[日本と韓国の交差点] 「福祉拡大公約は守る」~朴大統領の公約の影で自殺する福祉公務員

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朴槿恵大統領が就任して1カ月がたった。国民年金廃止運動騒ぎに福祉政策の財源問題、北朝鮮による挑発、銀行と放送局に対するサイバーテロなどで毎日が騒がしく、同大統領が就任して1年はたった気がするほどだ。

 朴大統領は、「雇用の拡大」と、基礎年金や育児手当をより充実させた「死角のない福祉国家」に焦点を当てている。その最前線に立つ福祉担当地方公務員が2013年1~3月の間に、3人も自殺した。仕事が多すぎることを苦にした、いわゆる「過労自殺」である。


 1月31日、ソウル市のベッドタウンである龍仁(ヨンイン)市の市庁傘下にある住民センター(町役場)に勤める29歳の福祉担当公務員が自殺した。


 2月26日、ソウルから近い城南(ソンナム)市傘下にある住民センターの38歳の福祉担当公務員が「仕事が多すぎてつらい」と遺書を残して自殺した。5月に結婚する予定の女性だった。


 3月19日には、蔚山(ウルサン)市中区役所傘下にある住民センターで働く36歳の福祉担当公務員が自殺した。地域福祉センターに長年勤務していたこの男性は、公務員試験に合格し、2013年1月に福祉担当公務員に就いたばかりだった。


 彼は遺書に、過労の苦しみを次のようにつづっていた。「業務ストレスが多すぎる。『先に死んだ2 人(福祉担当公務員)は弱くてだめな人間だから自殺した』と思っている人に、僕の死をもって、この仕事は本当に大変だと知ってもらいたい。誰もが『時間がたてばよくなるから耐えろ』と言うが、私は人間なので、最小限の尊重と待遇を要求するのだ。公共組織のいちばん末端で、数々の指示と命令に従うしかない付属品として耐えることは、怪物と戦うよりつらかった」。


憧れの公務員の厳しい現実


 彼は2月だけで、育児手当の受付と審査、約1500件を担当した。さらに、低所得層の学費支援受付と審査、約300件が重なった。これらを処理するため、毎日深夜2時まで働き、週末も出勤したという。家族や友達に「仕事が多すぎて大変だ」と悩みを打ち明けても、「それでも公務員だからいいじゃないか。いつクビになるかわからない会社員よりマシではないか」と言われたという。自分のつらさをわかってもらえないことに悩んでいたという証言もある。


 就職難が深刻化し、失業率の高い韓国で、公務員は医者、弁護士と並んで最も人気の高い職業である。定年(定年は地位に応じて57~60歳)まで働けるし、リストラになることもなく安定しているのが理由だ。2012年度の公務員採用試験は、倍率が150倍を超えて大きな話題になった。福祉担当公務員は社会福祉士の資格を取得した人しか応募できないため通常の公務員試験よりも倍率が低いが、それでも17倍だった。


 競争を勝ち抜いて憧れの公務員になったが、現実は厳しすぎた。


 自殺した3人に共通しているのは、9級福祉公務員(最も末端の公務員)で、休日もなく、毎晩夜勤しても業務は増えるばかりだったということ。1人で基礎生活(生活保護者、貧困家庭に支給する補助金)受給者だけでなく、障害手当や老人基礎年金の受給者の申請受付から審査・支給まですべて担当していた。その数は合計で平均1000人に上る。



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By 趙 章恩

2013年3月26




-Original column
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20130326/245589/

[日本と韓国の交差点] 北朝鮮の犠牲になった兵士を忘れない~クラウドファンディングで追悼映画

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ソウル市の真ん中、龍山区に龍山戦争記念館がある。陸軍本部の跡地に、1994年6月に開館した。戦争の記録を保存・展示することで、戦争のない平和な統一をしようというメッセージを広く市民に伝えるための場所である。朝鮮戦争で戦死した兵士や、停戦協定発効後に北朝鮮の攻撃によって戦死した兵士を追悼するための式典も行っている。

 館内の巨大な回廊には、朝鮮戦争(韓国では「韓国戦争」と呼ぶ)で犠牲になった韓国軍の兵士だけでなく、国連軍の戦死者20万人の碑銘もある。このため、国連軍として朝鮮戦争に参戦した国の首脳が韓国を訪問する際には必ずここを参拝する。


 戦争記念館というと怖いイメージがあるが、そんなことはない。セミナールームやコンサート会場もあり、有名人の結婚式やアイドル歌手のイベント会場としてもよく使われている。


 戦争記念館は屋外に、実際に戦争に使われたミサイルや戦車、ヘリコプターなどを展示している。さらに、2002年に北朝鮮の砲撃を受けて沈没した韓国海軍の哨戒艇の実物大模型も展示している。哨戒艇は弾丸の痕までそのまま再現してある。中に入ると、どの場所で誰が戦死したのかまで詳細に分かる。


サッカーW杯のかげで6人が戦死


 戦争記念館にあるこの哨戒艇は、2002年6月29日に起きた第2ヨンピョン海戦で被害を受けたものである。第2ヨンピョン海戦は、北朝鮮の警備艇が黄海(韓国では「西海」と呼ぶ)のNLL(北方限界線、Northern Limit Line)を越えて侵入し、韓国海軍哨戒艇357号に発砲した。乗組員のうち6人が戦死、19人が負傷した。同艦は帰還する途中で沈没した。


