グーグルのアンドロイドが韓国の「モバイル鎖国」を開放する? [2007年11月14日]

かなり前から噂されていたグーグルの携帯電話への進出。ついに、その詳しい実態が明かになった。モバイル向けOS「アンドロイド」を発表したのだ。

 韓国では「グーグルが通信事業者になって携帯電話を発売するのか?」と予測されていたのだが、ふたを開けてみるとマイクロソフトのWindows MobileのようなOSだったということで、これが携帯電話業界にどのような影響を与え、世界をどう変えていくのか、深層分析記事が登場したり、ブログでかなり話題になったりしている。


 今の韓国のモバイルインターネットでは、メニューの表示が複雑で使い方に慣れるまでは、「このボタンかな?」「あのボタンかな?」と、何度も同じページを行ったり来たりして苛立つことがある。韓国では二次元バーコード(QRコード)が普及していないのでなおさらだ。そこに、ユーザーが必要としているコンテンツを簡単に表示してくれて、コンテンツの検索もしやすくなるとなれば、「アンドロイド携帯を買いたい!」となるのは当然だろう。


 韓国ソフトウエア業界も、グーグルのアンドロイドが使える端末を韓国で発売してくれることを切に望んでいる。外資系依存比率が年々高まり、生き残りが難しくなった韓国ソフトウエア業界やモバイル関連ベンチャー企業に希望の光が差し込むのではないかと期待しているのだ。


 グーグルのアンドロイドをきっかけにオープンなプラットホームを登載した携帯電話が世界の主流になれば、韓国も携帯電話の通信網が開放され、ポータルサイトのNAVERやDAUMを使えるようになり、幅広いモバイルコンテンツサービスを楽しめるようになる。パソコン向けのサイトを携帯電話からスイスイ利用できるようになれば、ノートパソコンを持ち歩かなくて済むようになるし、韓国のモバイルインターネットの利用者も爆発的に増えるだろう。そうすれば、まだ4割にも満たないモバイルインターネットの利用比率を日本ほどに高められるかもしれない。


 しかし、こうした期待を裏切るかのように、通信事業者のSKテレコムやKTFは「グーグルのアンドロイドは結局のところスマートフォン。デザインと機能を重視する韓国ではスマートフォンのような端末は売れない。収益性、サービスの多様化という面でメリットがないため、アンドロイドには対応しないことにしている」と発表した。


 韓国では、通信事業者3社がプラットホームからモバイルコンテンツ市場までがっちりと握っている「モバイル鎖国」。この「クローズド」な環境と、グーグルのアンドロイドのように「オープン」な環境が相容れるわけがなく、絵に描いた餅に終わってしまう恐れが高い。

韓国のモバイルサイトには「公式サイト」しか存在しない。そこに各コンテンツプロバイダーがコンテンツを掲載するには、通信事業者が投資あるいは子会社化している「マスターコンテンツプロバイダー」と呼ばれる大型コンテンツプロバイダーを経由してコンテンツを納品するしか方法はない。通信事業者と各コンテンツプロバイダーの収益の分配(手数料)も契約によってまちまち。今はだいぶよくなったが通信事業者の取り分が60%、コンテンツプロバイダーは40%しかもらえないというようなこともあった。

 コンテンツプロバイダーが「もっと収益を分配してほしい!」と主張しようものなら、「他にいくらでもコンテンツプロバイダーはあるんだよ」という具合に簡単に切り捨てられてしまう。コンテンツプロバイダーには、キャリアと仲良くなるか、メガヒットを飛ばして通信事業者から一目置かれるようになるかの、二者択一の道しかない。


 こうした状況に風穴を開けようと、韓国ではグーグルより圧倒的な人気と影響力を持つポータルのNAVERが自社のコンテンツを携帯電話から自由に利用できるようにするため、通信事業者に携帯電話網を開放するよう要求している。しかし、通信事業者側は、この要求に応じない。「おいしい既得権」はそう簡単に捨てられないというわけだ。


 韓国の通信事業者が、アンドロイドに対応しない理由はもう一つある。それは、韓国政府が推進してきた「WIPI」という韓国式標準プラットホーム戦略との関係だ。政府主導で高い費用を払ってWIPIを開発し、すべての携帯端末はこれを義務的に登載している。これにより携帯電話の端末価格が高くなり、海外メーカーが携帯電話を韓国で販売することも難しくしている。グーグルのアンドロイドを韓国で提供することは、国家施策であるWIPIを否定することになる。ただし、海外向け端末ならば話は別。端末ベンダーのサムスン電子やLG電子は、海外輸出向け端末のためにグーグル同盟に参加し、高いOS利用料を支払わずに販売できる端末の開発を目指している。


 グーグルにしても何にしても、海の向こうの話で終わらないのがITの世界。韓国でもグーグルに刺激を受けて、モバイル鎖国がなくなることを期待している。

(趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン  
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韓国有名女優の自殺ショック・なぜ悪質書き込みは止まないのか

こんなことが起きるとは、夢にも思わなかった。20年間もトップスタだった韓の人女優、真実(チェジンシル)さんの今月2日の自殺を受け、韓ではブログやネット上のコメント欄に悲しみのメッセジがあふれた。ネットでの質な書きみにんでいたことが一因とされるだけに、ネット規制化の動きが加速している。


 


 


■後を絶たない芸能人の自殺


 


 韓ではネット上の質でしつこいコメント(「プル」という)にまされ、自殺する芸能人が後を絶たない。つい9月にも、おおらかなキャラクタで人だったアンジェファンさんが自殺した。借金が原因とされているが、お笑いタレントである妻のラジオでの言がネット上で批判の渦にまれ、ジェファンさんの経営する社の不買運動にまで展し、経済的に行き詰ったあげくの自殺だったという。


 


 そして、「はジェファンさんにお金を貸したのが今回自殺した女優のジンシルさんで、借金を巡るトラブルがあった」といううわさがネット上で流れたのだ。このデマはネットのあちこちに載され、さらにとんでもない方向へ膨れ上がった。根も葉もないことが「友達の友達が聞いた話」と脚色され、マスコミも「ネットでこんな噂ががっている」とこぞって報道した。


 


 ジンシルさんはデマを流した人を捕まえてほしいと警察に査を依し、証券社の女性社員が捕まった。しかし、うわさがデマだったことが証明された後もネットの書きみはまらず、ジェファンさん、そして日後にジンシルさんが相次いで亡くなった。ジンシルさんは「この世はみんなひどい」などと書いたメモをしていた。彼女の自殺をえるすべての記事はコメントを書きめないように設定されたが、もう取り返しはつかない。


