BTSのグラミー賞に期待高まる アジア最大級音楽祭で8冠

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 新型コロナウイルスの感染拡大で大きな打撃を受けながらも、巣ごもり需要をいち早く取り込み大躍進した韓国のエンタメ業界。特に、人気アイドルグループ「BTS(防弾少年団)」は米ビルボードのシングルチャートで全米1位を獲得するなど、世界的なヒットを記録した事は記憶に新しい。そんな中、アジア最大級の音楽祭「MAMA2020(Mnet ASIAN MUSIC AWARDS)」が12月6日開催された。ソウル在住のKDDI総合研究所特別研究員・趙章恩さんがレポートする。

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 2020年の韓国のエンタメ業界は、2月に映画『パラサイト 半地下の家族』が第92回アカデミー賞で4部門を受賞した事から始まり、『愛の不時着』をはじめとした韓国ドラマが日本で大ブームとなったり、BTSが「Billboard Hot 100」1位を獲得し、第63回グラミー賞にもノミネートされるなど、映画やドラマ、音楽など韓国発のエンタメコンテンツが海外で愛された1年となった。

 米TIME誌は、BTSを「世界で最もビッグなバンド」とし、「今年のエンターテイナー(Entertainer of the Year)」に選定。BTSの躍進を受けて、韓国メディアは2021年1月に開催されるグラミー賞で、BTSが最優秀ポップ・パフォーマンス賞(グループ/デュオ部門)を受賞するのではないかと大いに期待している。

 そんな中、韓国では音楽や映画、ドラマ、ゲームなどエンタメ業界の1年を締めくくる授賞式が相次いで開催されている。特に注目度が高いのが、12月6日オンラインで開催された年末恒例の音楽アワード「MAMA2020(Mnet ASIAN MUSIC AWARDS)」だ。MAMAは、「音楽でひとつになるアジア最大級の音楽授賞式」をキャッチフレーズに、韓国や日本、ベトナム、香港などで毎年開催・放送されてきた。今年はコロナ禍ということもあってか、MAMAの開催中、アメリカや日本、ブラジル、イギリスなど世界68地域でTwitterリアルタイムトレンド1位を獲得するほど視聴者が多かったようだ。

 授賞式では、アーティスト賞、歌賞、アルバム賞など、BTSが計8部門を受賞。大賞4部門を2年連続で総なめにした。今年の活躍ぶりを見れば当然の結果だろう。そのほか、女性グループ賞は日本でも人気が高い韓国ガールズグループ「BLACK PINK」が、インスパイアード・アチーブメント賞はBoAが受賞した。

 BTSメンバーの末っ子ジョングクは授賞式で、「私たちに熱情、覇気、毒気(必死になるという意味)しかなかった時代があったが、ARMY(BTSファンの呼称)の皆さんが真心と愛情を教えてくれた」とコメント。BTSとARMYの絆は有名だが、マンネ(末っ子)の口から「ファンから愛を学んだ」という言葉が出てきたのは、ARMYにとってはこの上ない喜びだったのではないだろうか。

MAMAは、どのアーティストがどの賞を受賞するかよりも、どれだけすごいパフォーマンスを見せたか、どんな仕掛けでファンを楽しませたか、という事の方が話題になる印象がある。今年は特にオンラインでの配信だったこともあり、韓国で「実感コンテンツ」と呼ばれるAR・VRなどの仮想現実や拡張現実を駆使した仕掛けが多かった。舞台上だけでなく客席まで使い、先端技術で実際の映像とグラフィック映像を合成し、現場で見るよりもさらに色鮮やかで華やかな演出を行った。

 BTSは「ボリュメトリックキャプチャ」というXR技術(ARやVRの総称)を使い、肩の手術のため活動を休止しているSUGAを登場させた。実際に舞台上にいるのは6人のみだが、新曲『Life Goes On』が始まりSUGAのパートになると、他のメンバーと同様画面に溶け込むようにSUGAが登場し、メンバー7人全員が揃うという仕掛けを施した。あらかじめ専用スタジオでSUGAを4K画質のカメラで360度撮影し、高画質の3次元デジタルデータで再現したという。まるで本当にSUGAが同じ空間にいるような精巧な仮想現実だった。米ビルボードでチャート1位を獲得した『Dynamite』でも曲の後半、AR技術でメンバーの後ろで花火が打ち上げられ、フィナーレでは花火がDYNAMITEの文字に変わる、という演出が施されていた。

 MAMAの目玉はBTSだけではない。デビュー20周年を迎えたBoAの特別ステージも素晴らしかった。BTSより先に韓国初の賞を数多く獲得した先駆者であるBoAは、韓国人なら誰もが口ずさめるのではないかというほどヒットした曲『No.1』と、韓国ボーイズグループ「SHINee」のテミンと難易度の高いダンスを披露した『Only One』、新曲『Better』の3曲を披露。全てかっこよく、デビューから今までを短く編集した映像で『Better』が流れ始めた時は、「20年間あっという間だったな~」という感慨深い気持ちになった。

 BoAといえば、2002年3月にリリースした日本でのファーストアルバム『LISTEN TO MY HEART』で、韓国人で初めてオリコン週間アルバムランキング1位を獲得し、セカンドアルバム『VALENTI』も発売初日に100万枚を超える大ヒットを記録した日本でも馴染み深いアーティスト。最近は日本での露出は減っているが、今は所属事務所であるSMエンターテインメントの取締役を務めながら曲作りも続けている。

 コロナの影響で全てのイベントがオンラインでの開催となってから、テレビやスマホ越しにしかアーティストに会えない1年だったが、韓国エンタメ業界はコロナ禍ならではの試みでファンを沸かせている。MAMAは公式YouTubeからも観られる。最新技術を駆使した超豪華K-POPスターたちのパフォーマンスをぜひその目で確認して欲しい。

【趙章恩】
ジャーナリスト。KDDI総合研究所特別研究員。東京大学大学院学際情報学修士(社会情報学)、東京大学大学院学際情報学府博士課程単位取得退学。韓国・アジアのIT・メディア事情を日本と比較しながら分かりやすく解説している。趣味はドラマ視聴とロケ地めぐり。

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2020. 12.

