「韓国スマートヘルスケア最前線」 Samsungの医療機器事業、救急医療分野への特化を打ち出す [2014年11月05日]

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韓国Samsung Electronic社は今、注力事業として掲げる医療機器事業の中でも、救急医療分野に特化する姿勢を打ち出し始めた。同社 医療機器事業部のチョ・スイン社長は2014年9月に韓国で行われた講演で、「インターネットにつながり持ち運びできる救急医療分野に特化したい」と語った。

 先進国で使われている高度な医療機器の分野では、既に米GE Healthcare社、ドイツSiemens社、オランダRoyal Philips社が市場シェアを確保している。一方で、新興国では中国の医療機器メーカーの存在感が高い。

 こうした状況に対してチョ・スイン社長は、「(韓国の医療機器メーカーは)世界の先進企業に追い付く前に中国企業に追いかけられ、世界市場で居場所がなくなるかもしれない。韓国の医療機器産業の発展は遅れているが、我々が持っている技術を応用すれば、他の国にはない医療機器を作れる」と発言。伝統的な医療機器よりも、ディプレイやネットワーク技術を生かした救急医療機器で勝負するとした。

Samsung Electronics社の新しいレントゲン装置「GM60A」
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スコットランドの救急車に採用

 救急医療分野に関してSamsung Electronics社は、救急車の中で超音波検査をし、その映像を医師に送信できる移動型超音波検査器や移動型X線CT(コンピューター断層撮影)装置、救急車の中で血液検査をして医師にデータを送信できる移動型血液検査器を持っている。このうち移動型血液検査器は、スコットランドの救急車に採用され、急患を助ける時間と費用を節約できることが立証された。

 さらに、Samsung Electronics社の新しいレントゲン装置「GM60A」は、患者がレントゲン室に行って撮影するのではなく、レントゲンを病室や手術室に持って行って撮影できるようにした。レントゲンの映像品質はそのまま、持ち運びできる移動性を追加したことで急患を助けるのに役立つと見られる。

 最近では韓国でも、試験的に救急隊員に「Google Glass」を装着させている。病院にいる医師に患者の映像を送信して、より早く適切な処置を採るためだ。韓国では病院側も積極的に新しい技術を取り入れようとしている。

 ITなど新たなテクノロジーと医療を融合したヘルスケアや医療機器市場は急成長すると話題にはなっているものの、Samsung Electronics社をはじめとする韓国勢はまだこれといった実績を残していない。救急医療分野への注力は、その突破口を探ろうとする動きの一つと言えそうだ。


By 趙章恩の「韓国スマートヘルスケア最前線」

日経デジタルヘルス
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http://techon.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20141104/386539/?ST=ndh

「韓国スマートヘルスケア最前線」 SamsungとFacebookが「ヘルスケア」で急接近 [2014年10月24日]

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韓国のヘルスケア業界では最近、Samsung Electronics社と米Facebook社の急接近が話題になっている。

 2014年10月14~15日、Facebook社 CEOのMark Zuckerberg氏と同社役員約40人が、Samsung Electronics社本社を訪問した。韓国メディアは、Samsung Electronics社とFacebook社の経営陣の会合はこれが3度目で、経営トップ同士で事業提携について話し合いをしたと報道した。

仮想現実とヘルスケアの組み合わせも

 Samsung Electronics社とFacebook社が提携を検討している分野は、スマートフォン、モバイル広告、仮想現実、そしてヘルスケアだとみられる。Samsung Electronics社もFacebook社もヘルスケアに関心を寄せていることから、韓国ではSamsung Electronics社の端末とFacebook社のプラットフォームを組み合わせた新しいヘルスケアサービスを始めるのではないかとの見方が出ている。

 Samsung Electronics社は、Facebook社が買収した米Oculus VR社と提携し、2014年9月にヘッドマウントディスプレイ「GEAR VR」を公開している。このため、仮想現実とヘルスケアの組み合わせも考えているのではないかと予測する声もある。


