韓国で発生した“iPhone 6大乱”、違法な加入者奪い合いに規制当局が激怒 [2014年11月21日]

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2014年10月1日に始まった奨励金を規制する端末流通法(正式名称は「移動通信端末装置流通構造改善に関する法律」)により、韓国では、スマートフォンの端末価格が実質値上がりしてしまっている(関連記事:アップルの次はソニーとファーウェイに注目、韓国スマートフォン市場に変化)。

 そもそもこの端末流通法は、代理店や販売店ごとに奨励金(韓国では端末購入補助金という)が違うので端末価格が店によって異なり、同じ端末なのに安く買う人もいれば高く買う人もいるのは不公平だとして始まったものである。これによりキャリアは、端末と料金制度ごとに加入者がもらえる奨励金と端末価格をWebページに告知し、全ての代理店と販売店は告知通りに販売しないといけなくなった。






韓国KTの告知画面。端末流通法により韓国のキャリアはWebページに端末ごとにもらえる奨励金を明記しなくてはならなくなった。全国どの販売店でも同じ値段で端末を販売するのが目的だ

 ところが、10月末にiPhone 6/6 Plusが発売されてから、キャリア3社による加入者の奪い合いが再び始まった。iPhone 6/6 Plusの人気を利用して加入者を集めるために、違法と知りながらも、再び奨励金競争を始めたのだ。

 韓国メディアによると、キャリアが販売店に支給する奨励金は、通常のスマートフォンは1台当たり約1万~2万円だが、iPhone 6と同Plusだけは約6万円を支給し、できるだけ他社より安く販売して加入者を一人でも増やすようにしたという。

 韓国では、iPhone 6を巡る違法奨励金問題を「アシックス大乱」とも呼んでいる。日本のスポーツ用品メーカー、アシックスとは全く関係ない。アイフォンの「ア」と、6と16GBの「シックス」で「アシックス」というわけだ。韓国ではあまり人気のなかった16GBモデルに違法奨励金が集中したことからも、アシックスと呼ばれるようになった。

 アシックス大乱は、11月初めの夜に起きた。3キャリアの代理店の下にあるスマートフォン販売店が、スマートフォン口コミサイトに通常7万円近くするiPhone 6の16GBモデルを約2万円で販売すると夜遅くに書き残した。それを見た人が次々にTwitterで情報を広め、午前0時を過ぎだというのに数百人が集まり、スマートフォン販売店前に長蛇の列ができる騒ぎとなったのだ。

 この販売店は取り締まりを逃れるため、深夜の時間帯に口コミで集まった人にだけiPhone 6を販売した。その噂を聞いて他の代理店もこっそり深夜に違法奨励金をつけたiPhone 6を販売した。月9000円以上する最も高い料金制度を6カ月以上使うという契約を結べば、キャリアの公式奨励金に販売店側が独自の奨励金を上乗せしても儲かるという。加入者が支払う月々の料金の一部が、販売店の利益として入るからだ。


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趙 章恩=(ITジャーナリスト)
日経パソコン
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「韓国スマートヘルスケア最前線」 Samsungが圧倒的存在感、7万人集めた医療機器展示会 [2015年03月23日]

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2015年3月5~8日、韓国ソウル市COEX展示場で「Korea International Medical & Hospital Equipment Show」(KIMES:国際医療機器・病院設備展示会)が開催された。KIMESは韓国で最も規模の大きい医療機器展示会で、31回目を迎える。今回は34カ国1145社が出展し、海外バイヤー3039人を合わせて約7万2000人が参加した。会場では、複数のイベントが同時開催された。医療機器業界の代表や総合病院院長、政府機関が参加した懇談会や学術フォーラム、セミナーなどである。

Samsung Medison社が出展した超音波診断装置のプレミアムモデル「RS80A with Prestige」
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 とりわけ大盛況だった催しが2つある。一つは、韓国の保健福祉部(部は省)と産業通商資源部の担当者が講師として参加した、医療機器育成案と規制緩和に関する説明会。もう一つは、中国およびロシアの政府関係者と専門家を講師に招き、両国の医療機器規制の変更内容を学び、輸出戦略を立てるためのセミナーである。

