コバルトフリー電池が韓国で実用化へ、高まるTeslaへの対抗意識

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 2020年7月19日、韓国メディアは、韓国TopBattery(トップバッテリー)がコバルトフリー正極材(活物質)を開発したと報道した。同社は、リチウムイオン電池やエネルギー貯蔵システム(ESS)の開発・生産を専門とするベンチャー企業である。

 TopBatteryは新開発のコバルトフリー正極活物質を、電気自動車(EV)用バッテリーを手掛けるベンチャー企業の韓国Eurocell(ユーロセル)に供給する。Eurocellは、20年末からこの正極活物質を使ったリチウムイオン電池を電動スクーターに搭載する計画だ。

 TopBatteryの正極活物質はスピネル型マンガン系に分類されるもので、マンガンの割合を75%と従来品よりも多くし、ニッケルの割合を25%と少なくした。同社によると、通常はニッケルの割合を増やすことでコバルトフリーを目指すが、それだと電池の寿命と安全性に限界があることから、安価なマンガンの割合を増やした。この正極活物質を使った電池の重量容量密度は135mAh/g、平均放電電圧は4.7Vだという。

 TopBatteryは、13年12月に韓国で初めてESSやEV向けリン酸鉄リチウムイオン電池を開発した。その後、年36万個を生産できる自動化ラインを設立し、量産を始めた。

業界全体でコバルトフリー目指す

 現在、「バッテリーご三家」と呼ばれるLG Chem(LG化学)、Samsung SDI(サムスンSDI)、SK innovation(SKイノベーション)をはじめとする韓国の電池業界は、コバルトフリーを志向している。コバルトは埋蔵量が少ない上、今も紛争が続くコンゴの生産に依存しているため、供給が安定せず価格が上昇し続けている。EVの普及推移から30年を境にコバルト不足も懸念されている。

 世界の人権問題を調査・是正勧告している非政府組織(NGO)のAmnesty International(アムネスティ・インターナショナル)は17年、コンゴのコバルト採掘で児童労働や危険労働が放置されていると告発する報告書を発表した。19年末には国際連合児童基金(UNICEF)も、コンゴ南部の鉱山で児童約4万人が1日1~2米ドルの賃金で働いていると公表した。これらの報告によって、コバルトを利用する大手企業は「採掘の労働環境に目をつぶって安く仕入れることにしか興味がない」などと批判されるようになった。

 そこで、電池メーカーは短期的にはコバルトを倫理的な方法で確保しながら、長期的にはコバルトフリーを目指している。前出の韓国バッテリーご三家も、コバルトをはじめとする鉱物の確保に当たり、紛争鉱物問題に取り組む団体であるResponsible Minerals Initiative(RMI)に加入している。

趙 章恩(ITジャーナリスト)

 

<<NIKKEI X TECH>>

2020. 8.

-Original column

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00012/

FeRAMの集積度を1000倍に、0.5nmまで微細化 Samsung支援の研究

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 韓国Ulsan National Institute of Science and Technology(蔚山科学技術院、UNIST)教授のJun-hee Lee(イ・ジュニ)氏らのチームは、強誘電体メモリー(FeRAM)の集積度を1000倍以上に高められる理論を発表した。FeRAMは、次世代メモリーの有力候補の1つ。今回の研究成果によって、現在は10nmあたりで停滞気味のメモリー製造プロセスを0.5nmまで微細化できるようになるという。

酸素原子4個に1ビットのデータを格納

 FeRAMは、強誘電体を記憶素子とする不揮発性メモリーの一種である。強誘電体に電圧を与えると分極が生じ、電圧をゼロにしても分極が持続する(残留分極)。正負の残留分極を論理値の「0」「1」に対応させている。

 Lee氏らの研究では、強誘電体材料として酸化ハフニウム(HfO2)を用いている。Lee氏らは、HfO2に特定の電圧を与えると原子間の弾性相互作用が消える現象を発見した。弾性相互作用を打ち消す遮蔽膜が形成されるのだ。この現象をスーパーコンピューターで再現したところ、あたかも真空中であるかのようにHfO2中の酸素原子4個の位置を個別に制御できることを確認した。この酸素原子4個ごとに1ビットのデータを格納することが可能だという。

