次世代産業をベンチャーで育てる韓国

.

輸出依存の経済から脱し、IT産業を中心とした新分野におけるグローバル競争力を強化すべく、韓国政府は積極的にその支援策を打ち出している。とりわけ、ベンチャー企業への投資環境整備によって個人投資家を呼び込む施策は、高度な技術を持つ企業の育成の観点からも、その成果に期待が持たれている。

電気自動車やドローン…
規制フリーゾーンを設置

 アメリカの大手経済通信社・ブルームバーグは2016年1月、今年の「The Bloomberg Innovation Index」において、「世界で最も革新的な国は韓国」と発表した。

 同社が、「研究開発」「特許登録」などの項目別に各国の指標を出し、各国の「革新度」をランキングにしたものだ。韓国はこれで、2014年から3年連続の1位獲得となる。

 韓国メディアでは、「韓国が1位? イノベーションすべき国の間違いでは?」と、半ば自虐的なコメントも見られたが、韓国では今、経済振興のためのコア施策として、IT産業を中心とした新産業のグローバル競争力強化のため、政府による支援や民間の投資が活発に行われていることは事実である。


韓国14エリアの「規制フリーゾーン」とテーマ
拡大画像表示

 そんな中、2015年12月に政府が「規制フリーゾーン」の設置を発表したことが、さまざまな所で取り上げられた。

 2016年6月から、IT産業と他の産業の融合を促進すべく、ソウルおよびその近郊都市である京畿道(注1)以外の14都市において、地域ごとに新産業を育成するためプロジェクトを決め、政府は、その遂行に障壁となる規制を一切設けないというものだ。

 地域経済活性化戦略の一環でもあり、新しいサービスを地方都市で一足先にテストすることで、地域で研究開発に携わる人材を育成、ひいては雇用を拡大する狙いもある。

 例えば、2018年に冬季オリンピックが開催される平昌(ピョンチャン)のある江原道ではスマートヘルスケア、済州島の属する済州道では電気自動車、全羅南道はドローン……という具合に、各エリアごとに異なるテーマが設定されている(図参照)。


注1 「道」は日本の「県」に相当


国が支援するベンチャー向け
クラウドファンディング

 こうした規制緩和の他に、もう一つの大きな柱として挙げられるのが、ベンチャー企業の育成策である。

 2016年1月、韓国預託決済院(注2)が運営するウェブサイトで、個人が小口でベンチャー企業に投資を行うための情報提供が始まった。韓国預託決済院は、投資の仲介を行う企業5社の情報を開示する共に、投資家から現物の株を預かり、投資家の名簿や投資に関する記録を管理する。あるいは、投資仲介企業と連携し、投信限度額の確認なども行う。

 さらに、1月25日からは、一般の個人でもスタートアップ段階のベンチャー企業に手軽に投資できる「証券型クラウドファンディング」制度も始まった。

 これまでは、機関投資家か、大口の個人投資家が投資し、上場させて利益を得るというのが、通常のベンチャー企業投資のパターンだった。

 「証券型クラウドファンディング」では、個人から資金を集めたい企業が仲介サイトに事業計画書を投稿し、それを見た個人投資家は、気に入ったベンチャーに小口投資して、金額分の(株式ではない)「証券」を手に入れる。

 投資家には、「証券」を1年間以上保有する義務が課せられるが、その後は自由に売買が可能だ。金融投資協会は今、「証券型クラウドファンディング」専用の「非上場証券」オンライン取引所をオープンする準備を行っている。

 ただし、この制度を利用できるのは、原則として、自己資本5億ウォン(2016年2月3日現在、約4838万円)以上で、設立7年以下の未上場ベンチャー企業のみ。調達限度額は、最大7億ウォン(同、約6773万円)だ。

 一方、個人投資家の投資限度額は、原則として1企業あたり年間200万ウォン(同、約19万円)、年間で500万ウォン(同、約48万円)までとされている。

 さらに政府は、「証券型クラウドファンディング」を活性化するため、同制度で資金集めに成功したベンチャーに対し、集めた資金と同額を、国策銀行が組成する「成長梯子ファンド」の予算から拠出する。

 例えば、「証券型クラウドファンディング」で7億ウォン集め企業には「成長梯子ファンド」から7億ウォンが提供され、資金は合計14億ウォンになるため、ベンチャー企業にとっては、格好の資金調達の場となる。


注2 韓国預託決済院:韓国預託決済院は証券取引法により1974年に設立、金融委員会(政府省庁)傘下にある公共機関。株式や債券などの有価証券預託を受け、証券預託証券(KDR)を発行することで、韓国企業の株を海外で取り引きする際の手続きを円滑にする業務などを行う。

ベンチャーに過去最高の
投資額が集まったわけ

 IT関連産業だけではない。政府は、再生可能エネルギー産業への投資も増やしていて、2017年まで研究開発に7兆ウォン(2016年2月3日現在、約6773億円)を投資し、官民合わせて4兆5000億ウォン(同、約4354億円)のファンドを組成して、これらの分野のベンチャー企業に投資する。

 バイオ・ヘルスケア産業も同様に、官民合わせて1500億ウォン(同、約145億円)規模のファンドを組成して新薬開発に投資。メディカルツーリズムで韓国を訪れる外国人を、2015年の28万人から2016年には40万人まで増やし、医療観光分野を発展させて行く考えだ。

 中小企業庁が1月19日発表した「2015年ベンチャーファンド投資動向」によると、韓国内のベンチャー企業1045社への投資額総計は、2兆858億ウォン(同、約2018億円)に上った。そのうち、IT関連のベンチャー企業への投資額が最も多い5738億ウォン(同、約555億円)と全体の27.5%を占めている。

 2014年の投資額総計が、1兆6393億ウォン(同、約1586億円)だったので、1年で27.2%増加したことになる。さらに、海外から720億ウォン(同、約70億円)の投資があったので、合わせると2兆1578億ウォン(同、約2087億円)ということになる。

 2000年のベンチャー企業ブーム絶頂の頃の投資総額は、2兆211億ウォン(同、約1956億円)であり、昨年の投資総額は、過去最高額を更新した。最近は、起業を支援する投資会社の新規設立も増え、2015年だけでも新たに設立の届け出をした会社が14社あった。

 しかし、なぜこれほどまでに、ベンチャー企業への投資額が増えているのだろうか。

 もちろんそれは、高いリターンが得られるからだ。ベンチャー投資ファンドの年平均収益率は、2011年の2.54%から、2015年には7.48%まで増加したが、その背景には、ITや医療関連ベンチャー企業の好調があるといえるだろう。

 韓国ベンチャーキャピタル協会の資料(2015年度)によれば、2014年度の投資利益率は51.3%であり、上位主要分野の成長率は、ゲーム関連281.9%、IT関連サービス123.6%、バイオ・医療関連113%となっている。

 また、前出の「2015年ベンチャーファンド投資動向」によると、投資資金の回収方法としては、投資先ベンチャー企業の上場によるものが27.2%、投資先への買収・合併によるものが1.5%と、圧倒的に上場によるものが多くなっている。


2000年のベンチャー
投資ブームとの違い

 近年、ベンチャー企業の上場が促進された背景には、2013年に中小企業専用株式市場のコネックス(KONEX)が開設された影響も大きい。最近では、コネックスに上場し、従来からある中小・ベンチャー企業向けの証券市場であるコスダック(KOSDAQ)に移行するパターンが増えてきた。

 ここが、2000年のベンチャーブームの頃との大きな違いだ。証券市場が多様化し、小さな企業が成長しやすい環境ができことで、投資家のマインドも当時とは大きく異なってきている。