 この他、(1)患者の動線を考えた病院建築や空間デザイン、(2)患者空間と救急室のサービスデザイン、(3)医療分野での3Dプリンティング技術と臨床適用事例、(4)遺伝子・人工知能・ウエアラブルなど医療工学の未来技術、(5)保健医療ビッグデータ活用案と分析法、(6)医療分野でのSNS活用など、医療関係者を対象にしたセミナーも多数開催された。

 機器展示については、目玉はやはり韓国Samsung Electronics社と韓国Samsung Medison社の新製品だった。デジタルX線撮影装置や超音波診断装置など、新製品を含む9種類の医療機器を展示した。会場を訪れたSamsung Electronics社 医療機器事業部部長(社長)のチョ・スイン氏(Samsung Medison社長を兼任)は、「ITと映像技術を駆使し、使いやすい医療機器を世界中の病院に提供する」とコメントした。

機能てんこ盛りのデジタルX線

 Samsung Electronics社は、2015年2月に韓国と西ヨーロッパで発売したデジタルX線撮影装置「GC85A」と「GM60A」を披露した。優れた映像品質や、患者がいるところに移動して使える優れた患者接近性などを強調していた。


Samsung Electronics社のデジタルX線撮影装置「GC85A」
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 これらの新製品には、雑音を除去して画質を改善する画像処理技術「S-Vue」や、防水・防凍機能で耐久性を高めた超軽量の「S-detector」などを搭載している。節電機能も備える。待機状態では節電モードに切り替わり、稼働時の半分の電力しか使わないという。

 GC85Aはプレミアムモデルと位置付ける製品で、一度のボタン操作で撮影位置の調整、撮影ポジション設定などレントゲン撮影に必要な設定が流れ作業で行える。レントゲン技師の動きを最小限にとどめ、素早く撮れるのが特徴だ。撮影角度を自由に設定できるので、体が不自由な患者のレントゲンも安全に素早く鮮明に撮影できるようになった。体内に移植した金属製補形物による陰影を最小限にとどめ、血管や関節などが重なる部位も鮮明に高画質で撮影できるという。

超音波/CT/MRIの画像を重畳

 Samsung Medison社は、複数の機能を持ち合わせたプレミアムモデルを出展。2015年4月に発売予定だとした。

 出展した超音波診断装置「RS80A with Prestige」は、既存機種「RS80A」を改良したプレミアムモデル。映像品質を改善したことに加え、病変の正確な位置を探せるように、1~2秒という短時間で超音波画像にX線CT画像とMRI画像を重ねて比較分析できる「S-Fusion」機能を搭載した。同じ部位を写した異なる種類の診断画像を重ねるのは従来、時間のかかる作業だったという。

 この他、体内組織の硬さを素早く正確に測定し、医師の熟練度に関係なく客観的なデータで診断できるようにした「S-Shearwave」機能、リアリティーのある3D・4D映像で微細な突出部位までも確認できる「Natural Vue」機能なども搭載した。

 同社はこの他、大型病院向けプレミアム超音波診断装置「WS80A with Elite」、医療現場で使えるタブレット型超音波診断装置「PT60A」、ノートパソコン型超音波診断装置「HM70A」、手術室内で素早く撮影できる移動型X線CT装置「BodyTom」(Samsung Electronics社が買収したNeuroLogica社製)を出展した。



By 趙章恩の「韓国スマートヘルスケア最前線」
日経デジタルヘルス
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スマホをサイフにする決済サービスが続々登場、SNSのID利用した個人間送金が人気 [2014年11月14日]

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日本ではプリペイド電子マネー型のおサイフケータイが広く使われているが、韓国では後払いのモバイルペイメントが主流となっている。複数のクレジットカード情報をQRコードやバーコードにしてスマートフォンに保存し、決済する際に暗証番号を入力してスマートフォンの画面にバーコードを表示して読み取り機にかざす。クレジットカードを持ち歩かなくても決済できるようにしている。

