総帥起訴で動きが鈍るサムスン、TSMCとの価格競争も激化

.

 韓国ソウル中央地方検察庁は2020年9月1日、韓国Samsung(サムスン)グループのトップであるJae-yong Lee(イ・ジェヨン)氏を在宅起訴したと発表した。これまでグループ経営を主導してきた同氏の不在による半導体事業への影響を危ぶむ声も出てきている。

 Lee氏の嫌疑は、資本市場法違反(不正取引および相場操縦)/外部監査法違反/業務上の背任、の3つである。検察によれば、同氏は15年、グループ経営権を引き継ぐために、Samsung Electronics(サムスン電子)株を保有するSamsung C&T(サムスン物産)と、自身が筆頭株主であるCheil Industries(第一毛織)を合併させた。その際、Cheil Industriesの価値を大きく見せるべく、同社子会社のSamsung Biologics(サムスンバイオロジクス)と孫会社のSamsung Bioepis(サムスンバイオエピス)の会計を操作し、証拠を隠蔽。Samsung C&Tやその株主に損害を与えた疑いがあるという。併せて、Samsungグループ関係者10人も、Lee氏の利益のために相場操縦や不正会計を行ったとして起訴された。

 検察は「捜査の結果、グループ総帥であるLee氏をはじめ中核的な関係者の組織的不法行為を確認できた」「合併は総帥の私益のために行われた明白な背任行為」「事案の重大性や可罰性、国民的疑惑を解消する必要性などを総合的に検討した結果、起訴は避けられない」といった旨のコメントを発表した。一方、Samsungグループの弁護団は起訴後に「合併の全ての手続きは適法だった」「最初からSamsungグループとLee氏の起訴を目標に捜査を進めたように見える」などのコメントを発表した。Samsungグループ側は弁護団メンバーを検事出身者から判事出身者に入れ替え、裁判に備えるもようだ。

 Lee氏は、朴槿恵(パク・クネ)前大統領への贈賄罪を巡る裁判の判決もまだ出ておらず、今後は2つの裁判を抱えることになった。Samsung Electronicsの経営に影を落とすのか、韓国のみならず中国や米国のメディアも注目している。韓国証券業界では、「Lee氏の起訴とSamsungの経営は別の話で、影響を受けないだろう」とみられている。

 実際、足元の業績は堅調だ。Samsung Electronicsの20年4~6月期の業績は、売上高こそ前年同期比5.6%減の52兆9700億ウォン(約4兆7400億円)にとどまったものの、営業利益は同23.5%増の8兆1500億ウォン(約7300億円)と大幅に増えた。特に半導体事業は、新型コロナウイルス感染拡大に伴う在宅勤務やオンライン授業の拡大などを受けて需要が増加しており、前年同期比で2桁の増収・営業増益を達成。特に営業利益は59.7%増となった。今後も、期初予想を上回るのではないかと期待されている。

趙 章恩(ITジャーナリスト)

 

<<NIKKEI X TECH>>

2020. 9.

-Original column

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00014/

新型コロナで屋外配送ロボの競争が韓国で激化、病院や出前サービス、レストランで相次ぎ採用

.

LG Electronics社は2020年8月、ホテル向けの屋外配送ロボットを公開した(図1)。ソウル市のMayfield Hotel & Resortにおいて建物内外を行き来しながら客が注文した商品を屋外テラスのテーブルまで届ける用途で使われる。LG Electronics社としては初の屋外で稼働するロボットである。

 LG Electronics社はかねて、仁川国際空港で稼働する掃除ロボットやサービスロボット、ファミリーレストラン向け調理ロボットなどを提供してきた。2018年にはロボット製品群のブランド「CLOi」を打ち出している。

趙 章恩(ITジャーナリスト)

 

《日経Robo

2020. 9.

 

-Original column

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/mag/rob/18/00006/00060/

中国に奪われるSamsungの技術、流出防止へ厳罰化進める韓国

.