個別投資か連携か

 Facebook社もSamsung Electronics社も、ここにきてヘルスケア関連の取り組みが目立ち始めてきた。

 例えば、Facebook社は2014年4月、歩いたり走ったりといった1日の行動を自動で記録するアプリ「Moves」を開発したフィンランドProtoGeo社を買収した。海外メディアは、Facebook社がProtoGeo社を買収したのはヘルスケア市場に進出するためであり、FacebookというSNSプラットフォームとMovesを使って、患者をサポートするサービスを構想していると報道した。同じ疾患を持つ患者同士をFacebook上でつなげ、生活習慣を改善するアドバイスを提供し、ユーザー同士が運動や食事などの情報を共有することで闘病をサポートするサービスである。

 Samsung Electronics社は、同社のスマートフォンの新機種「GALAXY NOTE4」にヘルスケア機能を追加して話題になった。2014年9月に公開した同機種は、心拍測定センサー、血中酸素飽和度計、紫外線測定センサーなどが搭載されていて、本格的なヘルスケアスマートフォンとして注目を浴びている。これらの機能はウエアラブル端末の「GEAR S」にも搭載する予定だという。スマートフォンとウエアラブル端末を連動したヘルスケアサービス「S Health」についても拡大を図っている。

 高齢化の進行により、健康で長生きすることが、全世界共通の関心事になってきた。Samsung Electronics社もFacebook社も、ヘルスケアをきっかけに新たなユーザーの獲得を狙っているのは間違いない。既に世界のヘルスケア市場では、米Google社や米Apple社などが先行して取り組みを進めている。こうした中、今回のSamsung Electronics社とFacebook社の動きからは、それぞれ個別にヘルスケアに投資するよりも、連携して先行陣営に対抗しようとする意図が垣間見える。



By 趙章恩の「韓国スマートヘルスケア最前線」
日経デジタルヘルス

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「韓国スマートヘルスケア最前線」病院が主導する医療機器開発へ、韓国政府が5年間で約16.5億円投資 [2014年10月08日]

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韓国の経済産業省ともいえる産業通商資源部は2014年9月25日、首都圏にある3つの大学病院(分唐ソウル大学病院、高麗大学安岩病院、カトリック大学聖母病院)を「医療機器事業化研究開発病院」に指定、2014年から5年間で150億ウォン(約16.5億円)を投資すると発表した。

 産業通商資源部は医療機器を国家重点戦略技術の一つに指定し、2013年から投資を惜しまないでいる。韓国政府の科学技術審議会は、「国家重点戦略技術とは、景気復興と国民の生活の質を向上するために国レベルで戦略的に確保する必要がある技術で、重点投資が必要な技術」と定義している。産業通商資源部は、医療機器の中でも特に3つの分野、すなわち(1)人体映像機器技術、(2)健康管理サービス技術、(3)疾病診断バイオチップ技術、に投資する考えだ。

Samsung以外の企業は難しい状況に

 医療機器の開発には企業と病院の協力が欠かせない。Samsung Electronics社は傘下にサムスン病院や、医学部があるソンギュングァン大学を持っているため、企業と病院の共同研究が比較的容易であるが、その他の企業にとっては病院と緊密な関係を築くのはとても難しいという。

 産業通商資源部は、「韓国の医療機器メーカーは中小企業が多い。中小企業が個別に医師や病院と接点を作り、臨床試験までつなげるのは大変難しいため、以前から企業と病院をつなげる場を作ってほしいという医療機器業界の要望があった」と説明する。そのため、産業通商資源部は、医療機器の研究開発初期段階から臨床試験、製品化、販売に至るまで企業と大学病院が緊密に協力できるように指定したのが、今回の「医療機器事業化研究開発病院」というわけだ。

異なる専門分野を持つ3つの大学病院

 医療機器を開発している企業は、専門分野に応じてそれぞれの病院に研究開発参加申請書を提出、病院に協力してもらいながら研究開発から製品化、認許可、生産、マーケティングを行う。指定病院は、臨床の視点から「こんな医療機器があったらいいのに」というアイデア、医療機器を研究開発できるインフラ、臨床試験、企業が開発した医療機器を実際に使ってみて評価しフィードバックするコンサルティングの役割を担う。企業と病院が研究開発に必要な設備を共有するという面でもシナジー効果が得られそうだ。

