韓国の大統領スキャンダルでスタートアップが危機?

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大統領スキャンダルが韓国のIT業界にも大きな影響を及ぼしている。国政に介入し、国家予算を牛耳って不正蓄財した朴槿恵大統領の友人チェ・スンシル氏が、IT分野にも手を出していたからである。

 退陣を求められている朴槿恵大統領の重点事業の一つに、「創造経済革新センター」というものがある。スタートアップを育成して地域経済活性化に役立てることを目標に、全国17カ所にインキュベーションセンターの役割をする建物を建てた。運営費は国と自治体が負担する。スタートアップを公募し、費用の負担なく無料で入居させ、各種技術開発に必要な設備も無料で利用できるようにした。

 創造経済革新センターごとに、映像コンテンツ開発、ドローン開発などとメインテーマを設定し、そのテーマに合わせてそれぞれ大手財閥企業とパートナーシップを結んだ。大手企業は入居したスタートアップ向けに講演会を開いたりアドバイスをしたり、大手企業が必要とする技術をスタートアップと一緒に研究したりと、スタートアップの相談役を務めるようにした。


画面●創造経済革新センターのホームページ
スタートアップ育成のため2015年から全国17カ所で運営している創造経済革新センター。センターごとに大手企業とパートナーシップを結んでスタートアップを支援、地域経済の発展にもつなげるはずのセンターだが、大統領スキャンダルと大きくかかわっていることが発覚した。

 創造経済革新センターの趣旨は立派だが、チェ氏はここも自分の利益のために利用した。創造経済革新センターの役員は、大多数がチェ氏の息のかかった人だった。センターに入居して成功した模範事例としてマスコミが取り上げていたスタートアップは、チェ氏の前夫の弟が副社長を務める会社だ。この会社の代表は結局、投資金詐欺容疑で身柄を拘束された。実態がないにも関わらず、チェ氏との関係から模範事例に仕立てられ有名になったのだ。

 センターのホームページ構築事業は、入札ではなく、チェ氏の知人が設立した会社が全国17センター分を全て受注した。センターが主催するイベントや展示会も全て、チェ氏の知人が経営する会社が受注した。そのほかにも、まるでセンターがチェ氏のビジネスのために存在したかのような疑惑が次々に浮上している。

 早速国会では、未来創造科学部(情報通信政策を担当する省庁、部は省に当たる)が申請した創造経済革新センターの2017年度国家予算約558億ウォン(約50億円)の審査を保留した。国会では、事業成果がないまま巨額の予算を使っているとして、創造経済革新センターの成果を具体的に示すよう要求した。

 ソウル市は、自治体が負担することにしていた2017年度のソウル創造経済革新センターの運営予算20億ウォン(約1.8億円)を全額撤回した。全羅南道(道は日本の県にあたる)も、同地域にある創造経済革新センターの2017年運営予算10億ウォン(約9000万円)を全額撤回した。他の自治体でも同様の動きが出ている。

今までは、朴大統領のキャッチフレーズでもあった「創造経済」に誰も文句を言わなかったが、大統領スキャンダル以降は「創造経済という得体のしれないものに予算をつぎ込んでいた」と国会も自治体も自省する雰囲気になっている。

 大統領スキャンダルをきっかけに、創造経済革新センターを廃止するという話まで出ている。しかし問題は、チェ氏と何も関連がないスタートアップも大勢入居していることである。「センターに入居しているという理由だけで、チェ氏と関係があるのではないかと白い目で見られた」と嘆くスタートアップの代表もいたほどである。

 国会と自治体が創造経済革新センターに背を向けると、投資家やベンチャーキャピタルもセンターに入居しているスタートアップに関心を示さなくなった。

 未来創造科学部は、「センターに入居して3年目に当たる2017年から成果を見込めるスタートアップもいる。世界的にスタートアップが重視されている中、支援を断ち切ってはいけない。少なくとも2017年まではセンターの運営を続けるべき」と主張している。

 ただし韓国のIT業界は、今回の一軒を「災い転じて福となす」になる可能性もあるとみている。国と自治体の支援金がなくなると、本当に競争力があり需要があるセンターとスタートアップだけが生き残る。政府の支援金でスタートアップを立ち上げ、無料でセンターに入居し、政府の支援金が切れるとビジネスをやめて、また支援金がもらえる分野でスタートアップを立ち上げることを繰り返す「支援金ハンター」がいなくなることで、本物のスタートアップだけが残る可能性があるからだ。

 それにしても終わりが見えない大統領スキャンダル。これ以上純粋にがんばっているスタートアップに飛び火しないよう、早く解決してほしいものだ。


趙 章恩=(ITジャーナリスト)

 

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2016.11.

