韓国電機大手のサムスンとLG、ハードの次はソフト人材確保で激しい競争 [2013年7月26日]

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韓国では、ディスプレイの大きさ、3Dテレビの技術、冷蔵庫の容量の大きさ、スマートフォンのデザインなどあらゆる分野で、サムスン電子とLG電子が競争し続けている。今度はソフトウエア開発人材確保を巡り、新たな競争が激化している。

サムスン電子は「分離融合」型のソフト技術者育てる

 一歩先にソフトウエア開発人材確保に乗り出したのはサムスンである。これからもハードウエアを売り続けるためにはソフトも一緒に開発しなければならないとして、ソフト人材教育に力を入れ始めた。

 2013年からは文系人材を採用してソフトウエア開発を任せると発表した。まさに「文理融合」、文系と工学系の両方の考え方ができる人に育てるということだ。従来のサムスンの新入社員は8割が理系・工学系だった。

 文系出身でソフトウエア開発職になるためには、採用試験に合格して内定をもらい、その後「サムスン・コンバージェンス・ソフトウエア・アカデミー」で6カ月間960時間のソフトウエア開発教育を履修しなければならない。修了しなければ採用はなかったことになる。まずは今年200人を採用し、徐々に拡大していくとしている。2013年度の新入社員は全9000人を採用する予定である。

技術そのものに加えて「感性」を重視

 実験的ともいえる「文系人材をソフト開発者に育てる」という採用方式は、未来を考えてのことである。サムスンは、これからは技術そのものの競争よりも、人間の感性や感情に訴えられるように技術・サービスを組み合わせられる力、「融合」力の競争になると見ている。故スティーブ・ジョブズ氏のような、哲学を専攻した開発者、人間と文化を理解できる文理融合人材こそが、未来をリードすると強調する。

 サムスンは今年から5年間、小中高校生4万人、大学生1万人を募集してソフト開発教育を実施する計画も持っている。大学生の場合は、コンピュータサイエンスなど工学専攻者と、文系学生などコンピュータ非専攻者に分けて教育を行う。学生の頃からサムスン向けの人材になるよう教育して、その後に採用しようという考えだ。

LG電子は「コーディング専門家認証」制度

 LG電子もソフトウエア人材を大事にしている。2012年からは社員を対象にした「ソフトウエアコーディング専門家認証」を設けて、プログラミング言語でソースコードを作成する能力の優れた社員を専門家として認証している。

 この専門家に選ばれると、社内講師となってセミナーをするなど他の社員のお手本として活躍することになる。インセンティブ(報奨金)がもらえるのはもちろん、海外カンファレンスへの参加や、研究委員として昇格できるチャンスも与えられる。

長時間労働・低賃金から脱却できるか?

 韓国政府も2013年末までにソフトウエアセキュリティ専門家200人を養成する計画を発表した。相次ぐサイバー攻撃・ハッキング事件に歯止めをかけるため、政府Webサイトのセキュリティ脆弱性を把握し、防御できる人材を育てるのが目的だ。

 ソフトウエアセキュリティ専門家は、6年以上の開発経験と、3年以上のセキュリティ診断経験があり、韓国インターネット振興院の専門家養成課程を履修する。要件を満たすと、安全行政部(省)から資格証をもらえる。

 韓国では長時間労働、低賃金で、定年退職も早いのがソフト開発者のよくある姿だった。ところが最近は大手企業がこぞって「これからはソフトウエアが競争力を左右する」として、開発者を大事にする意向をアピールしている。ソフトウエア開発人材確保競争が開発者の待遇改善につながるとことを期待したい。

趙 章恩=(ITジャーナリスト)

日経パソコン
 

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韓国の夏休み商戦、LTE-Aと屋外で動画を楽しめる超小型プロジェクターが人気 [2013年7月19日]

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 ここ数年、韓国では夏の休暇の過ごし方として、海外旅行とキャンプが流行っている。海外旅行は格安航空が増えたことで、国内旅行にちょっとお金を足しただけで東南アジアに行けるようになったからだ。格安航空の影響で、以前は8月に集中していた夏の休暇が、5~9月に分散したほどだ。去年までも7月からキャリアの定額制データローミングのCMが増えていたが、最近は年中海外でもデータ通信を安く使える料金制があると宣伝している。

 国内旅行は森や川でテントを張って寝るキャンプが大人気だ。ソウル市内にまでキャンプ場ができたほどである。ホテルの庭に高級テントを張って「キャンプっぽい」雰囲気を楽しみ、夜はホテルの部屋で寝るというパッケージ商品も人気が高い。

キャリア・電機メーカーが旅行者のニーズに対応

 キャンプ好きな人が増えたことを背景に、韓国の通信事業者(キャリア)はこの夏、「野外で映画を楽しめる」LTE高速通信サービスと、超小型プロジェクターのプロモーションを始めた。

 サムスン電子は、モニターを取り外してタブレットとしても使えるLTE対応Windows 8パソコン「ATIV Tab LTE」「ATIV Pro」の体験イベントを本社ショールームや代理店などで開催している。LTEを使えるATIVノートパソコンがあれば、アウトドアでも高速モバイル通信で仕事をさくさくこなし、映画やドラマ再放送など映像コンテンツもスムーズに楽しめると、宣伝している。

 
サムスン電子のLTE対応Windows 8パソコン「ATIV」。

 ATIVを買って、韓国大手キャリアSKテレコムのLTEデータシェア料金に加入すれば、1台分の料金で、スマートフォンとノートパソコンの2台からLTEを使える。LTE端末別にデータ料金を払う必要がないため、LTEノートパソコンも売れるようになった。

2013年6月末から始まったLTE-Aサービス

 SKテレコムは、2013年6月末からLTE-Aを商用化した。LTE-Aは800Mhzと1.8GHzの2つの周波数帯域を同時に使う「キャリアアグリゲーション技術」を使うことで、既存LTEの2倍に当たる最大150Mbpsの高速通信を可能にした。SNSを使ったビデオ通話、映像ストリーミングもすいすい利用できる。

