「韓国スマートヘルスケア最前線」 韓国医療機器、中国や新興国への輸出活発に [2013年10月30]

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 医療機器は米国やEU(欧州連合)、日本からの輸入に依存していた韓国だが、2012年から新興国への輸出が増加しはじめた。韓国食品医薬品安全処によると、2012年の輸出は対前年比17.6%増の19.67億米ドル。輸入は同3.2%増の26.01億米ドルだった。貿易赤字は2011年の8.48億米ドルから2012年には6.34億米ドルに減少した。

 韓国が輸出している医療機器は、超音波診断装置が多い。実際、医療機器メーカーの輸出額上位も、サムスンメディソン(2.1億米ドル)、韓国GE超音波(1.8億米ドル)、NUGA医療機(0.72米億ドル)と超音波診断装置の関連企業が並んだ。

 韓国の医療機器輸出額は、中国・ロシア・インド・中南米など新興国で着実に伸びている。韓国保険産業振興院によると、医療機器の輸出全体では前述の通り2012年に対前年比17.6%増加したが、中国向けの輸出額に限れば66%増、ロシア向けは25.4%増、中南米と新興国向けは36%増加しているという。

 韓国の医療政策を担当する省庁である保健福祉部(部は省)は2013年10月23日、韓国製の医療機器の海外輸出を支援する「海外医療機器総合支援センター」をベトナムとインドネシアにオープンした。このセンターは、韓国製の医療機器であればメーカーに関係なく修理やアフターサービス、現地の医療従事者を対象にした医療機器使用教育、韓国中小医療機器メーカーの海外進出のための販売代理や輸出手続き代理などの役割を担う。

 海外医療機器総合支援センターは、韓国と東南アジアの政府間保健産業分野の協力増進のための支援活動である。韓国保健福祉部は、国をあげて医療機器の輸出に力を入れていると現地政府にアピールすることで、韓国製の医療機器の認知度やブランド価値を高め、輸出増加につながることを期待している。オープン初日には韓国から保健福祉部や医療機器協同組合などの役員が現地を訪問し、ベトナム・インドネシア両政府と韓国製の医療機器輸出のための許認可手続きについて意見交換した。

 韓国は今後新興国が医療機器の主な顧客になると展望している。先進国は既に米国やドイツ、日本の医療機器が市場を確保しているので、超音波診断機器がメインの韓国のメーカーが進出するのは難しい。一方、中国や新興国は経済発展により医療サービスの需要が高まっており、医療機器もほぼ輸入に依存しているので、韓国の医療機器も輸出できるチャンスがあると見込んだのだ。

 特に中国は人口が多く生活水準も高まっていることから、米国に続いて世界第2位の医療機器市場になると韓国のメーカーは展望している。中国には既に韓国医療機器メーカーのサムスンメディスン、Lutronic(医療用レーザー機器)、VATECH(歯科用CT)、CU Medical Systems(AED)などが進出している。中国の医療市場への進出を狙う韓国企業はとても多く、韓国の通信キャリアであるSKテレコムも熱心に動いている。中国の医療機器メーカーであるTIANLONG(天隆)社を買収し、中国の医療情報ネットワーク構築や体外診断機とIT技術を融合したヘルスケア・サービスを始める準備を進めている。

 韓国保健産業振興院は、新興国進出支援活動の一環として中国各地で韓国製の医療機器と病院を輸出するための「韓国医療宣伝活動」を行っている。病院輸出とは、韓国の大手病院を中国に設立することで、病院の建設から医療機器、医師、看護師、医療情報システムなど全てを韓国の大手病院と企業が手掛けることを指す。韓国の技術で最先端の病院を中国に作り、中国にいる医師と韓国にいる医師をつなげる遠隔診療でより質の高い医療サービスを提供することを狙う。

 韓国保健産業振興院は2013年9月、中近東に韓国製の医療機器を輸出するため、エジプトやアラブ首長国連邦の医療機器メーカーを韓国に招待し、現地進出のためのマーケティングや流通事業者選定について学ぶシンポジウムも開催した。韓国保健福祉部は、医療機器産業の海外進出活性化のために全省庁が参加する産業育成案について議論を始めた。政府の積極的な支援を追い風に、韓国製の医療機器の新興国向け輸出は、今後も大きく伸びそうだ。



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By 趙章恩の「韓国スマートヘルスケア最前線」
日経デジタルヘルス
 2013年10月30
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メール・LINEの普及で低迷する韓国郵便局が“奇策”、郵便局でMVNOスマホ販売 [2013年9月6日]

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韓国郵便局は2012年時点で累積赤字約700億ウォン(約68億円)を記録した。韓国の郵便局は政府が運営している。郵便量の減少から、特に郵便事業の赤字がひどい。韓国では光熱費やクレジットカード請求書、行政機関からの案内などもほとんどがメールで届く。郵便局で利用するのは貯金と宅配ぐらいになってしまった。

 韓国郵政事業本部は、メールやLINE、KAKAOといった通信手段が一般に広く普及したことから今後も赤字が続くとして、経営改善のため大都市を中心に郵便局を大幅に統廃合する方針を発表した。空いたスペースを貸し出して収益を上げるという。

 もう1つの“奇策”が、郵便局の収益改善のために始めるMVNOスマートフォン販売である。2013年9月23日から、全国の郵便局で「中小MVNO」6社のスマートフォンを販売する。ユーザーが郵便局のMVNO専用窓口でパンフレットや端末を見てMVNOと端末を選択すると、数日内に郵便局の宅配便で自宅に端末が届く。郵便局の職員を教育して、MVNOの料金制度や端末の特徴を説明できるようにする。独自の販売網を持つケーブルTV会社や大手流通チェーン店、キャリア(通信事業者)の子会社などの「大手MVNO」は対象外である。

