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テスラに採用か、サムスンが車載向けイメージセンサーで攻勢
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韓国Samsung Electronics(サムスン電子)は2021年7月13日、車載向けイメージセンサー「ISOCELL Auto 4AC」を発表した。同社は18年、ドイツで開催された国際自動車部品展示会にて車載向けイメージセンサー「ISOCELL Auto」のブランド名を公開していたものの、製品自体を発売したのは今回が初だ。
サムスン電子のイメージセンサー事業はこれまで、市場規模が大きいモバイル向けを主力にしてきた。ここにきて、先進運転支援システム(ADAS)と自動運転の開発により車載向けイメージセンサーの市場が急成長していることからラインアップ拡大を決めたようだ。
ISOCELL Auto 4ACは、車内から外部の状況を確認できる、サラウンド・ビュー・カメラと前方後方カメラ用のセンサーだ。センサーサイズは1/3.7インチで120万画素。トンネルの前後など明暗差の大きな環境化でも映像を鮮明に捉えられる、サムスン電子独自の「コーナーピクセル(CornerPixel)」機能を初めて採用したセンサーでもある。
具体的には、暗い環境用の3.0マイクロメートル(μm)フォトダイオードと明るい環境用の1.0μmフォトダイオードを1つのピクセルエリアに配置することで、どのような環境でも映像を捉え、安全な走行をサポートするのが特徴だ。例えば暗いトンネルを抜けた時のように、急に明るくなっても映像に残像が残らず鮮明なHDR映像をリアルタイムで捉える。
センサーの露出時間を長めに調整することで、映像がちらつく「LEDフリッカー」現象も緩和した。LEDライトや信号から出る交通情報も認識しやすくなる。撮影された画像の画質を改善するイメージ・シグナル・プロセッサー(ISP)も内蔵した。
韓国メディアによると、サムスン電子のイメージセンサーは、北米の自動車メーカーの新型電気自動車(EV)に採用されたと報じており、それは米Tesla(テスラ)のEVトラック「Cybertruck」ではないか、というのがもっぱらのうわさだ。サムスン電子は、どの自動車メーカーに採用されたのか明かしていない。
サムスン電子システムLSI事業部センサー事業チームのチャン・ドクヒョン副社長は「ISOCELL Auto 4ACは長年蓄積したモバイルイメージセンサーの技術力に安定性の高い車載向け先端技術を組み合わせた画期的な製品」「今後サラウンド・ビュー・カメラや前方後方カメラだけでなく、自動運転やイン・キャビン・カメラなど車載向けイメージセンサーのラインアップを広げていく予定」とアピールした。
趙 章恩=(ITジャーナリスト)
<<NIKKEI X TECH>>
2021. 8.
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韓国が次世代電池覇権に3.8兆円投資、「K-バッテリー発展戦略」
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韓国政府は2021年7月8日、30年に次世代2次電池の分野で世界トップを目指す「K-バッテリー発展戦略」を発表した。「K-バッテリー、世界をチャージする」というキャッチフレーズのもと、韓国をグローバル企業が協力できる次世代電池の研究開発と製造の先導基地とする。K-バッテリー発展戦略に合わせて韓国電池メーカー3社と素材・部品企業は30年までに合計40兆ウォン(約3.8兆円)を投資する計画を明らかにした。
「半導体が頭脳だとするとバッテリーは心臓。電動化や無線化などといった産業の未来トレンドをリードする核心産業である」「バッテリーを第2の半導体へ確実に成長させ韓国の未来をつくる」「今後10年の投資が世界バッテリー市場での韓国を決める。圧倒的1位になるため官民の力量を全て注ぎ込む」――。韓国政府はK-バッテリー発展戦略についてこのように意気込んだ。
韓国政府による経済政策としては21年5月に公表した「K-半導体戦略」が記憶に新しい。現在の韓国経済の輸出を支える半導体に加え、電池分野は今後、飛躍的な市場拡大が予想される。韓国LG Energy Solution(LGエナジーソリューション)と韓国SK innovation(SKイノベーション)、韓国Samsung SDI(サムスンSDI)という韓国電池メーカー3社は現在、車載向け電池市場で約4割の世界シェアを占めるなど、既に世界で大きな存在だ。しかし電気自動車(EV)メーカーのバッテリー製造内製化の動きや、主要国のバッテリー自国内生産強化などが続き、これまで以上に厳しい競争が予想される。韓国政府は、バッテリー強国の立場をさらに万全なものにするため、今回の国家戦略をまとめたようだ。