 韓国の水原地方検察庁産業技術犯罪捜査部は2020年8月7日、韓国Samsung Display(サムスンディスプレー)の研究員2人とディスプレー設備メーカー代表1人の計3人について、「産業技術の流出防止および保護に関する法律」「不正競争防止および営業秘密保護に関する法律」などへの違反容疑で身柄を拘束し起訴したことを発表した。韓国では、中国をはじめとする国外への技術流出に厳罰を求める声が高まっている。

中国に技術が渡る前に押収

 水原地方検察庁によると、Samsung Displayの研究員AとBは、19年11月から20年5月にかけて、同社の有機EL(OLED)製造に用いる透明樹脂(OCR)のインクジェット印刷工程の仕様をディスプレー設備メーカーX社の代表Cに教え、主要な設備を造らせた。同工程は、Samsung Displayが3年間で100億ウォン(約8億9300万円)以上を投資して開発した世界初のものである。

 さらに、AとBは19年11月、同社のOLED製造用LTPS(低温ポリシリコン)結晶化設備の光学系図面を不正に使用し、同設備の核心部品を製作するとともに、20年4月にCにこの図面を提供したという。AとBは、X社の株式を借名で取得していた。

 A、B、CはSamsung Displayの技術を持ち出してX社で設備を造り、中国に売ろうとしていた。だが、試作品を造ったところで全て押収となり、中国には技術が流出しなかったもようだ。

 Samsung DisplayのOCRインクジェット印刷工程は、液状のOCRを射出・塗布することでディスプレーパネルとカバーガラスを接合するというもの。同社は20年10月からOLEDディスプレーの後工程ラインにこの技術を本格導入する計画だった。

 同社は同年2月ごろから、ディスプレーパネルとカバーガラスの接着手段を、これまでの透明テープ(OCA)からOCRに切り替えるための設備投資をしていた。証券業界では、同社のOCA購入費は年間2000億ウォン(約179億円)を超える規模であり、OCRへの切り替えによって大幅にコストを削減できるとともに、フォルダブル(折り曲げ可能な)OLEDディスプレーの生産を伸ばせるとみていた。

 本件を巡っては、20年4月に韓国の国家情報院産業機密保護センターが情報を入手し、水原地方検察庁に事件を配当。両機関が協力して捜査を進めた。水原地方検察庁は捜査過程を公開し、「素早い捜査と捜索、押収によってSamsung Displayの技術が中国に流出するのを防いだ」との談話を発表した。

 同社の技術が狙われたのは、今回が初めてではない。18年にも水原地方検察庁は同社のフレキシブルOLEDディスプレーの後工程ラインに使われる3次元ラミネート関連設備の仕様書やディスプレー図面などの産業技術、および営業秘密の流出を巡り、同社の協力会社であるToptec(トップテック)の役員と社員計11人を起訴した。この事件では、前述の技術や営業秘密を使って設備を製造し、疑いの目を向けられないように設立した別会社を通じて中国企業に売り渡していたという。対象となった技術は、Samsung Displayが1500億ウォン(約134億円)を投資した核心技術だった。Toptecは容疑を否認し続けている。1審判決は20年8月末の予定である。

趙 章恩=(ITジャーナリスト)

 

<<NIKKEI X TECH>>

2020.8 .

-Original column

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00013/

SamsungとHyundaiが自動運転分野で急接近、電池や車載情報システムでも協業へ

.

2020年7月21日、韓国のSamsung Electronics社副会長の李在鎔(イ・ジェヨン)氏とHyundai Motor Group社首席副会長の鄭義宣(チョン・ウィソン)氏が会合を開いた。Hyundai社は、LG Electronics社やSK Group社とは電装品や電池で取引があるが、Samsung社とは何もない。

 韓国財界の資産総額1位のSamsung社と同2位のHyundai社の経営トップ同士が交流したことで、両社が関心を持つモビリティやロボティクスの分野で新たなビジネスが生まれるのではないかと韓国内では期待が高まっている。

 Samsung社の李氏ら経営陣は、Hyundai社の「Hyundai Kia Namyang Technology Research Center」を訪問し、開発中のレベル4自動運転車や水素燃料電池バスに試乗。Hyundai社の鄭氏ら経営陣からモビリティやロボティクスなど同社の新ビジネスに関して説明を受けた。李氏と鄭氏の交流は、鄭氏が2020年5月にSamsung SDI社の天安工場を訪問して全固体電池関連で意見交換をして以来、今回が2度目である。同社の全固体電池は要素技術の開発段階であり、商用化は2027年以降になりそうだ。

趙 章恩=(ITジャーナリスト)

 

《日経Robo

2020. 8.

 

-Original column

コバルトフリー電池が韓国で実用化へ、高まるTeslaへの対抗意識

.