スマホ対応で課題を抱えていた韓国MVNO

 この施策は、韓国MVNO業界の事情とも関係している。

 MVNOではサムスン電子、LG電子、中国ZTEなど大手メーカーと、韓国の中小メーカーのスマートフォンを利用できる。韓国の大手キャリアは他社から乗り換えると料金が安くなるとか、端末代が安くなるとか、いろいろな特典を付けて販促している。一方のMVNOではプリペイドで通話料やデータ通信料は大手キャリアより20~30%ほど安いものの、端末購入補助金がない。サムスンのGALAXYシリーズやアップルのiPhoneなど高機能なスマートフォンを選択すると、大手キャリア利用よりもトータルの費用が割高になってしまうこともある。

 こうした課題を解決するため、9月4日に、MVNO事業者と、サムスン、LG、ソニーモバイルなどのメーカーが参加する「MVNO端末共同調達協議体」が発足した。MVNO専用のシンプルで安いスマートフォンを増やしたり、MVNOが大量に端末を調達することで最新機種の価格を少しでも抑えたりという取り組みを進める。MVNOのスマートフォンは現在15機種ほどあるが、協議体は2013年末までに7機種程度を追加する予定である。

流通網の問題を郵便局の信頼性で解決

 端末の種類は増えるが、残った問題が流通である。今まではMVNOのオフライン代理店は少なく、ほとんどネット上だけで販売している状態だ。2012年末時点で大手キャリア3社の代理店は全国4812店、販売店(キャリア3社の端末を全て販売する店舗)は2万店に及ぶ。一方のMVNOの代理店は全国280店ぐらいしかない。

 コンビニエンスストアでもMVNO2社のスマートフォンを販売しているが、選択肢が少なすぎる。コンビニには料金制度や端末の特徴をよく知っている販売員もおらず、不安を感じる利用者が多いために売れ行きは芳しくなかった。


MVNOスマートフォンの1つである、サムスン電子製の「GALAXY M」はコンビニやネットで購入できる。

 郵便局ならMVNO6社を扱うので選択の幅が増え、局員が説明をしてくれるので利用者の不安も少ない。国営の郵便局で販売することによって、MVNOの信頼度を底上げする効果も狙える。2013年後半にはMVNOのスマートフォンユーザーがかなり増えそうだ。

 韓国のMVNO加入者は2013年8月末時点で約200万人。全携帯電話加入者の3~4%という規模である。韓国のICT政策を担当する省庁に当たる未来創造科学部は、欧米のようにMVNO加入者が全携帯電話加入者の10%を超えると、MVNOと大手キャリアの競争が促進されて、より安い費用でスマートフォンを利用できるようになると見込んでいる。

趙 章恩=(ITジャーナリスト)

日経パソコン
 

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http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20130906/1104066/

韓国のタブレット市場は7~8インチで勝負、難しいスマートフォンとの差異化 [2013年8月30日]

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韓国は教育分野ではタブレットや電子黒板を使ったデジタル教育が盛んなだけに、タブレットの普及率が高いように思われがちだ。だが実際には、スマートフォンは売れてもタブレットはなかなか売れない市場である。

 タブレット販売台数は伸びるどころか減少している。韓国IDCの調査によると、韓国内のタブレット販売台数は2010年39万8660台から2011年139万7172台と3倍以上に増えたが、2012年には125万5956台と前年比10%ほど減少している。

 世界市場ではタブレットの販売台数が大きく伸びている。2012年は前年の1億4440万台より60%ほど増加した2億2930万台だった。タブレットは特に米国と発展途上国で売れているという。米国では小型TVの代わりにタブレットを利用する家庭が増えていることから「テレビのライバルはタブレット」とまで言われているそうだ。韓国IDCは、世界市場におけるタブレットの販売台数は2017年まで年平均23.2%成長し、スマートフォンの年平均成長率(16.9%)を上回ると展望している。

iPad mini発売以降、タブレットが話題にならず

 一方、韓国内を見ると、スマートフォンに比べタブレット新機種発売のニュースがあまりない。そのせいか米アップルの「iPad mini」発売以降、2013年に入ってからはほとんどタブレットが話題になることはなかった。ようやく8月中旬になって、9月に開催するドイツの家電展示会IFAと新学期に向け、タブレットの新機種が発売されるようになった。

 韓国のタブレット市場は、サムスン電子とアップルが競争するハイエンド市場、中国メーカーと韓国中小企業メーカーの価格競争が激しいローエンド市場、幼児向け教育端末市場の3つに大きく分けられる。

 サムスンとアップルは10.1インチタブレットで競争してきたが、最近はサイズがだんだん小さくなっている。学生の間では10.1インチの大画面タブレットが人気だが、社会人には、スマートフォンとノートパソコンの間を埋めてくれるサイズのタブレットの方が人気である。

 韓国では、何でもポケットに入れて、会社に行く時も遊びに行く時もバッグを持たない社会人男性が多い。これも、ジャケットの内ポケットに入れるか、あるいは片手で持ち歩ける7~8インチのタブレットが売れる理由である。

サムスン「GALAXY Tab 3」は少し大きめ

 サムスンが韓国で2013年8月22日販売した新しいタブレット「GALAXY Tab 3」は、8インチの画面に厚さ7.4mm、重さ314gとだいぶ軽くなった。サムスンは「片手で握れる大きさと重さで、携帯性を強化したタブレット」だと強調している。7インチではなく8インチにしたのは、直前に発売したスマートフォン「GALAXY Mega」が6.3インチなので、スマートフォンより大きく、手軽に持ち歩けるサイズでありながらもタブレットらしさを出すためではないかとみられる。