 戦死した少領(少佐)、中士、兵長らは21~29歳の若者だった。その中の1人、パク・ドンヒョク兵長は大学生で、兵役を果たすため海軍に入った。弟が大学に合格した時、両親が2人分の大学授業料を払うのは経済的に大変だからと、徴兵で軍に行く時期を前倒しにした。あと数カ月で除隊し、大学に戻るはずだった。


 パク兵長は重傷――脚を切断、臓器損傷も激しかった――を負いながらも、病院で84日耐えた。だが、家族の元へ戻ることはできなかった。火葬したパク兵長の遺体には3キログラムもの弾丸と金属破片が残っていたという。徴兵でわが子が軍に行かせている親たちにとって、これは他人事とは思えない事件である。


 ところが、第2ヨンピョン海戦が起きた2002年6月29日、韓国はワールドカップで盛り上がっていた。この日はちょうど、韓国がベスト4に入れるかどうかを決める最後の試合が行われた日だった。第2ヨンピョン海戦は、ワールドカップの話題に埋もれて忘れ去られてしまった。当時の金大中大統領は北朝鮮を援助する立場だったので、北朝鮮がNLLを越えて韓国の領海に侵入し、韓国軍を攻撃した事実を公にするのを恐れたのかもしれない。


 しかし、彼らの犠牲を忘れてはならないという活動は地道に続けられた。6人の犠牲を忘れないため、海軍は2008年から2011年にかけて新しく進水した高速艇6隻に戦死した6人の名前を付けた。



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[日本と韓国の交差点] 国民総背番号制の国、韓国から見た日本のマイナンバー制度

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3月の初め、ポータルサイトの検索キーワード・ランキング1位に「日本マイナンバー」が登場した。韓国の新聞やテレビが「日本が韓国の住民登録番号のような番号制度を導入しようとしている」と報道したことから、「日本のマイナンバー制度とは何か」と検索する人が急増した。

 韓国人が日本のマイナンバー制度に関心を持つのは、韓国では今「住民登録番号制度」を再検討すべきだという議論が熱くなっているからだ。日本のマイナンバーに関する記事のコメント欄には、様々な意見が並んだ。


 「社会保障や行政サービスを効率よく提供するためには、番号で個人を識別する必要がある。行政機関だけが使う番号であれば問題ない」


 「韓国も日本のように、社会保障にだけ個人の識別番号を使うべきだ」


 「国民総背番号制度だなんて、地獄へようこそ!」


 「これで日本人も中国ハッカーに狙われる」


 「個人の番号があれば徴兵もしやすくなる。日本には、軍事的目的があるのではないか」


3500万人分の住民登録番号が盗まれる


 韓国で2011年7月、中国のハッカーが大量の住民登録番号を盗み出す事件が発生した。人口5000万人の韓国で、全国民の7割に近い3500万人の個人情報を盗まれるという大事件だった。


 中国のハッカーは、SKコミュニケーションズが運営する韓国の大手ポータルサイト「NATE」と、同社が運営するSNS「Cyworld」をハックし、3495万4887人分の会員ID、パスワード、氏名、電話番号、住所などの個人情報を盗んだ。この中に住民登録番号も含まれていた。


 この事件の被害者らが集まり、個人情報の管理をしっかりしていなかったサイトの責任を問う裁判を起こして勝訴した。裁判所は2013年2月15日、NATEとCyworldの責任を認めて被害者1人当たり日本円で2万円ほどの賠償金を支払うように命じた。SKコミュニケーションズは控訴した。


 被害者らはさらに2月28日、憲法を改訂するよう憲法裁判所に求める訴訟を起こした。盗まれた住民登録番号がなりすましや詐欺などの犯罪に使われる危険性がある。にもかかわらず、憲法は、これを理由に住民登録番号を変更することを認めていないからだ。



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By 趙 章恩

2013年3月6




-Original column
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20100818/215834/

[日本と韓国の交差点] 受験競争に勝つため友情はいらない?

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3月から新学期が始まる韓国で、大手塾の広告が物議をかもしている。2月末ぐらいから地下鉄やバスなどに貼られた広告で、通学途中であろう2人の少女が、桜が咲いた道を歩きながら笑っている。その写真の左には、こんなメッセージが書いてある。「新学期が始まったから、君は友情という名分で友達と遊ぶ時間が増えるだろう。そうなると君が計画した勉強は後回しになるよね。でもどうする? 大学入試の試験日は後回しにできないよ。もう迷っちゃだめ。友達が君の勉強を代わりにしてくれるわけではない」。

 この広告の存在はTwitter上で「高校生の間で友情破壊広告が話題になっている」として広がった。「大学入試競争に勝つためには友達を作ってはいけない」「1人で勉強だけしなさい」とも取れるこの怖い広告に、ネットの世界は「競争社会とはいえ、これはひどすぎる」と大騒ぎになった。

 この塾と韓国の教育の現実を非難する書き込みが殺到している。
 「新学期だから、新しい友達と一緒に塾で勉強しよう、くらいの広告にすればよかったのに」
 「大学入試で良い点数を取る方法が、塾に行くことではなく、友達を作らないことだなんて悲しい」
 「小中高校の友達は一生の友達。この広告を作った人は友達がいないのかもしれない」
 「これは学生より親を不安にさせる恐怖マーケティング。国語・数学・英語の点数が全ての国だから韓国は単純でバカな人が多い」

