[日本と韓国の交差点] 教師による体罰は「正当な教育」か

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日本で、体罰を受けた高校生が自殺した。この事件は、韓国にも大きな衝撃を与えた。他人事ではないからだ。韓国の学校ではかつて「愛のムチ」として体罰が当たり前のように行われていた。

 韓国の親と教師は、朝鮮時代から「フェチョリ」を持っている。フェチョリは竹や木の枝などで作った細い棒のようなもので、体罰を与える時に使う。フェチョリを使って手のひら、おしり、ふくらはぎなどを叩く。フェチョリで叩くと大きな音が出るので、子供が怖がって悪さをしなくなる、と考えられている。


 朝鮮時代の民俗画に、書党(貴族の子供に漢文と礼儀を教える学校のようなところ)で、悲しい表情でフェチョリを手に取ろうとする先生と泣く子供を描いたものがある。「フェチョリを持つ」という慣用句は、誰かを厳しく叱るという意味だ。


 フェチョリは、親や教師に叱ることの意義を考えさせる役割も持つ。体罰をする時は、子供にフェチョリを持ってくるように言い、その間に、自分は本当に教育のために体罰をするのか、二度三度考えるのだ。かっとなって手で体を直接叩く、顔を叩く、のは暴力である。


 それでも、教師が感情的になり、体罰がエスカレートして、学生が大怪我をすることがあった。2010年には、テクォンドー部員の中学3年生が、コーチの体罰を苦に遺書を残して自殺した。サッカー部のコーチが小学5年生の部員に体罰を加え、頭蓋骨骨折で死亡させる事件もあった。韓国の運動部は日本の部活と異なり、プロの選手を目指す学生を集めて徹底的に訓練をする。顧問教師ではなく、体育教師とコーチが指導する。


 試合に負けたというだけで体罰をするコーチもいたことから、中央省庁の人権委員会は2006年から2007年にかけて運動部の体罰に関する真相調査を行った。調査の結果、運動部に所属している小中高校生の8割が体罰を経験したと答えた。


広がる体罰禁止


 ソウル市、京畿道、光州市の教育庁は2012年1月に「学生人権条例」を制定。これを受けて、これらに所属する学校は学校での体罰を禁止している。体罰は子供のプライドを傷つけるとの理由からだ。この条例をきっかけに、全国の教育庁は、体罰やいじめなど学校で暴力を受けた学生が助けを求められる仕組みも用意した。「117」に電話して通報できる。教育科学部(部は省)は「学校暴力予防および対策に関する法律」を強化し、「学校暴力対処自治委員会」を設置するよう学校に求めている。これは、教師と親が一緒に参加する学校内の委員会で、体罰やいじめなど学校内で起こる全ての暴力の予防に取り組むものだ。


 ソウル市が定めた学生人権条例第6条は、「学生は体罰、いじめ、性暴力など全ての物理的および言語的暴力から自由になる権利を持つ」と定めている。ソウル市はこの6条を根拠に、いかなる理由であれ、学校で体罰に及ぶことを禁じている。



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By 趙 章恩

2013年1月23




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http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20130117/242361/

[日本と韓国の交差点]「世代葛藤」~韓国大統領選挙の後遺症

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韓国の大統領選挙の熱気はすごかった。投票率は75.8%。2007年選挙の63.0%よりも12.8ポイント上がった。中でも50代の投票率は89.9%で、驚異的な記録を達成した。選挙日は臨時公休日になるので、投票しないで旅行に行く若い世代と問題視されてきたが、今年は違った。

 投票日の当日、投票場には、投票開始時刻の朝6時から人が集まった。午後になるとソウル市内のあちこちで、1時間以上待たなければならないほど行列ができた。投票の期限である午後6時になってもまだ人が並んでいた。6時までに投票場に到着した人には整理券を配り、6時を過ぎても投票できるようにしたほどである。


