アイドルもこぞって自慢!韓国でもバカ売れ、iPhone6sローズゴールドは1分で予約完了 [2015年10月30日]

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韓国でも10月23日、ついにiPhone6sと同Plusが発売された。日本や他の国よりだいぶ遅れての発売であり、その前にサムスン電子やLG電子から新機種が発売されていたので、iPhone6sと同Plusはそれほど売れないだろうと予測した韓国メディアもあった。だが、その予測は見事に外れた。

 キャリアのKTの場合、iPhone6sと同Plusの最初の加入者にはiPad air2とアップルウォッチを贈呈し、1年分の通信費(約11万円相当)も無料にするイベントを行った。いつもは前日から並んでも十分「第1号」になれたiPhone発売イベントだったが、今回は30代の夫婦が2泊3日並んで、第1号になった。

 iPhone大好きな妻に誘われ、夫婦で会社の有給休暇を使い代理店の前で野宿したそうだ。2番目に並んだのは男子大学生で、好奇心から第1号になってみたかったとか。KTは、第2号にもアップルウォッチを贈呈した。

 KTは19日から、iPhone6sと同Plusの事前予約を始めた。開始から10分で、用意した5万台分の予約が終了した。iPhone 6s 128GB全機種と同64GBローズゴールドは、1分で予約完了したほどだった。

 SKテレコムは、第1号に系列ホテルの宿泊券を、先着100人までiPhone 6sと同Plusの専用ケースを贈呈した。LGU+、も第1号には人気芸能人との記念撮影とアップルウォッチエルメスを贈呈した。先着100人にもプロジェクターやイヤホンなど、スマートフォンアクセサリーを贈呈した。


写真●SKテレコムの代理店
10月23日韓国でも遂に発売されたiPhone6Sと同Plus。SKテレコムを始めキャリア3社は最初の購入者である「第1号」にホテル宿泊券や1年間通信費無料といった特典を付けた(提供:SKテレコム)。

 キャリア3社の報道資料を見ると、iPhone6sと同Plusは2014年発売されたiPhone6よりも売れているという。iPhone6より値段も高く、キャリアの補助金も少なくなっているにも関わらず、iPhone5から機種変更する加入者が後を絶たない。


次ページ: 韓国での価格は、日本とあまり変わらない。iPhone6sの価格は、16GBが約9.5万円、64GBが約11万…



趙 章恩=(ITジャーナリスト)

日経パソコン
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デジャヴ?日本では総理の一声で携帯料金値下げ検討、韓国でも同じことが起こった [2015年10月23日]

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日本では、安倍総理が「家計に占める携帯電話料金の割合が高い」と発言した。早速、総務省が10月19日携帯電話料金の値下げに向けて有識者会議を開いたという。年内には引き下げ策をまとめる方針だそうだ。

 あれ?これにそっくりなニュースを、韓国で見たことがある。

 2013年大統領に就任した韓国の朴槿恵大統領は、「通信料金値下げ」を公約に掲げた。携帯電話の加入費(事務手続き費用)を廃止、携帯電話の月々の料金も値下げすると発表した。当時朴大統領は「1世帯当たり平均通信費は、1か月15万ウォン(約1.65万円)を超えている。ここ3年間家計消費に占める通信費の負担が増え続けている。庶民の通信費負担を減らすため、通信料金の持続的な値下げが必要」だと発言した。

 朴大統領の発言直後、通信政策を担当する省庁の未来創造科学部は迅速に有職者会議を開き、移動通信キャリア3社を集めて料金の値下げを要求した。

 韓国政府は、韓国の移動通信市場の問題点を以下のようにとらえた。(1)韓国のキャリアは競争をしなくなった。長い間、シェアが固定(SKテレコムが50%、KTが30%、LGU+が20%)していることが原因。(2)ユーザーは、韓国の携帯電話は他の国に比べて断然高いと信じていて、原因はキャリアの料金体系にあるとみている。

 韓国政府とキャリア3社は、韓国の通信料金体系はどう決まるのか、その意思決定の過程を公開し、ユーザーの信頼を得るために動きだした。

 実は2008年に就任した李明博前大統領も、「家計支出に占める通信費の割合が高いので、通信費を20%値下げする」ことを公約に掲げていた。しかし、通信キャリアの反発に合い、月々の携帯電話基本料金を約100円値下げするに留まった。通信費の値下げを期待したユーザーも、不満を抱えた。そのため、朴大統領の指示で本当に通信費を値下げできるのか半信半疑だった。