 従来は、「ドメイン」と呼ばれる数千個の原子から成る群に1ビットのデータを格納していた。ドメインは約1000nm2であるのに対し、酸素原子4個のまとまりは0.2nm2とはるかに小さい。データを格納する単位が⼩さくなることで、メモリーの集積度を⾼められるわけだ。

 半導体メモリーでは、記憶素子が限界レベルより小さくなるとデータの格納能力が消失する「スケーリング」という問題がある。Lee氏らの研究成果は、この限界を突破する可能性を秘めている。

 Lee氏によると、FeRAMの先行研究はドメインを小さくすることに焦点を合わせたものが多かったが、同氏らのチームは発想を転換して「ドメインは必要なのか」という疑問から出発した。フラットバンド理論を強誘電体に応用したことが、従来の固定観念を覆す発見につながった。CMOSプロセスに適用できるので、商用化の可能性も高いとみられる。「原子を分割しない限りにおいて、個々の原子に情報を格納する手法は最良の集積化技術だ。この技術を応用することで半導体の微細化がさらに加速することが期待できる」(同氏)。

 Lee氏は、ソウル大学物理学部で凝集物質理論を研究して博士号を取得した経歴を持つ。新素材に関する研究のバックグラウンドが今回の理論発見に結び付いたといえる。現在はシミュレーションだけを実施した段階で、これから実験で理論を証明する計画である。なお、同氏らの研究成果は、英『Science』誌に2020年7月2日付で掲載された1)。

 Lee氏らの研究は、Samsung Electronics(サムスン電子)の未来技術育成プロジェクトとして選定されたものの1つで、Samsung Science & Technology Foundation(サムスン未来技術育成財団)の支援を受けていたほか、韓国政府の科学技術情報通信部(韓国の部は日本の省に相当)の「未来素材ディスカバリー事業」にも指定されていた。今後、この研究から商用化可能な技術が開発されれば、サムスン電子のメモリーに優先的に適用される。

趙 章恩(ITジャーナリスト)

 

<<NIKKEI X TECH>>

2020. 7.

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https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00011/

新型コロナでロボット活用進む韓国、非対面サービスの需要増に期待

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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策として防疫ロボットの需要が高まっている。

 例えば、韓国の通信事業者SK Telecom社の本社では、2020年5月から自律移動ロボットが訪問者の体温測定やビル内の消毒などを行っている。消毒については、人がいない空間を自動で認識して消毒液を噴霧するほか、夜間にビル内を走行して紫外線ランプを照射する。さらに、マスクを正しく着用していない人や密集している人々も自動で認識し、マスク着用や社会的距離の確保を依頼する。

 これまで警備員や外部業者に委託していた訪問者対応や消毒といった仕事をロボットで置き換えることで、効率良く防疫体制を整え、感染リスクを減らす狙いがある。



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趙 章恩(ITジャーナリスト)

 

《日経Robo

2020. 7.

 

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https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/mag/rob/18/00006/00057/


ポストコロナを見据えたAI活用が続々、SamsungやLGは知能化ロボットで攻勢

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韓国疾病管理本部の発表によると、2020年4月22日の新型コロナウイルス感染者数は11人、このうち6人が海外からの入国者だった。同日までのPCR検査者数は累計57万7959人、感染者は1万694人、完治者は8277人、死者は238人と、状況はだんだん落ち着いてきた。

 現在、全ての入国者は14日間の外出禁止となり、スマートフォンに隔離者専用アプリをインストールし、保健所に健康状況を毎日2回報告する必要がある。感染経路が不明な人は4%程度にすぎない。検疫法や、感染病の予防と管理に関する法律に基づいて携帯電話の位置情報、クレジットカード使用履歴、防犯カメラの映像といったデータを集めて感染者の動線を分析し、接触者を探し出す。濃厚接触者は、検査結果が陰性でも14日間隔離される。

 このような大量検査による早期発見と隔離、徹底した感染経路解明などの施策によって、韓国では市民の不安が解消され、企業は工場を休業せずに済んだ。感染者が出ても、動線のデータから生産ラインへの出入りがないことを確認できれば、必要な場所だけ消毒と封鎖の対象にして生産ラインの稼働を続けた。

趙 章恩(ITジャーナリスト)

 

《日経Robo

2020. 5.

