対韓輸出管理で大きく動く韓国、大手企業に歩み寄る政府、規制も緩和、働き方改革にも特例

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日本の経済産業省は、2019年7月4日に半導体材料3品目、「フッ化ポリイミド」「レジスト」「エッチングガス(高純度フッ化水素)」の対韓国輸出管理の厳格化を始めて以来、初めてとなる輸出許可を2019年8月8日に出した。これは韓国サムスン電子(Samsung Electronics)に輸出するEUVレジストで、韓国にはまだ輸送されていないという(2019年8月16日時点)。

制限を潜り抜けて取り引き続ける日本企業

 2019年8月8日付の日本経済新聞電子版での報道(「対韓輸出、一部許可も安定輸出は見通せず」)のように、対韓輸出管理の強化が始まってから、日本の半導体材料企業も市場シェアを落とさないため、中国やベルギー、韓国にある生産拠点を利用して韓国企業へ納品を続ける計画を立てている。

 韓国の新聞「マネートゥデイ」は2019年8月12日、日本の半導体材料企業がサムスン電子の役員らに「我々が(日本)政府を説得するので取引を続けてほしい」と依頼したと報道した1)。同紙は業界関係者の声として、「(日本の半導体材料企業が)世界最高レベルの技術力を持っているとしても、サムスン電子のような大口取引先がない限り世界市場で淘汰される懸念がある」、「サムスン電子が材料の輸入先を多角化し始めたのを見て、最大の顧客をなくすわけにはいかないと動き始めたようだと」と解説した。

1)https://news.mt.co.kr/mtview.php?no=2019081213322811350&type=1

 韓国では、サムスン電子が不確実性を減らすため、日本からは一切半導体材料を輸入しない方針で動いているという報道が相次いでいた。現実には、サムスン電子も選択の幅は広い方が有利であり、日本企業を排除するということはあり得ないだろう。実際、サムスン電子と韓国SKハイニックス(SK hynix)は韓国メディアの「脱日本」報道を否定している。

 証券業界では、日本の対韓輸出管理が始まって1カ月が過ぎ、韓国半導体業界は落ち着きを取り戻しており、着々と日本に代わる輸入先を見つけ、国産化の準備をしながら日本依存度を減らし続けていると評価した。半導体供給過剰によって2019年5~6月に下落していたサムスン電子とSKハイニックスの株価は上がり続けており、「半導体株を買うなら今」という説も聞こえる。

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趙 章恩(ITジャーナリスト)

 

《日経Robo

2019. 8.

 

-Original column

https://tech.nikkeibp.co.jp/atcl/nxt/column/18/00001/02749/

5Gで盛り上がる韓国のIoT・ロボット展示会、日本の輸出管理強化が製造設備の国産化を後押し

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本記事はロボットとAI技術の専門誌『日経Robotics』のデジタル版です

2019年10月23~25日に、韓国産業通商資源部(部は省にあたる)が主催する「第22回韓国産業大展(Korea Machinery Fair)」と、韓国科学技術情報通信部が主催する「第6回IoT振興週間(IoT Week Korea)」に関連するイベントなどが開催された。

 日本でいえば、経済産業省と総務省が似たような展示会を同日程で開催したようなものだ。

 今年は5G商用サービス開始以降初とあって、いずれも5Gで既存のサービスがどう変わったのかをアピールする内容が多かった。韓国では2019年4月3日に世界初のスマートフォン向け5Gサービスが始まり、加入者は2019年9月末に300万人を突破、年内には500万人を超える見込みである。

 韓国産業大展は27カ国725社が展示に参加し、約6万人が来場した。韓国Doosan Robotics社、韓国Hyundai Robotics社などの協働ロボット、韓国Kia Motors社の自動運転車、韓国通信キャリアであるKT社の5Gスマートファクトリーが目玉だった



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韓国大手が日本離れ、サムスンは新半導体の量産計画変更なし、LGは韓国産材料を試験し「問題ない」

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日本政府が2019年7月4日0時に半導体やディスプレー製造に欠かせない3品目、「フッ化ポリイミド(透明ポリイミド)」、「レジスト」、「フッ化水素」の韓国輸出管理を発動してから、韓国でも半導体、ディスプレー、その他産業に与える影響を分析するニュースや韓国政府関係者の発言一言一言が毎日速報で報じられている。