 SKテレコムによると、LTE-Aを商用化してから2週間でLTEからLTE-Aに乗り換えたユーザーが15万人を超えた。新規加入者、機種変更加入者の約30%がLTE-Aを選択しているという。SKテレコムは音声通話もCDMAではなくLTE回線を使えるようにしている。音声通話をLTE回線に変えると音質がきれいになり、電話がつながるまでにかかる時間も断然短くなるという。

 LTE-A加入者だけが使えるFull HDストリーミングサービスや、同時に4人でテレビ電話ができるグループビデオ通話サービスも始めた。高速無線通信回線が登場したおかげで、モバイルデバイス向け映像コンテンツサービスも人気を集め、スマートフォン向け小型プロジェクターの需要が増え始めた。

超小型プロジェクターも人気

 スマートフォンに取り付けて使う2万円ぐらいの4.5cm×4.5cmサイズの超小型プロジェクター「スマートビーム」も人気商品である。キャンプ場で、家族みんなが集まって大画面で映画を楽しむための必需品だ。
 

 
SKテレコムの「スマートビーム」はスマートフォンに取り付けて使う超小型プロジェクター。キャンプに行く人が増えていることから、野外劇場風に映画を楽しむ用途を訴求している。LTEの普及で映画をストリーミングでもすいすい利用できるようになった。

 スマートビームはアシアナ航空の機内免税品としても販売されているほど人気だという。プロジェクターというと会社用、学校用というイメージがあるが、韓国では「ベッドに寝転がって天井に映画を映せるところがいい」と、個人用プロジェクターに興味を持つ人が増えている。他方で、自宅ではテレビもパソコンも使わずスマートフォンですべてを済ます人も増えているため、ホームシアターの代わりにスマートビームを買うの人も増えてくるかもしれない。

 SKテレコムはソウルの真ん中を流れる川、漢江(ハンガン)沿いの公園でスマートビームをレンタルできるイベントを開催する予定である。真夏になると少しでも涼しい場所を求めて漢江公園にテントを持ってきて寝泊りする人もいる。特に今年は電力不足で厳しい節電を強いられているので、エアコンをつけられず、漢江にやってくる家族が増える見込み。スマートビームをレンタルして、ちょっとしたキャンプ気分で家族だけの野外映画を楽しめるイベントになりそうだ。

趙 章恩=(ITジャーナリスト)

日経パソコン
 

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「韓国スマートヘルスケア最前線」Samsungの腕時計型端末「GALAXY Gear」、韓国ではヘルスケア機能に注目

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GALAXY Gearは、腕時計型の端末。スマートフォンやタブレット端末と連動して日常生活をより便利にするというもの。カラー・バリエーションも豊富だ。2013年9月中旬以降、世界140カ国で販売する予定である。

 今回公開した“バージョン1”は、米Apple社よりも先に腕時計型端末を公開する目的が強かったようだ。機能とデザインを補い、2014年1月に米国ラスベガスで開催される展示会「CES」において“バージョン2”を公開するという噂が絶えない。

 GALAXY Gearは、音声認識による電話やメール、スケジュール・天気確認、アラーム設定といった基本機能はもちろん、同端末でメールのタイトルを読んでスマートフォンを取り出すと、何の操作をしなくてもすぐ該当するメールの本文がスマートフォンの画面に登場するといった「スマートリレー」機能も搭載している。スマートフォンをどこに置いたのか忘れてしまった場合、GALAXY Gearを使ってスマートフォンに音を鳴らすなどして探せる機能もある。

 GALAXY Gearの画面は1.63型と小さいが、「Super AMOLED」のためか画質がきれいで文字も見やすい。190万画素のカメラ付きなので、風景や時刻表などを撮影してメモ代わりにもできるのは便利だ。動画も10秒間撮影できる。

 カメラで写真を撮って電源ボタンを3回押すと、あらかじめ設定しておいた緊急連絡先に位置情報と一緒に写真を送信し、緊急事態であることを知らせることもできる。高齢者や子供に買ってあげたい端末と言える。

 Samsung Electronics社は、GALAXY Gear向けに「Line」や「Kakao」といったSNSを始め、70種類ほどのアプリケーション(以下、アプリ)を用意していると発表した。基本的には10種類ほどプリインストールして、その他は「Samsung apps」という同社が運営するアプリ・マーケットから好きなアプリをダウンロードする格好になる。米国で人気のフィットネス・アプリ「RunKeeper」「MyFitnessPal」も使えるという。GPSを使って、自分のランニングやウォーキング、サイクリング、ハイキング、マウンテンバイキングなどを追跡・記録することができるアプリだ。

専用のヘルスケア・アプリの開発も進む

 韓国ではGALAXY Gearを使ったヘルスケアに注目が集まっている。GALAXY Gearは動きを感知するセンサを搭載しているので、Samsung Electronics社がスマートフォン「GALAXY 4」向けに提供しているヘルスケア・アプリ「Sヘルス」や胸に付けるバンドと連動した心拍計、体重計と連動したダイエット管理といった機能も一通り利用できるように準備しているという。前述したスマートリレー機能を使って、GALAXY GearとGALAXYスマートフォンのアプリが連動するので、より楽にヘルスケア機能を利用できるようになりそうだ。

 韓国では健康な人をより健康にする「ウエルネス市場」が注目を浴びている。実際、さまざまな病の原因になるとされる肥満を予防するため、男女老若がダイエットに励んでいる。ダイエット食品やフィットネスジム、合宿型断食、針や漢方薬で脂肪を減らす韓方エステなど、方法は数えきれないほどある。韓国メディアの報道によると、韓国のダイエット市場規模は年間2兆ウォン(約2000億円)前後だという。人口約5000万人の国でダイエットだけに年間2000億円も使っているとは相当な市場規模である。最近はスマートフォンの普及にともない、無料あるいは数百円程度で利用できるフィットネス・アプリや、血圧や血糖値、食事内容を記録すると生活アドバイスがもらえるヘルスケア・アプリが人気を集めている。