 2000年当時は、IT関連の投資が増えているという報道や、コスダックの上場条件が緩和されたことなどもあって、「よく分からないけど、ITがはやっているから投資してみよう」という雰囲気が漂っており、要するに投機的な投資家が多かった。

 しかし、現在は、ベンチャーキャピタルが増えたことや、個人投資家にも、FinTech(フィンテック、金融とICTの融合)、ヘルスケア用センサー、ドローン、人工知能などの分野で、明確に新しい技術を持っているベンチャーに投資したい、という人が増えている。

 なお、韓国取引所の発表によれば、2015年上半期にKOSDAQに上場した主要業種別の時価総額割合は、半導体関連8.8%、IT部品関連5.7%、ソフトウエア関連4.4%、インターネット関連4.6%、コンテンツ関連7.7%、バイオ・ヘルスケア関連19.5%、だった。

 こうした韓国のベンチャー企業投資市場の変化は、海外からの投資を呼び込む原因にもなっている。

 2015年7月、アメリカ・クアルコム社のポール・ジェイコブス会長が韓国を訪問した際に、1000億ウォン(2016年2月3日現在、約97億円)規模の韓国スタートアップ企業への投資計画を発表。モバイル、ウェアラブル、ビッグデータなどの主要分野において、前出の「成長梯子ファンド」と基本合意書を締結した。

――このように韓国は、世界経済に左右されながらも、次の時代のグローバル競争力強化のため、IT産業を中心に「世界のどこよりも早く新しいことをやってみよう」という熱気に包まれている。



趙 章恩=(ITジャーナリスト)

 

ダイヤモンド online

「コリア・ITが暮らしと経済をつくる国」

2016.2.

 

-Original column

http://diamond.jp/articles/-/85644

韓国は今、本当に不景気なのか

.

中国経済の失速やアメリカの金利引き上げは、韓国経済にも大きな打撃を与えている。だが一方で、韓国では官民を挙げ、新しい市場創造のためのさまざまな取り組みも行われている。今回は、韓国が最も力を入れるIT分野の新産業・新サービスの今について紹介しよう。

韓国経済を見通す
統計に国の策は?

koreagrobal不安定な国際情勢で波乱の幕開けとなった今年の韓国経済。政府の予想成長率は3.1%。 ©Fotolia_76206627

 2016年が明けてすでに22日。だが、旧正月を盛大に祝う韓国では、新年はこれからという空気も漂っている。

 この年末年始は、慰安婦問題の日韓合意、北朝鮮の水爆実験、韓国経済と密接な関係にある中国経済事情の悪化など、落ち着かない日が続いた。

 特に、輸出中心の韓国経済において、中国の経済成長鈍化、アメリカの金利引き上げ、原油価格下落といった外部要因の影響は日本以上に大きい。

 韓国銀行の経済展望によると、経常収支は、2015年に1075億ドルの黒字が、16年には980億ドルまで減少すると見込まれている。韓国の民間シンクタンクの経済予測はこれよりも厳しく、とりわけ、不動産バブル崩壊が噂される中、不動産を担保にした家計負債が問題になる可能性も挙げている。

 これまでは伸び続けていた国内の消費も、中国の株価暴落や北朝鮮の水爆実験といった外部要因で不安が広がったことや、暖冬で冬物衣料などが売れず、年末年始には減少した。

 OECDの2016年経済成長率展望によると、韓国の成長率は3.1%、その他、日本は1.0%、アメリカは2.5%、中国は6.5%と、総じて主要国の経済成長率は鈍化傾向にあり、さらに、外資系銀行が予測した韓国経済の平均成長率は2.9%だった。

 こうした経済状況下、韓国の経済政策を決める省庁の企画財政部(注1)も、OECDと同じく2016年の経済成長率を3.1%と予測した。15年の経済成長率は2.7%だったから、0.4%の伸びを見通していることになる。

 その根拠として政府が挙げるのは、消費・投資促進政策による景気回復だ。これにより、消費者物価指数上昇率が、2015年の0.7%から16年は1.5%まで拡大、15~64歳の雇用率も2015年の65.7%から16年には66.3%まで拡大すると見込んでいる。これは、朴槿恵大統領が、2013年の就任当時に公約した「雇用率70%の達成」に近い数字でもある。


注1 韓国中央官庁の「部」は日本の「省」に相当 


IT産業は名実ともに
韓国経済をけん引するか

第1回第2回で触れたように、国自らが電子政府の整備を進める韓国では、ITを国のコア産業と位置付けている。

 先ごろ、韓国情報産業連合会が、韓国IT企業の管理職300人に行った「2016年経済展望」の調査結果によると、68%が「韓国のIT産業の景気は横ばいか良くなる」と答えた。

 とはいえ、IT産業も輸出中心の産業なので、海外市場の影響を甘んじて受け容れざるを得ないし、世界全体にあまり明るいニュースがない中、韓国のIT産業だけが好調でいられるはずもない。

 それでも回答の中では、「ICBM」(IoT、Cloud、Big data、Mobile)をベースにした新しいビジネスが生まれ、企業利益の拡大が期待できるとする意見が多かった。同時に、回答者らが「2016年に投資を優先する」と答えた分野は、IoT(物のインターネット)、FinTech(フィンテック、金融とICTの融合)、ドローン、人工知能、スマートカー(自動走行車)、セキュリティ、O2O(Online To Offline)だった。

 実際、韓国のIoT市場は順調に成長しているようだ。

 未来創造科学部が今年1月19日発表した「2015年IoT産業実態調査」によると、2015年の韓国のIoT市場規模は4兆8125億ウォン(2016年1月21日時点で約4593億円)(注2)であり、前年比で28%増加した。

 IoT関連企業の業種別シェア分析では、IoTを活用したサービス分野が45.5%と最多であり、デバイスが26.3%、ネットワークが14.4%。さらに、IoTサービス企業のサービス内容別では、スマートホーム、ヘルスケア、迷子防止の3分野が売り上げ上位を占め、その他、売り場案内、Fintech、観光案内といった分野でIoTの活用が増えていた。

 未来創造科学部はこの調査を基に、2016年はよりいっそう、IoT分野での起業を支援する方針を打ち出している。


注2 関連企業1212社の売上総額による


モバイル決済急成長で
「○○Pay」誕生の嵐

 IT産業の中でも、その急成長が実際に誰の目にも見えるのが、モバイル端末による決済サービス市場だ。これが、FinTech市場の拡大を大きく後押ししている。そして、その象徴ともいえるのが、2015年8月に正式にサービスを開始した「Samsung Pay」(サムスンペイ)であり、韓国のモバイル決済市場を大きく変えたともいわれている。

spスマートフォンによるモバイル決済拡大が、韓国フィンテック市場の起爆剤に ※写真はイメージ ©Fotolia_100162609

 今までのモバイル決済は、日本でも使われているNFC(近距離無線ネットワーク)方式が主流であり、これだと店舗に専用読み取り機がないと決済ができないため、韓国ではなかなか普及が進まなかった。

 「Samsung Pay」は、従来の磁気カードの読み取りに使うMST(マグネチック決済方式)と、NFC方式の双方に対応できる機能を搭載したモバイル決済システムであり、これならば、従来のプラスチック・クレジットカード決済用の端末にスマートフォンを近づけるだけで決済が可能となる。

