プロゲーマーは芸能人より人気?

前回はプロゲーマーの徴兵問題を取り上げた。今回は、韓国におけるプロゲーマーの存在感の大きさを改めてご紹介したい。韓国のプロゲーマーは80年代に人気を集めた日本のファミコン名人とは全く違う存在だと思っていい。NYタイムズは2006年10月7日、オンラインゲームに熱狂する韓国の様子を紹介しながら、「イム・ヨファンのような有名プロゲーマーはニューヨークヤンキースのデリック・ジータのような人気者」、「韓国でStarCraftを知らないのはアメリカでプロフットボールチームのダラスカウボーイを知らないのと同じ」と報道した。(韓国ではデリック・ジータって誰?って反応だけど)

大手企業がプロゲームチームを運営


 9月現在韓国Eスポーツ協会に登録されているプロゲーマーは260人を超えている。大手企業がスポンサーとなっているプロゲームチームは11もある。三星電子は「カーン」、キャリアのSKテレコムは「T1」、KTFは「MagicNs」といったプロゲームチームを運営している。リーグ戦での優勝は企業の売上とイメージに直結する。このうち、プロチーム所属している選手は180人程度で、平均年齢23歳、年俸2億ウォン(約2500万円)は下らない。


 プロゲーマー企業の役員向けミーティングや大学で行われる特別講演の講師としても、その情熱と勝負に対する執念をテーマに話してほしいと引っ張りだこだ。デパートのチャリティーバザーでも芸能人よりプロゲーマーが特別招待されることが多く、小学生の間では医者と弁護士を追い越し、憧れの職業1位にまでなった。彼らは一日10時間以上も練習を重ね、ゲームを徹底的に研究し、パソコン用ゲームの開発にも参加している。


 プロゲーマーの人気を自治体の活気につなげようとするところも少なくない。釜山市は2004年世界大会であるStarCraft決勝戦を誘致し、 10万人の観客動員に成功した。オンラインゲーム都市というイメージも獲得できた。オンラインゲーム対戦専用競技場を設立しようとする自治体も多く、ソウル市は先月、韓国における秋葉原のような場所である竜山(ヨンサン)にオンラインゲーム競技場をオープンし、前回紹介した、プロゲーマー、イム・ヨファン選手の入隊前、最後のファンミーティング会場として公開した。


 プロゲーマー第一世代として歴史に残る人物となったイム選手は「プロゲーマーという夢を与えてくれた選手」として評価されている。「ゲーム狂いの引きこもり」、「オタク」、「社会的落伍者」といった偏見を跳ね返し、プロゲーマーの重要性を韓国のみならずアメリカ、ヨーロッパ、中国、台湾など世界に向けてアピールし、スターになった。彼の影響で所属チームのスポンサーであるSKテレコムは年間200億円(約25億円)の広告・マーケティング効果を達成しているとの分析もある。ファンクラブやキャラクター商品、出版物を入れると規模は更に倍増する。


次なるスター発掘へ


 7年間、韓国初、世界初の記録を更新し続けたイム選手は、「健康な体で軍に行ける私は幸せ者。軍を除隊して30代になってもプロゲーマーとして現役であり続けたい。大学院で勉強を続けプロチームの監督もやってみたいし、国産ゲームの開発にも携わってみたい」、「プロゲーマーほど競争が激しく自己管理が厳しい世界もない。私はゲームのために彼女と付き合うことも、大学生としての生活も諦めるしかなかった。これぞ自分が進むべき道と思った以上すべてをかけないと夢は叶えられない」とファンにメッセージを残した。


 オンラインゲーム業界では早速イム選手に次ぐスター発掘に取り掛かっているが、まだこれといった選手の名前は出て来ない。だが260人もいるプロゲーマーの中から新しいスターが誕生するのは時間の問題かもしれない。