写真●韓国通信事業者協会が運営する、キャリア3社の通信料金を比較して自分にぴったりのプランを探せるサイト「スマートチョイス」
韓国では朴大統領の「家計支出占める通信費負担が大きすぎる」の一言で、キャリアが料金を値下げした(出所:韓国通信事業者協会)

 様々な話し合いをした結果、まずは未来創造科学部が2014年末、有無線音声電話網相互接続料を平均26%値下げすることにした。これはキャリア間のネットワーク使用料で、例えばKTの加入者がSKテレコムの加入者に電話をかけた場合、KTからSKテレコムへ1分当たり約3円を払う。2013年の相互接続料は2兆1419億ウォン(約2356億円)と、かなりの金額である。実はキャリア3社は、相互接続料を理由に通信費の値下げはできないと主張してきた。


次ページ: キャリア3社は2015年3月、朴大統領の公約通り加入費を廃止した。それまでは、携帯電話に新規加入または番号移…



趙 章恩=(ITジャーナリスト)

日経パソコン
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韓国SNS「監聴」議論再び、LINEは大丈夫? [2015年10月19日]

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10月6日、韓国で最も加入者の多い無料メッセンジャーアプリ「カカオトーク」が、韓国検察の監聴令状に協力すると発表した。カカオトークは今まで、どんな理由であっても監聴には応じないという姿勢を示していた。

 監聴とは、捜査のために必要な情報を得るため、利用者の通信内容を見るという意味である。韓国の通信秘密保護法は、犯罪を計画または実行している、実行していると疑うに十分な理由があり、他の方法ではその犯罪の実行を阻止できず、犯人の逮捕または証拠の収集が難しい場合に限り、通信秘密保護法を適用しないとしている。

 さっそく、ユーザーの間では不満が漏れている。記事のコメント欄には、「捜査のためなら、加入者の通信内容を本人に知らせずこっそり検察に提供するのも仕方ない」という意見もあるが、「カカオトークをやめて他のサービスに乗り換える」という書き込みの方が圧倒的に多い。

 韓国では、2014年10月にも複数の韓国メディアが、韓国企業が提供するメッセンジャーアプリやSNSは韓国検察の監聴に応じていると報道。韓国のスマートフォンユーザーが「監視されたくない」として、欧米のSNSサービスへ流れ始めたことがある。


写真●カカオのホームページ(韓国版)

 当時韓国の検察は、インターネット上のデマを厳しく取り締まっていた。その過程で、新聞やネットでは検察がメッセンジャーアプリやSNS上の個人的なやりとりも捜査の証拠として手当たり次第集めているという噂が広がった。その影響で、当時世界でもっともセキュリティレベルの高いメッセンジャーアプリと宣伝していた「Telegram」は韓国ユーザーが急増し、数日間で300万人を突破したほどだった。


次ページ: 今回カカオトークの監聴に関する内容は以下の通り。まず令状に書いてある捜査対象以外の個人を識別できる情報を削除…



趙 章恩=(ITジャーナリスト)

日経パソコン
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「韓国スマートヘルスケア最前線」朴大統領の肝いり、韓国医療機関の中国進出が本格化

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韓国大統領の朴槿恵(パク・クネ)氏は2015年9月2~4日、中国の戦勝節(抗日戦争勝利記念行事)に出席するため訪中した。韓国の企業人や保健医療分野の関係者が同行し、9月4日に上海で開催された、中国の企業人との商談会「韓中ビジネスフォーラム」に参加した。

 同フォーラムは中国国際貿易促進委員会、大韓商工会議所、大韓貿易投資振興公社が主管したもの。朴氏の訪中に同行したのは、病院や医療機器、製薬、化粧品、研究所など保健医療関連44社を含む韓国企業155社からの計156人である。

「韓中ビジネスフォーラム」の様子(写真提供:大韓商工会議所)
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 韓国保健福祉部によれば、この場で韓国の医療機関・医療機器の中国進出に関する15件のMOU(覚書)が締結された。MOUの主な内容は、ヘルスケアや遠隔診療、中国人患者の韓国医療観光商品開発、韓国医療機関の中国輸出、医薬品供給および製薬合弁会社設立、韓国医療機器の中国進出および合弁会社設立などに関するものである。

