韓国でも問題視される長時間労働、オンラインゲーム会社で「夜勤禁止令」

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 韓国の有名オンラインゲーム会社Netmarbleは、2017年2月13日に「夜勤禁止令」を出し、今後社員は夜9時までに帰宅するようにした。

 Netmarbleの本社ビルは、ソウル市の西にあるITベンチャー街にあるが、「灯台」というニックネームが付くほど、夜遅くまで灯りが消えないビルとして有名だった。それだけに、同社の夜勤禁止令は韓国で大きな話題になった。


画面●韓国Netmarble社のWebサイト。同社はゲーム業界の長時間労働問題を改善するため、2月13日より「夜勤禁止令」を実施した
(出所:Netmarble)
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 初日の13日にはマスコミが本社ビルの外で待機、同社のオフィスの灯りが何時に消えるか取材したほどである。13日は、24時間稼働している「ユーザー相談センター」の担当者以外は、夜9時前に帰宅できたようだ。

週末勤務や帰宅社員への業務指示も禁止

 今回の夜勤禁止令は、同社の「勤務環境改善案」によるものだ。長時間労働を避けるため、どうしても夜遅くまで仕事をしないといけない場合は夜勤申請書を提出し振替休日を取る。週末出勤も禁止で、帰宅した社員にメッセンジャーで業務指示をするのも禁止にした。

 オンラインゲームは24時間365日サービスを提供している。そのためゲームサイトの点検やゲームのアップデートは、利用者が少ない深夜の時間帯に行われるのが一般的だった。同社はまず一部のオンラインゲームから深夜のアップデートをやめ、1カ月ほど深夜にアップデートをしないと起こる問題点を見つけ、解決していくことにした。

 社員の採用を増やし、社員一人一人の仕事量も調整する。社員の勤務環境改善によりオンラインゲームのアップデートや新規サービス開始の遅れが予想されるが、Netmarble側は「仕方ないこと」だと割り切った。

 実は韓国では、数年前からオンラインゲーム業界の長時間労働、過労による自殺や突然死が問題になっていた。2016年から野党である正義党の議員らがゲーム産業の労働環境について実態調査を実施し、国会で公聴会も開いたこともあった。野党側は、「長時間労働をしても、会社側は年俸に手当が全部含まれているとして時間外勤務手当を支給しないことも問題だ」と主張し、不公正な雇用契約、不当な長時間労働を政府が取り締まるべきだと求めてきた。

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趙 章恩=(ITジャーナリスト)

 

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2017.2.

 

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韓国の警察サイバー安全局が「ランサムウエア注意報」、感染被害13万人

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韓国の警察庁サイバー安全局は2017年2月6日、全国民に「悪性コードランサムウエア被害注意報」を発令した。

 ランサムウエアはウイルスの一種で、ハッカーがメールやWebサイトに悪性コードを仕込むといった手口を使ってユーザーのパソコンに感染させる。このウイルスはパソコン内に入り込むと、ファイルを全て暗号化するなどの処理をして使えなくしてしまう。そして犯人は「匿名で利用できるビットコインで身代金を払えば、ファイルを元通りに戻せるパスワードを送る」など、ユーザーに金品を要求して脅迫するのだ。

 2016年の年初まで、ランサムウエアは英語のメールに悪性コードが添付されるケースがほとんどだった。添付ファイルをクリックすると大変なことになりそうな気配がぷんぷんしていたが、最近はメールのタイトルや添付ファイル名が巧妙になってきた。さらに、Webサイトに訪問しただけで感染するケースが増えたため、警察が注意を呼び掛けている。

韓国製ワープロソフトの文書も暗号化対象に

 2月7日、韓国のインターネットセキュリティ会社らは、韓国人をターゲットに作られた最新ランサムウエア「VenusLocker」に注意するよう呼びかけた。社内の会計担当者から源泉徴収票が届いたようにみせかけたメールと、韓国の大学や研究所を名乗りアンケート調査に応じるとプレゼントをするという内容で添付ファイルをクリックするように仕向けたメールが大量に出回っている。