 またStarCraft中心だったオンラインゲームのリーグ戦も韓国産ゲームであるNEXON社の「カートライダー」というレーシングゲームに広がっている。「カートライダー」はかわいいキャラクターのせいか小学生に人気のオンライン対戦ゲームなので、大会では小学校低学年の参加も目立っている。小学生がプロゲーマーなんて日も遠くないみたい。それなら徴兵問題もなく、長く選手としていられるからかえっていいかもしれない。




(趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2006年11月7日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/NPC/20061114/253553/

[Face] ジャパンインターネットビジネスコミュニティ ●会長 趙 章恩 (2001年10月22日 掲載)

BCN This Week 20011022 vol.913 掲載
 


 




章恩 Cho Chang Eun


ジャパンインタネットビジネスコミュニティ●会長  章恩


http://www.kjibc.org/



 ●チョウ
チャンウン。●1974、ソウルまれ。●3から高校卒業するまで東京滞在。●98梨花大学英文科卒業同年、サムスン物産入社。●00、クラブワウ入社同年、ホンイク(弘益入社●012、『日本インタネットの収益モデルをがせ!』(ドナン出版)、017、『インタネットの!』(アスキ)をそれぞれ出版


 



 


ネットビジネスのIT事情のプロをめざす


 「日本のインタネットはとてもれていて、使っているもあまりいない」


 


 そんな国人先入一石じたのが、今年出版した『日本インタネットの収益モデルをがせ!』だ。題名内容刺激的なこのいたのは、当時無名のウェブ制作会社いていた、さんだ。今年には、日本語で『インタネットのめ!』を出版した。ブロドバンド回線普及が1000万世するともわれるいをいた。学卒業後一度大手企業就職するが、勃興してきたネットビジネスのせられるように退職した。


 


 「大企業のなかで、帰国子女ということがコネ入社みたいにわれ、づらかったのも。そこで窮屈いをするより、しい領域んだほうが意義がある」『め!』を執筆中は、ソテックのウェブを制作するため、めていた会社仲間たちと横浜んでいた。「りを見渡しても、日本とITにしい国人ないことを実感した」くてである。「将来韓国IT事情第一人者になりたい。『まずさんにいてみよう』とわれるようになりたい。そのためにはもっともっとしなきゃ」来年から修士課程する。


 


安藤章司取材・文Report&Text by Shoji Ando


清水丈司写真photo by Takeshi Shimizu


 
BCN This Week 20011022 vol.913 掲載]  Link

[Announcement] 新潟県IT&ITS推進協議会 ブロードバンド普及セミナーを開催

新潟県ITITS推進協議 ブロドバンド普及セミナ開催


本紙コラム執筆者 章恩さんが講演


 


 新潟県ITITS推進協議はこのほど、「IT先進・韓国ぶ~BB(ブロドバンド)事情うらおもて~」とするITフォラムを開催4まで本紙コラム「ソウルの街角から」をした趙章恩JIBC(ジャパンインタネットビジネスコミュニティ)会長(=写真)が基調講演最新IT事情などを紹介した。新潟県200311月末現在で、ADSLおよびCATV(ケブルテレビ)によるブロドバンド帯普及率19%にとどまっている。学官構成する同推進協議主宰する新潟県は、今年1に「新潟県ブロドバンドネットワ構想」をまとめ、05のブロドバンド普及率50%にめることを目指している。


 


 今回、そうした推進活動一環としてJIBC会長いて最新ブロドバンド状況について講演とパネルディスカッションをいた。基調講演JIBC会長は、「オンラインゲムで普及したブロドバンドネットワクは、えるまでになった」とし、4国総選挙では「個人のホムペジを候補者80%が当選した」など、インタネットが国政左右するまでになっているとった。また、のテレビがドラマの有料ネット配信収益げている実情や、新聞社有料紙面PDFファイル配信無料のニュ配信わせている事例えながら、では「自己顕示欲いので、ブログやHOMPY急速普及している」ことや、インタネットマンションの建設増加していることを紹介


 