K-バッテリー発展戦略では、2次電池の革新技術を国家戦略技術に指定し、研究開発費用の最大50%、施設の設備投資の最大20%を税額控除とする。次世代2次電池については25年にリチウム-硫黄(Li-S)電池、27年に全固体電池の実用化を進める。廃バッテリーの回収から再利用までの全過程にかかわる産業を育成する。
LGはバッテリー生産ライン増設などに約1.4兆円投資
韓国電池メーカー3社も、K-バッテリー発展戦略に合わせて積極的な投資計画を明らかにしている。
LGエナジーソリューションと親会社のLG Chem(LG化学)は、生産技術や生産ライン増設、先端素材技術開発、両極材の生産能力拡大に30年までに15.1兆ウォン(約1.4兆円)を韓国内に投資する計画を発表した。電池の主要材料である両極材については、年産6万t規模の工場を21年12月に韓国・九尾市につくる。これにより同社の両極材生産能力は20年の4万tから26年には26万tに増える。同じく主要材料の分離膜の強化についてはスピードを重視し、M&A(合併・買収)や合弁会社を検討しているという。両極材や陰極バインダー、防熱接着剤、カーボンナノチューブ(CNT)といった分野は研究開発費を先行投資し、技術の差別化を図る。
人材育成にも力を注ぐ。具体的には、「LG IBT(Institute of Battery Tech)」と呼ぶ次世代電池専門人材を育てる機関をつくる。この他、バッテリー素材ソリューションのポートフォリオ拡大と事業競争力強化のため多様な方策を検討していると明かした。LG化学は創業以来最大のイノベーションを巻き起こすとし、素材部門において数百人単位の公開採用を行った。資金確保のためLGエナジーソリューションの新規株式公開(IPO)も予定している。
LGエナジーソリューションの21年1~3月期の売上高は4兆2540億ウォン(約4040億円)、営業利益は3410億ウォン(約324億円)といずれも四半期で最高を記録した。EV向けバッテリー出荷の拡大と原価節減で収益が回復した。
ただ21年4~6月期はリコールによって赤字が予想される。同社は17年4月~18年9月まで中国で生産したエネルギー貯蔵装置(ESS)向けバッテリーに潜在的な危険要素が見つかったとして21年5月にリコールを始めた。リコール費用は4000億ウォン(約380億円)と想定される。もっとも21年7月以降は業績が回復しそうだ。半導体不足で減産していたEVの生産再開が、業績回復を後押しすると予想される。
趙 章恩=(ITジャーナリスト)
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2021. 7.
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ファーウェイ排除で躍進のサムスン5G基地局、Open RANで加速
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2021年6月28日から7月1日まで、モバイル業界最大級のイベント「MWC2021 Barcelona」(MWC)が2年ぶりに開催された。例年、スマートフォンの新機種発表で大きな注目を集める韓国Samsung Electronics(サムスン電子)だが、今回のMWCではオンライン出展でスマートウオッチのGalaxy Watchに搭載するOS「One UI Watch」を公開したのみ。スマホ新機種の公開がなかったことから、韓国では21年8月11日にサムスン電子がオンライン開催するスマホ新機種発表イベント「Galaxy unpack」の予告編と言われるぐらいで、例年よりも注目度は少なかった。
代わりにサムスン電子で目立ったのが、5G(第5世代移動通信システム)基地局などネットワーク分野だ。サムスン電子のネットワーク事業部はMWC直前の21年6月22日、単独オンラインイベントを開催した。「Samsung Networks : Redefined」をテーマに、基地局用の次世代チップ3種と次世代高性能基地局、5G仮想化基地局(vRAN)ソリューション、6Gに向けた投資状況などを発表した。
ネットワーク事業部社長(President, Head of Samsung Networks)のチョン・キョンフン氏は、「世界市場で400万台を超える5G基地局を供給した。強力な仮想化技術と20年以上独自にチップを設計した経験で速いスピードで成長している」「全てのモノと人をつなぐ超連結時代の加速化をリードする」と強調した。
韓国や日本、米国の通信事業者から続々と受注