 2020年7月19日、韓国メディアは、韓国TopBattery(トップバッテリー)がコバルトフリー正極材(活物質)を開発したと報道した。同社は、リチウムイオン電池やエネルギー貯蔵システム(ESS)の開発・生産を専門とするベンチャー企業である。

 TopBatteryは新開発のコバルトフリー正極活物質を、電気自動車(EV)用バッテリーを手掛けるベンチャー企業の韓国Eurocell(ユーロセル)に供給する。Eurocellは、20年末からこの正極活物質を使ったリチウムイオン電池を電動スクーターに搭載する計画だ。

 TopBatteryの正極活物質はスピネル型マンガン系に分類されるもので、マンガンの割合を75%と従来品よりも多くし、ニッケルの割合を25%と少なくした。同社によると、通常はニッケルの割合を増やすことでコバルトフリーを目指すが、それだと電池の寿命と安全性に限界があることから、安価なマンガンの割合を増やした。この正極活物質を使った電池の重量容量密度は135mAh/g、平均放電電圧は4.7Vだという。

 TopBatteryは、13年12月に韓国で初めてESSやEV向けリン酸鉄リチウムイオン電池を開発した。その後、年36万個を生産できる自動化ラインを設立し、量産を始めた。

業界全体でコバルトフリー目指す

 現在、「バッテリーご三家」と呼ばれるLG Chem(LG化学)、Samsung SDI(サムスンSDI)、SK innovation(SKイノベーション)をはじめとする韓国の電池業界は、コバルトフリーを志向している。コバルトは埋蔵量が少ない上、今も紛争が続くコンゴの生産に依存しているため、供給が安定せず価格が上昇し続けている。EVの普及推移から30年を境にコバルト不足も懸念されている。

 世界の人権問題を調査・是正勧告している非政府組織(NGO)のAmnesty International(アムネスティ・インターナショナル)は17年、コンゴのコバルト採掘で児童労働や危険労働が放置されていると告発する報告書を発表した。19年末には国際連合児童基金(UNICEF)も、コンゴ南部の鉱山で児童約4万人が1日1~2米ドルの賃金で働いていると公表した。これらの報告によって、コバルトを利用する大手企業は「採掘の労働環境に目をつぶって安く仕入れることにしか興味がない」などと批判されるようになった。

 そこで、電池メーカーは短期的にはコバルトを倫理的な方法で確保しながら、長期的にはコバルトフリーを目指している。前出の韓国バッテリーご三家も、コバルトをはじめとする鉱物の確保に当たり、紛争鉱物問題に取り組む団体であるResponsible Minerals Initiative(RMI)に加入している。

趙 章恩(ITジャーナリスト)

 

<<NIKKEI X TECH>>

2020. 8.

-Original column

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00012/

FeRAMの集積度を1000倍に、0.5nmまで微細化 Samsung支援の研究

.

 韓国Ulsan National Institute of Science and Technology(蔚山科学技術院、UNIST)教授のJun-hee Lee(イ・ジュニ)氏らのチームは、強誘電体メモリー(FeRAM)の集積度を1000倍以上に高められる理論を発表した。FeRAMは、次世代メモリーの有力候補の1つ。今回の研究成果によって、現在は10nmあたりで停滞気味のメモリー製造プロセスを0.5nmまで微細化できるようになるという。

酸素原子4個に1ビットのデータを格納

 FeRAMは、強誘電体を記憶素子とする不揮発性メモリーの一種である。強誘電体に電圧を与えると分極が生じ、電圧をゼロにしても分極が持続する(残留分極)。正負の残留分極を論理値の「0」「1」に対応させている。

 Lee氏らの研究では、強誘電体材料として酸化ハフニウム(HfO2)を用いている。Lee氏らは、HfO2に特定の電圧を与えると原子間の弾性相互作用が消える現象を発見した。弾性相互作用を打ち消す遮蔽膜が形成されるのだ。この現象をスーパーコンピューターで再現したところ、あたかも真空中であるかのようにHfO2中の酸素原子4個の位置を個別に制御できることを確認した。この酸素原子4個ごとに1ビットのデータを格納することが可能だという。

 従来は、「ドメイン」と呼ばれる数千個の原子から成る群に1ビットのデータを格納していた。ドメインは約1000nm2であるのに対し、酸素原子4個のまとまりは0.2nm2とはるかに小さい。データを格納する単位が⼩さくなることで、メモリーの集積度を⾼められるわけだ。

 半導体メモリーでは、記憶素子が限界レベルより小さくなるとデータの格納能力が消失する「スケーリング」という問題がある。Lee氏らの研究成果は、この限界を突破する可能性を秘めている。

 Lee氏によると、FeRAMの先行研究はドメインを小さくすることに焦点を合わせたものが多かったが、同氏らのチームは発想を転換して「ドメインは必要なのか」という疑問から出発した。フラットバンド理論を強誘電体に応用したことが、従来の固定観念を覆す発見につながった。CMOSプロセスに適用できるので、商用化の可能性も高いとみられる。「原子を分割しない限りにおいて、個々の原子に情報を格納する手法は最良の集積化技術だ。この技術を応用することで半導体の微細化がさらに加速することが期待できる」(同氏)。

