iPhone SE公開で火が付いた、サムスン電子・LG電子・アップルの格安スマートフォン競争 [2016年3月25日]

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3月21日、米アップルが格安スマートフォン「iPhone SE」を公開した。韓国のサムスン電子もLG電子も、新興国向け格安スマートフォンに力を入れている。格安スマートフォンでは、1万円台の商品を数多く揃えた中国メーカーが圧倒的に強い。

 スマートフォンの普及率は頭打ち、プレミアムスマートフォンだけでは、販売台数を伸ばすのには限界がある。ハイエンド競争をしていたサムスン電子・LG電子・アップルも格安競争で新興国を狙い、既存ユーザーが複数台使うような需要を生み出さなければならない状況になってしまった。

 iPhone SEの端末価格は、16GBが399ドルと既存のiPhoneに比べ半額程度にまで安くなった。4インチと画面が小さいが、カメラは1200万画素、最新プロセッサーのA9チップ搭載、指紋認識機能搭載、メタルボディーなど、中身とデザインは安っぽくはない。カラーもブラック、シルバー、ゴールド、ローズゴールドと、人気のカラーをすべて揃えた。

 韓国では、「2013年秋に発売して失敗した、値段も中身も格安のiPhone 5Cとは全然違う」と高く評価されている。最近のスマートフォンは画面が大きすぎて逆に不便、と思っていたユーザーを中心に、4インチのiPhone SEの韓国発売を待っている。今のところiPhone SEの韓国発売日は未定だが、iPhone6sと同じく先に発売日が決まった日本に行って買ってくる人がかなりいそうだ。

 iPhone SEの発売により、サムスン電子とLG電子の格安スマートフォン戦略に、再び注目が集まっている。サムスン電子の格安スマートフォンラインアップは、GALAXY AシリーズとJシリーズ、LG電子はXシリーズだ。

 サムスン電子は、格安スマートフォンGALAXY A3を、アップルより一足早い3月8日に発売した。4.7インチ、1300万画素、バッテリーは2300mAh、クアッドコアの Exynos搭載と、中身は格安ではないが端末価格は約3万6000円に抑えた。


写真●GALAXY J1 mini
3月フィリピンで発売したサムスン電子の88ドルスマートフォン。シンプルな機能で最大限値段を抑えた(サムスン電子提供)

 サムスン電子は3月11日に、フィリピンでさらに低価格のスマートフォン「GALAXY J1 mini」を発売した。端末価格は88ドル、4インチの画面に500万画素カメラとシンプルな機能。初めてスマートフォンを購入する人を狙った端末である。




趙 章恩=(ITジャーナリスト)

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AI囲碁・AlphaGoとプロの対局に韓国中が大騒ぎ、インターネット生中継同時接続65万人アクセス [2016年3月22日]

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「人間VS人工知能の頭脳対決」という見出しで騒がれた囲碁対局が、韓国で大騒ぎになった。3月9日から15日までソウル市内のホテルで行われた「グーグルディープマインドチャレンジ」では、グーグルディープマインドが開発した人工知能のAlphaGoと、韓国人でランキング世界4位の囲碁棋士イ・セドル九段が対局した。勝者には、100万ドルの賞金が贈られる。

 AlphaGoは、自ら学習するディープラーニングという機能を持つ最新人工知能である。1秒当たり10万通りの可能性を検討できるので、無敵ともいえる。それができるのは、AlphaGoにCPU(Central Processing Unit)1202個、GPU(Graphics Processing Unit)176個搭載しているからだ。

 一般にGPUは、CPUより短い時間で大量のデータ処理ができる。大体GPU12個が、CPU2000個を搭載した時とほぼ同じ性能を持つそうだ。GPUはヘルスケア、自動車、金融サービス、ロボットなど幅広い分野で、今の状態からこれから起きることを予測して人間にアドバイスする人工知能に使われている。


グーグルディープマインドが開発したAlphaGo
AlphaGoは囲碁をする人工知能である。ソウル市内のホテルで韓国人棋士イ・セドル九段とAlphaGoの対局が行われ、韓国では人間と人工知能の対決だとして注目された。