 腕に着けるGALAXY Gearは、スマートフォンよりも細かく正確に生体情報をチェックでき、個人の健康状態に合わせてどうすれば肥満を予防できるのかより的確にアドバイスできる可能性がある。内蔵する動作感知センサをうまく活用したヘルスケア・アプリも開発が進んでいるため、GALAXY Gearのヘルスケア機能に対する期待は高まるばかりである。

 GALAXY Gearの最大の弱点は、電池の持ちがよくないことである。仕様としては充電して25時間は連続使用できると書いてあるが、実際にあれこれ機能をフルに使うと電池はすぐ消耗してしまう。そのため、韓国では端末を着用したまま充電する技術や大きくて薄くて腕の曲線に合わせて曲がるフレキシブル・ディスプレイ技術が、今後ウエアラブル端末を利用したヘルスケア・サービス市場の重要な鍵になると見ている。



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By 趙章恩の「韓国スマートヘルスケア最前線」
日経デジタルヘルス
 2013年9月3
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避暑地として人気の釜山・海雲台、「ビッグデータ」で現実的な観光政策を立案 [2013年7月12日]

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海水浴場沿いに高級ホテルが並ぶ釜山の海雲台(ヘウンデ)は、韓国で人気がある避暑地の1つである。夏になると、長さ1.5km、幅30mの海雲台海水浴場に1日70万人以上の人々が集まり、足の踏み場もなくなる。海水浴場が開場する6月から9月までは韓国じゅうで最も人が集まる場所なので、ビールや食品、家電、化粧品、オンラインゲームなど各種メーカーのイベントも、夏場はソウルよりも海雲台で開催することが多いほどだ。

 海雲台は「スマートシティー」あるいは「スマートビーチ」としても有名だ。海水浴場の入り口にはデジタルサイネージの観光案内スクリーンがある。タッチ式でメニューを選んで観光情報やグルメ情報などを検索できる。もちろん、日本語でも利用できる。


 デジタルサイネージにはカメラが付いていて、海を背景に記念写真や動画を撮影して、自分のメールアドレスにも送信できる。海水浴場周辺のお店ではスマートフォンの電子マネー決済(NFC決済)が使えるので、スマートフォンさえあれば現金はいらない。迷子防止用の位置情報確認腕輪も無料で利用できる。保護者のスマートフォンから子供の位置を確認できるのだ。


“地の利”生かし「ビッグデータ」分析


 釜山市海雲台区役所は、海水浴場や周辺のホテル、レストランを利用する観光客の利便性を高めるために、「ビッグデータ分析チーム」を設置した。韓国の地方自治体の中では初めてチームを設置し、政策立案に役立てている。


 海雲台区役所は2012年夏に、SNSでつぶやかれた海雲台関連の口コミを分析した。その結果、区役所や市が実施していた観光キャンペーンと、実際に観光客が欲しがっていた情報に食い違いがあることを発見した。


 例えば、市や区役所は釜山の名物であるパジョンや豚のクッパといった伝統食を観光客向けに宣伝していた。ところが、つぶやかれた口コミを分析したところ、観光客が釜山で食べたがっていたのは、全国どこにでもある刺身、チゲ、寿司だった。立派なレストランよりは屋台で食事をしたい、夜はクラブに行って踊りたいといった意見が多いという事実も発見した。このようにビッグデータ分析をうまく活用すれば、観光客が関心を持たない情報についてPRするような観光Webサイトに無駄な予算を使わなくて済む。


 宿泊に関しては、市や区役所はホテルやモーテルを観光客向けに紹介していたが、それよりも「ゲストハウス」の方が人気だった。ゲストハウスは2段ベッドに共用のバスルームとキッチンがある格安の宿泊施設である。海雲台に関する英語のつぶやきは、夏よりも釜山国際映画祭が行われる10月の方が多い、ということも分かった。釜山国際映画祭のレッドカーペットにK-POPアイドル誰が来るのかといったことが話題になっていた。



一部の声しか反映しない「卓上行政」から脱却


 初歩的なビッグデータ分析ではあるが、SNSのつぶやき分析結果を基に、2013年の夏は海鮮チゲや刺身のおいしい食堂を観光客向けに紹介できるよう準備している。従来の観光政策は、何人かのモニターを集めてグループインタビューをしたり、Web調査を実施したりする程度だったので、実際に海雲台を訪問した観光客の意見を広く反映した政策とは言えなかった。何をしても「卓上行政」だと批判する声もあった。


 ビッグデータ分析を導入し、膨大なデータから現場の意見をくみ取ることで施設を改善し、的確な情報を提供によって観光客を増やすのが海雲台区役所の狙いである。データを基に政策を立案すれば、観光客だけではなく、施設で働く地元の人々の満足度も上がるというわけだ。


防犯カメラの映像を分析し交通改善


 海雲台区役所は観光政策以外の分野でも、20代向け雇用増加や、防災といった目的でビッグデータを駆使している。交通の改善にもビッグデータを活用。区内にある防犯カメラの映像を分析して、駐車違反や違法駐車が多い地域と時間帯を割り出し、駐車場を増やすか交通システムを見直す計画だ。区役所は、防犯カメラを取り締まり目的で使うよりも、住民・観光客にとって不便にならないようにするためのツールとして使う方針を掲げる。そのためにもビッグデータ分析が必要だと見ている。


 海雲台区役所は、釜山市にあるビッグデータ処理プラットフォーム研究センターと協力して分析を行っている。まず区役所の職員らが政府機関のデータ、区が実施したアンケート調査結果、過去の政策、区のWebサイトに寄せられた苦情や意見、SNS上のデータなどを集める。研究センターが分析ツールを作成し、これらのデータを解析する。区役所によると、個人を識別できないようにしてデータを分析するなど、個人情報保護には配慮しているという。


中央政府もビッグデータ政策推進へ


 韓国では地方自治体だけではなく、中央政府もビッグデータ分析に熱心である。データを分析することでいち早く国家的課題を見つけて解決するために、「国家未来戦略センター」という名前のビッグデータ分析センターを設立する予定だ。