 サムスンは、2011年にLG電子が発売した幼児向け7インチタブレット「キッズパッド」に似た「GALAXY Tab 3キッズ」も9月に発売する予定だ。LGのキッズパッドはインターネットにつながらず、コンテンツはゲーム機のように専用のメモリーを差し替えて利用するモデル。一方のサムスンGALAXY Tab 3キッズは、無線LAN(Wi-Fi)につながるようにした。

 タブレットの新製品競争から一歩引いていたLGも、8インチモデルで再び挑戦する。2013年9月のIFAで8.3インチの「G Pad 8.3」を展示することが決まった。画質にこだわったタブレットで、発売は10月の予定である。

グーグルの第2世代「Nexus 7」がサムスンの脅威に

 サムスンのタブレットに劣らない仕様なのに1万円以上安いことから、米グーグルの新しい「Nexus 7」(関連記事)も大きな話題になっている。韓国では8月26日から予約販売を開始した第2世代Nexus 7は、「全てが新しい、生まれ変わった」と宣伝している。

 初期モデルより薄くて軽くなっただけでなく、1920×1200ドットの高画質である。画面の密度は323ppi(1インチ当たりの画素数)とタブレットの中では世界最高レベルで、文字がくっきり見える。真っ黒い外観で高級感があるという点も人気の秘訣である。

 韓国内での正式発売を待てず、「個人輸入してしまった」と新しいNexus 7を自慢するブログも多かった。カメラが500万画素という性能にとどまるところは残念だが、タブレットでよく利用する動画再生、電子書籍閲覧には価格も性能もちょうどいい。韓国では、初代のNexus 7はいつも品切れで買いたくても買えなかった。第2世代はいつでも買えるようにしてほしいものだ。そうすれば少しはタブレット販売台数が伸びるかもしれない。

Amazon Kindle不在の韓国市場

 Nexus 7よりも安くてシンプルなタブレットもある。ネット書店のインターパークは2013年8月16日、中国で製造した7インチの「ビスケットタブ」を発売した。約1万5000円と韓国で販売している7インチタブレットの中では最も安い水準である。インターパークが販売する電子書籍リーダーとして使うのはもちろん、インターネット検索やGoogle Playストアのアプリも利用できるようにした。普段はスマートフォンを使うがたまに動画や電子本をもう少し大きな画面でベッドに寝ころがって観たい、タブレットは子供の絵本アプリを再生するぐらいしか使わない、という人にはちょうどいい。

 実は、韓国はまだ米Amazon.comが進出していないので、Amazonのタブレット・電子書籍リーダーの「Kindle」は正式発売していない。Kindleが発売されれば利用できるコンテンツが増えるので、タブレット市場に活気が出るかもしれない。

 スマートフォンとの差異化が難しくなったタブレットだが、新機種が続々発売される秋以降は動きがありそうだ。

趙 章恩=(ITジャーナリスト)

日経パソコン
 

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金好きなお国柄? サムスンが韓国でシニア向けスマホ「GALAXY Golden」発売 [2013年8月23日]

韓国サムスン電子がガラケー(従来型携帯電話)のようなデザインのフォルダー(折りたたみ)型LTE対応スマートフォンを発売した。シニア層をターゲットにしたスマートフォンということで、その名もずばり「GALAXY Golden」。

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韓国サムスン電子が発売したシニア層向けスマホ「GALAXY Golden」。

 「シルバー」ではなく「ゴールド」なのが韓国らしい。ちなみに、中国人の金好きは有名だが、韓国も負けないほど金好きで、貯金の代わりに金を購入する投資が流行っている。

 端末は全体がゴールドというわけではなく、黒を基調にふちがゴールドなのだが、高級感たっぷりのデザインに仕上がっている。韓国のスマートフォンユーザーの間ではかなり話題を呼び、シニア層をターゲットにしているにもかかわらず、珍しい端末好きの20~30代の若者にも売れているようだ。ブログでは「お父さんにプレゼントしたい」「持っているだけで金持ちに見えそう」という書き込みも増えている。

3.7型タッチディスプレイを2つ搭載

 GALAXY Golden は、3.7型のデュアルタッチパネルで、フォルダーの両面にディスプレイがついている。フォルダーを閉じたまま普通のスマートフォンのようにタッチして使い、フォルダーを開くとガラケーのように使える。

 サイズは幅118×奥行き59.5×高さ15.8mm。女性の手の大きさでも使いやすく、片手にすっぽり入る。重さは179gある。タッチパネルが両面に付いているせいか、若干分厚く、重く感じる。800万・190万画素カメラ、FMラジオ受信機能も付いて端末出荷価格は約7万2000円だ。

 タッチパネルで文字を入力するのが苦になるシニア向けに、メールやSMS(ショート・メッセージ・サービス)を利用する時は使い慣れたガラケーのように、キーパッドでボタン操作できるようにした。無料通話・SNS・マップ・電子書籍などスマートフォンで人気のアプリも使える。キーパッドでKAKAOやLINEを使えると、もっと早く楽に文字を入力できそうだ。

端末のどこに耳を当てても声が聞こえる

 GALAXY Goldenのタッチパネルのホーム画面も、シニア向けにシンプルにした。体重管理や万歩計機能があるサムスン独自のヘルスケアアプリ「Sヘルス」、名刺をカメラで撮影するとアドレス帳に電話番号やメールアドレスなどを自動保存できる名刺認識アプリをプリインストール。最新のスマートフォン「GALAXY S4」で使える機能はおおむねGALAXY Goldenでも使える。

 通話の際にはフォルダーを開かず、端末のどこに耳に当てても声が聞こえるというのも面白い。インターネットも使うが、音声通話の方が多いという人にはぴったりのスマートフォンだ。サムスンは「消費者の個性とニーズを反映してスマートフォンのラインアップを強化していく」とコメントした。

