付属のイヤホンが本体より人気? LGの最新スマホ「Optimus G」が話題

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2012年10月4日から、韓国中の代理店で販売が始まったLG電子のOptimus G。

 LG電子はOptimus Gを、「世界最高のスマートフォンを作るという覚悟で挑んだ野心作」といい、世界のスマートフォン市場で同社のシェアを大幅に伸ばせる、GALAXY Note2とiPhone 5に対抗できるスマホとして大々的に宣伝する。LG電子、LGディスプレイ、LG化学、LGイノテック(カメラ)といったLGグループの技術を集結した「怪物スマホ」であると、韓国のマスコミも紹介している。スマホ市場がアップルとサムスン電子の2強体制になりつつある中、LG電子の起死回生となるだろうか。








LG電子の「Optimus G」


 Optimus G は米クアルコムのSnapdragon S4 Pro クアッドコアプロセッサー、LTE/VoLTE対応、4.7型TrueHD IPS+ディスプレイを搭載する。OSはAndroid 4.0、RAMは2GB、カメラは1300万画素である。重さは145gととてもコンパクト。


 早速Optimus Gに乗り換えたユーザーの反応は上々で、1300万画素カメラと「Qスライド」という名前のユーザーインタフェースが好評である。


 Qスライドは画面を分割して使うマルチタスキングではなく、画面を半透明に重ねて2つの機能を同時に使えるようにした機能である。地上波DMB(韓国のワンセグ)機能もついており、例えばテレビを観ている途中にメールが届いても、テレビの再生画面の上に半透明でメールが表示され、そのままテキストを入力して送信できる。カメラを文字にかざすと64カ国語に翻訳してくれる「Qトランスレーター」も好評だ。


 しかし何よりも話題になったのは付属のイヤホン!


 「Quadbeat」という名前の付属イヤホンは、Optimus Gの本体が代理店で売り出される前から別売りを始めていた。LG電子サービスセンターに注文すると1万8000ウォン(約1260円)で買える。ゴールデンイヤーズという音響評価サイトがLG電子の依頼でQuadbeatを評価したところ、日本でも1万7000円ほどする高級イヤホンのロジクール「Ultimate Ears TripleFi 10」と肩を並べるほどで、実際の音を忠実に再現する、高音と低音のバランスがすばらしいと評価された。


 高音もきれいに聞こえる、耳に負担がない、と絶賛されたことからネット上で話題になり、9月27日にはQuadbeatが検索キーワード1位になった。


 Quadbeatは韓国のアイサウンドという会社が製造する。メタル素材に平べったいケーブルでデザインもかっこいい。アイサウンドの会社ホームページは9月27日からアクセスが殺到、トラフィック超過でホームページが開かない事態まで発生した。










Quadbeatイヤホン(写真はアイサウンド http://www.i-sound.co.kr/



 LG電子サービスセンターには「スマホはいらない、Quadbeatだけ欲しい」という問い合わせが相次いだ。Quadbeatの生産は追いつかず、10月中旬までイヤホンの別売りを中断している。


 LG電子はOptimus Gを10月中に日本でも発売する予定だと発表した。きれいな画質、ミニマルなデザイン、Qスライドもすごい。日本で販売される同モデルに付属するか不明だが、あればQuadbeatの音質もぜひチェックしてほしい。




趙 章恩=(ITジャーナリスト)

日経パソコン
 [2012年10月5日]


-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20121005/1065806/

韓国でも「Nexus 7」発売、シュミット会長が大パフォーマンス

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2012年9月28日、日本に続いて韓国でもNexus 7の予約販売が始まった。値段は29万9000ウォン。日本円にして約2万1000円である。アップルのiPadが約4万2000円、サムスンのGALAXY Tab 7.7 LTEが約5万6000円はするので、Nexus 7は韓国で販売されているタブレットの中で最も安い。




グーグルの自社ブランドのタブレット端末「Nexus 7」



 事前にNexus 7を体験したユーザーのレビューを見ると、「カメラは120万画素の低画質でしかも液晶のところだけの前面だからテレビ電話ぐらいしか使えない、写真撮影ができないのは嫌」、「340gなのでタブレットにしてはとても軽いが、サイズが曖昧でポケットには入らない」、「端末が頑丈には見えないので、ちょっとでもぶつけたら故障しそうなところが残念」などいろいろある。音声検索やGoogle Now、Google ムービーなどのコンテンツを利用するにはぴったりだけど、スマートフォンからも十分利用できるので、Nexus 7のメリットが分からないといった辛口評価が多い。


 ソウル市内で9月27日に行われたグーグルのNexus 7発売記者会見にはエリック・シュミット会長も参加した。






9月25日、日本で同端末を発表したエリック・シュミット会長(写真はPC Online撮影)