 今回の選挙はまるでお祭りのように盛り上がった。20~30代の間で「投票認証写真」を残すのがブームになった。投票したことを証明する写真をTwitterに掲載して、知人らに投票するよう呼びかけた。認証写真を投稿するとプレゼントがもらえる懸賞イベント、認証写真を見せると割引してくれるお店も登場した。


 芸能人の間では「投票公約」が流行った。「投票率が○%を超えたら、自分は○○をする」とTwitter上で約束するのだ。「投票率75%を超えたら裸でカンナムスタイルを踊る」と公約したロシア出身の女優がいた。公約を守るため、裸で踊る姿を撮った写真をネットで実際に公開し、話題になった(もちろんネットで公開しても問題にならないようモザイクを施した写真を載せた)。念のためお伝えすると、ほとんどの公約は「投票率80%を超えたら」というものだったので大事にはならなかった。


 お祭りのようにここまで楽しく盛り上がったのには理由がある。1つは、安哲秀という斬新な無所属候補が登場したこと。もう1つは、SNS選挙運動が合法化されたことである。これにより、選挙に対する20~30代の関心度が高くなった。カカオトークやTwitterで四六時中、大統領選挙が話題になっていたので、多くの人が自然に興味を持つようになった。


50代以上が朴氏の勝利を決めた


 選挙の結果、得票率51.6%で朴槿恵候補が当選した。文在寅候補は48.0%、その他の候補が0.4%だった。2013年2月に記録だらけの大統領が誕生する――「韓国初の女性大統領」「韓国初の過半数を超える得票率で当選した大統領」「韓国初の親子2代大統領」。朴氏は、もう1つ新しい記録を作った。韓国には投票率が高いと進歩系候補が当選するというジンクスがある。投票率の向上=若い人の投票が拡大だったからだ。だが、今回はそのジンクスが破れた。投票率を高めたのは、若い世代の投票が増えたのではなく、元々投票に熱心なシニア層のボリュームが増えたからだったからだ。



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By 趙 章恩

2012年12月28




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http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20121226/241609/

[日本と韓国の交差点] 北のミサイルをめぐって韓国大統領候補が応酬

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北朝鮮が12月12日、長距離弾道ミサイルと見られる人工衛星のロケットを発射した。北朝鮮は朝鮮中央放送を通じて「人工衛星クァンミョンソン3号の打ち上げに成功した」と発表した。


 韓国の最大手新聞である朝鮮日報は、12月12日の朝刊で、政府関係者の以下の発言を報道していた。「北朝鮮はミサイルを発射台から降ろして1・2・3段のロケットを全て分解した。年内には発射しないだろう」。その他の新聞も同様に、12月11日時点で、北朝鮮のミサイル発射は中止になったと報道していた。


 北朝鮮のミサイル発射は、韓国の株価やウォンの為替レートに大きな影響を与えてはいない。だが、韓国政府が北朝鮮の動きを把握していない状況に、市民は不安を持っている。「北朝鮮のミサイル発射を米国と日本は知っていたが、韓国は知らなかった」という産経新聞の報道が韓国でも報じられた。この記事に対するコメント欄に、李明博大統領の危機管理体制を非難する書き込みが殺到した。


 キム・グァンジン国防部(部は日本の省)長官は12日に記者会見を開き、「韓国政府だけが北朝鮮のミサイル発射を知らなかったわけではない。11日午後3時には北朝鮮がミサイル発射体を発射台に装着していることを確認し、大統領に報告した」と話した。また、「北朝鮮は今後、核実験をする可能性もある。過去において、長距離ミサイル発射3か月後と50日後に2回にわたって核実験をしている。今回も同様の意図を持っていると見ている」「具体的な内容は明かせないが、北朝鮮の核実験を止めるため国連に提訴する」とも語った。