 こうした機能から、韓国では「AlphaGoとイ・セドル九段1人が対決するのは公平な勝負ではない。囲碁棋士数十人が対局しないと、対等とはいえない」という声もあったほどだ。

 それでも第4局で、イ・セドル九段はAlphaGoに勝利した。韓国メディアは、「人間が人工知能に勝つのは、これが最初で最後かもしれない」と報道した。AlphaGoは以前、中国出身の欧州チャンピオンの囲碁棋士と対戦したことがあるが、全勝した。なぜ負けたかを自ら分析して学習し終えているはずなので、AlphaGoはもう弱点がないはずという意味である。

 今回の対局期間中驚いたのは、電車やバスの中で年配の人までも「AlphaGoが~」「グーグルが~」と普通に話題にしていたことだ。馴染み深い囲碁対決だったせいか、人工知能に興味がある人だけに限らず、子供からお年寄りまで全国民が対決を見守った。

 3月15日に行われた最終戦の第5局は、イ・セドル九段の負け。人間VS人工知能の対局は、計1勝4敗と人間の負けとなった。しかし、人工知能には勝てないと予想されていたイ・セドル九段が、第4局で見事AlphaGoに勝利したことで、グーグルディープマインドチャレンジの注目度はさらに高まった。

 第4局までは、対局を生中継したのはYoutubeとポータルサイトのインターネット放送、ケーブルテレビの囲碁チャンネルだった。それが第5局は、韓国の地上波放送3社全てが対局を生中継した。

 地上波放送3社は、5時間もかかった第5局を最初から最後までテレビで生中継した。それだけではない。放送局のホームページで、インターネット生中継も行った。テレビとインターネット、それぞれ知名度のあるキャスターと解説者、コメンテーターを用意し、囲碁が分からない人も囲碁がうまい人も楽しめるようにした。

 地上波・ケーブル・インターネット放送の視聴率競争は、凄まじいものだった。例えばケーブルテレビの報道チャンネルの生中継では、美人アマチュア囲碁棋士を解説者として投入した。ケーブルテレビ局の中には、人気のスポーツキャスターと囲碁好きサッカー解説者を登場させ、スポーツ中継のように盛り上げたところもあった。第5局を生中継したのは地上波・ケーブル合わせて10チャンネルで、全チャンネルの視聴率を合わせると9.5%になる。

 韓国の最大手ポータルサイトNAVERの発表によると、NAVERの第5局インターネット生中継は、同時接続だけで65万人を超えたほどの人気だった。NAVERのプロ野球中継が同時接続30~40万人程度なので、どれだけ注目を浴びたかが分かる。

 これほどたくさんのチャンネルが対局を中継できたのは、韓国棋院(韓国の囲碁発展と棋士育成のために設立した財団法人)が、グーグルから韓国語放送中継権と韓国インターネット放送送出権を獲得したからだった。韓国棋院は「どの媒体でも中継できるようにしたので、インターネット上の個人放送局まで入れると中継を行った媒体の数は数えきれない」という。

 イ・セドル九段は5回の対局を終えて、「大いに楽しんだ。この敗北はイ・セドルの敗北であって人類の敗北ではない」とコメントした。韓国では、AlphaGoとイ・セドル九段の対局はAlphaGoが勝っても「人間の勝利」だという声も登場した。人工知能を作ったのも人間で、人工知能に勝つのも人間だからだ。また、イ・セドル九段が1勝したことで、AlphaGoはさらに囲碁の戦略を学んだと言える。イ・セドル九段は、人工知能の研究にも大きな貢献をしたことになる。

 AlphaGoは、韓国に囲碁ブームを巻き起こした。グーグルディープマインドチャレンジが始まる前に比べて、子供向けに囲碁を教えるサイトや囲碁ゲームアプリの利用者数は急増。囲碁の基礎を教える本も、飛ぶように売れているのだとか。



趙 章恩=(ITジャナリスト)

日経パソコン

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http://pc.nikkeibp.co.jp/atcl/NPC/15/262980/031900070/

担任先生のSNSをチェックする韓国の保護者、教師にネット上の自由はない? [2016年3月11日]