 シュミット会長は、「Nexus 7をきっかけに、スマートフォンだけでなくタブレットPCでもアンドロイドの発展を韓国がリードしてくれると期待している」、「特許を武器にほかのスマートフォン製造会社の首を絞めるのは、IT業界のエコシステムを破壊し、イノベーションを阻害する行為」であると迂回的にアップルを批判した。また、「Android陣営と協力を強化する。サムスン電子は最も重要なパートナーだ」とも話した。


 グーグルは、Nexus 7は映像コンテンツ、ゲーム、電子書籍といったエンターテインメント目的で利用するには最適の端末であると宣伝している。シュミット会長は、「Nexus 7が重要なのではなく、Nexus 7で何ができるのかが重要だ」と強調した。


 Nexus 7の端末性能はあまり良くない、というレビューを意識したのか、これからはコンテンツ利用を楽にするクラウド環境が重要で、グーグルがそれを提供している、Nexus 7があればクラウドを利用して楽にいろんなコンテンツサービスを利用できる、端末そのものの性能が重要ではない、という話だった。


 さらに、「2011年全世界で1人当たりグーグルアプリケーションをもっともたくさんダウンロードした国が韓国だった」、「ハードウエア、ソフトウエアの次にクラウド・イノベーションの時代がやってきた。このような変化をリードしているのは韓国だ」、「テクノロジーは我々の日常を変え、新しい文化を生み出している。その代表的な事例がGangnam Styleだ。Gangnam Styleが世界を征服したのはグーグルのYouTubeに載せたミュージックビデオがきっかけになった」とも話した。


 シュミット会長の話に登場した「Gangnam Style」は、今米国で大人気の韓国の歌手PSYのダンス曲である。YouTubeに載せた韓国語の新曲ミュージックビデオ「Gangnam Style」が2カ月あまりで再生回数2億8000万を突破した(YouTubeへのリンクはこちら)。韓国向けに制作されたミュージックビデオなのに、面白い、笑えると口コミで全世界に広がった。PSYは一躍有名スターになり、米国の高視聴率番組に次々出演した。「Gangnam Style」は韓国語の歌であるにもかかわらず9月26日にはビルボードHot 100チャート2位になった。


 記者会見の後、グーグルコリア本社ではシュミット会長とPSYが一緒にGangnam Styleに登場するマルチュム(韓国語で「馬ダンス」)を踊る場面もあった。YouTubeスターとグーグル会長のミーティングは韓国では大変な話題になった。YouTubeがなかったら、PSYがビルボードチャート2位になることもなかったからだ。


 この後シュミット会長はサムスン電子を訪問し、チェ・ジソン副会長とIT・モバイル担当シン・ジョンギュン社長と会談した。韓国のマスコミは、「米裁判所でサムスン電子がアップルとの訴訟で負けたとき、グーグルがこの訴訟とAndroidは関係がないと声明を出し、サムスン電子が気を悪くした。シュミット会長が直にサムスンとグーグルとのパートナシップを再確認し、なだめようと訪問したのではないか」と予測した。サムスン電子はアップルとの訴訟があってから、Windows 8の端末に力を入れるようなそぶりを見せたこともある。


 韓国ではNexus 7発売よりも、シュミット会長とサムスン電子との会談内容、シュミット会長のGangnam Style馬ダンスの方が注目されてしまったが、これをきっかけにGoogle Playやグーグルが提供する新しいアプリケーションの注目度も上がったのは確か。韓国でNexus 7はあまり売れなくても、グーグルの影響力は拡大しそうだ。


趙 章恩=(ITジャーナリスト)

日経パソコン
 [2012年9月28日]


-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20120928/1064962/

国民的モバイルゲーム、「Anipang」しないと始まらない

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日本や中国でネットゲームといえば、韓国産オンラインゲームが多い。90年代から数多くオンラインゲームのヒット作を手掛ける韓国ゲーム会社だが、このごろは「大作」と呼ばれる、数万人が同時に接続してロールプレイングしながら敵を倒すといった“重たい”ゲームを作る会社がかなり減った。

 その理由はやっぱり「スマートフォン」。スマートフォンから暇つぶしに短時間で楽しめるゲームの方が圧倒的に売れる時代になったからだ。


 韓国のスマートフォンユーザーなら誰もが使っている国民的アプリ「カカオトーク」。世界で6000万人の登録者を最近記録した「LINE」と使い方は同じだ。お互いにカカオトークに加入していれば、IDではなく携帯電話番号を使って相手を検索し、無料で音声通話ができて、チャットのようにメッセージを送受信できる。このカカオトークのユーザーを対象にしたソーシャルネットワークゲームとして始まった「Anipang」というゲームが、サービス開始2カ月で1500万ダウンロードを突破、同時接続200万人という国民的モバイルゲームに成長して、今、すごいことになっている。