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中国の会社からプレステVRまで──韓国最大のゲームショー「GSTAR」に見られた変化

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 毎年、大学就学能力試験(韓国の大学入試のための共通試験)が終わる頃に開催される韓国のゲームショー「GSTAR」。2016年は11月17~20日、釜山のBEXCOで開催された。今年の観覧者数は、歴代最多の21万9267人。昨年の20万9617人を1万人近く上回った。参加企業は28カ国600社だった。

 GSTARはB2Cのゲームの新作公開と体験、eスポーツ大会、B2Bのゲーム販売と投資誘致をサポートするゲーム投資マーケット、ゲーム業界の求人のための合同会社説明会が一堂に会する韓国ゲーム業界最大のイベントである。例えばeスポーツ大会に関しては、韓国ではスポーツリーグのようにオンラインゲームの対戦をケーブルテレビなどが中継するほど人気があり、今回のGSTARでは「FIFA ONLINE 3アディダスチャンピオンシップ」や「League of Legends KeSPA Cup決勝戦」などが開催された。

NEXONが過去最大級の展示をした理由

 歴代最大のブースで新作ゲームを公開したNEXONは、新作ゲームだけで35種を展示した。内訳はPC向けオンラインゲームが7種、モバイルゲームが28種だった。この内19種はブースでプレイできるようになっていた。新作の数も歴代最多公開だったが、会場の4分の1をNEXONが占めたことで、韓国メディアの間で「GSTARではなくNEXSTARと呼ぶべきではないか」という話まで出たほどだった。

 NEXONがここまで大規模な展示をしたのは理由があった。

 2016年上半期、NEXONを立ち上げた創業主のキム・ジョンジュ会長が、検察上層部にNEXONの株を不正に譲渡し大儲けさせたとか、現在退陣を求められている朴槿恵大統領の元秘書の妻が所有するビルを時価の3倍近い高値で買ってあげたといったことが検察の捜査で発覚した。その影響で、キム会長はNEXONの取締役を辞任した(NEXONは日本に本社がある)。「ベンチャー神話1世代」と言われ尊敬されていたキム会長だったが、韓国内では「実は権力層に賄賂を渡して癒着していたおかげでNEXONも成功できたのではないか」という視線を向けられるようになってしまった。

 NEXONのイメージも当然下落した。そこでNEXON KOREAはGSTARで大々的に新作を公開することで負のイメージから脱皮を狙った、というのが韓国メディアの共通した見方である。実際にNEXON KOREAのパク・ジウォン代表理事も、GSTAR会場で「上半期には社内で色々とよくないことがあったが、これを克服するためゲーム会社の基本であるゲームに集中する」とコメントした。

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趙 章恩=(ITジャーナリスト)

 

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2016.11.

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韓国で100万人が集まった大統領抗議集会に移動通信キャリアも大忙し

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 2016年11月12日、ソウル市中心部にあたる光化門周辺で行われた朴槿恵大統領の退陣を求める第3回目の抗議集会には、100万人を超える人が集まった。警察は26万人と推算したが、韓国メディアが「ソウル市が提供する地下鉄・バスの乗り降り乗客数(交通カード利用分)」をオープンデータから推算したところ、集会が行われた時間帯に少なくとも100万人以上が光化門周辺にいたことが分かった。

 光化門はオフィス・官庁街で、明洞や景福宮、清渓川など観光名所から歩いて行ける距離にある。ソウル市の中心部ではあるが、人通りが多くはない地域だ。12日は全国各地の農民会や労働組合などの団体も、集会に参加すると予告していたので大混雑が予想されていた。

 韓国のキャリア(携帯電話事業者)3社は、12日に光化門周辺にある基地局の収容容量を通常の2~3倍に増やし、移動基地局もキャリアごとに2~5台ずつ配置した。基地局は日々の流動人口を分析して設置する位置と容量を決める。そのため、いつもより人が集まると、一つの基地局に信号が集まり過ぎてなかなか電話がつながらない現象が発生する。基地局がパンクしないように補い、つながりにくくなる現象を防ぐため、キャリアはイベントがある日は移動基地局を設置してトラフィックをカバーするのだ。

