Samsungが大邱市でIoTによるヘルスケア実証実験 [2015年06月01日]

.

韓国政府が進めている「IoTヘルスケア実証実験」の公募の結果、大邱市とSamsung Electronics社、通信キャリア大手KTのコンソーシアム(大邱市コンソーシアム)が選ばれた。2015年5月に実証実験を始める。

 実証実験に参加する自治体と事業者の公募には、3つのコンソーシアムが応募した。このうち、大邱市には大学病院やベンチャーインキュベーションセンターが集積。実証実験だけに終わらず、その成果をビジネスにつなげやすい環境があることが高く評価された。

 大邱市近郊には、Samsung社の携帯電話機工場やディスプレー工場のほか、現代自動車の工場団地、韓国最大の鉄鋼団地などがある。そして同市内には、ICTベンチャーを支援するテクノパークやデジタル産業振興院、スマートフォン向けサービスやウエアラブルデバイス、バイオやロボットを産学連携で研究している先端医療複合団地がある。大邱市は今回の実証実験をビジネスにつなげられるよう最大限支援するという(関連記事:医療産業都市を目指す韓国テグ市、研究拠点から医療観光まで)。

 IoTヘルスケア実証実験の予算は2017年までの3年間で計130億ウォン(約14億円)である。2015年5月からは第1弾事業費として、ICT政策を担当する未来創造科学部(部は省)が53億ウォン(約5.8億円)を大邱市コンソーシアムに対して拠出する。

日経デジタルヘルス編集部(当時はデジタルヘルスOnline編集部)が大邱市を訪れた2011年10月の様子。同市随一の観光地である八公山(パルゴンサン)にて


“空軍パイロットの戦闘力”も管理

 大邱市コンソーシアムが5月から取り組む実証テーマは大きく6つ。(1)慢性疾患患者ケア、(2)健康な人の健康を守るウェルネスケア、(3)青少年の肥満管理および体力増進サービス、(4)空軍パイロットの戦闘力管理サービス、(5)救急状況お知らせサービス、(6)グローバル協診サービスである。大邱市には韓国の東側地域を守る空軍基地があることから、空軍パイロットも実験の対象となった。

 今回の実証実験では、オープンなヘルスケアプラットフォームを使い、医療機器メーカーや医療機関、ヘルスケアアプリやソフトウエアを手掛けるベンチャー企業を連携させる。これにより、技術優先ではなく需要優先、大邱市をはじめ韓国で最も必要とされているヘルスケアサービスをIoTの技術を使って提供することを目指す。

 コンソーシアムでは、この実証実験の成果を国民の健康増進に生かすだけでなく、ビジネスにつなげる狙い。そこで大邱市は、2017年までに100社以上の中小企業やベンチャーを育成し、ヘルスケア分野の有望なサービスを発掘する計画だ。実証実験を行う団地を「市民がIoT関連デバイスやサービスを自由に体験して意見を出してもらったり、韓国企業だけでなく海外企業も投資に加わったり、実証実験に参加していない企業もアイデアを出したりできる、自由なビジネスの場にしたい」と同市はコメントしている。

 朴槿恵大統領の経済発展政策の一環として、ICTスタートアップ企業を支援するために2015年春に大邱市にオープンした「創造経済イノベーションセンター」とも連携。中小企業・ベンチャーのヘルスケア製品開発や新技術の事業化を支援する。


韓国内では最近、財閥系大手企業ばかりが儲けているとの批判が強まっている。そこで大手各社は中小企業やベンチャーを支援し「相生(共生)パートナー」であることをアピールし始めた。大邱市コンソーシアムでも、Samsung社がIoTとウエアラブル分野のベンチャーを積極的に支援することが意図されている。ベンチャーが持つ技術やアイデアを融合して高齢者の在宅ケアや慢性疾患管理向けサービスを立ち上げ、医療費の節減やヘルスケアサービスの質向上、満足度向上に役立てる狙いだ。

