「韓国スマートヘルスケア最前線」ビッグデータ分析に基づく個人健康管理やIoTによる「ヘルスケア実証団地」、韓国政府が支援 [2015年02月10日]

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韓国の経済産業省に当たる産業通商資源部(省)は2015年1月29日、「スマートヘルスケア産業活性化方案」を発表した。主な内容は、国民の健康管理サービスを強化し、スマートヘルスケア産業の輸出を拡大するために、政府予算150億ウォンと官民ファンド150億ウォン、計300億ウォン(約33億円)を支援するというもの。

 韓国政府が描くスマートヘルスケアとは、製造と通信、医療、サービスを相互に連携させ、いつでも手軽に個人の健康管理ができる環境を指す。そこに向けて、「需要連携型スマートヘルスケアシステム開発」「スマートヘルスケア企業の国際競争力確保」「スマートヘルスケア産業基盤作り」の3つを推進する。

オーダーメード型の健康管理を実現へ

 このうち、「需要連携型スマートヘルスケアシステム開発」とは、企業が病院や患者個人のニーズに合わせてシステムを開発できるようにすることである。新設した「Uヘルス総合支援センター」を中心に、研究開発段階から病院と企業、認許可機関、研究機関が連携し、実生活に役立つシステムを開発できる研究環境の構築に2015年に60億ウォン(約6.6億円)を投じる。

 さらに、これまでは病院ごとに保管していた個人の健康・医療情報を統合し、ビッグデータ分析を通じて個人に最適化した健康管理サービスを提供する「個人オーダーメード健康管理システム」を開発する。ここに向けて、2015~2017年に毎年30億ウォン(約3.3億円)ずつ、計90億ウォン(約9.9億円)を投資する。慢性疾患患者や手術後に退院した患者のケアだけでなく、健康を維持するための健康管理にまで段階的にサービスの範囲を広げる計画だ。

「ヘルスケア産業協会」を発足

 「スマートヘルスケア企業の国際競争力確保」と「スマートヘルスケア産業基盤作り」に関しては、ベンチャーや中小企業への投資促進、実績確保のためのテストベッド事業拡大、海外進出のためのサービスと機器認証の獲得、新事業部門の国際標準への先制対応、産学連携などを支援する。官民共同で新産業に投資する1350億ウォン(約148億円)規模の「新成長動力ファンド」から、150億ウォン(約16億円)をヘルスケア関連プロジェクトに投資する。

 さらに、ヘルスケア業界のネットワーク作りに向けて、ICTとサービス、医療をつなげる「ヘルスケア産業協会」を2015年中に発足させる。同協会は、スマートヘルスケア関連機器とプラットフォームの標準化、国際競争力強化のための活動を行う。

 産業通商資源部は同日、スマートヘルスケア産業活性化方案と並ぶ新たな投資案件として、「バイオ産業エンジンプロジェクト」も発表した。スマートヘルスケアとバイオを連携し、個人向けの携帯型生体情報測定装置と健康管理システムを開発するというものである。

健康情報を収集・保存・分析するプラットフォームを構築

 通信政策を担う未来創造科学部(省)もこの日、「ソフトウエア中心のヘルスケア産業育成方案」を公開し、75億ウォン(約8.2億円)を投資すると発表した。これは総額7052億ウォン(約780億円)規模のスマートシティ/スマートホーム/スマートグリッド計画につながるものである。

 未来創造科学部は2015年上期中に「需要連携型デイリーヘルスケア実証団地」を造成し、IoT(internet of things)を活用したさまざまなアイデアを試せるようにする計画。2015~2017年の3年間運営し、3つのテーマに取り組む。「健康情報を収集・保存・分析するヘルスケアプラットフォーム構築」「中小企業の製品開発環境造成」「病院連携実証サービス提供」である。この実証団地を誘致しようと全国の自治体が動いているが、韓国メディアによれば最も有力なのは、過去に大規模な慢性疾患ヘルスケア実証実験を行った実績がある大邱市だという。

 韓国政府はこの他にも、ヘルスケア関連のベンチャースタートアップ支援やアイデア公募など、医療とICTの融合を後押しする政策を毎週のように発表している。この分野では2015年もまた大きな変化がありそうだ。


By 趙章恩の「韓国スマートヘルスケア最前線」

日経デジタルヘルス
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「韓国スマートヘルスケア最前線」Samsungが体外診断機器事業の拡大に向け米社と提携、韓国政府は規制緩和でバックアップ [2014年12月05日]