 


 


■「サイバ侮辱罪」討へ


 


 


 


  


の人女優だった真実(チェジンシル)さん〔共同〕


 


 


 この事件のあと、党ハンナラ党は早速、ネット規制化のための法案を持ち出した。ハンナラ党はこの法案に「チェジンシル法」という名前をつけようとして遺族の反で見送ったが、ネットへの書きみにする規制化は以前から討が進められており、今回の一件で議論が加速すると見られている。


 


 この法案には、サイバ暴力に対処するための名制度のさらなる化や、誰が見ても質な誹謗中傷とわかる書きみについては非親告罪を適用し、告がなくても警察または察が査できるようにする「サイバ侮辱罪」などが盛りまれている。


 


 現在も「情報通信網利用促進及び情報保護にする法律」によるサイバ誉毀損罪と、「刑法」の侮辱罪を適用して、質な書きみを罰することはできるが、同の事件の抑止果は十分でなかった。というのも、他人から見れば些細なことでも侮辱と感じる人もいるわけで、罰の基準が曖昧にならざるを得なかったからだ。量刑は7年以下の懲役となっているが、際には510万円ほどの罰金で終わることがほとんどだ。


 


 


 


 サイバ侮辱罪は、質な書きみを非親告罪にすることで規制を化するという。しかし、どこまでが表現の自由で、どこからが侮辱にてはまるのか、それを誰がどのような基準で判するのかという課題はされている。この課題をり越えない限り「政府のに入らないことを書くと侮辱罪で捕まるといった事態を招くのではないか」という反論はくだろう。


 


 それでも、党の意志は固い。被害者が査を依しないからといって書きみが削除されないままれば、それがいつの間にか世論のように受け止められ、被害が大きくなる。徹底的に取り締まり、もっとしい罰をするべきだと主張している。


 


 


■ポタルへの書きみの影響力


 


 サイト運者の責任を大しようとする動きもある。書きめる場所を利目的で提供しているからには、示板やコメントをしっかり管理する義務もあるとの立場で、プロバイダ免責を最小限に抑えようとしたり、ポタルサイトに言論機としての責任を負わせたりする方向へ議論が進められている。


 


 韓質な書きみは匿名サイトや特別なサイトに集まるのではなく、ポタルサイトと、プロフィルペジの「HOMPY(ホンピ)」に集中している。老若男女誰もが訪問し13000万ペジビュを超えるポタルサイト「NAVER」などのニュス記事のすぐ下にコメントが書きまれるため、ポタル側が積極的に対処しない限り、全民に「生中」されることになる。


 


 ジンシルさんは、自分にする心ないコメントが子供たちの目に入るのではないかということを、何よりも心配していたという。自分のインタビュ記事の下にずらっと1000件以上もコメントが並び、記事とともに質なコメントもネット上にがっていく。ネットの書きみも問題だが、それを勝手に載して批判を再生産するマスコミも反省すべきではないかというが上がっている。


 


 韓インタネット振興院の「2008年インタネット利用態調査」によると、韓では人口の77.1%、1030代では9899.9%がインタネットを利用し、そのうち72.8%がインタネットで新聞をんでいる。インタネットで新聞をむということは、記事の下にあるコメントも目にするということである。人口4800万人のうち、約2700万人が質コメントにれることになる。攻される立場からすれば「全民が私を攻している」と受け止めてしまうのも無理はない。


 


 ポタルサイトDAUMでは、1日に何十件も書きみをけ、自分の意見が世論であるかのように見せようとするユが多い。10%のユが全コメントの80%を書きんでいたというリサ社のリポトを踏まえ、1人1日20件までしか書きめないようルルをえた。


 


名制でも質コメントが減らない理由


 


 


 



 


今でもファンの訪問が後をたないチェジンシルさんのHOMPY


 


 


 韓では名を確認しないと何も書きめない仕組みになってからも、サイバ誉毀損のけ出件は減るどころかえるばかり。2005年に3662件、2006年に4005件、2007年に4856件と着に伸びている。名制度だけではネット上の質な書きみによる攻を防げないというのが、韓を見ればよく分かる。


 


 なぜ、質な書きみはここまでくのだろうか。「名制度とはいえIDを使って書きめるので、ユ同士では匿名とわらないのだろう」という分析もあれば、「韓人は自己主張がいため、相手を傷つけても言いたいことをはっきり言う態度はわらない」という見方もある。いずれにしても、烈な罰規定がない限り果がないというのが現なのかもしれない。


 


 


 


 リアルメという調査社が全700人を象に電話調査を行った結果では、サイバ侮辱罪の導入は55%が、インタネット名制度の化は63.1%が成している。反する側の意見は予想通り、「表現の自由がなくなる」というものだ。「ネット上での攻で自殺がいたのはとても悲しいことだが、それを理由に政府がネットを封じめようとしている」と反している。


 


 反意見が根いのは、サイバ侮辱罪導入のタイミングが微妙だからという理由もある。以前も書いたように、4月から7月まで全いた反政府デモがきっかけとなり、オンラインコミュニティ示板の書きみにむ政府がネットの規制化を打ち出していたところだったからだ。「自殺を前面に出して、ここぞとばかり規制化法案を通そうとしているのではないか」という反論が登場してもおかしくはないタイミングだったのだ。


 


 


■自作用はくのか


 


 注目すべきことは、ジンシルさんの自殺をきっかけに、ネットに質なコメントを書きんで自分のストレスを散したり、鬱憤を晴らしたりしていた人たちが、ポタルサイトや彼女のHOMPYに「本に申しなかった」と反省の言葉をしていることだ。また、ネットの書きみのスタイルにも化が見られるようになった。とにかく相手を褒めながらチクリと批判するという、相手の意見に配慮した書きぶりである。自作用がきだしたといえるかもしれない。


 


 サイバ侮辱罪の議論は今後もく。1日訪問者30万人以上のポタルサイトだけに適用されていた名制度を10万人以上のサイトにも大する、IDではなく名を表示させる、といった情報通信法改正案は11月にも国会を通過し、導入される見みである。


 


 ジンシルさんの自殺は泥沼態の韓ネット社を象する事件となった。そんな存在にならなくてもよかったのに。母親として娘として女優として、もっと長く私達のそばにいてくれてもよかったのに。ご冥福をお祈りします。


 


 


 – 趙 章恩  

NIKKEI NET  
インターネット:連載・コラム  
2008年10月14日
 


韓国 モバイル液晶の出荷3億台突破

三星電子、ノト向けワイド液晶開


 




