50代もスマートフォンのコアユーザーに、98.4%がモバイルメッセンジャー利用 [2015年11月27日]

.

 韓国インターネット振興院は11月22日、「2015年モバイルインターネット利用実態」の調査結果を公開した。12歳から59歳まで、2500人を対象に訪問調査を行った結果である。

 主に「モバイルインターネットで何を利用しているか」を把握する調査であるが、今年は50代の変化が目立った。韓国の50代の携帯電話保有率は2014年末時点で97.5%、そのうち83%がスマートフォンを使っている。

 50代の場合、モバイルSNSの利用率は2014年36.7%から2015年60.5%に、無料モバイルメッセンジャーアプリの利用率は92.0%から98.4%に、モバイルショッピングの利用率は19.0%から23.4%に、モバイルバンキングの利用率は27.4%から38.7%に伸びた。モバイルメッセンジャーの場合、全世代の平均利用率が99.1%なので、50代の利用率は20~40代とあまり変わりないことになる。

写真●Kakao Storyアプリのキャプチャー画面
韓国の50代にもっとも人気のアプリケーションは無料メッセンジャーだった。利用率は約98%と、20~30代と変わらない数字である(出所:Kakao Story)

 業界では、着実に利用が増えている50代をターゲットにした新規サービスを展開している。ほとんどのモバイルショッピングサイトが、2015年から産地直送の新鮮食品カテゴリーを追加した。モバイルショッピングサイトの「ティモン」の場合、2015年の50代以上ユーザーの新鮮食品注文件数は前年比1.7倍に、注文金額は20倍に増えたという。

 若い世代はセール品や特価品だけ購入するケースが多いが、50代以上は高級米やプレミアム牛肉セットなど、価格が高くても信頼できて気に入ったものを注文する。50代のモバイルショッピング利用率はまだ低いが、モバイルショッピング業界にとって大事な顧客になりつつある。


次ページ: さらに、「有線インターネットよりモバイルインタネーネットをよく使う」、「モバイルインターネットのおかげで生活…



趙 章恩=(ITジャーナリスト)

日経パソコン
-Original column

日本のVRゲームにくぎ付け!韓国オンラインゲーム展示会「GSTAR」開催、 [2015年11月20日]

.

 2015年11月12日から15日まで、釜山のBEXCO展示場で韓国インターネットデジタルエンターテインメント協会が主催する、韓国最大規模のオンラインゲーム展示会「G-STAR(Game Show and Trade All Round)」が開催された。GSTARは今年で11年目を迎える。2015年のGSTARは、35カ国633社、展示ブースの数は2636、訪問者数21万人と歴代最高記録を更新した。

 11月12日は、韓国の大学受験日であった。遅刻しそうになった受験生を、警察がパトカーや白バイに乗せて試験会場まで走る、日本でもお馴染みのあの場面が、全国で繰り広げられる日でもある。受験が終わった開放感からか、受験のためにできなかったゲームの世界が気になってか、GSTARは受験を終えた高校生らが遊びに行く場としても非常に人気がある。

 とにかく人気の展示会だっただけに、どのブースも入口は長蛇の列。2時間待ちは基本、ゲームは5分ぐらいしか体験できないという状況が続いた。

 2015年の目玉は、モバイルゲームが充実していたNEXON、イベントで当選した人しか入れなかった秘密基地のような4:33(モバイルゲーム流通会社)、美少女VRで韓国のゲーマーを興奮させたソニー・コンピュータエンタテインメントコリア(SCEK)、セクシーな受付嬢がいたTwitch.tvだった。NEXONは300ブース規模でオンライン・モバイルゲームを展示し、ひと際目立っていた。Twitch.tvはAmazon.com が提供するゲーム専門ライブ配信サイトで、G-STAR会場の様子をライブ配信した。

 参加者の間でもプレスの間でも人気だったのは、なんといってもSCEKが展示した美少女VR(仮想現実)ゲーム「サマーレッスン」だった。体験するためには4時間待ち。先着で配ったQパス(ファストパス)は、5分で配布完了するほど大盛況だった。プレーステーションVRは、他のVRデバイスより軽くて着用感もよく、長く被っていても問題なさそうだった。