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韓国Samsung Electronics社は2014年11月25日、体外診断分野の市場拡大を狙い、米Thermo Fisher Scientific社と提携すると発表した。

 Samsung社によれば、Thermo Fisher Scientific社は世界約100カ国という体外診断分野で業界最大の販売ネットワークとサービスインフラを持つ。Samsung社はこのネットワークを活用して自社の体外診断機器の販売を促すとともに、新製品を開発して市場を拡大する計画という。

 Thermo Fisher Scientific社は、1902年に創業したFisher Scientific社と1956年に創業したThermo Electron社が2006年に合併して生まれた。米国マサチューセッツ州ウォルサムを拠点とし、世界に5万人の従業員、170億米ドル近くの年間売上高を誇る総合科学サービス企業である。体外診断用の機器や分析機器、試薬などを販売しており、日本にも東京や大阪、名古屋などに支店を持つ。

 Samsung社がThermo Fisher Scientific社のネットワークを使って販売するのは、臓器疾患や炎症などを現場ですぐに診断できる体外診断機器である。Samsung社の血液検査装置「Samsung LABGEO IB10」は、前処理の必要がなく、少量の血液で心臓疾患や肝炎性疾患など3つの疾患を20分以内に検査できるという。小さくて持ち運びできバッテリーでも駆動するため、患者が病院に到着するまでの救急車の中で基本的な検査ができるのが特徴だ。

 この血液検査装置はスコットランドの救急医療体制改善のための実証実験にも使われた。この実験では、57人の専門救急隊員が100人以上の胸痛急患を救急車で搬送しながら同装置で検査をし、データを病院に送信。病院に到着してすぐ医師が手当てできるようにした。

Samsung社の血液検査装置「Samsung LABGEO IB10」
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SK Telecomも体外診断機器メーカーと提携

 Samsung社が今回の発表を行ったのと同じ日、韓国の保健福祉部(部は省)は「人体に有害な影響を与える恐れの少ない体外診断用製品と遠隔医療機器について、審査方法を簡素化する」と発表した。これにより、臨床試験を済ませ、食品医薬品安全所の許可さえ取得すれば、すぐにこれらの機器を販売できるようになった。1年以上かかる保健医療研究院の新医療技術評価や、健康保険審査評価院の保険審査を省略できる。この規制緩和から、韓国では医療機器の中でも体外診断機器市場の急成長が見込まれている。

 韓国の携帯電話市場シェア首位のキャリア(通信事業者)であるSK Telecom社も、韓国の中小体外診断機器メーカーと提携し、話題となった。同社は中小企業とコンソーシアムを組んで、中国市場向けの体外診断機器と診断プラットフォームの開発を目指している。同社は韓国の通信事業者の中で、ヘルスケア事業に最も積極的だ。

 Samsung社とSK Telecom社は、医療産業のパラダイムが治療から予防へシフトしていることから、血液分析や血糖測定、遺伝子分析などの体外診断機器に注目している。韓国の保健福祉部は、体外診断機器の世界市場規模を2013年に50兆ウォン(約5.5億円)と推定しており、2020年には80兆ウォン(約8.8兆円)に伸びるとみている。体外診断機器の小型化と検査時間の短縮が進んでいることから、病院だけでなく救急車や保健所、家庭にも需要があるという。


By 趙章恩の「韓国スマートヘルスケア最前線」
日経デジタルヘルス
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「韓国スマートヘルスケア最前線」 医療観光に注力する韓国、2020年に50万人の誘致目指す

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韓国の仁川空港到着ロビーには、医療観光案内カウンターがある。韓国は国策事業の一つとして、海外の患者を韓国で治療する医療観光に力を入れている。米国や中国、ロシア、中央アジアの富裕層がターゲットで、心臓手術や整形手術、不妊治療などのために韓国を訪問する患者は年々増えている。

2011年は12万2297人

 韓国観光公社と文化体育観光部(部は省に当たる)は、2011年12月に韓国の医療観光推進戦略と実績をまとめた「韓国医療観光総覧」を発行した。この総覧によると、2011年に韓国で受診した外国人患者は12万2297人で、2010年の8万1789人に比べて49%増加した。内訳は、外来患者が9万5810人、健康検診患者が1万4542人、入院患者が1万1945人だった。

 国籍別には米国27.0%、日本22.1%、中国18.9%、ロシア9.5%、モンゴル3.2%の順だった。外国人が主に受診した診療科目は、内科15.3%、皮膚科・整形外科12.7%、家庭医学科8.7%、健康検診センター8.3%、産婦人科7.7%の順だった。