 移動基地局は、年末年始のカウントダウンが行われるイベント会場、夏の海水浴場、お正月・お盆連休のサービスエリアなどによく登場する。キャリア3社によると、12日は2002ワールドカップ街角応援の時よりも移動基地局の台数を増やしたそうで、ここ20年間で最大規模のトラフィック対策を実施したという。

 移動基地局は大型トラックに機材を積んだものなので、かなり場所をとる。基地局は電源と、有線設備が必要だからだ。キャリア3社は2015年より、災害時のことも考えてより小型の移動基地局開発に力を入れるようになった。

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章恩=(ITジャーナリスト)

 

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2016.11.

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中国人が韓国のショッピングモールで爆買い!「光棍節」を狙え

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 11月11日は中国の光棍節、いわゆる「独身者の日」である。数字の1が4回並ぶことから、90年代に大学生の間で恋人がいない人を慰めるイベントが行われたのがその由来だとか。それがなぜか今では、米国のブラックフライデーのように中国のオンラインショッピングサイトが大々的にセールをする日になった。

 チョコレート会社がバレンタインデーはチョコを贈る日と宣伝したように、光棍節を中国版ブラックフライデーにしたのは中国最大のオンライン流通事業者であるアリババだ。2009年11月11日、アリババは独身者のために24時間限定のセールを実施した。これが大ヒットし、今では11月11日になると中国のオンラインショッピングサイトが破格的なセールを開催して大いに盛り上げる。

 アリババの2015年光棍節の売り上げは、たった1日で日本円にして約1.5兆円と桁違いの規模である。光棍節の後で配送される宅配便の数だけで10億個近いというからすごい。どのサイトも目玉商品を出してセールをするので、財布のひもがどんどん緩んでしまうのだ。アリババは、2016年の光棍節の売り上げは2.3兆円を超えると見込んでいる。

 市場調査会社ニールセンによると、2015年の光棍節にオンラインショッピングを利用した人へ2016年の光棍節もオンラインで買い物をしたいか聞いたところ、ほぼ100%が「はい」と答えたという。

 中国人観光客の多い韓国でも、11月11日は中国人向けにセールをする日になった。実店舗のデパートや免税店はもちろん、韓国の大手オンラインショッピングサイトのInterpark、GMarket、11番街なども光棍節で最大8割引きの商品を出すなどして盛り上がる。


Interparkのグローバルサイト
韓国の大手オンラインショッピングサイトは、中国や日本にいながら韓国のオンラインショッピングサイトで注文、自宅で受け取れるサービスを提供している。11月11日の中国版ブラックフライデー光棍節に合わせて、韓国のサイトもセールを開催中だ

 韓国の大手ショッピングサイトはほとんどが外国語サイトも運営していて、中国・日本・米国など世界70カ国に配送している。中国や日本にいながら韓国のショッピングサイトで注文し、自宅で受け取れるのだ。韓国から中国まで商品を届けるための国際配送料も半額に値引きするなど、今年は送料の値引き競争も激しかった。関税庁も、国際配送に必要な「電子商取引輸出届け出」を簡素化する方向で協力。郵政事業本部は、オンラインショッピングサイトの国際郵便料金を最大8%割引するなどして便宜を図った。

 韓国の有名ブランドがアリババの光棍節特設コーナーに商品を提供する事例も増えている。韓国の大手スーパーであるEMARTは、アリババの海外ブランド販売サイト天猫(Tmall)に、スーパー全体を出店した。

 アリババで光棍節に買い物をする主な顧客は26歳から35歳の中国人で、韓国ドラマやKPOPのファン層と重なる。光棍節には韓国の芸能人が身に着けた商品を購入したがるケースが多いことから、韓国のスーパーや有名ブランド品は特設コーナーの中でも人気が高い。特に網紅(ワンホン)と呼ばれる有名ブロガーたちが購買に与える影響力が非常に強く、韓国企業は網紅を韓国に招待して製品をプレゼントするなど、大事にしている。光棍節を前に、韓国の化粧品会社はこぞって網紅を招待し、ソウルの高級ホテルを提供し観光地を案内しながら製品説明会を行った。網紅が「今年の光棍節は○○ブランドの化粧品を買うべき」と一言SNSで書き込むだけで、売り上げが大幅に違うからだ。