写真●G-STARのLG電子ブース
11月12日~15日、韓国のオンラインゲーム展示会「G-STAR」でLG電子は34型モニターやゲーマー向けノートパソコンを展示、韓国でも正式サービスが始まったファイナルファンタジーXIVを実演した(出所:LG電子)。

 プレスに対しては、特別に開場前に体験できるようブースを公開してくれたが、ここでも記者達が「サマーレッスンをするためだけにソウルから釜山まで来た!」と大騒ぎしながら並んで待っていた。他のブースの社員らも並んで待つほど「サマーレッスン」の威力はすごかった。体験した人は、みんな「リアルすぎてドキドキ」と赤ら顔で満足そうだった。SCEKによると、プレーステーションVRは2016年に正式発売されるという。


次ページ: 韓国のゲーム市場規模はオンラインゲーム7対モバイルゲーム3の割合で、まだオンラインゲームの人気が根強く残って…



趙 章恩=(ITジャーナリスト)

日経パソコン
-Original column

ネットスーパーの黒船到来!日本でも話題のコストコ、アジア初のオンラインモールを韓国でオープン [2015年11月13日]

.

日本でもバラエティー番組によく登場する、米国生まれの大型会員制倉庫型店コストコが、11月10日、アジア初で世界でも5番目となるオンラインモールを韓国でオープンした。正式なサービス名は「コストコホールセールコリア オンラインモール」。配送は韓国内限定で、韓国の消費者を対象にしている。

 韓国では、11月9日からポータルサイトの検索キーワードランキング上位に「コストコ」が登場。10日はずっと「コストコオンラインモール」が検索キーワードランキング1位を占めたほど、大きな話題になった。「やっと私もコストコで買い物ができる」と歓喜の声があふれた。

 日本では、コストコに入場して買い物ができる「1日特別招待券」がついたムック本が80万部も売れたと聞いた。韓国にはこのようなムック本はないので、お金を払って会員登録をするか、それとも手数料を払ってインターネット購入代行(会員登録している人に買ってきてもらう代行サービス)を利用するか、どちらかの選択しかない。韓国のオークションサイトやショッピングサイトには、「コストコ購入代行業者」が数え切れないほど入店している。

 日本のコストコは郊外にあるが、韓国の場合はソウル市内やプサン市内の住宅街にあるので、交通の便はいい。しかしコストコは店舗数が少なく、韓国全土に12店舗しかない。コストコがない地域に住む人も、購入代行業者を利用していた。韓国内では、購入代行業者を量産するほど人気なのだから、コストコが直接オンラインモールを運営してほしいというリクエストが多かったという。


写真 コストコのオンラインモール
日本でもテレビで話題の会員制倉庫型スーパー「コストコ」が、アジア初となるオンラインモール(ネットスーパー)を韓国でオープンした。韓国ではネットスーパーの黒船到来として話題になっている。

タダほど怖いものはない、韓国で無料Wi-Fiハッキング増加、スマホを守る方法は? [2015年11月6日]

.

韓国ではソウル市内はもちろん、都市部のどのカフェに行ってもWi-Fiと電源は無料で利用できる。最近は食堂やスーパー、ショッピングセンターなど、どこにいってもタダで当たり前。ソウル市内では、市が提供する無料Wi-Fiもあり、地下鉄の駅中と車両の中では、キャリアのLGU+が提供する無料Wi-Fiを利用できる。

 韓国のキャリアは、音声通話は無料、データ通信は従量制で課金するので、データ通信費を節約したい人は無料のWi-Fiをよく使う。日本では電車に乗ると、スマートフォンを手にしている人のほとんどがゲームをしているが、韓国ではほとんどが動画を見ている。最近は地下鉄の中でも高速ネットワークが届くので、ストリーミングでも途切れることなく高画質動画を楽しめる。ドラマやバラエティー番組の再放送を無料で提供するテレビ局のアプリもたくさんあるので、観るものには困らない。

