サムスン電子の囲い込み戦略も効果なし?韓国でもiPhone 6発売決定 [2014年10月17日]

.

韓国でもついに、2014年10月31日にiPhone 6と同Plusが発売されることになった。iPhone 6からはキャリア3社(KT、SKテレコム、LGユープラス)全てがiPhoneを販売することになった。今回はキャリア3社が出そろったことで、iPhone 5s/cよりも売れると見込まれている。SKテレコムとKTは、10月24日から予約販売を開始すると10月14日に発表した。LGユープラスはまだ告知していないが、他社と足並みをそろえて同じ日に販売を開始する可能性が高い。

 しかし、スマートフォンの口コミサイトでは、「中国ではiPhone 6とPlusが予約販売だけで1000万台売れたというし、在庫不足で韓国での販売開始は11月に延期される可能性が高い」「LGユープラスがまだ何も告知をしないということは在庫を確保できていないということなのかもしれない。不安だ。やっぱり海外で買うしかないのか」と10月31日発売は難しいのではないかとの声もある。

 韓国では10月から、法律でスマートフォンの購入補助金を取り締まる端末流通法が施行され、9月に比べて同じ端末が2万円近く高くなったことからスマートフォンが売れ行きが大幅に減った。キャリア直営の代理店は問題ないが、代理店の下にある個人が経営する販売店は、スマートフォンが全く売れず、家賃すら払えない状況だとして閉店するところも増えた。韓国メディアによると、スマートフォンの販売台数は、9月を100だとすると10月は30しかないという。

 このような状況のため、どうせ高く買うなら、もともと補助金が少なかったiPhone 6/Plusを買おうという意見も増えている。今まで韓国のスマートフォンシェアはサムスン電子が不動の1位で、LGエレクトロニクスとパンテックとも大きな差が開いていた。しかし今世界中でiPhone 6/Plusが話題をさらい、アップルのディスプレイ注文件数から推算して年末までiPhone 6は7400万台、iPhone 6Plusは4200万台、合わせて1億1600万台売れるという予測もある。サムスン電子はiPhone 6/Plusにどう対抗するのか。

 10月13日の韓国メディアの報道によると、サムスン電子はFacebookコラボスマートフォンを発売するという。これはサムスン電子とFacebookが提携し、Facebookが運営するSNSを使いやすくするスマートフォンである。

 10月14日にはサムスン電子のイ・ジェヨン副会長に会うため、Facebookのマーク・ザッカーバーグCEO(最高経営責任者)が韓国を訪問した。2人の協議はこれで3度目になる。ハードウエアの技術を持つサムスン電子と、モバイルSNSに力を入れているFacebookが提携することで、アップルやグーグルに負けない新しいモバイルサービスが生まれる可能性も高い。

 また、Facebookの呼びかけでサムスン電子もInternet.orgのキャンペーンに参加している。これは全世界71億人が全てインターネットを使えるようにしようというキャンペーンで、みんながインターネットで一つになる世の中を作ることを目標としている。パソコンではなく高性能低価格のスマートフォンとモバイルインターネットを使うことで、新興国の人もインターネットにアクセスし、知識経済社会に参加できるという考えだ。サムスン電子は市場をリードするプレミアムスマートフォンだけでなく、新興国向けのスマートフォンにも力を入れていくようだ。

 これだけではない。9月24日からはサムスン電子のスマートフォンユーザーだけが無料で利用できるラジオストリーミングサービス「ミルクミュージック」を始めた。ユーザーを囲い込むため、アップルが力をいれるiTunesに対抗している。



次ページ:サムスンは米国で3万円の端末を韓国では8万円で販売?


趙 章恩=(ITジャーナリスト)
日経パソコン
-Original column

WHOのインターネット依存診断ガイドラインを韓国が作成することに [2014年10月10日]

.

韓国中毒精神医学会は2014年10月8日、同学会がWHO(世界保健機関)のインターネット依存(ネット中毒)診断ガイドライン制定業務を遂行することになったと発表した。韓国中毒精神医学会は精神医学を専門とする医師が参加する学会である。

 同学会はWHOから経費の一部を支援してもらい、2017年までにインターネット依存を診断するためのガイドラインを制定する。2017年導入予定であるWHOの第11版国際疾病分類(International Classification of Disease 11th Revision:ICD-11)に合わせてガイドラインを提示し、WHOはこれを世界各国に勧告事項として配布する。これは、10月2~6日に横浜で行われた国際嗜癖医学会(International Society of Addiction Medicine)で決まったことだという。

 その背景としては、インターネット依存が世界各国で社会問題になっているものの、まだ国際的にインターネット依存かどうかを診断する共通のガイドラインがないことがきっかけとなった。韓国中毒精神医学会は2000年代初めからインターネット依存に注目しており、少年400人を2005年から2012年まで7年間観察して、青少年のインターネット依存実態を追跡した論文で注目されたこともある。