 海外から韓国に観光目的で入国する外国人は年間1000万人近いので、医療観光の12万2297人というのはまだ観光客のごく一部に過ぎない。2020年には外国人の医療観光として50万人の誘致を目標とする。

 韓国が国をあげて医療観光事業を拡大しようとするのは、医療は高付加価値産業で経済効果が大きいからである。医療観光客は一般的な観光客より滞在時間が長く、一人よりも家族が一緒に訪問するケースが多いため、治療費や滞在費として使う金額も大きいのが特徴だという。2011年の医療観光客による収入は3558億ウォン、2015年には1兆2740億ウォン、2020年には5兆5101億ウォンに達する見込みだという。

通訳やコーディネーターの雇用効果も

 医療観光活性化により、2011年は韓国を訪問する外国人患者の入国から出国まですべてをサポートする医療コーディネーターや通訳など6545人の雇用増加効果があった。医療観光後の継続的な患者ケアのため、韓国総合病院の海外進出も活発になり、生産誘発効果は1兆ウォンに及ぶと見込んでいる。大韓病院協会は、医療観光活性化のためには、全患者の5%までに制限されている総合病院の外国人患者数を10%に拡大する規制緩和が必要だと主張する。

 保健福祉部だけでなく韓国観光公社と文化体育観光部も、医療観光産業を育成するための支援を行っている。医療通訳や、医療観光コーディネーター養成のための教育プログラムを運営していて、教育費の6割を国家補助金で負担している。

観光資源に乏しい自治体の活性化にも

 医療観光は観光資源に乏しい自治体でも医療技術で観光客を誘致できることから、地域経済の活性化にもつながる。

 国土海洋部は、韓国の内陸地域の地域経済発展のため、休養型医療観光事業を企画している。内陸には高麗人参や薬草などを栽培する農家が多いので、韓国の伝統漢方である「韓方」を取り入れたヘルスケアで健康を維持し、ゆっくり休むヒーリングの旅を提案するというもの。外国人専用の医療観光バスを運航することで自治体間の移動を便利にし、内陸地域をすべて回れるようにした。韓国のドラマやK-POPが人気の東南アジアの国々を対象に宣伝活動をしている。韓国保健福祉部は、外国人患者誘致のために大邱、仁川、済州などの六つの自治体に10億ウォンの国費を支援している。

 仁川医療観光財団と仁川市の総合病院は、2013年5月1日に中国の労働節連休に合わせて仁川港と中国の天津港を往復する定期クルーズ便が就航することを記念し、「クルーズ医療観光」を企画した。クルーズは観光客2000人と乗務員700人が乗船できる5万トン・クラスの旅客船で、年間22回往復する。クルーズに乗って仁川港に到着する中国人観光客を対象に採血をする健康診断、X線CT装置やPET、MRIを利用した早期がん診断サービスなどを提供する。このクルーズ医療観光のために仁川市と中国のハイナングループは2012年12月にMOUを結んだ。

国際遠隔診療を導入

 韓国の自治体の中で最もヘルスケア産業に力を入れている大邱市では、大学病院が積極的に医療観光を誘致している。

 大邱市の医療機関で受診した外国人患者数は2009年の2816人、2010年の4493人から2011年には5494人と22.3%増加した。大邱市の場合は、2011年の世界陸上大会の影響で外国人観光客が増えたことで、自然に病院を訪問した外国人も増えたともみられるが、大邱市が世界陸上大会に参加する選手団や観光客を対象に積極的に医療観光をアピールしたことで、大邱市の医療機関を信頼して訪問したともいえる。大邱市は市内中心部に「医療観光総合案内所」を運営していて、日本語・中国語・ロシア語などで相談できるようになっている。

 大邱市にあるケミョン大学病院は2012年10月、カザフスタンにユビキタスヘルスケアセンターを設立した。医療観光で大邱市を訪問し、手術を受けた患者の事後ケアを遠隔診療で行うためである。「カザフスタンより医療レベルの高い韓国の病院で手術したいが、術後もちゃんと診療してもらえるかが心配」というカザフスタンの患者のために、国際遠隔診療を導入したのだ。

 カザフスタンには1996年にケミョン大学病院が支援して設立した総合病院があり、その中にユビキタスヘルスセンターを置いた。手術を担当した医者は同センターから送られてくるレントゲンやデータを見ながら、手術を受けた患者とテレビ電話で会話し、術後の健康状態を観察する。

 韓国保険産業振興院の調査によると、海外に進出した韓国の医療機関は、2011年に17カ国74センター、2012年に16カ国90センターある。保健福祉部は2013年に医療機関海外進出200センターを目標としている。