 電車の中でイヤホンなしでドラマを観る強者もいて、音が響いてラジオドラマを聞く気分になってしまうこともよくある。電車の中には「動画を見るときはイヤホンをしましょう」とマナーキャンペーンのポスターが貼ってあるほどだ。日本ではイヤホンの音漏れでトラブルになることがあるようだが、韓国ではイヤホンをしないで動画を見る人のせいでトラブルになる、という違いがある。

 Wi-Fiの話に戻ると、問題はカフェや食堂など個人営業主が提供する無料Wi-Fiの場合、パスワードもかけずセキュリティ対策は何もされていない点である。顧客のためにWi-Fiルーターは置いたものの、管理者用のパスワードも初期出荷状態のまま置きっぱなし。ネットがつながればいいじゃないか、と放置するお店がほとんどなのだ。

 その結果、複数のカフェのWi-Fiルーターがハッキングされ、そのWi-Fiにアクセスした人も被害にあう事件が増えている。

 こういうケースがある。顧客がWi-Fiに接続したところ、「chromeの最新バージョンにアップデートしてから利用してください」というメッセージが登場した。OKをタッチしたところ、スマートフォンにハッキングプログラムがインストールされて、スマートフォンに保存してあったIDと暗証番号などを盗まれた。いつも利用しているWebサイトにアクセスすると画面が見えず、何かプログラムをインストールしろというメッセージが登場したら、ハッキング被害にあう寸前までいっていると考えてほぼ間違いない。

アイドルもこぞって自慢!韓国でもバカ売れ、iPhone6sローズゴールドは1分で予約完了 [2015年10月30日]

.

韓国でも10月23日、ついにiPhone6sと同Plusが発売された。日本や他の国よりだいぶ遅れての発売であり、その前にサムスン電子やLG電子から新機種が発売されていたので、iPhone6sと同Plusはそれほど売れないだろうと予測した韓国メディアもあった。だが、その予測は見事に外れた。

 キャリアのKTの場合、iPhone6sと同Plusの最初の加入者にはiPad air2とアップルウォッチを贈呈し、1年分の通信費(約11万円相当)も無料にするイベントを行った。いつもは前日から並んでも十分「第1号」になれたiPhone発売イベントだったが、今回は30代の夫婦が2泊3日並んで、第1号になった。

 iPhone大好きな妻に誘われ、夫婦で会社の有給休暇を使い代理店の前で野宿したそうだ。2番目に並んだのは男子大学生で、好奇心から第1号になってみたかったとか。KTは、第2号にもアップルウォッチを贈呈した。

 KTは19日から、iPhone6sと同Plusの事前予約を始めた。開始から10分で、用意した5万台分の予約が終了した。iPhone 6s 128GB全機種と同64GBローズゴールドは、1分で予約完了したほどだった。

 SKテレコムは、第1号に系列ホテルの宿泊券を、先着100人までiPhone 6sと同Plusの専用ケースを贈呈した。LGU+、も第1号には人気芸能人との記念撮影とアップルウォッチエルメスを贈呈した。先着100人にもプロジェクターやイヤホンなど、スマートフォンアクセサリーを贈呈した。


写真●SKテレコムの代理店
10月23日韓国でも遂に発売されたiPhone6Sと同Plus。SKテレコムを始めキャリア3社は最初の購入者である「第1号」にホテル宿泊券や1年間通信費無料といった特典を付けた(提供:SKテレコム)。

 キャリア3社の報道資料を見ると、iPhone6sと同Plusは2014年発売されたiPhone6よりも売れているという。iPhone6より値段も高く、キャリアの補助金も少なくなっているにも関わらず、iPhone5から機種変更する加入者が後を絶たない。


次ページ: 韓国での価格は、日本とあまり変わらない。iPhone6sの価格は、16GBが約9.5万円、64GBが約11万…



趙 章恩=(ITジャーナリスト)

日経パソコン
-Original column

デジャヴ?日本では総理の一声で携帯料金値下げ検討、韓国でも同じことが起こった [2015年10月23日]

.