朴候補「ミサイル発射は世界に対する挑発」



 大統領選挙候補である、与党セヌリ党の朴槿恵(パク・グンヘ)氏と野党民主統合党の文在寅(ムン・ジェイン)氏は12日、街角演説で北朝鮮のミサイル発射を強く非難した。


 朴候補は「北朝鮮のミサイル発射は韓国に対する挑発であるだけでなく、世界に対する挑発でもある。挑発では何も得られないことを北朝鮮に確実に教えてあげるべきだ」と厳しい姿勢を見せた。朴候補は「韓国は2006年に太陽政策を取り、北朝鮮に無条件で援助した。それでも北朝鮮は核実験を行った」と故盧武鉉元大統領の流れをくむ文候補側を非難した。「援助なしで維持できない平和は偽物である。私は韓国に本物の平和をもたらす。北朝鮮が挑発したらその分対価を支払うことになることを教えるために、強力な抑止力が必要だ」と主張した。


 朴候補は選挙公約に、韓米同盟を含む防衛力強化によって北朝鮮を抑止することを掲げる。国家安保室と南北交流協力事務所を新設して、北朝鮮と経済共同体を先に作る。その後、政治統合を徐々に進め、最終的な統一に導くというロードマップを提示した。



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By 趙 章恩

2012年12月14




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http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20121214/241006/

[日本と韓国の交差点] SNS選挙運動が合法化で変わる韓国大統領選挙

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韓国ではこの頃、電車に乗ってもバスに乗っても、「12月19日大統領選挙に投票しましょう」という音声案内が流れる。街中では、デジタルサイネージ上に、人気芸能人が登場する投票キャンペーン動画が流れている。投票日の12月19日は臨時公休日になる。

 2012年12月の大統領選挙は、スマートフォンとSNS(ソーシャル・ネットワーキング・システム)が普及し始めてから行われる初めての大統領選挙。SNSを使った選挙運動が初めて合法になった。通信白書を見ると、韓国のスマートフォン加入者は2012年10月時点で3000万人、人口の6割を超えた。18歳~59歳の労働者人口の9割近くがスマートフォンを使っている。TwitterやFacebook といったSNSの利用者は10代から60代までと幅広い。


 大統領候補の各陣営はSNS選挙運動で、スマートフォンとモバイルインターネットを主に使う。応戦する候補に関する情報をSNSサイトに掲載したり、「私はこの候補を支持するからみなさんも投票してください」といった意見を書き込んだりできる。SNS選挙運動は、投票日の前日となる12月18日まで自由にできる。


 これまでも、候補自身や選挙運動本部、政党がインターネット上(ホームページ、掲示板、Blogなど)で選挙運動をするのは合法だった。ただし、一般の人が「誰々に投票しよう」といった意見を書き込むことについては制限があった。


 SNS選挙運動の合法化は、2007年12月の大統領選挙がきっかけとなった。当時、李明博候補を支持しない人たちが、自身の政治的意見を動画にしてYoutube、Blogに掲載した。これが選挙法違反であるとして、検察が彼らを起訴した。被告となった192人は、憲法裁判所に集まり異議を唱えた。「良い指導者を選ぶためには、表現の自由を認めるべきである。有権者が選挙期間中に自分の政治的意見を表明し、他の有権者がそれを参考にする。選挙法がこうした循環を妨害している」。


 憲法裁判所は2011年12月29日、インターネットとSNSを利用した選挙運動及び政治意思表現を規制する選挙法は違憲であるとの決定を下した。同裁判所は2012年8月には、インターネット実名確認制度も表現の自由を侵害するとして廃止した。これは掲示板に何かを書き込む際、住民登録番号を元にした実名確認を義務付けていた。



朴正煕元大統領をめぐるネット上の攻防



 大統領候補とその選挙対策本部、各政党は、Twitter、Facebook、KakaoTalkといったSNSの公式IDを持っていて頻繁につぶやいている。12月10日現在、文在寅(ムン・ジェイン)候補のTwitterフォロワー数は31万4585人、朴槿恵(パク・クンヘ)候補のフォロワーは24万3814人 である。候補の略歴や日程、公約の解説、一般ユーザーがSNSに書き込んだ質問への答えなどを掲載している。SNS選挙運動は時間の制約がなく、お金もかけずたくさんの有権者に情報を発信できる。