 

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https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/mag/rob/18/00006/00053/

韓国の半導体用レジスト調達に米国が助け舟、日本の輸出管理厳格化に対応

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 2019年7月に日本政府による対韓半導体・ディスプレー材料3品目の輸出管理厳格化が始まってから、韓国企業は材料・設備を日本に依存しすぎていたとして、国産化を進めるとともに日本以外の国からの調達に切り替えていた。安定的な材料・設備調達のために韓国産業通商資源部(韓国の部は日本の省に相当)のソン・ユンモ長官が“セールスパーソン”となって米国シリコンバレーで説明会を開催するなどの“営業”を続けた結果、2020年1月9日に米デュポン(DuPont)が半導体の材料として使われるEUV(極端紫外線)リソグラフィー用フォトレジストの開発・生産施設を韓国の天安(チョナン)市に新設すると発表した。

 新施設では、同社が世界市場でシェア8割を占める半導体製造用CMP(化学機械研磨)パッドも生産する。天安市には同社の韓国子会社(ローム・アンド・ハース電子材料コリア)の工場がある。この韓国子会社は現在、回路基板用材料を生産している。フォトレジストとCMPパッドの韓国での生産に向けて、デュポンは2800万米ドル(約30億5000万円)を新施設に投資する。フォトレジストは半導体製造に欠かせない材料で、日本が韓国に輸出管理を厳格化している品目の1つである。

 デュポン・エレクトロニクス・アンド・イメージングの社長であるジョン・ケンプ氏は、韓国政府機関に投資申告書を提出した場で、「フォトレジストの開発・生産のために、これから韓国内の主な供給先と製品の実証テストを進めるなど緊密に協力する計画」であると述べた。これを受けて産業通商資源部のソン長官は「政府は核心材料や部品、設備に関する技術競争力の確保と供給先の多様化を今後も継続して推進する」と返答した。ソン長官は、米国の半導体メーカーや自動車メーカー、再生エネルギー企業、ベンチャーキャピタルなどを招待して韓国政府の戦略や外国人投資向け支援策を解説するなど、かねて熱心に営業をかけてきた。

 韓国のサムスン電子(Samsung Electronics)とSKハイニックス(SK Hynix)は、輸出管理厳格化の前までフォトレジストの9割を日本企業から輸入していた。そのため、輸出管理厳格化が始まってから代替調達先を見つけるのに苦労した。デュポンの工場誘致は、日本企業以外の調達先を確保して半導体製造を問題なく継続させようと走り回った韓国政府の努力の結果でもあることから、韓国内で高く評価されている。日本では「韓国向け輸出管理厳格化を一部緩和した」との報道もあるが、韓国企業の立場からすると、不確実性を減らすために今後も日本企業以外の調達先を見つけるしかない状況は続いている。

趙 章恩(ITジャーナリスト)

 

《日経Robo

2020. 2.

 

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https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00950/00018/

「国産率7割」目指す韓国半導体材料、日本企業は現地生産で対抗

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 日本政府による半導体製造用材料3品目(レジスト、フッ化水素、フッ化ポリイミド)の対韓輸出管理に伴い、韓国で国産化の動きが加速している。韓国産の品質は今のところ日本産に及ばないが、半導体メーカーや韓国政府の後押しもあって量産が始まった。失注を恐れて韓国での生産を始めた日本の材料メーカーも出てきている。

交渉か、それとも「脱日本」か

 韓国SK Materials(SKマテリアルズ)は2020年6月17日、フッ化水素ガスの量産を開始したと発表した。同社は19年7月にフッ化水素の開発に着手し、同じSKグループのSK Hynix(SKハイニックス)から資金を得て量産に向けた研究を続けてきた。同年12月にはテスト生産に成功、慶尚北道栄州市の工場に15トン/年規模の生産施設を建設していた。