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次にヒットする韓国ドラマの新潮流は「ファンタジー系」

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新型コロナウイルスの感染拡大で大打撃を受けたエンタメ業界。多くの人々が自粛生活を余儀なくされたことで、コンサートや映画など接触型のエンタメは壊滅的な影響を受けたが、ネットの動画配信など、「巣ごもり需要」を取り込む新たな動きが目立った年でもあった。その恩恵を最も受けたのが、韓国のエンタメ業界ではないだろうか。特に、『愛の不時着』など韓国ドラマの世界的ブームは記憶に新しい。ソウル在住のKDDI総合研究所特別研究員・趙章恩さんが、今年1年の振り返りと、来年日本で話題になりそうな韓国ドラマを紹介する。

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 コロナ一色となった2020年、韓国のエンタメ業界は無観客コンサートのネット配信や動画サイトでの新作映画の封切り、テレビ会議システムを使ったファンミーティングなど、「巣ごもり消費」をいち早く取り込もうとさまざまな手を打った。

 この1年でNetflixなどの動画配信サイトの利用者は大幅に伸びており、韓国言論振興財団の調査によると、2019年の47.1%から2020年には66.2%に増加。特に60代以上の増加率は大きく、2019年の17.7%から2020年には39.3%と2倍以上に伸びた。コロナ禍を背景に、動画配信サイトでドラマを観る人が増えたことや、幅広いジャンルのドラマが配信されたことなどが主な要因だろう。韓国でヒットしたドラマが日本でもヒットし、韓国人が面白いと思うドラマが日本人にも受け入れられたことで、韓国の視聴数がさらに伸びるという好循環が生まれていたように思う。

 Netflixが12月14日「note」に公開した記事によると、今年配信した作品の中で「最も多い日数総合TOP10(日本)入りした作品」1位は『愛の不時着』。続いて2位に『梨泰院クラス』、6位『サイコだけど大丈夫』、8位『青春の記録』、9位『キム秘書はいったい、なぜ?』と、半分を韓国ドラマが占めた。さらに同社は、「配信直後から日本で最も勢いのあった韓国ドラマTOP10」も公開。1位はこれぞ“王道のラブコメ”と言える『キム秘書はいったい、なぜ?』。2位は『私のIDはカンナム美人』、3位『青春の記録』、4位『梨泰院クラス』、5位『サイコだけど大丈夫』だった。

 一方、日本で人気になる韓国ドラマは、主にNetflixで配信されるものが中心のためこのようなランキングになるが、韓国で今年人気だったドラマは日本とは大きく異なる。韓国メディアのジョイニュース24が今年10月に集計した「2020年最高のドラマ」によると、1位『賢い医師生活』、2位『夫婦の世界』、3位『キングダム シーズン2』、4位『秘密の森 シーズン2』、5位『愛の不時着』、6位『サイコだけど大丈夫』となった。1位の『賢い医師生活』はNetflixで日本でも観られるが、日本ではそれほど話題になっておらず、日本で人気の『愛の不時着』、『サイコだけど大丈夫』は同ランキングでは5位以下だったのが興味深い。

次に「来る」のはファンタジー系ドラマ

 韓国ドラマといえば、ラブコメや時代劇、ほのぼの系ホームドラマ、マクチャンドラマ(ドロドロの愛憎劇)などが定番。特にラブコメ率は高く、医療ドラマかなと思ったらラブコメ、サスペンスドラマかなと思ったらラブコメというほど、これまでどんなドラマにも「ラブライン」と呼ばれる、登場人物が恋に落ち結ばれるまでの駆け引きを無理やり入れることが多かった。しかしここ数年韓国では、「ラブラインの無いドラマ」という宣伝文句が登場するほど、ラブコメ以外のドラマのニーズが強くなっており、これが日本と韓国の人気ランキングに差が生まれる一つの理由ではないかと思う。

 今韓国で人気急上昇中なのが、これまであまり無かった「ファンタジー系」ドラマだ。現在放送中の『驚異的なソムン』(ソムンは「噂」の意、主人公の名前でもある)は、韓国ウェブコミック配信サイト「DAUM WEBTOON」で連載されたマンガが原作のスリラー×ファンタジードラマ。人に取り憑き殺人を犯す悪霊と、悪霊を退治する「カウンター」と呼ばれるヒーローたちの物語で、カウンターは、普段は「クッス(韓国式そうめん)食堂で働いているが、悪霊を感知すると客を放置して出動、それぞれが持つ驚異的な能力で悪霊をやっつけ人々を救う。1話、2話と回を重ねる度に注目を集め、12月13日放送された6話の視聴率は全国平均7.7%、最高視聴率8.3%と高視聴率を記録。ケーブルテレビドラマの歴代視聴率TOP5に入りそうな勢いである。

『驚異的なソムン』は、『愛の不時着』を制作した「スタジオドラゴン」の作品。大手制作会社の作品にも関わらず、この頃韓国ドラマでよく見られるスポンサーの商品を無理やりドラマの中に登場させて視聴者の失笑を買う、といったことが無いのも好感を得ている要因だろう。これまでの韓国ドラマでは、突然スーツのポケットから真空パックキムチを取り出して主人公に差し出し、キムチをクローズアップするといったあからさまなシーンも度々見られたが、こんなことをされるとそれまでの感動が台無しだ。制作やスポンサー側も、そうした姑息な描写が逆効果であることを意識し始めているのかもしれない。

『驚異的なソムン』は、ケーブルテレビの放送に加え、韓国のNetflixでも配信されている。SNSでの評判を見ると、好きな時間に観られるNetflixで観る人がかなりいるようで、Netflix韓国版の「総合TOP10」1位になるほど大人気だ。近々日本でも配信されれば、来年話題さらう人気ドラマとなるのではないだろうか。

【趙章恩】
ジャーナリスト。KDDI総合研究所特別研究員。東京大学大学院学際情報学修士(社会情報学)、東京大学大学院学際情報学府博士課程単位取得退学。韓国・アジアのIT・メディア事情を日本と比較しながら分かりやすく解説している。趣味はドラマ視聴とロケ地めぐり。

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2020. 12.