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日本より1カ月早い3月が新学期の韓国。最大手新聞である「朝鮮日報」の3月8日付特集によると、新学期早々学校では保護者と教師の間でSNSトラブルが発生したようだ。小中高校生の子を持つ保護者達が、無料メッセージアプリを使って担任教師に始終メッセージを送り、担任先生のSNSもチェック、というかSNSの書き込みや写真を監視してあれこれ文句をいうらしい。たまりかねて、スマートフォンをやめてガラケーに機種変更する教師もいるのだとか。

 韓国の場合、無料メッセンジャーのKAKAO TALKが「国民アプリ」として定着した。プライベートでも仕事でも、メールの代わりにKAKAO TALKを使ってメッセージを送り、KAKAO TALKの無料通話を利用するのが当たり前になった。


写真●KAKAO STORY 韓国の国民的人気アプリである無料メッセージアプリKAKAO TALKが提供する写真投稿型SNS
韓国では担任先生のKAKAO STORYをチェックしてあれこれ文句をいう保護者が少なくなく、学校側が教師のSNS利用を制限する、教師がスマートフォンをやめてガラケーに機種変更するなどの事態が起こっている。

 韓国の場合、学校では担任先生の携帯電話番号を保護者に教えることが多い。子供のことで相談があるときは、学校の教務担当者ではなくダイレクトに担任先生に電話して話すのが一般的だ。

 筆者の周りは教師が多い。保護者からKAKAO TALKのメッセージが送られてくるのは日常茶飯事で、夜11時過ぎに進学相談がしたいとメッセージを送ってきたり、朝6時に電話をかけてきたりする保護者もいるという。彼らは「学生の事だから仕方ない」と嫌がらず対応している。韓国の小中高校生のほとんどがスマートフォンを使っているので、学生からも頻繁にKAKAO TALKのメッセージが届く。


次ページ: 学校によっては家でスマートフォンを使うのはいいが、学校に持って来てはならないというルールを作るところもある。…


趙 章恩=(ITジャーナリスト)
日経パソコン
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GREE撤退も韓国モバイルゲーム市場の成長続く、政府はVRゲーム育成計画発表 [2016年3月4日]

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3月2日、韓国メディアは、日本のソーシャルゲーム会社「GREE」が韓国市場から撤退を決めたと報じた。GREEコリアのゲーム配信は、既に終了した。GREEは、2011年10月韓国に進出した。2012年2月頃までは、韓国の新聞はGREEが韓国ゲーム市場を攻略するため、ヘッドハンターに依頼し巨額の年俸で大々的に人材をスカウトしていると報じたものだ。GREEは2011年韓国最大手キャリアSKテレコムと提携、SKテレコムのコンテンツマーケットであるTストア向けにソーシャルゲームを提供していた。

 2012年当時の韓国新聞記事を検索してみると、GREEが韓国市場に興味を持った理由は、ゲームの制作レベルが高く開発人材が多いことと、長期的には日本と中国をつなぐ橋渡し役をするのではないかという期待からだという。

 GREEは韓国から撤退したが、韓国のモバイルゲーム市場は相変わらず成長を続けている。韓国文化体育観光部(部は省にあたる)の「2015大韓民国ゲーム白書」によると、2015年度の韓国ゲーム市場規模は前年比6.1%増の10兆5788億ウォン(約1.6兆円)で、この内オンラインゲームは前年比2.6%増の5兆6847億ウォン(約5700億円)、モバイルゲームは前年比23.3%増の3兆5916億ウォン(約3600億円)を占めている。

 モバイルゲーム市場規模は、2012年まで8009億ウォン(約800億円)程度だったのがここまで成長した。コンソールゲーム、ビデオゲーム市場は伸び悩んでいるものの、モバイルゲーム市場はスマートフォンの普及率が国民の85%を超えたのと新作が出続けていることから、高い成長率を記録した。


「みんなのマーブル」(出所:Netmarble Games)
国民の約85%がスマホユーザーの韓国ではモバイルゲーム市場が成長し続けている。

 韓国のオンラインゲーム市場は、Netmarble Games、Nexon、NCSOFTの3社が握っているといっても過言ではない。3社の内、モバイルゲームに集中したNetmarble GamesとNexonは、2015年度の営業利益がそれぞれ117.7%、37%も増加した。