カカオトークユーザー向けのシンプルなゲーム「Anipang」



 Anipangの遊び方はとても簡単だ。動物の絵柄を動かして同じ絵柄を左右上下に3つそろえて消す。60秒の間に誰が最もたくさん絵柄を消して高得点をマークするかの勝負なのだが、どう考えてもどこかで見たことのあるゲーム。昔ゲームセンターやPCゲームで大流行した「Hexa」というゲームにそっくりではないか。絵柄が宝石から動物になっただけでゲームのルールは同じ。新しくもなんともないゲームに、なぜ1500万人もの人が夢中になっているのだろう。


韓国のマスコミが分析したところによると、その答えは「競争」にあるそうだ。60秒という短い時間でできる勝負なので、とても手軽に楽しめる。また、カカオトークのアプリ内に友達登録しておいた人の得点順位が表示されるので、知らないユーザーと競争して何位になったのか競争するより楽しく、友達同士でちょっとした会話のネタにもなるところがいいそうだ。






Anipangをプレイしているところ



 もう一つ、「ハート」という仕組みがある。Anipangはゲームをするために「ハート」が必要である。


 Anipangは、ハート1個で1回プレイできる。ハートは8分ごとに1個もらえる。8分も待てない!という人は、ハートを現金で購入する。1000ウォン(約70円)で11個もらえる。無料でプレイしたいなら、友達に1日にハート1個を無料でプレゼントできる機能を使う。友達に1個ハートを送信し、その友達から1個送ってもらうのがオーソドックスなやり方。例えば、10人の友達とハートを送って、自分も10個もらう。さらに、友達をAnipangに招待するメッセージを送信するとハートが1個もらえる。こうやってみんなAnipangの世界へ導かれていく。Anipangの中でユーザーが送り合うハートの数は、なんと1日1億個なのだとか!



ゲームをプレイするために家族や友達同士で「ハート」を送りあう中で、いつもより会話の頻度が増す、とAnipang側は宣伝していた。40~50代の間でもAnipangは大人気で、その理由は、ゲームが面白いからというよりは、子どもと一緒に遊ぶためなのだとか。韓国は共働きの両親が多いので、会社にいながら子どもにハートを送ってあげたり、誰が点数が高いか競い合ったりする中で会話が生まれ、子どもともっと仲良くなれた気がするというママとパパがけっこう多かった。


 しかし、ハートをめぐっては、親切すぎて迷惑になるケースもある。友達がAnipangプレイしたいのにハートがなくて困っているのではないかと思って、友達登録している全員にハートを毎日送る人がいる。私の場合、Anipangをあまり頻繁にしないのでそんなにハートはいらないのに、毎日80人ぐらいの人から「○○さんがハートを送りました。アプリにおつなぎしますか?」、「○○さんがあなたをAnipangに招待しています。アプリにおつなぎしますか?」のメッセージが届いていた。メッセージが来た!とスマホを見ると「ハート」、あ、なんか届いたと画面を見るとまた「ハート」……。いいかげんにせい! と暴れたくなる。私のような人が結構いたみたいで、Anipang側は1日のハート発送件数を50人までに制限した。


 韓国のゲーム会社の間では、「特命! とにかくカカオトークのプラットフォームに乗る!」が合言葉になっているのだとか。6000万人近いユーザーをかかえたカカオトークのプラットフォームの中でゲームを提供すれば、宣伝費をたくさん使わなくても自然にユーザーを獲得できる。一方では、「ゲーム会社がみんなカカオトークで売れそうなシンプルなゲームばかり作るので、このままではゲーム業界が発展しない」と心配する声もある。


 Anipangのようなソーシャルネットワークゲームの人気は続くのか、それともまたすぐ国民的人気の何かが出てくるのだろうか。熱しやすくて冷めやすいのが韓国人なので、アプリのトレンドに追いつくのも大変だ。







趙 章恩=(ITジャーナリスト)

日経パソコン
 [2012年9月21日]

-Original colum
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20120921/1064042/

85%引き! GALAXYの“売り尽くし”に韓国中が大騒ぎ

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2012年9月10日~13日、韓国ではサムスン電子の最新スマートフォン「GALAXY SIII LTE」が85%ほど値引きされた破格の値段で販売され、大騒ぎになった。出荷価格110万ウォン(約7万7000円)の端末を17万ウォン(約1万2000円)で販売したのだ。