 そもそもクレジットカード社会である韓国だけに、ほぼすべての店舗で「Samsung Pay」が使えるというわけだ。本人のクレジットカードをスマートフォンに登録し、指紋認証をして決済する仕組みなので、セキュリティも担保されている。

 サムスン電子の最新ハイエンドスマートフォンがないと利用できない決済サービスであるにも関わらず、「Samsung Pay」を使った決済額は、サービス開始3カ月で2500億ウォン(2016年1月21日時点で約239億円)を突破した。

 韓国メディアによると、このようなモバイル決済での総支払額は、2015年7~9月の3カ月だけで6兆2250億ウォン(同約5942億円)を突破したという。

 前年同期が、約3兆9300億ウォン(同約3751億円)だったというから、いかに急成長しているかが分かるだろう。

 「Samsung Pay」の勢いに続けとばかり、「カカオペイ」「ペイコ」など、スマートフォン経由での決済サービスが今、韓国で続々登場している。LG電子も「LG Pay」のサービスを始める予定の他、デパートや大手ディスカウントストアも独自の「○○Pay」を準備している。

 2016年には、韓国で初となる無店舗インターネット専用銀行が登場する。インターネット専用銀行は、ソーシャルメディアのIDが口座番号の代わりになり、人に代わって人工知能がオペレーターとなって顧客の質問に対応したり、また、インターネット上のサービス利用履歴から顧客の信用度を分析し、貸出金額を決めたり金利を決めたりするそうだ。

 韓国では、こうした新しいITサービス産業と、その関連産業分野への投資熱が高まっていて、国もこれらの産業を中心とした新市場のプレーヤーに投資しやすい環境を整えようと、さまざまな政策を打ち出している。次回は、その実情について紹介してみたい。



趙 章恩=(ITジャーナリスト)

 

ダイヤモンド online

「コリア・ITが暮らしと経済をつくる国」

2016.1.

 

-Original column

http://diamond.jp/articles/-/85038

マイナンバーが生活者の味方になるには?

.

今月から運用が始まった「マイナンバー」に、個人情報保護の側面などから懸念の声も聞かれるが、「住民登録番号」を半世紀近く前から導入している韓国では、これまでどのような危険が発生したのか。また、それらにどのような防衛策があるかを考えてみよう。

韓国で後を絶たない
個人情報の不正流出


規制強化も流出は止まず 第1回では、韓国社会に住民登録番号が浸透し、それがITで管理されることで、行政や民間が提供するサービスの手続きが合理化され、国民生活に便宜を与えている現状について、いくつかの例を挙げながらお話しした。

 しかし、今月からマイナンバー制度の運用が始まった日本では、制度導入前から「国の監視が強化され、プライバシーがなくなる」「番号が盗まれたら個人情報を全部見られる」など、国民の間では、どちらかというと「マイナンバーは怖い」という意見が、マスコミの報道でもネット上の書き込みなどでも目立っていたようだ。

 たしかに、少なくとも「番号が盗まれたら……」という懸念に関しては、決して考え過ぎではないと思う。現実に韓国では、オンラインショッピングやオンラインコミュニティサイトで個人情報がハッキングされる事件が後を絶たないのだ。

 住民登録番号は個人情報の最たるものであり、戸籍、住所、税金、社会保険、年金、出入国記録などと紐づけられている他、銀行口座の開設やクレジットカードの取得、不動産からインターネット、携帯電話の契約に至るまで、広い範囲で登録が求められる。住民登録番号が盗まれるということは、これらの重要な個人情報が危険に晒されるということにほかならない。

 近年の大きな企業保有の個人情報漏えい事件といえば、2014年1月、KB国民カード、NH農協カード、ロッテカードの韓国大手クレジットカード3社で、のべおよそ1億400万人分の住民登録番号などが流出したケースがある。これはハッキングによるものではなく、3社のセキュリティシステム構築を請け負った会社の社員が、個人情報ブローカーへの売却目的で盗み出したものだ。

 少し前の話だが、2011年7月、中国人ハッカーが韓国の大手ポータルサイト「NATE」と、同社のソーシャルメディア「Cyworld」をハッキングし、3500万人分の住民登録番号を含む個人情報を盗んだことがある。

しかし管理にも問題が

 ここまで来ると、韓国人のほとんどが個人情報を盗まれた経験を持つと言ってよいかもしれない。かくいう筆者も、会員登録していたオンラインショッピングモールやコミュニティサイトがハッキングされたことで、個人情報が漏えいしてしまったことが何度かある。

 ある時は、犯人が私の個人情報を消費者金融に売ったようで、やたらと「お金を借りませんか」という電話がかかってきたり、ある時は、私の家族構成を知り尽くした何者かから、振り込め詐欺電話がかかってきたりしたこともあった。

 幸いにも私の場合は、実際に金銭的被害を被るまでには至らなかったが、ニュースを見れば、盗んだ住民登録番号と個人情報で身分証を偽造した犯人が被害者本人になりすまし、携帯電話を購入して振り込め詐欺を働いた……といった類の事件は、今でも少なからず起こっている。

 もちろん、韓国政府も個人情報保護に関する規制を強化したり、民間企業もセキュリティ対策に力を入れているが、それでも住民登録番号が盗まれる事件は決してなくならない。ハッキング事件は犯人を捕まえること自体が難しい上、いくら事後対策を立てても手口はさらに巧妙化していくので、常に想定を超える事件が起きてしまうのだ。

 その一方で、「これでは情報を盗まれても仕方ない」という、そもそもの個人情報管理の甘さが社会全体にあったことも事実である。

 例えば、大手の金融機関が、顧客の住民登録番号を含む個人情報が盗まれていたこと自体に7カ月も気付かなかったという論外のケースから、とある大手企業の顧客データベースでは、サーバへのアクセス暗証番号が「1234567890」だったり、街中で売っている焼き芋の入った袋が、なぜか、保険会社の顧客の氏名、住民登録番号、住所などが書かれた用紙でできていたりと、およそ常識では考えられないずさんな管理がまかり通っていたのだ。

 そんな状況に、政府もこれまでさまざまな対策を打ち出してきた。例えば、住民登録番号を入力せずに会員登録を行うための「i-PIN」(注1)の導入を主要な商用サイトに義務付けたり、「情報通信網利用促進ならびに情報保護等に関する法律」では、本人の同意なく不法に個人情報を収集するなどの行為に対して、5年以下の懲役または5000万ウォン(2016年1月7日時点で約490万円)以下の罰金を科している。

 2014年1月には、「金融会社顧客情報流出再発防止対策」が出され、個人情報を流出させた金融機関には、最大50億ウォン(同約4億9000万円)の課徴金と、最大3カ月の営業停止処分などが課せられることになった。

 また、同年8月には、個人情報保護法を改正し、全ての公共機関と民間事業者に、法的根拠なく住民登録番号を収集することが禁止された。 これにより、単に本人確認や会員管理がしやすいから、といった理由だけで住民登録番号を集めることができなくなった。

 住民登録番号の「分かりやすさ」自体も問題視されている。13桁の住民登録番号の最初の6桁はその人の生年月日。これに性別、生まれた地域などを表す7桁の番号が並ぶ。日本のマイナンバーは、家族間でも統一性のない12桁の番号で構成されており、韓国では、このような方式に変えるべきだという議論が高まっている。


注1 i-PIN(アイピン):韓国政府(行政安全部)および、複数の民間発給機関が提供するネット上の本人認証番号

日本のマイナンバーは
韓国企業の商機!?