 「では、ブロドバンドを使って『まず、やってみよう』というのが普通」と日常にブロドバンドが浸透しており、「ちゃんがまれるとわるかわらないうちにマウスをらせる。インタネットなしではらせない」などとユモアをえながら状況紹介した。パネルディスカッションでは、張鉉洙・新潟県国際交流員が、「新潟県てみて、ADSLんだが開通まで2週間かかっていた。ならば1利用できるようになる」と指摘した。


 


 また、李欣洙セコム上信越先任研究員はインタネットセキュリティのから、「インタネットの普及でネット犯罪増加している。プロバイダはユるだけでなく、ユ教育められている」と、普及とともに教育重視必要性えた。また、飯塚留美・国際通信経済研究所上級研究員は、でブロドバンドのコンテンツ配信普及している状況について、「テレビ発言力く、著作する意識う」などと文化いについて言及した。


 
BCN This Week 200467 vol.1042 掲載]  Link

「皇帝」イム・ヨファン入隊で浮上した「プロ」ゲーマー徴兵問題

韓国オンラインゲーム業界の生き証人、プロゲーマー「イム・ヨファン」選手が遂に空軍へ入隊した。イム・ヨファン選手は韓国では知らない人のいない超有名人、数々の広告に出演し、年俸は契約金だけで3年間8億ウォン(約1億円)、百科事典にまでその名前が掲載されている。

 1980年生まれでまだ26歳なのにすでにプロゲーマー暦7年、現在移動通信キャリア最大手であるSKテレコムのプロチーム「T1」に所属している。一時期スランプはあったものの、長い時間トップも守り続けた。身長180Cm、体重70Kgとほっそりした美少年が、表情一つ変えず一心不乱にマウスを動かし敵をとことん攻める勝負根性の強いゲームスタイルから男性ファンはもちろんのこと、サッカー選手や芸能人以上に女性ファンを抱える大物スターだ。ファンサイト会員数はそこらへんのアイドルより多い70万人、プロゲーマー初の2億ウォン年俸(約2500万円)、史上初StarCraft(対戦型戦争ゲーム)リーグ戦決勝進出10回といった華々しい記録の持ち主でもある。


徴兵免除を求め署名運動も


 入隊前の最後の試合となった第1回スーパーファイターズ大会には1万人の観客が殺到し、ネットとCATVのオンラインゲーム中継専用チャンネル3社から中継され、800万人以上が観戦している。オンラインゲーム中継は地上波の民放でも金曜日の夜よく放映される人気番組で、アナウンサー、解説者がまるでサッカーやプロレス、K1の中継のように、選手のマウスの動き一つ一つを中継し、各選手の特徴や戦略を解説する。解説者が解説の途中に立ち上がったり、怒り狂ったり、選手より自分が燃え尽きて最後には声が出なくなるという珍事も日常茶飯事だ。


 韓国国籍を持つ男性なら避けて通れないのが徴兵制。有名人だからといって例外はない。だが、イム・ヨファン選手の入隊はファンはもちろん、オンラインゲーム業界を巻き込んでの議論となった。


 サッカー選手はワールドカップベスト4、野球選手は金メダル、囲碁棋士は世界大会で優勝すれば徴兵が免除になるのに、韓国オンラインゲーム産業を支えるプロゲーマーたちは世界大会で何度も優勝しているのに、どうして徴兵を免除してもらえないのか、とファンを中心に署名運動が始まり、プロゲーマーを管理している韓国Eスポーツ協会も動き出した。一部では「戦争ゲームに強いんだから軍のスペシャリストとして活用すべきだ」、どいった「?」な意見まで登場し、オンラインゲームに詳しくない年配者までも「プロゲーマーとはそんなにすごい人たちだったのか」と関心を持つようになった。


 そこで妥協案として国防部が出した意見が、プロゲーマーを一般兵士ではなく「空軍電算特別技術兵士」として選抜するという案だった。「空軍電算特別技術兵士」になれば基礎軍事訓練後、空軍本部中央電算所に配置され、軍事用シミュレーションゲーム開発テスターとして活躍することになる。さらには、兵士たちのEスポーツ関連同好会に参加し、兵士達を楽しませやる気を沸き起こすとても重要な(!)役割を果たすことも期待されるというわけだ。