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BTSの急成長支える「ARMY」パワー 進化するファンとの関係

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 韓国の人気アイドルグループ「BTS(防弾少年団)」のシングル『Dynamite』が11月24日(現地時間)、音楽界の最高栄誉とされる「グラミー賞」にノミネートされ大きな話題になっている。アジア出身の歌手がノミネートされたのは初めてで、SNSでは世界中のBTSファン「ARMY」の歓喜の声で溢れた。BTSは、10月にも米ビルボードのシングルチャートで1位を獲得したばかり。ソウル在住のKDDI総合研究所特別研究員・趙章恩さんは、「BTSの大ヒットは、ARMYたちの尋常ではない努力の賜物」と話す。

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 コロナ禍でエンタメ業界全体が落ち込むなか、この1年で異例の急成長を遂げたBTS。公式YouTubeに頻繁に動画をアップしたり、大々的なオンラインコンサートを実施するなど、自宅にいながらBTSを楽しめるよう工夫した運営側の活動もあるが、BTS人気をここまで押し上げたのは、紛れもなくARMYたちの働きによるところが大きい。

 その働きは、例えばBTSがデビューして間もない頃は、話題になるよう新曲を発表したら、24時間眠らずに新曲動画を繰り返し再生する(再生回数を稼ぐため)、BTSの歌詞をARMYが世界各国の言葉に翻訳し解説を付けてSNSで紹介する、BTSの活動でメンバーのためにならないことや、社会的に納得のいかないことなどがあれば改めるよう所属事務所に直談判したり抗議活動をする、「BTSをもっと知ってほしい」という思いから地下鉄や電車にARMYたち自ら広告を出す、BTSの活動に関する論文を書く…など挙げ始めたらキリがない。

 プロモーター的な役割を担うこともある。10月に開催されたオンラインコンサート『BTS MAP OF THE SOUL ON:E』のチケット販売の際は、チケットの種類が多いうえ、運営側の説明が分かりにくかったことから大混乱が生じたが、ARMYの1人が「どのデバイスからどんな映像をどのように見たいか」でチケットを選択できるよう一目でわかる表を作りSNSで公開、運営側がその表を公式サイトなどに転載して案内し直したことがあった。

また、10月はメンバーのジミンの誕生月だったため、中国のARMYがソウル中区役所と協力し、「明洞ジミンテーマ通り」と題した盛大な誕生祭を実施。ソウル中心地の明洞のあちこちにジミンの写真や看板が登場し、メインストリートの入口には「ジミン楽園へようこそ」と書かれた大型のLEDゲートも設置された。休業中のお店の大型看板がジミンの写真に代わっていたり、レストランやカフェの中を覗くとひょっこりジミンの等身大サイズの立て看板が見えたりして、ARMYではない私でも宝探しのようで楽しい気持ちになった。目玉は明洞芸術劇場前に設置された、スノードームにすっぽり入ったジミンのオブジェだ。夜になると灯りがともり幻想的な雰囲気になるので、明洞の観光スポットの一部としてずっと置いて欲しかったくらいだ。

 韓国では、こうしたARMYパワーに注目する記事が増えている。「歴史上最も強力な“ファンダム(熱心なファン集団)”」、「ARMYは全世代、全世界に存在する」とし、ARMYのような自主的に動くファンは他のアーティストには無い現象であり、その存在自体も単なる狂信的なファンのものとは性質が異なることなどを伝えた。

 ARMYたちの“規格外”の活動には、海外メディアも注目している。英ロイター通信や米ブルームバーグ、米ワシントンポストは、BTSが6月、人種差別の撤廃などを訴える「Black Lives Matter」運動に100万ドルを寄付したところ、ARMYもこれに呼応し同額の100万ドルを集めたことなどに触れ、SNS上の繋がりやハッシュタグを使い、社会問題に積極的に声を上げ行動するこれまでにない部類のファンであることを詳しく報じた。アジア人であるBTSも差別の対象になる可能性があるため、「人種差別問題には積極的に対応する」という米国ARMYたちの声も紹介していた。

 2020年に3周年を迎えたユニセフとBTSが行っている児童・青少年に対する暴力根絶運動「LOVE MYSELF(私自身をまず愛そう)」でも、SNSなどでのARMYの活動により寄付金額は2020年10月末に32億ウォン(約3億円)を突破した。

 アイドルとファンの先例の無い新たな関係性を築くARMYの活躍から目が離せない。

【趙章恩】
ジャーナリスト。KDDI総合研究所特別研究員。東京大学大学院学際情報学修士(社会情報学)、東京大学大学院学際情報学府博士課程単位取得退学。韓国・アジアのIT・メディア事情を日本と比較しながら分かりやすく解説している。趣味はドラマ視聴とロケ地めぐり。

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2020. 11.

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グラミー賞にも期待 BTS新譜は“爆発の年”締めくくる作品

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米ビルボードチャートで韓国アーティストとして初の1位を獲得するなど、今人気絶頂のアイドルグループ「BTS(防弾少年団)」。彼らの最新アルバム『BE (Deluxe Edition)』が11月20日、世界同時リリースされるとあって、音楽特番などが増える年末年始に向けてさらに注目が集まっている。この1年のBTSの活躍について、ソウル在住のKDDI総合研究所特別研究員・趙章恩さんが解説する。

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 BTSの最新アルバム『BE (Deluxe Edition)』は、音楽だけでなく、コンセプトからデザイン、構成、ミュージックビデオ(MV)に至るまで、メンバーが制作全般に参加するなど、これまでに無い力の入れようとなっている。初回の特典も太っ腹で、韓国で初回限定版としてCDとセットで販売されるのは、92ページのフォトブックに32ページのメイキングブック、フォトブックサイズの額縁、ポスター、フォトカードなど、全部で重さ1kgの超豪華版。これで3万9400ウォン(約3700円)はお買い得だ。前回のアルバム『Map Of The Soul : 7』同様、予約販売サイトによっても異なるオリジナル特典が用意されているというから、どこで買おうか悩んでしまう。

 アルバムの発売に先立って、11月1日から公式SNSで新アルバムのコンセプトフォトも公開。1日目はメンバー全員、2日目はV、3日目はジミン、4日はRMとリレー形式で公開し、指折り数えて発売を待つ「ARMY(BTSファンの名称)」の心を離さない仕掛けを用意した。どの写真も美しい作品に仕上がっており、メンバーがそれぞれ録音したオーディオガイドも付いている。どんなコンセプトの写真なのか、自分らしさを表現するためどこにこだわったのか、本人が解説してくれるのだ。

 アルバムとは別に、年末恒例の「シーズングリーティング(略してシグ)」も予約販売を開始した。K-POPアイドルらが毎年発売する「シグ」はカレンダーやダイアリー、フォトブック、メイキングDVDなどで構成されたグッズのことで、「BTS 2021 SEASON’S GREETINGS」は90年代を彷彿とさせるレトロコンセプトで制作された。メイキングDVDの一部が先行公開されたが、BTSメンバー自らが考えたという自身の“サブキャラ”の説明がとにかく笑える。今韓国のバラエティー番組では、芸能人らがサブキャラを作り本人でないふりをして登場するのが流行っている。BTSもその流行りにのってARMYを楽しませようとしているのだ。

 BTSが最新アルバムやシグに力を入れるのは、もちろんアルバムを売るためということもあるが、2020年という年の締めくくりとして、特別な思い入れもあるからではないだろうか。2020年は、多くの人にとってコロナで全てが思い通りにいかない年であったが、コロナ禍にデビュー7周年を迎えたBTSと、彼らを支えるARMYにとっては、最も団結した1年であり、これ以上ない飛躍の年となったからだ.