 韓国統計庁の「2016年9月オンラインショッピング動向」によると、韓国のインターネットショッピングサイトの海外直接販売額(海外ユーザーが韓国のサイトに注文して海外へ配送するケース)は、2016年7~9月の3カ月間で5512億ウォン(約513億円)と、前年同期の1.5倍に成長した。内訳は、中国からの注文が79.3%(4371億ウォン)を占めるほど圧倒的に多く、前年同期比で14.6%も増えた。次が米国、日本の順に多かった。

 中国人は、韓国のオンラインショッピングサイトでも爆買いをしているようだ。海外から注文が多かったのは韓国の化粧品、ファッション用品、家電、食品の順だった。オンラインショッピングに国境はないので中国のユーザーが利用してくれるのはうれしいことだが、中国を頼りすぎてしまわないように気を付けないといけないだろう。



趙 章恩=(ITジャーナリスト)

 

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2016.11.

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Fintech普及の証?韓国のATM数が初減少、財布を持たない日常生活も可能に

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韓国ではついに「キャッシュレス」生活が現実になっているようだ。韓国銀行が11月2日公開した統計によると、2015年度の全国の銀行ATMは8万6802台で、前年比で472台減少した。ATM台数が減少したのは、統計を集計し始めた1992年以来、初めてのことである。

 銀行口座にお金を預ける、引き出す、振り込みをする、各種税金を払うなど、様々な機能を持つATMだが、韓国ではATMの利用が減少しても維持補修費はかかる。現在、ATM1台当たり年間平均170万ウォン(約15万5000円)の赤字だという。ATMの時間外手数料を値上げしているが、それでも費用を賄えない状態だという。

 韓国では、ATMだけでなく銀行の店舗数も減少している。HANA金融経営研究所の調べによると、銀行店舗数は2014年末のには7398店あったのが2015年末の7261店まで、137店減少した。店舗数が減ったのはソウル市を始め首都圏ばかりで、人口減少よりも、モバイルバンキングやモバイルペイメント、SNSを使った個人間振り込みといったFintech(金融+ICTの融合)の普及により銀行に行く必要がなくなったことの方が大きく影響しているように見える。首都圏の銀行店舗は、2012年から減少し始めた。

 韓国銀行によると、2015年の年間インターネットバンキング・モバイルバンキング利用件数は1億2000万件余り、年平均27%ほど増加し続けている。

 「インターネットバンキングやモバイルバンキングが普及しても、現金を引き出す必要はあるのでATMは生活に欠かせない存在のはず」と筆者は思ったが、自分もキャッシュレスの生活をしていた。韓国ではモバイルペイメントの普及で現金を引き出す必要がないのだ。

 日本でもおサイフケータイが普及し、スマートフォンを使って支払う人が増えているが、韓国はプリペイド(前払い)ではなくポストペイド(後払い)である。筆者は、プリペイドよりポストペイドの方が、楽にモバイルペイメントを利用できると感じている。スーパーやコンビニ、外食、交通費など、全ての支出をモバイルペイメントにし、まとめてクレジットカード払いにしている。



 韓国では、1000ウォン(約90円)以上の決済であれば、クレジットカードが使える。都市部からかなり離れた地域でない限り、クレジットカードでの支払いに対応していない店舗はほとんどない。国税庁は、店舗がクレジットカード支払いを拒否した場合、所得隠しの疑いがあるので通報するよう呼びかけているほどだ。クレジットカードの加盟店であれば、ほぼ全てモバイルペイメントに対応している。特別な読み取り端末(リーダー機)がなくても、既存のクレジットカード決済機にスマートフォンを近づけるだけでいいのだ。

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趙 章恩

(ITジャーナリスト)

 

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2016.11.

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ポータルサイトから人工知能へ、韓国NAVERが目指す「生活環境知能」

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日本ではLINEの親会社として有名な韓国のNAVERだが、韓国ではサムスン電子やLG電子並みの大手企業である。NAVERは検索、ニュース、ブログ、動画、音楽、翻訳、オンラインコミュニティ、無料電子メールなどあらゆるサービスを提供するポータルサイトだ。韓国人のほとんどにとって、毎日のように利用しているお馴染みのサイトである。韓国のリクルーティングサイトである「インクルート」が2016年7月、就職活動中の大学生1357人を対象にアンケート調査を行ったところ、もっとも就職したい企業1位はNAVERだった。企業の成長可能性が高いからという理由だった。ちなみにサムスン電子は4位だった。