 プロゲーマーもスポーツ選手以上の人気と地位を獲得しているため免除対象にするべきという意見と、プロゲーマーまで軍免除の対象になるなら「サラリーマンだってインターネット検索は上手いぞ!プロゲーマーぐらいの電算技術は持っているはずだ!」と主張する意見が対立し、大騒ぎとなった。


 が、結局、イム・ヨファン選手は免除にならず空軍電算特別技術兵士として10月9日入隊した。


Starcraftがなぜ国民的人気を集めたか


 ここで韓国の徴兵制について簡単に説明すると、韓国男子は18歳~30歳の間に身体検査を経て、現役といわれる陸軍兵隊または区役所の雑務や地下鉄駅構内で酔っ払いを運び出し、満員電車の中に乗客をぎゅうぎゅう押し込む役割をする公益要員のどちらかで2年3カ月間軍人として生活することになる。産業特例要員といって工学関係の資格証を持つ人を対象にベンチャーや研究施設で3年間働かせる特別処置もある。もちろん健康でない人は軍を免除される。


 でも青春の2年3カ月を軍で過ごした恨みは想像以上で、学閥以上にどの部隊出身なのかは男性同士の重要な話題になっている。もちろん、履歴書にもちゃんと書かなくてはならないし、軍を除隊したか免除された人だけが採用対象になる。軍を免除された人は「神の息子」と憎まれ、仲間はずれにされるのがおち。自分が軍でどれだけ活躍したかホラを吹く男性は後を絶たず、軍の話になると自動的に「はいはい、あんたも海軍の特攻隊でタンクを自ら運転して北朝鮮を攻めたんでしょう」とうんざりする女性も多い。


 この国民のほぼ半数が持つ軍隊経験は他の国ではあり得ない事例を生み出した。StarCraftというアメリカBlizzard社の戦争ゲームの爆発的人気とStarCraft対戦のためにブロードバンドに加入し、ADSL大国になったことだ。


 StarCraftはそれぞれ武器や能力に特徴がある3つの種族「テラン」、「ジョグ」、「プロトス」から種族を選び対戦することになる。対戦相手はPCではなく、ユーザー同士となるため、勝負の進み方に決まったパターンがない。また戦争のためのマップを素早く把握し、敵がどこにいてどのような戦術で攻めてくるかを先回りしてキャッチした方が勝ちだ。グループでの戦いなので参加者同士のチームワークが当然、重要。


 つまり、同じチームを組んだメンバーにてきぱき指示を出し、ゲームを勝利に導ける、軍隊経験を自慢できるとっておきのゲームというわけ。 StarCraftの人気のお陰で子供の遊びとして扱われたオンラインゲームは韓国を代表する産業に成長し、まったく新しい職業である「プロゲーマー」を登場させた。


 ちなみにイム・ヨファン選手のニックネーム「皇帝」もStarCraftに由来する。彼がプロゲーマーの中では初めて、StarCaftの種族の中でもくせものである「テラン」を自由に操り勝利したことがきっかけだ。これを機に「テランの皇帝」と呼ばれるようになり、何度も優勝していることからそのまま「皇帝」がニックネームとなった。そんな彼は、ゲームの世界から軍隊の世界へとこれから2年3か月を費やすことになる。



(趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2006年11月7日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/NPC/20061107/252718/

ネットの「祭り」がリアルに炎上した韓国・抗議デモの事情

 ソウルでは、政府の米国産牛肉輸入交渉に抗議する「ろうそく集会」が50日以上も続いている。問題の発端は、韓国がBSE(牛海綿状脳症)対策で禁止していた米国産牛肉の輸入を段階的に認めると決めたことにある。BSEの発生率が高いとされる30カ月以上の牛肉の輸入を認め、BSEが見つかっても輸入を拒否できないという明らかに韓国側に不利な条件に、ネットを中心に激しい批判が巻き起こった。