 7月4日以降、上記3品目の対韓国輸出の手続きに時間がかかると見られたが、韓国産業通商資源部(省)の発表によると7月19日時点で「輸出許可が出たという話はまだ聞いていない」という。これを受け韓国メディアは「事実上輸出禁止」と報道している。

 上記3品目は日本への依存度が非常に高い部品で、半導体やディスプレーの製造に欠かせない。しかし日本経済新聞に報道されたように(日経新聞電子版の該当記事1記事2)、韓国サムスン電子(Samsung Electronics)は中国からフッ化水素を輸入する方向でテストを開始、韓国の部品会社の間でも“思ってもいなかったチャンス到来”という声が上がっている。

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趙 章恩(ITジャーナリスト)

 

《日経Robo

2019.7 .

 

-Original column

https://tech.nikkeibp.co.jp/atcl/nxt/column/18/00950/00006/

半導体材料の輸出規制問題、サムスンやLGの反応は?

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日本政府は2019年7月4日午前0時、半導体やディスプレー製造に欠かせない3品目、「フッ化ポリイミド(透明ポリイミド)」、「レジスト」、「フッ化水素」の韓国輸出規制を発動した。輸出をしないというわけではない。韓国に上記3品目を輸出していた日本企業は、今までは最大3年間分の輸出許可を1度に取ることができた。7月4日以降は、輸出契約ごとに許可を取る必要があるため、時間がかかる。韓国メーカーでは半導体やディスプレーの製造が計画通りにできなくなることで、納期が遅れて米国や日本のメーカーでもテレビやスマートフォンの製造に影響が出る可能性がある。韓国メーカーは7月3日までに最大限の在庫を確保し、追加される手続きを確認するなどの対応に追われた。

 韓国における2018年の輸出額は、半導体が1267億米ドル、ディスプレーが249億米ドルである。韓国メーカーは日本から、製造に不可欠な材料を3億8546万米ドル分輸入して、半導体とディスプレーを製造している。「フッ化ポリイミド(透明ポリイミド)」、「レジスト」、「フッ化水素」は日本メーカーの世界シェアが高い。韓国貿易協会の2018年のデータを見ると、上記3品目はほとんど日本から輸入している。「フッ化ポリイミド(透明ポリイミド)」は日本からの輸入が84.5%を占めており輸入額は1972万米ドル、「レジスト」は同93.2%で同2億9889万米ドル、「フッ化水素」は同41.9%で6685万米ドルだった。

 では日本から材料の輸入が遅れると、韓国経済を支える半導体とディスプレー産業は大変なことになるのか、というとそうではないようだ。韓国メディアやアナリスト、メーカー関係者の間では「短期的には混乱が生じるが、常にリスク管理しているので長期的には影響がない」という見方がほとんどだった。

 韓国内では日本政府の輸出規制をきっかけに、今まで何度も頓挫していた「材料国産化」を本気で始めるべきだという世論が沸き上がり、官民による集中投資が始まろうとしている。複数の韓国メディアは、「今までは、日本から材料を輸入するのが経済的だと見て国産化に力を入れなかった。材料の国産化に使う資金をもっと早く結果が出る分野の投資に回し、利益を最大化したかったからだ。グローバルでの半導体チキンレースの勝者である韓国サムスン電子(Samsung Electronics)が自社にとって欠かせない材料を輸入に頼るはずがない。韓国の材料産業は大きく変わるだろう」と報じた。

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趙 章恩(ITジャーナリスト)

 

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2019. 7.