 教育専門家らは、そうでなくても友達を作るのが苦手な韓国の青少年にこの広告がもたらす影響を心配する。韓国青少年政策研究院が2011年に発表した報告書によると、韓国の中高生は36カ国の中で最も友達付き合いが下手だという。「成績が良ければそれでよし」という雰囲気から、協調性に欠ける中高生が増えている。

 ソウル市教育庁がソウル市内の小中高校生約26万人を対象に2012年4月に実施したアンケート調査では、「友達と仲良くしている」という項目に小学生は4.42点、中学生4.24点、高校生3.2点(5点満点)と答えた。「大学入試が近づくほど一人になっていく」とも見られる調査結果だ。友達付き合いが苦手な高校生が多いせいか、大学でも、会社でも、個人としての能力は優れているのに協調性に欠ける人が問題になっている。

ソウル大学合格生が住んだマンションにプレミアム

 韓国の教育熱は高い。これは昨日今日に始まった話ではない。ソウル大学への進学率が高い高校の周辺にあるマンションは、どんなに古くても億ションだ。そうでない地域は高級新築マンションでも値が上がらない。

韓国では、自分が住んでいる地域に関係なく、入学許可をもらった私立小学校に行かせることができる。だが、中高の場合は異なる。科学高のように特別な英才教育をする学校以外、学校と同じ地域に親と子供が住民登録していないと進学できない。私立であってもこのルールは変わらない。そのため、親の仕事で引っ越せない場合、有名高校の近くに住む知人の家に偽装住民登録をして子供を進学させる人もいる。これは違法である。

 韓国で最も教育熱が熱い地域はソウル市江南区デチ洞である。韓国で最も有名な塾は全てここに集まっている。全国各地から、名門大学を目指す高校生がデチ洞にやってくる。不動産価格が全国で暴落している中、デチ洞だけは供給不足状態である。

 デチ洞ではソウル大学に合格した子供が住んでいたマンションにプレミアムが付く。全国でもここだけの現象だ。2012年の大学受験が終わってから、江南の教育ママの間では、「成績トップクラスの子供5人の親がデチ洞近くにある最高級マンションを借りて、有名予備校のカリスマ講師と子供5人を1年合宿させた。全員ソウル大学に合格した」という噂が広がった。講師と学生が合宿する勉強法は70年代からあったというから驚きだ。

 デチ洞では、教育ママより教育パパの方が多いという。猛烈な教育ママに育てられ名門大学を卒業して専門職に就く父親が、自分の経験を元に子供の受験戦略を指揮しているのだ。それに祖父母が、孫の送り迎えと教育費を援助してくれる。デチ洞の親達は「ここまでしないと韓国で名門大学に進学するのは難しい」と言う。貧しいけど勉強をがんばって名門大学に合格し弁護士になった、医者になった、というケースは非常に珍しくなってきたように見える。

親の所得が高いほど、子どもの成績が良い

 東亜日報は2月27日付の記事で、土地の価格が高い地域ほど子供の成績が良いとして、親の所得の高さや財力が子供の学力につながるという調査結果を紹介した。土地の価格が高い地域にある学校ほど、中学3年生の全国学業テスト(国が実施する基礎学力を評価するためのテスト)の成績が良かったという。所得の高い人ほど土地の価格が高いところに住むので、お金持ちの子供ほど成績が良い、という結果になるというのだ。親の社会経済的地位(職業・役職・所得・学歴)が高いほど子供の学習時間が長く、塾や家庭教師など「私教育(学校教育以外の民間会社が行う教育)」に使う教育費も多かった。

 中央日報も2月27日の記事で、所得が高いほど子供の成績が良いという主張を裏付けた。ソウル大学の場合、2011年新入生の13.9%が、江南地域の高校出身だったという。この割合は2012年17.7%に増えた。2012年の場合は、新入生の47.1%が、月平均家計所得が500万ウォン(約45万円)以上の高所得層だった。

李明博・前大統領は、学校教育を強化して私教育費を減らすと公約していた。統計庁のデータを見ると、2010~12年まで私教育費を見ると、5%ほど減っている。しかし実態は逆だ。子供の数が減っているので、子供1人当たりの私教育費を見ると増えている――中学生は5.3%増、高校生は2.8%増。大学受験のための教育費は減っていない。

 学校は学校で不満がたまっている。私教育費を減らすため、放課後教室(補習)や特別活動(体育、楽器演奏、美術など)など学校の負担が増えた。教師の数はそのまま、非正規職の講師を雇ってやりくりしたので、教師は学生のケアだけでなく講師のケアまでしなくてはならなくなった。また小中学校では、子供達が塾疲れで授業中に寝てばかり。「塾で既に習ったから」と先生の説明を聞こうとしないという。

朴大統領は「創意教育」を国政課題に選定

 朴槿恵大統領は、このような教育現場の問題を改善するため、「創意教育」を国政課題にした。

 朴大統領は2月14日、教育政策を検討する討論会に出席して以下の発言をした。

 「教育が学生に希望を与え、夢をかなえられるよう導く役割をする場にはどうしたらいいのか議論が必要である。韓国は先進国を追いかけるのではなく、独創的な先導型経済成長に変えなければならない。そのためにはアイデアと創意力が花を咲かせる創造経済の時代を切り開かないといけない。国民の1人ひとりが才能を発揮し、夢を実現することでそれぞれの幸せがある国、その幸せが国家発展につながる構造にする必要がある」