 大邱市コンソーシアムに参加するSamsung社副会長のイ・ジェヨン(Lee Jae-yong)氏は、2015年3月に中国で行われたボアオ・アジア・フォーラムに参加。「韓国ではものすごいスピードで高齢化が進んでいる。高齢化は経済活力の低下や年金支給負担の増加、医療費増加による社会的負担につながる可能性がある。SamsungグループはITと医学、バイオの融合によるイノベーションに大きなチャンスがあると見ている。このイノベーションで多くの人がより良い医療サービスをより安く利用できるようになる」と語った。

 韓国メディアはこの発言について、Samsung Electronics社に限らずSamsungグループ全体でヘルスケアに力を入れる趣旨だと報道。今回の実証実験への注目を促した。



By 趙章恩の「韓国スマートヘルスケア最前線」
日経デジタルヘルス
 -Original column

ドローン世界3位目指し韓国政府が約280億円投資、課題はプライバシー侵害 [2015年3月27日]

.

日本でも何かと話題の小型無人飛行機ドローン。米国では、連邦航空局(FAA)が配達用にドローンを使う実証実験を承認し話題になっている。アマゾンが行う予定の実証実験で、物流センターから顧客の自宅までドローンを使って商品を届けるという。一方では、ドローンと小型飛行機の衝突を懸念するパイロットたちの反発もある。ドローンを巡る議論が、ますます熱くなっているようだ。

 FAAによると、2014年2月から11月の間にドローンと小型飛行機が上空でぶつかりそうになる事故が、193回もあったという。米国には、ドローンは昼間だけ飛行、高度500フィート以下、時速100マイル以下の速度、運航者の目が届く範囲内で運行する、といった規則があるにもかかわらず、だ。また、他人を隠し撮りするプライバシー侵害問題も多数起きている。ドローンを活用してみようという動きは色々あるが、まだ課題も残っている。

 韓国では、テレビ番組や映画の制作にドローンを使うのは当たり前になっている。教育現場でも使われていて、遺跡の周りにドローンを飛ばして観察する授業を行う学校もある。個人的な趣味として、家の周りで飛ばして、空からの映像を楽しむ人もいる。

 ソウル市消防災難本部は、2017年までに災難現場統合指揮システムや現場に出動するバスなどを最先端装備に入れ替える予定だ。最先端装備としてドローンを購入し、災害現場や高層ビルの火災などで失踪者捜索を行うという計画もある。

 韓国政府は3月24日、「未来新事業」の一つとして「垂直離着陸無人機(ドローン)」に約280億円の予算を割くと発表した。2023年までに、ドローン分野で世界3位になるのを目標にした投資である。

 韓国航空宇宙研究院は無人機を開発しているが、米国との技術格差は3年以上開いていると自覚している。韓国政府はドローンの技術差を埋め、民間で活用できるよう実証実験を繰り返し、周波数確保など制度の面も改善していくとしている。


次ページ: 研究院は、「ドローンをまず災害現場での捜索や環境保護のための観察などに活用し、国防や民間のビジネスでも効果を…


趙 章恩=(ITジャーナリスト)
日経パソコン
-Original column

ハイヤー配車サービス「UBER」、韓国ではついに法違反で関係者立件 [2015年3月25日]

.

韓国ソウル警察庁観光警察隊は3月17日、ハイヤー配車サービスアプリ「UBER(ウーバー)」の韓国事業を担当する支社長と総括チーム長、UBERコリアに協力したレンタカー業者ら35人を、旅客自動車運輸事業法違反の容疑で立件したと発表した。

 UBERは韓国でハイヤー配車だけでなく、「UBER X」と呼ぶタクシー運転の免許を持たない一般人が自家用車やレンタカーを利用して客を乗せ運賃をもらうサービスを斡旋していた。これが無許可タクシー業、いわゆる「白タク」に当たると警察は判断した。

 UBERは2月、日本でも福岡市で一般ドライバーによる送迎事業「ライドシェア」の検証実験を行い、道路運送法に違反する恐れがあるとして、国土交通省が中止するよう指導していた。

 UBERは2、013年8月に韓国法人を設立。2014年8月から、ソウル市と首都圏を中心に「UBER X」を始めた。「UBER X」は、アプリケーションを使って運転手と乗客をマッチングする。配車から運賃決済まで、スマートフォンで行える。