■ネットから生まれたろうそく集会


 政府は「米牛肉は安全でBSEの心配はない」としきりにアピールしている。在米韓国人会の声だとして「米牛肉は安全でおいしく韓国料理にもぴったり!」などという宣伝まで新聞に載せた。


 そこへ「在米韓国人主婦の集い」と称する主婦団体が声明を発表した。「家族の健康を守る主婦として言いたい。決して米牛肉は安全でなくBSEの危険を抱えている。動物性飼料がまだ完全に禁止されておらず、非人道的で非衛生的な畜産環境も度々指摘されている。米国内でも米牛肉に不信を抱く消費者が多い。国民の健康を脅かす輸入交渉をもう一度考え直してほしい」という内容だった。







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韓国政府の米国産牛肉輸入制限の解除に抗議し、ソウル市庁前広場の集会に参加した大勢の市民=6月13日〔共同〕


 その前後から韓国のポータルサイト「DAUM」のブロガーニュースを中心に「米牛肉を食べると脳に穴が開く。輸入を止めなくては!」という過激な記事が登場し始めた。DAUMはポータルのなかで唯一、市民記者ともいえるブロガーが書いたニュースを既存マスコミのニュースと並べて表示している。マスコミのニュースもブロガーニュースも同じような比重で表示され、さらにDAUMの編集によってはブロガーニュースが初期画面の「今日のニュース」に登場することもある。


 韓国ではすべてのニュースに読者がコメントを書き込めるようになっていて、DAUMに掲載された政府の米牛肉輸入交渉に関する記事には次々と批判のコメントが書き込まれた。それはほかのポータルサイトやコミュニティーサイト、インターネット新聞などあらゆるサイトへと波及していった。記事1件当たりのコメント件数限度である4000件に達するほど反響を集めたブログニュースもたくさん登場した。



 政府は当初、このような国民の不安を「インターネットで怪談が出回っている」と矮小化し、まともに対応しようとしなかった。そこへ放送局のMBCが、欧米でBSEで死んでいく人々のドキュメンタリーを放映したことから、国民の不安が頂点に達した。


 政府はこれからの米国との安全保障問題、自由貿易協定(FTA)などの関係も考えた交渉だというが「国民の健康を売ってまで米国に媚びることはない」と、ビジネスマンやベビーカーを押した主婦、大学生、中高校生、芸能人までもがソウル市の中心部をろうそくを持って歩く抗議集会を始めた。


■警察の鎮圧も「生中継」


 ろうそく集会は2002年夏、米軍の装甲車に女子中学生2人が無残にもひき殺されたにもかかわらず、駐韓米軍地位協定により犯人が米軍に保護されるという事件が起き、2人の魂を象徴するろうそくを持って抗議したことから始まった。2004年、ノ・ムヒョン大統領弾劾反対の時もろうそくが登場した。そしてこれが3度目の大規模なろうそく集会となる。


 ろうそく集会が始まるまでの過程はいつものようにインターネットがきっかけで、とりわけ新しいところはない。しかしここからがいつもと違っていた。ろうそく集会の様子を、参加した多くの個人が個人放送局システムと無線LANやWibro(モバイル高速無線)、HSDPAといった高速ネットワークを駆使し、全国のネットユーザーに向けて動画で生中継したのだ。今やブログに掲載するより早く、この現場の勢いをありのまま、生でリポートできる個人メディアを多くの人が手にしているのだ。







 個人放送局の最大手「Afreeca.com」の報道資料によると、そうそく集会の生中継動画は100万人近い人々が集まったとされる6月10日だけで1357件が放送され約70万人が視聴、5月25日から6月10日までの累計では生中継動画1万7222件、視聴者数は約775万人に達したという。通常は平均60万人ほどが利用しているサイトなので、10倍を超えるアクセスだ。