 候補らは選挙対策本部内にSNS管理チームを置いて、SNS上のつぶやきに対応している。候補に関する悪い噂がSNS上で出回らないように、随時反論し、情報を訂正するのもSNS管理チームの役割である。


 12月8~9日に行われた大統領候補らの街角演説は、56年ぶりの大寒波にも負けることなく大いに盛り上がった。支持者らはTwitterとFacebookで演説を生中継したり、スマートフォンで撮影した現場の動画を載せたり、演説を聞いて候補に質問したり、有権者同士で討論したりした。



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By 趙 章恩

2012年12月14




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http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20121212/240915/

[日本と韓国の交差点] 韓国大統領選挙の争点は「経済民主化」

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有力な大統領候補であった無所属の安哲秀(アン・チョルス)氏が辞退した。政権交代を実現するためには、反与党の票が割れてはならないとの理由からだ。安氏は、今後の計画について何も語っていない。大統領候補は辞退したものの、「改革の象徴」としての安哲秀に、依然として韓国中が注目している。

 安氏の辞退によって、第18代大統領を選ぶ選挙は、与党・セヌリ党の朴槿恵(パク・グンへ)候補と、野党・民主統合党の文在寅(ムン・ジェイン)候補との一騎打ちになった。両者の支持率は朴候補47.3%、文候補45.4%で、朴候補がわずかにリードしている(リアルメーター調査、11月28日時点)。


両候補はともに経済民主化を強調


 朴候補と文候補は、両極にある。対北朝鮮政策、福祉政策など全てにおいて、「保守」と「進歩」という立場で対立している。ところが面白いことに、どちらも「経済民主化」だけは共通している。


 経済民主化が目指すのは、次の3つだ。(1)社会の格差を縮小する(働いた分、見返りのある社会にする)、(2)公正に競争できる環境を作る(財閥企業が中小企業に不利な条件を押し付ける不公正取引を根絶する)、(3)財閥企業から自営業者まで、様々な企業が共生できる環境にする(財閥企業や財閥オーナーに富が集中しないようにする)。


 「経済民主化」という言葉は、憲法119条に登場する。


憲法119条
1項:大韓民国の経済秩序は、個人と企業の経済上の自由と創意を尊重することを基本とする。


2項:国家は均等な国民経済の成長及び安定と適正な所得の分配を維持し、市場の支配と経済力の乱用を防止、経済主体間の調和による経済の民主化のために、経済に関する規制と調整を行える。


 憲法119条は、全斗煥(チョン・ドゥファン)元大統領が1987年に、軍事政権の施策に財閥企業が反対できないよう追加した条項だ。これが25年の歳月を経て再び注目されるようになった。


李明博大統領の財閥重視が禍根を残した


 2008年に就任した李明博大統領は、「ビジネス・フレンドリー」というキャッチフレーズを掲げ、財閥大手企業(資産規模が約3800億円以上の企業集団で、創業者一族が経営を世襲している)を優遇することで経済を成長させる政策を進めた。同大統領は財閥大手企業が儲かれば、中小企業もおこぼれで儲かり、国民経済が豊かになると考えていた。


 しかし、現実は違った。中小企業や自営業者の崩壊、深刻な所得格差による中間層の崩壊が起きた。一部の財閥のオーナーがより豊かになる一方で、一般国民の生活はさらに貧しくなった。


 ソウル放送(SBS)の2012年9月の報道によると、10大財閥に属する83社の2012年上半期の営業利益が、上場企業全体(1518社)の70%を占めた。この値は、2011年上半期は59%だった。わずか1年の間に、財閥系列とそうでない企業の営業利益の差がまた大きく開いた。



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By 趙 章恩

2012年12月06




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http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20121204/240562/