海外進出をサポート

 保健福祉部は2013年1月、医療機関の海外進出をサポートするグローバルヘルスケアファンドを造成し、海外進出プロジェクト受注と投資家募集を担当する専門会社を設立すると発表した。

 外国政府が発注するヘルスケア関連プロジェクトを保健福祉部の専門会社が受注し、韓国の医療機関を参加させる。医療機関が海外に進出するためには、現地の医療制度や医療法に沿って許可をもらわないといけないが、この手続きはとても複雑で時間もかかる。保健福祉部は、プロジェクトを通じて医療技術を認めてもらい、現地政府や企業が病院設立に投資し、韓国は技術と医療専門家を輸出する形で海外進出することを目指す。

 この取り組みのモデルとしているのは、オーストリアの医療機関である「VAMED」。同機関は、医療観光誘致を進める一方、世界各国でヘルスケア・プロジェクトを推進している。


By 趙章恩の「韓国スマートヘルスケア最前線」

日経デジタルヘルス

 2014年11月6

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「韓国スマートヘルスケア最前線」「ヘルスケアIT融合展示会」が開催、韓国の病院情報化やヘルスケアサービスを海外にアピール [2014年11月10日]

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2014年10月27~29日に、韓国・釜山で「ヘルスケアIT融合展示会」が開催された。韓国産業通商資源部(経済産業省に相当する省庁)と釜山市が主管したイベントで、医療とITの融合で新しいヘルスケアサービスを提供している韓国の大学病院や通信キャリアなど50社が展示に参加した。

 韓国産業通商資源部は2013年11月に「ヘルスケア新市場創出戦略」を発表、韓国企業の新規ヘルスケアサービス研究開発や海外進出を支援している。2014年からはウエアラブルデバイスを「産業エンジンプロジェクト」に指定し、今後10年間集中投資することにした。そのため韓国産業通商資源部は毎年3月にソウルで行われている医療機器展示会とは別に、医療とITを組み合わせた展示会を開催することにした。

 今回の展示会はITU全権委員会議(International Telecommunication Union Plenipotentiary Conference 2014)の一環として開催、韓国の病院情報化やヘルスケアサービスを海外の政府関係者やバイヤーに紹介する目的が強かった。

 ITUは無線通信と電気通信分野の国際協力、標準化と規制確立を目的とする国際機構で198カ国が参加している。4年に一度行われるITU全権委員会議は情報通信分野でもっとも権威のある国際会議であり、2014年は10月20日から11月7日まで釜山で開催された。釜山にはITU参加国198カ国の中のうち193カ国の政府代表者約3000人が集まった。

 韓国産業通商資源部は、「ヘルスケア産業は病院、医療機器、情報通信、サービス産業など多様な産業が融合する分野だけに経済への波及力が大きい。韓国のヘルスケア企業は高い技術力を持っていながらも知名度が低く海外進出が難しかったため、展示会を開催することになった」と説明した。


展示会場のファッションショーに登場したウエアラブルデバイス「Heolthon Shine」。専用のアプリケーションを使うと1日の行動を記録できて、腕時計としても使える。キャリアのSK Telecom社とソウル大学病院のジョイントベンチャーであるヘルスコネクト社が販売している。(写真:SK Telecom社)
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3つのコーナーに分けて展示

 ヘルスケアIT融合展示会は、「病院情報館」、「ユビキタスヘルスケア館」、「ウェルネス館」の3つのコーナーに分けて病院向け情報システムやヘルスケアサービス、ウエアラブルデバイスを展示した

 キャリアのSK Telecom社とヘルスケアビジネスのためにジョイントベンチャーを設立したソウル大学病院や開催地釜山を代表する釜山大学病院は、病院内で使っている遠隔診療や情報システム、検査結果・処方などを紙ではなく電子データでやりとりする様子などを展示した。

 家庭で各種センサーを使ったヘルスケアサービスを利用すると何がいいのかを演劇にして見せるコーナーもあった。これは釜山地域の大学生が参加した演劇で、海外のバイヤー向けに韓国ベンチャー企業のウエアラブルデバイスとセンサー、アプリケーションなどの使い方と効果などをエピソード交じりで面白くわかりやすく演じた。

 釜山地域のミスコンテスト出身美女を集めたウエアラブルデバイスファションショーなる催しもあった。韓国の大手からベンチャーに至るまで各社が発売しているウエアラブルデバイスとスポーツウェアを組み合わせたファッションショーだった。一般の参観者向けの健康相談コーナーやウエアラブルデバイス体験コーナーもあった。