今年2月、2年3か月ぶりにリリースしたアルバム『MAP OF THE SOUL : 7』は米ビルボードのアルバムチャートで1位を獲得し、全世界で417万枚のセールスを記録。8月に発表した新曲『Dynamite』でも、米ビルボードシングルチャート「Hot100」で初登場1位を獲得し、3週連続で首位をキープ。不動の人気を獲得した。

 9月から10月にかけても、毎日のように『Dynamite』のパフォーマンス動画を公開。米国の有名番組が企画した動画だったため米国のテレビやラジオで放送され、その後YouTubeにも毎日アップされた。同じ曲なのに、パフォーマンス毎に新しいBTSが見られるため、ARMYたちは毎日その動画を心待ちにした。おかげで世界中のARMYが家にいながらBTSにどっぷりハマることが出来た。

 10月10日から2日間にわたり開催したオンラインコンサート『BTS MAP OF THE SOUL ON:E』も凄かった。所属事務所によると、世界191か国99万3000人がチケットを購入する異例の盛況ぶりで、全員が最も安いチケット(4万9500ウォン)を購入したとしても売上は491億ウォン(46億円)超えと、凄まじい売上を叩き出した。コンサートの内容も、4つのセットにAR(拡張現実)を駆使したダイナミックな舞台演出や、6つのアングルを選択できるマルチビューに対応するなど、リアルのコンサートと遜色ない、配信だからこそ楽しめる仕掛けが多数施されていた。

 曲名通り、“ダイナマイト”が爆発したかのような1年を駆け抜けたBTS。ARMYも、PCやスマホの画面などからYouTubeやSNSで追いかけ続け、自宅にいながらまるで全てのライブに参加したかのような疲労感と達成感を味わえた、といった声が多く見られた。それほど応援に没頭し、団結していたのだろう。応援するだけでも大変だが、メンバーはいつ練習していたのか、彼らの体力にも感服する。

 新アルバム『BE (Deluxe Edition)』のリリースから3日後の11月23日(日本時間)にも、米国の栄誉ある音楽賞の一つであるアメリカン・ミュージック・アワードで、収録曲『Life Goes On』を世界初披露する予定だ。また、1月にはグラミー賞も控えている。米ビルボードでシングルチャート1位を獲得した際、メンバーのSUGAは「グラミー賞を受賞し、BTSの単独公演をしたい」と抱負を語っていた。コロナ禍を共に乗り越え、数々の記録を打ち立ててきたメンバーとARMYに、グラミー賞受賞という喜びを味わって欲しいものだ。

【趙章恩】
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2020. 11.

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米大統領選は地味? エンタメ要素満載の“韓国流”開票中継

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大接戦の末、民主党のジョー・バイデン前副大統領が勝利した今回の米大統領選挙。世界中が固唾を飲んで選挙の行方を見守る中、意外な反応を示していたのが韓国国民だ。ソウル在住のKDDI総合研究所特別研究員・趙章恩さんが解説する。

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 米大統領選の模様は、韓国でも日本と同様連日テレビで伝えられ、「どちらが当選した方が韓国のためになるのか」といった内容の特番が毎日のように放送されていた。だが、注目度が高い一方で、韓国のネットユーザーの間では、「米大統領選の開票中継が単調で面白くない」「共和党、民主党の投票数を米国地図に赤と青で色分けしただけで地味すぎる」といった声が多く見られた。というのも、韓国の大統領選の開票中継は、さまざまな工夫が凝らされたエンタメ要素の強いものだからだ。

 韓国の大統領選は、米国のように有権者が選挙人を選び、選挙人が大統領を選ぶ「間接選挙」ではなく、有権者が大統領を直接選ぶ「直接選挙」。自分の投票がダイレクトに結果につながるだけに、国民の関心も高い。そのため、大統領選を締めくくる開票中継は、選挙期間中のテレビ局の視聴率を左右する重要なイベント。開票率など数字ばかり見せていては視聴率は上がらないため、各局はCGを駆使し、とにかく派手で面白い映像を作り国民の気を引くのだ。

 2017年に行われた韓国大統領選挙では、地上波のテレビ局3社が開票中継の視聴率を争った。候補者らをあらかじめスタジオに呼び、CG用の画像や動画を撮影して、海外ドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』や映画『ロッキー』、人気アニメの『ポケモン』などを真似たパロディ映像を作成した。

 特に『ゲーム・オブ・スローンズ』のパロディでは、西洋風の甲冑に身を包み、剣や盾を携えた候補者たちがドラゴンや白馬に乗り選挙戦を進めていくという凝った映像が話題になった。もちろん、著作権を侵害しないよう実際のドラマやゲームの映像は使わず、テレビ局が新たにCGを制作している。地域別の開票状況を伝える際も、その地域の特産品や歴史などの映像も流し、地元民を喜ばせた。

テレビ局の中で特に高評価を得たのは、民放のSBSだ。「2017国民の選択」という番組で、開票中継を面白おかしく報じたことでSNSで大きな話題になり、政治に関心が無い人も一度は中継を見てみよう、という気持ちにさせる効果があったとして高く評価されたのだ。SBSは、2018年や2020年に行われた地方選挙でも開票中継に力を入れた。「政治は感動である」というキャッチフレーズのもと、韓国のアイドルオーディション番組「Produce 101」のパロディ映像を制作。アイドルさながら候補者らにダンスをさせるなどして選挙戦を盛り上げた。

 米大統領選は、選挙人制度という特殊な事情もあるが、それでも開票中継が面白くないので、韓国ネットユーザーは「AI観相(人相)占い」アプリを使ってトランプ氏とバイデン氏のどちらが“王”になる観相かを点数にして比べたり(AI観相占いはトランプ氏の方が点数が高かった)、2人の生年月日から2021年の運勢を占ったりして勝手に楽しんでいた。

 米メディアは、2017年の韓国大統領選の開票中継について「The Crazy Ways South Koreans Watched the Election(クレイジーなほど面白い)」と紹介したほど。今回の大統領選でも、韓国ケーブルテレビのニュース専門チャンネル「YTN」のアナウンサーが中継中、「(米大統領選が“地味”)ゆくゆくは韓国流の開票中継が、K-選挙(K-POPのK)として海外に広がっていくのではないでしょうか」と話していたのが印象的だった。

【趙章恩】
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2020. 11.