[日本と韓国の交差点] 検察の捜査開始と同時に反日の勢いなくした李明博大統領

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 李明博大統領が退任後に住む私邸のために購入した土地を巡り、10月から、特別検事による捜査が本格的に始まった。この土地購入を巡って、いくつかの疑惑がある。1つは、契約者の名義を李大統領ではなく李大統領の長男にしたこと。不法贈与と不動産実名法違反(不動産投機)の疑いがある。2つめは資金の出所だ。李大統領の長男は、叔父――李大統領の兄――からお金を借りて購入したという。だが、大統領の兄がどのような経緯で大金を所持していたのか、詳細は明らかでない。


 第3は、李大統領の長男と大統領警護室が共同所有にしたことだ。大統領警護室は、退任後の大統領の警護に使う施設を建てる必要がある、という理由を挙げている。大統領警護室の予算(国民の税金)を使い、李大統領が土地を安く買えるようにした、とみられている。国民の税金で李大統領の長男が安く土地を取得した、不動産実名法に違反した、ということになれば、李大統領の兄と息子、大統領夫人まで処罰を避けられない(大統領は免責)。


 李大統領の任期の最終年である2012年になって、同大統領の親族や側近らが次々と検察の取り調べを受けている。検察は7月、政治資金法違反とあっせん収財罪で同大統領の兄を起訴した。この問題に関して李大統領は、7月24日に国民に謝罪した。現役大統領の兄が検察の取り調べを受けたことも、長男が検察の取り調べを受けたことも、いずれも史上初めてのことだ。検察は11月5日、11月中に大統領夫人も事情徴収する方針であると発表した。



李大統領がもたらした“メンタル崩壊”



 この後に起こったのが、李大統領の突然の竹島(韓国名:独島)訪問である。日本からの抗議に対して、同大統領は「韓国の大統領が韓国の領土を訪問して何が悪い」と反発。この後、李大統領の支持率は一時期アップした。しかし、もし日本が無視していたら、韓国の人々は、あまり反応しなかったかもしれない。


 李大統領はこの後、口を開ければ「日本は~」と反日を訴えていた。だが、検察の捜査が本格的に始まった10月中旬から、反日の勢いをすっかりなくし、表舞台にも登場しないでいる。大統領の暴走が止まったことで、韓国の人々は、日本との関係を冷静に見つめなおすようになった。


 李大統領の発言は、すべて記録に残っている。にもかかわらず、10月8日に麻生太郎元総理と面談した際、「そんなこと言ってない」「天皇に謝罪を求めたわけではない。真意が伝わってない」と言い訳をした。このため、韓国中がメンタル崩壊(韓国の流行語、魂が抜けていく気分、パニックになるという意味)を経験した。また、親日に戻ったわけだ。


 李大統領は2008年4月に日韓首脳会談を行った際に、天皇を日王ではなく「天皇」と表現し、韓国に招待したいと自ら提案した。韓国では当時、大騒ぎになった。大統領が、天皇訪韓を突然言い出したのは社交辞令なのか、それとも本気なのか、と。李大統領は、韓国の大統領として日韓関係を考えて発言するのではなく、自分に有利になるようコロコロ発言を変えてきたとしか言いようがない。



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By 趙 章恩

2012年11月09




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http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20121107/239173/

[日本と韓国の交差点] 韓国初の無所属大統領か?それとも初の女性大統領か?

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2012年12月19日に行われる韓国大統領選挙に、どの政党にも属さない無所属候補が出馬し、20~30代から絶大な支持を集めている。これまでの世論調査で有力氏されてきたセヌリ党の朴槿惠(パク・グンヘ)候補を押しのけて支持率1位を奪う勢いだ。

 その無所属候補は、安哲秀(アン・チョルス)候補である。「韓国のビル・ゲイツ」と呼ばれており、韓国の大学生が最も尊敬する企業家と言われる。同候補は9月19日に「社会貢献できるならやる」と出馬を宣言した。同日の記者会見は、動画投稿サイトPandoraTVが生中継し22万人が視聴した。記者会見を生中継した午後3時の臨時テレビニュースの視聴率はKBS1 3.6%、MBC 2.9%、SBS 2.3%(TNmS調べ)だった。前日の同じ時間帯の視聴率は1%前後だったので、安候補の注目度がどれほどすごいかがわかる。