 データを活用した新産業活性化のため、まずは政府の公共データを、極秘事項を除いては基本的に誰でも利用できるように開放。民間のデータ流通も促進できるよう制度を改善する。データ分析に長けた「データサイエンティスト」を育成し、分析を体験できる「ビッグデータ分析・活用センター」も年内にオープンする予定である。



趙 章恩=(ITジャーナリスト)

日経パソコン
 

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モバイルゲームを売るにはSNSが必須? 開発者は韓国でKakao、日本でLINEと組む [2013年7月5日]

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韓国では、2012年下半期に中高年までを“ゲーム地獄”に引きずり込んだ国民的人気モバイルゲーム「Anipang」(
関連記事)が成功してから、SNG(Social Network Game)ではない単独ゲーム、つまりSNSとつながっていないモバイルゲームは売れなくなってしまった。アプリストアの人気上位は全てKakaoTalk(カカオトーク)とつながっているモバイルゲームで、大手ゲーム会社のアプリよりもアイデアで勝負するベンチャー会社のゲームアプリが躍進している。2013年6月時点で170を超えるゲームが「ooo(ゲーム名) for Kakao」の名前でアプリストアに登録されている。

 韓国では、単独のモバイルゲームや、「モバゲー」のような(SNSよりもゲームを中心とした)ポータルサイトが提供するゲームよりも、SNGが圧倒的に人気を集めている。それは、SNSが今までゲームに全く興味がなかった人までも顧客にできるプラットフォームだからである。


NHNハンゲームも韓国ではKakaoと組む


 実は、韓国のKakaoTalkでヒットしたモバイルゲームは、日本ではKakaoTalkではなくLINE(ライン)に乗り換えてリリースされることが多い。同じゲームを韓国語バージョンはKakao向けに、日本語バージョンはLINE向けに提供していることがよくある。韓国でSNSといえばKakaoTalkの存在感が大きいが、日本ではLINEを超えるSNSはないからだ。


 KakaoTalkとLINEはSNS事業では全世界で激しく競り合っている(関連記事)。ところが、LINEの親会社である韓国NHNは、韓国内ではKakao向けゲーム「チームナイン for Kakao」を提供するなど、ゲームの供給先としてKakaoを活用している。










NHNハンゲームがKakaoTalk向けに新しく始めた野球ゲーム「チームナイン for Kakao」


 KakaoTalk(KAKAO)とLINE(NHN)は共に韓国資本の企業が開発したSNSだが、海外利用者数が多いことから、韓国モバイルゲームの海外進出プラットフォームになるのではないかと期待されている。現時点でKakaoTalkのユーザーは全世界で約1億人、LINEは1億8000万人に上る。


中高年がソーシャルゲームを楽しむように


 韓国インターネット振興院が発表した「2012年スマートフォン利用実態調査」によると、スマートフォンユーザーの79.7%はKakaoTalkやLINEといったソーシャルネットワークサイトを経由したSNGを利用したことがあると答えた。SNGの利用経験者は10~30歳代は90%以上、40歳代77.2%、50歳代で54.3%と中年層の間でも着実にユーザーを獲得しているのが特徴だ。


 SNS上の友達から「面白いゲームがあるからやってみて」とメッセージをもらいゲームをダウンロードするのが最初のきっかけになっている。広告よりも、友達に勧められる方がダウンロードしてみようという気持ちになるからだ。また、「主にダウンロードするアプリ」についても79.7%がゲームと答えているほど、モバイルゲームは韓国のアプリストアで圧倒的な人気を集めている。


若年層よりも30歳代以上が有料アイテム購入多い


 2013年7月3日ソウルで開催されたゲームテクノロジーセミナーでは、KakaoTalkやSNG開発会社によるモバイルゲームの展望に関する発表が人気を集めた。スマートフォンのゲームアプリの主なユーザーは10~20歳代と思われがちだった。だが韓国で人気のSNGは、ダウンロード数は20歳代の方が多くても、有料アイテムを購入するユーザーはほとんど30歳代以上だという。


 2013年上半期の売上高を比較すると、いち早くKakaoTalk向けにゲームアプリを提供したベンチャーが既存の大手モバイルゲーム会社を追い越した。ゲーム会社が次々にKakaoTalkと手を結んだことで、SNGの種類も豊富になった。


 現状では、まだ「Anipang」「ウィンドランナー」「アイラブコーヒー」のように、中高年層のゲームになじみの薄い人でもすぐに遊び方を理解できるカジュアルゲームの方がユーザー数は多い。だが、この夏からはロールプレイングやシューティングなど本格的なゲームが多数登場している。パソコン用ゲームと比べても遜色ないほどグラフィックも高品質になっている。さらに、数人が同時にアクセスしてチームを作って敵を倒すゲームになっているので、SNS上の友達と一緒に遊ぶのにぴったりである。


大画面スマホや高速回線普及も追い風に


 最近のスマートフォンは画面が5インチぐらいあり、高性能プロセッサーを搭載して、バッテリーもかなり長持ちするようになった。しかも7月から韓国のキャリアはLTEより2倍、3Gより10倍速い150Mbpsの「LTE-Advanced」を商用化する。「ネットワークが遅いためにスマホでゲームを楽しめない」ということも少なくなりそうだ。


 韓国コンテンツ振興院によると、韓国のスマートフォン向けゲーム市場規模は2012年約820億円で前年比28%ほど成長している。2013年も20%以上成長する見込みである。




趙 章恩=(ITジャーナリスト)

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スマート教育はロボットを活用する時代へ、韓国2大キャリアが子供向けロボットで競う [2013年6月28日]

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韓国は、教育分野でのIT活用、スマート教育に熱心な国だ(
関連記事)。2013年6月18日~20日、韓国・ソウル市にある展示場COEXで、スマート技術と教育の融合をテーマにした「スマートラーニングコリア」展示会が行われた。一般向けではなく、ビジネス・バイヤー向けの展示会ではあったが、スマート教育を実践している小中学校の教師が参加するセミナーや模擬授業もあり、教師と企業が一緒になって教育の未来を考える展示会だった。