 3つの指定大学病院は、以前から医療機器の研究開発に積極的な姿勢を見せていた病院で、それぞれ専門分野がある。分唐ソウル大学病院は人体映像機器技術として放射線・非電離放射線機器を専門とする。高麗大学安岩病院は健康管理サービス技術として超音波や内視鏡といった生体現象測定機器、カトリック大学聖母病院は疾病診断バイオチップ技術として血液分析機器といった体外診断用機器を専門としている。

 指定大学病院は企業と協力するため、2014年9月25日から病院内に「病院・企業常時協力研究開発室」を新たに設け、企業が病院内で一緒に共同研究できる場所を提供している。同研究室には医師、研究開発経験の豊富な博士クラスの研究員、臨床工学技士、臨床検査技師、研究行政業務をサポートする職員などが常駐し、共同研究を依頼した企業ごとにチームを組んで研究を進める。同年9月から2015年の2月まで同研究室の準備を整え、2015年3月から本格的に研究に着手する計画だ。

診療中心からの脱却へ

 分唐ソウル大学病院は韓国の東大病院のような存在で、2012年3月から院内に臨床試験や研究実験を行う組織をまとめた「医生命研究院」を運営している。この中に医療機器臨床試験組織があり、委託研究を行っていた。

 高麗大学安岩病院は2014年7月、病院としては初めて医療機器と製薬・バイオ産業のベンチャーに投資する「医療技術持株会社」を設立した。同病院は、「研究だけで終わらず、医療技術を商用化できる病院にするのが目標」、「医療機器開発で病院の収益を増やし、利益を研究に再投資する」と説明した。

 病院とキャリアが合弁会社を設立してヘルスケアサービスを提供した事例はいくつもあるが、大学病院が自ら医療技術持株会社を設立したのはこれが初めて。高麗大学病院は首都圏に3カ所あるが、その中でも高麗大学から最も近い安岩病院は、高麗大学の理工学部と連携し、学生の医療機器開発ベンチャー起業も支援している。高麗大学安岩病は、産・学・病院の連携でベンチャーを育成する大規模な「メディカルベンチャークラスター」の形成も推進している。

 カトリック大学聖母病院も2014年1月から病院内に「先端融合・複合医療機器研究院」を、同年6月には「医療機器開発センター」をオープンし、医療機器の研究開発に力を入れてきた。同センターでは、医療関係者が必要とする医療機器を開発することを目標に、医療現場からの提案をまとめて企業と共同開発するといった、医療機器の完成度を高めるための病院―企業間の緊密な協力関係構築を進めている。

 診療中心だった韓国の大学病院が収益拡大のため医療機器開発にも関心を持ち始めていることから、今後は病院が主導する医療機器開発も増えそうだ。産業通商資源部は、病院と企業が常時共同研究できる環境を作ることで医療機器開発の試行錯誤を減らし、韓国ならではのICT融合医療機器の開発促進を期待している。


By 趙章恩の「韓国スマートヘルスケア最前線」
日経デジタルヘルス

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iPhone 6発売まで待てない!ネット経由で海外から買い求める韓国ユーザー [2014年9月26日]

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 iPhone 6を求めて中国人が団体で日本のアップルストアやキャリアの代理店に並び、早速中国内で数倍の値段で転売されていることが日本で話題になっているが、韓国でも似たようなことが起きている。

 iPhone 6と同Plusの韓国発売日はいまだに決まっていない。韓国メディアによると、米国や日本など先に発売した国で予約が殺到していることから、iPhoneのシェアが小さい韓国はさらに後回しになり、発売が12月以降になる可能性もあるとしている。

 正式発売まで待てない韓国ユーザーは、ネットを経由して海外のアップルストアにiPhone 6/6 Plusを注文し始めた。本人が直接ネットから海外のアップルストアに注文すると、海外配送料だけ負担すればいいので、海外まで行って買ったり、「購入代行」を利用したりするより断然安い。