 安候補は日本支社もある韓国最大のITセキュリティ会社「アンラボ」の創業者だ。韓国一の名門大学であるソウル大学医学部出身の医者でありながら、「人間ではなくパソコンを治す医者になりたい」とアンチウィルスソフトを開発した。



直接対決では安候補が朴候補に勝る



 テレビ局のMBCが10月2日、成人1000人を対象に実施した支持率調査では、3候補が次の順で並んだ――朴候補37.0%、安候補26.4%、文候補22.5%。しかし、このうち2人を取り上げた直接対決を見ると、安候補47.7%対朴候補40.8%、文候補44.9%対朴候補44.5%と、安候補の支持率が高い。


 他のテレビ局や新聞社の世論調査結果も同様。3人の中では朴候補の支持率が1位だが、2者の直接対決になると、安候補と文候補の支持率の方が上になる。YTNの世論調査(10月2日)では安候補49.1%対朴候補40.7%、文候補46.2%対朴候補42.6%。同じ日に行われた朝鮮日報の調査でも安候補47.4%対朴候補44.7%、文候補46.1%対朴候補46.2%だった。


 MBCの調査では、回答者の49%が「安候補と文候補は候補一本化が必要だ」と答えた。マスコミは8月まで、韓国初の女性大統領が誕生すると騒いでいたが、今ではすっかり安候補の特集記事の方が多くなっている。


 複数の世論調査に共通する2012年大統領選挙の特徴は、支持する候補が世代別にきれいに分かれることである。20~30代は安候補を支持する人が40%を超える。40代では文候補を支持する人が35%前後で最も多い。50代以上は60%近くが朴候補を支持している。



若者はなぜ安候補を支持するのか



 安候補は2011年夏、かつて自分が教授をしていた名門大学KAISTの学生が何人も自殺したというニュースを聞いて、大学生に夢と希望を与えたいと無料講演会を企画。全国27の大学で「青春コンサート」と銘打った講演会を開いた。青春コンサートは、前回のコンサートで集まった寄付金で次のコンサートを開催するリレー方式をとった。希望プランナーというボランティアたちが支えた。青春コンサートに参加した聴衆は既に4万3996人に上る。



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By 趙 章恩

2012年10月10




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http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20121009/237816/

[日本と韓国の交差点] Youtubeでの再生回数がわずか2カ月で約3億回~韓国歌手PSYの「Gangnam Style」

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YoutubeとTwitterに乗って、韓国の歌手が欧米で大ヒットしている。

 PSY(サイ)が2012年7月15日Youtubeに公開した新曲ミュージックビデオ「Gangnam Style」が、公開後52日(9月4日)で再生回数1億(オフィシャルミュージックビデオの再生件数)を突破した。9月30日時点では3億2400万回を突破した。


 歌詞のオパヌンGangnam Styleを直訳すると「お兄さんはGangnam Style」となる。オッパは本来、女性が兄を呼ぶ時に使う呼称。だが、彼氏や親しい先輩など幅広い対象に対して使う。韓国の男性は年をとってもアジョシ(おじさん)ではなくオッパと呼ばれたい願望があるようで、オッパと自称するおじさんが多い。


 この曲も、「私はGangnam Style」ではなく、「オッパはGangnam Style」とオッパを自称している。Gangnamは江南、漢江の南側にある高級マンション街のこと。高級ブランド店が集まるショッピング街でもあり、クラブやバーが多い歓楽街でもある。Gangnam Styleは、トレンディーで上品なイメージと、バブリーで成金趣味の両方の意味を持つ。