 Lee氏は、ソウル大学物理学部で凝集物質理論を研究して博士号を取得した経歴を持つ。新素材に関する研究のバックグラウンドが今回の理論発見に結び付いたといえる。現在はシミュレーションだけを実施した段階で、これから実験で理論を証明する計画である。なお、同氏らの研究成果は、英『Science』誌に2020年7月2日付で掲載された1)。

 Lee氏らの研究は、Samsung Electronics(サムスン電子)の未来技術育成プロジェクトとして選定されたものの1つで、Samsung Science & Technology Foundation(サムスン未来技術育成財団)の支援を受けていたほか、韓国政府の科学技術情報通信部(韓国の部は日本の省に相当)の「未来素材ディスカバリー事業」にも指定されていた。今後、この研究から商用化可能な技術が開発されれば、サムスン電子のメモリーに優先的に適用される。

趙 章恩(ITジャーナリスト)

 

<<NIKKEI X TECH>>

2020. 7.

-Original column

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00011/

新型コロナでロボット活用進む韓国、非対面サービスの需要増に期待

.

.

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策として防疫ロボットの需要が高まっている。

 例えば、韓国の通信事業者SK Telecom社の本社では、2020年5月から自律移動ロボットが訪問者の体温測定やビル内の消毒などを行っている。消毒については、人がいない空間を自動で認識して消毒液を噴霧するほか、夜間にビル内を走行して紫外線ランプを照射する。さらに、マスクを正しく着用していない人や密集している人々も自動で認識し、マスク着用や社会的距離の確保を依頼する。

 これまで警備員や外部業者に委託していた訪問者対応や消毒といった仕事をロボットで置き換えることで、効率良く防疫体制を整え、感染リスクを減らす狙いがある。



.

趙 章恩(ITジャーナリスト)

 

《日経Robo

2020. 7.

 

-Original column

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/mag/rob/18/00006/00057/


ポストコロナを見据えたAI活用が続々、SamsungやLGは知能化ロボットで攻勢

.


韓国疾病管理本部の発表によると、2020年4月22日の新型コロナウイルス感染者数は11人、このうち6人が海外からの入国者だった。同日までのPCR検査者数は累計57万7959人、感染者は1万694人、完治者は8277人、死者は238人と、状況はだんだん落ち着いてきた。

 現在、全ての入国者は14日間の外出禁止となり、スマートフォンに隔離者専用アプリをインストールし、保健所に健康状況を毎日2回報告する必要がある。感染経路が不明な人は4%程度にすぎない。検疫法や、感染病の予防と管理に関する法律に基づいて携帯電話の位置情報、クレジットカード使用履歴、防犯カメラの映像といったデータを集めて感染者の動線を分析し、接触者を探し出す。濃厚接触者は、検査結果が陰性でも14日間隔離される。

 このような大量検査による早期発見と隔離、徹底した感染経路解明などの施策によって、韓国では市民の不安が解消され、企業は工場を休業せずに済んだ。感染者が出ても、動線のデータから生産ラインへの出入りがないことを確認できれば、必要な場所だけ消毒と封鎖の対象にして生産ラインの稼働を続けた。

趙 章恩(ITジャーナリスト)

 

《日経Robo

2020. 5.

 

-Original column

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/mag/rob/18/00006/00053/

韓国の半導体用レジスト調達に米国が助け舟、日本の輸出管理厳格化に対応

.

 2019年7月に日本政府による対韓半導体・ディスプレー材料3品目の輸出管理厳格化が始まってから、韓国企業は材料・設備を日本に依存しすぎていたとして、国産化を進めるとともに日本以外の国からの調達に切り替えていた。安定的な材料・設備調達のために韓国産業通商資源部(韓国の部は日本の省に相当)のソン・ユンモ長官が“セールスパーソン”となって米国シリコンバレーで説明会を開催するなどの“営業”を続けた結果、2020年1月9日に米デュポン(DuPont)が半導体の材料として使われるEUV(極端紫外線)リソグラフィー用フォトレジストの開発・生産施設を韓国の天安(チョナン)市に新設すると発表した。