 「ヘルスケア」に関しては、韓国カトリック大学ソウル聖母病院と中国上海の瑞金病院が協力し、韓国が長年進めてきた「スマートヘルスケアシステム」を使った慢性疾患患者管理モデルを中国で構築することに合意した。中国はOECD加盟国の平均に比べて医師数が少ない。2012年における1000人当たり医師数のOECD加盟国平均が3.1人であるのに対し、中国は1.5人にとどまる。そして中国の医療機関は都市部に集中している。そのため、スマートフォンなどを使った慢性疾患のヘルスケアや遠隔診療を、どの国よりも早く本格的に導入する可能性が高い。

 韓国政府は2015年から、個人健康記録の基盤となるヘルスケアシステムの海外輸出に積極的な姿勢を見せている。韓国の病院とヘルスケアシステム、医療機器をセットで輸出できるよう、政府関係者が“営業マン”としてイベントに参加したり、韓国企業が海外の展示会に参加できるよう費用を補助したりしている。


医療ツーリズムで協力

 「医療観光」に関しては、政府系シンクタンクの韓国保健産業振興院と中国最大規模の旅行代理店である中国旅行社総社(China National Travel Service (HK) Group Corporation)がMOUを締結。中国人患者の誘致と安定した医療サービス提供に関して協力する。

 2012~2013年に韓国を訪問した医療観光客のうち、もっとも大きな割合を占めたのが中国人である。韓国保健産業振興院は、中国旅行社総社との協力を通じ、韓国医療サービスに対する信頼を向上させる狙いだ。韓国で治療を受けた患者が中国に帰国した後もケアを続けられるよう、「遠隔医療中国センター」を設立することも検討するという。

 ソウル大学病院は中国湖南省岳阳市とMOUを結んだ。2015年7月から既に、同市が建設するがん治療・美容整形・リハビリ・健康診断を専門とする1000床規模の病院を「国際ソウル大学病院」として運営するための事業妥当性調査を行っている。ソウル大学病院は病院の基礎設計から診療計画策定、病院情報システム構築、医療機器選定に至るまでのすべてについてアドバイスし、運営も担当する旨、岳阳市と議論を進めている。

 ソウル大学病院と岳阳市は開院準備に向けて、人材確保と教育訓練を目的に100床規模の現地病院を買収し、運営するトライアルに着手した。ソウル大学病院の説明によれば、岳阳市の関係者が韓国を訪問した際にソウル大学病院を見学。その医療サービスの質の高さに満足し、岳阳市の病院の運営を任せたいと依頼したことが今回のMOU締結につながったという。ソウル大学病院は2014年に、アラブ首長国連邦の王立病院の運営を受託した実績がある。


医療機器許認可の壁を超える

 「医療機器」分野では、韓国医療機器工業協同組合が、山東省の食品医薬品安全局と商務局、および江西省南昌市産業団地とMOUを締結した。韓国医療機器メーカーの中国進出を支援することが目的だ。中国との協力関係を強化し、より効果的な中国進出策を模索する。

 同組合によれば、従来は中国政府の自国企業保護政策により、外国メーカーの医療機器許認可がなかなか下りないという課題があった。認許可を受けやすくするために、韓国の医療機器メーカーと中国企業が合弁会社を設立。中国国内の産業団地で生産し、中国製品として同国内で販売するといった戦略も構想にあるようだ。

 空圧応用医療機器や高周波機器の製造開発を手掛ける韓国テソンマリフ社は中国Luye Medicals Groupに医療機器を輸出し、山東省威海市に工場を設立する。ハンリム医療器社は山東省烟台市に新設された烟台山病院に医療機器を納品する。この他、韓国の医療機器の中国への輸出に関する4件のMOUも締結された。

 「製薬」分野では、韓国トンアST社と中国HIGH HOPE INTERNATIONAL GROUPが不妊治療剤の中国輸出関連でMOUを締結。韓国ヒューオンス社と中国Northland Bio社はバイオ新薬開発関連で、韓国エップコンテック社と中国Sinomab社は抗体医薬品開発のための投資誘致と合弁会社設立に関して、それぞれMOUを締結した。

 韓国保健福祉部は「中国保健医療市場は年平均10%の成長を見せており、2020年には1兆米ドル規模になると見込まれる。韓国保健医療産業にとって中国はとても大切な市場。韓中FTAをきっかけに中国という巨大市場を占有し、保健医療産業分野の協力を拡大するためには官民の協力が欠かせない」とし、今後も韓国の病院や医療機器メーカーなどの中国進出をサポートする姿勢を示している。



[2015年09月24日]