 

-Original column

https://tech.nikkeibp.co.jp/atcl/nxt/column/18/00950/00007/

ソウル地下鉄駅構内に全自動植物工場がオープン、スマート農業で中東・東南アジア進出急ぐ

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2019年9月27日、ソウル市内の地下鉄7号線サンド(上道)駅構内に約200坪規模のスマートファーム「メトロファーム」と、そこで収穫した野菜を使ったジュースやサラダを販売するカフェがオープンした(図1)。

 インドア農業の1つであるバーティカル・ファーミング(垂直農法)として、ロボットが種まき、育苗、収穫など全てを行う作業員がいらない完全自動植物工場と、人が作業する植物工場の両方が駅構内に設置されている。

 ソウル地下鉄1~8号線を運営する韓国ソウル交通公社とソウル市、韓国の植物工場専門会社Farm8社が協力し、地下鉄駅構内の余ったスペースを活用しながら、韓国政府が力を入れているスマートファームをソウル市内で体験できるようにするのが狙いである。

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趙 章恩=(ITジャーナリスト)

 

《日経Robo

2019.10 .

 

-Original column

https://tech.nikkeibp.co.jp/atcl/nxt/mag/rob/18/00006/00039/

AIでの画像認識に向けイメージセンサなど、非メモリ系に注力のSamsung、政府も支援

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2019年8月12日、韓国Samsung Electronics社は画素ピッチが0.8㎛で1億800万画素のイメージセンサ「ISOCELL Bright HMX」を公開し、8月後半に量産を開始すると発表した(図1)。デジタルカメラ向けのイメージセンサは1億画素を超えるものが既に存在するが、モバイル向けで1億画素を超えたのは今回が初とする。

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趙 章恩(ITジャーナリスト)

 

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2019. 9.

 

-Original column

https://tech.nikkeibp.co.jp/atcl/nxt/mag/rob/18/00006/00037/

孫氏が韓国文大統領に人工知能をイチオシ、スタートアップや大学など若手で盛り上がり

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韓国ソウルの展示会場COEXで、2019年7月17日から19日まで「AI EXPO KOREA 2019」が開催され、同時に「AI/Data Transformation Conference」や「AI EXPO KOREA SUMMIT」などのセミナーが行われた(図1)。展示会には5カ国127社が出展した。

 展示会開催の2週間前にあたる7月4日、ソフトバンクグループ会長の孫正義氏が韓国を訪問し、文在寅大統領と面談した。大統領官邸が公開した面談内容によると、孫氏は「韓国が集中すべき分野は一に人工知能(AI)、二にも人工知能、三にも人工知能」と文大統領に話したという。文大統領が孫氏に韓国のAI人材育成に関する支援や若い起業家に対する投資を求めたところ、孫氏は「I will」と答え、「世界が(韓国の人工知能分野へ)投資するよう手助けする」と述べた。

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趙 章恩(ITジャーナリスト)

 

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2019. 8.

 

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https://tech.nikkeibp.co.jp/atcl/nxt/mag/rob/18/00006/00035/

独米日中の製造大国へ割り込み狙う韓国、中小からSamsung・LGまでスマート製造に投資

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2019年6月20日に、韓国ソウルの展示会場COEXで「International Smart Factory Conference & Expo」が開催された。製造業の競争力を高めるため、韓国政府がサポートしソウルと釜山で実務者向けに開催されているイベントである。カンファレンスでは中央省庁の中小ベンチャー企業部(部は省に当たる)、韓国Samsung SDS社、三菱電機、フランスSchneider Electric社などが事例を発表した。

 中小企業ベンチャー企業部の事務官Park Ji-Hwan氏は、中小企業を支援する「スマート製造革新」政策を紹介した。「ドイツのインダストリー4.0をはじめ米国、日本、中国など、主要国の政府は製造業のスマート化を後押ししているが、韓国は政策の面で出遅れた。

 ただし韓国はIT強国で、ロボット普及率は世界1位、経験豊富で技術力を備えた大手企業と優秀な人材を保有しており、まだ追いつける。製造業のスマート化によって大手企業と中小企業の差が開き過ぎないよう、2022年までに中小企業のスマートファクトリーを3万カ所に増やし、2030年までにスマート産業団地を20地域に整備する。

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趙 章恩(ITジャーナリスト)

 

《日経Robo

2019. 7.