【ソウル】三星電子はノトパソコン向け液晶プレミアム製品として169比のワイド液晶とアクティブLEDバックライトを搭載した液晶を開した。



 今回開
された169比の16.0インチと18.4インチの液晶がノトパソコンに搭載されれば、ハイビジョンコンテンツをより一層果的にしめるようになる。


 


 WindowsVistaの発売と無線LANインフラの達に伴い、最近のノトパソコンはエンタテインメント目的の利用が急しているため169比が映像コンテンツを最も果的に活用できるという点から、需要が大している。ブルレイやHD DVD、ゲム、映鑑賞、デジタルTVなどが169比で製作されているからでもある。


 


 三星電子はこのような傾向にいち早く対応するため、同社自のASG(Amorphous Silicon Gate)と色再現の技術力を土台に、プレミアムノトパソコン市場を狙った169比液晶を開した。


 


 16.0インチハイビジョン液晶では、同じ169比の映像を出力した際、存の1610の15.4インチ液晶よりも14%大された映像を鑑賞できる。それだけではなく、一般的に40-50%水準にすぎないノトパソコン向け液晶の色再現性を各最大90%まで引き上げて、液晶TVに次ぐ豊富なカラを表現できる長所もある。


 


 このほか、これら液晶製品は800:1明暗比、8msの答速度、26万2144色などの機能を揃えている。


 


 三星電子はまたホワイトアクティブLEDバックライト技術を適用した15.4インチ液晶を開し、超低消費電力にスリムなデザインを適用させた製品を公開し、ノトパソコンの使用可能時間を格段に高めている。


 


 三星電子の中小型(モバイル用)液晶は事業開始から6年を迎え、韓では初めて累計出荷3億台を突破した。日本企業より10年以上く中小型液晶事業を始めたが、6年という短い期間で急成長を遂げ、市場をリドするようになったと自負している。



趙章恩(チョウ
チャンウン=ITジャナリスト)


 


 BCN This Week 2007年11月12日 vol.1211 載] Link


 


 

韓国半導体市場 紙のように薄いディスプレイ

三星SDIがAMOLED量産を開始



月間150万台規模は世界初


 


 


 【ソウル】三星SDIが、AMOLED(アクティブマトリックス型有機光ダイオド)量産体制に突入、「夢のディスプレイ」時代を切り開いた。AMOLEDは液晶ディスプレイ(LCD)やプラズマディスプレイ(PDP)とは違い、厚さが紙のように薄く消費電力が少ない。しかも自然色を完璧に表現してくれるため、次世代ディスプレイとして脚光を浴びている。三星SDIによる月間150万台規模の量産化は世界初となる。


 


 三星SDIはソウルから2時間ほど離れた天安(チョナン)事業場A1ラインで、9月から月150万台規模のAMOLEDの量産をスタトさせた。このA1ラインを通じて生産されるAMOLEDは、2.0、2.2、2.4、2.6、2.8インチなど携電話と小型デジタル情報機器向け製品。LG電子などが月10万台程度を生産しているが、今回のように大規模生産を始めたのは三星SDIが初めて。


 


 同社ディスプレイ部門のキムジェウク部門長は「2005年11月から4775億ウォンを投じて天安に4世代LTPS(低ポリシリコン)全面光方式で建設したA1ラインで、07年9月から730×920mmのガラス基盤を使って2.0インチのAMOLED生産を始めた。技術的に優位性のあるモバイル市場をまずは開拓し、ロドマップに合わせてTV分野に大する」と表した。大手携電話ベンダが年AMOLEDをメインディスプレイに採した携電話端末を3─4種ほど発売するため、商用化製品も相次ぐ見通しだ。


 


 生産が受注に追いつかないため、三星SDIはA1ラインの追加設投資も行う考えで、08年までに現在の2倍となる月産300万台、09年には5倍の750万台の量産化を目指す。07年には携電話とMP3プレ向けの2インチ台、08年には3.0─7.0インチ級の携端末用を、また09年にはノPCTV用の10─30インチのAMOLEDを発売していく計だ。


 


 同社は三星電子をはじめ日本、ヨロッパのメジャ電話ベンダAMOLED供給契約を結び、事業の大を推し進めている。現在、全り上げの34%を占めるブラウン管(CRT)の割合を2010年には14%まで減らし、その代わりにAMOLEDのり上げを20%まで引き上げる事業構造換をる計だ。


 


 LGフィリップスLCDとソニが競合していたAMOLED市場に、三星SDIが参戦して技術競も激しさをしている。ソニ07年末に11インチAMOLED TVを発売して市場をリドする略を推し進め、LG電子からAMOLED事業をり受けて市場に進入することになったLGフィリップスLCDは攻的なマケティングを示唆する。これら競合にして、00年から人材を積極的に確保し究所にLTPSパイロットラインを構築するなど連技術特許だけで国内2460件、海外420件と世界最大の特許を確保している三星SDIは「17インチまでのAMOLED TVを開発済みだ。ソニと比べて、技術は1年ほど先行している」と調している。


 


 調査社のディスプレイサチ社は07年のAMOLED需要を700万台とみており、2011年には1億1900万台に達し、年平均103%以上の成長を遂げると予測している。



趙章恩(チョウ
チャンウン=ITジャナリスト)


 


 BCN This Week 2007年11月5日 vol.1210 載]Link


 


 

五感を刺激する電子ブック、デジタル教科書で開花するか

2013年から韓国全土の初中高等学校では、「デジタル教科書」が使われる。

 教育人的資源部(韓国の文部科学省)は、2008年から2013年にかけて、全国各地から「デジタル教科書研究学校」を選定し、デジタル教科書を使った授業をモデルとして始める。2011年までは総額660億ウォン(約79億円)の予算をかけてデジタル教科書で授業を行う学校を100校にまで増やし、その後2013年にはすべての学校にデジタル教科書を導入する計画だ。


 学生にはタブレットPCと、それを操作するための専用のペンを配り、教室には先端の電子黒板が設置される。タブレットPC一台で教科書や参考書、ドリル、辞書、動画、アニメーション、仮想現実などを利用して授業を行うし、当然テストもタブレットPCで行う。こうしたデジタル化した授業を行うことで、自分のレベルに合った個別授業の実施、低所得層の教育格差の解消、移動通信や電子本関連産業の活性化、ゲームと映画に偏りすぎているデジタルコンテンツ市場の多変化――などが期待されている。