By 趙章恩の「韓国スマートヘルスケア最前線」

日経デジタルヘルス

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「韓国スマートヘルスケア最前線」Samsungが「睡眠」参入、センサーと家電で快眠環境

韓国Samsung Electronics社は「IFA 2015」(ドイツ・ベルリン)会期前日の2015年9月3日、「In Sync with Life」をテーマに同社のIoT関連製品を公開するプレス向けイベントを開催。2014年から開発を進めてきた非接触型睡眠センサー「SLEEPsense」を初披露した。2015年内に韓国をはじめ世界各国で発売する予定で、価格は未公表だ。

 SLEEPsenseは、厚さ1cmほどの手のひらサイズの円盤で「卓球のラケットのような形をしている」(韓国メディア)。ベッドのマットレスの下に置いておくだけで計測可能だ。ユーザーの睡眠中の脈拍や呼吸、体動、睡眠周期を測定し、睡眠のパターンを解析する。厚くないのでマットレスの下にあっても違和感を感じることなく、通常の状態で眠れるという。


SLEEPsenseの本体(写真提供:Samsung Electronics社)
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 SLEEPsenseでは、ユーザーの睡眠の質を分析し、よりよく眠れるようにスマートフォン・アプリでアドバイスする。スマートフォンとはBluetoothで接続。アプリでは睡眠時間のほか、睡眠中に呼吸が止まるといった異常呼吸や脈拍もチェックできる。睡眠の質向上に向けては、米Harvard University 医学部教授のChristos S. Mantzoros氏のチームからの医学的アドバイスがもらえるという。データが蓄積されていくことで、アドバイスの精度はより高まっていく。

 SLEEPsenseは、Samsung社製の家電とリアルタイムに連動し、ユーザーが熟睡できる環境を維持する。例えば、エアコンはSLEEPsenseの測定データに応じて、快眠できるよう温度設定を変える。テレビは、スリープモードにしなくても、ユーザーがテレビをみている途中で眠れば自動で電源を落とす。今後は、音を360度方向に出し、どの方向からも高音質のサウンドを楽しめる同社のモバイルオーディオとも連動させる予定。SLEEPsenseの測定データと音楽を組み合わせ、一人一人に合った快眠環境を提供する。照明やカーテン、コーヒーメーカーなど、眠りと目覚めに関係する製品との連動も計画しているという。

人生の「1/3」に向けた製品

 SLEEPsenseは、ウエアラブル端末を身につけるのが面倒と感じやすい高齢者や、なかなか寝付けなかったり、眠りが浅い、長時間寝てもすっきりしないといった悩みを抱える人に、最適の睡眠環境を提供することをうたう。測定データは電子メールで家族にも送信できるので、一人暮らしの高齢者や留学中の子供の睡眠をチェックするといった用途にも適するという。

 SLEEPsenseには米FDA(食品医薬局)の承認を得たイスラエルEarlySense社製の脈拍・呼吸センシング技術を搭載。Samsung社が2014年4月に2億米ドルで買収した米Smart Things社のIoTプラットフォームも活用した。家電をつなげてアプリから制御可能とする技術である。

IFA2015前日のプレスイベントに登壇したイ・ユンチョル氏
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 開発に携わったSamsung社 生活家電事業部 常務のイ・ユンチョル氏は「人生の3分の1は睡眠時間。にもかかわらず従来は、人が起きている時間に健康を維持するためのウエアラブル製品ばかりだった」と動機を述べ、SLEEPsenseの特徴は「データの信頼度が非常に高い」ことだと強調した。同社の報道資料によれば、SLEEPsenseの測定データの正確度は95~97%という。

 同社 生活家電事業部 副社長のパク・ビョンデ氏は「SLEEPsenseはSamsung社がIoTの世界に本格的に足を踏み入れたことを知らせる革新的製品。我々は、生活が楽になるだけでなく健康になれるようサポートするIoT製品を発売し続け、市場をリードする」とコメントした。生活家電事業部社長のユン・ブグン氏は、SLEEPsenseは各種センサーの中で「もっとも有用なセンサーになるだろう」と胸を張った


 [2015年09月21日]

By 趙章恩の「韓国スマートヘルスケア最前線」

日経デジタルヘルス

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「韓国スマートヘルスケア最前線」「病院」情報化から「病院間」情報化へ、実証実験始まる

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韓国政府は、医療とITの融合が医療現場を変え国民の幸せにも寄与するとして、複数省庁の協力のもとで、医療機関による医療情報共有を促進するための施策に力を入れている。こうした「医療情報共有活性化の土台構築」を、2015年度の保健医療分野の国家課題に掲げたほどだ。