 

-Original column

https://tech.nikkeibp.co.jp/atcl/nxt/mag/rob/18/00006/00033/

【AI時代に立ち向かう韓国】超スマート社会の一歩は教育革命から #4 子どもたちの日常の中にあるAI

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いよいよ始まった5G

IT強国を自負する韓国では毎月のように全国各地でIT展示会が開催されている。4月末にはソウル市内にある展示場COEXで、主に韓国の通信事業者とスタートアップのITサービスとデバイスを展示する「World IT Show」が開催された。会場は韓国が世界初スマートフォン向けサービスを始めた新しい超高速モバイルネットワーク「5G」と「AI」に染まっていた。

韓国では2018年12月1日に企業向け、2019年4月3日にスマートフォン向け5Gサービスが始まった。5G加入件数は、サービス開始から5日過ぎた4月8日時点で10万件、5月26日には60万件を突破した。6月末には100万件を突破する見込みで、予想より速いスピードで5G加入者が増えている。

韓国の5G料金プランは通信事業者ごとに若干違いはあるものの、平均的に月約8,000円で150GB分が使え、月約1万3,000円でデータ使い放題である。料金プランにはデータ+音声通話・SMS使い放題、OTTサービス、メンバーシップ(コンビニやレストランなどでの割引特典)も含まれている。5G対応スマートフォンもサムスン電子の「Galaxy S10 5G」とLG電子の「LG V50 ThinQ」2種類があり、高画質の大画面で超高速、超低遅延が特徴の5Gを経由してOTTやオンラインゲームを楽しめる。韓国の通信事業者LGユープラスは5G基地局にファーウェイの技術を選択した。5Gサービスはまだ首都圏と大都市が中心で、2022年までに全国カバレッジを目指している。

エンターテイメントから工場まで
5Gだからできること

World IT Showでは視聴者が好きなアングルを選択できる野球やゴルフなどのスポーツ中継、eスポーツ中継、自動運転シャトルバス、VR、ホログラム、ドローンを使った防災・セキュリティ、遠隔診療、ヘルスケアなど幅広いジャンルのサービスを体験できた。5Gは現在のLTEより伝送速度が最高で100倍(10Gbps)の超高速、LTEの1/10に過ぎない1ミリ秒程度の超低遅延、1km²当たりの接続機器数もLTEより最高100倍(100万台)で同時多重接続可能なのが特徴であり、どの展示コーナーでも5Gだからこそ実現できるという点を強調していた。

スポーツ中継やOTT動画サービスにしても、LTEでは安定した4K高画質のストリーミングは難しかったが、5Gだと再生をクリックすると同時にローディングもなく動画が始まり、途中で低画質に切り替わることなく安定的に4K動画を視聴できた。造船所や中小企業のスマートファクトリーなどLTEから5Gに切り替えるところも増えているそうで、企業ではどのように5Gを利用しているのかも紹介していた。作業員がカメラの前を通る1秒以内に安全道具をちゃんと身に着けているか把握してアラートを鳴らす、360度高画質カメラで転倒や煙発生などを感知して通報する、AIによる外観検査もLTEから5Gに切り替えるとサーバーとの通信速度が上がってよりスピーディーかつ正確になったなど、すでに5Gによっていろいろな変化が起きているのがわかった。

学生たちがアイデアを披露する
「ICT未来人材フォーラム」

展示場の別フロアでは「ICT未来人材フォーラム2019」が同時開催されていた。韓国政府と複数の大学が共催したイベントである。全国30以上の大学にある「ICT研究センター」で大学生らが研究開発したホログラムコンテンツ、頭にヘッドフォンのようなものを付けてモニターを見ながら脳波を使って遊ぶ空を飛ぶゲーム、より軽くて長く飛べるドローン、建物の入り口に設置し出入りする人から花粉や埃を払うIoTエアーシャワー(空気洗浄機)、自動運転シミュレーションなどが展示してあった。会場内には学部生から博士課程まで学生らが自分の研究を紹介、学生が立ち上げたスタートアップを紹介するプレゼンテーションコーナーもあった。二十歳前後の若い大学生が、積極的に自分がしていること、したいことをアピールする姿に感動してしまった。

学生らの資料は韓国語と英語で用意してあって、英語も堪能だった。World IT Showは外国人も来場する有名な展示会だからかもしれない。学生のスタートアップは政府も支援しており、随時優秀なアイデアを募集していて、企画書が通れば政府のインキュベーションセンターに入居できるほか、アイデアをビジネス化できるよう専門家のアドバイスも受けられ、国内外の投資家の前でピッチできるチャンスももらえるのだとか。