サムスン電子のネットワーク事業は、世界の通信事業者から5G基地局を立て続けに受注するなど絶好調だ。18年には韓国のSK TelecomとKT、LG U+という3社、米国のSprint(スプリント、現T-Mobile US)とAT&T、19年にはカナダVideotron(ビデオトロン)と日本のKDDI、20年には米国のU.S.CellularとVerizon Communications(ベライゾン・コミュニケーションズ)、カナダのTERUS(テラス)、ニュージーランドのSpark New Zealand、21年にはカナダのSaskTel(サスクテル)、日本のNTTドコモ、そして英Vodafone(ボーダフォン)といった具合である。
中でも世界の通信事業者で売上高が1位のベライゾンとの契約は、66億4000万ドル規模(約7000億円)と、韓国通信装備分野における史上最大規模の単一輸出契約だとして話題になった。21年6月にボーダフォンから受注を決めたことで、北米とアジアが中心だったネットワーク事業を欧州にも広げた。
ボーダフォンとの5G基地局契約は、基地局設備をオープンなインターフェースでつないでマルチベンダー体制で導入できる「Open RAN」技術に基づいたものだ。ボーダフォンは欧州初という大規模な商用Open RANを構築予定であり、サムスン電子はNECなどとともにそのパートナーに選ばれた。サムスン電子は、その中核となるOpen RANに準拠した仮想化基地局(vRAN)ソリューションなどを納入する。
サムスン電子の仮想化基地局(vRAN)ソリューションは、汎用(はんよう)サーバー上でソフトウエアによる基地局機能を実現しながらも、ハードウエアベースの基地局とほぼ同じ性能を提供できるとしている。コンテナベースのアーキテクチャーを使用するため、ネットワークの効率的な管理と柔軟な展開を可能にするという。
趙 章恩=(ITジャーナリスト)
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2021. 7.
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サムスンがイメージセンサーで狙うソニー超え、業界最小を武器に
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韓国Samsung Electronics(サムスン電子)がイメージセンサーでソニーグループ(以下、ソニー)の牙城を崩そうとしている。サムスン電子は業界最小ピクセルサイズという5000万画素のモバイル向けイメージセンサーを新たに投入。積極攻勢をかけている。韓国メディアによると、現在倍近いソニーとサムスン電子のイメージセンサー市場のシェアの差が、今後5年以内に10%台に縮まるという見方も出ている。2030年にシステム半導体でも世界シェア1位を目指すサムスン電子にとって、イメージセンサーのソニー超えは避けて通れない道だ。
サムスン電子は21年6月10日、業界最小という0.64μmピクセルサイズで5000万画素のモバイル向けイメージセンサー「ISOCELL JN1」の量産を開始したと発表した。
イメージセンサーは、スマートフォン(スマホ)のカメラ機能に欠かせないキーデバイスだ。多数の画素で光を捉え電気信号に変換する。スマホのカメラ機能のほか、自動運転の“電子の眼”として車載分野でも今後、大きく伸びると期待されている。
ソニーが圧倒的首位を維持するイメージセンサー市場に、サムスン電子は世界最高レベルの微細工程を生かした小型化で挑む。新たに量産開始したISOCELL JN1は、同社が19年9月に公開したピクセルサイズ0.7μmのイメージセンサー「ISOCELL Slim GH1」よりもさらに小型化した。
センサーのモジュールの高さも従来比で10%薄型化した。スマホに採用した場合、本体からカメラ部分が突出するようなデザインにならないという。スマホ用の標準カメラのほか、前面カメラや望遠カメラなど幅広い用途に応用できるとする。
イメージセンサーの小型化は、スマホデザインの自由度を高める一方で、受光量の低下というデメリットがある。サムスン電子はその課題を克服する数々の新技術をISOCELL JN1に投入した。例えば「ISOCELL 2.0」と呼ぶ技術は、イメージセンサーのピクセル間の素材改良によって、従来比で光感度を16%向上したという。暗い環境では、隣接する4つのピクセル(0.64μm)を1つの大きなピクセル(1.28μm)として扱うことで、より明るい写真を撮影できる「Tetrapixel」と呼ぶ機能も活用できるようにした。
韓国では、21年8月にも製品発表と噂されるサムスン電子の新型折り畳み式スマホ「Galaxy Z Fold3」に、このISOCELL JN1が搭載されるのではないかと注目が集まっている。
趙 章恩=(ITジャーナリスト)
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2021. 6.