 「購入代行」は、文字通り海外のアップルストアで「買ってきてもらう」ということ。これは手数料が上乗せされる。海外のアップルストアで購入したiPhone 6 SIMフリー16GBが約100万~138万ウォン(約11万~15万円)、iPhone 6 Plusの16GBが約135万~180万ウォン(約15万~20万円)で取引されている。韓国で人気のカラーはゴールドで、同じモデルでもゴールドは手数料が高くなっている。

 日本での販売価格は、同じモデルがそれぞれ6万7800円 (税別)、7万9800円 (同)である。日本よりほぼ2倍の値段が付けられたが、それでもあっという間に予約が完了した。今では買いたくても買えない状態になってしまっている。




iPhone 6とiPhone 6 Plusを海外のアップルストアで購入代行してくれる
業者のサイト


 一部のインターネットショッピングサイトでは、米国から直送し、手数料なしで、米国での定価に海外配送料と米国内の消費税だけを上乗せしたiPhone 6 Plusを目玉商品として発売した。ただし米国でもiPhone 6 Plusを手に入れるのが難しくなっているため、定価で買えるのは先着20人だけ。しかも、1カ月待ちという条件が付けられた。それでもiPhone 6 Plusを買えるというだけでサイトは話題になり、宣伝効果はバツグンだった。





趙 章恩=(ITジャーナリスト)

 

日経パソコン

 

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スマートウォッチ競争の決め手はデザイン? アップル、サムスン、LGが続々と新製品 [2014年9月22日]

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米アップルが「Apple Watch」を公開してから、韓国ではついに本格的なスマートウォッチ競争が始まったとして、サムスン電子とLGエレクトロニクスのスマートウォッチも今まで以上に注目を浴びている。両社は、9月上旬にドイツで開催された国際コンシューマーエレクトロニクスショー「IFA 2014」に合わせてスマートウォッチの新作「Gear S」と「G Watch R」をそれぞれ公開した。

 Apple Watchは3つのモデルがある。基本モデルのほかにフィットネス機能のあるスポーツモデル、18金を使ったラグジュアリーモデルと、ウォッチの材質や使う目的に応じて選択できるようにしている。Apple Watchの外見は端末というより時計に近い。男性用、女性用があるのも特徴だ。既存のウォッチが抱える「バッテリーの持ちが悪い」「毎日充電しないといけないので面倒」という課題はアップルも解決できなかったが、決済機能が付いているのはとても魅力的だ。

 サムスン電子とLGエレクトロニクスも、スマートウォッチの新作「Gear S」と「G Watch R」をファッションアイテムの一部として位置付けようとしている。スマートウォッチはウエアラブルデバイスというよりも時計に近いおしゃれなデザインに変わりつつある。

サムスン電子の新しいスマートウォッチ「Gear S」

 

サムスン電子は、9月4日から9月11日まで開催されたニューヨークファッションウイークのスポンサーになった。ファッションブランドDIESEL BLACK GOLDのショーでは、モデルがGear Sの DIESELコラボモデルを腕に着けて登場した。


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趙 章恩=(ITジャーナリスト)

 

日経パソコン

 

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「iPhone 6は革新がない」と韓国メディアは酷評、ユーザーは「価格次第でGALAXYから乗り換える」と期待 [2014年9月12日]

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米アップルの新しいスマートフォン「iPhone 6」と「iPhone 6 Plus」は、韓国でも大きなニュースになっている。韓国のキャリア3社が推定する韓国のスマートフォンシェアでは、サムスン電子の「GALAXY」シリーズが70%以上、iPhoneはせいぜい5%前後と見られている。シェアが低いせいか、韓国での発売日はiPhone 6が10月末以降、iPhone 6 Plusが12月以降となりそうだ。

 韓国ではこれまで、SKテレコムとKTのキャリア2社がiPhoneを販売していたが、iPhone 6からはLGユープラスも加わり、全3社がiPhoneを販売する。キャリア3社のiPhone 6販売競争によって、韓国内のiPhoneシェアが拡大する可能性がある。