 展示会場ではKOTRA(大韓貿易投資振興公社)の主催で輸出商談会が行われた。病院情報化やヘルスケアサービス導入を検討しているオマーン王立病院と保険省、タイの国立健康管理公団、スリランカでもっとも大きい民営病院であるナワロカ病院、チェコのe-Healthセンターなど中東・ヨーロッパ・アジアから44機関が参加し、韓国のベンチャーや中小企業68社が自社の技術とサービスを売り込んだ。この日現場で契約成立となったのが61万米ドル、契約見込みは210万米ドルに及んだ。



By 趙章恩の「韓国スマートヘルスケア最前線」
日経デジタルヘルス
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「韓国スマートヘルスケア最前線」 Samsungの医療機器事業、救急医療分野への特化を打ち出す [2014年11月05日]

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韓国Samsung Electronic社は今、注力事業として掲げる医療機器事業の中でも、救急医療分野に特化する姿勢を打ち出し始めた。同社 医療機器事業部のチョ・スイン社長は2014年9月に韓国で行われた講演で、「インターネットにつながり持ち運びできる救急医療分野に特化したい」と語った。

 先進国で使われている高度な医療機器の分野では、既に米GE Healthcare社、ドイツSiemens社、オランダRoyal Philips社が市場シェアを確保している。一方で、新興国では中国の医療機器メーカーの存在感が高い。

 こうした状況に対してチョ・スイン社長は、「(韓国の医療機器メーカーは)世界の先進企業に追い付く前に中国企業に追いかけられ、世界市場で居場所がなくなるかもしれない。韓国の医療機器産業の発展は遅れているが、我々が持っている技術を応用すれば、他の国にはない医療機器を作れる」と発言。伝統的な医療機器よりも、ディプレイやネットワーク技術を生かした救急医療機器で勝負するとした。

Samsung Electronics社の新しいレントゲン装置「GM60A」
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スコットランドの救急車に採用

 救急医療分野に関してSamsung Electronics社は、救急車の中で超音波検査をし、その映像を医師に送信できる移動型超音波検査器や移動型X線CT(コンピューター断層撮影)装置、救急車の中で血液検査をして医師にデータを送信できる移動型血液検査器を持っている。このうち移動型血液検査器は、スコットランドの救急車に採用され、急患を助ける時間と費用を節約できることが立証された。

 さらに、Samsung Electronics社の新しいレントゲン装置「GM60A」は、患者がレントゲン室に行って撮影するのではなく、レントゲンを病室や手術室に持って行って撮影できるようにした。レントゲンの映像品質はそのまま、持ち運びできる移動性を追加したことで急患を助けるのに役立つと見られる。

 最近では韓国でも、試験的に救急隊員に「Google Glass」を装着させている。病院にいる医師に患者の映像を送信して、より早く適切な処置を採るためだ。韓国では病院側も積極的に新しい技術を取り入れようとしている。

 ITなど新たなテクノロジーと医療を融合したヘルスケアや医療機器市場は急成長すると話題にはなっているものの、Samsung Electronics社をはじめとする韓国勢はまだこれといった実績を残していない。救急医療分野への注力は、その突破口を探ろうとする動きの一つと言えそうだ。


By 趙章恩の「韓国スマートヘルスケア最前線」

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http://techon.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20141104/386539/?ST=ndh

「韓国スマートヘルスケア最前線」 SamsungとFacebookが「ヘルスケア」で急接近 [2014年10月24日]

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韓国のヘルスケア業界では最近、Samsung Electronics社と米Facebook社の急接近が話題になっている。

 2014年10月14~15日、Facebook社 CEOのMark Zuckerberg氏と同社役員約40人が、Samsung Electronics社本社を訪問した。韓国メディアは、Samsung Electronics社とFacebook社の経営陣の会合はこれが3度目で、経営トップ同士で事業提携について話し合いをしたと報道した。

仮想現実とヘルスケアの組み合わせも

 Samsung Electronics社とFacebook社が提携を検討している分野は、スマートフォン、モバイル広告、仮想現実、そしてヘルスケアだとみられる。Samsung Electronics社もFacebook社もヘルスケアに関心を寄せていることから、韓国ではSamsung Electronics社の端末とFacebook社のプラットフォームを組み合わせた新しいヘルスケアサービスを始めるのではないかとの見方が出ている。

 Samsung Electronics社は、Facebook社が買収した米Oculus VR社と提携し、2014年9月にヘッドマウントディスプレイ「GEAR VR」を公開している。このため、仮想現実とヘルスケアの組み合わせも考えているのではないかと予測する声もある。