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韓国通信3社の無人携帯ショップ、本人確認のDX化も後押し
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韓国KTと韓国SK Telecom(SKテレコム)、韓国LG U+(LGユープラス)の通信3社が2020年後半から続々と開始した24時間365日営業の無人携帯ショップ。無人の携帯ショップ実現を、官民一体で進む本人認証アプリの活用などのデジタルトランスフォーメーション(DX)も後押ししている。
携帯電話を契約するには、犯罪防止などの観点から本人確認が必要だ。日本の場合、第三者が入手できない運転免許証やパスポート、マイナンバーカードなどを本人確認の書類とすることが多い。この本人確認が、携帯ショップの業務を無人化する上で一つのネックになる。
韓国では本人確認に使える身分証明書のデジタル化が進んでいる。韓国の通信3社は、これらの仕組みを活用し、手続きの手順を見直すことで24時間365日営業の無人携帯ショップを実現した。
例えば無人携帯ショップでセルフキオスク端末を操作する際の本人確認には、韓国で普及する「PASS」と呼ばれる本人認証アプリを利用する。PASSは、通信3社が共同で運用するサービスであり、通信3社と契約する利用者の携帯電話番号のデータベースを活用することで、本人認証できる仕組みだ。現在韓国では3000万⼈以上が利⽤している。20年6月からはPASSと警察庁運転免許システムを連動し、運転免許証の顔写真をPASSのアプリに表示し身分証として使うモバイル運転免許確認サービスも始まった。
PASSに登録していない利用者は、セルフキオスク端末に名前や携帯電話番号など個人情報を入力すると、入力した電話番号にSMS(ショートメッセージサービス)で暗証番号が送られてくる。この暗証番号をセルフキオスク端末に入力することで本人確認が完了する。韓国では、放送や通信に関する監理、許認可業務を担う放送通信委員会が、通信3社を本人確認機関に指定しているため、このようなスムーズな手続きが可能になっている。
なおSKテレコムは20年、韓国の⾏政安全部(部は省にあたる)と連携し、スマートフォン(スマホ)を使って家族関係証明書(旧⼾籍 )、住民登録謄本(住民票の写し)、出⼊国事実証明など各種証明書を発⾏し、アプリ経由で提出できるサービスも始めている。アプリ経由でこれらの証明書を提出できるためセキュリティーも高められる。
24時間365日営業の無人携帯ショップの登場によって、従来型の携帯ショップはやがて淘汰されてしまうのだろうか。
趙 章恩=(ITジャーナリスト)
<<NIKKEI X TECH>>
2021. 6.
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韓国通信3社が続々開始、24時間無人携帯ショップの実態は?