 韓国メディアは「iPhone 6には革新がない、仕様を比べるとサムスン電子が9月3日に公開した『GALAXY Note 4』の方が圧倒的に良い」「スマートフォン市場をリードしていたアップルが、今はGALAXYに似た端末を作るようになった。ユーザーを驚かせるポイントがない」「海外でもiPhone 6にがっかりしたという反応を見せている」など、酷評する記事の方が多い。しかし韓国のユーザーは「画面が大きくて薄いのがいい」と期待を寄せているようだ。








韓国サムスン電子の「GALAXY Note 4」


 韓国ユーザーがiPhoneを選択しない理由として、最もよく言われたのが「画面が小さくて不便」という点だった。日本では「画面が大きすぎず、片手で使えるスマートフォンがいい」という意見もあるようだが、韓国のユーザーはiPhone史上もっとも薄くて大きいスマートフォンというだけで「iPhoneに乗り換えるチャンスが来た」と期待している。

 Androidに飽きたのか、新OSの「iOS 8」が使いたくてiPhone 6に買い替えたいという意見も多かった。




4.7インチの「iPhone 6」(左)と5.5インチの「iPhone 6 Plus」(右)
(撮影:磯修)








趙 章恩=(ITジャーナリスト)

 

日経パソコン

 

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グーグルがアジア初の起業家支援センター「Campus Seoul」をオープン [2014年9月5日]

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2014年8月27日、米グーグルは韓国ソウルに「Campus Seoul」をオープンすることを明らかにした

 「Campus」はグーグルがスタートアップを支援するための施設で、起業家が集まって学んで交流し、企業を立ち上げてビジネスできるよう助けることを目的としている。「Campus Seoul」の場所はCOEX展示場(ホテル、デパート、ショッピングセンターなどがある大型展示場、IT展示会が頻繁に開催される)があるサムスン駅の近くで2000平方メートル規模。2015年1月のオープンを予定している。

 グーグルのCampusは2012年オープンした英国の「Campus London」、2013年オープンしたイスラエルの「Campus Tel Aviv」が既ににあり、ポーランドの「Campus Warsaw」とブラジルの「Campus São Paulo」を準備している。「Campus Seoul」は、グーグルが運営するアジア初の起業家支援センターになる。

 「Campus Seoul」では起業のための専門知識(法務、財務、デザイン、マーケティングなど)を取得できる教育プログラム、グーグル社員やベンチャー経営者が起業を目指す人へアドバイスするプログラムを運営する。インターネットで申し込めば、誰でもプログラムに参加できるようにするという。

 さらに、子供がいる主婦向けの起業プログラム「Campus for Moms」、グーグル本社のIT専門家からアドバイスをもらえるプログラム、他のCampusにいる起業家とのグローバル交流プログラムなども進める。

 「Campus London」の場合、年間1100回ほど起業関連イベントを開催し、延べ7万人以上が参加している。ベンチャーインキュベーションセンターもあり、優れたアイデアを持つベンチャーを世界中から集めている。「Campus Seoul」も似たような施設になりそうだ。







「Campus London」のWebサイト

 グーグルのスンダル・ピチャイ シニアバイスプレジデントは、アジア初のCampusを韓国ソウルに設立する理由を、「韓国のスタートアップが全世界で話題になっている。特にモバイル分野がそうだ。グーグルは元気のある韓国の起業家を積極的に支援したい」とし、さらに「韓国は変化に慣れた国。新しい技術を受け入れるのが速い。スマートフォン普及率も人口の8割を超えている。この2年間で韓国人のAndroid開発者数も増えた。韓国からいいアイデアが生まれると見ている」と期待感を示した。

 また、「Campus Seoul」を通じて、シリコンバレーに浸透している「リスクを冒す文化」「不可能に見えることも財政や技術の面で支援し、挑戦させて成功させる文化」を韓国にも広げたいとしている。