 乗客からすると、自分がいる場所まで車で迎えに来てくれて、タクシーより安い運賃で利用できるメリットがある。運転手として登録した人は、空いた時間または帰り道に、同じ方向に行く人を乗せて収入を得られる。運賃は、距離に応じてUBERが決める。韓国では基本料金約270円、1分当たり約10円または1キロメートル当たり約67円だった。

 この2倍の金額を払えば、高級自家用車に乗せてもらえる。料金は利用者が多ければ上がり、少なければ安くなる。UBERは、運賃の20%を手数料として徴収する。韓国メディアによると、UBERに登録して手数料を除いても3カ月間で約440万円を稼いだ人がいるという。






写真●福岡でも問題になったハイヤー配車アプリ「UBER」。レンタカーや自家用車を使ったタクシー営業は違法だとして韓国法人の代表や関係者が立件される事態に

 しかし韓国では、自家用車またはレンタカーに有料で人を乗せる行為は無免許タクシー業に当たり、旅客自動車運輸事業法に違反する。3月10日韓国の国会で、白タク営業をより厳しく規制する内容の旅客自動車運輸事業法改定案、白タクを斡旋する人も処罰できるいわゆる「UBER営業禁止法案」を検討した。


次ページ: UBERは、タクシー業界の反発にも負けず「UBERは自動車を共有する共有経済。タクシー業界のノベーションを止…


趙 章恩=(ITジャーナリスト)
日経パソコン
-Original column

犬にもスマートホーム?サムスン電子の「ICT犬小屋」が話題に [2015年3月13日]

.

最近、韓国や欧米では、サムスン電子が制作したICT技術を駆使した犬小屋が話題になった。犬小屋の名前は「Samsung Dream Doghouse」で、価格は約370万円もする。

 壁には、犬のための番組や音楽が流れ飼い主とコミュニケーションもできる「Galaxy」のタブレットPCが取り付けられている。犬のヘルスケアのために、癒し効果のある温水浴槽や人工芝を敷き詰めたランニングマシーン、足でボタンを押すとおやつが出てくるスナックディスペンサーなど、犬が喜んでくれそうなものが揃った最先端の犬小屋である。

 サムスン電子英国法人が公開したSamsung Dream Doghouseの紹介動画は、こちらから閲覧できる(犬の声に注意)。


サムスン電子英国法人がドッグショーで展示した最先端犬小屋「Samsung Dream Doghouse」

 これは、英国バーミンガムで3月5~8日に開催された、世界最大規模のドッグショー「Crufts Dog Show」で展示されたもの。Crufts Dog Showは、1886年に狩猟犬を集めたドッグショーから始まり、1891年から英国王室も参加する大規模なイベントになった伝統あるショーで、長い歴史を持つ。犬関連用品の展示と販売はもちろん、優秀な犬の番付発表を行ったりする。

 Samsung Dream Doghouseは犬のためのスマートホームで、12人のデザイナーが6週間もかけて制作したという。販売用ではなく、あくまでも「飼い主は、犬のためにこういうこともしてあげられます」という犬の新しいライフスタイルを提案する展示だった。

 韓国メディアは、「Samsung Dream Doghouseは、既にある技術を組み合わせて実生活に生かすというトレンドを反映したもの」、「サムスン電子英国法人が調査したところ、犬の飼い主64%は自分の犬のために先端技術とデバイスが必要だと答えた」、「現代社会では犬も家族の一員なので、飼い主が愛犬と遠隔でつながっていられるようにするのは大事なこと」「これからは、犬もソーシャルメディアを通じて飼い主とコミュニケーションする時代になる」などと解説した。


次ページ: 韓国メディアによると、サムスングループはオーナー一族が大の犬好きで、李健煕会長は飼い犬をドッグショーに出場さ…


趙 章恩=(ITジャーナリスト)
日経パソコン
-Original column

サムスン電子が新スマートフォンGALAXY S6とEdgeを公開、ネットで生中継したプレゼンも話題に [2015年3月6日]

.