 また、スマートフォンに事前に銀行の口座情報を登録しておいてスマートフォンをキャッシュカード代わりに使ったり、スマートフォンから決済する金額と暗証番号を入力するだけで口座引き落としの支払いができたりもする。もちろん、日本と同じようにチップに金融情報を保存し、スマートフォンをかざして支払うというサービスもある。

 韓国で最も人気の高い無料通話アプリ「KakaoTalk」を運営するダウム・カカオは、2014年11月11日より韓国の16の銀行と提携してSNS基盤のモバイル・ペイメント・サービス「Bank Wallet Kakao」を始めた。モバイルバンキングとモバイルペイメント機能を一つにまとめ、さらにKakaoTalkのID宛てにお金を送金できるサービスを追加した。KakaoTalkという韓国の人口の8割近くが利用しているほどの人気アプリを基盤にした金融サービスということで、韓国では大変注目されている。

 韓国では結婚式やお葬式に出席できなくても、祝儀や香典を知人にお願いして代わりに出してもらう習慣がある。赤ちゃんの1歳の誕生日も会社の人を呼んで盛大なパーティーを開くので、出席できなくても招待されたら祝儀を送らないといけない。式場に祝儀や香典を届けるためバイク便を利用する人も多い。祝儀や香典を渡すから口座番号教えて、というのはなんとなく恥ずかしいからだ。

 これからはKakaoTalkのIDさえ知っていれば、本人に直接送金できるので、式場に祝儀や香典を届けるために苦労しなくてもいい。KakaoTalkのID宛て送金は手数料なし、1日10万ウォン(約1.1万円)まで利用できる。

 19歳以下の未成年者は、お金を送ることはできないが、受け取ることはできる。KakaoTalkのIDさえあれば子供にお小遣いやお年玉を送金できるので、来年のお正月が怖い。


Bank Wallet Kakaoの画面イメージ



趙 章恩=(ITジャーナリスト)
日経パソコン
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サムスン電子自慢のウエアラブル端末「Gear S」発売、キャリアは専用料金を開始 [2014年11月7日]

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韓国のKTとSKテレコムは2014年11月5日、サムスン電子のウエアラブル端末「Gear S」を販売開始した。

 「Gear S」はドイツで行われた展示会IFA 2014で公開した端末で、高級腕時計のような四角いフォルム、腕にフィットする約2インチの曲面スーパー有機ELディスプレイを搭載し、見た目もかっこいいと話題だったあのウエアラブル端末だ。

 OSはTizen。日本ではNTTドコモが2014-2015冬春モデルとして、10月23日にGALAXY Note Edgeとともに発売した(ITproの関連記事:全機種がVoLTEやハイレゾに対応、ドコモ2014冬春モデルの詳細)。

サムスン電子のウエアラブル端末「Gear S」

 韓国メディアは「サムスン電子の野心作」と高く評価していて、KTとSKテレコムは「Gear S」の発売と同時にウエアラブル端末専用料金プランを開始し、Gear Sを購入すると先着でプレゼントも贈呈するなど販売に力を入れている。 

 Gear Sの韓国内販売価格は29万7000ウォン(約3.3万円)だ。本物の腕時計と変わらない円形ディスプレイで注目されたLGエレクトロニクスのウエアラブル端末「G Watch R」が3.8万円ほどしたので、だいぶ値段を抑えた。韓国の口コミサイトでは、「予想した値段よりだいぶ安い」「この値段なら買ってみたい」という書き込みが多かった。

 Gear Sの発売と同時に始まったKTのウエアラブル専用料金は月8800ウォン(約980円)で音声通話50分、SMS送信250件、データ通信100MBを使える。KTのスマートフォンユーザーで月約9700円以上利用料を支払っている場合は、ウエアラブル専用料金制が無料になる。KTユーザーでGALAXYスマートフォンを使っているユーザーがGear Sを購入すると、11月まで1.2万円相当のGear Circleを無料で贈呈する。Gear Circleは韓国で10月29日に発売されたサムスン電子のイヤホンで、スマートフォンと連動し、電話やメール・メッセンジャーの受信内容を音声で知らせてくれる機能もある。