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1年以上続く新型コロナウイルスの感染拡大の中で、韓国の携帯ショップが激変している。韓国KTと韓国SK Telecom(SKテレコム)、韓国LG U+(LGユープラス)の通信3社が、24時間365日営業の無人携帯ショップを続々とスタートしているからだ。通信各社は、オンライン手続き後、スマートフォン(スマホ)とSIMカードを即日配送するサービスも強化している。韓国でいち早く進む携帯ショップのデジタルトランスフォーメーション(DX)は、オンライン専用プランの登場で曲がり角を迎えている日本の携帯ショップの今後も示唆する。
自動販売機からスマホが出てくる
韓国の通信3社の中で真っ先に24時間365日営業の無人携帯ショップをオープンしたのは、韓国の携帯電話シェア1位のSKテレコムだ。20年10月、韓国ソウル市内に「T Factory」という名前の無人店舗を設置した。
契約までの手順は以下の通り。まず店舗の入り口で、利用者の顔や携帯電話番号、氏名など本人確認をして登録する。以降は店舗に顔認証で入場できるようになる。顔認証と新型コロナウイルス対策の発熱チェックを同時に行う入場ゲートを通ると、人工知能(AI)が料金プランの相談や各種手続きを行うタッチパネル式のセルフキオスク端末が置いてある。
セルフキオスク端末を操作し、購入したい端末機種やカラーを選択。続いて機種変更/MNP(モバイル番号ポータビリティー)/新規加入という加入形態を選び、電話番号を確認。料金プランや端末代金の分割払いの回数、家族割など各種割引プランを選択する。最後にもう一度本人認証し、個人情報を確認して約款に同意すると手続きが終了する。セルフキオスク端末の隣にある自動販売機からスマホが出てくる。
SKテレコムのホームページにてオンライン経由でスマホやプランを契約し、T Factoryで受け取るといった購入方法も可能だ。新規加入もしくは機種変更の場合は、5分以内で全ての手続きが完了する。セルフキオスク端末は英語表示も可能であり、韓国に住む外国人の利用も増えている。利用方法が分からない時はセルフキオスク端末の「スタッフ呼び出し」ボタンをタッチすると、24時間いつでもスタッフとテレビ電話がつながり、韓国語または英語で対応してくれる。
韓国の通信事業者は、スマホの新機種が発売されると第1号契約者を盛大に迎えるイベントを実施する。コロナ禍において、その様子も様変わりした。SKテレコムは21年1月、韓国Samsung Electronics(サムスン電子)の新スマホ「Galaxy S21」発売時に、第1号契約者がT Factoryを訪問し、1人でセルフキオスク端末を操作して、自動販売機からスマホを受け取る様子をアピールした。
T Factoryには、VR(仮想現実)やAR(拡張現実)など5G(第5世代移動通信システム)を活用したサービスを体験できるスペースや、植物に囲まれたカフェなども併設されている。そんなT Factoryは、Z世代(90年代後半から12年頃に生まれた世代)から50代まで幅広い顧客が利用し好評という。
趙 章恩=(ITジャーナリスト)
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2021. 6.
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世界覇権へ先手、韓国が「K-半導体戦略」 49兆円投資
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韓国産業通商資源部(部は省に当たる)は2021年5月13日、韓国半導体産業の競争力強化を目指す国家戦略「K-半導体戦略」を発表した。30年に世界最高の半導体供給網を構築するというビジョンのもと、韓国Samsung Electronics(サムスン電子)など民間企業が合計で510兆ウォン以上(約49兆円)を投資する。21年5月21日に開催された米韓首脳会談でも韓国は、半導体と電気自動車(EV)向けバッテリー分野で米国と包括的提携を結んだ。現代の戦略物資といえる半導体の世界覇権に向けて、韓国が大きな一歩を踏み出した。
K-半導体戦略の発表の場には文在寅(ムン・ジェイン)韓国大統領も出席した。文大統領は「半導体産業は企業間競争から国家間競争の時代に移った」「半導体強国を目指し、政府も企業と一心同体になるべきだ」と説明。「世界で自国中心の供給網再編が始まり、激しい競争へと突入している。我々が向かうべき方向は明確だ。先制投資で外部の影響に揺るがないよう国内産業のエコシステムをさらに固め、世界の供給網を主導する。この機会を我々がものにすべきだ」と続けた。
K-半導体戦略は、19年に発表した「システム半導体戦略」、そして20年発表の「AI半導体戦略」に次ぐ韓国の半導体国家戦略である。その戦略からは、これまで以上に、韓国が世界の半導体強国になろうという本気度が見えてくる。
同戦略では、半導体設計から素材や部品、装備、製造に至るまで、韓国が半導体製造の中心地に躍り出るように、企業の連帯や協力の活性化、人材や市場、技術確保に至るまで力を入れる。その結果、韓国が世界の半導体需要に対応できる安定供給基地となることを目指し、半導体輸出を20年の992億米ドル(10兆8000億円)から、30年には2000億米ドル(21兆8000億円)へと倍増させる。
水や電気も、半導体関連のインフラ支援
K-半導体戦略では、半導体関連の民間投資を呼び込むために、税から金融、インフラなどあらゆる分野で半導体企業を支援する。