 デジタル教科書を導入するに当たっては当然問題がある。例えば、マウスをクリックばかりしていると筆記能力が落ちるのは時間の問題であるとか、学生の健康を損ねる可能性が高いなど、デジタル教科書が持つマイナスの部分も見逃さないよう一部の人は要求している。これらももちろん問題だが、実はもっと大きな問題があるといわれている。それは、技術でもなければ教育でもない。教師に問題があるというのだ。子供たちはすでにパソコンに慣れているのだが、教師はデジタルに慣れておらず、“アナログ”な教師をデジタル化する研修だけで莫大な予算が必要とされているというわけだ。


 このようなデジタル教科書の研修を兼ねた、電子書籍の大衆化を目的とする電子出版展示会が11月23日に開かれた。そこで話題になったのは、光州(クァンジュ)科学技術院文化コンテンツ技術研究所が開発した次世代電子ブック「デジログブック」。


 韓国初というこの電子ブックは、仮想現実(Virtual Reality)と対となる概念である、拡大現実(AR:Augmented Reality)を基盤として設計された「実感相互作用型ユビキタスブック」という、とっても難しい名前を持っている。3Dを利用しつつも、本に書いてあることについて手で触れたり、においを嗅いだり、音を聞いたりしながら読めるというように、電子ブックの使いやすさと、紙の書籍のアナログ的感性を合体させた感じの新しい概念の電子ブックである。3Dのバーチャルリアリティをより現実的に再現したものとでも言ったところだろうか。例えば、韓国の美しい鐘を紹介しているなら、実際の模型を3次元モデルで見ながら音も聞けるし、花の説明が書いてある本なら、花の香りがしたり花びらが立体的に揺れる姿が見えたりする。


 デジログブックは、教育と娯楽を同時に提供するエデュテイメント分野はもちろん、広告や販売促進など多様な分野に応用できるものと見られている。デジログブックは今後3年間、文化コンテンツ振興院から7億5000万ウォン(9000万円)の支援を受けて、商用化を目指すことになる。

電子ブックやディスプレイに関しては別の展示会もあった。11月29日から12月1日まで情報通信部(韓国の総務省のような中央省庁)の主催で開催された「2007次世代コンピューティング産業展示会」では、着ているだけでその人の健康状態をチェックしてくれる「バイオシャツ」の技術をはじめとする6つの次世代コンピューティングの核心部分と言える技術をETRI(韓国電子通信研究院)が展示した。この中でも注目されたのがフレキシブル(Flexible)ディスプレイ。電子ブックの基礎となる技術でもある。

 大手企業のLGフィリップスは、液晶分野でフレキシブルディスプレイを次世代の成長分野として選定し、早期商用化に向け研究を急いでいる。フレキシブルディスプレイは丸めたり曲げたりできる液晶。基板が薄くて軽く、しかも壊れないという特性を持っている。同社はフレキシブルディスプレイが電子ブックや、リアルタイムで中身を確認できるスマートカードなどに限らず、テレビ、ノートパソコン、携帯電話などすべてのディスプレイが必要な製品に適用できると期待している。同社が最近開発したAMOLED(アクティブ・マトリクス型有機ELディスプレイ)を利用した15型フレキシブルディスプレイは商用化を目前に控えている。加工に320度以上の高温が必要だった製造工程を150度以下に下げる技術を開発し、生産単価を劇的に減らせることに成功した。14.1型で折り曲げられるカラー電子ペーパー型の電子ブックの試作品を年内に商用化するのに注力している。


 三星電子も負けてはいない。同社は2007年5月に米国で開催された「国際情報ディスプレイ学会および展示会」(The Society for Information Display;SID)で世界最大規模の40型白黒電子ペーパーとA4用紙サイズのカラー電子ペーパーを初めて公開した。その後、8月には解像度を大幅に高めた14.3型の白黒電子ペーパーも公開された。これはQXGA(2048×1536)クラスの解像度を持ち、既存の白黒電子ペーパーよりも解像度を3倍以上に高めたもの。また既存製品の最も大きな問題点と指摘されていた壊れやすいという点を大幅に改善した。厚さ0.3!)、重さ20g以下で半径15!)まで曲げられ、紙のようにどの角度からもでも見やすく、180度の広視野角を実現した。


 市場調査専門機関のディスプレイサーチは、300万~500万ドル程度だった今年のフレキシブルディスプレイの市場規模が、2010年には7億6600万ドルにまで拡大すると予想している。


 デジタル教科書という目に見える目標ができたことで、韓国でのディスプレイや電子ペーパーの開発が活気を帯びるようになった。教科書という形でさまざまな技術が一つにまとまっていくのを眺めるのも楽しいものだ。



(趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2007年12月5日 

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/NPC/20071205/288747/

大手ポータルが注目するマッシュアップは大きなうねりを巻き起こすか

韓国で最王手のポータルサイトであるNAVERと、2位のDAUMがタッグを組んだ。Web開発の人材を確保するという共同の目的のためだ。そこでのキーワードは「マッシュアップ」である。

 NAVERとDAUMは、Web開発の人材確保、マッシュアップのベースとなるWeb APIの利用拡大、Web業界の発展などを目的に「2008大韓民国マッシュアップ競進大会」を2008年2月に共同で開催する。この大会には、Yahoo! Koreaや韓国マイクロソフトなどといった、韓国の名だたるインターネット企業も参加する。大会入賞者には賞金と商品はもちろん、NAVERやDAUM、韓国マイクロソフトなど大会をサポートする企業が採用する際に“優遇”されるという特典付き。就職難で就職環境が厳しい韓国では見逃せない大会でもある。


 マッシュアップとは、企業などが提供しているさまざまなサービスやコンテンツを組み合わせて、まったく新しいサービスやコンテンツを生み出すことだ。米国では、GoogleやYahoo!、MSN、Amazon、eBayといった代表的なサイトがマッシュアップを実現するために必要なWeb APIという仕組みを公開しており、個人や企業がそれを使ってマッシュアップサイトを作れるようにしている。Web APIとは、Webの技術を使って、サイトから必要な情報を簡単に取得する仕組みのことだ。すでに、Google Mapsを利用した不動産サイトや、UFOを見かけた地点をマーキングした地図サイトなど、数百を超えるマッシュアップサイトが生まれている。