 韓国保健福祉部は2015年8月、全国の医療機関の診療情報を医療機関同士で共有する「国家診療情報共同活用標準プラットフォーム」の構築に本格的に着手した(関連記事)。並行して、「ICT基盤医療情報交流標準モデル開発」の実証実験を行う。

 この実験では、勤労福祉公団病院(産業災害によるリハビリと介護を専門とする病院)2カ所、および産業災害指定病院6カ所の病院情報化システム同士をつなげる。患者の診療情報や検査記録を複数の医療機関が共有することで、重複検査や重複処方を防ぎ、医療費を節減できるかどうかを検証するという試みだ。2016年末までに150億ウォン(約17億円)の予算で実施。ICT政策を担当する未来創造科学部が主導し、保健福祉部や産業通商資源部(日本の経済産業省のような省庁)、雇用労働部(日本の厚生労働省に当たる省庁)が協力する。

独自システムが乱立

 診療情報や検査記録をプラットフォームに保存し、医療事務や保険請求、処方箋など病院の業務をすべて電算化する「病院情報化」は、韓国では1990年代に始まった。保健福祉部の調査によれば、1993年時点で既に韓国内の総合病院の37.3%が病院情報化を終えていたという。

 韓国の総合病院は、「最先端の技術を持つ病院」とのイメージを獲得するために、我先にと病院情報化を進めた。この過程では、標準化を考えることなく病院ごとに独自のシステムを開発した。2002年になってようやく大韓医師協会内に医療情報標準化委員会が発足する。ここが医療用語や電子カルテの書式などの情報の標準化作業に着手した。2004年になると、保健福祉部と大韓医師協会が米国のHL7(Health Level Seven)協会と契約し、保健医療情報交換のための国際標準規格を適用した標準化作業を始めた。

 このように、韓国では早い時期から医療機関が個別に病院情報化に取り組んだ。結果として標準化が遅れ、医療機関同士が横につながることは非常に難しいとされてきた。

 それでも、検査画像や電子診療記録を病院間で共有する診療情報共同活用は、2005年ごろから始まっている。大学病院は患者の同意を得て、全国にある指定協力病院との間で独自に診療情報システムを開発。患者情報を共有できる環境を整えてきた。総合病院は同じ系列の病院同士で診療情報を共有できるシステムを持っていたが、個人情報保護の問題もあり、その他の医療機関との連携は考えてこなかったのが実態だ。

システムの相互運用性を保障

 未来創造科学部による実証実験は、ICTを使って医療機関がそれぞれ開発した病院情報化システム間の相互運用性を保障し、横につなげるものである。実証実験を進めつつ、街の医院と総合病院、勤労福祉公団病院の垂直・水平連携に向けた情報アーキテクチャー(情報をわかりやすく伝える方法)も検証するという。

 さらにこの実験では、産業災害患者一人一人に合わせたリハビリサポートサービスも開発する。対象は、複数の病院で検査・治療をし、リハビリを目的に勤労福祉公団病院に通う患者だ。プラットフォーム上に登録された患者の医療情報を組み合わせ、スマートフォンやタブレット端末を経由して患者のリハビリ治療を支援。自己管理を持続させるためのコンテンツを提供する。リハビリサポートには服薬管理も含む。服薬アプリを通じて服薬時間や服薬量、服用法に関する正確な情報を提供し、薬の飲み忘れや飲みすぎを防止する。

 これと似た実証実験として、大邱市では2014年12月から医療情報交流システム(Health Information Exchange)をテスト稼働している。地域内の医療機関ごとに保存している電子カルテを国際標準に従ってまとめて管理。医療機関同士が患者の医療情報を共有することで、重複検査や過剰診療を減らし、医療費を節減しようという実証実験である。ここでは、医療情報システムの相互接続性を推進する国際プロジェクト団体IHE(Integrating the Healthcare Enterprise)の運用体制を利用している。2015年には医療映像情報交流(Image Exchange)もできるよう、システムを拡大した。

 医療機関同士の医療情報共有と医療費節減の関連性については、既にいくつかの先行研究がある。2010年にソウル大学病院が行った研究では、医院から大学病院へ転院した患者を、2つのグループに分けて実験。プラットフォーム上で診療情報を共有した患者グループと、既存方式で診療記録のコピーと診療依頼状を持参した患者グループの診療費を比較したところ、診療情報を共有した患者グループの検査件数・処方件数はそうでないグループに比べて63%ほど減り、診療費は13%ほど安くなったという。