 先日、日本のインターネット上のある書き込みを見ていたら、「自営業者はアルバイトのマイナンバーをどう管理したらよいのか」という投稿に出会った。「マイナンバー法」には、例えば、「正当な理由がない中、特定個人情報を第三者に提供した場合」には、4年以下の懲役もしくは200万円以下の罰金、または両方が適用されるなど厳しい罰則が規定されていて、仮に社員がこれを行った場合でも、企業は責任を問われるからだという。

 日本政府が出した「特定個人情報の適切な取扱いに関するガイドライン(事業者編)」には、「中小規模事業者」の特例的対応が記載されていて、その中にマイナンバー管理の専門会社への委託の際の注意点なども書かれている。韓国の場合、自営業者は人事給料管理のクラウドサービスを利用して、社員の個人情報を管理するケースがほとんどだ。

 一方、韓国には、日本のマイナンバー制度導入に際し、ナンバー管理などのサービス提供を自国のビジネスチャンスと捉える向きもある。大韓投資貿易振興公社(KOTRA)大阪支店は2015年3月、日本のマイナンバーに関する報告書を発表した。

 そこには「(韓国のセキュリティ関連企業は、日本の)マイナンバー市場の成長可能性に注目して攻略する必要がある」「マイナンバー導入で日本企業は人事、給与システムをはじめ、社内システム全般を入れ替える可能性があるので、この分野も日本進出方案を探るべき」「日本の病院向けマイナンバー対応ソリューション需要が拡大する見込み」といった内容が書かれていた。

 韓国国内でも個人情報漏えい被害がなくならないのに、はたして韓国製システムを輸出できるのか、という批判も受けそうだが、これまで韓国が住民登録番号に関わる不正を防しようと、政府やセキュリティ関連企業などがさまざまな試行錯誤をしてきた経緯については、ぜひ参考にしていただきたい。

 日本政府の示した「マイナンバー制度利活用推進ロードマップ」によれば、日本でも近い将来、行政機関だけでなく銀行やカード会社など民間のサービスでもマイナンバーを用い、ゆくゆくは個人番号カードによる「ワンカード化」を目指すというからなおさらだ。


マイナンバーが生活者の
味方になるには?

 韓国では、電子政府やネットバンキングのでのサービス利用の際に住民登録番号に加え、政府が認めた認証機関の発行する「公認認証書」という本人確認のための電子署名が必要であり、この署名がインストールされている端末からしかサービスにアクセスできない仕組みになっている。基本的にはネットバンキングの際に使うものなので、自分の口座のある銀行のサイト経由で無料で作成することができる(注2)

 ちなみに韓国の銀行は、ハッキング防止策の一環として、海外のIPアドレスによるネット経由での振り込みや、その他の手続きを利用できない仕組みを作っている。

 こうしたITによるセキュリティ対策以前に、韓国で個人情報漏えいが絶えなかった大きな原因は、何といっても、単に本人確認や会員管理がしやすいという理由だけで、サービス提供者が当たり前のように住民登録番号を登録させている点にあったことは否めない。

 前述のように、今では個人情報保護法の改正によって、法的根拠のない住民登録番号収集は禁止されたが、実はサービスを利用する側の国民にも、いつしか住民登録番号をオンライン上の登録欄に書き込むことに違和感がなくなっていたり、自分の番号が書かれた紙を人目につく場所に平気で放置したりということが行われていた。

 韓国が経験したこのようなことは、もしかしたら将来日本でも起こり得るかもしれない。マイナンバーは原則として一生変更できないので、一度漏れてしまうと収集がつかないことにもなりかねないだけに、その利便性をうまく活用しながら、かつ、個人情報を保護するにはどうしたらよいか、その戦略を慎重に立ててほしい。

 個人のレベルでも、最低限注意すべきことはいくつかある。例えば今後、企業の会員登録約款に「マイナンバーの活用に同意する」「マイナンバーを系列会社に提供することに同意する」といった項目が付されることもあるだろう。そんな時は、労を惜しまずしっかりと内容確認する必要がある。よく見ないで同意ボタンをクリックしてしまうと、マイナンバーがマーケティングに使用され、思いもよらぬ商品勧誘が来たり、その企業の系列会社からも、無用の広告が送られて来ることになるからだ。

 私は前回、「マイナンバーは、普通に、まじめに、忙しく生活している人の味方である」と申し上げた。

 さきほど、銀行の事例で、海外のIPアドレスによるネット経由の振り込みなどを受け付けない仕組みについて少し触れたが、実は、個人の出入国情報と口座情報が住民登録番号で紐づけられているがゆえに、口座の持ち主が海外に居ても、本人認証を経ればネット経由での振り込みや口座の開設・解約などは可能だ。

 このように、個人情報漏えいの防止策によるサービス機能の制限に対し、便宜のため一時的に「味方にする」のがマイナンバーの有効な使い方といえるのかもしれない。とはいえ、特にネットの世界では、本人の確認に完璧なセキュリティ対策というものはない、という認識も私は持っている。

 繰り返しになるが、「マイナンバー」の運用について、利便性と安全性の両立にさまざなま経験をしてきた韓国社会の経緯や、セキュリティ関連企業のサービスなども参考にしつつ、日本でもマイナンバーのメリットが最大に生かせるようにしてほしい。


注2 公認認証書の取得:政府が認めた公認認証書発行会社は6社あり、これらと銀行が提携し、銀行のサイト上で公認認証書が取得できる。



趙 章恩=(ITジャーナリスト)

 

ダイヤモンド online

「コリア・ITが暮らしと経済をつくる国」

2016.1.

 

-Original column

http://diamond.jp/articles/-/84000


「コリア・ITが暮らしと経済をつくる国」マイナンバーってそんなに怖いもの?

.

国民生活にITが浸透している韓国では、行政サービスや商取引などであらゆる手続きの効率化が進んでいる。それは、国にどんな利益をもたらしているのか、日本とは何がどう違うのか。そうした視点から、今回と次回は、日本が先ごろ導入を決めた「マイナンバー」を例に挙げ、韓国の「住民登録番号」と比較しながら、その可能性を展望してみよう。

なぜ、マイナンバーへの
不安が大きいのだろう?


日本でも導入されたマイナンバー制度。韓国のような電子政府化が一気に進むか(C)pixta_18098112

 今年、日本でマイナンバー制度が導入されたことが、韓国でも大きな話題になっている。

 韓国メディアは「日本政府が日本版住民登録番号である『マイナンバー』を導入した」と連日のように報道し、日本の「マイナンバー」と韓国の「住民登録番号」は何が違うのかについて比較する特集まで組んでいた。

 韓国では1968年から、住民登録番号を記載した「住民登録証」を全国民に発行している。韓国のソーシャルメディアやネットニュースのコメント欄では、「プライバシー侵害に敏感な日本で国民総背番号制とは意外」という書き込みが目立った。

「マイナンバー制度に対してどんな不安がある?」―― Yahoo! Japan ニュースの「意識調査」で、こんなタイトルのアンケートを見つけた(実施期間:2015年10月27日~11月6日)。

 10月から通知が始まったマイナンバーに対して、不安に思うことは何かを選んでもらうアンケート調査だったが、1位は「マイナンバーにひも付いた個人情報の流出の恐れ」33.1%、以下、「国によって個人情報が管理され、監視される恐れ」31.5%、「マイナンバーの不正利用による『なりすまし』被害」20.8%、「制度に便乗した詐欺などの被害」6.0%と続く。

 たしかに、個人情報流出への懸念は分かるが、実に30%以上の人が、「国に監視される恐れがあるので不安」と答えたのには驚いた。日本の報道でも、そもそもなぜ、マイナンバーが必要になったのかという話よりも、「不安」「怖い」「情報漏えい」といった側面が目立っているように感じられる。