個別投資か連携か

 Facebook社もSamsung Electronics社も、ここにきてヘルスケア関連の取り組みが目立ち始めてきた。

 例えば、Facebook社は2014年4月、歩いたり走ったりといった1日の行動を自動で記録するアプリ「Moves」を開発したフィンランドProtoGeo社を買収した。海外メディアは、Facebook社がProtoGeo社を買収したのはヘルスケア市場に進出するためであり、FacebookというSNSプラットフォームとMovesを使って、患者をサポートするサービスを構想していると報道した。同じ疾患を持つ患者同士をFacebook上でつなげ、生活習慣を改善するアドバイスを提供し、ユーザー同士が運動や食事などの情報を共有することで闘病をサポートするサービスである。

 Samsung Electronics社は、同社のスマートフォンの新機種「GALAXY NOTE4」にヘルスケア機能を追加して話題になった。2014年9月に公開した同機種は、心拍測定センサー、血中酸素飽和度計、紫外線測定センサーなどが搭載されていて、本格的なヘルスケアスマートフォンとして注目を浴びている。これらの機能はウエアラブル端末の「GEAR S」にも搭載する予定だという。スマートフォンとウエアラブル端末を連動したヘルスケアサービス「S Health」についても拡大を図っている。

 高齢化の進行により、健康で長生きすることが、全世界共通の関心事になってきた。Samsung Electronics社もFacebook社も、ヘルスケアをきっかけに新たなユーザーの獲得を狙っているのは間違いない。既に世界のヘルスケア市場では、米Google社や米Apple社などが先行して取り組みを進めている。こうした中、今回のSamsung Electronics社とFacebook社の動きからは、それぞれ個別にヘルスケアに投資するよりも、連携して先行陣営に対抗しようとする意図が垣間見える。



By 趙章恩の「韓国スマートヘルスケア最前線」
日経デジタルヘルス

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「韓国スマートヘルスケア最前線」病院が主導する医療機器開発へ、韓国政府が5年間で約16.5億円投資 [2014年10月08日]

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韓国の経済産業省ともいえる産業通商資源部は2014年9月25日、首都圏にある3つの大学病院(分唐ソウル大学病院、高麗大学安岩病院、カトリック大学聖母病院)を「医療機器事業化研究開発病院」に指定、2014年から5年間で150億ウォン(約16.5億円)を投資すると発表した。

 産業通商資源部は医療機器を国家重点戦略技術の一つに指定し、2013年から投資を惜しまないでいる。韓国政府の科学技術審議会は、「国家重点戦略技術とは、景気復興と国民の生活の質を向上するために国レベルで戦略的に確保する必要がある技術で、重点投資が必要な技術」と定義している。産業通商資源部は、医療機器の中でも特に3つの分野、すなわち(1)人体映像機器技術、(2)健康管理サービス技術、(3)疾病診断バイオチップ技術、に投資する考えだ。

Samsung以外の企業は難しい状況に

 医療機器の開発には企業と病院の協力が欠かせない。Samsung Electronics社は傘下にサムスン病院や、医学部があるソンギュングァン大学を持っているため、企業と病院の共同研究が比較的容易であるが、その他の企業にとっては病院と緊密な関係を築くのはとても難しいという。

 産業通商資源部は、「韓国の医療機器メーカーは中小企業が多い。中小企業が個別に医師や病院と接点を作り、臨床試験までつなげるのは大変難しいため、以前から企業と病院をつなげる場を作ってほしいという医療機器業界の要望があった」と説明する。そのため、産業通商資源部は、医療機器の研究開発初期段階から臨床試験、製品化、販売に至るまで企業と大学病院が緊密に協力できるように指定したのが、今回の「医療機器事業化研究開発病院」というわけだ。

異なる専門分野を持つ3つの大学病院

 医療機器を開発している企業は、専門分野に応じてそれぞれの病院に研究開発参加申請書を提出、病院に協力してもらいながら研究開発から製品化、認許可、生産、マーケティングを行う。指定病院は、臨床の視点から「こんな医療機器があったらいいのに」というアイデア、医療機器を研究開発できるインフラ、臨床試験、企業が開発した医療機器を実際に使ってみて評価しフィードバックするコンサルティングの役割を担う。企業と病院が研究開発に必要な設備を共有するという面でもシナジー効果が得られそうだ。