 添付ファイルを開くと、パソコン画面に「ファイル復旧費用をビットコインで払え」というメッセージが表示され、パソコンの中に保存してあった写真や文書ファイルなどが開けなくなる。最新のランサムウエアは、韓国の官公庁で使う文書作成ソフト「アレアハングル」形式のファイル(.hwp)までも暗号化する。現地事情に合わせて、暗号化するファイル形式を研究しているようだ。

 最近は、身代金を払わずインターネットセキュリティ会社にデータの解読を依頼する人が増えたせいか、ハッカーはランサムウエアに感染させるための悪性コードをさらに分析しにくくした(これを難読化という)。

 韓国インターネット振興院に届け出があったランサムウエアの被害件数は、2016年は1438件。前年比で86.8%増加した。未来創造科学部(部は省に当たる)が2016年12月に韓国の従業員1人以上の会社9000社を対象とした調査で、「この1年の間にインターネットセキュリティ侵害事故を経験した」と答えた企業は3.1%。前年比で1.3%増加した。侵害事故の内訳を見ると(複数回答)、悪性コードによる攻撃が91%、スパイウエア感染が19.7%、ランサムウエアが18.7%、ハッキング4.9%、社内関係者による情報流出4.3%、DDoS攻撃2.6%の順だった。ランサムウエアによる被害は、前年は1.7%だったので1年間で11倍近くに増加している。ランサムウエアが韓国で出回り始めたのは2015年4月。2年足らずでここまで被害が拡大した。

 韓国のインターネットセキュリティ会社であるイノティウムを中心に、複数の会社が参加している韓国ランサムウエア侵害対応センター (RanCERT:Ransomware Computer Emergency Response Team Coordination Center)の調査によると、2016年の韓国内のランサムウエア被害者は約13万人。データを復元できなかった場合の被害額は、推定3000億ウォン(約300億円)にのぼる。これは、警察や政府機関に届け出があったランサムウエア被害件数とインターネットセキュリティ会社に持ち込まれたランサムウエアによるデータ暗号化解除依頼件数を合わせた数字である。


画面●韓国ランサムウエア侵害対応センターのWebサイト。韓国で2015年4月に登場し、感染被害が急激に広がっているランサムウエア。韓国のインターネットセキュリティ会社らは、ランサムウエアに特化した侵害対応センターを作り、データの復元を助けている。
(出所:韓国ランサムウエア侵害対応センター)
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趙 章恩=(ITジャーナリスト)

 

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会っていない子供にもFinTechでお年玉、さま変わりする韓国の旧正月

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韓国では、2017年1月27日から30日はお正月連休だった。韓国は中国と同じく、お正月とお盆は旧暦で祝う。

 お正月といえば、韓国にも「セベッドン」という子供にお年玉をあげる風習がある。お正月の朝になると、子供たちはできるだけたくさんの大人にセベ(新年のあいさつ)をしてお年玉をもらおうとする。

 このほか、就職した子供は両親や祖父母にお金をプレゼントする「逆お年玉」の習慣があるので、お正月はかなりの出費を覚悟しないといけない。

 以前は直接会ってセベをした親戚の子供にだけお年玉をあげればよかったのだが、FinTech(フィンテック)の時代になってからはそうはいかない。口座番号がわからなくても、相手の携帯電話番号さえわかれば送金できるので、お正月に会えない全国各地の親戚の子供からカカオトークのメッセージが後を絶たない。

アプリで簡単に送金ができる

 韓国のほとんどの銀行は、スマートフォン用の「簡単送金アプリ」を提供している。アプリをインストールして口座番号と口座暗証番号、送金用暗証番号を設定、インターネットバンキングと連動して本人確認をする。これでアプリのインストールは完了だ。そのあとは、アプリに相手の名前と携帯電話番号、送金したい金額、お祝いの言葉を入力するだけで送金できる。

 受取人は送金されたことがショートメッセージで届くので、メッセージをクリックして同じく簡単送金アプリをインストールし、送金額を受け取る銀行名と口座番号を入力するだけで振り込まれる。

 パソコンから利用するインターネットバンキングだと、毎回異なる暗証番号を表示するOTP(ワンタイムパスワード)を銀行から発行してもらい、「公認認証書」という本人確認用のプログラムをインストールしないと振り込みができない。