 [2015年09月04日]

By 趙章恩の「韓国スマートヘルスケア最前線」

日経デジタルヘルス

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「韓国スマートヘルスケア最前線」「診療情報を全国の病院で共有」、国は本腰も現場は反発 [2015年09月02日]

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 韓国の保健政策を担当する保健福祉部(部は省)は2015年8月から、全国の医療機関の診療情報を医療機関同士で共有できるプラットフォームの構築に着手した。個人もこのプラットフォームにアクセスすると、全国の医療機関で受診した診療情報を確認できるようになる。

 「国家診療情報共同活用事業」と呼ぶこのプロジェクトは2004年に始まったもの。保健・医療用語の標準化作業や、医院と総合病院間・地域病院間の診療情報共有実証実験を経て、ようやくプラットフォーム構築のスタートラインに立った。準備期間だけで12年に及ぶ一大プロジェクトだ。

 2015年内にシステム設計を終え、2017年中には全国の医療機関が本格的にプラットフォーム上で診療情報を相互利用できるようにする。医療機関が共有できる診療情報は、患者の同意を得た項目だけにする。

 プラットフォーム構築はキャリア大手のKTと名門私立大学である延世(ヨンセ)大学病院の合弁会社である「フーヘルスケア」、およびシステム構築会社の「ティープラス」のコンソーシアムが担当する。

韓国の大邱市に数ある病院の中でも、長い歴史を持つKeimyung University Dongsan Medical Center の外観(この病院は本文とは直接関係ありません)


患者にも医療機関にもメリット見込む

 診療情報の共有とは、地域や規模に関係なくすべての医療機関が患者の診療情報・検査記録などの医療情報を共通プラットフォーム上に保存し、共同活用することを指す。医療機関の間で行う診療依頼や転院手続きもこのプラットフォーム上で行えるため、患者は書類をそろえて別の病院に行く必要がなくなる。転院の際に診療記録のコピーを持参しなくても治療を継続できるので、手数料や診療費を節約することもできる。

 医療機関の間で診療情報などを共有できるようになれば、患者の立場からは、病院を変えるたびに検査し直す必要がなくなり、すぐに専門医の診療を開始できる。重複検査がなくなれば、患者が病院ですごす時間に検査などによる苦痛を減らせるメリットもある。複数の病院に通う患者の場合、薬手帳を持っていなくても、医療機関が確認して同じ薬を重複処方しないよう調整可能だ。

 救急で病院に運ばれた時も、プラットフォーム上の診療情報を参照してすぐに処置してもらえる。例えばMARSのような感染病が発生した場合、プラットフォーム上の診療情報を確認すれば、感染者と同じ病室にいたとか、感染者と同じ病院に通っていたなどの情報がすぐわかり、すばやく対処できる。

 保健福祉部は、国家診療情報共同活用事業によって「患者の基本情報、診断内容、投薬内容、検査内容、予防接種、手術情報、アレルギー情報など患者の状態を把握するために不可欠な情報を共有でき、過剰診療や誤診の危険性が減る。その結果、医療サービスの質が向上する」としている。他にも「医療機関同士の共同診療や協力診療が増えることで医療サービスの地域的不均等を緩和できる」「初期検診を省略できるので国民の医療費を節約できる」「医院から介護施設まで患者を持続的に管理できる」などのメリットを挙げる。

 病院側のメリットについては、保健福祉部は収益性の改善を挙げる。「複数の病院とよりスムーズに協力診療できるため、すべての病院が高額の医療機器を買いそろえる必要がなくなる。医療機器の重複投資を防ぐことで、それぞれの病院が保有している医療機器の活用頻度が高くなり、病院の収益性がよくなる」と分析している。


医療機関側は「必要ない」「収益減る」

 今回の事業は、保健・医療用語の標準化から始まった。保健福祉部は2004年から保健・医療用語標準化の研究に取り組んできた。2012年には韓国保健福祉情報開発院(保健福祉情報化システムの開発や運行のために設立した保健福祉部傘下団体)にこの業務を委託。同院と医師会・専門家グループが2014年7月、医療機関の診療記録作成に必要な用語19万3721を網羅した「保健・医療用語標準案」を公開した。医療界の意見を反映して2014年9月に国家標準として告示済みである。