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趙 章恩=(ITジャーナリスト)

 

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KakaoTalkやLINEには負けない!韓国キャリア3社が「通話」サービス強化 [2014年8月29日]

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 韓国では国民の8割がスマートフォンを使い、KakaoTalkやLINEのような無料メッセージ・通話アプリの利用も当たり前になっている。韓国のキャリア3社は、スマートフォンを利用するためには欠かせないネットワークを握ってはいるものの、「無料アプリ」の影響で音声通話収入は激減した。キャリア同士の料金割引競争により、データ通信収入もパッとしない。

 キャリア3社は、KakaoTalk、LINEといった無料メッセージ通話アプリばかり使うユーザーを取り戻すために、この8月から「通話品質」を強調するCMを流し、「通話しながら利用できる付加サービス」を次々に始めた。

 韓国のキャリアが音声通話に力を入れるのは十数年ぶりのこと。90年代後半には「エレベーターの中でも通話できる」「山の頂上でも通話できる」といったCMをよく流していたが、2000年代に入ってからは通話品質に不満を持つユーザーがさほどいなくなったため、キャリアのCMは「データ通信の速度が速い」「料金が安い」といった内容ばかりだった。

 いまさらながら通話品質をうたうCMを流すということは、それだけKakaoTalkとLINEの影響力が大きいということだろう。

 SKテレコムが始めた「T電話」サービスは、「安心して使える賢いモバイルコミュニケーション」を目標としている。電話がかかってきたとき、自分の携帯電話に保存していない番号でも自動検索して発信者情報をスマートフォンの画面に表示する機能と、スパム電話の可能性が高い場合は自動的に着信しないようにする機能がある。

 今までは、知らない番号から電話がかかってくると、ユーザーが自分でネットや電話帳アプリで検索して、スパム電話かどうかを確認してからかけ直すのが一般的だった。SKテレコムは150万件以上の電話番号情報を保有していて、ユーザーが検索しなくてもネットや電話帳アプリで検索できる番号は自動表示してくれるので助かる。

 さらに「T電話専用ホームページ」を開設し、ユーザーが自らスパム電話番号やお店の電話番号を登録または番号修正を要請できるようにした。







韓国のキャリア3社は無料メッセージアプリに対抗して、より便利な「音声通話」サービスに力を入れている。SKテレコムは、端末に保存していない電話番号も自動検索で表示し、スパム電話は着信拒否する「T電話」の提供を始めた
趙 章恩=(ITジャーナリスト)

 

日経パソコン

 

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韓国でLTEを利用した「災害安全通信網」構築へ、迅速な救助を目指す [2014年8月22日]

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2003年から議論が始まった韓国の「災害安全通信網」がようやく具体的に動き始めた。

 韓国政府は、7月末に災害安全通信網としてLTEを活用することを決めた。周波数は地上波放送のデジタル化以降にあまった700MHz帯のうち、20MHz幅を使うことになった。700MHz帯は電波が届く範囲が広い。

 災害安全通信網は、PS(Public Safety)‐LTEとして政府予算で新たに構築する。8月からは複数の省庁が協力し、2014年末までに災害安全通信網構築実行計画を策定。2015年から一部地域で実証実験を始め、2017年までに全国でネットワークを構築するという予定になっている。

 韓国政府は、音声だけの短波無線通信とは違い、LTEは音声・映像・データを高速伝送できるため、救助活動には最適の通信方式であると評価した。米国と英国の政府が、LTEを災害通信・救急通信として利用しているという点も影響した。

 災害安全通信網の構築は、災害や事故といった非常事態が発生した際に、警察、消防、軍、地方自治体が同じ通信を使ってコミュニケーションしながら救助作業ができるようにするための国家政策である。現在は、警察、消防、軍、地方自治体がそれぞれ別のネットワークを使っているせいでコミュニケーションがうまくとれず、救助にあたる消防と警察などの間でミスコミュニケーションが発生し、深刻な2次被害を招いてしまったこともあった。