 これに対して、簡単送金アプリを利用するとアプリ用の暗証番号6桁を設定するだけで少額の送金ができる。かつ口座番号がわからなくても送金できるので、祝儀や香典を送る時にもよく使う。

 簡単送金は、1回30万ウォン(約3万円)または1日50万ウォン(約5万円)まで利用できる。「口座番号が分からないので送金できなかった」、なんていう言い訳はもう通用しなくなったので、お年玉出費は年々増え続けそうだ。

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趙 章恩=(ITジャーナリスト)

 

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サムスンがGalaxy Note 7の発火原因を発表、だが韓国ユーザーの反応はいまいち

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サムスン電子のコ・ドンジン社長は2017年1月23日、ソウル市で記者会見を開き、Galaxy Note 7の発火原因を調査した結果、最終的にバッテリーの欠陥だったと結論付けた。また、新機種Galaxy S8からはバッテリーの安全性検査を強化し、生産した端末の一部を検査する方式から全量検査することにしたと発表した。



 Galaxy Note 7は2016年8月19日に発売された。その後、韓国と米国でバッテリー部分が焦げる、発熱する、発火するといった事故が発生し、9月2日にリコールが決まった。それからサムスン電子と海外の研究機関による原因調査が始まった。

組み立て時にバッテリー不良を見つけられず

 Galaxy Note 7のバッテリーは、サムスンSDI社のものとATL社のものが使われている。スマートフォンの組み立て課程で、サムスン電子側がバッテリーの不良を検知できなかったという。

 サムスン電子はバッテリー部分の発火原因を調査するため、Galaxy Note 7のデバイス20万台とバッテリー3万個をテストしたという。発表によると、結局問題はバッテリーの製造工程にあり、サムスン電子の安全検査でも不良バッテリーを確認できずそのまま使ったせいで発火した、ということだった。

 記者会見での説明によると、サムスンSDI社のバッテリーは、真ん中にある陽極と陰極を分離する分離膜が薄すぎて破損したことで発火。ATL社のバッテリーは、バッテリーのつなぎ目の問題や絶縁テープの不備、薄いセパレーターなど複数の問題が重なったとした。Galaxy Note 7を使った実験でも、実際に40回ほど発火を再現できたという。サムスン電子のハードウエアとソフトウエアには問題がなく、デバイスの輸送課程に問題があるわけでもなかった、とした。

 サムスン電子は再発防止のため、Galaxy S8以降は5段階のバッテリー安全性検査を8段階検査に変更することにした。スマートフォン本体のバッテリーを搭載する部分はより広くし、バッテリーが過熱すると自動で電源を遮断するソフトウエアも搭載する。

 製品のテストも強化する。レントゲン検査とバッテリー解体検査をバッテリーのメーカーに任せきりにせず、サムスン電子でも追加で実施する。また温度・湿度・衝撃・落下などいろいろな条件下で製品を使用し意図的に製品を劣化させて安全性をテストする「ユーザー条件加速試験」を実施することにした。

 サムスン電子は不良品に気付かなかった自分たちにも責任があるとして、バッテリーのメーカーに法的責任は問わないとした。サムスン電子という世界で最もスマートフォンをたくさん売る会社が、なぜバッテリーの欠陥に気付かなかったのかは疑問だが、Galaxy Note 7の全ての問題はバッテリーが犯人だった、ということで落ち着いた。

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韓国で進む、ドローンを使った国有地の無断占有パトロール

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 韓国企画財政部(国の予算を担当する省庁。部は日本の省にあたる)と韓国資産管理公社は、2016年夏からテスト事業としてドローンを使った国有地の無断占有パトロールを実施している。生産性が40倍以上になったとの報告もある。韓国企画財政部は、2017年1月末までにドローン30台を追加購入することを決めた。

 韓国の国有地は、国全体の約24%を占めている。国有地の多くは人が入る道がないほど険しい山林で、人が直接現場に出向いて無断占有を取り締まるには人件費も時間もかかった。そのため、こっそり国有地を無断占有して工場を建てたり、作物を栽培したりする人が後を絶たず、国有地が“先に使う人の勝ち”といった状態となり管理が行き届いてない地域もあった。