 SKマテリアルズが量産するフッ化水素の純度は99.999%(9が5個並ぶので「ファイブナイン」と呼ばれる、5N)と、これまで主に日本から輸入してきた11N(イレブンナイン)品と比べて差がある。そのため、SKハイニックスや韓国Samsung Electronics(サムスン電子)は日本産の輸入を続けながら韓国産も併用するようだ。韓国産は洗浄工程用、日本産はエッチング工程用と使い分けるとの報道もあった。実際、SKマテリアルズのフッ化水素もウエハー洗浄工程で使われるという。

 用途としては限定的だが、国産化の意義は大きい。SKマテリアルズによると、これまで超高純度フッ化水素は全量を海外からの輸入に依存しており、特に5N以上のフッ化水素については9割が日本産だった。同社は今後、2023年の国産率7割を目標に生産を増やしていく。

 一部の日本企業しか造れないとされている12N品についても、韓国Soulbrain(ソウルブレーン)が20年1月に量産体制を整備したという。韓国の産業通商資源部(韓国の部は日本の省に相当)が発表した。同社も従来は原材料を日本から輸入していたが、日本政府の輸出管理を受けて中国からの調達に切り替えた。同社は19年9月にサムスン電子の試験に合格し、フッ化水素を納品している。

 韓国での半導体製造用材料の国産化については、見方が大きく分かれている。半導体製造はEUV(極端紫外線)露光への移行が進んでおり、EUVではさらに純度が高く品質の安定したフッ化水素が必要だ。そのため、国産化を待っている時間はなく日本政府に輸出管理の撤回を交渉するしかないという声もあれば、1年で5N品の量産にこぎ着けたのだから早期に「脱日本」を実現できると期待する声もある。

趙 章恩(ITジャーナリスト)

 

<<NIKKEI X TECH>>

2020. 7.

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https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00010/

サムスンはファーウェイの5G半導体を造るか、米中分離で消えぬ臆測

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米中貿易摩擦で半導体業界が激変している。2020年6月16日、複数の中国メディアは、中国・華為技術(ファーウェイ)が韓国Samsung Electronics(サムスン電子)に対して5G(第5世代移動通信システム)基地局向けプロセッサーの製造を委託する可能性があると報じた。米国の禁輸措置によって、ファーウェイは自社グループで設計した半導体の製造を台湾積体電路製造(TSMC)に委託できなくなったとみられている。そこで、ファーウェイはサムスン電子に協力を求め、ファウンドリー事業の拡大を目指すサムスン電子はそれに応じるのではないかというわけだ。ただし、韓国内では「サムスン電子はファーウェイの要請を受けない」という見方の方が多い。

 サムスン電子にとってファーウェイは、5G基地局やスマートフォンで競合関係にあるが、メモリー半導体の良い顧客でもある。18~19年のサムスン電子の5大取引先にも、米Apple(アップル)や米Best Buy(ベストバイ)などと共にファーウェイの名前が挙がっている。中国メディアの報道を受けた韓国メディアの取材に対し、サムスン電子は「顧客に関することなので何も言うことはない」とノーコメントを貫いた。

メモリーへの飛び火を懸念

 6月16日に韓国で開催された全国経済人連合会(日本経済団体連合会に相当する韓国の経営者団体)の専門家座談会「米中通商戦再点火、韓国企業の対応方案」でも、この報道が話題になった。座談会ではファーウェイがTSMCの代わりに韓国企業に半導体製造を委託してきても、米国との関係を考慮すればそれに応じない方が良いのではないかという話になった。登壇者は「無理にファーウェイとの取引を拡大しようとすれば、米国の規制対象がメモリー半導体にも拡大する恐れがあり、『小利大損』の結果になる」「米国でも中国でも一方の企業と関係が深くなればもう一方の国から圧力がかかる可能性がある」などと発言し、サムスン電子はファーウェイの要請を引き受けないだろうと予測した。

 米国の規制で市場シェアを失うとも思われたファーウェイだが、5G標準技術関連で最も特許を保有しているだけに、規制ばかりでは逆に米国企業への影響も出てきているようだ。6月15日、米商務省は5Gにおける米国企業の競争力を守るためにファーウェイに対する規制を一部緩和した。5Gの国際標準化に関する活動であればファーウェイとの協力を容認するというものである。5Gの標準技術に関する特許保有件数が多いファーウェイとの協力は避けられなかったとみられる。米国政府がファーウェイを規制したことで、米国企業の5Gの競争力を落としたという声もあった。