 代表的な例が、2003年に発生したテグ地下鉄の大惨事である。71歳の男が地下鉄の車両内に放火し、192人が死亡、148人が負傷した事件だ。

 救助にかけつけた消防・警察・テグ地下鉄公社が、それぞれ異なる方式の無線通信を利用し、それぞれが指令を出していたため、捜索する場所を間違えたり、市民が警察に通報した内容が消防には伝わっていなかったりして、救助が混乱して死傷者が増えてしまった。何人救助できたのかもわからなかったという問題もあった。無線通信がバラバラだと、現場で救助にあたる全ての組織を一括指揮することもできない。

 また、警察や地下鉄公社が使っている無線通信の方式が古く、盗聴されやすいことも問題として挙がっていた。


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趙 章恩=(ITジャーナリスト)

 

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日本の方が安くない?総務省のスマホ利用料金国際比較を巡って韓国ユーザーが反論 [2014年8月8日]

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総務省が2014年7月29日に発表した「平成25年度 電気通信サービスに係る内外価格差調査」によると、ソウル市のスマートフォン料金が東京より安いという結果になり、韓国のスマートフォンユーザーの間で議論になっている。韓国メディアが総務省の調査結果を元に、「韓国のスマートフォン料金は世界で最も安い」と見出しを付けたからだ。

 韓国のスマートフォンユーザーは、すぐに反論し始めた。「韓国より日本の方が安い。日本は24カ月の契約で端末が実質無料になるけど、韓国は通信費に上乗せして毎月端末代を支払わないといけない。実質負担している毎月のスマートフォン料金は総務省調査結果の2倍近い」「韓国のスマートフォン料金は、韓国人の平均所得に比べて高い。日本は時給1000円近いけど、韓国はせいぜい500円。他の国は韓国よりスマートフォン料金が高くても、その分給料が高いからそれほど負担にならないはずだ」など、総務省の調査結果を都合よく解釈する韓国メディアに怒っている。

 総務省の調査は、東京、ソウル、ニューヨーク、ロンドン、パリ、デュッセルドルフ、ストックホルムの7都市のシェア1位通信事業者の通信費を比較したものである。

 スマートフォン料金の場合、総務省は平均的な使用例として、音声通話を月に47分、メールを月に338通、データ通信を月に2GB利用する利用者を「一般ユーザー」と規定し、7都市7キャリアの通信費を比較した。

 その結果、購買力評価レート(物価水準を考慮したレート)を適用した場合、東京は月7263円、ソウルは月5136円、ストックホルムは月4313円などとなり、ソウルは7都市の中で2番目に安かった。単純に市場レート(銀行に表示されている為替レート)で換算すると、ソウルは3595円、ストックホルムは5245円、東京は7263円などで、ソウルが7都市の中で最も安くなる。






スマートフォン料金(一般ユーザー、購買力評価レート)の世界7都市比較(総務省の「平成25年度 電気通信サービスに係る内外価格差に関する調査」より引用)

 音声通話とメールが一般ユーザーと同じで、データ通信を月500MBに変えた「ライトユーザー」で見ると、ソウルは購買力評価レートで月3493円、市場レートで月2445円となり、7都市の中で最も安くなった。

 この調査結果から、韓国メディアは韓国のスマートフォン料金が世界で最も安いという見出しを付けたのだ。韓国では、スマートフォン端末も通信費も所得に比べて高すぎるとして問題になっている最中だった。

 総務省の調査結果でも、市場レートで換算するとソウルの料金は安いが、購買力レートで換算すると他の都市に比べて高くなることが明記してある。韓国メディアはそのことにはあまり触れず、「韓国が最も安い」と報道したことから、韓国のスマートフォンユーザーの怒りをかった。

 韓国メディアはこれにとどまらず、放送通信委員会の調査結果を引き出して、「韓国キャリアのデータ・音声通信の品質は、日本、英国、フランス、米国より優れているので、品質は高く料金は安いことが証明された。韓国のスマートフォン利用料金は品質に比べるとかなり安い」と書いた。


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趙 章恩=(ITジャーナリスト)

 

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