 展示ブースの中で目立ったのは、大手通信事業者(キャリア)であるSKテレコムとKTの2社が、幼児向け教育ロボットを目玉にしたことである。


 SKテレコムは「アルバート」という名前のロボットにスマートフォンを装着して使う方式である。ロボットとスマートフォンの他に、専用のお店ごっこゲームボード、英単語カード、英語絵本などを展示した。









ソウル市の展示会でSKテレコムが展示した幼児向け教育ロボット「アルバート」



 英語絵本は電子ペンでなぞると英語を読み上げる。ペン先に付いているカメラで自分の顔を撮影してアプリに連動させると、ロボットの画面には絵本の主人公が自分の顔になって登場。子供が楽しく英語を勉強できるようにしている。英語絵本は600種類を販売。英単語カードをロボットにかざすと読み上げ、韓国語で意味を教えてくれる。


Bluetoothサイコロでお店ごっこ


 「お店ごっこゲームボード」はロボットがお客、子供が店員になる。Bluetooth付きサイコロを投げると、サイコロの数字をロボットが認識して、その数だけボード上のマスを進められる。


 マスには魚、野菜、文房具、セール会場といった文字が書いてある。ロボットは該当マスに書いてあるカテゴリーの中から商品を選んで「○○をください」と子供に示す。子供は商品が書いてあるカードをロボットにかざす。ロボットはBluetoothでカードの情報を認識し、ロボットの画面(スマートフォンの部分)にカードに書いてある商品が登場する。


 さらに、画面にはロボットがお金を差し出す場面が登場し、ロボットは「おつりください」と言う。子供は専用の紙幣をロボットにかざし、おつりを渡す。ちゃんと計算しておつりを渡すことで算数の勉強につながり、遊びながら学習効果もあるということだ。


 スマートフォンにゲームコントローラーをダウンロードすることもできる。スマートフォンをリモコンにしてロボットを動かしてボールを入れるサッカーゲームで遊ぶ、といった使い方になる。今までロボットというと大きくて銀色に光る巨体をイメージさせたが、SKテレコムの教育ロボットは手のひらサイズでとても小さく簡素なものだった。


 スマートフォンが画面になるので、ロボットとゲームボード、絵本や電子ペンまで一式全てをそろえても2万円もかからないお手頃価格である。スマートフォンを取り付けて使う仕組みなので、ロボット自体を買い替えなくてもスマートフォンにアプリをインストールするだけで幅広い機能を使える。



KTは歌って踊れるロボットを展示


 もう一方のKTは、2012年から発売している水色のロボット「Kibot2」を展示した。7インチの画面が付き、30cmぐらいの高さで、頭の後ろに投影のための“ビーム”が付いている。ロボットにアプリをダウンロードしたら、ビームを使って壁一面にアプリ画面を映し出し、親と子供が一緒に歌ったり踊ったり絵本を読んだりできる。英語や韓国語の文字を指でなぞりながら筆順を練習するアプリもある。筆順通りに書かないと次に進まない。









KTが展示した教育ロボット「Kibot2」



 ロボットの頭や足をなでると画面が笑顔になり、放置すると眠そうな顔になる。専用のカードをロボットにかざすだけで親の携帯電話につながる仕組みもあるので、防犯カメラとしても使える。Kibot2は一括払いだと7万円、KTのインターネットユーザーの場合は2年契約で月1500円ぐらいの利用料をネット料金に上乗せする。KTは、Kibot2用学習アプリ開発者を育成するための教育プログラムも運営している。


キャリアは音声通話収入を補う狙い


 スマートフォンが登場してから減り続ける音声通話収入を補う狙いもあって、SKテレコムとKTは「スマート教育」に力を入れている。2015年からは韓国全土の学校で「デジタル教科書」を使えるようになる。このため、親は子供が小学校に入る前にデジタル教科書に備えたいとして、タブレットを購入して学習アプリを利用させるケースが増えている。


 KTが無料提供している「オーレ幼稚園」「オーレ小学校」は算数・国語・社会などの学習効果があるクイズとゲームを提供するアプリ。初めてスマートフォンやタブレットを使う子供向けのアプリになっている。学習レベルを分析して、それに合わせてより難易度の高い学習アプリを勧めてくれる。「子供に学習アプリを使わせてみたいけど何から始めたらいいのか分からない」という親に好評だ。


 対するSKテレコムは有名予備校と提携し、中高生向けの本格的な受験勉強アプリを有料サービスとして提供している。大人向けの英語学習アプリにも力を入れる。展示会で紹介していたのが「Tムービーイングリッシュ」。最新映画を観ながら英会話を学習できるというものだ。スマートフォンで映画を再生すると、右側の透明なスクリーン上に英語字幕と韓国語字幕が登場する。もう一度見たい場面を繰り返したり、分からない単語をクリックすると詳細な意味が出てきたり、字幕を消して映画だけ見たりできる機能もある。映画ごとに覚えておくといい英語表現をまとめて解説する機能も学習の助けになりそうだ。


 SKテレコムは、現行の「アルバート」よりさらにかわいくて使い勝手が良いという新たな子供向けロボット開発も進めているという。2012年下期には「キッズタブレット」と呼ぶ幼児向け7インチタブレットの広告が目立ったが、今年の展示会ではロボットを前面に打ち出している。


国策として「スマート教育」推進


 今回のスマートラーニングコリア展示会の内容は盛りだくさんだった。英語・算数といった科目別学習アプリ、スマート教室内で3D映像やAR(拡張現実)を使う模擬授業、紙の教材を手軽にアプリに変換できるツール、デジタル教科書を教師がカスタマイズして使えるようにするツール、学習履歴管理・学習レベル分析といったソリューションに至るまで、びっしりとブースに並んでいた。