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死んだ恋愛細胞が蘇る?韓国ドラマ『キム秘書』ヒットの理由

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コロナ禍の巣ごもり需要を背景に一大ブームを巻き起こした韓国ドラマ。『愛の不時着』などに続き今日本で話題となっているのが『キム秘書はいったい、なぜ?』だ。配信からわずか数日でNetflixの人気ランキング(日本)1位を獲得し、現在も常に上位にランクインし続けている。韓国では2018年に放送され、社会現象となるほどの人気ぶりというが、その人気の理由とは。ソウル在住のKDDI総合研究所特別研究員・趙章恩さんが解説する。

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『キム秘書はいったい、なぜ?』は、2018年のGoogle検索ワードランキング(韓国)で、韓国テレビ番組部門1位を獲得したほど大人気となったドラマ。遂に日本でも配信され、人気上昇中というから嬉しい限りだ。本作は、2013年に発表された同名のウェブ小説が原作。2016年には韓国のウェブコミック配信サイト「kakaopage」で漫画になって登場し、2018年に韓国でドラマ化された。WEBTOONの同名漫画は韓国コンテンツ大賞のマンガ部門で文化体育観光部長官賞を受賞し、ドラマもケーブルテレビでの放送だったにも関わらず、地上波放送込みの同時間帯視聴率1位をキープしたほど、2018年を代表する作品になった。

 物語は、大企業の副会長・ヨンジュン(パク・ソジュン)と、ヨンジュンを9年間支えてきた秘書・ミソ(パク・ミニョン)のラブストーリー。ドラマ化が決まり、主人公のパク・ソジュンとヒロインのパク・ミニョンのキャスティングが発表されると、原作ファンは「最高!この上ない組み合わせ」「待ちきれない」と盛り上がった。パク・ソジュンは役作りのため発声を変えてみたそうで、パク・ミニョンは役作りのため体重を4kgも絞り、体にぴったりフィットする衣装にチャレンジした。

 そしてドラマが始まると、初回から最終回まで、韓国のSNSではドラマの話題が絶えず、公式YouTubeで公開されたパク・ソジュンとパク・ミニョンのキスシーン動画は、ドラマが終わって2年経った今も再生回数が伸び続け、遂に2億回を越えた。2人のキスシーンやプロポーズシーンは「死んだ恋愛細胞も生き返る」と絶賛され社会現象になり、2人の熱愛説まで報じられる騒ぎとなった。

本作の最大の見所は2人のラブシーンであることは言うまでもないが、終始SNSをざわつかせていたのが、パク・ソジュン演じる主人公ヨンジュンのキャラクターとセリフだ。ヨンジュンは、ハンサムで仕事もできるが、完璧主義者で何よりも自分が一番好きという究極のナルシスト。第1話の冒頭から、自己愛が強いあまり「眩しくないか?ぼくからにじみ出るオーラが!」と両手を広げるシーンなどナルシスト全開で、「ヨンジュン、こいつ~」と自分のことを名前で呼び自分の美貌にツッコミを入れるというシーンは、いまや名ゼリフとして語り継がれている。

 SNSでは、「副会長が登場すると歯茎が乾燥する(ずっと笑っているため)」「副会長から目が離せない」といったコメントで溢れ、回を重ねるごとに「このドラマ、タイトルを『副会長はいったい、なぜ?』に変えるべきでは?」といったコメントも多く書き込まれるほど、パク・ソジュンの演技が評判になった。パク・ソジュンのインタビューによると、「ナルシスト全開のセリフを言うのは最初は恥ずかしかったが、スタッフが笑っているのを見ると自信が付いた」と話している。

『キム秘書はいったい、なぜ?』は、ジャンルで分けるとロマンティック・コメディだが、会社での社員らの駆け引きや女性たちのファッション、ヨンジュンとミソの自宅インテリアを見る楽しみもある。また、ヨンジュンとミソのデートシーンには、韓国を代表する名所が多く登場するため、コロナで海外旅行が出来ないなかでも、韓国を旅する気分を味わえる。

 一度見始めたら最終話まで止まらないと評判の本作。秋の夜長にお供に、恋愛細胞を呼び起こしてみてはどうだろうか。

【趙章恩】
ジャーナリスト。KDDI総合研究所特別研究員。東京大学大学院学際情報学修士(社会情報学)、東京大学大学院学際情報学府博士課程単位取得退学。韓国・アジアのIT・メディア事情を日本と比較しながら分かりやすく解説している。趣味はドラマ視聴とロケ地めぐり。

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2020. 10.

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異色の韓国ドラマ『サイコだけど大丈夫』が韓国人を癒す理由

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韓国ドラマ『愛の不時着』が、コロナ禍の自粛生活を背景に、Netflixで一大ブームを巻き起こしたのは約半年前。人気は未だに衰えておらず、現在もNetflix「今日の総合TOP 10(日本)」では常にランクインし続けている。他にも、『梨泰院クラス』や『キム秘書はいったい、なぜ?』など数々のヒット作が配信されているが、その中でも韓国の人々を癒して止まないのが、既に日本でも大ヒットとなっている『サイコだけど大丈夫』だ。ソウル在住のKDDI総合研究所特別研究員・趙章恩さんが解説する。

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 韓国では今、地上波だけでなくケーブルテレビやウェブなど、さまざまなプラットフォームから毎週のように新作・大作ドラマが登場している。年間110~130タイトルものドラマが放送されるため、ドラマ好きでも全てを見るのは不可能なほどだ。山のようにあるドラマの中でも、テレビ放送直後にNetflixで190か国に配信された『サイコだけど大丈夫』は、韓国だけでなく日本や東南アジアでも人気ランキング上位にランクイン。『愛の不時着』、『梨泰院クラス』に次ぐ大ヒット作となり大いに盛り上がりを見せた。

『サイコだけど大丈夫』は、2007年のデビュー以来数々のヒット作に出演し、作品選びに失敗したことがないと言われるキム・スヒョンの5年ぶりの主演ドラマ。彼の除隊後初のドラマということに加え、タイトルも中身もかなり変わったドラマとして、韓国では放送前から大きな注目を浴びていた。

 同作は、両親を失い、自閉スペクトラム症の兄・サンテ(オ・ジョンセ)を献身的に支えながらひっそりと暮らす主人公ムン・ガンテ(キム・スヒョン)が、人気童話作家のコ・ムニョン(ソ・イェジ)と出会うことで、それまで閉じ込めていた心の傷と向き合い成長し、心を癒していく過程を描いた物語。

 ガンテにとって兄は大切な存在である一方で、母の愛情を奪い自分を縛りつけてきた存在でもある。矛盾した思いを抑えながら耐え忍ぶ日々を送るガンテだったが、人の愛情を知らない冷淡なムニョンに「偽善者」と言われ、その言葉が彼を苦しめる。2人は過去にある事件でつながっており、家族の秘密が少しずつ明らかになっていく様子は背筋がぞくっとする不気味さもあり、単なるヒューマンドラマで終わらないサスペンス要素も含んだ魅力がある.