 2014年、400人近い調査員が直接国有地を訪問して調査した際に、国有地の無断占有率は15%前後であることが分かった。韓国資産管理公社は国有地の管理だけで毎月240人を投入していたが、手に負えない状況だった。

 ところがドローンを使ったところ、たった3台と操縦人員6人で240人分の仕事を数日でカバーできてしまった。韓国資産管理公社は2016年11月、「国有地無断占有予備調査」として、ドローン3台をレンタルして農村地域である慶尚南道(道は日本の県に相当)にある国有地83.4平方キロメートルを上空から撮影したところ、容易に無断占有している様子がわかり、無断占有は調査面積の10%に及ぶことも確認できた。その後調査員を無断占有している現場に派遣し、無断使用した地域住民に弁償金を請求できた。

ドローン30台で全国の国有地を調査していく

 ドローンを使った調査では、地上120~150メートルから2000万画素の画像を撮影し、その画像に地籍図を被せて国有地がどのような状態になっているかを確認する。

 ドローンの活躍が予想以上だったことから、企画財政部は2017年1月、国有資産の効率的な管理のため、9億ウォン(約9000万円)でドローン30台を購入する入札を実施した。撮影技術の高さから、海外メーカーが落札する可能性が高いとみられている。

 企画財政部と韓国資産管理公社は、ドローン30台を使って、3年間で全国の国有地全ての無断占有実態を調査する計画である。ドローンで撮影した国有地の画像データを韓国資産管理公社が分析し、分析結果を全国の国有財産管理機関に提供して取り締まってもらう。

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韓国の人気アプリ「配達の民族」で新手の詐欺、架空注文でポイント荒稼ぎ

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韓国の10~30代スマートフォンユーザーには必需アプリとまで言われる「配達の民族」で、新手の詐欺による被害が発生したことが明るみに出た。「配達の民族」は2010年6月に登場した出前アプリだ。2015年10月時点で2000万ダウンロードを突破し、韓国の出前アプリの中では市場シェア1位を占めている。

 「配達の民族」は、アプリを介して、色々な料理の出前や食材の配達を頼めるサービスである。出前を取っていないレストランの料理も、配達してくれる。現金支払いしかできないお店の出前でも、アプリ経由で決済すればクレジットカードや各種モバイルペイメントで支払える。現金を持っていなくても出前を頼めるところは、とても便利である。


画面●App Storeの「配達の民族」アプリ配布画面。韓国シェア1位の出前仲介アプリで、そのポイントを狙った新手の詐欺事件が発生し、話題になっている。自分が登録した加盟店に200個もUSIMを使いまわして大量に注文する架空取引をし、ポイントを貯めて換金した。この手の詐欺は韓国初の出来事である
(出所:アップル)

 またアプリ経由で注文すると、決済金額の一部がポイントとして貯まる(ポイントが貯まるパーセンテージは、会員レベルに応じて異なる)。1000ポイント以上貯まると、次回出前を利用した際の決済代金として使える。犯人グループが狙ったのは、このポイントだった。

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趙 章恩=(ITジャーナリスト)

 

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スタートアップ支援に乗り出す韓国キャリア、通信以外のビジネスを狙う

 韓国の最大手キャリアKTが、2016年から支援したスタートアップの技術を採用して、2017年から新しいサービスを始めた。KTのユーザーが決済や会員情報変更など本人確認が必要な時に、パワーボイス社の音声認証技術を使って本人確認ができるというものである。

 今までは、携帯電話にSMSで認証番号を送信してそれをもう一度入力するか、指紋認証で本人確認をしていた。パワーボイスの持つ技術の特徴は、録音された声では音声認証ができないことである。本人の生の声でないと認証に成功しないので、なりすまし犯罪を防止できる。生体認証の世界標準といえるFIDO(Fast Identity Online)の認証も取得した。

 使い方は簡単だ。スマートフォンに「KT認証アプリ」をインストールして、韓国語で「声の認証」と7回繰り返し話すと、音声情報が登録される。その後は、本人確認の時に音声認証を選択して「声の認証」と話すだけでよい。