 韓国新政権のICT(情報通信技術)政策はソフトウェア・コンテンツ産業育成、クリエイティブな人材養成、ベンチャー投資活性化に重点を置いており、スマート教育関連ベンチャー投資も積極的に行うとしている。政府が営業担当者になりスマート教育関連端末とシステムを輸出することも盛んに推進する方針だ。次回のスマート教育関連展示会は9月にソウル市で開催される。





趙 章恩=(ITジャーナリスト)

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Microsoft、Googleに続いてFacebook首脳が韓国訪問、ザッカーバーグCEOとサムスン電子の7時間に及ぶ会議の内容は? [2013年6月24日]

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2013年6月17日の夜、米Facebookのマーク・ザッカーバーグCEOが韓国を訪問した。ソウルの金浦空港には、あのザッカーバーグCEOを一目見ようと一般人も集まり、K-POPアイドルの出待ちのような状態になった。


 韓国でのザッカーバーグCEOに対するイメージは、「プログラミングの天才」「ハーバード大学中退でFacebookを設立した秀才CEO」「Facebookを大手企業に売らなかったプライドの高いCEO」「最年少大富豪」といったもので、憧れの存在である。


 ザッカーバーグCEOは18日の午前、朴槿恵(パク・クネ)大統領と面談し、午後にはサムスン電子本社で7時間に及ぶ会議をしてから帰国した。大統領官邸によると、朴大統領とザッカーバーグCEOは、Facebookをプラットフォームにして新しいビジネスができるようにし、韓国政府が力を入れているベンチャー起業促進と、ベンチャーのグローバル進出をサポートする、といった話を交わしたという。


スマホ分野でのサムスンとの関係強化が狙いか?


 サムスン本社を訪問した時には、最新型スマートフォンの「GALAXY S4」(関連記事)を握りしめてやってきた。サムスンのイ・ジェヨン副会長、携帯電話事業部門シン・ジョンギュン社長、イ・ドンジュ副社長など、モバイルビジネス関連の役員とミーティングし、社内レストランで食事もともにした。サムスン会長の長男であるイ・ジェヨン副会長はFacebookに会員登録していないそうで、ザッカーバーグ氏に会ってみてどうだったかと質問する記者らに「FacebookのID持ってないのかってザッカーバーグに怒られた」なんていうエピソードを披露した。


 今回の訪問にはザッカーバーグCEOの他にFacebookのダン・ローズ副社長、スマートフォン向け「Facebook Home」を担当するプロダクトマネージメントディレクターのアダム・モセリ氏、モバイルパートナシップ部門副社長のボーン・スミス氏、同部門ディレクターのアロン・バースタイン氏も一緒だった。このことから、サムスンのスマートフォンにFacebook Homeを搭載して、両社がモバイル広告事業で手を結ぶぼうとしているのではないかと見られた。


 Facebookは台湾HTCと、いわゆるFacebook Phoneの「HTC First」を発売したことがある。あまり売れなかったどころか、発売中止になるかもしれないという噂が流れるほど、失敗作だと酷評された。Facebookはサムスンと手を結んで、Facebook Phoneを復活させたがっているのか。




 


サムスンはFacebook Phoneには慎重姿勢


 サムスン側は、「Facebook側とIT産業について多様な意見を交換し、パートナーシップについて話し合いをした」とコメントしながらも、Facebook Phoneについては「また今度話しましょう」というだけだった。


 2013年に入ってから、米Google共同創業者のラリー・ペイジCEO、米Microsoft創業者のビル・ゲイツ氏も韓国を訪問した。ザッカーバーグ氏と同じように朴大統領と面談し、サムスンの役員らともミーティングしている。


 この2人は朴大統領と、大統領のキャッチフレーズである「創造経済」(クリエイティブな発想が国家競争力につながるとしてソフトウエア産業とベンチャー活性化に重点を置く政策)について語った。サムスンとはスマートフォンのOSについて協議している。


 韓国マスコミは、GoogleやMicrosoft、Facebookは「サムスンが世界最大のスマートフォンメーカーであるために、仲が良いことをアピールするため韓国に来たのではないか」と分析した。


AndroidとTizen、Windowsを巡る思惑が交錯


 サムスンはGoogleのAndroid OSを搭載したスマートフォン「GALAXY Sシリーズ」を世界中でヒットさせた。一方で、米Intelや日本のNTTドコモと共同で「Tizen(タイゼン)」というLinuxベースのOS開発を支援していることから、「サムスンにとっての脱・Androidの日が近づいた」と騒がれている。


 一方のMicrosoftとサムスンのパートナーシップも揺らいでいる。サムスンが販売しているパソコンは全てMicrosoftのWindowsベースのものだが、Windows 8搭載ノートパソコンの売れ行きはぱっとしない。「Windows大好き」の韓国人でさえ、自宅用にはおしゃれで高画質の米Apple製のMacを購入する人が増えている。


 サムスンはGALAXY Sシリーズの前に、「Omnia(オムニア)」というWindowsベースのスマートフォンを販売したことがある。世界的にパソコンからタブレットへ重点を移すパソコンメーカーが増えている中で、Microsoftもまだサムスンとは仲良しパートナーであり、Windowsベースのスマートフォンに注力する可能性もある、ということをアピールしたかったのではないかと見られている。


 サムスンは最近、ソフトウエア人材の確保に乗り出していて、ハードウエアの製造だけではなく、「中身」も作れる企業になろうとしている。韓国ではサムスンとグローバルIT企業との提携だけでなく、サムスン自身がこれからどのように変身するかも注目されている。




趙 章恩=(ITジャーナリスト)

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韓国でスマホがないと不安で何もできない子供が続出、3歳から「スマホ中毒」予防教育義務化へ [2013年6月14日]

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韓国で「スマホ中毒(スマホ依存症)」が社会問題になっている。IT政策を担当する未来創造科学部と韓国インターネット振興院が2013年6月、10~49歳のスマートフォンユーザー1万683人を対象に調査したところ、10代の18.4%が「中毒」状態であるという結果になった。20~49歳の中毒率9.1%を大きく上回る。