 とまあ、これだけだと具体的にイメージしにくいかもしれないので、1回目の大韓民国マッシュアップ競進大会で大賞を受賞したマッシュアップサイトを簡単に紹介してみたい。それは、「英作文お助けサイト」。英作文をして「検査」ボタンをクリックすると、韓国グーグルが公開しているWeb APIを使って、その文章がどれほど頻繁に使われている表現なのかを判断し、英作文の妥当性を評価してくれる。また、NAVERとDAUMの辞書用のWeb APIを利用した、単語や慣用句の検索機能を備えている。英作文に必要な機能がすべて一つになった実用性の高いマッシュアップサイトである(詳しくはhttp://mashupkorea.com/gallery.htmlで見られます。ただし韓国語のみです!)。来年の第2回目では、韓国内だけでなく海外で公開されているWeb APIも利用できるように条件が緩和されたことから、参加者の増加はもちろん、より多様で創意的なマッシュアップが登場すると期待されている。

NAVERとDAUMのマッシュアップへの力の入れようは相当なもの。両社は11月29日に開催される「SOFTEXPO」でマッシュアップに関する相談受け付けや情報を提供するためのブースを運営するし、続く30日にはマッシュアップに関する講演を中心にした「マッシュアップコンファレンス」も開催する。年が明けて1月には「マッシュアップキャンプ」を実施し、実習の機会をユーザーに提供するという。NAVERは韓国で最初にWeb APIを提供した企業だし、DAUMは2007年10月にWeb APIを利用したマッシュアップサービスの企画を課題にアイデアを公募して、その結果を元にインターンとして採用する学生を選抜したこともある。


 NAVERはマッシュアップに力を入れる理由をこう話す。「Web APIの公開で得られる新たなビジネスモデルは限りなく多く、新しい市場を形成するようになるだろう。ユーザーがコンテンツとサービスを利用しながら製作にも参加する『参加と共有』の代表的な事例がマッシュアップではないだろうか。NAVERはオープンソースの活性化のために、国内外のオープンソースカンファレンスをサポートしている。マッシュアップ大会が韓国のWebを発展させる代表的なイベントになってくれることを望んでいる。」


 ただし、韓国内で圧倒的に多いのは、Web APIの公開によってシナジー効果を得られることを期待するサイトよりも、技術力と競争力を盗まれたり商業的に悪用されたりするだけなのではないかと心配し、Web APIの公開を拒んでいるサイトの方だ。公開はしていても、1日当たりの利用回数を制限したり、事前に登録した人だけが使えるようにしたり、有料で公開したりするところもある。Web APIの公開に積極的なNAVERでさえも、商用利用を許可していないし、非商用利用の場合も1日当たりのアクセス数を制限しているほか、NAVERのサービスを利用していることを明記しなければならないという条件もある。


 また、Web APIを利用するユーザーの立場から見ると、マッシュアップサイトを作るにはパソコンやWebの知識を持ち合わせていないといけない。それなりのスキルが必要なので、しきいが若干高いのは確かだ。


 このように、賛否両論あるし、使うにはまだ制約があるのも事実だが、ユーザーの立場から見て「これは使えるぞ!」というマッシュアップサイトが米国を始めとして世界中でどんどん生まれていることから、韓国でもユーザーが好きなように応用できる開放型ポータルサービスがどんどん広がっていくと予想されている。また、環境問題を改善するために資源のリサイクル運動が行われているように、開発されたままで埋もれてしまっているWebサイトの価値を再び掘り起こす“Webのリサイクル”にも使える。Webの再誕生とも言えるマッシュアップは、オープンソースと並んでWeb 2.0に新たな風を吹き込みそうだ。



(趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2007年11月28日 

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/NPC/20071127/288115/

時代に逆行? 3Gから2Gに乗り換えるユーザーが増加

日本より遅れて第3世代(3G)の携帯サービスが始まった韓国。着実に加入者は伸びていて、2008年からは新規端末のほとんどが3G対応になり、第2世代(2G)端末はもう発売されないのではないかとまで予測されていた。ところが、3Gから2Gに“回帰する”加入者数も少なからず増加しているというデータが発表されて、通信キャリアーとベンダーをアっと驚かせた。

 2007年12月17日に発表された韓国通信事業者連合会の資料によると、今年、ナンバーポータビリティーを利用して通信キャリアーを変更したユーザーは12月12日時点で全加入者の5分の1に当たる846万人。年末までには880万人に上ると推測されている。この内、2G端末から別の2G端末に乗り換えた加入者が609万人で過半数を占めた。


 残りは、2Gから3Gに、あるいは3Gから2Gに乗り換えた加入者で、その数は237万3000人。ここで話題になったのが、3Gから2Gに「逆移行」した加入者数が増えていることだった。移行者に占める割合としては少ないとは言え、12月12日時点で9万 6000人、年末には10万人を突破しそうな勢いなのだ。面白いのは逆移行する加入者数の推移で、8月と9月までは約1万 2000人に過ぎなかったのが、10月単月で約1万 7000人、11月も単月で約2万 800人が逆移行しており、どんどんと増えている。


 WCDMA/HSDPA事業者であるKTFの関係者は「3Gから2Gへの逆移行は一時的な現象にすぎないだろう。3Gの加入者の増加率を見る限り、逆移行するユーザーはこれから減少するに違いない」と強気の姿勢を見せている。しかし、モバイル同好会らは、テレビ電話の需要喚起や通話品質に対する不安解決などが行われない限り、3Gの市場拡大は遅れ、2Gと3Gの共存期間が長くなると分析している。

3G端末の売りの一つであるテレビ電話機能に対する需要の少なさを物語る、笑えないエピソードがある。最大手通信キャリアーのSKテレコムは「テレビ電話完全征服」というシリーズ物のテレビ広告を流している。「子供に風邪を引いたと嘘の演技をさせ、それを上司に見せて会議を抜け出し嬉しくて踊りだすお母さん」という設定だ。


 それをテレビで流したところ、とたんに全国の働くお母さんから「子供が急に寝込んだりして早退しようとしても上司が信じてくれなくなるじゃないか」「働くお母さんをバカにするな」といった苦情が殺到した。単に笑いを取ろうとしたにせよ、「テレビ電話は嘘をつくために使えます」という広告は、公共性の高い通信キャリアーにふさわしくないものだろう。それとも、少ない需要を喚起するために、“テレビ電話はこんなことにも使えます”と本気で言いたかったのだろうか。


 3Gの通話品質についても不安がある。2Gから次世代の3Gになれば、通話品質がよくなって当たり前だと思うのだが、加入者を不安にさせる事故が相次いでいる。KTFとSKテレコムは2007年に首都圏一部地域でサービス障害を2度も起こし、3Gの加入者だけが音声通話もショートメッセージも使えなくなって、パニックを引き起こしたことがあるのだ。