 3月1日、サムスン電子はスペインのバルセロナでスマートフォン新機種を公開した。「GALAXY S6」と「GALAXY S6 Edge」の2種である。

 “All New GALAXY”というキャッチフレーズ通り、メタル素材のGALAXY S6とディスプレイの両面が折曲がったGALAXY S6 Edgeは、今までのGALAXYとは違う。韓国のネットユーザーの間では、斬新なGALAXY S6 Edgeの方が人気で、UIやメニューボタン(アイコン)も前よりずっと良くなったと好評だ。

 韓国で最も絶賛された機能は、「10分充電で4時間使えるという高速充電」と「0.7秒で立ち上がり夜景や暗いところでもうまく撮れる1600万/500万画素カメラ」。その他、「端末の背面にある心拍センサーを触るだけでセルフィー(自分撮り)が撮れる機能」、「5.1型のSuper AMOLEDディスプレイ」、「無線充電用の専用カバーを買わなくても端末を無線充電用のパッドの上に置くだけで充電できる機能」なども話題となった。




写真 サムスン電子が3月1日公開したGALAXY S6(上)とGALAXY S6 Edge。サムスン電子は「もっとも美しいスマートフォン」として紹介している。

 サムスン電子は何カ月も前から、「GALAXY S6はGALAXYという名前を除いて全て新しくした」、「スマートフォン作りを最初からやり直すという意味でプロジェクトゼロと呼んでいる」と説明し、「GALAXY S6」に対する自信を見せていた。


次ページ: サムスン電子IT・モバイル部門シン・ジョンギュン社長は、発表会場で自信満々に「GALAXY S6は、グローバ…


趙 章恩=(ITジャーナリスト)
日経パソコン
-Original column

MWC2015はお手頃価格スマートフォンに注目、サムスンに続いてLGも普及型モデルを公開 [2015年2月27日]

.

世界最大規模のモバイル関連展示会MWC(Mobile World Congress)は、毎年大手メーカーが最先端の端末と通信技術を初公開する場である。3月2日開幕する2015年のMWCでは、サムスン電子のGALAXY 6のようなハイエンド端末はもちろんLG電子や中国メーカーのお手頃価格スマートフォンも注目を浴びている。

 直前に控えて話題になっているのは、何と言ってもサムスン電子の「GALAXY S6」である。GALAXY S6は、同社が「プロジェクトゼロ」と呼んでいた野心作である。「全てをゼロに戻して、スマートフォンを生まれ変わらせる」という意味を込めて、ゼロと呼んでいたそうだ。GALAXY S6の特徴は、iPhoneのようなバッテリ一体型(バッテリーを取り外せない)、薄いメタルボディーなど。詳細はMWCで公開される。

 一方LG電子は2月23日、MWCでお手頃価格のスマートフォンを公開すると発表した。年明けから、サムスン電子がインドや新興国向けお手頃価格スマートフォンを発売して話題になっていたが、LG電子も同じ戦略を採ることにしたようだ。韓国では、2万円以下の端末を中低価格端末と区分し、「普及型モデル」と呼ぶ。LG電子がMWCで新たに公開するLTE対応普及型モデルは「LG Magna」、「LG Spirit」、「LG Leon」、「LG Joy」の4種である。




LG電子は新しい「普及型モデル」スマートフォン「LG Magna」、「LG Spirit」、「LG Leon」、「LG Joy」をMWC2015で公開すると発表した


LG電子が公開したスペックを見ると、「LG Magna」は5インチディスプレイに800万/500万画素カメラを搭載、バッテリーは2540mAhで韓国メーカーの普及型モデルとしては最大容量だ。「LG Spirit」は4.7インチディスプレイに800万/100万画素カメラ。「LG Leon」は4.5インチディスプレイに800万画素カメラ、「LG Joy」は4インチディスプレイに500万画素カメラを搭載した(カメラの画素数は今後変更される可能性あり)。

 普及型モデルでも、デザインは重要。LG電子は、普及型モデルにもハイエンド端末のデザインを適用して、安っぽく見えないようにした、と強調した。


次ページ: 世界中で流行っているセルフィー(自分撮り)に便利なところも売りだ。新機種には、スマートフォンから1.5メート…


趙 章恩=(ITジャーナリスト)
日経パソコン
-Original column

「韓国スマートヘルスケア最前線」ウェルネス分野を医療機器規制から除外、市場育成重視 [2015年05月29日]

.