写真●韓国最大手キャリアのKTが開始した音声認証。KTはスタートアップを支援し、社外から新しい技術を取り入れることに積極的になっている。会員向けにスタートアップであるパワーヴォイス社の技術を搭載した音声認証を提供、決済や個人情報変更など本人確認が必要な時により楽に認証できるようにした。
(出所:韓国KT)

 時間を短縮するため、スマートフォンのIDとパスワードの自動入力機能を利用する人も多いが、セキュリティ上は好ましくない。KTはフィンテックの利用率が増えていることから、決済の際に手間をかけずセキュリティを高めるため、生体認証の一つとして音声認証を始めた。

自動運転やIoT関連スタートアップとの提携も

 またKTは、スタートアップのカビー社と協力して、先進運転支援システム(Advanced Driver Assistance System)を開発している。カビーのシステムは、画像認識や各種センサーを利用し、一人ひとりの運転スタイルに合わせて車の衝突やスピード違反を防止して、車線からはみ出ることがないよう安全運転をサポートする。日本では既に、バスや自動車に導入されているが、韓国では最近導入が始まったばかりである。

 KTはカビーのシステムをロッテのレンタカー1000台に搭載し、そのレンタカーを借りてKTの業務用車両として使うことにした。KTは通信以外の収益源を作るため、自動運転に投資していた。その流れでカビーに投資し、技術開発にも協力するようになったのである。韓国政府は2017年から、全車両に先進運転支援システムの搭載を義務付けることを検討している。KTはスタートアップと組むことで、よいビジネスチャンスを見つけた。

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章恩(ITジャーナリスト)

 

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2017.1

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こんなところまで?ハッキング被害続出の韓国

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米国では、先日の大統領選挙に関して、ロシアがヒラリー・クリントン候補のメールをハッキングした疑いがあるというニュースが流れ、物議をかもしているようだ。

 韓国でもハッキング事件は後を絶たない。つい最近も、北朝鮮によるものとみられる国防ネットワークのハッキングが発生した。芸能人のSNSのパスワードを盗んで勝手に書き込みをした事件や、民間企業が学校の入札システムをハッキングして最安値を調べていた事件もあった。

 中でも深刻なのは、国防関連のハッキングである。韓国国防部(部は日本の省に当たる)は2016年12月中旬、8月に国防ネットワークへの不正侵入があり韓国軍の情報が盗まれた事実と、それが北朝鮮によるものと推定していることを公表した。どのような情報が盗み取られたかは、明確に公表しなかった。

 このハッキングは、「国防統合データセンター」という国防用のデータセンターの管理者がセキュリティルールを守らなかったことが原因だった。本来は、内部ネットワークとインターネットにつながる外部ネットワークを分離し、内部ネットワークだけ使えるパソコンとインターネットにつながるパソコンに分け、機密文書は内部・外部ネットワーク全てをシャットアウトしたパソコンで扱わなくてはならない。そしてパソコンの中には一切データを保存せず、すべて外付けハードディスクに保存して管理するというルールがあった。

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PPAPより稼いでいる? 動画スター目指す韓国の子供たち

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 12月10日、韓国のケーブルテレビ局向けの番組や映画を制作するCJ E&M社のスタジオで「キッズクリエイターコンテスト」が開催された。内容は、幼児から小学生までの子供を対象にしたユーチューバ―オーディションのようなものだった。

 1次審査では、各自が企画・出演・制作した動画番組を審査した。そして2次審査では、カメラの前でいつものように番組を進行する様子を見せてもらい、面白い動画が作れそうな子供を選ぶ。そして動画スターになれるよう、映像企画と制作、動画スターになるためのノウハウなどを教え、プロモーションもCJ E&M社が支援する。

写真●キッズクリエイターコンテスト告知サイトのキャプチャー
韓国の番組制作会社CJ E&M社とポータルサイトのNAVERが開催したキッズクリエイターコンテスト。子供を対象にしたユーチューバ―コンテストのようなオーディションで、900人を超える応募者の中から10人の子供を選び、投稿動画の制作技術や企画を教えて動画スターに育てるという企画である

 「キッズクリエイターコンテスト」では、予選に参加した951人の中から1次審査で50人が選ばれた。1次審査に寄せられた動画は、子供がおもちゃの遊び方を紹介する動画、子供が料理をする動画、子供が身の回りの道具で科学実験をする動画が多かった。予選に参加した子供は、27カ月の幼児から小学校6年までと年齢も幅広かった。