 動画投稿サイト「PandoraTV」でも5月31日午後から6月1日までのわずか1日の間に1000件近い動画が投稿されたという。ソウル市内のろくそう集会に限らず、全国で開催されているろうそく集会を生中継し、保守団体の「ろうそく集会に反対する集会」までも生中継された。


 テレビカメラよりも早く、集会のすみずみまで映し出す個人放送の影響力は大きかった。保守勢力の一部といわれる新聞が「ろうそく集会は一部反政府組織が扇動しており、米牛肉輸入とは関係ない」といった報道をしても、ろうそく集会は続いている。



 警察による鎮圧や、女子大生が機動隊に頭を踏みつけられ負傷したこと、ベビーカーにまで容赦なく放水する警察の姿が生中継されたことで、さらに集会は激化した。個人放送局の中継動画に触発されて、もう黙ってはいられないと集会に参加したという主婦もたくさんみかけた。集会は過激になりすぎ、一部暴徒化しているとの報道もあった。


 ほとんどの携帯電話にカメラが付いていることから、警察が暴力を振るおうとすると一斉にカメラを向けて証拠写真を残したり、集会の参加者の顔写真を撮影する警察の顔写真を逆に撮影して「この人に気をつけろ」とブログに書き込んだり、ろうそく集会が始まった5月初めからポータルニュースもブログもコミュニティーも動画投稿サイトも個人放送局も、集会の様子を伝えるネットユーザーたちの写真、動画、書き込みで溢れかえっている。


■一気に進んだネット規制


 しかし突然、Afreeca.comの運営会社であるナウコムの社長が逮捕され身柄を拘束された。容疑は映画の著作権侵害。ナウコムが運営している個人放送局やストレージサービスから大量の映画ファイルが出回っているとして前々から捜査を続けてきたという。しかしネットでは当然、タイミングから考えて「逮捕は見せしめではないか」と猛反発が起きている。


 さらに、利用者数1位のポータルサイト「NAVER」がAfreeca.comを禁則キーワードにしていたことが発覚した。Afreeca.comのURLを持つ動画をニュースのコメント欄に書き込めないように遮断していたのだ。ポータルが中立を保てず政権寄りになっていると非難を浴びたが、NAVER側は「わざとではない。Afreeca.comを悪用したスパムが多すぎてそうしただけだ」と説明している。


 またさらに事態を悪化させたのは、6月16~17日にソウルで開催されたOECDのIT長官会議でイ・ミョンバク大統領が行った「インターネットの力は信頼が担保されていないと薬ではなく毒にもなりうる」という発言だ。ろうそく集会はインターネットの毒が生み出したものと受け止められかねない発言をしたのだ。







 大統領はその後「国民が嫌がることはしない」と特別会見を開いたり、「インターネット世論を人為的に統制しようというつもりはない」と釈明したりしたが、大統領のネット批判発言を受けて、ネットを規制する動きが一気に高まった。


 政府の放送通信委員会はインターネット実名制度を強化すると発表し、大統領官邸の青瓦台にはインターネット世論を担当する国民疎通秘書官が新設された。警察はインターネットの書き込みを専門的にモニタリングする組織を作ると発表し、検察はインターネット上に嘘の情報を流して社会的混乱を増幅させるサイバー犯罪に厳重に対処するとの方針を示した。


 さらに、文化体育観光部はネット上に特定の事項に関する書き込みが増えることを感知する事前警報特別チームを運営し、与党のハンナラ党も世論敏感度チェックプログラムというものを導入すると発表した。これでもか、というぐらいの素早さでネット統制を狙った対策を次々と発表したのだ。



 放送通信委員会は少し前まで、個人情報ハッキング、なりすましの問題が多発しているので、住民登録番号を使わない形で個人認証を導入したいとの方針を示していた。ところが大統領の一言で手のひらを返して、住民登録番号で個人を特定する強力な実名制度を導入しようとしている。実名制度を導入しても悪質な書き込みは減らないという研究結果はたくさん報告されているにもかかわらず。