 ドイツの特許データベース会社であるIPlytics(アイプリティクス)によると、20年2月時点で5G関連特許保有ランキングの1位はファーウェイ(3147件)だった。以下、2位はサムスン電子(2795件)、3位は中国・中興通訊(ZTE、2561件)、4位は韓国LG Electronics(LG電子、2300件)、5位はフィンランドNokia(ノキア、2149件)と続く。また、米国の市場分析会社であるStrategy Analytics(ストラテジー・アナリティクス)が同年3月時点で13社を対象に、5Gの標準仕様である3GPP(Third Generation Partnership Project)のRelease 15/16への貢献度を調べたところ、ここでもファーウェイが1位だった。この調査は「5G論文提出数」「提出した論文が技術標準グループやワーキンググループに承認された数」「3GPPの技術標準グループやワーキンググループの議長職遂行経験」など5項目によって評価したもので、ファーウェイは平均9.6点(満点は10点)を獲得した。2位はスウェーデンEricsson(エリクソン)、3位はノキア、4位は米Qualcomm(クアルコム)、5位は中国移動、6位はサムスン電子だった。

 

趙 章恩=(ITジャーナリスト)

 

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2020. 6.

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韓国が狙う「28年に6G商用化一番乗り」、米中分離は追い風か

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 米国と中国の分離が加速する中、2020年6月1日に米国のドナルド・トランプ大統領が電話会談で主要7カ国首脳会議(G7サミット)に韓国を招待し、文在寅(ムン・ジェイン)大統領は「喜んで招待に応じ、新型コロナウイルス防疫と経済の両面で韓国にできる役割を果たす」と答えたそうだ。トランプ大統領は、G7に韓国やオーストラリアなどを加えて、G11またはG12に拡大する構想を文大統領に説明したという。

 この構想に対して、韓国内では「韓国の発言力を高め、米中間で葛藤を仲裁できる位置に立つことでアフターコロナ時代の経済危機を克服するためにも、G7の拡大版に参加すべきだ」との声が大きい。G7拡大版への参加は、文大統領のアフターコロナ対策である「デジタルニューディール」「グリーンニューディール」にも良い影響を与えるとみられている。

 デジタルニューディールは、政府や公共機関によるIT・デジタル分野への優先的な投資で経済を回す政策である。以前も取り組んでいた「D・N・A(Data/Network/AI)普及戦略」を中心に、各企業が保有するデータを匿名化した上で売買できるようにする取引仲介プラットフォームを拡大する。現在は金融および流通分野のプラットフォームが稼働中だが、これを15分野に増やす。

 データの蓄積・加工・流通を促すデータ3法(個人情報保護法、情報通信網法、信用情報法)も改正した。豊富なデータからサービスや製品のイノベーションを起こせる環境の整備を目指す。公共データに関しては、新たに14万件を公開した。政府はスタートアップ向けに、AIアルゴリズム開発用の会話音声データや医療映像データなどの学習用データセットを提供しているが、これについても700種類を追加する。「非接触」に重点を置いた支援も実施する。

 さらに、以下の施策も進める。

  • 中央省庁と自治体の業務ネットワークを5Gに切り替える
  • 全国の小中高校38万教室と国立大学39校のサーバーやネットワーク設備を最新製品に切り替える
  • 地方の役場や村会館など4万1000カ所の公共Wi-Fiを高性能なものに交換する
  • 各地域の保健所で慢性疾患者の遠隔健康管理や、画像診療システムを使った呼吸器クリニックを始める
  • 自治体が保有する建物1562カ所に中小企業が共同利用できるテレビ会議室を設ける
  • 中小企業16万社を対象に在宅勤務を支援する
  • 社会間接資本(SOC)のデジタル化を進める

 官民連携のAIプロジェクトも進んでいる。感染病の予後予測や製造業の工程・品質管理、軍病院における医療映像判読、犯人検挙サポート、エネルギー効率化、税関違法コピー商品判読、海岸警備、地雷探知といった分野でAIを活用する。人口20万人以上の都市では5G(第5世代移動通信システム)やIoT(Internet of Things)を利用した交通・防犯・防災の統合管理プラットフォームを早期構築する。自動運転テスト地区を増やすほか、システム半導体設計支援センターを新設し、ファブレスメーカーが起業して軌道に乗るまでを支援するワンストップサービスを提供する。韓国政府とサムスン電子(Samsung Electronics)、LG電子(LG Electronics)が18年から力を注ぐ「6G」投資も進める。