日本では、安倍総理が「家計に占める携帯電話料金の割合が高い」と発言した。早速、総務省が10月19日携帯電話料金の値下げに向けて有識者会議を開いたという。年内には引き下げ策をまとめる方針だそうだ。

 あれ?これにそっくりなニュースを、韓国で見たことがある。

 2013年大統領に就任した韓国の朴槿恵大統領は、「通信料金値下げ」を公約に掲げた。携帯電話の加入費(事務手続き費用)を廃止、携帯電話の月々の料金も値下げすると発表した。当時朴大統領は「1世帯当たり平均通信費は、1か月15万ウォン(約1.65万円)を超えている。ここ3年間家計消費に占める通信費の負担が増え続けている。庶民の通信費負担を減らすため、通信料金の持続的な値下げが必要」だと発言した。

 朴大統領の発言直後、通信政策を担当する省庁の未来創造科学部は迅速に有職者会議を開き、移動通信キャリア3社を集めて料金の値下げを要求した。

 韓国政府は、韓国の移動通信市場の問題点を以下のようにとらえた。(1)韓国のキャリアは競争をしなくなった。長い間、シェアが固定(SKテレコムが50%、KTが30%、LGU+が20%)していることが原因。(2)ユーザーは、韓国の携帯電話は他の国に比べて断然高いと信じていて、原因はキャリアの料金体系にあるとみている。

 韓国政府とキャリア3社は、韓国の通信料金体系はどう決まるのか、その意思決定の過程を公開し、ユーザーの信頼を得るために動きだした。

 実は2008年に就任した李明博前大統領も、「家計支出に占める通信費の割合が高いので、通信費を20%値下げする」ことを公約に掲げていた。しかし、通信キャリアの反発に合い、月々の携帯電話基本料金を約100円値下げするに留まった。通信費の値下げを期待したユーザーも、不満を抱えた。そのため、朴大統領の指示で本当に通信費を値下げできるのか半信半疑だった。


写真●韓国通信事業者協会が運営する、キャリア3社の通信料金を比較して自分にぴったりのプランを探せるサイト「スマートチョイス」
韓国では朴大統領の「家計支出占める通信費負担が大きすぎる」の一言で、キャリアが料金を値下げした(出所:韓国通信事業者協会)

 様々な話し合いをした結果、まずは未来創造科学部が2014年末、有無線音声電話網相互接続料を平均26%値下げすることにした。これはキャリア間のネットワーク使用料で、例えばKTの加入者がSKテレコムの加入者に電話をかけた場合、KTからSKテレコムへ1分当たり約3円を払う。2013年の相互接続料は2兆1419億ウォン(約2356億円)と、かなりの金額である。実はキャリア3社は、相互接続料を理由に通信費の値下げはできないと主張してきた。


次ページ: キャリア3社は2015年3月、朴大統領の公約通り加入費を廃止した。それまでは、携帯電話に新規加入または番号移…



趙 章恩=(ITジャーナリスト)

日経パソコン
-Original column

韓国SNS「監聴」議論再び、LINEは大丈夫? [2015年10月19日]

.

10月6日、韓国で最も加入者の多い無料メッセンジャーアプリ「カカオトーク」が、韓国検察の監聴令状に協力すると発表した。カカオトークは今まで、どんな理由であっても監聴には応じないという姿勢を示していた。

 監聴とは、捜査のために必要な情報を得るため、利用者の通信内容を見るという意味である。韓国の通信秘密保護法は、犯罪を計画または実行している、実行していると疑うに十分な理由があり、他の方法ではその犯罪の実行を阻止できず、犯人の逮捕または証拠の収集が難しい場合に限り、通信秘密保護法を適用しないとしている。

 さっそく、ユーザーの間では不満が漏れている。記事のコメント欄には、「捜査のためなら、加入者の通信内容を本人に知らせずこっそり検察に提供するのも仕方ない」という意見もあるが、「カカオトークをやめて他のサービスに乗り換える」という書き込みの方が圧倒的に多い。