 Netmarble Games はモバイルゲームだけサービスするようになってから、売上高が1兆ウォン(約1000億円)を超えた。Netmarble Gamesの代表作ともいえる「みんなのマーブル」は、国民的人気ゲームである。Nexonは、2015年秋に公開した新作「HIT」が名前通りに大ヒットした。アップルのAppStoreでもGoogle Playでも、ゲームアプリ人気ランキングはこの2社が上位を埋め尽くしている。


「HIT」スクリーンショット(出所:NEXON)
韓国のモバイルゲーム市場はNetmarble GamesとNEXONが大きな影響力を持つ。両社の2015年度営業利益は、それぞれ前年比117%、37%増加した。

韓国メディアが見たMWC2016、スマホ新機種「G5」絶賛でLGは株価上昇、サムスンはVRで市場開拓 [2016年2月26日]

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韓国でも大注目のMWC2016だが、今年はなんといってもLG電子のスマートフォン新機種「G5」が話題をさらった。

 「G5」が、韓国だけでなく海外メディアにも「新しいスマートフォン」と好評を得たことで、MWC2016開幕後LG電子の株価が上昇したほどだった。2月22日LG電子の株価は前日より2.8%上昇、LG電子の持ち株会社であるLGは6.03%、LG電子にスマートフォンの部品を供給するLGイノテックは2.82%、LGディスプレイ社は1.52%株価が上昇した。LG電子にG5のメタルケースを納品したアイエムテックは、株価が前日より19%も上昇した。

 韓国の証券会社らは、「スマートフォンの中身はもちろん、ハードウエアまでイノベーションしたところが株価を押し上げた。LG電子はスマートフォンの限界を超えてみせた。G5は1060万台は売れ、Gシリーズの歴代最多販売台数を更新するに違いない。モジュール型スマートフォンという、他の会社には真似出来ないビジネスモデルを作った」と高く評価した。

 一方、新機種「S7」を発表したサムスン電子の株価には、あまり変化はなかった。韓国メディアは「S7はS6に比べ、防水機能の他にこれといって斬新な機能がない。期待しすぎた」とまで酷評した。

 韓国のユーザーにとって、LG電子のイメージはいつも控えめ、マーケティングが下手な職人グループという感じである。それが今年のMWCでは、サムスン電子と同日、5時間前に新機種を公開し、話題をさらった。


LG電子「G5」(出所:LG電子)
MWC2016でLG電子が公開したスマートフォン新機種「G5」。モジュール型スマートフォンといって色々な部品を装着して違う機能を楽しめるのが特徴だ。

 驚いたのは、スマートフォンにモジュールを装着させることで、スマートフォンが色々なデバイスに早変わりするところだ。バッテリーの部分を動かして着せ替えるだけで、デジタルカメラの形に変わったり、オーディオになったりする。オーディオは、世界的に有名なBang&OlufsenのカジュアルブランドB&O PLAYとのコラボ。32ビット、384kHzの音源(ハイレゾ)も再生できる。

 G5本体もスマートフォンも素晴らしい。通常の78度画角カメラと135度広角カメラのデュアル搭載。自撮り棒がなくても顔がドアップにならないのはもちろん、より広い風景を写真に収められる。一般に、人の視野は平均120度と言われており、135度の広角というのは自分の目で見るより広い。

 さらに、Pop-out Pictureといって、二つのカメラで同時に撮影をし、写真を重ねて1枚にする機能もある。写真をより立体に見せる効果があるので、アート感覚で自分なりの作品を作ることもできる。スマートフォンで写真を撮ってSNSに載せるのが大好きな人にとって、「G5」はこの上ない端末である。


次ページ: サムスン電子は「S7」が「G5」に押され気味になると、すぐ話題をVR(仮想現実)に変えた。2月23日から、韓…



趙 章恩=(ITジャーナリスト)

日経パソコン
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点字が読めるスマートウォッチ登場、MWC2016では韓国のスタートアップに注目 [2016年2月19日]

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今年のMWC2016は、韓国のスタートアップに注目すると面白い発見がありそうだ。