 韓国のマスコミの報道を見ると、レディー・ガガの「Poker Face」は再生件数が1億3000万回を突破するのに約3年かかった。Youtubeでの活動をきっかけに大手レコード会社からオファーを受けてスターになったジャスティン・ビーバーの「Boyfriend」も再生件数が1億を突破するまで3カ月ほどかかったそうだ。PSYのGangnam Style が2カ月ほどで3億回に達したのは、すごいスピードであることがわかる。


 ギネスワールドレコードは9月20日、PSYのGangnam Styleを「Youtube史上、最も『いいね』件数の多いビデオ」としてギネスブックに掲載した。2012年9月30日時点で「いいね」は315万8368件を突破した。


 10月1日時点でGangnam Styleは、iTunes北米ミュージックビデオダウンロードチャート1位、ビルボードHOT100 2位、英シングルチャート(The Official Charts Company)1位を記録している。どれも韓国歌手が韓国語で歌った曲として初めての記録である。アメリカやイギリスに住む韓国人らは、連日ブログとTwitterで「PSYのGangnam Styleの人気に驚いた!信じられないほどすごいことになっている!」と書き残している。


 朝日新聞もPSYの活躍ぶりを 9月24日付けの紹介している。「ぽっちゃり35歳 韓流歌手PSY、世界で大ブレーク」という見出しがついた(関連記事)。



幼稚園児もお遊戯そっちのけで馬ダンス



 「Gangnam Style」はPSYがスーツにオールバッグのヘアースタイルで、江南地域のあちこちを背景に、コミカルな「マルチュム(馬ダンス)」を無表情で踊るというもの。PSYはこのミュージックビデオを韓国向けに制作したというが、なぜかこれが欧米のユーモアコードにぴったりなのだとか。韓国でも「小太りなPSYが馬ダンスを踊るから笑える」「かっこいい人が踊ったら面白くもなんともなかっただろう」と言われている。PSYは他のKPOPスターのようにむきむき筋肉マンにならず、ぽっちゃり体型を維持してきてよかったのかもしれない。



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By 趙 章恩

2012年10月3




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http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20121002/237508/

[日本と韓国の交差点] 韓国から見た中国の反日集会

韓国のテレビニュースも連日、中国各地で起きている反日集会の様子を詳しく放送している。新聞は「日本と中国が一触即発の危機」「中国の反日集会、最高潮に達する」「激浪の尖閣海域」「日中葛藤で日本企業衰退」「中国、日本に経済報復警告」といった刺激的な見出しをつけている。

 尖閣諸島を日本政府が国有化したことに抗議する集会が、過激な暴動に変わっていることも、テレビや新聞、ネット新聞、Twitterを通じて詳細に伝わっている。中国に住む韓国人らもTwitterやBlogで、「怖くて外に出られない」とつぶやいている。上海の韓国総領事館は「日本人に間違われないよう言行を注意してください。日本食レストランなど、日本人がよく行く場所への出入りは自制してほしい」と中国に住む韓国人に注意を呼びかけている。


 韓国メディアの報道によると、日本と中国がここまで激しく対立し、大規模な反日集会が中国全土で行われたのは、1972年の日中国交正常化以降初めてのことだそうだ。



集会が過激化するにつれ、中国に冷静さを求めるコメント



 韓国のネット掲示板やポータルサイトのニュースコメント欄を見ていると、最初は反日集会に参加する中国人に感情移入する書き込みが多かった。韓国も、日本と独島・竹島の問題を抱えているからだ。しかし、集会が過激になり、日本車に乗っていた男性が暴行され血を流しながら道路に横たわっている写真や、日系スーパーに集会参加者が押し入り略奪を働く写真などがネットに出回るようになってからは、「これは間違っている」と中国側に冷静さを取り戻すよう望むコメントが増え始めた。


 「領土紛争があるからといって中国にいる日本の企業に嫌がらせしても、そこに勤める中国人が職を失うだけ」「日本に強い姿勢を見せたいのはわかるが、暴動を愛国といって見逃すと中国の国家信用度が落ちる」と、日中関係を心配する書き込みがどんどん増えている。


 過激になっていく反日集会が反韓集会に拡大するのではないかと心配する声もある。尖閣諸島(北緯25度44分-56分、東経123度30分-124度34分)からそれほど離れていないところに韓国のイオド(離於島)(北緯32度07分、東経125度10分)という水中暗礁がある。中国は、韓国のイオド(離於島)も中国の領土であると主張し、中国の領海を広げようとしているからだ。



韓国企業は“漁夫の利”を得るか?