 韓国では、2014年10月にも複数の韓国メディアが、韓国企業が提供するメッセンジャーアプリやSNSは韓国検察の監聴に応じていると報道。韓国のスマートフォンユーザーが「監視されたくない」として、欧米のSNSサービスへ流れ始めたことがある。


写真●カカオのホームページ(韓国版)

 当時韓国の検察は、インターネット上のデマを厳しく取り締まっていた。その過程で、新聞やネットでは検察がメッセンジャーアプリやSNS上の個人的なやりとりも捜査の証拠として手当たり次第集めているという噂が広がった。その影響で、当時世界でもっともセキュリティレベルの高いメッセンジャーアプリと宣伝していた「Telegram」は韓国ユーザーが急増し、数日間で300万人を突破したほどだった。


次ページ: 今回カカオトークの監聴に関する内容は以下の通り。まず令状に書いてある捜査対象以外の個人を識別できる情報を削除…



趙 章恩=(ITジャーナリスト)

日経パソコン
-Original column

「韓国スマートヘルスケア最前線」朴大統領の肝いり、韓国医療機関の中国進出が本格化

.

韓国大統領の朴槿恵(パク・クネ)氏は2015年9月2~4日、中国の戦勝節(抗日戦争勝利記念行事)に出席するため訪中した。韓国の企業人や保健医療分野の関係者が同行し、9月4日に上海で開催された、中国の企業人との商談会「韓中ビジネスフォーラム」に参加した。

 同フォーラムは中国国際貿易促進委員会、大韓商工会議所、大韓貿易投資振興公社が主管したもの。朴氏の訪中に同行したのは、病院や医療機器、製薬、化粧品、研究所など保健医療関連44社を含む韓国企業155社からの計156人である。

「韓中ビジネスフォーラム」の様子(写真提供:大韓商工会議所)
クリックすると拡大した画像が開きます

 韓国保健福祉部によれば、この場で韓国の医療機関・医療機器の中国進出に関する15件のMOU(覚書)が締結された。MOUの主な内容は、ヘルスケアや遠隔診療、中国人患者の韓国医療観光商品開発、韓国医療機関の中国輸出、医薬品供給および製薬合弁会社設立、韓国医療機器の中国進出および合弁会社設立などに関するものである。

 「ヘルスケア」に関しては、韓国カトリック大学ソウル聖母病院と中国上海の瑞金病院が協力し、韓国が長年進めてきた「スマートヘルスケアシステム」を使った慢性疾患患者管理モデルを中国で構築することに合意した。中国はOECD加盟国の平均に比べて医師数が少ない。2012年における1000人当たり医師数のOECD加盟国平均が3.1人であるのに対し、中国は1.5人にとどまる。そして中国の医療機関は都市部に集中している。そのため、スマートフォンなどを使った慢性疾患のヘルスケアや遠隔診療を、どの国よりも早く本格的に導入する可能性が高い。

 韓国政府は2015年から、個人健康記録の基盤となるヘルスケアシステムの海外輸出に積極的な姿勢を見せている。韓国の病院とヘルスケアシステム、医療機器をセットで輸出できるよう、政府関係者が“営業マン”としてイベントに参加したり、韓国企業が海外の展示会に参加できるよう費用を補助したりしている。


医療ツーリズムで協力

 「医療観光」に関しては、政府系シンクタンクの韓国保健産業振興院と中国最大規模の旅行代理店である中国旅行社総社(China National Travel Service (HK) Group Corporation)がMOUを締結。中国人患者の誘致と安定した医療サービス提供に関して協力する。

 2012~2013年に韓国を訪問した医療観光客のうち、もっとも大きな割合を占めたのが中国人である。韓国保健産業振興院は、中国旅行社総社との協力を通じ、韓国医療サービスに対する信頼を向上させる狙いだ。韓国で治療を受けた患者が中国に帰国した後もケアを続けられるよう、「遠隔医療中国センター」を設立することも検討するという。