中国では富裕層向けに発売済み

 実はこのスマートフォン、一足先に昨年末中国で発売されている。ジャッキー・チェンがCMに出演し、中国の富裕層が好きな金色スマートフォンとして話題になった。端末価格は約15万円と韓国の2倍だったにもかかわらず、「今までで一番使いやすいスマートフォンだ」として富裕層のビジネスマンに売れた。

 サムスンのGALAXYシリーズはピンク、パープル、ブルーなどもともとカラーバリエーションが豊富だ。一方、米アップルが近々発売すると噂されるスマートフォンの新機種“iPhone 5S”で、従来機のホワイト、ブラック以外に「シャンパンゴールド」をラインアップするようだ。サムスンはアップルに対して先手を打ってゴールドのスマートフォンを発売したという報道もある。金好きな中国市場を狙ってiPhoneもゴールドを出すというのだ。

 米ストラテジー・アナリスティクスによると、2013年4~6月の世界LTEスマートフォン市場シェアはサムスンが47.0%(販売数2720万台)で1位だった。2位はアップルで23.5%、3位はソニーで6.2%だ。シニア層や富裕層、新興国市場も巻き込んで、スマートフォン市場の競争がますます盛り上がってきた。

趙 章恩=(ITジャーナリスト)

日経パソコン
 

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韓国LGが激戦区米国で新スマホ「G2」発表、アップルとサムスンの牙城に切り込む [2013年8月9日]

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韓国では「LTE」よりも2倍速いモバイル通信である「LTE-A」対応のスマートフォンが増えている。サムスン電子の「
GALAXY S4」に続いて、LG電子も「G2」という名前のスマートフォンを公開した(関連記事)。パンテックも「VEGA LTE-A」を発売した。

 LGはG2のプレス向け製品公開イベントを2013年8月7日米ニューヨークで開催した。サムスンはいつも新しいスマートフォンの公開イベントを欧米で行っている。LGもスマートフォンの激戦区である米国でスマートフォン公開イベントを開催することで、世界市場を攻めるという意思をはっきりと表明した。
 


2013年8月7日に米ニューヨークで開催された韓国LG電子の新型スマートフォン「G2」公開イベントの様子

「G2」の外観。5.2型フルHDディスプレイを搭載し、細いエッジ幅も特徴的

 それほどG2はLGの野心作、自信作ということだ。G2は8月8日から韓国で発売し、その後世界130キャリアから販売する計画である。

5.2型フルHDの画質、24ビット192KHzの高音質

 LGは記者会見で「G2は史上最高の自信作」であると強調した。

 5.2インチのフルHDのIPSディスプレイにLTE-A、2.26GHzのクアルコム製スナップドラゴン800プロセッサー、外側1300万画素カメラには手振れ補正機能も搭載した。内側カメラは210万画素。カメラのレンズは指で触っても指紋が付きにくくした。

 何といってもG2の自慢は音質にある。24ビット192KHzのハイファイサウンドで、スタジオ録音の原音を再生できるレベルだという。CD(16ビット、44.1KHz)の音質をはるかに超えている。もちろん通話品質も良くなった。バンドルイヤホンも2万円はする高級イヤホンと差がない着用感と音質で差異化した。

ユーザーインタフェースに一工夫

 G2のキャッチフレーズは「Learning From You」。顧客こそがイノベーションの源で、ユーザーの意見を最大限に反映したスマホだという。「G2を使うことでユーザーは日常の中で、感動と楽しさを味わえる」との説明だ。ただし、米アップルのiPhone 5や、サムスンのGALAXY S4もCMで確か同じことを言っていたような……。

 それはともかく、G2の面白いのは、電源ボタンとボリューム調整ボタンが全て端末の後面にあることだ。これはスマートフォンユーザーの行動を観察した結果生まれた変化で、端末を握りしめたまま楽に人差し指でタッチできるようにするためだという。端末の前面にあったボタンはディスプレイに電源が入ると使えるソフトキーに変えた。

 ディスプレイは5.2インチと大きいが、横幅は2.7インチなので、女性でも握りやすくなった。5インチ以上のスマートフォンだと大きすぎてうまく握れず、通話する度に手が疲れたが、これなら大丈夫だ。

「ノックオン」「電池長持ち」など新機能多数

 もう1つ、「ノックオン機能」も面白い。iPhoneなら端末前面にあるボタンを押してディスプレイの電源を入れるが、G2はディスプレイの上を2回ノックして電源を入れたり消したりする。

 パソコンのログオン機能のように、1つのスマートフォンで複数のユーザー向けの画面を設定できるのも特徴だ。子供がスマートフォンで遊ぶ時はカメラと写真アルバム、学習アプリだけ使えるようにできる。安心して親のスマートフォンを子供のおもちゃとして使わせることができる。

 スマートフォンのヘビーユーザーにとって嬉しいのは、何といってもバッテリー長持ち機能だろう。G2はGRAM(Graphic RAM)を適用して、同じ画面をずっと見ている時はCPUを休ませる。この手法で使用可能時間を10%以上伸ばした。バッテリーは「Stepped Battery」というもので、従来のバッテリーに小さいバッテリーをくっつけている。バッテリーとカバーの間の隙間を埋める形で小さいバッテリーをもう1個増やし、さらに使用時間を伸ばしている。

iPhone 5とGALAXY S4の牙城を崩せるか?