 キム・スヒョンは、除隊後の初主演作として同作を選んだ理由について「ヒューマンヒーリングドラマだから」、「ムン・ガンテが抱いていた心の傷を表現し、その傷を治癒していく過程を通じて共感を得たかった」と語った。実際に韓国では、「最高の癒しドラマ」と称賛され、ケーブルテレビでの放送だったにもかかわらず、放送期間中高い視聴率を維持し、韓国の幅広い年齢層の視聴者の心をくぎ付けにした。

 同作は、家族だから全てを許して仲良くすべき、親孝行すべきといった、韓国ドラマにありがちな展開やシーンがない。伝えているのは、「あなたはあなたのままで良い。人と違っていても、“サイコ”でも大丈夫」というメッセージだ。サイコと聞くと、日本ではサイコパスや精神疾患を持つ人という印象が強いが、韓国では個性が強い人、周りに流されない人、ちょっと変わった人を「あの人サイコみたい」と言うことがある。

 韓国では、家族というだけで多くを強いられる風潮や、周りと同じような水準の生活をし、流行の服を着て、空気を読んだ言動をして…といった同調圧力に疲れ、誰も自分を知らない海外に行きたいと願う若者が増えている。そうした鬱屈した社会の中で登場した同作は、視聴者がドラマを通して自分の傷を振り返り、主人公らと一緒に泣き、心を癒すきっかけとなった。見終わる頃には、自分もありのままの相手を受け入れよう、自分の物差しで人を判断しないように生きよう、という気持ちになれたドラマだった。

 同作のパク・シヌ監督は放送後のインタビューで、「私たちは誰もが少しは狂っています。だから皆サイコです。それでも大丈夫です。私たちはそれでも大丈夫な(良い)人たちです」と話した。これまでの王道的な韓国ドラマとは一味変わったストーリーに、主人公キム・スヒョンとソ・イェジのビジュアルが眩しい映像美も楽しめる『サイコだけど大丈夫』を、ぜひチェックしておきたい。

【趙章恩】
ジャーナリスト。KDDI総合研究所特別研究員。東京大学大学院学際情報学修士(社会情報学)、東京大学大学院学際情報学府博士課程単位取得退学。韓国・アジアのIT・メディア事情を日本と比較しながら分かりやすく解説している。趣味はドラマ視聴とロケ地めぐり。

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2020. 10.

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J.Y.Park、金言つまった自伝が韓国でヒット お笑いの素質も

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 ソニーミュージックとJYPエンターテインメントとの共同オーディション番組『Nizi Project』での数々の名言が話題を呼び、結成した日本人ガールズグループ「NiziU」を成功へと導いたことで、大きな注目を浴びた韓国人プロデューサーのJ.Y. Park(パク・ジニョン)氏。8月12日、同氏の自伝『何のために生きますか?』(原題)が韓国で発売されると瞬く間にベストセラーとなり、韓国で再び脚光を浴びているという。ソウル在住のKDDI総合研究所特別研究員・趙章恩さんが解説する。

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 韓国では今、J.Y.Park 氏の自伝『何のために生きますか?』が話題だ。発売されてから2か月近くが経つが、発売後すぐにエッセイ部門でベストセラー1位となり、その後も上位にランクインし続けている。著書では主に、同氏のこれまでの苦労の人生や現在の生き方、未来に対する考え方や哲学などが余すところなく語られている。前半は、23才でデビューするまでの道のりや、5年かけて準備した米国進出が2008年に起きた「リーマン・ショック」でとん挫し、挫折を味わったことなどが語られ、後半は、同氏が大きな影響を受けたという聖書によって自分がどう変わったかなどの宗教観が綴られている。

 これまで、ダンスやセクシーなパフォーマンスが得意なプロデューサー兼歌手というイメージが強かったため、「聖書の中に答えがある」と話す同氏の考え方を意外に感じた人は多かっただろう。この意外な一面を感じさせるところが、今回ベストセラーにつながった理由の一つかもしれない。もちろん、「人に見られる姿が自分の本当の姿であるべき」、「人に知られて問題になるようなことはしないのが人生の基準」、「健康に良いことを探すよりよくないことを避ける」、「ビジネスは経済共同体ではなく価値共同体」といった、同氏ならではの名言も豊富に掲載されている。

 J.Y.Park氏の有名な名言の一つに、「音楽はハートで考え頭で完成する」という言葉がある。同氏が韓国のオーディション番組の審査員だった頃、シンガーソングライターを目指す参加者らに何度も言っていた言葉だ。これは、感情に頼って曲を作ると似たり寄ったりの曲しか作れないし、頭だけを使っても大ヒットにはつながらない、という同氏の持論。音楽に情熱を傾けるのはもちろんだが、トレンドを把握して差別化できるポイントを作り出し、ディテールにこだわるなど頭で計算する必要もあることをかなり前から強調しており、こうした彼ならではの哲学が現在の成功につながったと言える。

自伝の出版と同時に、歌手活動も再開している。J.Y.Park氏による作詞・作曲で、同氏が育てたガールズグループ「Wonder Girls」出身のソンミとのデュエット曲『When We Disco Duet with sunmi』は、8月12日の公開と同時に韓国音楽チャート1位を獲得。歌番組やバラエティー番組にも2人で一緒に出演し、20代のアイドルにも勝るダンスパフォーマンスを披露した。韓国メディアは、「さすがJ.Y.Park」、「1994年のデビューとは思えない、今も全盛期のよう」、「J.Y.Parkのダンスパフォーマンスの底力を見せてくれた」と称賛した。

 自伝や新曲だけでなく、9月からは韓国のポータルサイト「NATE」のCMにも起用され、モデルとしても活躍している。NATEの新サービスキャンペーンに応募すると、SNSなどで使えるJ.Y.Park氏の「彼氏画像(ナムチンチャル)」がもらえる。今韓国では、彼女目線で撮影した写真のようなナムチンチャルが流行っており、よくアイドルがファンのためにSNSに投稿してくれるのだ。

 J.Y.Park氏のナムチンチャルは、シーツの中でこちらを見つめているものや、「一口食べる?」と言いたそうな顔をしているもの、手でハートマークを作ってこちらを見ているものなど、18種類もあってかなり笑える。エンターテインメントだけでなくお笑いにも素質があるようだ。J.Y.Park氏が育てたガールズグループ「TWICE」のモモとチェヨンが、ふざけて同氏のナムチンチャルを真似た写真を撮り、それをジョンヨン(TWICE)が本人に送るという微笑ましいエピソードもある。

 話題の尽きないJ.Y.Park氏。NiziUやTWICEなど、プロデューサーとしての活動だけでなく、本人の活躍にも目が離せない。

【趙章恩】
ジャーナリスト。KDDI総合研究所特別研究員。東京大学大学院学際情報学修士(社会情報学)、東京大学大学院学際情報学府博士課程単位取得退学。韓国・アジアのIT・メディア事情を日本と比較しながら分かりやすく解説している。趣味はドラマ視聴とロケ地めぐり。

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2020. 10.