 ソウル大学病院は中国湖南省岳阳市とMOUを結んだ。2015年7月から既に、同市が建設するがん治療・美容整形・リハビリ・健康診断を専門とする1000床規模の病院を「国際ソウル大学病院」として運営するための事業妥当性調査を行っている。ソウル大学病院は病院の基礎設計から診療計画策定、病院情報システム構築、医療機器選定に至るまでのすべてについてアドバイスし、運営も担当する旨、岳阳市と議論を進めている。

 ソウル大学病院と岳阳市は開院準備に向けて、人材確保と教育訓練を目的に100床規模の現地病院を買収し、運営するトライアルに着手した。ソウル大学病院の説明によれば、岳阳市の関係者が韓国を訪問した際にソウル大学病院を見学。その医療サービスの質の高さに満足し、岳阳市の病院の運営を任せたいと依頼したことが今回のMOU締結につながったという。ソウル大学病院は2014年に、アラブ首長国連邦の王立病院の運営を受託した実績がある。


医療機器許認可の壁を超える

 「医療機器」分野では、韓国医療機器工業協同組合が、山東省の食品医薬品安全局と商務局、および江西省南昌市産業団地とMOUを締結した。韓国医療機器メーカーの中国進出を支援することが目的だ。中国との協力関係を強化し、より効果的な中国進出策を模索する。

 同組合によれば、従来は中国政府の自国企業保護政策により、外国メーカーの医療機器許認可がなかなか下りないという課題があった。認許可を受けやすくするために、韓国の医療機器メーカーと中国企業が合弁会社を設立。中国国内の産業団地で生産し、中国製品として同国内で販売するといった戦略も構想にあるようだ。

 空圧応用医療機器や高周波機器の製造開発を手掛ける韓国テソンマリフ社は中国Luye Medicals Groupに医療機器を輸出し、山東省威海市に工場を設立する。ハンリム医療器社は山東省烟台市に新設された烟台山病院に医療機器を納品する。この他、韓国の医療機器の中国への輸出に関する4件のMOUも締結された。

 「製薬」分野では、韓国トンアST社と中国HIGH HOPE INTERNATIONAL GROUPが不妊治療剤の中国輸出関連でMOUを締結。韓国ヒューオンス社と中国Northland Bio社はバイオ新薬開発関連で、韓国エップコンテック社と中国Sinomab社は抗体医薬品開発のための投資誘致と合弁会社設立に関して、それぞれMOUを締結した。

 韓国保健福祉部は「中国保健医療市場は年平均10%の成長を見せており、2020年には1兆米ドル規模になると見込まれる。韓国保健医療産業にとって中国はとても大切な市場。韓中FTAをきっかけに中国という巨大市場を占有し、保健医療産業分野の協力を拡大するためには官民の協力が欠かせない」とし、今後も韓国の病院や医療機器メーカーなどの中国進出をサポートする姿勢を示している。



[2015年09月24日]

By 趙章恩の「韓国スマートヘルスケア最前線」

日経デジタルヘルス

 -Original column

「韓国スマートヘルスケア最前線」Samsungが「睡眠」参入、センサーと家電で快眠環境

韓国Samsung Electronics社は「IFA 2015」(ドイツ・ベルリン)会期前日の2015年9月3日、「In Sync with Life」をテーマに同社のIoT関連製品を公開するプレス向けイベントを開催。2014年から開発を進めてきた非接触型睡眠センサー「SLEEPsense」を初披露した。2015年内に韓国をはじめ世界各国で発売する予定で、価格は未公表だ。

 SLEEPsenseは、厚さ1cmほどの手のひらサイズの円盤で「卓球のラケットのような形をしている」(韓国メディア)。ベッドのマットレスの下に置いておくだけで計測可能だ。ユーザーの睡眠中の脈拍や呼吸、体動、睡眠周期を測定し、睡眠のパターンを解析する。厚くないのでマットレスの下にあっても違和感を感じることなく、通常の状態で眠れるという。