韓国において医療機器の認可を担当する省庁である食品医薬品安全処は、「融・複合ヘルスケア活性化対策」の一環として、ウェルネス(Wellness)分野のウエアラブル端末やモバイルデバイスを2015年6月からは医療機器と見なさないとの決定を下した。

 食品医薬品安全処は6月末までに、「健康管理用Wellness製品区分基準ガイドライン」を制定する。同ガイドラインでは、日常生活で健康を維持するために使うリストバンド型の体脂肪計や心拍計などを、医療機器管理対象から除外。患者の状態に応じて診断および処方するために使う機器でなければ、Wellnessに分類することとした。

 医療機器管理対象から除外されると、事前許可審査や医療機器製造、品質管理基準といった、医療機器向けの義務規定を守らなくても済む。結果として、製品開発から製品化まで最長4年ほどもかかっていた審査期間を、2カ月に短縮できるとする。ただし、電気用品安全管理法に従い、電気的安全性は検証する。Wellness製品として発売してから疾病の診断・治療などの医療目的の機能を追加できないように、事後管理を行う。

 Wellnessはwell-beingとhappiness、fitnessを組み合わせた造語で、健康な状態を意味する。治療目的ではなく健康な人が健康を保つために使う機器に関しては、安全確認以外の手続きを簡素化し、開発から発売までの期間を短縮できるようにするわけだ。

韓国Inbody社が開発した、手首にはめるだけで体脂肪を測れるウエアラブル端末「InbodyBand」。今回の規制緩和により、韓国では体脂肪や心拍数、呼吸などを測れる個人向けウエアラブル端末市場の拡大が見込まれる


産業界の声や米国の動向が後押し

 朴槿恵大統領が主宰する「規制改革長官会議」では、技術の進展に規制が追いつかず、企業の足を引っ張っている事例として医療機器を取り上げ、2013年ごろから規制緩和の取り組みを進めてきた。同会議は「クリエイティブなアイデアの迅速な市場投入」を支援することをうたう。

 海外では心拍数や体脂肪量などの生体情報を簡単に測定し、個人が自ら健康管理に使えるウエアラブル端末やモバイルデバイスが増えている。こうした中、韓国だけが規制を厳しくしていては、世界から取り残されてしまうとの懸念が産業界から相次いでいた。特に、健康維持に使うWellness製品はそもそも製品区分の定義が曖昧であり、医療機器として審査するうちに製品の発売が大幅に遅れることもしばしばあった。そのため、ウエアラブル端末やヘルスケア関連のベンチャー企業が、拠点を米国に移す事例も増えている。

 高齢化が急速に進む中で、健康で長生きするにはフィットネスや医療にお金を惜しんではならないとの意識も高まっている。Wellness市場は今後大きく成長すると見込まれており、人体に害を及ぼすリスクの低い製品については積極的に規制を緩和して市場を盛り上げようという算段だ。FDA(米国食品医薬品局)は2015年1月、Wellness分野のガイドライン(General Wellness:Policy for Low Risk Devices, Draft Guidance)を発表。世界に後れを取るまいとする韓国政府の決定に影響を与えた。

迅速な製品化を促す

 食品医薬品安全処は、ICTと医療の融合によるイノベーションを促す上で、「医療機器統合情報バンク」を早期に構築する考え。製品企画から研究開発、臨床、製品化、認許可に至るそれぞれの段階で、専門チームが省庁の枠を超えて戦略的に企業を助ける仕組みを整える。医療機器輸出のための主要国認許可情報や通関手続きなども一カ所でまとめて管理し、全省庁で共同利用できるようにする。

 従来、韓国では医療機器の研究開発を支援する省庁と製品の認可を担当する省庁が分かれていた。支援策や規制もばらばらだったためか、韓国保健産業振興院の2013年の調査によれば、医療機器の研究開発後の製品化率はわずか5%にすぎなかったという。

 食品医薬品安全処は、韓国の医療機器やヘルスケア向けウエアラブル端末がグローバル市場を占有できるよう、「安全面にかかわらない規制に関しては今後も改善を続ける」としている。


By 趙章恩の「韓国スマートヘルスケア最前線」
日経デジタルヘルス
 -Original column

韓国でも期待高まるスマートウォッチ──「Apple Watchなら使い道なくても買う」、「デザインはLG電子が上」 [2015年2月20日]

.