また展示と研究発表を熱心に聞いている見学者の中には制服を着た高校生も多かった。韓国政府が力を入れている特性化高校(科学高校、情報通信高校など、特定分野の科目を重点的に教える高校)の学生たちで、先生と一緒に見学に来たそうだ。年齢の近い先輩が活躍する姿を見られる展示会はモチベーションアップにつながるだろう。

遊びも勉強も
子どもの日常に浸透するAIスピーカー

教育に関する展示で面白かったのは、通信事業者が提供するディスプレイ付きAIスピーカーである。韓国では子育て中の家庭の多くがAIスピーカーを使っている。子どもの学習サポートのためである。歌を歌ってくれる、絵本を読んでくれるといった機能よりもよく使われているのが、会話機能。AIスピーカーは子どもの「○○って何?」「何で?」「どうして?」と果てしなく続く質問攻撃に忍耐強く付き合ってくれるので、保護者にとっては大助かりである。

韓国のAIスピーカーは韓国の企業が開発したAIを搭載し、韓国語の自然語認識率が高いことを売りにしている。質問の意図を把握して答えてくれるので、とんちんかんな答えをすることもなかった。質問ではなく「今日は友達とたくさん遊んで楽しかった」と話しかけると「よかったね、君が楽しいと私もうれしい」と答えてくれたり、子どもの話し相手にもなってくれる。外国語も話せるので、英語や日本語、中国語の会話練習の相手もしてくれる。クイズ大会やしりとりゲームもできる。IBMが開発したAI「Watson」に韓国の学習塾が保有しているデータを学習させ、子ども一人ひとりに科目ごとにぴったりの学習サポートを行い、データ分析を繰り返して弱点を補い成績を上げる、というサービスも登場した。

展示場にあったSKテレコムの7インチディスプレイ付きAIスピーカー「NUGU nemo」は、AIスピーカーの機能に加え、今や韓国だけでなく米国の子どもたちにも大人気の歌「サメのかぞく」をヒットさせたPINKFONG社のアニメや学習コンテンツを搭載している。動作認識機能で子どもとじゃんけん遊びもできる。面白いのは、子どもの顔がディスプレイから15cm以内にあると、絵本や動画の表示をストップして「もっと離れて」と表示することだ。子どもの視力保護のため、5分おきに距離を確認し近づきすぎないようにする。またディスプレイをスタンド照明として使うこともでき、ナイトモードにすると灯りがだんだん消えて睡眠を誘導する機能もある。さらに、家族の写真を飾るデジタル額縁にもなる。


展示場にはなかったが、LG電子もAI搭載ホームロボット「CLOi」を子ども用学習サポートロボットに改良して3月からテレフォンショッピング経由で販売を開始した。大手学習塾もAIで学習をサポートする機能を搭載しただけでなく、子どもを褒めて学習意欲を高める会話機能まで付いたディスプレイ付きAIスピーカーの販売を始めた。韓国の親たちは子どもの教育のためにはお金を惜しまないだけに、AIスピーカーやロボットも大人向けよりは子供向け+大人も使える機能を搭載した方が売れるのかもしれない。通信事業者3社によると、2019年末には全世帯の4割がAIスピーカーを保有する見込みである。このように、子どもの日常の中にもしっかりAIが入ってきている。


趙 章恩=(ITジャーナリスト)

 

HUAWAVE

2019.6.