SLEEPsenseの本体(写真提供:Samsung Electronics社)
クリックすると拡大した画像が開きます

 SLEEPsenseでは、ユーザーの睡眠の質を分析し、よりよく眠れるようにスマートフォン・アプリでアドバイスする。スマートフォンとはBluetoothで接続。アプリでは睡眠時間のほか、睡眠中に呼吸が止まるといった異常呼吸や脈拍もチェックできる。睡眠の質向上に向けては、米Harvard University 医学部教授のChristos S. Mantzoros氏のチームからの医学的アドバイスがもらえるという。データが蓄積されていくことで、アドバイスの精度はより高まっていく。

 SLEEPsenseは、Samsung社製の家電とリアルタイムに連動し、ユーザーが熟睡できる環境を維持する。例えば、エアコンはSLEEPsenseの測定データに応じて、快眠できるよう温度設定を変える。テレビは、スリープモードにしなくても、ユーザーがテレビをみている途中で眠れば自動で電源を落とす。今後は、音を360度方向に出し、どの方向からも高音質のサウンドを楽しめる同社のモバイルオーディオとも連動させる予定。SLEEPsenseの測定データと音楽を組み合わせ、一人一人に合った快眠環境を提供する。照明やカーテン、コーヒーメーカーなど、眠りと目覚めに関係する製品との連動も計画しているという。

人生の「1/3」に向けた製品

 SLEEPsenseは、ウエアラブル端末を身につけるのが面倒と感じやすい高齢者や、なかなか寝付けなかったり、眠りが浅い、長時間寝てもすっきりしないといった悩みを抱える人に、最適の睡眠環境を提供することをうたう。測定データは電子メールで家族にも送信できるので、一人暮らしの高齢者や留学中の子供の睡眠をチェックするといった用途にも適するという。

 SLEEPsenseには米FDA(食品医薬局)の承認を得たイスラエルEarlySense社製の脈拍・呼吸センシング技術を搭載。Samsung社が2014年4月に2億米ドルで買収した米Smart Things社のIoTプラットフォームも活用した。家電をつなげてアプリから制御可能とする技術である。

IFA2015前日のプレスイベントに登壇したイ・ユンチョル氏
クリックすると拡大した画像が開きます

 開発に携わったSamsung社 生活家電事業部 常務のイ・ユンチョル氏は「人生の3分の1は睡眠時間。にもかかわらず従来は、人が起きている時間に健康を維持するためのウエアラブル製品ばかりだった」と動機を述べ、SLEEPsenseの特徴は「データの信頼度が非常に高い」ことだと強調した。同社の報道資料によれば、SLEEPsenseの測定データの正確度は95~97%という。

 同社 生活家電事業部 副社長のパク・ビョンデ氏は「SLEEPsenseはSamsung社がIoTの世界に本格的に足を踏み入れたことを知らせる革新的製品。我々は、生活が楽になるだけでなく健康になれるようサポートするIoT製品を発売し続け、市場をリードする」とコメントした。生活家電事業部社長のユン・ブグン氏は、SLEEPsenseは各種センサーの中で「もっとも有用なセンサーになるだろう」と胸を張った


 [2015年09月21日]

By 趙章恩の「韓国スマートヘルスケア最前線」

日経デジタルヘルス

 -Original column

「韓国スマートヘルスケア最前線」「病院」情報化から「病院間」情報化へ、実証実験始まる

.

韓国政府は、医療とITの融合が医療現場を変え国民の幸せにも寄与するとして、複数省庁の協力のもとで、医療機関による医療情報共有を促進するための施策に力を入れている。こうした「医療情報共有活性化の土台構築」を、2015年度の保健医療分野の国家課題に掲げたほどだ。

 韓国保健福祉部は2015年8月、全国の医療機関の診療情報を医療機関同士で共有する「国家診療情報共同活用標準プラットフォーム」の構築に本格的に着手した(関連記事)。並行して、「ICT基盤医療情報交流標準モデル開発」の実証実験を行う。