インターネット依存は世界各国の社会問題(イメージ写真)

 インターネット依存は、パソコン通信の時代から問題になっていた。韓国ではインターネット依存の中でも「オンラインゲーム中毒」が社会問題となり、その治療と予防を国家政策として取り組んできた。

 韓国では、政府が「インターネット中毒予防相談センター」を2002年にオープンしている。韓国政府の説明では、これは世界初のインターネット依存、オンラインゲーム中毒を治療するための施設だという。このセンターで韓国初の「インターネット中毒診断尺度」が作られ、今でも自己診断用や学校での集団テスト用に利用されている。

 診断尺度を見ると、「インターネットをしないと不安で何も手につかない」「長時間インターネットをしてしまい予定をキャンセルしたことがある」といった項目がある。韓国は年に数回、小中高校で教師がこの診断尺度を利用して子供達のインターネット依存をチェックし、危険な状態という結果が出た場合、心理カウンセラーと相談できる場を作る。

 オンラインゲーム中毒は、ゲームのキャラクターになりきって現実の自分を忘れられることから、受験勉強や成績競争に疲れた子供たちが現実逃避として中毒になるケースが非常に多い。



次ページ:低年齢化が進むスマートフォン依存とSNS依存



趙 章恩=(ITジャーナリスト)
日経パソコン
-Original column

アップルの次はソニーとファーウェイに注目、韓国スマートフォン市場に変化 [2014年10月3日]

.

 サムスン電子のGalaxyシリーズ一色だった韓国のスマートフォン市場が変わろうとしている。

 アップルのiPhone 6と同Plusを買うために、韓国にいながら海外のアップルストアにネット注文したり、手数料を支払ってでも購入代行を利用したり、韓国での正式発売を待てずiPhone 6/Plusに早く乗り換えようとする動きが盛んに起きていることは先週お伝えした通り(関連記事:iPhone 6発売まで待てない!ネット経由で海外から買い求める韓国ユーザー)。そんな中、9月末からはソニーとファーウェイも話題に加わった。

 2014年9月29日、ソニーは韓国で「Xperia Z3」を発売した。ソニーのXperiaといえば、韓国でも2070万画素(Xperia Z2)の優秀なカメラが人気のスマートフォンである。Z3はハイレゾ音源に対応し、防水防塵機能を強化。さらなる広角化を図ったカメラレンズや、5.2インチの大きさで重さが152gと軽くなったことも好評だ。

 前から見るとZ2と変わらない無駄のない四角いデザインだが、横から見るとZ2より丸みを帯びたデザインになっていて、少し薄くて手に馴染む。端末価格は79万9000ウォン(約8.9万円)だが、2年契約で購入するともう少し安くなる。 







「Xperia Z3」の防水性能が優れていることをアピールする写真を掲載するソニーの韓国語サイト


 9月30日には、ファーウェイが「Honor 6」を韓国のMVNO(仮想移動体通信事業者)向けに仕様を変え、「X3」という名前で発売した。5インチ、1300万画素カメラ、LTE-Advanced(LTE-A)を利用できるスマートフォンなのに、端末価格は52万ウォン(約5.9万円)ほどで、MVNOの料金プランで最も高い月額約3400円で2年契約すると、割引が適用されて端末価格は33万ウォン程度(約3.7万)になる。

 LTE-A対応の5インチスマートフォンが33万ウォンというのは、韓国では今までにない激安で、サムスン電子やLGエレクトロニクスの半額以下の値段である。




韓国ではファーウェイの「X3」をLTE-Aに対応した半額スマートフォンと宣伝している。X3はサムスンやLGのスマートフォンに比べると半額以下で売られている。X3はMVNOの「U mobi」が販売している


趙 章恩=(ITジャーナリスト)
日経パソコン
-Original column

「韓国スマートヘルスケア最前線」「漢方医に医療機器は使わせない」と医師会が猛反発、韓国で大論争勃発 [2015年02月13日]

.