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韓国でも竹内さん訃報に衝撃 防止策行うも自殺者減らぬ現状

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 女優の竹内結子さんが9月27日、40才の若さで亡くなった。7月以降、三浦春馬さんに芦名星さん、藤木孝さんと、短い期間に有名芸能人が4人もこの世を去った。韓国では、昨年芸能人の自殺が相次いだこともあり、今回の悲報に大きな衝撃が広がっている。ソウル在住のKDDI総合研究所特別研究員・趙章恩さんが解説する。

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 竹内結子さんの悲報は、韓国でも衝撃的なニュースとして受け止められた。彼女が主演を務め、韓国でも大ヒットした映画『いま、会いにゆきます』は、2018年にソン・イェジンとソ・ジソブ主演でリメイク版が製作されたほど韓国人が好きな日本映画。韓国のケーブルテレビでは竹内結子さん主演の映画も多く放送しており、再婚や出産など、彼女の近況も記事になっていたほど知名度が高い。SNSでは、「清純とは何かを見せてくれた女優だった」、「あんなに純粋で素敵な笑顔を見せてくれる女優は他にいない」、「結子オンニ(お姉さん)のドラマが大好きだった。新作を楽しみにしていたのに…」など、悲報から一週間以上経った今も、追悼の書き込みが後を絶たない。

 韓国でも、2017年にボーイズグループ「SHINee」のジョンヒョンが早すぎる死を選び、国内外で大きな衝撃が広がった。また、昨年にもガールズグループ「f(x)」のソルリと、元「KARA」のHARAが20代の若さで命を絶った。HARAは日本での活動を再開し、亡くなる前日まで自身のSNSでファンとコミュニケーションしていただけに、突然の訃報にファンの悲しみは大きかった。

 著名人の自殺は、社会的に大きな影響を及ぼす。2008年、トップスターのチェ・ジンシルが命を絶った後の2か月間の自殺者は、前年同期と比べて790人も増加。2009年に盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領が自殺した後も、その後の2か月間は前年と比べて2倍近く自殺者が増え、2017年にジョンヒョンが亡くなった時も、2018年の自殺者は前年比9.7%増の1207人に増えた。

 韓国自殺予防協会によると、著名人の自殺が新たな自殺を誘発する「ウェルテル効果」が要因として大きいという。日本でも、今年の8月の1か月間に自殺した人は全国で1854人にのぼり、前年同月比16%も増加している。特に30代以下の比較的若い世代の女性の自殺が同74%増と突出して多く、時期的に見て主にコロナの影響と考えらえているとはいえ、著名人の自殺も重なったことで、今後のウェルテル効果の懸念が広がっている。

 韓国の自殺率は人口10万人当たり24.7人(2018年)と長年OECD加盟国で1位。OECD加盟国平均である11.5人の2倍を超える自殺率で、官民が協力し合って数々の対策を講じてきたが自殺率は減らない。韓国メディアは、ウェルテル効果の対策として、自殺報道の際は「自殺」と報じず「極端な選択」または「死亡」と表現し、どこでどのような方法で亡くなったかなどの詳細は記事にしなくなった。また、インターネットが普及した1990年代からの傾向として、ネットでの悪質な書き込み「悪プル(アクプル)」が原因で亡くなったとされる芸能人が増えているため、韓国のニュースサイトは2019年10月から順に、芸能とスポーツニュースのコメント欄の閉鎖を決めた。

韓国にはかつて、ニュースサイトを利用する際に実名を確認する「インターネット実名制度」があったが、表現の自由を侵害するとして2012年に廃止になった。ソルリとHARAが亡くなって以降、制度復活を望む声もあったが、賛否両論あり制度化まで至らず、各ニュースサイトは思い切ってコメント欄を閉鎖することにしたのだ。コメント欄が無くなってからは、悪プルはSNSなどに書き込まれるようになったが、コメント欄だと嫌でも目にしてしまうことが多かったため、閉鎖前に比べれば状況は少しずつ改善している。

 芸能事務所も、所属アーティストを守ろうと必死だ。韓国では、SNSで名誉棄損やセクハラをしたり、虚偽の事実を広めたり、悪意のある誹謗中傷などを行った場合、ファンがそれを見つけ次第画面をキャプチャーして、URLや投稿者のIDなどを芸能事務所にメール送信でき、芸能事務所の顧問弁護士がそれをまとめて検察に告訴している。また、大手芸能事務所では、所属俳優に定期的に心理相談を受けさせたり、不安な様子が見られた場合は心療内科を受診させるなど対策を講じており、最近ではうつ病を隠さず、治療を受けていることを告白する芸能人も増えている。

 ソウル市の真ん中を走る漢江(韓国北部を流れる河川)に掛かる20個の橋には、2011年から75台の公衆電話の形をした「SOSいのちの電話」が設置してある。「悩んだ時はまず電話して欲しい」というメッセージが書いてあり、電話を受けたカウンセラーが消防と警察に連絡し、すぐに救助できるよう連携している。2011~2019年の「SOSいのちの電話」にかかってきた相談は8113件で、10~20代が6割以上を占めた。投身直前に救助した件数も1595件にのぼる。

「SOSいのちの電話」によると、「自殺は個人的要因もあるが社会的・制度的要因が複合的に作用する社会問題である。最近コロナの拡散で経済的困窮、社会的距離を保つため人に会えないことから、不安とうつ、自殺衝動を訴える人が増えている」という。韓国の芸能界でも、子供の頃から合宿生活を送り、ダイエットのためだとして食事を制限し、過酷なトレーニングを積む厳しいマネージメントそのものが、うつ病の原因だと批判する意見も多い。こうしたシステムは近いうちに変わってくとみられるが、実効性のある対策が早く見つかってほしいものだ。

【趙章恩】
ジャーナリスト。KDDI総合研究所特別研究員。東京大学大学院学際情報学修士(社会情報学)、東京大学大学院学際情報学府博士課程単位取得退学。韓国・アジアのIT・メディア事情を日本と比較しながら分かりやすく解説している。趣味はドラマ視聴とロケ地めぐり。

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2020. 10.