 3つの指定大学病院は、以前から医療機器の研究開発に積極的な姿勢を見せていた病院で、それぞれ専門分野がある。分唐ソウル大学病院は人体映像機器技術として放射線・非電離放射線機器を専門とする。高麗大学安岩病院は健康管理サービス技術として超音波や内視鏡といった生体現象測定機器、カトリック大学聖母病院は疾病診断バイオチップ技術として血液分析機器といった体外診断用機器を専門としている。

 指定大学病院は企業と協力するため、2014年9月25日から病院内に「病院・企業常時協力研究開発室」を新たに設け、企業が病院内で一緒に共同研究できる場所を提供している。同研究室には医師、研究開発経験の豊富な博士クラスの研究員、臨床工学技士、臨床検査技師、研究行政業務をサポートする職員などが常駐し、共同研究を依頼した企業ごとにチームを組んで研究を進める。同年9月から2015年の2月まで同研究室の準備を整え、2015年3月から本格的に研究に着手する計画だ。

診療中心からの脱却へ

 分唐ソウル大学病院は韓国の東大病院のような存在で、2012年3月から院内に臨床試験や研究実験を行う組織をまとめた「医生命研究院」を運営している。この中に医療機器臨床試験組織があり、委託研究を行っていた。

 高麗大学安岩病院は2014年7月、病院としては初めて医療機器と製薬・バイオ産業のベンチャーに投資する「医療技術持株会社」を設立した。同病院は、「研究だけで終わらず、医療技術を商用化できる病院にするのが目標」、「医療機器開発で病院の収益を増やし、利益を研究に再投資する」と説明した。

 病院とキャリアが合弁会社を設立してヘルスケアサービスを提供した事例はいくつもあるが、大学病院が自ら医療技術持株会社を設立したのはこれが初めて。高麗大学病院は首都圏に3カ所あるが、その中でも高麗大学から最も近い安岩病院は、高麗大学の理工学部と連携し、学生の医療機器開発ベンチャー起業も支援している。高麗大学安岩病は、産・学・病院の連携でベンチャーを育成する大規模な「メディカルベンチャークラスター」の形成も推進している。

 カトリック大学聖母病院も2014年1月から病院内に「先端融合・複合医療機器研究院」を、同年6月には「医療機器開発センター」をオープンし、医療機器の研究開発に力を入れてきた。同センターでは、医療関係者が必要とする医療機器を開発することを目標に、医療現場からの提案をまとめて企業と共同開発するといった、医療機器の完成度を高めるための病院―企業間の緊密な協力関係構築を進めている。

 診療中心だった韓国の大学病院が収益拡大のため医療機器開発にも関心を持ち始めていることから、今後は病院が主導する医療機器開発も増えそうだ。産業通商資源部は、病院と企業が常時共同研究できる環境を作ることで医療機器開発の試行錯誤を減らし、韓国ならではのICT融合医療機器の開発促進を期待している。


By 趙章恩の「韓国スマートヘルスケア最前線」
日経デジタルヘルス

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iPhone 6発売まで待てない!ネット経由で海外から買い求める韓国ユーザー [2014年9月26日]

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 iPhone 6を求めて中国人が団体で日本のアップルストアやキャリアの代理店に並び、早速中国内で数倍の値段で転売されていることが日本で話題になっているが、韓国でも似たようなことが起きている。

 iPhone 6と同Plusの韓国発売日はいまだに決まっていない。韓国メディアによると、米国や日本など先に発売した国で予約が殺到していることから、iPhoneのシェアが小さい韓国はさらに後回しになり、発売が12月以降になる可能性もあるとしている。

 正式発売まで待てない韓国ユーザーは、ネットを経由して海外のアップルストアにiPhone 6/6 Plusを注文し始めた。本人が直接ネットから海外のアップルストアに注文すると、海外配送料だけ負担すればいいので、海外まで行って買ったり、「購入代行」を利用したりするより断然安い。

 「購入代行」は、文字通り海外のアップルストアで「買ってきてもらう」ということ。これは手数料が上乗せされる。海外のアップルストアで購入したiPhone 6 SIMフリー16GBが約100万~138万ウォン(約11万~15万円)、iPhone 6 Plusの16GBが約135万~180万ウォン(約15万~20万円)で取引されている。韓国で人気のカラーはゴールドで、同じモデルでもゴールドは手数料が高くなっている。