2015年の新年早々、韓国では医療機器の規制緩和をめぐる大論争が起こった。背景には、韓国ならではの医療事情がある。医師会と漢方医師会の対立である。

 韓国政府は2014年12月末、漢方医もX線撮影(レントゲン)装置や超音波診断装置などを使用できるよう規制を緩和すべきだとして、「漢方医の医療機器使用方案」を検討し始めた。ところが医師会がこれに猛反発。2015年1月21日には結局、議論そのものが振り出しに戻った。

背景に漢方医学の浸透

 韓国の大学には医学部とは別に漢医学部がある。漢医学部では、6年間の課程を修了し、国家試験に合格すると漢方医の免許を取得できる。韓国には漢方総合病院が多数あり、針灸の他、整形外科や内科、皮膚科、耳鼻咽喉科、婦人科、小児科など、一般の病院と変わらない診療科をそろえている。こうした状況から、漢方医師会はかなり前から「国民の健康と漢方の現代化のために医療機器の使用を認めるべき」と主張していた。

 韓国の憲法裁判所は2013年に、「眼圧測定装置や自動眼屈折検査装置、細隙灯顕微鏡など、安全に問題がなく漢方医にとっても結果の判定が難しくない医療機器については、漢方医が使用しても問題ない」との判断を示した。保健福祉部(省)も「国民の安全と健康に害がなく、漢医学部のカリキュラムに含まれる医療機器に限って、使用を認める方向で検討する」との立場を取っていた。韓国政府は今回、こうした方向に沿って漢方医の医療機器使用を許可する方向に動いたわけである。

「無免許運転と同じ」と医師会

 ところが、韓国の医師会である大韓医師協会は、「漢方医が医療機器を使用することは無免許運転と同じ。結果判定能力のない漢方医が医療機器を使えば、医療の質が低下する」と反発。同会会長は「11万人の医師が手段を選ばず闘争する」と宣言した。医学部の学生協会までもが「漢医学部で履修する医療機器科目は一般教養程度にすぎない。漢方医は医療機器の使い方やデータの解釈を専門に学んでいないのだから、使用を許可してはならない」と反対声明を出すほどの騒ぎとなった。

 これに対し、漢方医師会も負けじと反論。「国民の健康のために医師会は欲を捨てるべきだ。医療機器を使用して患者の状態を正確に把握することが最優先されるべき」と主張した。漢方医師会が全国20~70歳代の男女1000人を対象にアンケート調査を実施したところ、回答者の88%が漢方医による医療機器使用を認めるべきだと回答したという。

 漢方医師会は、中国を引き合いに出してこのようにも主張する。「中国では漢方医が先端医療機器を自由に使えるために代替医療(complementary and alternative medicine)が発達し、世界で10兆ウォン(約1.1兆円)規模の代替医療市場を同国が席巻した。これに対し韓国では、合理的でない規制によって漢方医の役割が制限されている」。

規制緩和検討は「Samsungのため」との見方も

 医師会と漢方医師会が対立を深める中、漢方医による医療機器の使用許可を誰よりも強く望んでいるのは医療機器業界かもしれない。韓国メディアの試算によれば、全国で1万3000近くある漢方病院がMRIやX線CT装置、レントゲン装置、血液検査装置といった医療機器を新たに購入した場合、1兆ウォン(約1100億円)の売り上げが発生するという。

 韓国メディアは漢方医が医療機器を使用できるようになれば、その恩恵を最も受けるのは、韓国Samsung Electronics社だと見る。同社の医療機器事業の実績が思わしくない中、漢方医による医療機器の使用許可検討は同社のためとの見方もあるほどだ。医療機器を設置済みの病院の買い替え需要はなかなか生まれないため、規制緩和によって新たな需要を作ろうとしたというのである。

 結果的には韓国政府が医師会の反発に屈する形となり、漢方医の医療機器使用許可をめぐる議論はなかったものとされた。それでもなお、漢方関連の研究団体などは「漢方病院の骨折治療件数は全国で年間420万件を超えており、生命に支障がない範囲でのレントゲン装置の使用は許可すべき」と主張。最低限の規制緩和として、漢方医にもレントゲン装置と超音波診断装置の使用を許可するよう、韓国政府に粘り強く求めている。



By 趙章恩の「韓国スマートヘルスケア最前線」
日経デジタルヘルス
 -Original column

「韓国スマートヘルスケア最前線」ビッグデータ分析に基づく個人健康管理やIoTによる「ヘルスケア実証団地」、韓国政府が支援 [2015年02月10日]

.

韓国の経済産業省に当たる産業通商資源部(省)は2015年1月29日、「スマートヘルスケア産業活性化方案」を発表した。主な内容は、国民の健康管理サービスを強化し、スマートヘルスケア産業の輸出を拡大するために、政府予算150億ウォンと官民ファンド150億ウォン、計300億ウォン(約33億円)を支援するというもの。

 韓国政府が描くスマートヘルスケアとは、製造と通信、医療、サービスを相互に連携させ、いつでも手軽に個人の健康管理ができる環境を指す。そこに向けて、「需要連携型スマートヘルスケアシステム開発」「スマートヘルスケア企業の国際競争力確保」「スマートヘルスケア産業基盤作り」の3つを推進する。