 SKテレコムのウエアラブル専用料金は月1万1000ウォン(約1200円)で音声通話50分、SMS送受信とデータ通信は無制限に使える。ただし、SKテレコムのスマートフォン加入者だけが利用できる料金プランになっている。Gear Sを購入した先着1万人には、プリペイドカードのチップを搭載した(おサイフケータイ機能)腕バンドを無償で贈呈する。またウエアラブル専用料金に加入するとGear S専用の電話番号をもらえるが、スマートフォンの電話番号とGear Sの電話番号、どちらにかけてもユーザーが設定した一つのデバイスで受診する機能も無料で使える。

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趙 章恩=(ITジャーナリスト)
日経パソコン
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世界で最もiPhone 6が高い国は韓国?それでも売れ行きは絶好調 [2014年10月31日]

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韓国でもついにiPhone 6と同Plusの予約販売が始まった。発売日は2014年10月31日で確定した。

 iPhone 6と同Plusの予約販売を開始したのは10月24日。最大手のKTは30分で予約販売のために用意してあった5万台を完売、LGユープラスは20分で2万台を完売、SKテレコムは2分で1万台を完売した。SKテレコムは予約受付サイトに10万人が殺到し、Webサイトがなかなか開けないといった不具合もあったほどだ。

 初めてiPhoneを販売することになったキャリアのLGユープラスは、予約購入した人を対象に抽選で大型テレビやヘッドホンなどを贈呈するイベントや、代理店にアイドルを呼んでiPhone販売記念コンサートを行う計画もあると明かした。10月31日はどの代理店もiPhone 6/6 Plusを求める人で長蛇の列になるとみられる。キャリア3社は大型代理店にiPhone 6/6 Plusを申し込む人専用の待合室を作り、飲み物やおやつも提供することにした。


iPhone 6/6 Plusの予約販売を開始したLGユープラスの代理店(出典:LGユープラス)

 韓国メディアは、「韓国のキャリアは世界で最も高い値段でiPhone 6と同Plusを販売している。それにも関わらずここまで売れるとは驚きだ。サムスン電子のGALAXY Note4の方がスペックはいいのにどうしてなのか」と連日アップルのイノベーションを分析する記事を掲載している。

 iPhone 6は、日本では2年契約でキャリアが補助金を出すことで16GBモデルが実質無料になるが(新規契約の場合)、韓国では同じく16GBモデルの一括購入価格がキャリアによって約7.9万~8.1万円、キャリアが補助金を出しても端末価格が6万~7万円ほどと、日本で買うよりかなり高くつく。

 初めてiPhoneを発売したLGユープラスは、18カ月後にiPhone 6をLGユープラスに売る(キャリアが中古端末として買い取る)ことを前提に、先に中古端末買い取り価格分を割引することにした。この割引に上乗せして、現在ユーザーが使っているスマートフォンをLGユープラスが買い取り、契約による補助金まで合わせるとiPhone 6を1万~2万円で買えるようになった。KTやSKテレコムよりも端末価格が安くなったことで、LGユープラスにiPhone 6ユーザーが流れ込む効果が出始めた。

 これは特別な割引制度ではなく、中古端末買い取り価格を18カ月後にもらうか、今もらうか、の違いだけだが、誰よりも早く新しいことをして自慢したい人が多い韓国では、今すぐ安く買えるということに喜んでLGユープラスを選択している。韓国の証券街では、iPhone 6/6 PlusでLGユープラスの実績が改善することで、2014年10月から2015年9月までの営業利益が31.3%ほど増加し、株価も値上がりすると見込んでいる。

 スマートフォンユーザーの間では、Android OSよりもiOSの方が安全だから乗り換えたいという心理もある。Android OSではモバイルバンキングのハッキングが多発し、いつの間にか自分の口座から知らない人の口座に全額が送金されるなど、預金を盗まれるといった被害が何件もあった。