 G2発売前から、韓国のスマートフォンユーザーの間で「LGがすごいスマホを発売するらしい」と噂が絶えなかった。韓国のスマートフォン市場はiPhone 5とGALAXY S4ががっちり握っているので、もっと他に選択肢が欲しいと願うユーザーが多かった。

 しかし、実際にG2が発表発表されると、「G2の性能はすごいし、斬新な機能が盛りだくさんなので使ってみたい。けれど今使っているスマホも悪くないし、LTE-Aにしなくてもインターネット速度が遅いと感じないし、悩ましい」という意見が多い。

 G2の端末価格は9万円ほどもする。キャリアから乗り換え補助金が出たとしても、6~7万円は払わないと入手できない。スマートフォン新機種の性能が良すぎて、逆にそこまでいらないから端末価格を安くしてほしいという意見も増えている。

 LGは、G2を世界市場で1000万台以上販売し、フィーチャーフォン時代の栄光を取り戻すのが目標だ。サムスン、アップルに続く世界3位のスマートフォンメーカーの地位を固めることを目指している。G2の投入でその目標に近づけるだろうか。

趙 章恩=(ITジャーナリスト)

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スマホが売れない? 次の市場「スマートウオッチ」狙うサムスンとLG [2013年8月2日]

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スマートフォン市場に異変が起きている。

 このところ、韓国サムスン電子(スマートフォン世界シェア1位)の「GALAXY S4」や、米アップル(シェア2位)の「iPhone 5」のようなハイエンドスマートフォンの需要が減り、出荷台数も営業利益も減るだろうと予測する証券市場関係者のリポートが相次いでいる。これらの市場関係者は、ハイエンドではなく、300ドル以下のリーズナブルな端末の方が売れる時代になると見ている。

 実際に2013年7月末に各社が発表した4~6月の業績を見ると、韓国のサムスンとLG電子(世界シェア3位)、アップルの3社ともに、スマートフォン出荷台数の多さに比べて利益水準はそれほど高くない。サムスンの場合、ITモバイル部門の売上は前期に比べ8%増加しているが、営業利益は前期に比べ3%減っている。

 サムスンは「スマートフォンの売上高は伸びている。パソコンとネットワーク事業の実績が落ち込んでいること、新製品研究開発・流通投資の拡大により、前期比営業利益は小幅減少した」と説明した。

 LGも4~6月に出荷台数は伸びたが、平均販売単価が落ちたことで前期比売上も営業利益も落ち込んでいる。アップルも4~6月に3120万台ものiPhoneを販売したものの、純利益は前期比22%減少した。既にスマートフォンの普及率が高くなったことで、欧米市場での販売が落ち込み、途上国向けの安い端末しか売れないのでスマートフォンの利益は減少すると証券会社らは予測している。

アップルだけではなく韓国2強もスマートウオッチの商標出願

 そのせいか、アップルに続いてサムスンとLGもスマートフォンの次のハイエンド市場として、腕時計型デバイスの「スマートウオッチ」に力を入れている。

 サムスンのスマートウオッチは「Samsung Gear」という名前になりそうだ。サムスンは韓国と米の当局に「Samsung Gear」を商標登録した。登録した内容を見ると、Samsung Gearは、「PCやスマートフォン・家電とデータのやりとりができる、健康状態記録のための多機能ソフトウエア、デジタルカメラ、GPS位置確認システム装置、音響と映像の記録・再生・転送装置、TV受信機、コードレスヘッドセット」などの機能が搭載されるようだ。

サムスンは既に開発完了か?

 韓国マスコミは、「サムスンは既にSamsung Gearの開発を完了し、インドで製品テストをしているのではないか」「2013年9月にドイツで開催される世界家電展示会(IFA)で初めてGearを公開するのではないか」と見ている。そうなれば、アップルよりも先にサムスンがスマートウオッチを発売する可能性も高くなる。サムスンはIFAで「怪物」と噂される超ハイエンドスマートフォン「Galaxy Note 3」を披露する予定でもある。

 LGは韓国の特許庁に「G Watch」「G Glass」というブランドを商標登録出願した。名前からしてウエアラブルデバイスなのは間違いないだろう。LGは、「商標登録出願しただけでどのようなものになるかはまだ決まっていない」と説明した。

韓国ネットユーザーもアップルに熱視線

 日本でもソニーがスマートウオッチを発売して話題になっているが、韓国ネットユーザーの間でもスマートウオッチは話題の中心になっている。韓国でも本命はやはりアップルの「iWatch」(関連記事)。その理由はデザインにある。

 アップルなら普通の時計と変わらないかっこいいデザインのスマートウオッチを作りそうだという期待が高まっている。サムスンかアップルか、どっちのスマートウオッチにするかは、性能だけでなくデザインにかかっている。防水機能があってディスプレイがきれいな方を選ぶという意見も多い。

 アップルのスマートウオッチも10月には公開されるのではないかと見られる。年末商戦期には、スマートウオッチ競争が本格的に始まりそうだ。

趙 章恩=(ITジャーナリスト)

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韓国電機大手のサムスンとLG、ハードの次はソフト人材確保で激しい競争 [2013年7月26日]

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韓国では、ディスプレイの大きさ、3Dテレビの技術、冷蔵庫の容量の大きさ、スマートフォンのデザインなどあらゆる分野で、サムスン電子とLG電子が競争し続けている。今度はソフトウエア開発人材確保を巡り、新たな競争が激化している。

サムスン電子は「分離融合」型のソフト技術者育てる

 一歩先にソフトウエア開発人材確保に乗り出したのはサムスンである。これからもハードウエアを売り続けるためにはソフトも一緒に開発しなければならないとして、ソフト人材教育に力を入れ始めた。

 2013年からは文系人材を採用してソフトウエア開発を任せると発表した。まさに「文理融合」、文系と工学系の両方の考え方ができる人に育てるということだ。従来のサムスンの新入社員は8割が理系・工学系だった。

 文系出身でソフトウエア開発職になるためには、採用試験に合格して内定をもらい、その後「サムスン・コンバージェンス・ソフトウエア・アカデミー」で6カ月間960時間のソフトウエア開発教育を履修しなければならない。修了しなければ採用はなかったことになる。まずは今年200人を採用し、徐々に拡大していくとしている。2013年度の新入社員は全9000人を採用する予定である。