 日本での販売価格は、同じモデルがそれぞれ6万7800円 (税別)、7万9800円 (同)である。日本よりほぼ2倍の値段が付けられたが、それでもあっという間に予約が完了した。今では買いたくても買えない状態になってしまっている。




iPhone 6とiPhone 6 Plusを海外のアップルストアで購入代行してくれる
業者のサイト


 一部のインターネットショッピングサイトでは、米国から直送し、手数料なしで、米国での定価に海外配送料と米国内の消費税だけを上乗せしたiPhone 6 Plusを目玉商品として発売した。ただし米国でもiPhone 6 Plusを手に入れるのが難しくなっているため、定価で買えるのは先着20人だけ。しかも、1カ月待ちという条件が付けられた。それでもiPhone 6 Plusを買えるというだけでサイトは話題になり、宣伝効果はバツグンだった。





趙 章恩=(ITジャーナリスト)

 

日経パソコン

 

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スマートウォッチ競争の決め手はデザイン? アップル、サムスン、LGが続々と新製品 [2014年9月22日]

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米アップルが「Apple Watch」を公開してから、韓国ではついに本格的なスマートウォッチ競争が始まったとして、サムスン電子とLGエレクトロニクスのスマートウォッチも今まで以上に注目を浴びている。両社は、9月上旬にドイツで開催された国際コンシューマーエレクトロニクスショー「IFA 2014」に合わせてスマートウォッチの新作「Gear S」と「G Watch R」をそれぞれ公開した。

 Apple Watchは3つのモデルがある。基本モデルのほかにフィットネス機能のあるスポーツモデル、18金を使ったラグジュアリーモデルと、ウォッチの材質や使う目的に応じて選択できるようにしている。Apple Watchの外見は端末というより時計に近い。男性用、女性用があるのも特徴だ。既存のウォッチが抱える「バッテリーの持ちが悪い」「毎日充電しないといけないので面倒」という課題はアップルも解決できなかったが、決済機能が付いているのはとても魅力的だ。

 サムスン電子とLGエレクトロニクスも、スマートウォッチの新作「Gear S」と「G Watch R」をファッションアイテムの一部として位置付けようとしている。スマートウォッチはウエアラブルデバイスというよりも時計に近いおしゃれなデザインに変わりつつある。

サムスン電子の新しいスマートウォッチ「Gear S」

 

サムスン電子は、9月4日から9月11日まで開催されたニューヨークファッションウイークのスポンサーになった。ファッションブランドDIESEL BLACK GOLDのショーでは、モデルがGear Sの DIESELコラボモデルを腕に着けて登場した。


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趙 章恩=(ITジャーナリスト)

 

日経パソコン

 

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「iPhone 6は革新がない」と韓国メディアは酷評、ユーザーは「価格次第でGALAXYから乗り換える」と期待 [2014年9月12日]

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米アップルの新しいスマートフォン「iPhone 6」と「iPhone 6 Plus」は、韓国でも大きなニュースになっている。韓国のキャリア3社が推定する韓国のスマートフォンシェアでは、サムスン電子の「GALAXY」シリーズが70%以上、iPhoneはせいぜい5%前後と見られている。シェアが低いせいか、韓国での発売日はiPhone 6が10月末以降、iPhone 6 Plusが12月以降となりそうだ。

 韓国ではこれまで、SKテレコムとKTのキャリア2社がiPhoneを販売していたが、iPhone 6からはLGユープラスも加わり、全3社がiPhoneを販売する。キャリア3社のiPhone 6販売競争によって、韓国内のiPhoneシェアが拡大する可能性がある。

 韓国メディアは「iPhone 6には革新がない、仕様を比べるとサムスン電子が9月3日に公開した『GALAXY Note 4』の方が圧倒的に良い」「スマートフォン市場をリードしていたアップルが、今はGALAXYに似た端末を作るようになった。ユーザーを驚かせるポイントがない」「海外でもiPhone 6にがっかりしたという反応を見せている」など、酷評する記事の方が多い。しかし韓国のユーザーは「画面が大きくて薄いのがいい」と期待を寄せているようだ。








韓国サムスン電子の「GALAXY Note 4」


 韓国ユーザーがiPhoneを選択しない理由として、最もよく言われたのが「画面が小さくて不便」という点だった。日本では「画面が大きすぎず、片手で使えるスマートフォンがいい」という意見もあるようだが、韓国のユーザーはiPhone史上もっとも薄くて大きいスマートフォンというだけで「iPhoneに乗り換えるチャンスが来た」と期待している。

 Androidに飽きたのか、新OSの「iOS 8」が使いたくてiPhone 6に買い替えたいという意見も多かった。




4.7インチの「iPhone 6」(左)と5.5インチの「iPhone 6 Plus」(右)
(撮影:磯修)








趙 章恩=(ITジャーナリスト)

 

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