オーダーメード型の健康管理を実現へ

 このうち、「需要連携型スマートヘルスケアシステム開発」とは、企業が病院や患者個人のニーズに合わせてシステムを開発できるようにすることである。新設した「Uヘルス総合支援センター」を中心に、研究開発段階から病院と企業、認許可機関、研究機関が連携し、実生活に役立つシステムを開発できる研究環境の構築に2015年に60億ウォン(約6.6億円)を投じる。

 さらに、これまでは病院ごとに保管していた個人の健康・医療情報を統合し、ビッグデータ分析を通じて個人に最適化した健康管理サービスを提供する「個人オーダーメード健康管理システム」を開発する。ここに向けて、2015~2017年に毎年30億ウォン(約3.3億円)ずつ、計90億ウォン(約9.9億円)を投資する。慢性疾患患者や手術後に退院した患者のケアだけでなく、健康を維持するための健康管理にまで段階的にサービスの範囲を広げる計画だ。

「ヘルスケア産業協会」を発足

 「スマートヘルスケア企業の国際競争力確保」と「スマートヘルスケア産業基盤作り」に関しては、ベンチャーや中小企業への投資促進、実績確保のためのテストベッド事業拡大、海外進出のためのサービスと機器認証の獲得、新事業部門の国際標準への先制対応、産学連携などを支援する。官民共同で新産業に投資する1350億ウォン(約148億円)規模の「新成長動力ファンド」から、150億ウォン(約16億円)をヘルスケア関連プロジェクトに投資する。

 さらに、ヘルスケア業界のネットワーク作りに向けて、ICTとサービス、医療をつなげる「ヘルスケア産業協会」を2015年中に発足させる。同協会は、スマートヘルスケア関連機器とプラットフォームの標準化、国際競争力強化のための活動を行う。

 産業通商資源部は同日、スマートヘルスケア産業活性化方案と並ぶ新たな投資案件として、「バイオ産業エンジンプロジェクト」も発表した。スマートヘルスケアとバイオを連携し、個人向けの携帯型生体情報測定装置と健康管理システムを開発するというものである。

健康情報を収集・保存・分析するプラットフォームを構築

 通信政策を担う未来創造科学部(省)もこの日、「ソフトウエア中心のヘルスケア産業育成方案」を公開し、75億ウォン(約8.2億円)を投資すると発表した。これは総額7052億ウォン(約780億円)規模のスマートシティ/スマートホーム/スマートグリッド計画につながるものである。

 未来創造科学部は2015年上期中に「需要連携型デイリーヘルスケア実証団地」を造成し、IoT(internet of things)を活用したさまざまなアイデアを試せるようにする計画。2015~2017年の3年間運営し、3つのテーマに取り組む。「健康情報を収集・保存・分析するヘルスケアプラットフォーム構築」「中小企業の製品開発環境造成」「病院連携実証サービス提供」である。この実証団地を誘致しようと全国の自治体が動いているが、韓国メディアによれば最も有力なのは、過去に大規模な慢性疾患ヘルスケア実証実験を行った実績がある大邱市だという。

 韓国政府はこの他にも、ヘルスケア関連のベンチャースタートアップ支援やアイデア公募など、医療とICTの融合を後押しする政策を毎週のように発表している。この分野では2015年もまた大きな変化がありそうだ。


By 趙章恩の「韓国スマートヘルスケア最前線」

日経デジタルヘルス
 -Original column

「韓国スマートヘルスケア最前線」Samsungが体外診断機器事業の拡大に向け米社と提携、韓国政府は規制緩和でバックアップ [2014年12月05日]

.

韓国Samsung Electronics社は2014年11月25日、体外診断分野の市場拡大を狙い、米Thermo Fisher Scientific社と提携すると発表した。

 Samsung社によれば、Thermo Fisher Scientific社は世界約100カ国という体外診断分野で業界最大の販売ネットワークとサービスインフラを持つ。Samsung社はこのネットワークを活用して自社の体外診断機器の販売を促すとともに、新製品を開発して市場を拡大する計画という。

 Thermo Fisher Scientific社は、1902年に創業したFisher Scientific社と1956年に創業したThermo Electron社が2006年に合併して生まれた。米国マサチューセッツ州ウォルサムを拠点とし、世界に5万人の従業員、170億米ドル近くの年間売上高を誇る総合科学サービス企業である。体外診断用の機器や分析機器、試薬などを販売しており、日本にも東京や大阪、名古屋などに支店を持つ。

 Samsung社がThermo Fisher Scientific社のネットワークを使って販売するのは、臓器疾患や炎症などを現場ですぐに診断できる体外診断機器である。Samsung社の血液検査装置「Samsung LABGEO IB10」は、前処理の必要がなく、少量の血液で心臓疾患や肝炎性疾患など3つの疾患を20分以内に検査できるという。小さくて持ち運びできバッテリーでも駆動するため、患者が病院に到着するまでの救急車の中で基本的な検査ができるのが特徴だ。