 保健福祉部は「医療現場で使う手術・検査などの医療用語は、同じ意味でも複数の単語や表現がある。病院間で診療情報を共有するには互換性の問題があった。プラットフォーム上で複数の医療機関が診療情報を共有するためには、違う単語でも同じ意味を持っていることをシステム上でサポートする必要があり、代表語と同意語をまとめる“概念化”の作業が必要だった」と説明する。用語標準化の他にも、検査画像をやりとりするための標準化を行い、医療法や個人情報法に違反しないよう業務ガイドラインを制定した。

 ところが、韓国メディアによると医療機関は診療情報共有を歓迎していない雰囲気だ。総合病院や大学病院は「患者の引っ越しによる転院や、医院から大学病院に転院する場合、診療記録のコピーと診療依頼状などで十分情報を得られる。プラットフォームから他の病院の診療記録を見る必要性はあまりない」「他の病院で行った初期検査をもとに診断するのは不安があり、検査し直すしかない。検査をしないと病院の収益も減る。保険点数の調整も必要だ」といった不満を漏らしているという。



By 趙章恩の「韓国スマートヘルスケア最前線」
日経デジタルヘルス
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もう自撮り棒はいらない、LG電子スマホV10の120度レンズが面白い [2015年10月9日]

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 日本より1カ月半遅れて、11月初旬に韓国で発売予定のiPhone6s。アップルが新機種発売を予告すると、サムスン電子とLG電子はそれよりも前に新機種を発売する。今回もiPhone6sを待ちきれず機種変更するユーザーを狙ったのか、サムスン電子は120月にGALAXY NOTE5のシルバーチタンを、LG電子は自信作として大々的に宣伝していた「V10」を発売した。

 LG電子が10月8日発売したV10は、「フロントデュアルカメラ」と「セカンドスクリーン」が話題になっている。


写真1●V10(LG電子提供)
LG電子の新機種スマートフォンV10。80度と120度、2つの画角のレンズがついたフロントデュアルカメラとセカンドスクリーンが特徴。

 V10はスマートフォンでは、初めてフロントカメラを2つ取り付けた。それぞれ500万画素の80度と120度画角のカメラで、80度は既存のフロントカメラだが、120度のフロントカメラを使うと手を伸ばすだけで7~8人が一緒に写真に収まる。

 最近、韓国、中国、日本だけでなく欧米の観光地でも普通に見られるようになったスマートフォン用の自撮り棒。韓国では、特に女性の間で「自撮りは大好きだけど人前で自撮り棒を使うのは恥ずかしい」、「自撮り棒がバッグに入りきらず持ち運びが面倒」という意見も多かった。そのせいか、フロントカメラに「セルフィー(自撮り)レンズ」と呼ばれる広角レンズを付けるのも流行っていた。広角レンズを付ければ画角が広くなるので、自撮りでも顔だけアップになることはない。こうしたフロントカメラの画質だけでなく、自撮りが楽なレンズがいいというニーズに応えたのが、V10のフロントデュアルカメラである。


写真2●レンズの違い(LG電子提供)
80度と120度では自撮りできる画面の大きさがここまで違う。もう自撮り棒はいらない?

 V10のメインカメラは1600万画素(F1.8/OIS 2.0)。LG電子は、一眼カメラのようなきれいな写真が撮れるだけでなく、動画撮影機能も優れているとアピールした。動画撮影時の手ぶれや、風の音のせいで雑音がひどく音声が聞こえない、カメラを早く動かしすぎたとか物体が早く動くので残像が残ってしまった、といった素人撮影の問題を解決する機能もある。


次ページ: iPhone6sにもSNS投稿用に写真をGIFファイルに編集する機能があるが、V10は自動編集で15秒の動画…


趙 章恩=(ITジャーナリスト)
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スマホ悪性アプリ感染拡大を防げ!韓国キャリア3社「モバイル応急サイバー治療サービス」稼働 [2015年10月5日]

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9月27日は、旧暦の8月15日で韓国のお盆である秋夕(チュソク)だった。お盆になると韓国も日本と同じくお中元を贈り合う。ところが、お中元の配送案内を装ったスミッシング(Smishing)被害が後を絶たず、問題になっている。

 スミッシングは、ショートメッセージを使った詐欺だ。政府機関や銀行・キャリアからの案内に見せかけて、URLをクリックするように誘導し、サイトに接続すると課金される仕組みになっている。