 そのNAVERは10月24日と25日、ソウル市内で行われたNAVER開発者大会「Deview」で、人工知能やロボットなど未来に向けた研究成果を公開した。この場で公開したのは、音声認識と人工知能をベースにしたアシスタントサービス「AMICA」、自動運転技術、通訳・翻訳アプリ、マップ製作ロボット「M1」、NAVER独自のブラウザー「WHALE」である。2020年までこの分野に1000億ウォン(約90億円)を投資し、独立法人を設立して人工知能を研究する計画であることも明らかにした。

 人工知能は、韓国政府が国策として力を入れている分野でもある。韓国未来創造科学部(部は日本の省に相当)は、「知能情報産業発展戦略」の下で、人工知能の応用研究と実証実験に2016年から2020年まで1兆ウォン(約900億円)を投資することを盛り込んだ。


 こうした背景から、韓国ではほとんどのメディアがDeviewを取材し、「NAVERが検索ポータルサイトから人工知能へ、サービスから技術開発へ変わろうとしている」、「NAVERがグローバル企業との技術競争に乗り出した」などと報じた。

 NAVERの音声認識アシスタントサービス「AMICA」は、AmazonやGoogleのサービスと似ている。違いがあるとすれば、「韓国語を聞き取れる」人工知能である点だ。人の会話から状況を理解して人をサポートしてくれるAMICAを、アプリやスマート自動車などに導入して使うことを想定している。既にサムスン電子のIoTチップセットである「ARTIK」に搭載されており、韓国で有名なホテル予約アプリ、レストラン配達アプリもAMICAを搭載した新しいサービスを開発中だという。NAVERは、スタートアップがAMICAを使って新しいサービスを企画できるようにしている。

 AMICA が目指すのは、生活環境知能(Ambient Intelligence)である。これは、家の中でも道路でも会社でも、人間の生活空間どこでも適応して、環境や状況を理解して自らユーザーが必要とするサービスを提供する人工知能のことである。

 「M1」はNAVER初のロボットである。スキャナーとカメラを搭載しており、ショッピングモールやビルの中を動き回り、自ら高精密室内マップを作る。マップも人工知能と関連がある。人工知能が人間の日常生活を理解するためには、室内に何が置かれているのかをまずマップを見て把握しないといけないという。

 NAVER独自のブラウザー「WHALE」は、5年の歳月をかけて開発したもので、2016年12月にベータ―版を公開するという。特徴としては、ユーザーの動きを判断していらないタブを閉じたり、画像ファイルのまま翻訳できたり、インターネットを使いやすくしたりする。

 Deviewにはイ・ヘジンNAVER理事会議長も参加し、集まった開発者らに技術の重要性について述べた。「インターネットには国境がないので、GoogleやFacebookなど世界の企業と競争するしかない。より多くの資金と資源、人材を確保している巨大グローバル企業と競争するためには、新しいアイデアはもちろん、これを支える技術競争力も基本的に持っていないといけない。人工知能やデータ分析など色々な技術が研究だけの段階を超えて、実際に人々の生活に入って来ようとしている段階なので、これからは技術の戦いになる。素晴らしい技術を持つスタートアップに投資し、協業する機会を増やしていきたい」。

 LINEをヒットさせた経験から自信がついたのか、NAVERは今ヨーロッパを狙っている。人工知能のほかにヨーロッパのスタートアップに1億ユーロを投資することも発表した。イ・ヘジンNAVER理事会議長が日本に拠点を移してLINEの開発に没頭したように、今後はヨーロッパに拠点を移して市場開拓に乗り出すという。韓国の大手企業は、内需が小さい韓国では満足せず世界市場を目指す。NAVERの挑戦も成功してほしいものだ。


趙 章恩=(ITジャーナリスト)

 

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2016.10.