 この血液検査装置はスコットランドの救急医療体制改善のための実証実験にも使われた。この実験では、57人の専門救急隊員が100人以上の胸痛急患を救急車で搬送しながら同装置で検査をし、データを病院に送信。病院に到着してすぐ医師が手当てできるようにした。

Samsung社の血液検査装置「Samsung LABGEO IB10」
[クリックすると拡大した画像が開き


SK Telecomも体外診断機器メーカーと提携

 Samsung社が今回の発表を行ったのと同じ日、韓国の保健福祉部(部は省)は「人体に有害な影響を与える恐れの少ない体外診断用製品と遠隔医療機器について、審査方法を簡素化する」と発表した。これにより、臨床試験を済ませ、食品医薬品安全所の許可さえ取得すれば、すぐにこれらの機器を販売できるようになった。1年以上かかる保健医療研究院の新医療技術評価や、健康保険審査評価院の保険審査を省略できる。この規制緩和から、韓国では医療機器の中でも体外診断機器市場の急成長が見込まれている。

 韓国の携帯電話市場シェア首位のキャリア(通信事業者)であるSK Telecom社も、韓国の中小体外診断機器メーカーと提携し、話題となった。同社は中小企業とコンソーシアムを組んで、中国市場向けの体外診断機器と診断プラットフォームの開発を目指している。同社は韓国の通信事業者の中で、ヘルスケア事業に最も積極的だ。

 Samsung社とSK Telecom社は、医療産業のパラダイムが治療から予防へシフトしていることから、血液分析や血糖測定、遺伝子分析などの体外診断機器に注目している。韓国の保健福祉部は、体外診断機器の世界市場規模を2013年に50兆ウォン(約5.5億円)と推定しており、2020年には80兆ウォン(約8.8兆円)に伸びるとみている。体外診断機器の小型化と検査時間の短縮が進んでいることから、病院だけでなく救急車や保健所、家庭にも需要があるという。


By 趙章恩の「韓国スマートヘルスケア最前線」
日経デジタルヘルス
 -Original column

「韓国スマートヘルスケア最前線」 医療観光に注力する韓国、2020年に50万人の誘致目指す

.

韓国の仁川空港到着ロビーには、医療観光案内カウンターがある。韓国は国策事業の一つとして、海外の患者を韓国で治療する医療観光に力を入れている。米国や中国、ロシア、中央アジアの富裕層がターゲットで、心臓手術や整形手術、不妊治療などのために韓国を訪問する患者は年々増えている。

2011年は12万2297人

 韓国観光公社と文化体育観光部(部は省に当たる)は、2011年12月に韓国の医療観光推進戦略と実績をまとめた「韓国医療観光総覧」を発行した。この総覧によると、2011年に韓国で受診した外国人患者は12万2297人で、2010年の8万1789人に比べて49%増加した。内訳は、外来患者が9万5810人、健康検診患者が1万4542人、入院患者が1万1945人だった。

 国籍別には米国27.0%、日本22.1%、中国18.9%、ロシア9.5%、モンゴル3.2%の順だった。外国人が主に受診した診療科目は、内科15.3%、皮膚科・整形外科12.7%、家庭医学科8.7%、健康検診センター8.3%、産婦人科7.7%の順だった。

 海外から韓国に観光目的で入国する外国人は年間1000万人近いので、医療観光の12万2297人というのはまだ観光客のごく一部に過ぎない。2020年には外国人の医療観光として50万人の誘致を目標とする。

 韓国が国をあげて医療観光事業を拡大しようとするのは、医療は高付加価値産業で経済効果が大きいからである。医療観光客は一般的な観光客より滞在時間が長く、一人よりも家族が一緒に訪問するケースが多いため、治療費や滞在費として使う金額も大きいのが特徴だという。2011年の医療観光客による収入は3558億ウォン、2015年には1兆2740億ウォン、2020年には5兆5101億ウォンに達する見込みだという。

通訳やコーディネーターの雇用効果も

 医療観光活性化により、2011年は韓国を訪問する外国人患者の入国から出国まですべてをサポートする医療コーディネーターや通訳など6545人の雇用増加効果があった。医療観光後の継続的な患者ケアのため、韓国総合病院の海外進出も活発になり、生産誘発効果は1兆ウォンに及ぶと見込んでいる。大韓病院協会は、医療観光活性化のためには、全患者の5%までに制限されている総合病院の外国人患者数を10%に拡大する規制緩和が必要だと主張する。

 保健福祉部だけでなく韓国観光公社と文化体育観光部も、医療観光産業を育成するための支援を行っている。医療通訳や、医療観光コーディネーター養成のための教育プログラムを運営していて、教育費の6割を国家補助金で負担している。