今年4月出荷予定のアップルのスマートウォッチ「Apple Watch」。心待ちにしているのは、日本人だけではない。韓国のアップルユーザーも「Apple Watchはとにかく買う。使い道がなくても買う」、「Apple Watchはアプリが豊富だし、持っていると生活が楽しくなりそう」、「Apple Watchは女性にも似合うデザインだから買いたい」と、既にネットで盛り上がっているのだ。

 3月2日に開幕する世界最大級のモバイル関連展示会「Mobile World Congress2015」では、Apple Watchに対抗して韓国のサムスン電子、LG電子もスマートウォッチを公開するという。韓国メディアは「Apple Watch に勝てるデザイン」だとして、LG電子の新作スマートウォッチ「Urbane」を押している。LG電子は、2月16日スマートウォッチ新作「LGウォッチUrbane」を公開した。

写真●LG電子は2月16日、スマートウォッチ新作「LGウォッチUrbane」を公開した

 「Urbane」の見た目は、高級なクラシック時計そのもの。スマートウォッチには見えない。Urbaneは「優雅な」、「上品な」という意味で、高級感を出すことに重点を置いたようだ。他のスマートウォッチが四角いフレームなのに対し、LG電子は前作「Gウォッチ」に続いて丸いフレームを採用したので、時計にしか見えないのかもしれない。

 Urbaneの大きさは45.5×52.2×10.9(mm)と、デザインが好評だったGウォッチ(46.4×54.6×11.1mm)よりもさらに大きさ、厚さ、縁の幅を小さくしてスリムになった。メタルボディーで傷に強い。ディスプレイは、1.3インチのOLED(有機発光ダイオード)で、245ppiだ。天然革のストラップがついているが、他の時計メーカーのストラップも使えるよう標準型の22mm幅になっている。女性が身につけるにはちょっとごつい感じはするが、男性ならスーツにもカジュアルにも似合うデザインだ。アップルが「Apple Watchはかしこいアクセサリー」と宣伝しているせいか、韓国メーカーもスマートウォッチのデザインには力を入れている。


次ページ: Urbaneは、AndroidOS4.3以上のスマートフォンと連動し、Gウォッチに搭載していた心拍数測定やフ…


趙 章恩=(ITジャーナリスト)
日経パソコン
-Original column

大画面スマートフォンさえあればいい、タブレットPCが売れない時代に [2015年2月17日]

米市場調査会社のIDCが2月初めに公開したデータによると、2014年10~12月の世界タブレットPC出荷台数は7610万台で、前年同期比3.2%減少した。IDCは2010年からタブレットPCの出荷台数を調査しているが、台数が減少したのは初めてのことだという。

 IDCが分析したタブレットPC出荷台数減少の原因は、「大画面スマートフォンの普及によりタブレットPCの需要が減った」、「タブレットPCはスマートフォンと違って買い替え周期が長い」ことだった。IDCの調査によると、タブレットPCの平均買い替え周期は2.6年、タブレットPCユーザーの37%は3年以上買い替えなしで使っていた。IDCは、大画面スマートフォンの影響でタブレットPC市場は10インチ以上モデルが中心となり、8インチ以下モデルは減少すると展望している。

 メーカー別にみると、中国のレノボを除いて、米アップルも韓国サムスン電子もタブレットPCの世界市場でシェアを減らした。2014年10~12月では、アップルが28.1%で1位、サムスン電子が14.5%で2位、レノボが4.8%で3位だった。前年同期比で見ると、アップルは5ポイント、サムスン電子は2.7ポイント、それぞれシェアが減少したが、レノボは0.5ポイント増加した。安価な中国メーカーのタブレットPCは、増加傾向にあることが分かる。