 韓国金融監督院はお盆連休の間、配送会社や知人からのお盆挨拶に見せかけたショートメッセージに注意するよう呼びかけた。お盆が近くなると、宅配便会社を名乗り「中元を届きに行ったが不在だったので持ち帰る、問い合わせはこちらへ」という内容のショートメッセージが大量に出回った。例えば、配送案内だと信じてクリックしたところ、アプリケーションのインストールが始まり課金されてしまった、と警察に被害届けを出した人もいたという。

 本物の配送会社の案内ショートメッセージには、問い合わせ番号や配送時間などが書いてあるが、スミッシングにはこうした情報はない。韓国金融監督院と警察は、ショートメッセージにURLが書いてある場合はまず疑え、と注意を促している。さらに、アプリケーションをダウンロードする際には、レビューを読んで信用できる会社のものかどうか確認し、少しでもおかしいと思ったらインストールしないように、とも呼びかけている。

 こうした被害をスマートフォンに、ウイルス退治アプリをインストールすることで防ごうという動きも出ている。韓国のキャリア3社は、10月1日より「モバイル応急サイバー治療サービス」を始めた。自分でも知らないうちにスミッシング被害にあい、悪性アプリケーションがインストールされていた、などということが起こらないようにするのが目的だ。

写真●韓国のシェア1位キャリア、SKテレコムが加入者に提供している無料のアンチウィルスアプリケーション「Tガード」
スミッシングにより悪性アプリケーションがインストールされると加入者に削除するよう注意する。

 個人情報やモバイルバンキングの暗証番号などを抜き取る悪性アプリケーションが、インストールされたのを知らずにスマートフォンを使い続けると、犯人グループによって遠隔操作で自分の端末から他の人にスミッシングのメッセージを送ってしまうこともある。他の人に被害を拡散させないためにも、スミッシング被害にあったスマートフォン端末を早く見つけ、処置をする必要がある。


次ページ: 韓国のキャリア3社は、悪性アプリケーションのアクセス経路やハッカーのサーバーを分析してスミッシング被害にあっ…


趙 章恩=(ITジャーナリスト)
日経パソコン
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サムスンとLGの「折りたためるディスプレイ」スマホ競争、iPhoneも後追いする? [2015年9月25日]

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複数の韓国メディアによると、サムスン電子は「Project Valley」という名前で、折りたためるディスプレイを搭載したスマートフォンを開発しているという。早ければ、2016年1月にはどういうスマホなのか公開される予定だそうだ。

 折りたためるディスプレイのデザインは紳士物の財布のような感じで、ディスプレイが内側に曲がるのか外側に曲がるのかはメディアによって意見が違う。折り曲げた状態でもスマホを使えるようにするため、ディスプレイが外側に曲がるようにするのではないか、とも言われている。サムスン電子の関連会社であるサムスンディスプレイは、既に2014年ディスプレイの曲がる部位の留め具に関する特許を米国特許庁に出願したという。2015年6月には、サムスン電子が3面鏡のように2回折りたためるタブレットPCを開発しているとして話題になったことがある。


写真●サムスン電子のGALAXY S6 Edge+
サムスン電子はEdge+よりさらに進んだ、ディスプレイを折り曲げて小さくたためるスマホを開発している。2016年1月にはどんなものか公開する予定だ。

 サムスン電子は、GALAXY 6 Edge+に続く新しいディスプレイを搭載した新機種で心機一転、ハイエンドスマホの販売台数を伸ばしアップルに対抗する計画のようだ。サムスン電子の曲がるディスプレイ搭載したスマホに関しては、2015年に入ってから何度も話題になっている。2015年の年初までも2~3年後にはスマホに曲がるディスプレイを搭載するという話だったが、それが一気に縮まり2016年になった。

 その理由は、サムスン電子のGALAXY S6などの新機種が予想よりも売れなかったからと見られる。

 韓国メディアは連日、「サムスン電子はハイエンドスマホではiPhoneに負け、ローエンドスマホは中国勢に負けている。サムスン電子が世界のスマホ市場をリードすることはもうないのか」と懸念する報道をしていた。サムスン電子のProject Valleyが話題になってから、韓国メディアの雰囲気も変わった。「サムスン電子が折りたためるスマホを発売すれば、スマホ市場は大きく変わる。新しい需要が生まれる。サムスン電子はIT業界に革命を起こすだろう。次のスマホはディスプレイで勝負が決まる」などとサムスン電子の技術に期待すべきという記事が溢れている。


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趙 章恩=(ITジャーナリスト)
日経パソコン
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