 日本のマイナンバーは、社会保障、税、災害対策の分野において、個人情報と個人番号をひも付けて効率的に情報の管理を行い、さらに、複数の機関にある個人情報が、同一人物のものであることを迅速かつ確実に確認するために導入された。

 住民登録番号による手続きが当たり前の国で暮らしていた私には、マイナンバー導入は、国による行政サービスの効率化が目的であることが、忘れられているかのようにすら思える。


マイナンバーは普通に
生活している人の味方

 冒頭で述べたように、韓国の住民登録証の歴史は、半世紀近く前にまでさかのぼる。1968年に発生した朴正煕大統領(当時)の暗殺未遂事件で、その首謀者とされた北朝鮮のスパイを割り出すために、国は国民に住民登録番号を付与し、国民であることの証明書を持ち歩くよう義務付けた。つまり、日本のように最初から行政サービスの効率化を目指して作られた制度ではなかったということだ。

 それから試行錯誤を経て、今でこそ韓国では、本人確認は当然のこと、税、医療、教育、金融、保険、福祉、出入国など、あらゆる分野で住民登録番号が使われるようになった。

 そんな流れからか、韓国の住民登録の法律は厳しく、国民は全て住民登録番号を持つことが義務であることはもちろん、例えば、引越し後に転入届を出さず、住民登録証に新住所が記載されていない場合や、実際に居住していない住所で住民登録した場合、あるいは、17歳になっても住民登録証の発行を申請しない場合など、手続きを怠っただけでも自治体から過怠料が課されてしまう。

 住民登録証には、表に氏名や住民登録番号、生年月日、現住所、発行区役所名などが記載されているのだが、裏面には今も指紋押捺欄がある。

 私も、生まれた時からそんな“マイナンバー社会”で育って来た一人だ。「しかし」と言うべきか、「だから」と言うべきか、これまでの経験から、「マイナンバーは、普通に、まじめに、忙しく生活している人の味方である」というのが、率直な思いだ。

 例えば韓国では、本人は何ら手続きせずとも、税金を多く納め過ぎたら自動的に払い戻しが行われる。受けられる資格を満たしているのに福祉制度に申し込んでいない人には、行政から案内が来る。

 就職や不動産取引などで住民票や戸籍謄本、公金の納付証明などが必要になれば、パソコンやスマートフォンから電子政府にアクセスし、24時間いつでも申請が可能だ。交付された書類は、自宅のプリンタで印刷して提出する。電子政府を利用した場合、書類の発行手数料もほとんど無料だ。

 国際連合の「電子政府ランキング」で、韓国は3回連続1位を獲得した。こうした行政サービスが可能になっているのも、住民登録番号制度があってこそである。


生活の隅々まで浸透する
韓国の住民登録番号

 さらに、日本では一定の手間がかかる役所の手続きでさえも、住民登録番号の利用が浸透している韓国では、いとも簡単に終わってしまうのだ。

 例えば、運転免許証について、韓国では免許交付の際に必要な視力検査がかつては有料で、これが事務手続きの足かせとなっていた。しかし、最近では、2年以内に区の健康診断を受けた人は、その時の記録が警察庁と道路交通公団の情報とひも付くようになったため、この有料検査が不要になった。 

 会社員にとっては、面倒だが忘れたくはない毎年恒例の年末調整も、韓国では至って簡単だ。


韓国国税庁が今年開設した「ホームタックス」のページ。個人や法人の税に関する計算が簡単に行える。https://www.hometax.go.kr/

 個人の給与所得、利子所得、医療費支出、家族の所得、源泉徴収された金額などを、行政側が住民登録番号で把握しているからだ。

 また、韓国国税庁は今年、Web上に「ホームタックス」を開設し、どうすればより多く税金が還付されるかを個々の収入と支出に合わせてシミュレーションできるサービスなども提供している。

 さらに、日本では相当の時間とプロセスを経なくてはならない相続手続きに至っては、被相続人の死亡届を出すだけで行政側が遺産を把握し、7~20日以内に相続人が相続できる遺産、および相続税の額を教えてくれる。

 行政サービスだけではない。銀行で口座を開設する時にも、携帯電話やインターネット接続の申し込み、有料放送への加入にも住民登録番号は必須だ。学校では子どもの出席や成績など、学習管理の記録まで住民登録番号にひも付けて行っている。

 分かりやすいのは病院だろう。以前、日本の友達から、お土産に手作りの「通院ケース」をもらったことがある。「健康保険証、診察券、お薬手帳が全部入る」という説明と一緒に、イニシャルの刺繍まで入った世界でたった一つの代物だが、ついに、韓国では一度も使うチャンスがなかった。韓国では、病院に行く際、住民登録証だけあればよいからだ。

 患者の診療記録は住民登録番号で管理する。受付で住民登録証を渡せば、病院は、患者が健康保険に加入しているのか、初診なのか再診なのか、どの診療科を転々としてきたのかなどの通院記録を瞬時に把握できる。

 もちろん、診察内容を記載した医療記録は大事な個人情報なので、受付で把握できるのはあくまでも受付に必要な情報だけだ。現在は、こうした情報を病院ごとに管理しているが、政府はいずれ、全国の病院の医療記録をまとめて行政データベースで一括管理しようとしている。

 このように韓国では、生活の全てが住民登録番号で管理されているといってよい。私自身は、住民登録番号があって当たり前の社会で育ってきたため、このこと自体に違和感はない。

――というわけで、「日本でもぜひ、マイナンバーを大いに利用しよう!」と言いたいところだが、ご承知のとおり、デジタル情報の運用には、さまざまなリスクもついて回る。次回は、実際に韓国で起こった住民登録番号に関する不正の例などを紹介するとともに、状況に合った対応策などについても触れてみたい。



趙 章恩=(ITジャーナリスト)

 

ダイヤモンド online

「コリア・ITが暮らしと経済をつくる国」

2015.12.

 

-Original column

http://diamond.jp/articles/-/83049

韓国モバイルショッピングはAIレコメンドが基本、VRの買い物アプリも増加

.

 韓国統計庁が2017年5月10日に公開した「2017年3月オンラインショッピング動向」によると、3月の取引額は6兆3257億ウォン(約6326億円)で過去最高額を記録した。オンラインショッピングの中でもスマートフォンを利用したモバイルショッピングの取引額が全体の59%を占めるまで成長。モバイルショッピングで売れている商品カテゴリーは、幼児・児童用品、靴、食品・飲料、バッグの順だった。

 統計庁は、「モバイルショッピングアプリで販売する商品の種類が増え、配送の早さと割引率の競争も激化していることから、合理的な消費を望む人が集まってきたようだ」と分析した。

 韓国のオンラインショッピングサイトは、独自のセキュリティプログラムが多いのが特徴だ。サイバー犯罪を防止するためではあるが、商品を選ぶまではスムーズなのに、そこから決済画面にたどり着くまで、インストールしないといけないセキュリティプログラムが6~7本はあるのでうんざりする。ところがモバイルショッピングアプリの場合、本人名義の携帯電話番号を入力するだけで会員認証が完了(通信キャリアのDBから本人確認)し、決済もクレジットカード会社が提供する決済用アプリを一つインストールするだけでよい。PC向けのWebサイトよりも単純で使いやすく、手軽に早く注文できるのがメリットだ。

 複数の韓国メディアはモバイルショッピングが人気の理由を「PM2.5の影響で外出を控えているため」「ロケット配送、当日配送といった配送競争のおかげで、お店で買うよりも楽だから」と分析している。

 アプリ分析会社のAppAnnieが2016年に韓国、米国、英国、ドイツ、フランス、そして日本のアプリ利用動向を調べたところ、モバイルショッピングアプリを最も利用している国は韓国だった。月間利用頻度が他の国よりも30ポイントほど多い。

 このような傾向から、韓国の小売流通業界はモバイルショッピングに力を入れている。例えば財閥・新世界グループの大型スーパー「EMART」は、モバイルショッピングアプリを2種類開発。「手軽に早く買い物を済ませたい人のためのアプリ」と、「実際に店舗を見て回っているかのように商品を見て回る仮想店舗アプリ」である。


新世界グループの大手スーパー「EMART」の仮想スーパー
(出所:EMART)
[画像のクリックで拡大表示]

ここから先はITpro会員(無料)の登録が必要です。

趙 章恩=(ITジャーナリスト)

 

日経パソコン

2017.5.