 「教育現場は行き過ぎた競争と入試に縛られている。子供の素質と才能を導き出す幸せな教室にしないといけない。そうすれば私教育問題、学校暴力問題を根本的に解決できる。韓国の未来競争力も上がる」

 「教育は単純に知識を注入するのではなく才能を引き出すものである。子供達が経済的理由や地域差によって夢を諦めることがないようにするのが学校教育の役割だ。子供の夢と才能を育てる幸福教育を基本方針に、教育政策の問題点を診断し、重点的推進計画を整理してほしい」

 朴大統領が創意教育を実現するため、「中学自由学期制」を新しく導入する。2015年から中学の1学期を、討論と実習中心の授業にする。試験は行わない。子供達が自分の才能、夢について考える時間にするというのだ。また、「公教育正常化促進特別法」も制定する。大学入試の問題に、学校教育過程で学んだことより難しい内容を入れないようにする制度だ。さらに、大学への財政支援も国内総生産の0.7%から1%に引き上げる。子供1人ひとりの才能を引き出す創意教育のために、1クラス当たりの学生数を減らす一方で、教師の数は増やす。

創意教育のための私教育が人気

 朴大統領の創意教育、幸福教室政策は、子供たちを入試地獄から解放できるだろうか。

 デチ洞の反応は朴大統領の意向とは違う方向に向かっている。今までの入試教育に加えて、創意教育のための私教育が人気を集めているのだ。

韓国では2013年から、創意教育のために、小学校1・2年生と中学1年生は「ストーリーテーリング方式数学教科書」を使う。2015年には小中学校全学年の数学教科書がストーリーテーリング方式に変わる。これは、科学、芸術、工学などを融合した学際的教育法である。数学の公式を覚えるのではなく、思考力を育てるために、実生活の例を挙げて数学の問題を解く。クラスのみんなで協力して問題を解いてみよう、といった問題も多く、協同力の向上を目指す。計算機やパソコンも授業に取り込む。

 私教育市場では、創意的思考力を育てるための講座が増えた。参考書やEラーニングの市場でも、「創意」をキャッチフレーズとする新商品が次々登場している。「子供の創意教育をどうしたらいいのかわからない。ますます混乱する」という教育熱心な親のための創意教育講座も大人気である。

 韓国はスマートテレビやタブレットPCを使って授業を行う「スマート教室」の導入を着実に進めている。20年ほど前から教科書の開発と教師の研修を続けてきた。2015年には小中高校で紙の教科書と電子教科書の両方を使える環境を整える。いずれは全ての学校で電子教科書を使う(当分は学校が選ぶ)。スマート教室の目的は、子供1人ひとりのレベルに合わせた教育を行うことで、楽しく勉強しつつ学力を高めることである。

 教育の環境がスマートに変わり、朴大統領の創意教育政策が定着すれば、「友達より勉強が大事」という広告を見ることがなくなるだろうか。新学期を迎え、「クラスで1等になりなさい」ではなく、「学校で友達をたくさん作ろう」と子供に言ってあげる親が増えてほしいものだ。

By 趙 章恩

2013年3月6

-Original column
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20130301/244387/

[日本と韓国の交差点] 朴槿恵氏が韓国大統領に就任――早くも公約違反を非難する声

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2月25日、ソウル市国会議事堂前の広場で朴槿恵大統領の就任式が行われた。

 政府の国政ビジョンは「国民の幸せ、希望の新時代」、就任式のテーマは「統合と前進、国民の生活の中へ」だった。

 「国民」にフォーカスするテーマに違わず、歴代大統領就任式の中で最多、3万5000人の一般国民が参加した。ネットと郵便で参加を申し込んだ8万9000人から3万5000人が選ばれた。このほか、同じく3万5000人の政府関係者、大統領と縁のある人、海外からの来賓が出席した。

 大統領の引き継ぎは2月25日午前0時と憲法が定めている。25日の0時には、新しい大統領の任期が始まったということで、ソウル市の普信閣の鐘を33回鳴らした。ふだんは除夜の鐘として使われているものだ。

 朴槿恵氏は18代目の大統領なので、国民の代表として選ばれた18人が鐘を鳴らした。脱北者、軍人、消防士、科学者、アニメーター、ボランティア活動家、スポーツ選手、韓国人と結婚したベトナム女性、女子高生、アイドル歌手などで、多彩な顔ぶれだった。

 朴大統領は就任式の朝、国立顯忠院を参拝してから式場に向かった。同院は朝鮮戦争で戦死した兵士や歴代大統領を安置した場所だ。KPOP歌手やオペラ歌手のコンサートが式典を彩った。その後、朴大統領はカーパレードを行い、大統領官邸に向かった。途中、大統領官邸の近くにある光化門広場で、国民が大統領へ送ったメッセージカードをいくつか開くイベントを行った。夕方からは大統領官邸迎賓館に外交使節を招き、晩餐会を行った。

