄道輸送業務をしている。

 国土交通部は6月26日、Korailを改革するための「鉄道産業発展方案」を発表した。これは大きく3つの計画で構成されている。

  1. Korailではない別の会社(A)を設立して、高速鉄道(KTX)の第3の路線を運営させる。
    KTXは日本の新幹線に相当する。既に2路線をKorailが運営している。計画中の第3の路線の運営を新会社に任せる。
  2. Korailを、4つの会社に――B)旅客運送、C)物流、D)車両整備、E)維持補修――に分割する。旅客運送の会社は持ち株会社を兼ねる。
  3. 2015年以降開通する4つの新規路線と既存赤字路線の運航を民間事業者に開放する。

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