例えばサムスン電子の半導体工場がある韓国・平沢(ピョンテク)市や、韓国SK hynix(SKハイニックス)の工場がある韓国・龍仁(ヨンイン)市などでは、韓国政府が10年分の半導体工場向け用水を確保する。素材や部品、装備に特化した生産団地への送電線路設置費用については、韓国政府と韓国電力が半額を負担する。
21年から24年の半導体関連投資については、税額控除率を上げて企業の負担を減らす。具体的には、現在、大企業が30%、中小企業が40%の税額控除率である半導体研究開発について、40〜50%に上げる。半導体施設投資については、これまで大企業の場合に3%だったところ、10〜20%に上げる。
こうした優遇措置の結果、半導体大手のサムスン電子やSKハイニックスなど半導体企業153社は、K-半導体戦略の発表に合わせて、工場の増設や設備高度化、メモリー製造施設増設などのために30年までに510兆ウォン(約49兆円)以上を投資することを公表した。21年は41兆8000億ウォン(約4兆円)の投資となる。
サムスン電子は、30年までに半導体の研究開発と平沢市の半導体工場に171兆ウォン(約16兆6000億円)を投資する。19年に発表した当初計画よりも38兆ウォン(約3兆7000億円)増額した。
SKハイニックスは、30年までに半導体関連で約230兆ウォン(約22兆5000億円)以上を投資する。生産拠点がある韓国・利川(イチョン)市とは別に、龍仁市に半導体クラスターを造成するため約120兆ウォン(約11兆8000億円)を投資し、利川市と清州市の工場設備増設のために約110兆ウォン(約11兆円)を投じる。龍仁市には素材や部品などの装備特化団地を造成し、50社が入居する予定である。
SKハイニックスは、工場の生産能力を2倍に拡大するため、韓国内工場増設と海外企業買収の両方を検討していることも明かした。SKハイニックスはメモリー事業の割合が98%を占める専門企業であり、ここに来て非メモリー事業を拡大しようとしている。
趙 章恩=(ITジャーナリスト)
<<NIKKEI X TECH>>
2021. 6.
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サムスンによるNXP買収説が再び浮上、Xデーは5月末か
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韓国Samsung Electronics(サムスン電子)による車載半導体大手オランダNXP Semiconductors(NXPセミコンダクターズ)の買収説が再び浮上している。サムスン電子は2021年1月、決算発表の場で3年以内に企業買収計画があることを明らかにした。それから韓国メディアは、買収先候補としてNXPのほか、米Texas Instruments(テキサス・インスツルメンツ)、日本のルネサス エレクトロニクスなどの名を挙げていた。買収先の最有力候補として、なぜNXPの名が再浮上してきたのが。その事情に迫る。
Xデーは5月21日の米韓首脳会談か、韓国メディア
サムスン電子がNXPを買収先の最有力候補と考えているだろう理由はいくつも浮かぶ。同社は2030年にメモリーだけでなくシステム半導体でも世界1位となる目標を掲げている。企業買収という大規模な投資をするならば、世界的に半導体不足に見舞われている車載半導体分野が適している。買収先としては、サムスン電子の主力工場がある米国内の車載半導体企業を優先するのが都合よい。NXPはサムスン電子の主力工場がある米国テキサス州オースティンに半導体工場を持つ。NXPが買収先として最有力に浮上するのは、こうした理由からだ。
韓国メディアは、サムスンが買収を発表するXデーとして、21年5月21日開催予定の米韓首脳会談の前後と予想する。サムスン電子がこのタイミングで、テキサス州オースティンの半導体工場において、170億米ドル(約1兆8000億円)規模の新規投資計画を発表し、車載半導体関連でも企業買収計画を発表するのではないかとする報道も出ている。
これに先立つ21年4月12日、米国のバイデン大統領は、世界的に不足する半導体の問題について世界の大手企業の幹部と協議している。そこにはサムスン電子の幹部も出席した。この協議について韓国メディアは、米中半導体覇権争いの中で、米国中心の半導体サプライチェーン再編のために米国内の生産施設にもっと投資してほしいというメッセージだと分析している。
この4月の協議の直後にサムスン電子が何らかの形で米国の意向に沿う投資計画を発表するとみられていた。しかし発表はなかった。贈賄罪などで再収監された、サムスングループの経営トップでサムスン電子の副会長である李在鎔(イ・ジェヨン)氏の赦免につながるような世論を作るためにも、米韓首脳会談のタイミングのほうが都合よいのかもしれない。
サムスン電子は米韓首脳会談前の21年5月13日になって突然、韓国メディアの予想を上回る規模の投資計画を発表した。韓国の文在寅大統領も出席した「K(Korea)-半導体ベルト戦略報告大会」で、 19年4月にまとめた「システム半導体ビジョン2030」達成のため従来計画に38兆ウォン(約3兆7000億円)を上乗せした171兆ウォン(約16兆5000億円)を投資すると発表した。追加した投資金はファウンドリーの最先端工程開発と生産ライン建設に使う。
現在基礎工事中の韓国・平沢(ピョンテク)市の主力半導体工場第3ラインについて、稼働時期を23年から22年下半期に前倒しする。第3ラインの投資だけで50兆ウォン(約4兆8000億円)にのぼる見込みである。ただこの日も企業買収計画に関する発表はなく、米韓首脳会談に向けて、追加の発表があるのかどうかについて注目が続いている。
趙 章恩=(ITジャーナリスト)
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2021.5 .