観光資源に乏しい自治体の活性化にも

 医療観光は観光資源に乏しい自治体でも医療技術で観光客を誘致できることから、地域経済の活性化にもつながる。

 国土海洋部は、韓国の内陸地域の地域経済発展のため、休養型医療観光事業を企画している。内陸には高麗人参や薬草などを栽培する農家が多いので、韓国の伝統漢方である「韓方」を取り入れたヘルスケアで健康を維持し、ゆっくり休むヒーリングの旅を提案するというもの。外国人専用の医療観光バスを運航することで自治体間の移動を便利にし、内陸地域をすべて回れるようにした。韓国のドラマやK-POPが人気の東南アジアの国々を対象に宣伝活動をしている。韓国保健福祉部は、外国人患者誘致のために大邱、仁川、済州などの六つの自治体に10億ウォンの国費を支援している。

 仁川医療観光財団と仁川市の総合病院は、2013年5月1日に中国の労働節連休に合わせて仁川港と中国の天津港を往復する定期クルーズ便が就航することを記念し、「クルーズ医療観光」を企画した。クルーズは観光客2000人と乗務員700人が乗船できる5万トン・クラスの旅客船で、年間22回往復する。クルーズに乗って仁川港に到着する中国人観光客を対象に採血をする健康診断、X線CT装置やPET、MRIを利用した早期がん診断サービスなどを提供する。このクルーズ医療観光のために仁川市と中国のハイナングループは2012年12月にMOUを結んだ。

国際遠隔診療を導入

 韓国の自治体の中で最もヘルスケア産業に力を入れている大邱市では、大学病院が積極的に医療観光を誘致している。

 大邱市の医療機関で受診した外国人患者数は2009年の2816人、2010年の4493人から2011年には5494人と22.3%増加した。大邱市の場合は、2011年の世界陸上大会の影響で外国人観光客が増えたことで、自然に病院を訪問した外国人も増えたともみられるが、大邱市が世界陸上大会に参加する選手団や観光客を対象に積極的に医療観光をアピールしたことで、大邱市の医療機関を信頼して訪問したともいえる。大邱市は市内中心部に「医療観光総合案内所」を運営していて、日本語・中国語・ロシア語などで相談できるようになっている。

 大邱市にあるケミョン大学病院は2012年10月、カザフスタンにユビキタスヘルスケアセンターを設立した。医療観光で大邱市を訪問し、手術を受けた患者の事後ケアを遠隔診療で行うためである。「カザフスタンより医療レベルの高い韓国の病院で手術したいが、術後もちゃんと診療してもらえるかが心配」というカザフスタンの患者のために、国際遠隔診療を導入したのだ。

 カザフスタンには1996年にケミョン大学病院が支援して設立した総合病院があり、その中にユビキタスヘルスセンターを置いた。手術を担当した医者は同センターから送られてくるレントゲンやデータを見ながら、手術を受けた患者とテレビ電話で会話し、術後の健康状態を観察する。

 韓国保険産業振興院の調査によると、海外に進出した韓国の医療機関は、2011年に17カ国74センター、2012年に16カ国90センターある。保健福祉部は2013年に医療機関海外進出200センターを目標としている。

海外進出をサポート

 保健福祉部は2013年1月、医療機関の海外進出をサポートするグローバルヘルスケアファンドを造成し、海外進出プロジェクト受注と投資家募集を担当する専門会社を設立すると発表した。

 外国政府が発注するヘルスケア関連プロジェクトを保健福祉部の専門会社が受注し、韓国の医療機関を参加させる。医療機関が海外に進出するためには、現地の医療制度や医療法に沿って許可をもらわないといけないが、この手続きはとても複雑で時間もかかる。保健福祉部は、プロジェクトを通じて医療技術を認めてもらい、現地政府や企業が病院設立に投資し、韓国は技術と医療専門家を輸出する形で海外進出することを目指す。

 この取り組みのモデルとしているのは、オーストリアの医療機関である「VAMED」。同機関は、医療観光誘致を進める一方、世界各国でヘルスケア・プロジェクトを推進している。


By 趙章恩の「韓国スマートヘルスケア最前線」

日経デジタルヘルス

 2014年11月6

-Original column

「韓国スマートヘルスケア最前線」「ヘルスケアIT融合展示会」が開催、韓国の病院情報化やヘルスケアサービスを海外にアピール [2014年11月10日]

.