 韓国のキャリアSKテレコムが投資したスタートアップ「DOT」が、点字スマートウォッチをMWC2016(Mobile World Congress)で公開することにした。MWC2016は、2月22日にはスペインで開催される世界最大規模のモバイル展示会である。

 点字スマートウォッチは、SNSやショートメッセージ、メールなど届いたメッセージを点字にして表示する腕時計型端末。SKテレコムとDOTは、「世界初」の点字スマートウォッチと宣伝している。今まで時間を教えてくれる点字時計はあっても、メッセージを点字に変えてくれるスマートウォッチはなかったという。

 点字スマートウォッチには30本のピンが内蔵されていて、このピンが動きテキストメッセージを点字に変える。今までは視覚障碍者のためにSNSのメッセージやメールのテキストを音声で読んでくれる、TTS(Text-to-Speech)が使われていた。

「Dot」の点字スマートウォッチ
韓国のスタートアップ「Dot」が制作した点字スマートウォッチ。30本のピンが動き、点字でメッセージを読んだり電子本を読んだりすることができる

 DOT側の説明によると、視覚障碍者らは「家にいるときはいいが、外でメッセージを確認する場合、他の人にも聞こえてしまうので嫌だ」「いちいち立ち止まって安全な場所を確保してイヤホンを取り出して聴くのが不便」「歩きながらイヤホンでメッセージを聞くのは非常に危険なのでしたくない」という不満を漏らしていたと言う。視覚障碍者がプライバシーを守りながら、電車の中や立ち止まった時にさらっとメッセージを確認できるようにするにはどうしたらいいのか考えた結果、点字スマートウォッチを思いついたのだという。

 点字スマートウォッチには、点字を教育する機能もついている。DOTが調べたところ、世界中で出版された本の内、点字本になっている割合は1%に満たないそうだ。電子本を点字に変えることができれば、点字本がなくても点字で本が読めるので、視覚障碍者には嬉しい機能である。


次ページ: 日本で点字のディスプレイを見たことがあるが、30万円近くする高額商品だった。韓国でも点字で読める電子本端末、…


趙 章恩=(ITジャーナリスト)
日経パソコン
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「line.co.kr」をめぐる訴訟、LINEが他社のドメインを奪った?それともサイバースクワッティング? [2016年2月15日]

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 韓国では、「line.co.kr」の所有権をめぐる訴訟が大きな話題になっている。

 2月9日、ソウル中央地方法院(法院は裁判所にあたる)は、「line.co.kr」のドメインを2010年から所有しているA氏に対し、「line.co.kr」の所有権を認めないという判決を下した。

 韓国インターネット住所紛争調整委員会は2015年1月、LINEコーポレーションが紛争調整を申し込んだことから「line.co.kr」に対する審議を行った。同委員会は、「LINEコーポレーションがドメインの譲渡を願った際に、A氏は10万ドルを要求した。A氏がこのドメインを登録し保有、使用するのは、LINEコーポレーションのドメイン登録・保有・使用を妨害したり、第3社に販売したりして不当な利益を得る目的であることが明白」だと判断した。

 つまり同委員会は、A氏が自分のホームページを運営するためではなく、サイバースクワッティング目的で「line.co.kr」を所有していると判断し、強制的に所有権を抹消するという処置をとった。A氏は、所有権抹消を取り消すためLINEコーポレーションを相手に訴訟を起こしたが、ソウル中央地方法院は抹消処分は正しいという判決を下したのだ。A氏は裁判で「lineとは線という意味である。車線塗色業者(道路に車線を引く業務を担う)であり、先にドメインを登録した私の会社が使うのが正当である」と訴えた。


LINEの韓国語ホームページ
LINEのサービスが始まる1年前の2010年にline.co.krを登録した人のドメイン所有権を抹消する判決が出て、「大手企業がドメインを奪った」とネットが炎上した。しかし裁判所はサイバースクワッティングと判断した。