 新施設では、同社が世界市場でシェア8割を占める半導体製造用CMP(化学機械研磨)パッドも生産する。天安市には同社の韓国子会社(ローム・アンド・ハース電子材料コリア)の工場がある。この韓国子会社は現在、回路基板用材料を生産している。フォトレジストとCMPパッドの韓国での生産に向けて、デュポンは2800万米ドル(約30億5000万円)を新施設に投資する。フォトレジストは半導体製造に欠かせない材料で、日本が韓国に輸出管理を厳格化している品目の1つである。

 デュポン・エレクトロニクス・アンド・イメージングの社長であるジョン・ケンプ氏は、韓国政府機関に投資申告書を提出した場で、「フォトレジストの開発・生産のために、これから韓国内の主な供給先と製品の実証テストを進めるなど緊密に協力する計画」であると述べた。これを受けて産業通商資源部のソン長官は「政府は核心材料や部品、設備に関する技術競争力の確保と供給先の多様化を今後も継続して推進する」と返答した。ソン長官は、米国の半導体メーカーや自動車メーカー、再生エネルギー企業、ベンチャーキャピタルなどを招待して韓国政府の戦略や外国人投資向け支援策を解説するなど、かねて熱心に営業をかけてきた。

 韓国のサムスン電子(Samsung Electronics)とSKハイニックス(SK Hynix)は、輸出管理厳格化の前までフォトレジストの9割を日本企業から輸入していた。そのため、輸出管理厳格化が始まってから代替調達先を見つけるのに苦労した。デュポンの工場誘致は、日本企業以外の調達先を確保して半導体製造を問題なく継続させようと走り回った韓国政府の努力の結果でもあることから、韓国内で高く評価されている。日本では「韓国向け輸出管理厳格化を一部緩和した」との報道もあるが、韓国企業の立場からすると、不確実性を減らすために今後も日本企業以外の調達先を見つけるしかない状況は続いている。

趙 章恩(ITジャーナリスト)

 

《日経Robo

2020. 2.

 

-Original column

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00950/00018/

「国産率7割」目指す韓国半導体材料、日本企業は現地生産で対抗

.

 日本政府による半導体製造用材料3品目(レジスト、フッ化水素、フッ化ポリイミド)の対韓輸出管理に伴い、韓国で国産化の動きが加速している。韓国産の品質は今のところ日本産に及ばないが、半導体メーカーや韓国政府の後押しもあって量産が始まった。失注を恐れて韓国での生産を始めた日本の材料メーカーも出てきている。

交渉か、それとも「脱日本」か

 韓国SK Materials(SKマテリアルズ)は2020年6月17日、フッ化水素ガスの量産を開始したと発表した。同社は19年7月にフッ化水素の開発に着手し、同じSKグループのSK Hynix(SKハイニックス)から資金を得て量産に向けた研究を続けてきた。同年12月にはテスト生産に成功、慶尚北道栄州市の工場に15トン/年規模の生産施設を建設していた。

 SKマテリアルズが量産するフッ化水素の純度は99.999%(9が5個並ぶので「ファイブナイン」と呼ばれる、5N)と、これまで主に日本から輸入してきた11N(イレブンナイン)品と比べて差がある。そのため、SKハイニックスや韓国Samsung Electronics(サムスン電子)は日本産の輸入を続けながら韓国産も併用するようだ。韓国産は洗浄工程用、日本産はエッチング工程用と使い分けるとの報道もあった。実際、SKマテリアルズのフッ化水素もウエハー洗浄工程で使われるという。

 用途としては限定的だが、国産化の意義は大きい。SKマテリアルズによると、これまで超高純度フッ化水素は全量を海外からの輸入に依存しており、特に5N以上のフッ化水素については9割が日本産だった。同社は今後、2023年の国産率7割を目標に生産を増やしていく。

 一部の日本企業しか造れないとされている12N品についても、韓国Soulbrain(ソウルブレーン)が20年1月に量産体制を整備したという。韓国の産業通商資源部(韓国の部は日本の省に相当)が発表した。同社も従来は原材料を日本から輸入していたが、日本政府の輸出管理を受けて中国からの調達に切り替えた。同社は19年9月にサムスン電子の試験に合格し、フッ化水素を納品している。

 韓国での半導体製造用材料の国産化については、見方が大きく分かれている。半導体製造はEUV(極端紫外線)露光への移行が進んでおり、EUVではさらに純度が高く品質の安定したフッ化水素が必要だ。そのため、国産化を待っている時間はなく日本政府に輸出管理の撤回を交渉するしかないという声もあれば、1年で5N品の量産にこぎ着けたのだから早期に「脱日本」を実現できると期待する声もある。

趙 章恩(ITジャーナリスト)

 

<<NIKKEI X TECH>>

2020. 7.

-Original column

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00010/