 就任式の模様をテレビが生中継した。加えて動画共有サイト「ユーストリーム」のアリランテレビ公式チャンネルが、海外に向けて英語同時通訳付きの生中継をした。

 大統領就任式はお祭りでもある。朴大統領の就任を記念して国立故宮博物館と宮殿は、25日の入場料を無料にした。郵便局は朴大統領の就任を記念する切手シートを発売した。

就任前から課題山積の朴政権

 朴大統領の任期は2013年2月25日から2018年2月24日までの5年である。朴大統領は就任後できるだけ早く米国と中国を訪問して首脳会談を行うとしている。2014年9月には仁川アジア競技大会、2018年2月にはピョンチャン冬季オリンピックがあるので、任期中に2度も世界的行事を開催する大統領になる。

 韓国に住む人から見ると、大統領選挙が終わってからの2カ月がとても長く感じられた。1日も静かで平穏な日がなかったと言えるほど、たくさんの事件が起きたからである。

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By 趙 章恩

2013年2月27

-Original column
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20130226/244193/

[日本と韓国の交差点] ベンチャー企業を育成し雇用拡大を図る朴次期大統領

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「青年の就職難を解消するためにグローバル就職と起業を拡大し、よい働き口を作れるよう政府が後押しする」

 朴槿恵次期大統領の発言である。次期政府はこれまでのどの政権よりもベンチャー企業に対する関心が高い。

 韓国では1998年にベンチャー企業育成特別法を制定。「ベンチャー認証」を受けた企業に低利融資、優遇税制を提供している。認証を受けたベンチャー企業は2013年時点で3万社を超えると見られている。政府はベンチャー企業が増えれば雇用も増えると見ているようで、その数を増やすため起業資金を支援している。

 しかし現実はバラ色ではない。KOSDAQ(訳者注:米国のNASDAQのような韓国の新興企業向け証券市場)に上場できたベンチャー企業は全体の1%程度である。中小企業に成長できるのは100社に1社程度ということになる。

 ベンチャー確認公示システム「ベンチャーイン」によると、ベンチャー認証を得た企業は2012年末で2万8193社。ベンチャー企業は年平均2500社ほど増加しているので、2013年には間違いなく3万社を超える。1990年代末から2000年代初めまでのベンチャーブームから10年、再びベンチャーブームが始まろうとしている。

 中小企業庁とベンチャー企業協会は2013年「先導ベンチャー連携起業」支援金を大幅に増やした。2012年には45億ウォン(約3.8億円)だった予算が、2013年には75億ウォン(約6.4億円)に増加した。起業して1年以内の初期起業人(訳者注:起業人はベンチャー企業経営者)と予備起業人は最大9000万ウォン(約770万円)まで事業費の支援を得られる。韓国コンテンツ振興院はメントリングプログラム(訳者注:専門家と起業したばかりの起業家を1対1でマッチングし、専門家が起業家の面倒をみて、育成する)と資金を提供し、ITベンチャーの海外進出を助けている。就職の代わりに起業を支援する動きである。

敗者が復活できる仕組みを作れ

 このような支援によってベンチャー起業の数は急増しているが、その一方で、純粋な意味のベンチャー起業ではないという分析もある。韓国開発研究院によると、ベンチャーキャピタルや個人投資家に技術力・成長可能性を認めさせ、投資(資本金の10%以上)を引き出したベンチャー企業は全体の1.5%しかない。98.5%は技術評価保証企業といった政府機関から資金を支援してもらっている。政府機関が政策的に認証して融資している企業がほとんどなので、ベンチャーブーム到来と見るのは時期尚早という指摘もある。

 ベンチャー企業の数が増える中、消えていく企業も多い。KOSDAQに上場したベンチャー企業数は、2005年の405社から2010年には295社に減っている。中小企業になると政府の支援が急減するので、いつまでもベンチャー企業のままでいようとする企業もある。2011年に売り上げが1兆ウォン(約8500億円)を突破したベンチャー企業はNHN(訳者注:インターネットゲームやポータルサイトNAVER、無料通話アプリLINEで有名な会社)とコイル専門会社のサムドンだけである。

 ベンチャー企業の成功率が低いのは、ベンチャー企業を立ち上げて事業に失敗すると、後遺症がとても大きいのも理由の1つだ。米国では起業に失敗した個人が破産しても、1億3000万ウォン(約1110万円)以下の住宅は差し押さえない。これに対して、韓国で破産すると、最高1600万ウォン(約136万円)の賃貸保証金と生計費720万ウォン(約61万円)だけを残して取り上げる。一度失敗すると、永遠に失敗者というレッテルがついて回る。失敗を覚悟して果敢に起業しようという人が減らざるを得ない構造である。ベンチャー=挑戦精神という公式も消えてしまった。

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[日本と韓国の交差点] もらえないかもしれない年金より今の幸せ

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この頃、韓国映画「南に逃げろ」が話題になっている。日本の小説「サウスバウンド」を映画化したものだ。この中に、主人公が国民年金の保険料納付を拒否する場面がある。国民年金管理公団が2月4日、その場面を削除するよう映画製作会社に要求したが、映画製作会社は表現の自由を理由にこれを断った。