技術そのものに加えて「感性」を重視

 実験的ともいえる「文系人材をソフト開発者に育てる」という採用方式は、未来を考えてのことである。サムスンは、これからは技術そのものの競争よりも、人間の感性や感情に訴えられるように技術・サービスを組み合わせられる力、「融合」力の競争になると見ている。故スティーブ・ジョブズ氏のような、哲学を専攻した開発者、人間と文化を理解できる文理融合人材こそが、未来をリードすると強調する。

 サムスンは今年から5年間、小中高校生4万人、大学生1万人を募集してソフト開発教育を実施する計画も持っている。大学生の場合は、コンピュータサイエンスなど工学専攻者と、文系学生などコンピュータ非専攻者に分けて教育を行う。学生の頃からサムスン向けの人材になるよう教育して、その後に採用しようという考えだ。

LG電子は「コーディング専門家認証」制度

 LG電子もソフトウエア人材を大事にしている。2012年からは社員を対象にした「ソフトウエアコーディング専門家認証」を設けて、プログラミング言語でソースコードを作成する能力の優れた社員を専門家として認証している。

 この専門家に選ばれると、社内講師となってセミナーをするなど他の社員のお手本として活躍することになる。インセンティブ(報奨金)がもらえるのはもちろん、海外カンファレンスへの参加や、研究委員として昇格できるチャンスも与えられる。

長時間労働・低賃金から脱却できるか?

 韓国政府も2013年末までにソフトウエアセキュリティ専門家200人を養成する計画を発表した。相次ぐサイバー攻撃・ハッキング事件に歯止めをかけるため、政府Webサイトのセキュリティ脆弱性を把握し、防御できる人材を育てるのが目的だ。

 ソフトウエアセキュリティ専門家は、6年以上の開発経験と、3年以上のセキュリティ診断経験があり、韓国インターネット振興院の専門家養成課程を履修する。要件を満たすと、安全行政部(省)から資格証をもらえる。

 韓国では長時間労働、低賃金で、定年退職も早いのがソフト開発者のよくある姿だった。ところが最近は大手企業がこぞって「これからはソフトウエアが競争力を左右する」として、開発者を大事にする意向をアピールしている。ソフトウエア開発人材確保競争が開発者の待遇改善につながるとことを期待したい。

趙 章恩=(ITジャーナリスト)

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韓国の夏休み商戦、LTE-Aと屋外で動画を楽しめる超小型プロジェクターが人気 [2013年7月19日]

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 ここ数年、韓国では夏の休暇の過ごし方として、海外旅行とキャンプが流行っている。海外旅行は格安航空が増えたことで、国内旅行にちょっとお金を足しただけで東南アジアに行けるようになったからだ。格安航空の影響で、以前は8月に集中していた夏の休暇が、5~9月に分散したほどだ。去年までも7月からキャリアの定額制データローミングのCMが増えていたが、最近は年中海外でもデータ通信を安く使える料金制があると宣伝している。

 国内旅行は森や川でテントを張って寝るキャンプが大人気だ。ソウル市内にまでキャンプ場ができたほどである。ホテルの庭に高級テントを張って「キャンプっぽい」雰囲気を楽しみ、夜はホテルの部屋で寝るというパッケージ商品も人気が高い。

キャリア・電機メーカーが旅行者のニーズに対応

 キャンプ好きな人が増えたことを背景に、韓国の通信事業者(キャリア)はこの夏、「野外で映画を楽しめる」LTE高速通信サービスと、超小型プロジェクターのプロモーションを始めた。

 サムスン電子は、モニターを取り外してタブレットとしても使えるLTE対応Windows 8パソコン「ATIV Tab LTE」「ATIV Pro」の体験イベントを本社ショールームや代理店などで開催している。LTEを使えるATIVノートパソコンがあれば、アウトドアでも高速モバイル通信で仕事をさくさくこなし、映画やドラマ再放送など映像コンテンツもスムーズに楽しめると、宣伝している。

 
サムスン電子のLTE対応Windows 8パソコン「ATIV」。

 ATIVを買って、韓国大手キャリアSKテレコムのLTEデータシェア料金に加入すれば、1台分の料金で、スマートフォンとノートパソコンの2台からLTEを使える。LTE端末別にデータ料金を払う必要がないため、LTEノートパソコンも売れるようになった。

2013年6月末から始まったLTE-Aサービス

 SKテレコムは、2013年6月末からLTE-Aを商用化した。LTE-Aは800Mhzと1.8GHzの2つの周波数帯域を同時に使う「キャリアアグリゲーション技術」を使うことで、既存LTEの2倍に当たる最大150Mbpsの高速通信を可能にした。SNSを使ったビデオ通話、映像ストリーミングもすいすい利用できる。

 SKテレコムによると、LTE-Aを商用化してから2週間でLTEからLTE-Aに乗り換えたユーザーが15万人を超えた。新規加入者、機種変更加入者の約30%がLTE-Aを選択しているという。SKテレコムは音声通話もCDMAではなくLTE回線を使えるようにしている。音声通話をLTE回線に変えると音質がきれいになり、電話がつながるまでにかかる時間も断然短くなるという。

 LTE-A加入者だけが使えるFull HDストリーミングサービスや、同時に4人でテレビ電話ができるグループビデオ通話サービスも始めた。高速無線通信回線が登場したおかげで、モバイルデバイス向け映像コンテンツサービスも人気を集め、スマートフォン向け小型プロジェクターの需要が増え始めた。

超小型プロジェクターも人気

 スマートフォンに取り付けて使う2万円ぐらいの4.5cm×4.5cmサイズの超小型プロジェクター「スマートビーム」も人気商品である。キャンプ場で、家族みんなが集まって大画面で映画を楽しむための必需品だ。
 