 

-Original column

【AI時代に立ち向かう韓国】 超スマート社会の一歩は教育革命から #3 子どもの未来のために学校で「しなくなった」こと

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小学校ではVRを使った授業も行われている。安全教育の一環でVRを使用している様子

韓国の教育現場はAI導入、AI時代に向けたクリエイティブな人材育成を目指し変わり続けている。最も大きな変化を迎えたのは小中高校である。AI時代を生きることになる今の子どもたちに何を教えたらいいのだろうか。その悩みから、学校では新たにするようになったことと、しなくなったことがある。

教科書だけでなくすべてをデジタル化
学級SNSで遠隔授業参観も

まずするようになったのは、教室のデジタル化とスマートラーニング導入、ソフトウェア教育である。

韓国は1990年代からデジタル教科書研究が始まり、デジタル教科書を使ってみたいと申請した一部の学校を研究学校に指定して、10年以上かけてデジタル教科書の導入と、デジタル教科書を使って授業をするための校務情報化、学校情報化、教育向け電子資料開発、デジタル教室、Eラーニングといった環境作りに励んできた。デジタル教科書で授業をして紙でテストをするのではなく、授業も評価もオンライン上で実施し、学校で生徒と先生が行うことすべてを情報化するための変化である。

韓国では1998年に一般家庭でもブロードバンドを使えるようになると、政府が全国の学校のホームページを開設、「家庭通信文」と呼ばれる保護者向けの案内事項を書いた配布物をホームページに掲載することでペーパーレスにした。先生全員の名前と写真、学校の年間スケジュール、給食の献立、学校で行ったイベントの写真など、学校で何をしているのかが保護者たちに見えるようホームページに公開するようになった。


1998年頃から全国の学校がホームページを開設し、学校の情報を公開するようになった。家庭通信文もホームページに掲載し、ペーパーレスに。どの学校のホームページも構成は同じで、生徒数や先生の紹介など全般的な情報、年間スケジュール、学習計画、給食メニュー、学校イベントの写真、電子図書館、教育関連情報サイトリンク、政府サイトリンクなどがある

現在は学校ホームページに加えてクラス別に学級SNSがあり、担任の先生が認証した学生と保護者だけが会員登録できるようになっている。予習しておくべき資料の案内、その日の授業内容や宿題の告知、子どもたちが自宅でやった宿題の登録、授業中発表した内容などを掲載し、子供の成長記録にもなっている。

小中高校ではデジタル教室が普及したこともあり、今は子どもたちが授業中討論した結果をその場でパワーポイントにまとめて発表する授業が頻繁にあるため、授業で子どもたちが作成したパワーポイントの資料もすべて学級SNSに掲載し、学級SNSを電子黒板とつないで資料を開いて発表するようになっている。先生によっては子どもたちが発表する様子を動画で撮影して学級SNSに載せてくれることもあるので、保護者にとっては会社や自宅にいながら授業参観ができてしまう。

学級SNSには保護者から先生へコメントを書き込めるようになっている。取材した仁川市の小学校によると、先生への頼みごとやクレームの書き込みはほとんどなく、「今日もお疲れさまでした」「いつも楽しい授業をありがとうございます」といった感謝のコメントが多く寄せられるという。確かに今までは先生に感謝の気持ちを伝える場もなかった。最初は学級SNSなんて余計な仕事が増えただけだと嫌がる先生もいたが、今は保護者との距離も縮まり、子どもたちも学級SNSにどんな写真や動画が載るか楽しみにしているので負担にならないそうだ。

2011年には政府が「スマート教育推進戦略」を発表し、モバイルラーニング環境を前提にしたスマート教育活性化のための著作権法整備、教育関連法整備、教授学習法先進化などを本格的に進めた。デジタル教室もノートパソコンからタブレットPCへ、デジタル教科書は2Dから3DやVR、ARまで使うようになった。学級SNSもパソコン向けからスマートフォン向けに切り替わった。

子どもの教育のためならICT導入もいとわない
教育格差もデジタルデバイドも解消

韓国が目指すスマート教育は、1990年代にデジタル教科書の研究を始めた時と同じく、「希望のはしご」を作ることである。過疎地域に住んでいても、障害があっても、塾に通えなくても、本を買うお金がなくても、みんなに均等な教育のチャンスを与えるため、いつでもどこでも好きなだけ学びたいことを学べる環境をつくることが政府の役割であり、それをうまく活かして子どもたちを導くのが学校や先生、保護者の役割という考え方である。

学校で情報化の推進に力を入れた影響からか、韓国ではデジタルデバイドが大きな問題になることはなかった。子どものためなら何でもする親心から、保護者たちは子どもの学校のホームページにアクセスするためブロードバンドに加入したり、スマートフォンを買ったりと、積極的だった。