2014年10月27~29日に、韓国・釜山で「ヘルスケアIT融合展示会」が開催された。韓国産業通商資源部(経済産業省に相当する省庁)と釜山市が主管したイベントで、医療とITの融合で新しいヘルスケアサービスを提供している韓国の大学病院や通信キャリアなど50社が展示に参加した。

 韓国産業通商資源部は2013年11月に「ヘルスケア新市場創出戦略」を発表、韓国企業の新規ヘルスケアサービス研究開発や海外進出を支援している。2014年からはウエアラブルデバイスを「産業エンジンプロジェクト」に指定し、今後10年間集中投資することにした。そのため韓国産業通商資源部は毎年3月にソウルで行われている医療機器展示会とは別に、医療とITを組み合わせた展示会を開催することにした。

 今回の展示会はITU全権委員会議(International Telecommunication Union Plenipotentiary Conference 2014)の一環として開催、韓国の病院情報化やヘルスケアサービスを海外の政府関係者やバイヤーに紹介する目的が強かった。

 ITUは無線通信と電気通信分野の国際協力、標準化と規制確立を目的とする国際機構で198カ国が参加している。4年に一度行われるITU全権委員会議は情報通信分野でもっとも権威のある国際会議であり、2014年は10月20日から11月7日まで釜山で開催された。釜山にはITU参加国198カ国の中のうち193カ国の政府代表者約3000人が集まった。

 韓国産業通商資源部は、「ヘルスケア産業は病院、医療機器、情報通信、サービス産業など多様な産業が融合する分野だけに経済への波及力が大きい。韓国のヘルスケア企業は高い技術力を持っていながらも知名度が低く海外進出が難しかったため、展示会を開催することになった」と説明した。


展示会場のファッションショーに登場したウエアラブルデバイス「Heolthon Shine」。専用のアプリケーションを使うと1日の行動を記録できて、腕時計としても使える。キャリアのSK Telecom社とソウル大学病院のジョイントベンチャーであるヘルスコネクト社が販売している。(写真:SK Telecom社)
[クリックすると拡大した画像が開きます]

3つのコーナーに分けて展示

 ヘルスケアIT融合展示会は、「病院情報館」、「ユビキタスヘルスケア館」、「ウェルネス館」の3つのコーナーに分けて病院向け情報システムやヘルスケアサービス、ウエアラブルデバイスを展示した

 キャリアのSK Telecom社とヘルスケアビジネスのためにジョイントベンチャーを設立したソウル大学病院や開催地釜山を代表する釜山大学病院は、病院内で使っている遠隔診療や情報システム、検査結果・処方などを紙ではなく電子データでやりとりする様子などを展示した。

 家庭で各種センサーを使ったヘルスケアサービスを利用すると何がいいのかを演劇にして見せるコーナーもあった。これは釜山地域の大学生が参加した演劇で、海外のバイヤー向けに韓国ベンチャー企業のウエアラブルデバイスとセンサー、アプリケーションなどの使い方と効果などをエピソード交じりで面白くわかりやすく演じた。

 釜山地域のミスコンテスト出身美女を集めたウエアラブルデバイスファションショーなる催しもあった。韓国の大手からベンチャーに至るまで各社が発売しているウエアラブルデバイスとスポーツウェアを組み合わせたファッションショーだった。一般の参観者向けの健康相談コーナーやウエアラブルデバイス体験コーナーもあった。

 展示会場ではKOTRA(大韓貿易投資振興公社)の主催で輸出商談会が行われた。病院情報化やヘルスケアサービス導入を検討しているオマーン王立病院と保険省、タイの国立健康管理公団、スリランカでもっとも大きい民営病院であるナワロカ病院、チェコのe-Healthセンターなど中東・ヨーロッパ・アジアから44機関が参加し、韓国のベンチャーや中小企業68社が自社の技術とサービスを売り込んだ。この日現場で契約成立となったのが61万米ドル、契約見込みは210万米ドルに及んだ。



By 趙章恩の「韓国スマートヘルスケア最前線」
日経デジタルヘルス
-Original column

「韓国スマートヘルスケア最前線」 Samsungの医療機器事業、救急医療分野への特化を打ち出す [2014年11月05日]

.

韓国Samsung Electronic社は今、注力事業として掲げる医療機器事業の中でも、救急医療分野に特化する姿勢を打ち出し始めた。同社 医療機器事業部のチョ・スイン社長は2014年9月に韓国で行われた講演で、「インターネットにつながり持ち運びできる救急医療分野に特化したい」と語った。

 先進国で使われている高度な医療機器の分野では、既に米GE Healthcare社、ドイツSiemens社、オランダRoyal Philips社が市場シェアを確保している。一方で、新興国では中国の医療機器メーカーの存在感が高い。

 こうした状況に対してチョ・スイン社長は、「(韓国の医療機器メーカーは)世界の先進企業に追い付く前に中国企業に追いかけられ、世界市場で居場所がなくなるかもしれない。韓国の医療機器産業の発展は遅れているが、我々が持っている技術を応用すれば、他の国にはない医療機器を作れる」と発言。伝統的な医療機器よりも、ディプレイやネットワーク技術を生かした救急医療機器で勝負するとした。