 3G端末に対する「購入補助金」の減額措置も、2G端末にとっての追い風になっている。3G端末には従来、2G端末の購入補助金の約2倍の額が通信キャリアーから支給されていたのだが、この11月からは2G端末と同額に減額された。3G端末は、新規加入の場合ならば日本の1円端末のように“1000ウォン端末”などの格安端末が出回っているが、購入補助金がないと2G端末よりも高くて60万~70万ウォン(8万~9万円)はする。加入者にすれば、移行するなら3G端末よりも2G端末の方が安く済む。


ただ、3Gが魅力的でないという理由だけで、ユーザーは2Gを選んでいるわけではなさそうだ。冒頭の数字にも表れている通り、2Gを利用するユーザーはいまだに多い。この市場を通信キャリアーやベンダーが逃すわけがなく、3G端末に負けない魅力的な2G端末を販売している。この点がユーザーの背中を押しているのも理由の一つだろう。


 三星電子は、欧州市場で高い人気を誇っている500万画素カメラ付きのスリムスライド携帯を2Gとして韓国でも発売する。イギリスの「モバイルチョイス消費者大賞2007」の最高賞である「今年の携帯電話(Phone of the Year)」を受賞した端末でもある。既存の分厚い高画素端末と比べると、スリムなデザインが特徴。むしろ製品デザインの面では3Gの500万画素携帯よりもかっこいいと評価されているほどだ。これをわざわざ2Gで売り出すというのは、まだ当分2Gの方が売れると見込んだからだろう。


 パンテックはこの夏に20万台以上を売った大ヒット端末、厚さ1cm未満の超薄「スキニーTV携帯」の後続モデルとして「スキニー2」を2Gで新しく発売する。「スキニーTV携帯」は地上波DMB(デジタルマルチメディア放送、韓国版ワンセグ)に対応していたが、「スキニー2」は薄さはそのままで、より軽くするためDMB機能をなくし、その代わりに10万ウォン以上の値下げを行って買いやすくした。


 LG電子は3Gを大本命に定め、2008年の新機種のうち90%以上を3G対応にする計画で、2Gについては「音声通話と高画素カメラ機能さえあればいいというユーザーがいるのも確か。2Gではそうした隙間市場を狙った端末が中心となるだろう」としていたのだが、オーディオ業界の巨匠マーク・レビンソンが開発に参加して話題を集めた「ラプソディーインミュージック携帯」を2Gとして出荷することに決めた。3Gが主流といいながらもユーザーの注目を集めそうな端末を2Gで発売するとは、やっぱり2Gの需要がまだ多いということなのだろう。


 日本より所得は少ないのに、日本と比べると携帯電話端末は高くて通話料は同程度と、韓国の家計の中で携帯電話の料金が占める割合の多さは、年々負担となっている。今の半分ぐらい、せめて5万円ぐらいで機種変更できる3G端末があるといいのに。「値段の高い端末を持っている=品格高い、かっこいい」という公式が崩れない限り、端末の値段は安くならないかもしれないな。
(趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2007年12月19日 

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/NPC/20071219/289784/

携帯電話と環境汚染

 韓国西海岸の海で、韓国史上最悪の原油海洋流出事故が発生した。流出量もさることながら、政府が波の速度や方向を読み誤る人災もあいまって、事故発生後12時間で40kmもの海岸が黒い油だらけになってしまった。これを受けて12月19日に大統領選挙を控えている候補たちは、こぞって漁村を訪問し、生態系に与える損害を心配するそぶりを見せたり、油を取り除く作業に参加するふりをしたりするなど大忙し。


 だが、目に見える被害には慌てふためいても、原油流出と同様に人間の環境や生態に悪影響を与えている携帯電話の廃棄については大統領候補の誰一人として問題意識を持っていないようだ。


 現在、韓国では年間に2000万台の携帯電話が販売される一方で、年間1500万台も中古の携帯電話が発生する。環境団体は、これらがどのように処理されていて、今後環境をどのように汚染させてしまうのかについて知らせるキャンペーンを実施している。


 携帯電話には、水銀やカドミウム、焼却するとダイオキシンを発生させるポリ塩化ビニール、オゾンを破壊するブロム化合物といった有害物質が含まれており、ちゃんと廃棄せずに他のゴミと一緒に燃やされたりすると環境汚染が進んでしまう。前述の環境団体によると1999年以降に韓国で生産された1億2506万台の携帯電話のうち、8500万台が未回収だそうだ。この8500万台に含まれている鉛の量は実に22トンに上る。韓国国民4800万人が120日間飲める水を汚染できるだけの鉛だと言う。


 韓国で捨てられている端末の7割は机の引き出しの中に埋もれているか、家庭のゴミとして分別もされずに捨てられている。回収されているのは3割程度で、さらにその中で再活用されるものはごく一部にすぎない。携帯電話を修理中の顧客に向けたレンタル端末として使われたり、中古端末流通業者によって中国や東南アジア、中央アジアに輸出されたりしてはいるが、ほとんどの端末は廃棄物として捨てられているのが現実である。


 しかも、捨てられている端末のほとんどが故障していない正常なもの。市民団体である「韓国緑色消費者連帯」の2007年7月調査によると、ソウル市民の4人に1人は3~6カ月に一度の周期で機種を変更し、5人に1人は家に2台以上の使わなくなった携帯電話端末を持っていると回答している。機種変更した理由は「故障したから」がもっとも多かったが、「新しいモデルがほしい」「製品の機能に満足できない」という回答も多かった。ユーザーの買い替え頻度の高さが、捨てられる端末数の増加に拍車をかけている格好だ。


 通信キャリアーやメーカーによる回収もあまり進んでいなかった。情報通信部によると、2003年~2005年の3年間に発生した中古の携帯電話は3870万6000台、このうち通信キャリアーが回収したのは1382万2000台で回収率は33.6%にすぎない。通信キャリアーには一定量の中古端末を回収する義務はなく、加入者が望む場合には無料で回収しなくてはならないというルールがあるだけだ。機種変更やMNP(番号移動制度)を利用する際に中古端末を返納すると1万~3万ウォンほど追加で値引きしてくれるのだが、それは加入者を他のキャリアーに取られないためのマーケティングにすぎない手法だし、金額が少ないためか積極的に参加するユーザーは少ない。また、メーカーについても、生産者責任活用制度(EPR)によって課せられている回収義務は生産量の16.5%にすぎないため、積極的に中古端末を回収しようとは思っていない。


 こうした背景から、通信キャリアーとメーカーは、お互い自分たちに回収の義務があるわけではないと言い張っている。メーカーは販売を担っている通信キャリアーの代理店で回収すればいいと主張し、通信キャリアーは回収・廃棄については法律で製造者が責任を取るようになっていると主張している。某大手携帯電話端末メーカーは、環境団体の回収義務を果たしていないという抗議に対して「環境汚染の恐れがある中古端末を家庭のゴミとして捨てる消費者が悪い」と開き直っていた。