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リコールにもかかわらずGalaxy Note7を使い続けたがる韓国ユーザー

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 サムスン電子がGalaxy Note7の製造・販売中止を発表し、米国でもリコールが始まって1週間以上経つ。米国の連邦交通部と連邦航空庁はGalaxy Note7の航空機内持ち込み、手荷物として預けることも禁じた。この決定により、世界中の航空会社がGalaxy Note7の機内使用禁止より厳しい機内持ち込みそのものを禁じる動きに出た。

 当初バッテリーの問題とされていたGalaxy Note7の発火原因は、結局今のところわからないままである。バッテリーを別会社に変えても発火事故が続いたことから、端末すべての構造を調べ直すしかない。

 10月17日からは、韓国の政府機関である国家技術標準院が専門家10人規模の「Galaxy Note7官民合同調査団」を発足した。3カ月ほど時間をかけて、発火原因を突き止めるまで徹底的に調査を行うと意気込んでいる。合同調査団の調査結果によっては、サムスン電子に行政処分を下す可能性もあるという。韓国においてGalaxy Note7の発火事故は、もはやサムスン電子だけの問題ではなく、韓国経済や韓国の信用度まで揺るがす大事件になっているからだ。

 製造・販売中止を決める前から、サムスン電子ホームページには「新しく交換したのにまたGalaxy Note7が問題を起こしている」というユーザーの不満が次々と書き込まれた。最も多い書き込みは、「充電中の発熱」と「充電をしても急速に放電するという問題である。「100%充電後、ゲームも動画も観ていないのに5分後にはバッテリーが30%しか残っていないほど急速に放電した」という書き込みや、「ワイヤレス充電をすると、バッテリーの残量が増えるどころかどんどん減ってしまう」という書き込みもあった。韓国の複数のテレビ番組が同じくGalaxy Note7を使ってワイヤレス充電をしたところ、充電開始後40分が経ってもバッテリーの残量は増えるどころか減り続ける現象が起こった。充電を始めると恐怖を感じるほど、どんどんバッテリーが熱くなる現象も見られた。

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趙 章恩=(ITジャーナリスト)

 

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2016.10

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韓国のユーザーも不満爆発、サムスン電子のGalaxy Note7販売中止問題

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 最近飛行機に乗ると、機内で必ず「Galaxy Note7の電源を消し、機内で使用しないこと」をお願いするアナウンスが流れる。これだけ事故が続くと、いつどこで発火事故に出会うか不安にならずにいられない。

 サムスン電子はついに、バッテリーの交換後も発火事故が続いているGalaxy Note7の生産・販売を中止することにした。韓国、米国、中国で販売したGalaxy Note7は全て回収する。2016年10月11日から、韓国のキャリア3社はGalaxy Note7の販売を中止し、売り場からGalaxy Note7の展示品や宣伝ポスターなども全て撤収させた。

 Galaxy Note7の販売中止は、韓国政府機関からの勧告を受け入れた結果ともいえる。韓国政府機関でGalaxy Note7の事故原因分析を行っている国家技術標準院は10月11日、以下の内容の報道資料を発表した。

 「Galaxy Note7事故調査合同会議の結果、新たな製品の欠陥可能性を確認したため、消費者の安全のため即刻保護処置をとる必要があるという結論を下した。サムスン電子と以下のことについて合意した。(1)新しいGalaxy Note7へのデバイス交換中止、(2)Galaxy Note7の販売中止、(3)消費者にGalaxy Note7使用中止を呼びかける。デバイスの回収と払い戻しについてはサムスン電子側と再度協議する――である。

 Galaxy Note7は全世界で120万台近くを交換または払い戻し済みだ。さらにバッテリー交換後の新しいGalaxy Note7は、韓国内だけで50万台ほど売れたので、全て回収となるとかなり大変な作業になる。どこでどのようにGalaxy Note7を回収して払い戻しをするのか、キャリアがユーザーに支給した端末購入補助金はどうなるのか、詳しいことはまだ決まっていない。払い戻しではなくGalaxy S7または同Edgeに交換する選択肢もあるが、Galaxy S7シリーズの在庫不足でユーザーの望み通りにならない可能性もある。

 サムスン電子が韓国での販売中止を発表した前日の10月10日、米国でGalaxy Note7の販売・交換を中断し、全デバイスをGalaxy S7または同Edgeに交換するか、払い戻しをすると発表した(関連サイト:http://www.samsung.com/us/note7recall/)。米国のAT&T、T-MobileなどのキャリアもGalaxy Note7の販売を中止した。


サムスン電子がWebサイトに掲載したGalaxy Note7についてのお知らせ
GALAXY S7または同Edgeへの交換または払い戻しのお願いなどが書かれている。
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趙 章恩=(ITジャーナリスト)

 

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2016.10

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韓国でXperia XZ発売、「カメラはやっぱりソニー」と好評