 一方、グリーンニューディールでは、太陽光・風力・水素の3大再生エネルギーの普及や、公共施設のゼロエネルギー化、製造業のエネルギー効率化、スマートグリーンシティー造成を目指す。

趙 章恩(ITジャーナリスト)

 

<<NIKKEI X TECH>>

2020. 6.

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https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00008/

米中分離で中立性問われるサムスン、半導体でTSMCやソニーと激突

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 2020年5月15日、半導体ファウンドリー(受託生産)最大手の台湾積体電路製造(TSMC)が約120億米ドル(約1兆3000億円)を投資して米国アリゾナ州に5nmプロセスの工場を設立すると発表した。2021年に着工、2024年に量産という計画である。5月18日付の日本経済新聞電子版によると、TSMCは中国・華為技術(ファーウェイ)からの新規受注を止めたという。15日に米国政府が発表した、ファーウェイへの追加規制によるものとみられる。

 この追加規制では、米国の装置やソフトウエアを使って製造した半導体をファーウェイに供給する場合、外国企業でも米国政府の承認が必要だという。ただし、メモリー半導体のような汎用品は承認が不要なので、メモリーが中心のサムスン電子(Samsung Electronics)とSKハイニックス(SK hynix)に今のところ大きな打撃はないとみられる。しかし、「TSMCがファーウェイからの新規受注を止めた結果として、アップル(Apple)やクアルコム(Qualcomm)といった米国企業の発注を韓国勢から奪う」「米国がメモリー半導体も規制対象にする」「サムスン電子とSKハイニックスがファーウェイから受注できなくなる」といったことも想定して今後の戦略を立てないといけなくなった。

ファーウェイがダメならOPPOやvivoと取引すればよい?

 韓国のメディアや証券業界では、「TSMCが新設する米国工場は、2018年に稼働開始した南京工場と同じく政治的中立性を装うための投資にすぎず、市場に大きな変化はない」という見方もあれば、「TSMCの米国工場新設は米国政府の圧力によるものなので、サムスン電子にも圧力があったはず。追加規制によるファーウェイの苦戦は、一時的にサムスン電子の5G(第5世代移動通信システム)基地局やスマートフォンのシェア増加につながるかもしれないが、メモリーも規制対象になれば業績への影響は避けられない」と米中貿易摩擦の板挟みを懸念する見方もあった。

 サムスン電子がシステム半導体での世界1位奪取に向けて強化しているファウンドリー事業の最大のライバルはTSMCである。加えて、サムスン電子にとってファーウェイは5G基地局とスマートフォンのライバルである。サムスン電子に前向きな見解としては、「TSMCがファーウェイとの取引を止めている間にサムスン電子が5nmプロセスのファウンドリーで受注を増やし、イメージセンサーのシェアも増やせれば、システム半導体で世界1位という目標に近づける」との分析もあった。韓国半導体協会は「(米国の)ファーウェイ制裁が本格化すれば、OPPO(オッポ)やvivo(ビボ)といった他の中国企業と取引すればよい。短期的には影響を受けるかもしれないが長期的には相殺される」と分析した。

 TSMCが米国工場新設を発表した直後の20年5月17日、サムスン電子の李在鎔(イ・ジェヨン)副会長は新型コロナウイルス感染症拡散後としては初めて2泊3日の中国出張に出かけた。李副会長の出張には、5月から韓国と中国の間で適用された企業人入国手続き簡素化制度によって14日間の自宅隔離が免除された。出国時、相手国入国時、帰国時の計3回の検査で陰性であれば、すぐ業務にとりかかれる。