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全米1位のBTS「なぜ兵役免除されないのか」が国民最大の関心

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韓国の人気アイドルグループ「BTS(防弾少年団)」の新曲『Dynamite』が8月31日、米ビルボードのシングルチャート「Hot100」で初登場1位を獲得した。2週目に入っても首位をキープしており、韓国では国を挙げての騒ぎとなっている。人気の過熱とともに、韓国国民の関心を引いているのがその経済効果や徴兵制の問題だ。ソウル在住のKDDI総合研究所特別研究員・趙章恩さんが解説する。

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 韓国人アーティストとして初めて、米ビルボードで2週連続1位の快挙を成し遂げたBTS。1位獲得のニュースが速報で伝えられるとTwitterでは瞬く間に拡散し、8月31日から9月2日までの3日間で関連ツイートは約4600万件に達した。新聞・テレビなどの韓国メディアやケーブルテレビもこぞってBTSの特集を組み、文在寅大統領も自らの公式Twitterで祝賀メッセージを投稿した。韓国政府は2018年、「世界の若者に韓流と韓国語を広げ大衆文化芸術の発展に寄与した」ことを評価し、BTSに「花冠文化勲章」を授与しており、今やBTSは、政府からも功績を認められた国を代表するスターなのだ。

 それだけに、韓国では今回の記録的ヒットで“どのくらい儲かったか”が話題になっている。韓国文化体育観光部(部は省に当たる)が9月7日公開した調査によると、今回、BTSが「Hot100」で1位を獲得したことで生み出される経済効果は約1兆7000億ウォン(約1520億円)にのぼる。これは、『Dynamite』のヒットによる所属事務所への直接的な売上のほか、BTSの人気に付随して輸出が増えた化粧品や食料品、衣類などの売上を合わせた金額だ。同部によると、この数字はコロナの影響で海外観光客の誘致やコンサートを開催できない状況を踏まえた試算であるため、今後のコロナの状況によってはさらにすごい経済波及効果を生み出す可能性があるという。

 また、BTSの所属事務所のビッグヒットエンターテインメントは、新規株式公開(IPO)を控えており、遅くとも2020年末までには上場を果たす計画だ。このタイミングの『Dynamite』のヒットで、上場後どこまで株価が上がるかが注目される。特に、同事務所の代表で最大株主のバン・シヒョク氏は、メンバー7人にそれぞれ6万8385株を贈与したため、メンバーが手にする具体的な金額にも関心が向けられている。株の公募価格は1株当たり10万5000ウォンを超える見込みとされており、一人当たりが保有する株の価値は、少なくとも71億ウォン(約6億円3000万円)を超える。

 過去には、大手韓国芸能事務所のSMエンターテインメントが所属アイドルに一定の株を相場より安く購入できる「ストックオプション」の権利をあげたことがあったが、贈与という形は異例のこと。ビッグヒットエンターテインメントは、ストックオプションではなく贈与の形を取ったことについて、「BTSメンバーとの長期的協力関係の強化及び士気を高めるため」と説明した。

 BTSは稼ぐだけでなく寄付も積極的に行っている。9月12日に誕生日を迎えたRMは、誕生日の記念として国立現代美術館文化財団に1億ウォン(約900万円)を寄付。昨年も、聴覚障害を持つ青少年の音楽教育を支援するため1億ウォンを寄付した。美術館やギャラリーでの目撃談が多いRMらしい活動だ。他にも、J-HOPEが今年の2月と8月、母校の子供たちやコロナの影響で経済的に苦しむ子供たちのために1億ウォンずつを寄付したり、SUGAも2月、コロナ感染者が急増した地元・大邱のために1億ウォンを寄付するなど、メンバー各々、稼いだお金を関心のある分野に尽くしている。

「兵役免除」求める声も

 もう一つ、今国民の最大の関心事とも言えるのが、韓国人男性なら避けられない「兵役義務」の問題だ。韓国では、満18才以上の男子は28才までに入隊し、1年半~2年間兵役に就かなければならない。国際大会で上位の成績を残したスポーツ選手や伝統芸術家は、才能を活かせるよう軍隊には入らず、役所や福祉施設などで代替勤務をする「代替服務制度」があるが、大衆文化には適用されないため人気絶頂のアイドルや俳優が兵役で活動休止せざるを得なくなる事例はよく見られる。入隊日や除隊日には、ファンが部隊の前まで見送りや出迎えに行くのは恒例行事だ。

 BTSでは、年長のJINから順に兵役義務を果たすことになる。JINは大学院に進学したこともあり2021年末まで入隊を延期できる見込みだが、いずれは兵役に就かなければならない。「ピアノコンクールで1位になると代替服務制度が適用になるのに、米ビルボードで1位になり、莫大な利益を国にもたらしたBTSが適用対象外になるのはおかしい」と憤慨するARMY(BTSのファンの呼称)は多く、「兵役免除」や「特例」を求める声も日に日に強まっている。

 少年だったK-POPアイドルたちが兵役に行くと、規則正しい生活の影響なのか、肌はさらにつるつるになり、筋肉も付いてたくましくなる。「自分を振り返る時間になった」と話すアイドルもいることを思うと、兵役を経験するのも悪くないのかも、と思ってしまうが、人気絶頂の20代の大事な時間を軍で過ごすとなると、人気に影響が出るのは必至だ。

 個人的には、BTS程のスターなら、兵役にはきちんと就いて、軍人として世界平和のために国連のような国際機関で奉仕活動をするとか、その手段として音楽活動を続けるのも悪くないと思う。今のところ、BTSメンバーが兵役を免除される可能性は低いものの、韓国の国会議員らもBTSの兵役に関心を持ち制度改善に動いているようだ。ファンの前から姿を消すことなく兵役の義務を果たせる日も来るかもしれない。

【趙章恩】
ジャーナリスト。KDDI総合研究所特別研究員。東京大学大学院学際情報学修士(社会情報学)、東京大学大学院学際情報学府博士課程単位取得退学。韓国・アジアのIT・メディア事情を日本と比較しながら分かりやすく解説している。趣味はドラマ視聴とロケ地めぐり。


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2020. 9.

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