 この騒動は、映画の表現の自由よりも、国民年金の必要性をめぐる議論に発展した。

 韓国納税者連盟は2月6日、国民年金の廃止を求める署名運動を始めた(関連サイト)。同連盟は2001年1月に設立された市民団体。その年の5月から所得税払い戻し申請代行サービスを始め、1万6000人が120億ウォン(約10.5億円)の税金を払い戻ししてもらう成果を上げたことで注目を浴びた。

 署名は2月17日の正午時点で6万人を超えた。連盟は最終的に10万人以上が署名に参加すると見ている。

年金負担のため教育資金が足りない

 署名運動のホームページには、国民年金に対する不信や不満が書き込まれている。最も多い不満は、今の高齢者は受給額が多いのに対して、20~30代が高齢者になる頃の年金受給額はそれまでに積み立てた金額より少なくなる可能性が高いことだ。このため「積立金を払いたくない」という若者が増えている。

 国民年金の保険料は税金と同様に給料から天引きされる。所得の低い人ほど所得に占める国民年金の負担が大きい。所得が年間約200万円以下の人は所得の9%を、年間約9000万円以上の人は所得の0.22%を、国民年金の保険料として毎月納める義務がある。高所得層は、余裕資金を国民年金に投資して年金として戻してもらう感覚だが、低所得層は生活費を削って国民年金を払うしかない状況に追い込まれている。子供の教育や住宅資金のために借金をするしかないという不満も高じている。

 65歳になれば、それまでの月平均所得の30~40%が年金として支給される。だが、物価上昇率を考えると低所得層は今の生活も、老後の生活も相当切り詰めないといけない。このため、国民年金に加入せず、若い時に少しでも豊かな生活をして、老後は自分でなんとかした方がいいと反発したくなる。

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[日本と韓国の交差点] 韓国で進む二極化:北の核を懸念する人、無関心な人

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2月12日、ついに北朝鮮が第3次核実験を行った。韓国では、新聞やテレビがこのニュースを大々的に報道した。朴槿恵(パク・クンヘ)次期大統領は、「韓国と国際社会の強力な警告にもかかわらず、北朝鮮が核実験を強行したことを強く糾弾する。新しい政府はどのような場合でも北朝鮮の核武装を容認しない」と声明を発表した。

 しかし、ソウル市内に動揺する様子はない。株価も変動していない。

 核実験が行われた12日まで韓国人は、北朝鮮及びその核の問題に無関心だった。関連するニュースにコメントが書き込まれることはほとんどなかった。そうなった原因の一つに、目の前に問題が山積していることがある。福祉公約を実現するための財源確保、旧正月前後の物価急騰など、明日の暮らしがどうなるか分からない。足元の火を消すのが精いっぱいで、北朝鮮の核実験まで心配する余裕がないのかもしれない。

 韓国政府の北朝鮮対応も核実験直前までぬるいものだった。北朝鮮が核実験するのを止めようと、日本や米国、中国が警告している中、朴政権の政府組織構想や人選に追われていた。

 しかも核実験が行われた12日、李明博大統領は自分と夫人に韓国最高等級勲章である「槿大勲章」を授与すると決めた。北朝鮮が核実験を強行し国際社会が騒がしい時に、李大統領は「セルフ勲章授与」のことで頭がいっぱいだったようだ。任期末とはいえ、最後まで、大統領として国の安全保障を最優先すべきではないだろうか。

朴次期大統領も危機感に乏しかった

 朴次期大統領も、北朝鮮の核実験に関して安保理と米国、中国に任せているように見えた。1月24日に北朝鮮が核実験を示唆して以降、積極的な動きは見られなかった。

 2月7日になってやっと与野党の代表と会合し、「どのような場合でも北朝鮮の核武装は容認できない。北朝鮮問題に関しては、北朝鮮が正しい選択をするよう、与野党が声を一つにして強く求める」と表明した。「駄々をこねれば何かもらえるという認識を持たせてはならない」「北朝鮮が国際社会に協力する姿勢を行動で見せるのが平和への出発点である」といった内容の声明を発表した。

 この場で朴次期大統領は、韓半島(朝鮮半島)信頼プロセスについて言及した。朴次期大統領の対北安保構想であるこの構想は、大きく3つに分かれる。

  • 北朝鮮は、韓国と北朝鮮が合意した既存の約束(南北非核化共同宣言)、および北朝鮮と国際社会がした約束を尊重し守る
  • 政治的状況に関係なく持続的に人道的交流(支援)事業を行う
  • 北朝鮮の改革開放および開発水準と需要に応じて、南北の経済協力を多様化させる。さらに、北朝鮮インフラ構築事業に対する支援を段階的に拡大する

 基本的に、北朝鮮が韓国との約束、国際社会との約束を守り、信頼関係を築くのが先。その後で対話を始めるという姿勢である。北朝鮮が12日に核実験を強行したことで、朴次期大統領は、北朝鮮の非核化を前提にした「韓半島(朝鮮半島)信頼プロセス」を修正するのだろうか。どのような戦略で北朝鮮と向き合うのか気になるところだ。

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By 趙 章恩

2013年2月15

-Original column
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20130214/243732/