 
SKテレコムの「スマートビーム」はスマートフォンに取り付けて使う超小型プロジェクター。キャンプに行く人が増えていることから、野外劇場風に映画を楽しむ用途を訴求している。LTEの普及で映画をストリーミングでもすいすい利用できるようになった。

 スマートビームはアシアナ航空の機内免税品としても販売されているほど人気だという。プロジェクターというと会社用、学校用というイメージがあるが、韓国では「ベッドに寝転がって天井に映画を映せるところがいい」と、個人用プロジェクターに興味を持つ人が増えている。他方で、自宅ではテレビもパソコンも使わずスマートフォンですべてを済ます人も増えているため、ホームシアターの代わりにスマートビームを買うの人も増えてくるかもしれない。

 SKテレコムはソウルの真ん中を流れる川、漢江(ハンガン)沿いの公園でスマートビームをレンタルできるイベントを開催する予定である。真夏になると少しでも涼しい場所を求めて漢江公園にテントを持ってきて寝泊りする人もいる。特に今年は電力不足で厳しい節電を強いられているので、エアコンをつけられず、漢江にやってくる家族が増える見込み。スマートビームをレンタルして、ちょっとしたキャンプ気分で家族だけの野外映画を楽しめるイベントになりそうだ。

趙 章恩=(ITジャーナリスト)

日経パソコン
 

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http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20130719/1098229/

「韓国スマートヘルスケア最前線」Samsungの腕時計型端末「GALAXY Gear」、韓国ではヘルスケア機能に注目

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GALAXY Gearは、腕時計型の端末。スマートフォンやタブレット端末と連動して日常生活をより便利にするというもの。カラー・バリエーションも豊富だ。2013年9月中旬以降、世界140カ国で販売する予定である。

 今回公開した“バージョン1”は、米Apple社よりも先に腕時計型端末を公開する目的が強かったようだ。機能とデザインを補い、2014年1月に米国ラスベガスで開催される展示会「CES」において“バージョン2”を公開するという噂が絶えない。

 GALAXY Gearは、音声認識による電話やメール、スケジュール・天気確認、アラーム設定といった基本機能はもちろん、同端末でメールのタイトルを読んでスマートフォンを取り出すと、何の操作をしなくてもすぐ該当するメールの本文がスマートフォンの画面に登場するといった「スマートリレー」機能も搭載している。スマートフォンをどこに置いたのか忘れてしまった場合、GALAXY Gearを使ってスマートフォンに音を鳴らすなどして探せる機能もある。

 GALAXY Gearの画面は1.63型と小さいが、「Super AMOLED」のためか画質がきれいで文字も見やすい。190万画素のカメラ付きなので、風景や時刻表などを撮影してメモ代わりにもできるのは便利だ。動画も10秒間撮影できる。

 カメラで写真を撮って電源ボタンを3回押すと、あらかじめ設定しておいた緊急連絡先に位置情報と一緒に写真を送信し、緊急事態であることを知らせることもできる。高齢者や子供に買ってあげたい端末と言える。

 Samsung Electronics社は、GALAXY Gear向けに「Line」や「Kakao」といったSNSを始め、70種類ほどのアプリケーション(以下、アプリ)を用意していると発表した。基本的には10種類ほどプリインストールして、その他は「Samsung apps」という同社が運営するアプリ・マーケットから好きなアプリをダウンロードする格好になる。米国で人気のフィットネス・アプリ「RunKeeper」「MyFitnessPal」も使えるという。GPSを使って、自分のランニングやウォーキング、サイクリング、ハイキング、マウンテンバイキングなどを追跡・記録することができるアプリだ。

専用のヘルスケア・アプリの開発も進む

 韓国ではGALAXY Gearを使ったヘルスケアに注目が集まっている。GALAXY Gearは動きを感知するセンサを搭載しているので、Samsung Electronics社がスマートフォン「GALAXY 4」向けに提供しているヘルスケア・アプリ「Sヘルス」や胸に付けるバンドと連動した心拍計、体重計と連動したダイエット管理といった機能も一通り利用できるように準備しているという。前述したスマートリレー機能を使って、GALAXY GearとGALAXYスマートフォンのアプリが連動するので、より楽にヘルスケア機能を利用できるようになりそうだ。

 韓国では健康な人をより健康にする「ウエルネス市場」が注目を浴びている。実際、さまざまな病の原因になるとされる肥満を予防するため、男女老若がダイエットに励んでいる。ダイエット食品やフィットネスジム、合宿型断食、針や漢方薬で脂肪を減らす韓方エステなど、方法は数えきれないほどある。韓国メディアの報道によると、韓国のダイエット市場規模は年間2兆ウォン(約2000億円)前後だという。人口約5000万人の国でダイエットだけに年間2000億円も使っているとは相当な市場規模である。最近はスマートフォンの普及にともない、無料あるいは数百円程度で利用できるフィットネス・アプリや、血圧や血糖値、食事内容を記録すると生活アドバイスがもらえるヘルスケア・アプリが人気を集めている。

 腕に着けるGALAXY Gearは、スマートフォンよりも細かく正確に生体情報をチェックでき、個人の健康状態に合わせてどうすれば肥満を予防できるのかより的確にアドバイスできる可能性がある。内蔵する動作感知センサをうまく活用したヘルスケア・アプリも開発が進んでいるため、GALAXY Gearのヘルスケア機能に対する期待は高まるばかりである。

 GALAXY Gearの最大の弱点は、電池の持ちがよくないことである。仕様としては充電して25時間は連続使用できると書いてあるが、実際にあれこれ機能をフルに使うと電池はすぐ消耗してしまう。そのため、韓国では端末を着用したまま充電する技術や大きくて薄くて腕の曲線に合わせて曲がるフレキシブル・ディスプレイ技術が、今後ウエアラブル端末を利用したヘルスケア・サービス市場の重要な鍵になると見ている。