 さらに、国民疎通秘書官として採用されたのは、ろうろく集会の発信源ともいえるDAUMの元副社長だった。DAUMの社長も政府の国家競争力委員会の民間委員として選任された。これでDAUMも政府の味方になるだろうかとも言われている。


■国民の本当の声はどこに







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混乱で政府人事を刷新した李明博大統領(手前)=6月24日、ソウルの青瓦台〔共同〕


 専門家らは、ろうそく集会を「アナログ政府とデジタル市民の激突」と論評している。ネット上に分散している個人が、自律しながらもつながることで力を発揮する。ネットの「毒」はユーザー同士がコミュニケーションを重ねるうちに自然に浄化されているのに、政府が人為的に統制しコントロールしようとすればこの循環を止めてしまう。政府が押さえ込もうとすればするほど陰湿な毒を生み出すだけと、過剰な統制案に反対している。


 著名な小説家であるイ・ムンヨル氏は「ろうそく集会は偉大ではあるがおぞましいデジタルポピュリズムの勝利。少数の意見がインターネットを掌握することによって世論とみなされ勝利を収めた。すべてをこんな方式で決定するとなれば本当におぞましく、とても不安で怖い社会になるだろう」と発言した。これでまたネットの議論が燃え上がっている。



 確かにコピー&ペーストを繰り返すことで、少数の意見を多数の意見のように作り上げることはできるが、双方向のコミュニケーションはそうはいかないだろう。ブロガーニュースとコメントと討論掲示板が循環することでインターネット世論は生まれているが、これをネットだからポピュリズムに終わると言い切れるだろうか。電話による世論調査だけが世論なのだろうか。


 政府はインターネットは特別な空間だから取り締まらなくてはと思っているようだが、ネットもオフラインも人間のいる場所は変わらない。いろんな情報のなかから自分の意思で判断して取捨選択しているし、違法なものは締め出されることが多い。


 一方的に押し付けられていたニュースや情報から開放され、自分から書き込んだり、その書き込みにまた反応してくれる人がいて嬉しくなったり、コミュニケーションしたがるのは人間の本能でもある。もちろんネチケット(ネット+エチケット)を守らなかったり、でたらめなことを書き込んだりといった問題もある。だからといってそれを政府の力で規制できると思っていること自体が危ないのではないだろうか。おしゃべりでストレスを発散するように、ネットでのやりとりの中で悩みを解消し、勇気付けられ希望を持てることだって多い。


 「毎年7%の経済成長、国民所得4万ドル、世界7大経済強国になる」という「747公約」で韓国の景気回復と豊かな生活の実現を描いて、イ・ミョンバク大統領は選ばれた。しかし、韓国銀行が発表した2008年の消費動向は2000年以来の低水準で、韓国経済研究院が発表した物価上昇率はIMF経済危機があった1998年以降で最高の5.6%、経済成長率は3.3%と典型的なスタグフレーション状態に陥っている。


 これは韓国だけの問題ではなく、大統領の責任というよりは外部的な問題が大きすぎた部分もある。しかし米牛肉問題から始まったネットでの政権批判は、いろいろな不満が重なり合い爆発した結果だ。


 まだ大統領に就任して4カ月ちょっとだというのにもう不満だらけというのも酷ではあるが、ある市民がテレビの討論番組で語った「CEO出身だから国民も自分の言う通り従う社員にしか見えないんじゃないの」という言葉の中に国民の不満が集約されている。国のためにやっていることは確かなのだが、一方的すぎるのだ。国民の声にもっと耳を傾けること。その国民の声はどこにあるかといえば、便利なネットに集まっている。


– 趙 章恩  

NIKKEI NET  
インターネット:連載・コラム  
2008/07/01  


Original Source (NIKKEI NET)
 
http://it.nikkei.co.jp/internet/column/korea.aspx?n=MMIT13000001072008&cp=1