 2次審査(オーディション)では最終的に10人が選ばれた。2次審査で選ばれた10人は、CJ E&M社が運営する動画サイトDiaTVや、コンテストのスポンサーだったポータルサイトNAVERで自分のチャンネルを作って動画を流せる。最近、韓国語版のYouTubeでは、子供が主人公の子供向けチャンネルが人気を集めていることから、韓国企業も動画スターになれそうな子供を発掘し、子供目線で情報を提供する子供チャンネルを強化するのが狙いである。グーグルコリアによると、韓国語版YouTubeのキッズ関連コンテンツ視聴時間は、毎年3.5倍増加している。

 今の小学生は、生まれたときから携帯電話やモバイルインターネットがある世代である。テレビと同じぐらい動画サイトを見て育っているので、テレビ番組と動画サイトの番組を区別せず面白いものを観て楽しむようだ。

 複数の韓国メディアによると、YouTubeにある子供向けチャンネルで有名なところは、広告収入だけで月数千万ウォン(数百万円)に及ぶ。「このおもちゃを紹介してほしい」とスポンサーがつくこともあるので、かなりの収入になる。広告収入はYouTubeが45%、制作者が55%の割合で配分するという。

 中でも韓国で知名度が高い子供向けチャンネルは、「ライムチューブ」、「マイリンTV」、「マリヤと友達」である。

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韓国小中学校でのソフトウエア教育本格化、大学の教育学部でも義務教育に

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韓国の教育政策を担当する教育部(部は日本の省にあたる)は2016年12月2日、「ソフトウエア教育活性化基本計画」を確定した。2014年2学期から一部小中校で行っていた週1時間のソフトウエア教育を、全学校で2018年から義務化する(中学校は2018年から、小学校は2019年から)。そのために人的・物的インフラを整える。ソフトウエア教育を強化することで、韓国のソフトウエア産業の競争力を確保するというのが主な内容である。

 世界的に人工知能やビッグデータ分析の重要性が高まっていることから、韓国では文系もソフトウエアの基礎を理解すべきとして、小中高校からソフトウエア教育を始めることにした。2014年2学期から、一部の学校でソフトウエア教育(実際にはコーディング教育)を実施したところ、ロボットのソフトウエアをコーディングして動かしてみる、モバイルゲームを作ってみる、といった授業内容が子供たちにとても喜ばれた。

 教育熱の高い韓国らしく、ソウルの富裕層の間では子供を「コーディング塾」に通わせ、学校のソフトウエア授業で高い点数を取るための競争が始まってしまったのは残念だが、それぐらい韓国ではソフトウエア教育が重視されるようになった。

 その背景には、韓国は内需が小さく輸出中心の経済で、今まで輸出しやすいハードウエアばかり重視しソフトウエアはおろそかにしていたことから、押し寄せる人工知能の波に乗り遅れたという反省がある。ソフトウエア教育を通じて「Computational Thinking」ができる人材を養成するという目的もある。Computational Thinkingは、ソフトウエアを組み立てるように論理的に思考し、問題を効率よく解決できる思考能力を意味する。

「教師の教育」も強化

 「ソフトウエア教育活性化基本計画」で大きな変化が生じるのは、小中学校だけではない。教育部は「幼稚園および小・中・特殊学校等の教師資格取得のための細部基準」を改訂し、小学校教師になるための基本履修科目にソフトウエア教育を明記。ソフトウエアの授業ができる程度にならないと小学校教師になれなくなった。中学校の情報科目教師になるための履修科目も細分化し、ソフトウエアの授業ができるようレベルアップすることにした。

 中学校は情報科目の時間に、小学校は担任教師がソフトウエア教育をすることになっている。そのため、韓国全国の教育庁(自治体ごとにある教育を担当する政府機関)は2014年から小学校教師の30%に当たる6万人と、中学校の情報科目担当教師を対象にソフトウエア教育研修を実施してきた。2016年からは情報科目の教師採用を増やし、教師が情報科目を複数専攻する研修も実施することにした。

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