 スマートフォンが手元にないと不安で、日常生活ができなくなる状態を「中毒」と判断する。2012年調査では11.1%だったのが、1年の間に7ポイントも増えている。スマートフォンユーザーの1日の平均使用時間は4時間、中毒と判定された人は1日7.3時間以上使っている。中毒者は1回当たり19分ほど、1日23回以上スマートフォンをチェックしていた。


 また別の調査では、未就学~小学生の7.3%が1日3時間以上インターネットを利用する「ネット中毒」(パソコン利用)という結果も出ている。小学生はネット中毒、中高生はスマートフォン中毒が問題である。


スマホ中毒とSNS中毒の“合併症”も


 一般的なスマートフォンユーザーは主にニュースや検索、メール、スケジュール管理といったことにスマートフォンを使う。一方で、片時も手から離せなくなる中毒状態の人は、SNSとゲームに使う時間が圧倒的に多かった。


 一般的なユーザーはスマートフォン使用時間4時間のうち3時間をSNSに使うが、中毒者は7.3時間のうち5.4時間をSNSに使っている。青少年のスマートフォン中毒は「SNS中毒」と言われるほどである。青少年のスマートフォン中毒者は1年に平均7.9回ほど、SNSで嘘を書き込まれたり、仲間外れにされたりする「ネットいじめ」を経験したことがある。




「ネットゲーム中毒」は解消に向かったが


 韓国インターネット振興院の『2012年インターネット利用実態調査』によると、6~19歳のスマートフォン保有率は64.5%で、2011年21.4%に比べ3倍も増えている。小学生から当たり前のように自分用のスマートフォンを持つ韓国では、デバイスの普及と共に小学校でも個人情報保護やネチケット(ネットで書き込みする際のエチケット)などを教えている。


 韓国では15年ほど前から、青少年の「ネットゲーム中毒」が社会問題になった。ネットカフェで寝泊まりしながらゲームのしすぎで“過労死”した事件、ゲームを止める家族に暴力を振るった事件、現実とゲームの世界を区別できなくなり殺人や自殺をする事件、などが何度も起きている。


 学校と政府機関、警察、病院が協力してネットゲーム中毒予防教室と治療教室を続けたことで、今ではネットゲーム中毒そのものが問題になることは少なくなった。ところが、それで一件落着とはならず、時代がパソコンからスマートフォンに移行した途端に、今度はスマートフォン中毒が問題化しているのである。


「中毒予防計画」もスマホ版に改定


 韓国政府は2013年6月13日、ネット中毒予防教育、ネットゲーム中毒予防教育など、別々に行っていた各種ネット中毒の予防教育を1つにまとめ、3歳から義務的に教育する総合計画を発表した。国家情報化基本法により2010年に成立した「インターネット中毒予防と解消総合計画」を改定し、幼児から大人まで、生涯にわたってネット中毒・スマートフォン中毒を予防し、治療・事後管理するという内容である。中毒予防・治療に関する韓国の経験や治療事例を海外に伝える国際協力も活発にする。


 総合計画では具体的に以下のような施策を掲げている。2015年までに幼稚園から高校まで予防教育の義務化、医学・科学的スマートフォン中毒治療モデルの開発、スマートフォン中毒予測指数の開発、「スマートフォン中毒対応センター」を11カ所から18カ所に増設、治療を終えた「回復者の集い」を結成、などである。幼児の場合は親に対する教育活動をして、子供がスマートフォン中毒にならないよう見守れるようにする。



政府が保護者向け「アプリ制限アプリ」を提供


 さらに、スマートフォン中毒・ネット中毒を細分化する。スマートフォン中毒の中でもSNS中毒なのかゲーム中毒なのか、ギャンブル中毒なのか、といった中毒の類型を細かく分けて、それに合わせて予防・治療をするのだ。この計画には、教育部、未来創造科学部、保健福祉部、女性家族部、文化体育観光部、放送通信委員会といったネットと教育に関わる省庁がすべて参加する。


 韓国政府は「子供のスマートフォン中毒を予防するためのアプリ」も開発している。親が決めたサイトとアプリしか利用できないようにしたり、ネットに接続する時間を制限できるアプリである。スマートフォンの使用時間と何に使っているのかを自動記録し、「やり過ぎ」と判断した場合、親と担任教師に連絡するアプリも登場した。


 スマートフォンの普及が速かった分、中毒という悪い面が出てしまった韓国。3歳からのスマートフォン中毒予防教育は効果を発揮するのか、中毒の原因と言われるSNS会社がどう対処するのかも気になるところだ。


趙 章恩=(ITジャーナリスト)

日経パソコン
 

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米ITC、アップルがサムスン電子の3G関連特許を侵害したと判定 韓国内では「裁判所マーケティング」との声も [2013年6月7日]

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米国際貿易委員会(ITC)は2013年6月4日、米アップルが韓国サムスン電子の標準核心特許(Standard Essential Patents)である通信方式CDMAの「インコーディング」「ディコーディング」関連特許を侵害したと判定した。

 これは(LTEではなく)3Gモバイルネットワーク関連特許である。この特許を巡ってはオランダの裁判所でもアップルが侵害したとしてサムスンが勝訴したことがある。ITCは、サムスンがアップルにこの特許に関して告知したにもかかわらず侵害した点に着目した。


iPhone4以前のスマホが“特許侵害”と判定


 ITCは特許を侵害した製品であるとして、アップルのスマートフォンiPhone3、iPhone3GS、iPhone4、iPad、iPad2を米国内に輸入してはならないという「輸入中断」まで宣告した。米国外で生産したアップル製品を米国内に輸入して販売してはならないということだ。同じアップル製品でも、米クアルコム製のチップを使っているiPhone4Sの場合は、クアルコムがサムスンに特許使用料を払っているから問題ないという判定になった。


 アップルは、サムスンの標準核心特許はFRAND(Fair, Reasonable And Non-Discriminatory)といって、誰でも特許が使えるようにしないといけないので訴訟の対象にはならないと主張した。だが、ITCは受け入れなかった。