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趙 章恩=(ITジャーナリスト)
日経パソコン
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韓国のスマート教育、国内実績を元に新興国向け支援も活発化 [2014年10月24日]

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2014年10月20日から23日まで、韓国・釜山でIT展示会「World IT Show(WIS)2014」が開催された。いつもは5月にソウル市で開催されるが、今年は10月に釜山で国際電気通信連合(ITU:International Telecommunications Union)の会議「ITU Plenipotentiary Conference 2014 (PP-14)」が開かれることを記念して、特別に時期をずらして釜山で開催した。

 WIS 2014では、韓国メーカーの各種端末や最新のICTサービスが一通り展示された。中でも注目を浴びたのが高速モバイルインターネットとスマート教育、ヘルスケアなど、身近なところで起きている変化に関する展示だった。

 キャリアのSKテレコムは、WIS 2014で新興国向け移動型スマート教室「BOXCHOOL」を公開した。太陽光発電で電力を、雨水をろ過して飲み水を提供できる組み立て式簡易住宅のような建物の中に、スマート教育に必要な設備をそろえたものだ。電力不足に悩むアフリカや東南アジアの島や農漁村でも、子供達がより豊富なマルチメディアコンテンツを使って勉強できるようにするために開発した教室である。





WIS 2014でSKテレコムは移動型スマート教室「BOXCHOOL」を展示

 BOXCHOOLの中には、教師が教室の中の全ての端末・音響・照明などを制御できる「Teacher Almighty」、電子黒板とタブレットPCの画面と資料を共有して教師と学生のコミュニケーションを助ける「Schoolbox」、教卓の中に電子黒板が入った「TOUCH PLAY」などがあり、タブレット端末やスマートフォンを使ってテストと採点ができる学習評価システムも適用した。

 SKテレコムは「BOXCHOOL」を韓国の農村地域にも普及させる予定で、都市と地方の教育機会や教育レベルの格差をなくすことに寄与したいとしている。

 SKテレコムは中国の教育情報化企業、Zonekeyと提携し、スマート教育に必要な端末制御、教師と生徒の双方向コミュニケーションツール、学習管理プログラムなどをまとめた「Smart Class Solution」を中国に輸出した実績がある。中国政府は2015年から学校にスマート教室を構築し、教育先進化を目指すという。SKテレコムはインドネシアとアゼルバイジャン共和国にもSmart Class Solutionを輸出した。

 キャリアのKTは「GiGAtopia」をテーマに、高速モバイルインターネットと全てのモノがインターネットにつながるIoT(Internet of Things)によって生活がこう変わるというコンセプトを展示した。

 KTは10月初め、韓国で最もインターネット利用率が低い島、韓国の南西にある全羅南道のイムジャ島をGiGAtopiaのモデルとして開発し、話題になった。島全体にKTの高速モバイルインターネットと技術を適用して、教育、農業、医療、地域経済、エネルギー供給などをよりスマートに、便利にするプロジェクトである。


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趙 章恩=(ITジャーナリスト)
日経パソコン
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サムスン電子の囲い込み戦略も効果なし?韓国でもiPhone 6発売決定 [2014年10月17日]

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韓国でもついに、2014年10月31日にiPhone 6と同Plusが発売されることになった。iPhone 6からはキャリア3社(KT、SKテレコム、LGユープラス)全てがiPhoneを販売することになった。今回はキャリア3社が出そろったことで、iPhone 5s/cよりも売れると見込まれている。SKテレコムとKTは、10月24日から予約販売を開始すると10月14日に発表した。LGユープラスはまだ告知していないが、他社と足並みをそろえて同じ日に販売を開始する可能性が高い。

 しかし、スマートフォンの口コミサイトでは、「中国ではiPhone 6とPlusが予約販売だけで1000万台売れたというし、在庫不足で韓国での販売開始は11月に延期される可能性が高い」「LGユープラスがまだ何も告知をしないということは在庫を確保できていないということなのかもしれない。不安だ。やっぱり海外で買うしかないのか」と10月31日発売は難しいのではないかとの声もある。