 

-Original column

http://itpro.nikkeibp.co.jp/atcl/column/14/549762/051000146/?itp_leaf_index

ICTでイノベーションを育む IoT時代に向けた韓国のスマート教育

人工知能時代を見据えた教育変革へ

韓国の未来創造科学部(日本の総務省に相当)によれば、韓国では2016年4月末時点で国民の9割がスマートフォンを使用している。家電売り場には数年前からIoT家電コーナーが登場し、スマートフォンの位置情報から帰宅時間を予測して稼働するエアコン、必要な食材をネットスーパーに注文してくれる冷蔵庫といった家電製品のほか、ヘルスケアのためのセンサーやウェアラブル端末も数多く販売されている。電気・ガス・水道などもスマートフォンで遠隔制御でき、スマートメーターの普及も進んでいる。韓国ではすでにIoTが人々の生活に浸透し、スマートライフを実現しているのだ。

IoTによる変化は、教育にも及んでいる。韓国の教育界に「変わらなくては」という衝撃を与えたのは、今年4月の『AlphaGo』とイ・セドル九段の囲碁対決だ。人間より優れた人工知能が登場し、多くの職業が人工知能に代わる時代が現実味を帯びる中、子どもの教育をどうすればいいのか。韓国では多くの議論が巻き起こっている。


全国に普及するスマート教室

韓国は世界でも教育熱が高く、幼少期から名門大学に進学するための受験競争が始まる。どの大学を卒業するかでその後の人生が左右されるといっても過言ではなく、教育も大学受験のために存在してきた。

しかし1990年代から、試験でいい点数を取るための一方的な教育が子どもたちの創意力を抑制し、その結果韓国全体の活気が落ち込んでいると懸念する声が大きくなってきた。そこで1997年には教育環境を変えるための「デジタル教科書」「スマート教室」「スマートラーニング」導入の議論が政府内で始まり、長年の実証実験を経て、教育のICT化が進んできた。

現在、韓国の小中高校のほとんどがスマート教室を有している。筆者が2012年に訪問したソウル市内の小学校では、教室の3面が電子黒板となっており、生徒は1人1台タブレットPCを手にし、3D、VR(仮想現実)、AR(拡張現実)を使ったデジタル教材で理科や社会の授業を行っていた。もちろん、教室の中ではWi-FiまたはLTEでネットワークにアクセスできる。地域の紹介をテーマとした3年生の授業では、教師が自らドローンで撮影した地元の名所を見せると、グループごとにその場でスライドを作って発表し、討論しながら手作りパンフレットを完成させ、それを学級SNSに掲載して保護者にも見せる。学級SNSは児童・生徒と保護者、担任、校長などが参加する教育目的のSNSで、連絡事項の伝達のほか、授業で撮った写真や動画の共有など、韓国の学校では日常的に使われている。タブレットPCのカメラで友達がバドミントンをする姿を連写して先生のお手本との違いを発表する授業や、ARで映し出された恐竜の卵から恐竜の種類を当てるクイズなども行われていた。いまから4年も前のことである。


クラウドの活用でよりスマートに

学校で電子黒板とタブレットPCを使うことだけがスマート教育ではない。韓国政府が2011年から推進するスマート教育の「SMART」は「Self-directed(自ら主導する)」「Motivated(動機づけられた)」「Adaptive(学習者に適合した)」「Resource enriched(充実した教材を使った)」「Technology embedded(技術が埋め込まれた)」の略字である。子どもが楽しみながら、自分の適性とレベルに合わせて、豊富なデジタル教材とITを活用して自ら学習すること、教師と双方向でコミュニケーションしながら積極的に学び、満足できる教育を目指しているのだ。2014年度のスマート教育満足度調査では、児童・生徒も保護者も9割近くが「既存の教育より満足している」と答えた。

韓国では2000年頃から学校の校務と児童・生徒の管理をすべてデジタル化し、現在は全国の教師がNEIS(National Education Information System)と呼ばれるクラウド上のシステムで学生の個人情報や成績などを管理している。登録されたデータを利用していろいろな統計が出せるほか、教育委員会に提出する書類をすぐに作成することもでき、教師の雑務軽減にもつながっている。転校時にはシステム上でデータを移動するだけ。大学入試の際も大学に学生のデータを送信すればいいので、願書を書く必要もなくなった。また、保護者もNEISにログインして自分の子どもの出席や成績などを確認できる。

同じ時期に、「EDUNET」「サイバー家庭学習」など、政府が無償で提供する学習サイトもオープンした。クラウド上に教科書や教材があり、自宅のパソコンからログインすると、地域と学年に合わせて勉強すべきマルチメディア資料が登場し、予習・復習ができる。サイバー担任もいて、チャットで質問し、教えてもらえる。この時期から学校の宿題もインターネットで調べてクラウドに保存するという方式に変わり始め、子どもがいる家庭へのパソコンとブロードバンドの普及が一気に進んだ。

SKテレコムは教科書会社と提携し、教師向けにスマー教室での授業をサポートするアプリ『スマートティーチャー』を開発。マルチメディア教材の検索や学級通信の作成ツールなどがセットになっている。各自治体の教育庁も類似のサービスを提供している


IoT時代に備えプログラミングを必修化

韓国政府は教師の研修も長年行ってきた。電子黒板やタブレットPC、LMS(Learning Management System)の使い方に加え、デジタル教科書やデジタル教材を使いこなし、自ら制作する方法も教えた。ロボットの制御や3Dプリンター向けの簡単なプログラミング体験により、プログラミングがさほど難しくないことを実感させた。スマートフォンに慣れている教師たちは、こうしたICT化にもすぐに順応した。

2018年からは、プログラミングが小中高校で正規科目となる。小学校では決まったコマンドをコピー&ペーストして小型ロボットを動かすプログラムを書いたり、自分で簡単なゲームを作ったりする。すでに2014年から自由選択科目として教えられているが、IoT時代に必要な「Computational Thinking」を育てる一歩として、履修が義務づけられたのだ。

韓国でComputational Thinkingの代表的な事例としてよく取り上げられるのが、2009年に高校2年生が開発した『ソウル・バス』というアプリだ。当時はバス会社のウェブサイトやバス停のデジタル・サイネージにバスの時刻表と到着時間を知らせる機能はあったが、アプリで簡単に時刻表を確認できるサービスがなかった。そこで、高校2年生が一人でネットに散らばっていたバスの時刻表や運行状況がわかる情報を集め、複雑なデータからアルゴリズムを把握し、ソウル市内のすべてのバスの現在位置と各バス停への到着時刻を確認できる『ソウル・バス』アプリを作った。このアプリは人気ランキング1位となり、後に大手ポータル会社に買収されて、いまやソウル市民の生活必需アプリになっている。