 今回の李副会長の出張は、中国陝西省西安市にあるNAND型フラッシュメモリー工場の訪問が目的だ。そのうち西安第2工場は、17年から累計150億米ドル(約1兆6200億円)規模の投資が行われており、20年4月から5月にかけて同工場増設のために韓国の技術者500人がチャーター便で現地入りした。李副会長は西安工場の社員に「成長の原動力を作るためには迫りくる巨大な変化に先制して備えないといけない」「タイミングを逃してはならない」と強調したそうだ。5月6日に実施した国民への謝罪で李副会長が述べた、新しいサムスンを作るという話にもつながる。

関連記事:不正会計疑惑で窮地のサムスン、半導体受託で「TSMC超え」に本腰

 この出張はもともと予定されていたものだったが、TSMCの米国工場新設発表によって微妙な位置付けになってしまった。サムスン電子の西安第2工場は、2019年10月に中国の李克強(リー・クォーチャン)首相も訪問した場所である。当時、韓国メディアは李首相が「米国ではなく中国と半導体分野で協力しよう」というメッセージを送るためにサムスン電子の半導体工場を視察したのではないかと解説した。サムスン電子が「中国寄り」とみられないためには、米国にも追加で投資して中立性をアピールする必要がありそうだ。

趙 章恩(ITジャーナリスト)

 

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2020.5 .

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https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00007/

不正会計疑惑で窮地のサムスン、半導体受託で「TSMC超え」に本腰

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 2020年5月11日、複数の韓国メディアは、検察がサムスン電子(Samsung Electronics)李在鎔(イ・ジェヨン)副会長を今週中に召喚し、「特定経済犯罪加重処罰等に関する法律」と「資本市場と金融投資業に関する法律」への違反について調査する方針だと報じた。検察の調査は、李氏が経営権を承継するためにグループ会社のサムスンバイオロジクス(Samsung Biologics)の不正会計を自ら指示したか否かに焦点を合わせている。既に会計資料を隠蔽しようとした同社の副社⻑ら8⼈が有罪になったが、不正会計そのものはまだ調査中であり結論は出ていない。検察の調査を目前に控えた同月6日、李副会長は本社ホールに記者を集めて「対国民謝罪文」を発表した。

 謝罪文には、「経営権承継に関して法に反する行為や“法の抜け道”を探すことはしない」「自分の子供には経営権を承継しない」「労働組合活動を妨害せず権利を保障する」「新しいサムスンに向けて人材を集めて新しい事業に挑戦する」といった内容が盛り込まれていた。具体的には、以下のようなものである。

  • 「今日のサムスンはグローバル一流企業に成長しました。国民の皆様の愛と関心があったからこそ成し遂げられました。しかし、その過程で時に国民の期待に応えられませんでした。むしろ失望させたり心慮を悩ませたりしたこともありました。法と倫理を厳格に順守できなかったからです」

  • 「社会とコミュニケーションし、共感するという面でも足りない点がありました。“技術と製品は一流”と賛辞されていますが、サムスンに向けられた視線は依然と厳しいです。その全ては私どもの至らない点によるものです」

  • 「私は今日、サムスンの懸案について率直な見解を申し上げます。まず、経営権承継問題についてです。これまで私とサムスンは承継問題に関して多くの叱責を受けてきました。特にサムスンエバーランド(Samsung Everland、事実上のグループ持ち株会社といわれている)とサムスンSDSの件で非難を受けました。最近は承継に関する収賄の疑いで裁判が行われています。私とサムスンを巡り提起された多くの議論は根本的にこの問題から始まりました。私はこの場ではっきり約束します。これからは経営権承継問題で議論になるようなことがないようにします。法を犯すことは決してしません。その場しのぎや倫理的に指弾されることもしません。ひたすら会社の価値を高めることだけに集中します」

  • 「私は今、もっと高く飛躍する新しいサムスンを夢見ています。絶えず革新と技術力で最もうまくできる分野に集中しながら新しい事業に果敢に挑戦します。我々の社会がより豊かになるようにしたいです。もっと多くの方々が恩恵を受けられるよう貢献したいです」