取材先の小学校で、「家でインターネットを使えないからプリントのままでいい」という保護者はいなかったか聞いたところ、「いない。ホームページから見られる方がプリントをなくす心配もなくていいから」ときっぱり。韓国では自宅でブロードバンドを使うとしても、工事費やルーターのレンタル費込みで月2,000円以下、低速のインターネットは月1,000円以下で、家計の負担が大きくなく、低所得層の場合は無料でインターネットが利用できることも影響しているだろう。

デジタル化で社会性や幸福感が向上
人文と科学の両輪で育てる融合型人材

韓国政府傘下のデジタル教科書研究機関が2013年、1年間デジタル教科書を使った学生20人と紙の教科書を使った学生20人の脳機能の活用状態を比較したところ、デジタル教科書を使った学生の方がより広範囲に多様な情報処理を行う脳の領域が相互作用を起こす傾向があり、宿題をする時のストレスが低いという特徴があった。デジタル教科書を使った学生の方が社会性が高く、先生との関係満足度、学校にいる時の幸福感が若干高いという実験結果もあった。デジタル教科書は多様な資料を使える分、先生や学生同士のコミュニケーションも活発になるからかもしれない。

デジタル教科書からステップアップし、韓国政府は2015年、「クリエイティブで融合型人材」を養成することを目標に教育課程を全面改訂した。韓国政府が求める融合型人材とは、「人文学で想像力を育て科学技術で創造力を供えた人材」を意味する。この改定により、2018年から中学校で、2019年から小学校で、正規科目としてソフトウェア教育が始まった。高校では2018年から選択科目になった。もちろん、現職の教師と教育大学に在籍している未来の先生を対象にソフトウェア教育を行い、教える先生がいないという問題も解消した。

前回紹介したように、ソフトウェア教育はプログラミングができる人を育てたいというよりは、論理的に問題を解決していく考え方を身につける、コンピュテーショナルシンキング(computational thinking)を教えるのが狙いである。同時に小学校では教室の外で行う体験授業を拡大し、新たに芸術性を高めるため地域の芸術団体と連携して演劇教育の時間を増やすようになった。

中1の1学期はテストなし!
自分と向き合うための「自由学期制度」

一方で、AI時代に備え、学校でしなくなったこともある。

中学校1年の1学期は中間テストも期末テストをしなくなった。自由学期制度といって、自分は将来どんな人になりたいか、自分にとって楽しいことは何か、どんなことなら楽しく続けられそうか、学校の授業から離れて自分のことだけをじっくり考える時間を中学入学と同時に与えている。学校には行くが、スポーツをしたり、外部の講師を行う講演を聞いたり、体験学習に行ったり、自分と向き合う時間を重視する。

自由学期制度は2014年3月に全国42の中学校が導入し、その効果が認められ2016年から全国の中学校で行われている。2018年からは校長先生の裁量で、約半数の中学校が1年の1学期だけでなく年間まるごと自由学期にしている。

今の韓国は就職が大変厳しく、名門大学に入学しないと就職ができず所得も思うように得られない。大学入試に向けた受験レースはどんどん年齢が低くなり、幼稚園児から大学受験に備えた英才教育をするほど過熱するばかりだ。少子化といっても、その分AIに仕事を取られますます就職の競争率が上がるのではないか、どんな仕事なら人間を必要とするのか、という悩みもある。誰も予測できないのが未来だが、自分がしたいことは何かのヒントが見つかれば、時代がどう変わろうと希望を持てるだろう。

高校では、学校側が時間割を決めて授業を行うのをやめようとしている。大学と同じように好きな科目を選んで一定の単位を取ったら卒業できる「高校学点制度」に変える方針で検討が行われている。目標としては2025年から全面的に導入する計画で、現在は一部の高校を先導学校に指定し、実証実験をしている。この制度も同じく、大学入試がすべてだった高校生活を変えようという動きである。

次回も韓国が目指すAI時代の人材、学校の変化について続けて紹介する。


趙 章恩(ITジャーナリスト)

 

HUAWAVE

2019.4.

 

-Original column

https://huawave.huawei.com/articles/detail/139