Samsung Electronics社の新しいレントゲン装置「GM60A」
[クリックすると拡大した画像が開き


スコットランドの救急車に採用

 救急医療分野に関してSamsung Electronics社は、救急車の中で超音波検査をし、その映像を医師に送信できる移動型超音波検査器や移動型X線CT(コンピューター断層撮影)装置、救急車の中で血液検査をして医師にデータを送信できる移動型血液検査器を持っている。このうち移動型血液検査器は、スコットランドの救急車に採用され、急患を助ける時間と費用を節約できることが立証された。

 さらに、Samsung Electronics社の新しいレントゲン装置「GM60A」は、患者がレントゲン室に行って撮影するのではなく、レントゲンを病室や手術室に持って行って撮影できるようにした。レントゲンの映像品質はそのまま、持ち運びできる移動性を追加したことで急患を助けるのに役立つと見られる。

 最近では韓国でも、試験的に救急隊員に「Google Glass」を装着させている。病院にいる医師に患者の映像を送信して、より早く適切な処置を採るためだ。韓国では病院側も積極的に新しい技術を取り入れようとしている。

 ITなど新たなテクノロジーと医療を融合したヘルスケアや医療機器市場は急成長すると話題にはなっているものの、Samsung Electronics社をはじめとする韓国勢はまだこれといった実績を残していない。救急医療分野への注力は、その突破口を探ろうとする動きの一つと言えそうだ。


By 趙章恩の「韓国スマートヘルスケア最前線」

日経デジタルヘルス
-Original column
http://techon.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20141104/386539/?ST=ndh

「韓国スマートヘルスケア最前線」 SamsungとFacebookが「ヘルスケア」で急接近 [2014年10月24日]

.

韓国のヘルスケア業界では最近、Samsung Electronics社と米Facebook社の急接近が話題になっている。

 2014年10月14~15日、Facebook社 CEOのMark Zuckerberg氏と同社役員約40人が、Samsung Electronics社本社を訪問した。韓国メディアは、Samsung Electronics社とFacebook社の経営陣の会合はこれが3度目で、経営トップ同士で事業提携について話し合いをしたと報道した。

仮想現実とヘルスケアの組み合わせも

 Samsung Electronics社とFacebook社が提携を検討している分野は、スマートフォン、モバイル広告、仮想現実、そしてヘルスケアだとみられる。Samsung Electronics社もFacebook社もヘルスケアに関心を寄せていることから、韓国ではSamsung Electronics社の端末とFacebook社のプラットフォームを組み合わせた新しいヘルスケアサービスを始めるのではないかとの見方が出ている。

 Samsung Electronics社は、Facebook社が買収した米Oculus VR社と提携し、2014年9月にヘッドマウントディスプレイ「GEAR VR」を公開している。このため、仮想現実とヘルスケアの組み合わせも考えているのではないかと予測する声もある。


個別投資か連携か

 Facebook社もSamsung Electronics社も、ここにきてヘルスケア関連の取り組みが目立ち始めてきた。

 例えば、Facebook社は2014年4月、歩いたり走ったりといった1日の行動を自動で記録するアプリ「Moves」を開発したフィンランドProtoGeo社を買収した。海外メディアは、Facebook社がProtoGeo社を買収したのはヘルスケア市場に進出するためであり、FacebookというSNSプラットフォームとMovesを使って、患者をサポートするサービスを構想していると報道した。同じ疾患を持つ患者同士をFacebook上でつなげ、生活習慣を改善するアドバイスを提供し、ユーザー同士が運動や食事などの情報を共有することで闘病をサポートするサービスである。

 Samsung Electronics社は、同社のスマートフォンの新機種「GALAXY NOTE4」にヘルスケア機能を追加して話題になった。2014年9月に公開した同機種は、心拍測定センサー、血中酸素飽和度計、紫外線測定センサーなどが搭載されていて、本格的なヘルスケアスマートフォンとして注目を浴びている。これらの機能はウエアラブル端末の「GEAR S」にも搭載する予定だという。スマートフォンとウエアラブル端末を連動したヘルスケアサービス「S Health」についても拡大を図っている。

 高齢化の進行により、健康で長生きすることが、全世界共通の関心事になってきた。Samsung Electronics社もFacebook社も、ヘルスケアをきっかけに新たなユーザーの獲得を狙っているのは間違いない。既に世界のヘルスケア市場では、米Google社や米Apple社などが先行して取り組みを進めている。こうした中、今回のSamsung Electronics社とFacebook社の動きからは、それぞれ個別にヘルスケアに投資するよりも、連携して先行陣営に対抗しようとする意図が垣間見える。



By 趙章恩の「韓国スマートヘルスケア最前線」
日経デジタルヘルス

-Original column