[日本と韓国の交差点] 韓国が人工衛星打ち上げに成功

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 韓国航空宇宙研究院が1月30日午後4時、全羅南道高興の羅老(ナロ)宇宙センターで、人工衛星搭載ロケットの打ち上げに韓国で初めて成功した。2002年に着手して以来、2度の打ち上げ失敗を経て、ついに成功したのだ。羅老号は、韓国の技術で開発した宇宙環境観測機能を装備した羅老科学衛星を載せて宇宙に飛び立ち、衛星を無事軌道に乗せた。31日の午前3時28分には、韓国科学技術院人工衛星研究センターにある地上局と羅老科学衛星が初交信に成功した。


 今回の成功によって韓国は、旧ソ連、米国、フランス、日本、中国、イギリス、インド、イスラエル、イランに続いて(北朝鮮は自力で打ち上げに成功したが、打ち上げたのが人工衛星かどうか定かでないので除外)10番目の衛星打ち上げ成功国になった。韓国航空宇宙研究院や韓国科学技術院などはこれまで、人工衛星を海外で打ち上げていた。教育科学技術部(部は省)は打ち上げ成功後の記者会見で、「羅老号プロジェクトの成功により、韓国の衛星開発能力を海外に立証した。宇宙産業活性化効果も上げられる」と発表した。


 マスコミは一斉に「韓国もついに宇宙先進国の仲間入り」「韓国は希望を打ち上げた」などの見出しで大々的に報道した。テレビのニュース番組には羅老号研究員らが出演し、「2度目の打ち上げ失敗以降、プレッシャーで不眠症や神経衰弱にまでなった」という苦労話を語った。


 衛星打ち上げ成功を報じる記事に対するコメント欄やTwitterには「ついに韓国が成し遂げた!」「打ち上げに成功してほっとした」「3浪してついにソウル大学に合格した受験生を見ているようで感慨深い」など、打ち上げ成功を祝うコメントが書き込まれた。



ロシアへの依存に批判



 一方で、羅老号の成功を喜んでばかりいられないという意見も少なくない。記事には、喜びの声と同時に批判のコメントも寄せられている。
 「羅老号はロシアに依存しすぎた。韓国の独自技術で人工衛星を打ち上げるという当初の目標から大きくずれてしまったことは批判すべきである」
 「打ち上げに成功したと浮かれていないで、韓国独自の技術を開発するために長期計画を立てないといけない」
 「かつて、打ち上げに失敗したことを理由に国会では羅老号関連予算を減らそうとした。打ち上げに成功したから、今度は予算を増やすべきだと騒ぐだろう。政府が予算面で長期的に支援を続け、人材を育成することも大事である。韓国のように人材もなく予算もない国が3回目で打ち上げに成功したこと自体、運がよかったと言える」


 1月31日付けの朝鮮日報は、羅老号プロジェクトを辛辣に批判した。
 「羅老号打ち上げ成功は韓国の成功ではなくロシアの成功」
 「韓国はロシア産ロケットのテスト場所にすぎないと言われている」


 朝鮮日報は同じ記事で、韓国がロケット開発をロシアに依存するようになったのは、1998年の北朝鮮のデポドンミサイル実験がきっかけだと報道した。デポドンに驚いた韓国政府が、「人工衛星を打ち上げる場面を2005年までに国民に見せる」という目標を設定。打ち上げという行為にこだわりすぎたため、韓国産衛星搭載ロケット開発という最初の目標はどこかに消えてしまったと批判した。


 韓国教育科学技術部によると、羅老号の打ち上げにかかった費用は5025億ウォン(1~3回の累計 約419億円)。その4割を超える2165億ウォン(約180億円)がロシアに支払われた。


 中央日報も同日で、こう報道した。
 「羅老号の技術はまだ北朝鮮より下のレベル」
 「北朝鮮は自力で開発した。それに対して韓国は、最も重要な技術である1段目のロケットにロシア製のものをそのまま使っている」
 「韓国の技術で打ち上げに成功するためには、省庁任せにしないで、大統領が関心を持って集中投資を決めないといけない」



朴槿恵・次期大統領は科学技術立国を目指す



 朴槿恵・次期大統領は韓国初の工学部出身(電子工学科)大統領となる。朴氏は2012年12月16日に行われた大統領候補テレビ討論会で、「2025年までに月着陸船を開発する計画を、2020年に前倒しする。月に太極旗(テグッギ、韓国の国旗)をなびかせる」と発言した。


 韓国航空宇宙研究院は2010年3月から韓国型人工衛星搭載ロケット開発を進めている。2021年8月までに、3段型の韓国製ロケットに1.5トンの実用衛星を載せて打ち上げ、衛星を低軌道(600~800キロ)に乗せるのが目標だ。この時は、第1段ロケットも韓国の技術で開発する。予算は総額1兆5449億ウォン(約1290億円)。


 朴次期大統領が掲げる2020年有人月着陸船計画を実現するためには、韓国型人工衛星搭載ロケットも前倒しで開発しないといけない。羅老号打ち上げ成功記者会見で、韓国航空宇宙研究院は、韓国型人工衛星搭載ロケット開発を2018年には打ち上げられるようにすると発表した。


 そのためには研究人材と予算が必要になる。韓国航空宇宙研究院によると、韓国の衛星搭載ロケット開発をしている研究員の数は韓国航空宇宙研究院と韓国科学技術院を合わせても200人あまりしかいない。これに対してロシアでは4万5000人以上の研究者が携わっているという。朴次期大統領は何よりも科学技術開発を重視している。韓国型人工衛星搭載ロケット開発は予算面でも人材育成面でも、政府からの支援を期待できそうだ。