 韓国では10月から、法律でスマートフォンの購入補助金を取り締まる端末流通法が施行され、9月に比べて同じ端末が2万円近く高くなったことからスマートフォンが売れ行きが大幅に減った。キャリア直営の代理店は問題ないが、代理店の下にある個人が経営する販売店は、スマートフォンが全く売れず、家賃すら払えない状況だとして閉店するところも増えた。韓国メディアによると、スマートフォンの販売台数は、9月を100だとすると10月は30しかないという。

 このような状況のため、どうせ高く買うなら、もともと補助金が少なかったiPhone 6/Plusを買おうという意見も増えている。今まで韓国のスマートフォンシェアはサムスン電子が不動の1位で、LGエレクトロニクスとパンテックとも大きな差が開いていた。しかし今世界中でiPhone 6/Plusが話題をさらい、アップルのディスプレイ注文件数から推算して年末までiPhone 6は7400万台、iPhone 6Plusは4200万台、合わせて1億1600万台売れるという予測もある。サムスン電子はiPhone 6/Plusにどう対抗するのか。

 10月13日の韓国メディアの報道によると、サムスン電子はFacebookコラボスマートフォンを発売するという。これはサムスン電子とFacebookが提携し、Facebookが運営するSNSを使いやすくするスマートフォンである。

 10月14日にはサムスン電子のイ・ジェヨン副会長に会うため、Facebookのマーク・ザッカーバーグCEO(最高経営責任者)が韓国を訪問した。2人の協議はこれで3度目になる。ハードウエアの技術を持つサムスン電子と、モバイルSNSに力を入れているFacebookが提携することで、アップルやグーグルに負けない新しいモバイルサービスが生まれる可能性も高い。

 また、Facebookの呼びかけでサムスン電子もInternet.orgのキャンペーンに参加している。これは全世界71億人が全てインターネットを使えるようにしようというキャンペーンで、みんながインターネットで一つになる世の中を作ることを目標としている。パソコンではなく高性能低価格のスマートフォンとモバイルインターネットを使うことで、新興国の人もインターネットにアクセスし、知識経済社会に参加できるという考えだ。サムスン電子は市場をリードするプレミアムスマートフォンだけでなく、新興国向けのスマートフォンにも力を入れていくようだ。

 これだけではない。9月24日からはサムスン電子のスマートフォンユーザーだけが無料で利用できるラジオストリーミングサービス「ミルクミュージック」を始めた。ユーザーを囲い込むため、アップルが力をいれるiTunesに対抗している。



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趙 章恩=(ITジャーナリスト)
日経パソコン
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WHOのインターネット依存診断ガイドラインを韓国が作成することに [2014年10月10日]

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韓国中毒精神医学会は2014年10月8日、同学会がWHO(世界保健機関)のインターネット依存(ネット中毒)診断ガイドライン制定業務を遂行することになったと発表した。韓国中毒精神医学会は精神医学を専門とする医師が参加する学会である。

 同学会はWHOから経費の一部を支援してもらい、2017年までにインターネット依存を診断するためのガイドラインを制定する。2017年導入予定であるWHOの第11版国際疾病分類(International Classification of Disease 11th Revision:ICD-11)に合わせてガイドラインを提示し、WHOはこれを世界各国に勧告事項として配布する。これは、10月2~6日に横浜で行われた国際嗜癖医学会(International Society of Addiction Medicine)で決まったことだという。

 その背景としては、インターネット依存が世界各国で社会問題になっているものの、まだ国際的にインターネット依存かどうかを診断する共通のガイドラインがないことがきっかけとなった。韓国中毒精神医学会は2000年代初めからインターネット依存に注目しており、少年400人を2005年から2012年まで7年間観察して、青少年のインターネット依存実態を追跡した論文で注目されたこともある。

インターネット依存は世界各国の社会問題(イメージ写真)