 日中の葛藤によって韓国が漁夫の利を得る――と書く日本メディアの記事をちらほら目にする。しかし、韓国内では全くその逆の心配をしている。日中関係が悪化すると、漁夫の利どころか、韓国も悪い影響を受けるしかない。


 漁夫の利と言われているものの1つが観光である。日本に行くはずだった中国人観光客が、反日ムードのため韓国に行くというのだ。しかし実際は韓国でも、中国人観光客が減る可能性がある。



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By 趙 章恩

2012年9月21




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http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20120920/237056/

[日本と韓国の交差点] 「封鎖」と「太陽」に揺れる韓国の対北政策

 2012年12月に行われる韓国大統領選挙に向けて、各政党は大統領候補選びが終わった。政党ごとに一人ずついる候補の中から、国民投票によって大統領を決める。


 野党の民主統合党は、文在寅(ムン・ジェイン)氏を大統領候補に選んだ。全国の党員による投票で、5人の候補の中から選抜した。ムン・ジェイン氏は故盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領の秘書を務めた人物で、大学生から30代まで若年層に人気が高い。与党のセヌリ党は今のところ、朴槿恵(パク・グンヘ)氏が大統領候補に出馬する。


 毎回、選挙が近づくにつれ大統領候補たちは、新聞やテレビのインタビューに毎日のように登場するようになる。インタビューのテーマは主に、景気・雇用回復や社会福祉などの政策に関する話。だが2012年は、各候補の対北朝鮮政策を聞く機会がこれまでより増えた。北朝鮮が韓国からの救護物資を断り、李明博(イ・ミョンバク)大統領を猛烈に非難しているからだ。北は、他の国からの支援は受け入れている。


 2012年、韓国と北朝鮮は自然災害に相次いで見舞われている。7~8月は干ばつ。9月には台風14号、15号、16号が到来し、甚大な水害が発生した。韓国では死亡15人、負傷5人、住宅と収穫直前の農作物が浸水する被害があった。北朝鮮の被害はもっとひどかった。北朝鮮のテレビ局である朝鮮中央通信によると、水害による死亡・負傷が100人以上、7000世帯を超える住宅が浸水、3万人以上の人が住む家をなくしたという。


 水害に遭った北朝鮮市民を支援するため、大韓赤十字は9月3日、北朝鮮赤十字に救護物資を提供すると提案した。北朝鮮赤十字が国際救護団体に対して、水害の悲惨さを訴え、救護物資を要請していた。これを見て、同じ民族として黙っているわけにはいかない、ということで支援が決まった。大韓赤十字の提案は統一部(北朝鮮関連政策を担当する省庁)の提案でもある。



李明博時代、冷え込み続けた南北関係



 李明博大統領が2008年に就任して以来、今日まで、韓国と北朝鮮の関係は冷え切ったままである。1998年から2008年まで、故金大中(キム・デジュン)大統領と故盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領は太陽政策(旅人のマントを脱がせるのは強い風ではなく暖かい太陽だったというイソップ寓話からとった名前)を進めた。北朝鮮に対して無条件で物資を供給することで、北朝鮮が心を開き、南北関係も良くなると期待していた。


 ところが李明博大統領は、太陽政策を中断した。支援のため北朝鮮に送ったお金と物資を元に、北朝鮮軍はミサイルを作り軍事力を強化している、との理由だ。李大統領も、北朝鮮に災害が発生した時には人道的支援として食糧を供給した。けれども、南北の関係は悪くなるばかりだった。



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