 朴次期大統領は、1)科学R&D予算を国民総生産の4%から5%に増やす、2)科学産業を発展させる土台作りのため「未来創造科学部」を新設する、と公約している。未来創造科学部は、朴政権の中心的役割を果たす省庁になるだろう。朴氏は「創造経済」をキャッチフレーズに、景気回復を図る方針だ。同氏は、未来創造科学部を次のように定義した。「想像力と創意性を科学技術につなげ、新しい成長動力を探して雇用を増やし、創造経済を支え、科学技術中心に国政を運営するための省庁である」


 未来創造科学部は、現在の教育科学技術部を廃止し、「科学」と「教育」に役割を分けた後、科学技術・ICT分野のR&D支援と技術政策を総括する。基礎科学技術開発を支援し、ICTとつないで新しい応用技術を作り出すことを課題にしている。2013年の1年だけで約10兆ウォン(約8500億円)、前年比2倍の金額を科学技術R&Dに投資する。航空宇宙開発に対する投資も間違いなく増える。


 羅老号打ち上げ成功の感動がこのまま10年続けば、韓国はロケットや月着陸船どころか、火星探査船だって作れるかもしれない。しかし、韓国人の特徴は熱しやすくて冷めやすいこと。それに5年後にはまた大統領選挙がある。政権が代われば未来創造科学部も廃止になるかもしれない。韓国型人工衛星搭載ロケット開発や有人月着陸船は、20年以上の長期にわたって地道に技術を積み重ねないと実現できない。政権が代わったから、不景気だから、失敗ばかりするから、という理由でプロジェクトを中断させてはならない。政治家を含めた全国民の科学技術リテラシーを向上させることが何より必要かもしれない。


 




By 趙 章恩

2013年2月6




-Original column
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20130204/243236/

[日本と韓国の交差点] 映画「レ・ミゼラブル」に熱狂する韓国人

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この冬、韓国では映画「レ・ミゼラブル」が大ヒットしている。「レ・ミゼラブル」を観ないと会話についていけないほどである。

 韓国で2012年12月21日に封切した「レ・ミゼラブル」は、1月22日時点で観客数が540万人を突破。ミュージカル映画としては、初めて500万人を越えるヒットとなった。映画チケットの予約サイトでは、封切から1カ月たった今もまだ人気ランキング5位内に入っている(東宝東和によると、1月16日時点の日本の観客動員数は248万人)。また、韓国の劇団による演劇「レ・ミゼラブル」、ミュージカル「レ・ミゼラブル」も連日満員御礼である。


 1巻から5巻まであるレ・ミゼラブルの完訳本は15万部が売れた。韓国の書籍市場では、1万部売れれば大ベストセラーと言われる。15万部は驚異的な数だ。


 レ・ミゼラブルは韓国で児童書として有名だった。ジャン・ヴァルジャンが飢えた甥のためにパンを盗んだ罪で19年も服役する。仮出所したものの、前科があるため仕事も寝る場所もなく、さまよう。一晩泊めてもらった聖堂で銀の食器を盗みまた捕まる。ところが神父さんは銀の食器は盗まれたのではなく自分が彼にプレゼントしたものだと言い、彼をかばう。さらに、銀のろうそく立てまでも持っていきなさいとジャン・ヴァルジャンに渡す。回心したジャン・ヴァルジャンは正直に生きることを誓い、その後立派な市長になった。めでたし、めでたし。これが、韓国人が知っているレ・ミゼラブルだった。ファンティーヌとコゼット、市民革命の話は登場しない。


 映画レ・ミゼラブルを観て、レ・ミゼラブルの本当のストーリーを初めて知り、原作を読んでみたいという学生や大人が増えた


 レ・ミゼラブルはミュージカル映画だけに、映画サウンドトラックのCDも3万枚売れた。韓国でCDが売れるのはとても珍しい。3万枚売れれば、ベストセラーと言える。韓国の音楽市場はiTunesのようなモバイルインターネット販売が主流で、CDなしの「デジタルアルバム」が多い。韓国を訪れる日本や中国からの観光客がお土産として買うくらいである。



観客はジャン・ヴァルジャンにわが身を重ねる



 韓国の小説家や政治家、俳優、大学教授といった著名人らはSNS上で、必ず観るべき映画として「レ・ミゼラブル」を勧めている。Twitterやポータルサイトの映画掲示板には、こんな書き込みが続いている。
 「レ・ミゼラブルを観ている間ずっと泣いていた。ラストシーンでは思わず拍手してしまった」
 「極端なほどに広がった貧富の差、激しさを増す市民革命など、今の韓国を観ているようで泣けた」
 「ジャン・ヴァルジャンには慈悲と愛を教えてくれた神父様がいた。だけど、現実には慈悲なんてない。貧乏人は一度足を踏み外すと、極貧から抜け出せなくなる。ファンティーヌの身が自分のことのように思えて涙が止まらなかった」
 「最後に革命で死んだ人たちが登場し、大勢で『Do you hear the people sing?』を歌う場面で、『もう一度がんばろう』『めげないで立ち上がろう』という気分になれた」
ジャン・ヴァルジャンに感情移入して、2度3度と映画館に足を運んだ人も多い。



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By 趙 章恩

2013年1月30




-Original column
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20130128/242916/