 インターネット依存は、パソコン通信の時代から問題になっていた。韓国ではインターネット依存の中でも「オンラインゲーム中毒」が社会問題となり、その治療と予防を国家政策として取り組んできた。

 韓国では、政府が「インターネット中毒予防相談センター」を2002年にオープンしている。韓国政府の説明では、これは世界初のインターネット依存、オンラインゲーム中毒を治療するための施設だという。このセンターで韓国初の「インターネット中毒診断尺度」が作られ、今でも自己診断用や学校での集団テスト用に利用されている。

 診断尺度を見ると、「インターネットをしないと不安で何も手につかない」「長時間インターネットをしてしまい予定をキャンセルしたことがある」といった項目がある。韓国は年に数回、小中高校で教師がこの診断尺度を利用して子供達のインターネット依存をチェックし、危険な状態という結果が出た場合、心理カウンセラーと相談できる場を作る。

 オンラインゲーム中毒は、ゲームのキャラクターになりきって現実の自分を忘れられることから、受験勉強や成績競争に疲れた子供たちが現実逃避として中毒になるケースが非常に多い。



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趙 章恩=(ITジャーナリスト)
日経パソコン
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アップルの次はソニーとファーウェイに注目、韓国スマートフォン市場に変化 [2014年10月3日]

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 サムスン電子のGalaxyシリーズ一色だった韓国のスマートフォン市場が変わろうとしている。

 アップルのiPhone 6と同Plusを買うために、韓国にいながら海外のアップルストアにネット注文したり、手数料を支払ってでも購入代行を利用したり、韓国での正式発売を待てずiPhone 6/Plusに早く乗り換えようとする動きが盛んに起きていることは先週お伝えした通り(関連記事:iPhone 6発売まで待てない!ネット経由で海外から買い求める韓国ユーザー)。そんな中、9月末からはソニーとファーウェイも話題に加わった。

 2014年9月29日、ソニーは韓国で「Xperia Z3」を発売した。ソニーのXperiaといえば、韓国でも2070万画素(Xperia Z2)の優秀なカメラが人気のスマートフォンである。Z3はハイレゾ音源に対応し、防水防塵機能を強化。さらなる広角化を図ったカメラレンズや、5.2インチの大きさで重さが152gと軽くなったことも好評だ。

 前から見るとZ2と変わらない無駄のない四角いデザインだが、横から見るとZ2より丸みを帯びたデザインになっていて、少し薄くて手に馴染む。端末価格は79万9000ウォン(約8.9万円)だが、2年契約で購入するともう少し安くなる。 







「Xperia Z3」の防水性能が優れていることをアピールする写真を掲載するソニーの韓国語サイト


 9月30日には、ファーウェイが「Honor 6」を韓国のMVNO(仮想移動体通信事業者)向けに仕様を変え、「X3」という名前で発売した。5インチ、1300万画素カメラ、LTE-Advanced(LTE-A)を利用できるスマートフォンなのに、端末価格は52万ウォン(約5.9万円)ほどで、MVNOの料金プランで最も高い月額約3400円で2年契約すると、割引が適用されて端末価格は33万ウォン程度(約3.7万)になる。

 LTE-A対応の5インチスマートフォンが33万ウォンというのは、韓国では今までにない激安で、サムスン電子やLGエレクトロニクスの半額以下の値段である。




韓国ではファーウェイの「X3」をLTE-Aに対応した半額スマートフォンと宣伝している。X3はサムスンやLGのスマートフォンに比べると半額以下で売られている。X3はMVNOの「U mobi」が販売している


趙 章恩=(ITジャーナリスト)
日経パソコン
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「韓国スマートヘルスケア最前線」「漢方医に医療機器は使わせない」と医師会が猛反発、韓国で大論争勃発 [2015年02月13日]

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2015年の新年早々、韓国では医療機器の規制緩和をめぐる大論争が起こった。背景には、韓国ならではの医療事情がある。医師会と漢方医師会の対立である。