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By 趙章恩の「韓国スマートヘルスケア最前線」
日経デジタルヘルス
 2013年9月3
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避暑地として人気の釜山・海雲台、「ビッグデータ」で現実的な観光政策を立案 [2013年7月12日]

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海水浴場沿いに高級ホテルが並ぶ釜山の海雲台(ヘウンデ)は、韓国で人気がある避暑地の1つである。夏になると、長さ1.5km、幅30mの海雲台海水浴場に1日70万人以上の人々が集まり、足の踏み場もなくなる。海水浴場が開場する6月から9月までは韓国じゅうで最も人が集まる場所なので、ビールや食品、家電、化粧品、オンラインゲームなど各種メーカーのイベントも、夏場はソウルよりも海雲台で開催することが多いほどだ。

 海雲台は「スマートシティー」あるいは「スマートビーチ」としても有名だ。海水浴場の入り口にはデジタルサイネージの観光案内スクリーンがある。タッチ式でメニューを選んで観光情報やグルメ情報などを検索できる。もちろん、日本語でも利用できる。


 デジタルサイネージにはカメラが付いていて、海を背景に記念写真や動画を撮影して、自分のメールアドレスにも送信できる。海水浴場周辺のお店ではスマートフォンの電子マネー決済(NFC決済)が使えるので、スマートフォンさえあれば現金はいらない。迷子防止用の位置情報確認腕輪も無料で利用できる。保護者のスマートフォンから子供の位置を確認できるのだ。


“地の利”生かし「ビッグデータ」分析


 釜山市海雲台区役所は、海水浴場や周辺のホテル、レストランを利用する観光客の利便性を高めるために、「ビッグデータ分析チーム」を設置した。韓国の地方自治体の中では初めてチームを設置し、政策立案に役立てている。


 海雲台区役所は2012年夏に、SNSでつぶやかれた海雲台関連の口コミを分析した。その結果、区役所や市が実施していた観光キャンペーンと、実際に観光客が欲しがっていた情報に食い違いがあることを発見した。


 例えば、市や区役所は釜山の名物であるパジョンや豚のクッパといった伝統食を観光客向けに宣伝していた。ところが、つぶやかれた口コミを分析したところ、観光客が釜山で食べたがっていたのは、全国どこにでもある刺身、チゲ、寿司だった。立派なレストランよりは屋台で食事をしたい、夜はクラブに行って踊りたいといった意見が多いという事実も発見した。このようにビッグデータ分析をうまく活用すれば、観光客が関心を持たない情報についてPRするような観光Webサイトに無駄な予算を使わなくて済む。


 宿泊に関しては、市や区役所はホテルやモーテルを観光客向けに紹介していたが、それよりも「ゲストハウス」の方が人気だった。ゲストハウスは2段ベッドに共用のバスルームとキッチンがある格安の宿泊施設である。海雲台に関する英語のつぶやきは、夏よりも釜山国際映画祭が行われる10月の方が多い、ということも分かった。釜山国際映画祭のレッドカーペットにK-POPアイドル誰が来るのかといったことが話題になっていた。



一部の声しか反映しない「卓上行政」から脱却


 初歩的なビッグデータ分析ではあるが、SNSのつぶやき分析結果を基に、2013年の夏は海鮮チゲや刺身のおいしい食堂を観光客向けに紹介できるよう準備している。従来の観光政策は、何人かのモニターを集めてグループインタビューをしたり、Web調査を実施したりする程度だったので、実際に海雲台を訪問した観光客の意見を広く反映した政策とは言えなかった。何をしても「卓上行政」だと批判する声もあった。


 ビッグデータ分析を導入し、膨大なデータから現場の意見をくみ取ることで施設を改善し、的確な情報を提供によって観光客を増やすのが海雲台区役所の狙いである。データを基に政策を立案すれば、観光客だけではなく、施設で働く地元の人々の満足度も上がるというわけだ。


防犯カメラの映像を分析し交通改善


 海雲台区役所は観光政策以外の分野でも、20代向け雇用増加や、防災といった目的でビッグデータを駆使している。交通の改善にもビッグデータを活用。区内にある防犯カメラの映像を分析して、駐車違反や違法駐車が多い地域と時間帯を割り出し、駐車場を増やすか交通システムを見直す計画だ。区役所は、防犯カメラを取り締まり目的で使うよりも、住民・観光客にとって不便にならないようにするためのツールとして使う方針を掲げる。そのためにもビッグデータ分析が必要だと見ている。


 海雲台区役所は、釜山市にあるビッグデータ処理プラットフォーム研究センターと協力して分析を行っている。まず区役所の職員らが政府機関のデータ、区が実施したアンケート調査結果、過去の政策、区のWebサイトに寄せられた苦情や意見、SNS上のデータなどを集める。研究センターが分析ツールを作成し、これらのデータを解析する。区役所によると、個人を識別できないようにしてデータを分析するなど、個人情報保護には配慮しているという。


中央政府もビッグデータ政策推進へ


 韓国では地方自治体だけではなく、中央政府もビッグデータ分析に熱心である。データを分析することでいち早く国家的課題を見つけて解決するために、「国家未来戦略センター」という名前のビッグデータ分析センターを設立する予定だ。


 データを活用した新産業活性化のため、まずは政府の公共データを、極秘事項を除いては基本的に誰でも利用できるように開放。民間のデータ流通も促進できるよう制度を改善する。データ分析に長けた「データサイエンティスト」を育成し、分析を体験できる「ビッグデータ分析・活用センター」も年内にオープンする予定である。



趙 章恩=(ITジャーナリスト)

日経パソコン
 

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