 サイバースクワッティング(cybersquatting)は文字通り、サイバー上に居座ることで、ホームページを運営する目的ではなく、企業に高い値段で転売する目的でドメインを先に登録することを意味する。韓国インターネット住所紛争調整委員会は、このような行為を厳しく取り締まっている。サイバースクワッティングとみなされた場合は、同委員会が審議を行う。所有者に弁明の機会を与え、正当な理由を説明できなかった場合は、所有権を抹消する処置を取っている。

 ドメイン紛争は韓国ではよくあることで、2015年11月には日本にも就航している済州航空のドメイン紛争が起こった。当時、韓国インターネット住所紛争調整委員会は、「jejuair.co.kr」の所有者に対し、ドメイン所有権を済州航空に移転すべきと判断した。

 韓国には「インターネット住所資源法」という名の法律もある。ホームページを運営する目的がないのに、ドメインを先に取得したり、ドメイン名で不当な利益を得ようとしたりすることを禁じている。


次ページ: 韓国のポータルサイトNAVERの日本法人が、無料メッセンジャー「LINE」のサービスを始めたのは2011年。…



趙 章恩=(ITジャーナリスト)
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日本のハッキング大会で韓国チームが優勝、専門教育センターの成果 [2016年2月8日]

2016年1月31日、東京電機大学東京千住キャンパスで行われた「SECCON2015」の決勝大会で、韓国の「Cykorkinesis」チームが、2位と大きな差を開けて優勝した。SECCONは、ハッキングと防御の技術を競いあうコンテスト。決勝大会には、世界から18カ国(チーム)が参加した。

 SECCONの目的は、世界の情報セキュリティ分野で通用する実践的情報セキュリティ人材の発掘・育成。世界に通用するセキュリティ人材を輩出し、日本の情報セキュリティレベルを世界トップレベルに引き上げることを目標としている。

 大会の後援は、高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部、サイバーセキュリティ戦略本部、警察庁、総務省、公安調査庁、文部科学省、経済産業省など、セキュリティに関する主な政府機関が揃っている。協賛もカスペルスキー、トレンドマイクロ、一般財団法人日本情報経済社会推進協会など、セキュリティ専門企業・機関が名前を並べた。

韓国情報技術研究院ホームページ
日本で行われたセキュリティ技術を競う国際大会SECCONで優勝したのは韓国チームだった。政府省庁傘下機関である韓国情報技術研究院のセキュリティ専門家養成プログラム修了生が参加したチームであるのが特徴である。

 優勝した「Cykorkinesis」は、2015年8月のDEFCON23、11月のTrendMicroハッキング大会、12月台湾で行われた2015 HITCON CTFでも優勝した強者で、2016年も世界で最も権威のあるセキュリティ技術コンテストDEFCONに出場する権利を獲得した。2位は台湾の217チーム、3位はアメリカの「Shellphish」、4位は日本の「katagaitai」、5位はルーマニアの「PwnThyBytes」だった。

 「Cykorkinesis」には、韓国情報技術研究院が運営するサイバーセキュリティ専門家養成プログラム修了生が参加しているのが特徴である。


次ページ: 韓国情報技術研究院は政府省庁の傘下団体で、情報化専門技術人材養成、知識情報セキュリティ産業高度化支援による国…


趙 章恩=(ITジャーナリスト)
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北朝鮮の仕業?悪性コード入りメール急増、韓国政府が注意呼びかける [2016年1月29日]

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 1月25日、韓国の通信政策を担当する省庁の未来創造科学部(部は省にあたる)は、サイバーセキュリティ危機警報を「正常」から「関心」に一段階引き上げた。同部は、北朝鮮の水爆実験以降、ハッキングを試みる悪性コード入りメールが急激に増加しているとして、ネットユーザーに注意を呼び掛けた。サイバーセキュリティ危機警報は、「正常、関心、注意、警戒、深刻」の5段階となっている。

 韓国メディアは、「北朝鮮の仕業と思われるサイバー挑発が相次いでいる」と報道した。未来創造科学部は、「北朝鮮の仕業と断定するのは難しいが、北朝鮮の水爆実験以降サイバー攻撃が急増したことから、その可能性(北朝鮮の攻撃)もあるとみている」とコメントした。  悪性コード入りメールは、韓国の外交部、統一部といった主な政府省庁の職員やポータルサイトの管理人と詐称して、メールの添付ファイルを開けるよう誘導する。また最近は、政府が行う世論調査だと偽り、はい・いいえで選択して簡単に返事できるメールを送信。返事をした人にだけ、2回目の世論調査として悪性コード入りメールを送る手法も登場した。悪性コード入り添付ファイルを開けると、ハッキングが始まりパソコンの中にある資料を盗み取る。