 米アップルにしても、iPhone6 PlusとMacbookはとても好調だが、iPadの販売台数は減少し続けている。アップルが公開したデータを見ると、2014年10~12月のiPad販売台数は2142万台で、前年同期の2604万台より減少した。



サムスン電子の超高画質10.5インチタブレットPC「GALAXY TAB S 広帯域LTE-A」。販売価格は約8.8万円。サムスン電子は2015年より値段を安く抑えたタブレットPCを発売するという。


趙 章恩=(ITジャーナリスト)
日経パソコン
-Original column

イスラム国関連書き込みモニタリング強化、韓国ではテロ防止法と人権保護が対立 [2015年2月6日]

2月3日、韓国の通信政策を担当する省庁の未来創造科学部(部は日本の省に当たる)は、サイバーテロ防止のための討論会を開催し、「大統領官邸を中心にサイバーテロ対策室(コントロールタワー)を新設する」、「情報セキュリティ予算は、現在の5倍以上に増額する方針である」、といった内容を発表した。

 未来創造科学部の情報セキュリティ予算は、年間2500ウォン(約270億円)。これを1兆2500億ウォン(約1350億円)以上に増額し、サイバーテロに備えるべきだと主張している。サイバーテロとは、政府機関や国家重要施設のハッキングやサイトにアクセスできなくするDDoS攻撃をはじめ、インターネット回線を乗っ取りシステムの誤作動を起こして事故を誘発する行為、テロを扇動する書き込みを繰り返す行為、などを指す。

 韓国が、サイバーテロを初めとする「テロ」に敏感になっている背景には、イスラム国の存在がある。

 イスラム国武装勢力による日本人人質殺害は、韓国にも大きな衝撃を与えた。日本と同じく米国の同盟である韓国も、いつテロのターゲットになるか分からないという不安が広がった。日本人人質事件が発生する直前の1月初めには、18歳の韓国人青年がトルコで行方不明になった。この青年はシリアに密入国、イスラム国武装勢力に加担した可能性がある、というニュースが流れた。

 韓国警察の捜査によると、18歳の青年はSNS経由でイスラム国関係者と接触していたという。青年のパソコンからは、イスラム国の旗や武装勢力の隊員と見られる写真と動画が多数見つかった。この青年とイスラム国の接点は、Twitterで始まった。2014年10月には、Twitterでイスラム国武装勢力の組織員になりたいとつぶやき、他のTwitterユーザーから連絡先をもらっていた。

 イスラム国武装勢力は、Twitterを使って自分達のメッセージを伝えようとしている。関係ないハッシュタグをつけて、イスラム国に関心がない人の目にもつくようにしていることはよく知られている。この青年は、Surespotという個人情報を登録する必要がなくメッセージの記録も残らないSNSアプリを使い、Twitterで知り合ったイスラム国関係者とシリアに密入国する具体的な話をしたと見られる。

 韓国メディアは、非行少年が高校を中退して引きこもり、学閥社会の韓国になじめず色々なことに対する不満からイスラム国の「英雄になろう」という誘いに負け、武装勢力に加担したのではないかと分析する。イスラム国がSNSで巧みに世界中の若者を洗脳し誘惑していることから、国会や政府関係者の間では、「イスラム国が発信する動画やメッセージを、韓国からは見られないようにする」のはもちろん、こうした「テロ勢力に賛同するような書き込みや検索を繰り返す人の通信記録を、収集して監視する必要があるのではないか」という話にまで発展している。それがテロ防止法だ。

 テロ防止法を制定すると、国家情報院という韓国政府の情報機関が「テロ関連国内外の情報収集・作成・配布」、「危険人物の情報収集」、「テロ団体指定と解除」、「テロ団体の構成員と疑われる者に対する出入国・金融取引・通信利用の情報を収集」などができるようになる。もちろん、韓国内ではテロ防止法に反対する意見もある。「通信の秘密保護といったプライバシー侵害になる恐れがある」、「テロの範囲が明確でないため、情報機関が権限を乱用する可能性がある」、という理由だ。


次ページ: 市民団体らは「TwitterやSNSを使っていれば、意図しなくてもイスラム国やテロ組織のメッセージを目にする…


趙 章恩=(ITジャーナリスト)
日経パソコン
-Original column