  • 「サムスンを取り巻く環境は以前と全く違うものになりました。競争はますます激しくなり、市場のルールは急変しています。危機はいつも我々のそばにあり、未来は予測できなくなりました。特にサムスン電子は、企業の規模からもIT業界の特性からも、専門性と洞察力を備えた最高レベルの経営だけが生存を担保します。これが私の抱く切迫した危機意識です。サムスンはこれからも性別・学閥・国籍を問わず立派な人材を迎え入れなくてはなりません。その人材がオーナーマインドと使命感を持って猛烈に働き、私よりも重要な位置でビジネスを導けるようにする必要があります。それが私に与えられた責任であり、使命だと思います。私がその役割を忠実に遂行すれば、サムスンはずっとサムスンであり続けられるでしょう。私は子供たちに会社の経営権を継承させないつもりです」

  • 「これまでサムスンの労組問題で傷付いた全ての方々に対して心よりおわび申し上げます。サムスン内部で“無労組経営”という言葉が出ないようにします。労使関係法令を徹底的に順守し、労働三権を確実に保障します。労使の和合と相生(共生)を図ります」

  • 「順法は決して妥協できない価値です。私は順法を重ねて誓います。順法がサムスンの文化として確実に根付くようにします」

  • 「ここ2~3カ月、前例のない危機的状況の中で、私は真の“国格”とは何かということを切実に感じました。(中略)1人の企業家として多くのことを振り返るようになり、私の肩の荷はさらに重くなりました。大韓民国の国格にふさわしい新しいサムスンを築きます」

「減刑狙いにすぎない」との見方も

 今回の謝罪文発表は、謝罪文の中にも登場する承継に関する収賄の疑いで行われている裁判と関連がある。2019年10月に裁判の過程で判事はサムスン内部に横領や賄賂犯罪をできなくする実効性のある順法監視制度の設置を求め、2020年1月には法曹界や学界など外部の専門家を招いたサムスン順法監視委員会が設立された。同委員会がサムスンの経営陣に経営権承継と労働組合問題に関して国民への謝罪と再発防止策の策定を勧めたことで、李副会長の謝罪文発表に至った。同委員会の役割はサムスングループの順法監視だが、法的拘束力があるわけではない。

 謝罪文に対する韓国メディアの反応は、「減刑狙いにすぎない」と厳しいところもあれば、「新しいサムスンに期待する」と好意的なところもある。公営放送の韓国放送公社(KBS)や総合編成チャンネル(有料放送)のJTBCは厳しい見方をしており、「李副会長に有利な条件で合併して株主に損害を与えた疑惑があるサムスン物産(Samsung C&T)と第一毛織(Cheil Industries)の問題や、この合併を進めるために朴槿恵(パク・クネ)前大統領とその友人に賄賂を渡した疑惑、サムスンバイオロジクスの不正会計については釈明しなかったこと」「2008年に李健煕(イ・ゴンヒ)会長も検察の捜査で他人名義の口座に4兆ウォン(約3517億円)を超える財産を隠していたのが発覚し、全額寄付すると発表しながら約束を守らなかったこと」を振り返りつつ、「サムスンバイオロジクスの不正会計問題捜査や、サムスン電子サービス労組活動妨害問題捜査、承継に関する収賄の疑いで行われている裁判が続いている中での(李副会長の)謝罪文発表は、減刑狙いのイベントにすぎないという批判もある」とし、サムスン電子本社前で抗議する市民団体の意見を詳しく報道した。

 さらに、KBSは「全ての疑惑の核心は、李副会長が贈与税や相続税をきちんと払わずに先代の財産を引き継ごうとしているという疑惑である。法が求めるのは誰もが法律で定めた税金を払うことであり、経営権を継承するなということではない。財産の相続は、納税の義務を果たして適法に進めるべき。経営権の継承は株主が決めること。わずか数パーセントの株しか持たない1株主が決める問題ではないはず」と指摘した。

 一方、サムスンに好意的なメディアは、謝罪文発表で減刑となる可能性が高いと分析した。懲役3年以上の判決が出た場合、執行猶予が認められないので、李副会長は2017年に前述の朴前大統領への贈賄疑惑で逮捕されたときのように拘束されるしかない。二審では賄賂とみなされた金額が一審よりも増えており、懲役5年以上の判決が下される可能性も出ているが、判事に言われた通りに委員会を設置して謝罪文も発表したことで、情状酌量の余地があるとみなされ減刑となる可能性があるという。

趙 章恩(ITジャーナリスト)

 

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2020.5 .

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