写真●韓国インターネット振興院KRCERT
インターネットセキュリティを扱う政府系研究センターである韓国インターネット振興院KRCERTのホームページキャプチャー。左上の青いボックスに「関心」と書いてある。韓国政府は、サイバー危機警報を「正常」から「関心」に一段階引き上げた。北朝鮮の水爆実験以降、悪性コード入りメールが急増加したとしてネットユーザーに注意を呼び掛けた。

 中には、「北朝鮮の水爆実験に関する世論調査」という内容で政府関係者に送られた悪性コード入りメールもあったとか。いかにも政府機関が行いそうな世論調査のタイトルをつけてメールを見るよう誘導する。最も多いのは、会社員をターゲットにした「人事関係の知らせ」と偽った添付ファイルである。

 韓国の政府機関はサイバー攻撃に備え、政府省庁と公共機関に勤める職員と協力会社の社員に、省庁内では無料Webメールの使用を避け、スマートフォンにもキャリアが配布しているセキュリティプログラムをインストールし、疑わしいメールは開けないように呼び掛けた。



次ページ: 「サイバー挑発」は悪性コード入りメールだけではない。韓国メディアは、SNSやオンライン掲示板に事実とは異なる…


趙 章恩=(ITジャーナリスト)
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職人気質でマーケティング下手のLG電子、スマートフォン「G5」で脱却できるか [2016年1月22日]

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中国メーカーの激安スマートフォンが韓国に浸透、スマートフォンの低価格競争が巻き起こっている中、久々にLG電子のハイエンドスマートフォンが注目を浴びている。しかし、LG電子のスマートフォン新機種はまだ発表前である。2月に公開するというニュースだけで、早くもSNSを賑わせている。それはなぜか。

 LG電子は1月上旬、バルセロナで開催される世界最大規模のモバイル展示会MWC 2016の前日である2月21日、MWCの会場でスマートフォンの新機種「G5」を公開すると発表した。サムスン電子は毎年海外の展示会でGALAXYの新機種を大々的に公開しているが、LG電子が展示会で新機種を発表するのはこれが初めて。LG電子は他のメーカーと比べられる展示会より、春に独自のイベントを開催して新機種を公開してきた。

 LG電子が展示会で新機種を公開するというだけで、韓国では早速「G5はLG電子のかなりの自信作のようだ」と期待が高まっている。LG電子の技術力、デザイン力を見せつけるためのスマートフォン、という意味である。


写真●LG電子のスマートフォン新機種G5公開イベントの招待状
LG電子は2月21日、世界最大規模のモバイル展示会MWC2016会場でスマートフォン新機種G5を公開することにした。例年より2カ月ほど前倒しの新機種発表で、海外の展示会で新機種を公開するのも初めてである。LG電子は同じく2月公開が予定されているサムスン電子の新機種GALAXY S7と正面勝負することを選んだ。

 LG電子側もこれを否定せず、「Gシリーズが回を重ねるほど性能もデザインも高い評価を得ているので、他のメーカーと正面勝負できる展示会で新機種を公開してもいいという自信の表れ」だと説明した。サムスン電子も新機種GALAXY S7をもうすぐ公開する予定なので、「サムスン電子と正面勝負しても負けない自信がある」という意味にも解釈できる。

 G5の公開イベントの招待状には「Play begins」と書いてある。そのことから、韓国メディアは「G5は写真撮影や音楽、動画再生などエンタメ機能を強化したようだ」と評価している。LG電子のスマートフォンの売り上げが落ちていることもあり、G5にすべてをかけた様子だった。


次ページ: LG電子はG5のスペックを2月21日まで公開しないとしているが、既に韓国メディアでいくらか情報が公開されてい…


趙 章恩=(ITジャーナリスト)
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