 そこで、これまで携帯電話の回収は通信キャリアーとメーカーの両者が責任を持って行うべきとしていた情報通信部は、中古携帯電話の回収率を高めるため、通信キャリアーと大手スーパーマーケットと共同で「寄付フォンキャンペーン」を実施している。11月~12月の2カ月間にわたり、全国1000以上の小中高校、大型スーパーの「E-Mart」に中古端末の回収箱を設置し、E-MartではSK株式会社のポイントサービス「OKCashbag」で端末1台当たり1000ポイント(現金1000ウォン相当)のポイントを、学校では自分の携帯電話からショートメッセージを100件無料で送信できる商品券をそれぞれ贈呈している。さらに抽選でノートパソコンや自動車もプレゼントする。SKテレコムによると、全国の学校を中心に2カ月の間に13万2500台もの携帯電話が回収できたという。


 回収された中古端末は、廃棄専門業者に1台当たり350~1000ウォンで販売され、それによって得られた収益は貧しい人々のために全額使われる。廃棄専門業者に渡された携帯電話からは、重さ100g当たり3gほどの金銀銅やコバルトといったお金になるレアメタルが出てくるという。しかし、お金になる金属といっても450ウォン程度で、廃棄費用が600ウォンなので赤が出てしまう。そこで差額はベンダーが環境基金という名目で穴埋めしてくれるのという構図だ。その一方で輸出となると得られる収益は大きい。中央アジアでは韓国製の中古端末が大人気で、1台2000~1万ウォンで買ってくれるそうだ。情報通信部が目標にする回収台数は10万台で、1億ウォンほどの収益金を集め寄付できると予想している。


 筆者も1996年に韓国で発売された武器のように黒くて重くて分厚い端末を記念にとってある。今思うとよくこんなものをかばんの中に入れて歩いたものだと感心するが、初めてこの携帯電話を買った日は、それは嬉しかった。その思い出を忘れたくなくてずっと引き出しに入れたままになっているが、他の人も同じように思い出のある中古端末だから回収に出さないのかな? 引越し間際になって燃えないゴミで捨てるより、ちゃんと回収して環境保護に役立つとしよう。もうちょっと景品が多かったら、すぐにでも回収キャンペーンに参加するのにな~


(趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2007年12月12日 

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/NPC/20071212/289309/

花より団子?ちょっとした商品を携帯でプレゼント

最大手の通信キャリアーであるSKテレコムの子会社、SKコミュニケーションズは、相手の携帯電話の番号さえ知っていれば、その人に「品物」をプレゼントできるSMS(ショートメッセージサービス)を利用した「ギフティコン」というサービスを提供している。

 ギフティコンとは、「ギフト」と「イモティコン(emoticon、笑ったり泣いたり感情を表現するアイコン)」の造語で、携帯電話へSMSでイモティコンと一緒に送信されるプレゼント引換券を指している。携帯電話の番号さえ知っていれば相手に商品をプレゼントできるというサービスだ。


 プレゼントを贈る人は、贈りたいプレゼントを選択し、その引換券をSMSで相手に送信する。プレゼント料金は自分の携帯電話料金に合算請求するかクレジットカードで決済するかを選べる。合算請求だと月に20万ウォン(約2万5000円)まで使える。SKテレコムだけでなく他の通信キャリアーの加入者でも24時間利用できる。


 プレゼントをもらう人は、SMSのメッセージを確認し、引換券をダウンロードすると、バーコード付の画面が登場する。その画面を店舗で見せるだけで商品がもらえる。ダウンロードのためのデータ通信料は無料だ。引換券付きのSMSを間違えて削除してしまっても、まだ商品に引き換えていなければ、3回までSMSを再送信してもらえる。引換券の有効期限はSMSを受信してから60日だ。携帯電話が古い機種で引換券をダウンロードできない場合は、SMSで引換券の番号と有効期限を送信してくれる。




ギフティコンはいわゆるモバイル電子商品券の一種だが、500円、1000円という具合に使える金額が決まっているよくある商品券ではなく、「セブンイレブンのおにぎり1個」「スターバックスの、今日のコーヒーのショートサイズとチーズケーキ」といった引換券になる。日本でも、日本テレビとNTTドコモがワンセグのデータ放送波に電子商品引換券を流すマーケティングツールを紹介しているし、高級チョコレートのゴディバもモバイルサイトで配布するクーポンと引き換えにチョコを無料でプレゼントするキャンペーンを実施したことがある。同様に、ギフティコンを韓国の業者がマーケティングのためクーポンのように無料でばらまくために使うこともあるが、それよりも個人間のプレゼント用のツールとして広く使われている。


 プレゼントできる商品は2007年末の時点で約70個あまり。スターバックスやセブンイレブン、ハーゲンダッツ、ロッテ製菓、サーティーワンアイスクリーム、バーガーキング、MAXムービー(映画館チケット予約)、エチュード(化粧品)、STCO(衣類)などの商品がある。SKコミュニケーションズによると、「日本円にして600~700円前後のものがよく売れているが、年末にかけてネクタイや化粧品、花束引換券のように高額の商品もかなり売れた。コンビニやお店で買うより20%ほど安く購入できるように設定しているため、自分用にギフティコンを購入するユーザーも増えている」そうだ。


 メッセンジャーでチャットしながら「残業ご苦労様、夜食プレゼントします」とピザをギフティコンで送信したり、遠距離恋愛のカップルは「今からコーヒー飲みに行くけど一緒に飲まない?」とコーヒーをギフティコンで送信したりと、使い方は色々だ。出会い系チャットサイトでも気に入った相手にちょっとしたギフティコンを贈ったり、忙しくてなかなかデートできないカップルが離れていながらも思い立った時にプレゼントができるので喜ばれている。宅配は最低でも1日かかってしまうが、ギフティコンなら遠くにいる相手にも今すぐプレゼントを渡せるところが人気の秘訣とも言える。


 2006年12月SKコミュニケーションズが運営するポータルサイト「NATE.com」のインスタントメッセンジャー向けサービスとして初めて登場したギフティコンは、「子供だましじゃあるまいし……」と、ビジネスになるかが懐疑的に見られていたりもしていた。実際、2007年1月の売り上げは5000万ウォンに過ぎなかったのだが、プレゼントする側にももらう側にも負担が少ないためか利用が急増。2007年8月の売り上げは6億ウォン(約7500万円)、9月の売り上げは9億5000万ウォン(約1億2000万円)と右肩上がりだ。利用顧客は20代が40%と圧倒的に多く、30代が17%、40代が8%、10代が2%の順となっている。ちなみに、最も売れている商品はスターバックスのコーヒーだそうだ。