SKテレコムは小学生を対象としたプログラミング教室も実施している。ゲーム形式でプログラミング言語をコピー&ペーストして『アルバート』という名前の小型ロボットを動かす体験ができる

プログラミング教育はさらに低年齢化。小学校で必修となることが決まってから、韓国仁川市保育園連合会に所属する保育園では幼児向けプログラミング体験教室を開いている


データ活用に向け個人情報制度も見直し

このように韓国では、ソフトウェアを重視し、すでにあるものをどう組み合わせて新しいものを作るかを考えるイノベーションに注力している。受験偏重型の教育を変えようというチャレンジを積み重ねてきた韓国は、スマート教育を超えてIoT時代に合わせたプログラミング教育へと発展してきたと言えるだろう。

韓国政府は今後、子どもたちのデータをより詳細に分析し、一人ひとりに合わせたカリキュラムを作ることを目指している。そのためには学校中にセンサーを取り付けて行動を観察する、学校と自宅で行われる学習履歴を分析するなど、IoTと人工知能のさらなる活用が必要となる。こうした取り組みに向けて、クラウド・コンピューティングや個人情報の取り扱いに関する制度の見直しも始まっている。「パリパリ(早く早く)」走りながら考えるのが得意な国民性を持つ韓国は、そう遠くない未来に新たな制度を実現するはずだ。


By 趙 章恩

 Huawei

 2016年7月

-Original column

http://www.huawei.com/jp/publications/huawave/22/HW22_Better%20Connected%20Schools%20in%20Korea

車が財布になる!?韓国で「コネクティドカーコマース」登場間近

.

 韓国のキャリアであるLGU+とクレジットカード会社の信韓カード、ガソリンスタンドのGSカルテックス、スタートアップのOWiNの4社はこのほど、「コネクティドカーコマースアライアンス」を結成し、下半期からソウル市江南地区でサービスを開始すると発表した。4月20日にはソウル市内でセミナーを開催。コネクティドカーコマースの動向や具体的なサービス内容について説明した。

 コネクティドカーコマースとは、ETC(電子料金収受システム)のようなイメージで、ガソリンスタンドやドライブスルーでの代金をクレジットカードや現金を出さずに、運転手は何もしなくても車の情報を認証して自動決済できるもの。車に登録したクレジットカードから支払われる。

 おサイフケータイのように車そのものが財布になるサービスである。車がインターネットにつながり運転手が安全に運転できるコネクティドカーサービスの一つとして位置づけられるが、韓国ではこのコマースを一足先に実現するわけだ。

 下半期から江南地区で始める計画のコネクティドカーコマースは、フランスの自動車メーカーであるプジョーを対象としている。韓国のハンブルモーターズが2017年下半期に輸入販売するすべてのプジョー車に、コネクティドカーコマースを搭載する。決済はアライアンスの信韓クレジットカードを使う。

 コネクティドカーコマースを利用するにはどうしたらいいのか。運転手は車に乗って、モニター画面からコーヒーや花などを注文し、ドライブスルーのカウンターで商品を受け取る(写真)。スマートフォンを使って、アプリから商品を注文することも可能だ。商品を注文すると、店舗に注文内容と到着予定時刻が届く。顧客の車が1Km先に近づくと、店舗の端末にその情報が表示される。顧客が到着すると、顧客番号と注文内容が表示され、商品を渡すと決済完了になる。


コネクティドカーコマースの利用イメージ
(出所:OWiN)
[画像のクリックで拡大表示]

 ガソリンを入れる時も同じだ。車に搭載されたモニターまたはスマートフォンアプリからガソリンの種類と金額を選択。GSカルテックスのガソリンスタンドに行けば、店員が車から送られた情報を見て、車が到着したらすぐに給油を始める。クレジットカードと一緒にポイントカードもひも付けておけば、ポイントのチャージや割引クーポンの利用も忘れずに済む。

 駐車場の利用も便利になる。駐車場に入って出るだけで時間を自動的にカウントしてクレジットカードから料金が引かれるので、時間の節約になる。

車を財布にするには、スタートアップであるOWiNが提供するビーコンと、車載インフォテインメントシステムまたは専用アプリをインストールしたスマートフォンを連動させる。ビーコンをシガーソケットに差し込むと、店舗に近づいた時に店舗側の端末に信号を送る。決済に必要な情報は暗号化して処理され、約2秒で消去されるなど、セキュリティにも気を使った。決済に必要なネットワークはキャリアのLGU+が担当する。

 韓国でも最近は時間単位で車を利用できるカーシェアリングの利用が増えている。このため今後は、どの車でもスマートフォンとビーコンさえ持ち込めば、車に搭載されたモニターと連動して車の利用代金を含めて決済できるようにするという。

 ソウルは東京に比べて車を利用しないと移動に不便な場所がまだある。また駐車代が安いので、通勤に車を利用する人がとても多い。韓国は車庫証明がなく車を購入しやすいので、日本よりも気軽に車を買う傾向がある。だからこそソウル市内には駐車場も多く、ドライブスルーの店舗も結構ある。コネクティドカーコマースによって、ドライブスルーがさらに増えると見込まれている。

 韓国では、オンラインとオフラインをつなげる「O2Oサービス」が日常に根付いている。賃貸物件はアプリ経由で探し、気に入った物件があれば不動産を訪ねる。出前もアプリ経由でメニューと値段を見て注文。出前アプリで有名な「配達の民族」は、2016年の月平均出前注文件数が1100万件を超え、売上は年間849億ウォン(約85億円)、営業利益25億ウォン(約2.5億円)と黒字になった。

 O2Oの流れから、オンラインで注文・決済してオフラインで商品を受け取ることに慣れている韓国人は、コネクティドカーコマースもすぐに使いこなす可能性が高い。車を財布にしてオフラインの店舗を利用する新しいO2Oに期待が集まっている。


趙 章恩=(ITジャーナリスト)

 

日経パソコン

2017.5.

 

-Original column

http://itpro.nikkeibp.co.jp/atcl/column/14/549762/042600145/?itp_leaf_index

韓国MVNOのシェアは11.4%、使わなかったデータ通信料金を割引

.

 韓国の通信政策を担当する未来創造科学部の発表によると、2017年3月末時点で韓国のMVNO加入件数は701.7万件で全移動通信加入件数の11.4%を占めている。2011年7月から販売開始した韓国のMVNOは、2015年12月末時点で加入件数592万件(移動通信に占めるシェア10.2%)を突破し、そろそろ頭打ちではないかと言われていたが、料金プランの工夫や格安スマホの登場により、まだ増加し続けていた。

 事業者別シェアは、大手ケーブルテレビ会社CJハロービジョンのMVNOであるCJハローモバイルが86万5354件と最も多く、その次がキャリアSKテレコムの子会社SKテリンクで72万6619件だった。全国の郵便局と郵便局のホームページを販売窓口にしている中小企業も、インスコビ社63万1204件、イージーモバイル社61万3920件、ユニコムズ社57万4385件と、少しずつ加入件数を伸ばしている。この他にもキャリアKTとLGU+の子会社もMVNOサービスを始めた。

 韓国のMVNOは当初、シニアをターゲットにしたプリペイド式激安音声通話を目玉にしていたが、最近は後払い式データ通信の安さを売りにしている。キャリア3社の半分程度の料金でデータ通信が使える。未来創造科学部は、MVNOの加入件数が伸び続けているのは、「データ通信の料金プランが多様化したから」と分析した。