 この実験では、勤労福祉公団病院(産業災害によるリハビリと介護を専門とする病院)2カ所、および産業災害指定病院6カ所の病院情報化システム同士をつなげる。患者の診療情報や検査記録を複数の医療機関が共有することで、重複検査や重複処方を防ぎ、医療費を節減できるかどうかを検証するという試みだ。2016年末までに150億ウォン(約17億円)の予算で実施。ICT政策を担当する未来創造科学部が主導し、保健福祉部や産業通商資源部(日本の経済産業省のような省庁)、雇用労働部(日本の厚生労働省に当たる省庁)が協力する。

独自システムが乱立

 診療情報や検査記録をプラットフォームに保存し、医療事務や保険請求、処方箋など病院の業務をすべて電算化する「病院情報化」は、韓国では1990年代に始まった。保健福祉部の調査によれば、1993年時点で既に韓国内の総合病院の37.3%が病院情報化を終えていたという。

 韓国の総合病院は、「最先端の技術を持つ病院」とのイメージを獲得するために、我先にと病院情報化を進めた。この過程では、標準化を考えることなく病院ごとに独自のシステムを開発した。2002年になってようやく大韓医師協会内に医療情報標準化委員会が発足する。ここが医療用語や電子カルテの書式などの情報の標準化作業に着手した。2004年になると、保健福祉部と大韓医師協会が米国のHL7(Health Level Seven)協会と契約し、保健医療情報交換のための国際標準規格を適用した標準化作業を始めた。

 このように、韓国では早い時期から医療機関が個別に病院情報化に取り組んだ。結果として標準化が遅れ、医療機関同士が横につながることは非常に難しいとされてきた。

 それでも、検査画像や電子診療記録を病院間で共有する診療情報共同活用は、2005年ごろから始まっている。大学病院は患者の同意を得て、全国にある指定協力病院との間で独自に診療情報システムを開発。患者情報を共有できる環境を整えてきた。総合病院は同じ系列の病院同士で診療情報を共有できるシステムを持っていたが、個人情報保護の問題もあり、その他の医療機関との連携は考えてこなかったのが実態だ。

システムの相互運用性を保障

 未来創造科学部による実証実験は、ICTを使って医療機関がそれぞれ開発した病院情報化システム間の相互運用性を保障し、横につなげるものである。実証実験を進めつつ、街の医院と総合病院、勤労福祉公団病院の垂直・水平連携に向けた情報アーキテクチャー(情報をわかりやすく伝える方法)も検証するという。

 さらにこの実験では、産業災害患者一人一人に合わせたリハビリサポートサービスも開発する。対象は、複数の病院で検査・治療をし、リハビリを目的に勤労福祉公団病院に通う患者だ。プラットフォーム上に登録された患者の医療情報を組み合わせ、スマートフォンやタブレット端末を経由して患者のリハビリ治療を支援。自己管理を持続させるためのコンテンツを提供する。リハビリサポートには服薬管理も含む。服薬アプリを通じて服薬時間や服薬量、服用法に関する正確な情報を提供し、薬の飲み忘れや飲みすぎを防止する。

 これと似た実証実験として、大邱市では2014年12月から医療情報交流システム(Health Information Exchange)をテスト稼働している。地域内の医療機関ごとに保存している電子カルテを国際標準に従ってまとめて管理。医療機関同士が患者の医療情報を共有することで、重複検査や過剰診療を減らし、医療費を節減しようという実証実験である。ここでは、医療情報システムの相互接続性を推進する国際プロジェクト団体IHE(Integrating the Healthcare Enterprise)の運用体制を利用している。2015年には医療映像情報交流(Image Exchange)もできるよう、システムを拡大した。

 医療機関同士の医療情報共有と医療費節減の関連性については、既にいくつかの先行研究がある。2010年にソウル大学病院が行った研究では、医院から大学病院へ転院した患者を、2つのグループに分けて実験。プラットフォーム上で診療情報を共有した患者グループと、既存方式で診療記録のコピーと診療依頼状を持参した患者グループの診療費を比較したところ、診療情報を共有した患者グループの検査件数・処方件数はそうでないグループに比べて63%ほど減り、診療費は13%ほど安くなったという。


 [2015年09月04日]

By 趙章恩の「韓国スマートヘルスケア最前線」

日経デジタルヘルス

 -Original column