 韓国政府は2014年12月末、漢方医もX線撮影(レントゲン)装置や超音波診断装置などを使用できるよう規制を緩和すべきだとして、「漢方医の医療機器使用方案」を検討し始めた。ところが医師会がこれに猛反発。2015年1月21日には結局、議論そのものが振り出しに戻った。

背景に漢方医学の浸透

 韓国の大学には医学部とは別に漢医学部がある。漢医学部では、6年間の課程を修了し、国家試験に合格すると漢方医の免許を取得できる。韓国には漢方総合病院が多数あり、針灸の他、整形外科や内科、皮膚科、耳鼻咽喉科、婦人科、小児科など、一般の病院と変わらない診療科をそろえている。こうした状況から、漢方医師会はかなり前から「国民の健康と漢方の現代化のために医療機器の使用を認めるべき」と主張していた。

 韓国の憲法裁判所は2013年に、「眼圧測定装置や自動眼屈折検査装置、細隙灯顕微鏡など、安全に問題がなく漢方医にとっても結果の判定が難しくない医療機器については、漢方医が使用しても問題ない」との判断を示した。保健福祉部(省)も「国民の安全と健康に害がなく、漢医学部のカリキュラムに含まれる医療機器に限って、使用を認める方向で検討する」との立場を取っていた。韓国政府は今回、こうした方向に沿って漢方医の医療機器使用を許可する方向に動いたわけである。

「無免許運転と同じ」と医師会

 ところが、韓国の医師会である大韓医師協会は、「漢方医が医療機器を使用することは無免許運転と同じ。結果判定能力のない漢方医が医療機器を使えば、医療の質が低下する」と反発。同会会長は「11万人の医師が手段を選ばず闘争する」と宣言した。医学部の学生協会までもが「漢医学部で履修する医療機器科目は一般教養程度にすぎない。漢方医は医療機器の使い方やデータの解釈を専門に学んでいないのだから、使用を許可してはならない」と反対声明を出すほどの騒ぎとなった。

 これに対し、漢方医師会も負けじと反論。「国民の健康のために医師会は欲を捨てるべきだ。医療機器を使用して患者の状態を正確に把握することが最優先されるべき」と主張した。漢方医師会が全国20~70歳代の男女1000人を対象にアンケート調査を実施したところ、回答者の88%が漢方医による医療機器使用を認めるべきだと回答したという。

 漢方医師会は、中国を引き合いに出してこのようにも主張する。「中国では漢方医が先端医療機器を自由に使えるために代替医療(complementary and alternative medicine)が発達し、世界で10兆ウォン(約1.1兆円)規模の代替医療市場を同国が席巻した。これに対し韓国では、合理的でない規制によって漢方医の役割が制限されている」。

規制緩和検討は「Samsungのため」との見方も

 医師会と漢方医師会が対立を深める中、漢方医による医療機器の使用許可を誰よりも強く望んでいるのは医療機器業界かもしれない。韓国メディアの試算によれば、全国で1万3000近くある漢方病院がMRIやX線CT装置、レントゲン装置、血液検査装置といった医療機器を新たに購入した場合、1兆ウォン(約1100億円)の売り上げが発生するという。

 韓国メディアは漢方医が医療機器を使用できるようになれば、その恩恵を最も受けるのは、韓国Samsung Electronics社だと見る。同社の医療機器事業の実績が思わしくない中、漢方医による医療機器の使用許可検討は同社のためとの見方もあるほどだ。医療機器を設置済みの病院の買い替え需要はなかなか生まれないため、規制緩和によって新たな需要を作ろうとしたというのである。

 結果的には韓国政府が医師会の反発に屈する形となり、漢方医の医療機器使用許可をめぐる議論はなかったものとされた。それでもなお、漢方関連の研究団体などは「漢方病院の骨折治療件数は全国で年間420万件を超えており、生命に支障がない範囲でのレントゲン装置の使用は許可すべき」と主張。最低限の規制緩和として、漢方医にもレントゲン装置と超音波診断装置の使用を許可するよう、韓国政府に粘り強く求めている。



By 趙章恩の「韓国スマートヘルスケア最前線」
日経デジタルヘルス
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