 CJハローモバイルは2017年1月より、韓国で初めて使い切れなかったデータ通信分、1Mバイト当たり10ウォン(約1円)にして料金を割引するペイバッグ料金プランを始めた。

 例えば、月1Gバイト使う料金プランに加入したのに500Mバイトしか使わなかった場合、残った500Mバイト分5000ウォン(約500円)割引する。音声通話とSMS使い放題(韓国では音声通話が1回当たり5分を超えても無料)+データ通信1Gバイトで月26900ウォン(約2700円)のペイバッグ専用料金プランに加入しないといけないが、いつもはWi-fiを使い、データ通信は移動中に無料メッセージアプリを使うぐらいでいいという人にはとても便利だ。データ通信を全く使用しなかった場合は1300円ほど割引されるので、1400円程度で音声通話とSMSが使い放題になる。

 今までは、残ったデータ通信を家族に譲る、友達にプレゼントする、翌月まで1ヵ月だけ繰り越し可能、というプランはあったが、割引という形で返金するプランはなかった。CJハローモバイルによると、加入者の7割がデータ通信を使い切っていないことから、顧客満足度を上げるため残った分割引するプランを始めたという。

 たくさんデータ通信を使う人は10Gバイトプランもある。月3万3000ウォン(約3300円)で音声通話とSMSは使い放題、データ通信は10Gバイト分使え、さらに10Gバイトを使い切ってしまった場合、毎日2Gバイト追加で提供する。追加でもらった2Gバイトも使い切ってしまった場合は、3Mbpsの低速で無制限データ通信が使える。キャリア3社の場合、月10Gバイトのデータ通信プランが月6万5890ウォン(約6600円)なので、ちょうど半額で利用できる。その代わり、半額で使えるのは24カ月だけ、25カ月目からは月1000円ほど高くなる。

音声・SMS使い放題、10Gバイトのデータ通信で月額約3300円
(出所:CJハローモバイル)
[画像のクリックで拡大表示]

ここから先はITpro会員(無料)の登録が必要です。


趙章恩=(ITジャーナリスト)

 

日経パソコン

2017.4.

 

-Original column

http://itpro.nikkeibp.co.jp/atcl/column/14/549762/041800143/?itp_leaf_index

韓国大統領選挙、候補のIT公約は「インダストリー4.0」「起業」が焦点

.

韓国では朴槿恵前大統領の弾劾により、次の大統領を選ぶ選挙が7カ月ほど前倒しの2017年5月9日に行われることになった。

 早速、自分の関心事と大統領候補の公約を比較し、どの候補に投票すれば最も望みを叶えられそうかを調べてくれるマッチングサイトも登場した。その名も「ヌード大統領」。各政党のサイトを見て公約を比較するのは時間もかかるし面倒だけど投票するからにはちゃんと選びたい、という人にはぴったりだ。


公約マッチングサイト「nudepresident」
(出所:FiscalNote Korea)
[画像のクリックで拡大表示]

 利用者が入力した関心事の統計が表示されるので、韓国人の全般的な関心事も分かる。候補者にメッセージを残せるコーナーもある。4月11日時点で34万7000人以上が利用した。

 大統領選挙は進歩派と呼ばれる野党「共に民主党」のムン・ジェイン候補と、進歩派と保守派の間にある野党「国民の党」のアン・チョルス候補の競争になってきた。ムン候補は大学生の頃から民主化運動をした人物で、人権弁護士として活躍。故ノ・ムヒョン元大統領の秘書室長を歴任した。アン候補は日本にも法人があるセキュリティソリューション企業「アンラボ」を立ち上げた人で、韓国では成功した起業家としてとても有名な人物である。自他公認のIT専門家でもある。

 ムン候補とアン候補のIT分野の公約は共通した面が多い。「インダストリー4.0の時代に合わせて人工知能(AI)、自動運転車、IoTといった新産業を積極的に育成する」「理工系科学技術専門家を育成する」「起業しやすい環境を作るだけでなく、連帯保証人制度を廃止して失敗しても再度チャンスがもらえるようにする」といったことに焦点を当てている。

 ただし、ムン候補は国主導で、アン候補は民間主導で、というところが決定的な差である。ムン候補は大統領傘下に「インダストリー4.0革命委員会」を新設し、科学技術政策を総括する省庁を設け、国主導でIT産業を支援するという立場である。

 一方のアン候補は自ら起業してベンチャーを大企業に育てた経験を踏まえ、IT産業の競争力を上げるには政府の関与は最小限にして民間企業の自律に任せるべきという立場を示している。「インダストリー4.0はITだけでなく、すべての産業が融合することなので、以前のように政府主導ではうまくいかない」とも発言した。

ここから先はITpro会員(無料)の登録が必要です。



趙 章恩=(ITジャーナリスト)

 

日経パソコン

2017.4.

 

-Original column

http://itpro.nikkeibp.co.jp/atcl/column/14/549762/041200140/?itp_leaf_index

日韓の楽しいシニア達、ゲームを開発した81歳とYouTubeスターになった71歳

.

2017年4月1日、韓国ソウル市で行われた「SOFTWARE EDU FEST 2017」のイベントに、日本の81歳の女性がスピーカーとして登壇した。iPhone向けアプリ「hinadan」(https://itunes.apple.com/jp/app/hinadan/id1199778491)の制作者である若宮正子さんである。

誰も作らないので、プログラミング言語を学び自分で作った

 若宮さんは「I want to be creative and active」のタイトルで、シニアが楽しめる雛壇飾りアプリゲームを開発した経緯を説明した。そして「81歳がアプリを作ったことがこれほど注目されるのは、やはりシニアはITに弱いと思われているから。自分はシニアにインターネットの世界を教えて、若い世代との情報格差を縮める架け橋になりたいと思っている」と話した。

 彼女はアプリ開発のために、プログラミング言語「Swift」を独学でマスターした。知人の開発者にSkypeを通じてアドバイスをもらったり、英語でしかできないアップルのアプリ登録申請書類を「Google翻訳」サービスで乗り越えたり、とても苦労したという。hinadanを開発したのは、「手の動きが若者ほど早くないシニアも楽しめるゲームアプリがあるといいな」と思ったが、誰も作ってくれなかったので自分で作ったとのことだった。

 SOFTWARE EDU FEST 2017は、LINEの親会社であるポータルサイトNAVERが2011年に設立したコネクト財団が毎年開催している。コネクト財団は、小学生からコンピュテーショナル・シンキングが身につくようプログラミング教育を実施しようと後押しする財団である。

 韓国でも、若宮さんのことは話題になっている。同イベントの様子を伝えた韓国メディアの記事のコメント欄には、「年齢は数字にすぎない。本人の意志でなんでもできることを、若宮さんを見て知りました。すごい!」、「かっこいいしすごい。欲しいアプリを自分で作ろうとか、問題を自分で解決してみようとか思わなかった。チャレンジ精神を学びたい」、「韓国もシニア層の多くがIT文化についていけない、パソコンは使いにくいと思っているが、若宮さんのようにチャレンジしてみてほしい」など、彼女の行動力を絶賛する書き込みが多く見られた。

ここから先はITpro会員(無料)の登録が必要です。

趙 章恩=(ITジャーナリスト)

 


日経パソコン

2017. 4.

 

-Original column

http://itpro.nikkeibp.co.jp/atcl/column/14/549762/040600139/?itp_leaf_index