 ちょっと前までは、メッセンジャーやネットで知り合った友達にはアバターの着せ替え洋服やHOMPY(SNSの一種、個人用ホームページ)をかわいく作るための壁紙・BGM・ポップアップアイコンなどやオンラインゲームでキャラクターを強くさせるためのアイテムといった仮想的なアイテムをプレゼントするのが流行っていた。最近は現実に戻ってきたというか、お茶やおにぎりなど現実社会で楽しめる、ちょっとした商品をプレゼントするのが主流だ。


 ギフティコンのキャッチフレーズは「愛してるって、言葉だけじゃ伝わらない」。これって物質万能主義に聞こえて個人的には気に入らないが、ビジネスモデル的には面白い。相手にこれを買ってほしいとねだれる機能もあり、ちょっとした感謝の気持ちや謝りたいことがあると、コミュニケーションの一つとしてギフティコンを贈ると場が和むためか人気を集めている。


 お歳暮やお中元という文化は韓国にもあるし、出張帰りにお土産を買ってきたり、義理チョコが“義務チョコ”になっていたりするのは日本と韓国にしかない文化かもしれないが、このようなちょっとしたプレゼントを贈りたいときに、便利に利用できるニッチマーケットとしてギフティコンはこれからも成長が予想されている。


(趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2008年1月9日 

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/NPC/20080108/290667/

携帯オンリーの楽曲で販売増を狙う動きが盛んに

先週、第3世代(3G)から第2世代(2G)へ乗り換える加入者が増えていることをお伝えしたが、今回は、「特別なコンテンツ」を携帯電話にプリインストールすることで端末の販売増加を狙うベンダーの競争がこの冬に目立っていることを紹介しよう。特別なコンテンツとは、携帯電話でしか聞けない楽曲のことだ。

 前回もお伝えしたように、LG電子は2G携帯で、オーディオ業界の巨匠マーク・レビンソン(Mark Levinson)が制作に参加した「ラプソディーインミュージック携帯」を発売した。モバイルに最適な音質を具現化したのが売りで、LG電子は「音楽はサウンドではなくエモーション(感情)」とし、現代人の必需品である携帯電話を利用し、手早く高品質な音楽を聴きたいとするニーズを満足させるために開発したと説明している。


 「ラプソディーインミュージック携帯」が話題になった理由はもう一つある。有名歌手7人のデジタルシングルアルバムを内蔵したことだ。5GBのメモリーを持つ音楽携帯ということをアピールするため、7人の歌手のニューシングルが収められてある。携帯電話の形をしたシングルアルバムとも言えるだろう。この新曲は、当分の間はこの携帯電話を買わないと聴けないが、3カ月後からインターネット音楽サイトで有料販売を開始する。


 新曲を提供した歌手の一人ソン・シギョンは「音楽を消費する環境の変化に伴い、これからは音楽をどこにどうやって保存するのかが課題になってくる。その一つとして、携帯電話は音楽アルバムにもなれるという発想の転換をしたにすぎない」と話している。携帯電話の中にしか存在しないシングルアルバムは「Rhapsody, The Soul of Sound」というタイトルで、歌手7人の「愛」をテーマにした7曲が収められている。バラード、ヒップホップ、ロック、オペラなどそれぞれ違うジャンルの歌手が参加しているのも面白い。三星電子や既存の携帯電話は歌手とのコラボというと10~20代をターゲットにしていたが、LG電子は10~50代までもカバーできる顔ぶれだ。


 「Rhapsody, The Soul of Sound」は携帯電話1機種のためのプロジェクトアルバムで、こうした動きが今後どれぐらい続くかは明らかにされてない。しかし、三星電子の携帯電話「Anycall」向けの広告「Anyband」に対抗する、広告とエンターテインメントが一つになった「Branded Entertainment Marketing」としてはかなり効果があったと評価されている。


 「Anyband」は、「Anymotion」「Anyclub」「Anystar」に続く、BoAを中心に若手アーティスト4人が登場するミュージックドラマ風の広告。広告であると同時にミュージックビデオ、着メロ、コンサートなどテレビ以外でもさまざまな形で活躍するプロジェクトバンドでもある。実際、11月末にはコンサートも開催し、広告に登場した曲を演奏した。三星電子の携帯電話Anycallの広告に登場する曲は、すべて広告のために作られた新曲で、その時代を代表する人気歌手が歌っている。正規のアルバムの曲ではないのに音楽チャートで1位を席巻するほどで、既存のCMソングとは次元が違う。Anybandでも、BoAと東方神起のシア・ジュンスがバンドを組むということ自体が話題になり、自然と広告価値を高めた。三星電子が企画、演出する新しいマーケティングとして他の業種もこれを真似ようとする動きが始まっているほどだ。


 Anybandのメンバーの名前を付けた「BoA携帯」、「シア・ジュンス携帯」といった音楽携帯も発売された。BoA携帯には2つのBluetoothヘッドセットが付いており、友達と一緒に音楽を聴ける機能を持っている。シア・ジュンス携帯は高音質大型スピーカーが付いていてオーディオのように機能するのが特徴だ。


 三星電子は、MP3プレーヤーでも、ブランドとエンターテインメント機能を合体させた製品を販売する。スペシャルエディションとして90年代を代表する大物アーティスト「ソ・テジ」が音源セッティングに参加し、未公開動画と未公開音源14曲を内蔵したMP3プレーヤーを1万台限定発売する。


 携帯電話や製品の機能があまりにも進化しているだけに、機能が素晴らしいのは当たり前。その上で何かユーザーを引き付ける魅力がないと選択してもらえないのはよく分かる。それにしても、手っ取り早く芸能人を利用するのはちょっとね~。もっと深みのあるユーザー分析をして、あっと驚くような面白いことを提供してくれることを期待していたのに残念だ。これ絶対買いたい!というような携帯電話になかなか出会えずにいるのは筆者だけではあるまい。










■変更履歴
本文中、「マーク・レビンソンは、トヨタの高級自動車レクサスのカーオーディオシステムを制作したことでも有名だ。」とありましたが、マーク・レビンソン氏はこのオーディオシステムの制作に関わっておりません。お詫びして訂正します。本文は修正済みです。 [2007/12/28 10:00]


(趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2007年12月26日 

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/NPC/20071226/290194/