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アップルカー生産受託か、LGとマグナ合弁会社が注目される理由
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米Apple(アップル)が開発中の電気自動車(EV)「アップルカー」の生産を誰が受託するのか――。当初、韓国Hyundai Motor(現代自動車)が有力視されていたが2021年4月14日、複数の韓国メディアが韓国LG Electronics(LGエレクトロニクス)とカナダの大手自動車部品メーカーMagna International(マグナ・インターナショナル)の共同出資会社「LG Magna e-Powertrain」がアップルカーの初期生産分を受注する可能性が高いと報じた。LGは報道にコメントしないものの、マグナはかねてアップルカーを生産したいという発言を繰り返している。
LG Magna e-Powertrainの受託が有力視される理由の一つに、マグナ・インターナショナルが過去、アップルのEVプロジェクトである「Project Titan」に参加していた点がある。20年12月にマグナとアップルの交渉は終わったと報道されたが、LG Magna e-Powertrain ならばマグナとLGグループ両方のバックアップを期待できる。
LG Magna e-Powertrainはモーターやインバーターなどの製造で高い技術力を持つLGエレクトロニクスと、世界3位の自動車部品会社でグローバルな販売網を持つマグナの共同出資会社だ。ガソリン車からEVへと自動車産業が転換期を迎える中、マグナがLGエレクトロニクスのモーター技術力に投資するため設立したと言われている。ドイツMercedes-Benz(メルセデス・ベンツ)や独BMW、トヨタ自動車などの車体生産受託を手掛けるオーストリアのMagna Steyr(マグナ・シュタイヤー)は、マグナ・インターナショナルの子会社である。
アップルカーを巡っては、アップルと複数の完成車メーカーの交渉が報道されている。しかし生産委託先の選定に難航している様子がうかがえる。アップルにとっては、完成車メーカーではないLG Magna e-Powertrainのような企業のほうが、生産委託しやすいだろう。LG Magna e-Powertrainは21年7月設立完了を目指し、LGエレクトロニクスから1000人規模の人員移動や外部からの中途採用を進める計画だ。
アップルカーの初期生産分は市場性を評価するための生産であるため、台数規模はそれほど大きくないとみられる。それでもマグナ・インターナショナルはこれまでアップルカーを生産したいと積極的にアピールしてきた。同社のSwamy Kotagiri CEO(最高経営責任者)は、イベントやメディアの取材で度々「マグナはアップルカーを生産する準備ができているかと聞かれたら『はい』と答える。喜んで生産する」「北米に工場を増設する意向もある」と話している。
マグナは21年4月12日にイスラエルのEVプラットフォーム開発会社のREE Automotiveと戦略的提携契約を締結し、顧客が車両をカスタマイズできるモジュラーEVを開発すると発表した。マグナとREE Automotiveの協力体制は、アップルがアップルカーの生産を委託する企業を選ぶ際の魅力的な材料になりそうだ。
趙 章恩=(ITジャーナリスト)
<<NIKKEI X TECH>>
2021. 4.
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