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2016年10月10日、韓国でもソニーの「Xperia XZ」が発売されることになった。ソニーは10月5日、ソウル市内でXperia XZ を披露するイベントを行った。サムスン電子・LG電子・アップルしか選択の余地がないように見えた2016年秋の韓国プレミアムスマートフォン市場に、ソニーの「Xperia XZ」が加わった。


XperiaXZ
韓国でも10月10日から発売されるXperiaXZは、プレミアムスマートフォンとしてサムスン電子やLG電子の新機種と肩を並べた。カメラ機能が注目されている。韓国ではきれいに撮れるスマートフォンカメラといえばソニーのXperiaというほど信頼されている。
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 サムスン電子の期待作Galaxy Note7は、約9万円のプレミアムスマートフォンにもかかわらずバッテリー発火問題で回収・払い戻しになり、バッテリーを変えて再発売した。iPhone7は、米国で色々な機能を同時に使うとノイズが発生することを一部ユーザーがネットで公開、デバイス交換騒動が起こった。LG電子の新機種V20は優れたオーディオ機能を持つが、端末価格が約8万1000円と予想をはるかに超える高額だったため、爆発的な人気とまではいかない状況である。Xperia XZは今のところ、性能も価格も非の打ち所がないスマートフォンとして話題になっているので、韓国でのシェアもぐんと上がるに違いない。

 Xperia XZのスペックは、1080×1920 の5.2インチディスプレイにRAMは3GB で、内蔵メモリーは32GB、256GBまで拡張できる。2300万画素/1300万画素のカメラを搭載、スマートフォン初の5軸手ぶれ補正機能もあるハイスペックスマートフォンである。一眼カメラに搭載する「Gレンズ」を搭載したことも、韓国では注目されている。0.6秒でカメラが反応して動く物体にフォーカスを当てて撮影できる機能も面白い。イベント会場で森本修ソニーコリア代表は、「Xperia XZは、ソニーの進歩したカメラ技術と固有のオーディオ技術が一つになったプレミアム製品」と紹介した。

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趙 章恩=(ITジャーナリスト)

 

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2016.10

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デパートで流行るO2O、IT+VRで買い物を楽しくしないと売れない時代に

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今年9月、ソウル市郊外にオープンした大型ショッピングモールにO2O(ONLINE TO OFFLINE)ショップが登場した。O2Oとは、オンラインとオフラインをつなげる、オンラインの顧客をオフラインの売り場に誘導する、といったIT戦略のことである。

 ここは、韓国の大手デパートである新世界デパートグループが1兆ウォン(約1000億円)を投資してオープンしたショッピングモール。新世界デパート系列のオンラインショッピングで販売している商品を、オフラインで体験し購入できる「スーパーショップ」で、最先端のO2Oを体験できる。


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写真●新世界デパートのアプリ画面
新世界デパートはオンラインとオフラインをつなげるO2Oに積極的で、VRで360度商品や売り場を確認できるアプリを提供している。

 同じ商品でも、店舗を持たないオンラインショッピングサイトの方が安く買えることが多いので、オフライン店舗で商品を見てオンラインショッピングサイトで購入する人が急増。デパートやショッピングモールは頭を抱えていた。オンラインショッピングサイトは割引クーポンも豊富に提供し、送料無料、ロケット配送(午前注文したら午後には届く)などサービスもいい。商品が届くのを待てないからオフラインで買う、という人もいなくなった。

 デパートやショッピングモールは、オフライン店舗で売り上げを稼ぐため、O2O戦略を活用。オンラインショッピングサイトをオフラインの店舗でより詳しく紹介して、商品もオンラインと同じ価格で販売(ただし商品はオンラインショッピングサイトから宅配で届く)。その足でついでにスーパーやレストランに立ち寄って食事をしたり、他の物も買ってもらったりする消費パターンの増加を狙っている。

 「スーパーショップ」では、新世界デパートや系列のディスカウントショップがオンラインで販売する200万点を超える商品を、大型デジタルサイネージを使って検索できる。加えて、オフラインに展示してある商品のバーコードを、新世界デパートのアプリをインストールしたスマートフォンでスキャンすると、オンラインショッピングサイトの価格が表示される。

 その場でオンラインショッピングサイトの会員登録をすれば、オンラインの価格でも注文できる。オンラインとオフラインどっちが安いのかいちいち検索する必要なく、その場で最安値で購入できるようにしている。

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趙 章恩=(ITジャーナリスト)

 

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2016.9

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