判定勝ちのサムスンだが、新製品は無関係


 今回のITCの判定は2011年6月サムスンがITCに審査要求したもので、再審に再審を重ね、2年の歳月を経てやっと最終判定が降りたものである。サムスンとアップルはお互いに自社の特許を侵害されたとして、ITCに特許を侵害した製品を米で売ってはならないと主張。サムスンはアップル製品を、アップルはサムスン製品の輸入禁止を求めていた。ITCは「関税法」に基づき、特許を侵害した製品を米に輸入できないようにする。


 実は今回の判定は、サムスンにとっては、とても“大勝利”と言えるようなものではない。新製品は輸入禁止の対象にならなかったのでアップルの金銭的な損害はそれほど大きくない。今回はたまたまサムスン有利な判定が先に出たが、「サムスンがアップルの特許4件を侵害したのかどうか」に関するITC判定が8月に行われる予定。8月になったらアップルはサムスンの特許を1件侵害、サムスンはアップルの特許を4件侵害した、という判定で“逆転”される可能性もある。サムスンとしてはITCの判定に満足していられない状況だ。


米国政府vsアップルの対立も背景か


 とはいえ、ITCの判定は韓国で大々的に報道された。世界各国でサムスンとアップルの特許侵害訴訟合戦が続いている中、ITCの判定は今後の判決に影響を与える可能性があるからだ。


 今回のITCによる判定(アップルがサムスンの3Gネットワーク関連特許を無断で使用したという判定)は、現在両者の訴訟の中でも最も注目されている米カルフォルニア北部連邦裁判所の判決とも食い違いを見せる内容だった。ITCが認めれば、米国内の他の裁判所でも同じようにアップルがサムスンの特許を侵害したと判定する可能性が高い。


 一方で、別の角度からの見方もある。アップルは米国を代表する企業ではあるが、納税や雇用を巡っては米国政府と対立している。アップルに米国経済のためのアクションを促す意図で、ITCや米国政府が判定を“政治的”に利用したのではないか、というのだ。



裁判をマーケティングに活用?


 サムスンとアップルは2011年から、世界中の裁判所で30件を超える特許訴訟中である。通常、判決までに2~3年以上かかる。スマートフォンやIT機器の分野は製品サイクルが短く、判決が出る頃には、訴訟対象になった製品は古くなっている。販売差し止め訴訟の結果が出る前に、もう市場から消えているのだ。


 例えば、アップルが訴訟を起こした対象製品は2011年当時の最新機種「GALAXY S2」だが、販売差し止めをするまでもなく、今では“自然に”販売終了している。韓国ないのスマートフォンユーザーたちの反応は冷めている。「両社は無駄な消耗戦をやめて和解し、訴訟に使う時間と金を新製品開発に使えば?」というのがよくある意見だ。


 韓国のマスコミも、アップルがサムスンを訴えたおかげで、サムスン電子の知名度が上がり、ブランド価値も高くなったという、冷めた見方をしている。「裁判所マーケティング」という名称まで付けた。訴訟に使った資金の元は十分に取れたということだ。アップルとの訴訟が始まった2011年夏以降、サムスンのスマートフォンがどんどん人気を集めた。今や、アップルより売れるようになり、世界シェアではサムスンが優位に立った。


 裁判所マーケティングをあまり長々と続けていては、世界中のスマートフォンユーザーが白けてしまうだろう。ITCの判定をきっかけに、再審に再審を重ねていた訴訟もいよいよ決着がつきそうだ。




趙 章恩=(ITジャーナリスト)

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違約金なしで1年ごとに機種変更できる新プランがユーザーから不評、「ホゲン様になりたくない」 [2013年5月31日]

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韓国最大手通信事業者(キャリア)のKTは、2013年5月末からサムスン電子のAndroidスマートフォン「
GALAXY S4」を購入した先着1000人に対し、1年後に端末代金残高や「違約金」(24カ月契約とするいわゆる“2年縛り”の代わりに利用料金を割引してもらった分を違約金として支払い、自分割りとか家族割りなど割引してもらった分も返す)、その他手数料一切なしで新規スマートフォンに機種変更できる「チェンジアップ」プランを始めた。条件は月々5500円(直近の為替レートで日本円に換算した場合、以下同様)以上のLTE料金プランに加入すること、それから、1年後に機種変更をする際には端末を返納することである。

 つまり、通常の24カ月契約で加入し、利用料と端末代金を分割で支払う。12カ月過ぎた時点でKTの公式Webサイトから機種変更すれば、GALAXY S4の端末代の残金や24カ月契約を満たなさなったことに対する違約金はなかったことになる。新機種を選んでまた新しく24カ月契約で加入できる。










韓国キャリアKTのWebサイト。GALAXYS4を購入した先着1000人を対象に、1年後最新機種に機種変更できる特別プランを始めた。



頻繁に機種変更したい人には朗報のはずが…


 キャリアを乗り換える場合、契約期間が残っていても、「違約金相当を割引するからうちのキャリアに変えませんか」と代理店が勧誘することは、これまでにもよくあった。しかしキャリアが自ら違約金無しにして1年で機種変更できるようにしたのは、韓国ではこれが初めてである。


 スマートフォンの新機種は1~2カ月ごとに発売されている。「24カ月も同じ端末を使うのは嫌だ」というユーザーも多かったはずなので、チェンジアッププランは喜ばれるだろう…というのはキャリアの思い込みだったようだ。


 なぜなら、GALAXY S4の端末価格が7万円ほどと高めだ。端末代金の24回分割払い分を上乗せすると、最も安い料金体制を選んでも月々8500円程度を払う必要がある。1年後に解約すれば、チェンジアッププランに加入しない場合、端末の月賦残りと違約金で5万円ほど払わないといけないが、チェンジアッププランならこれが無料になる。しかし、ネット上では「KTの新プランはユーザーをバカにしている」という不評が絶えない。







趙 章恩=(ITジャーナリスト)

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