 これはキャリアのKTが始めたもので、ほかのキャリアを利用しているユーザーがKTにナンバーポータビリティで乗り換えたときだけ適用されるセール価格。SKテレコムもKTにユーザーを取られないようGALAXY SIII LTEを同じ値段で販売した。このチャンスを逃すまいとナンバーポータビリティで同機を申し込む人が殺到した。キャリアのデータを見ると、9月10日と11日の2日だけで約20万人がGALAXY SIII LTEを購入した。






GALAXY SIII LTE



 この破格の販売は、キャリアの補助金が増えたからで、サムスン電子の端末価格には変動がないという。LTE加入者競争が激化していることから、KTとSKテレコムが端末購入補助金を払ってでも、2012年末の目標値を達成するためにユーザーを確保しようとしたのだ。


 韓国の携帯電話加入者数は7月末時点で約5400万人である。人口が5000万人なので新規加入の需要はほぼなく、キャリア間でユーザーを奪い合うしかない状況である。ほかのキャリアからユーザーを奪うには、端末を安く買えるように補助金を増やすのが一番!ということで補助金競争はなくなっていない(関連記事)。


 通信政策を担当する省庁の放送通信委員会は、キャリアの端末購入補助金や過剰なマーケティング競争を規制している。2010年からキャリアは年間売り上げの22%を超えてマーケティング費用を使ってはならないと定めたが、キャリア側は、摘発され課徴金を払ってでも補助金を支払っている。キャリアのプロモーションを利用して安く端末を買っては中古市場で高く売る「フォンテク族」(「財テク」のように携帯電話端末中古取引の差額でもうける人たち)までいるほどだ。


 GALAXY SIII LTEの32GBモデルの価格は8月まで70万ウォン(約4万9000円)だったため、数日違いで3万7000円も損をしたユーザーが怒るのは当たり前。Twitterでは「先にGALAXY SIIIを購入したユーザーの端末価格を補助すべき」だとKTやSKテレコムに怒りをぶつけるつぶやきが後を絶たない。


サムスン電子側は否定しているが、キャリアの代理店ではGALAXY SIII LTEは今回の売り尽くしセールを最後に生産が終了するとユーザーに説明している。32GBの機種が足りなくて、本来は海外輸出用に製造された16GBモデルを3万ウォン安い14万ウォン(約9800円)で販売している代理店もあるという。


 韓国ではiPhone 5の発売は9月にはない模様である。このことから、韓国のマスコミは「サムスン電子がiPhone 5の発売前にGALAXY SIIIの在庫を売り払って、新しくアップルに対抗できる新機種を発売しようとしているのではないか」、「GALAXY SIIIよりGALAXY Note2を戦略端末として後押ししたいようだ」と分析する。サムスン電子はGALAXY SIIIの64GBモデルも発売する予定だったが、これはお蔵入りとなりそうだ。


 結局今回の売り尽くしセールは、キャリアのLTE加入者確保とサムスンのiPhone 5対策在庫処分のタイミングが重なり、破格な値段で販売できた。一度値段が下がったGALAXY SIIIを元の値段で買いたがるユーザーはないので、生産を終了するしかないという見方もある。


 生産終了の報道に、GALAXY SIIIを安く買えたと喜んでいたユーザーも、「最新機種を安く買えたと思ったら在庫処分だったなんて」、「生産終了というのは、端末に不具合があっても交換してもらえないのでは? アフターサービスはどうなるの?」とコメントを残し、がっかりした様子だった。


 それにGALAXY SIIIを使っていないユーザーも怒った。「キャリアがサムスン電子のスマートフォンだけに補助金を出しているのでほかのメーカーの端末は安くならない」、「結局みんなサムスン電子のスマートフォンを使うしかない」、という不満を記事のコメント欄に書き込む人も増えている。


 放送通信委員会はナンバーポータビリティを利用するときだけもらえる端末購入補助金は減らし、加入者がまんべんなく得をするように料金を割引するようキャリアに要求しているが、うまくいかない。同委員会の調査によると、2012年5月から7月までたった3カ月間でキャリア3社が支払った端末補助金は2兆ウォン(約1400億円)にのぼる。


 情報に敏感な学生やビジネスパーソンは補助金を狙って常に安い料金で機種変更できるからいいが、これは結局、キャリアが、情報にうといユーザーから高い料金をもらい、ほかのユーザーを補助しているようなものなのでいい気分はしない。別に私がGALAXY SIIIを買い逃したからそう言っているわけではない。でもやっぱり悔しい!






趙 章恩=(ITジャーナリスト)

日経パソコン
 [2012年9月14日]


-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20120914/1063386/

サムスンが「ATIV」シリーズを初披露、Windows 8への関心高まる

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2012年8月31日から9月5日までベルリンで開催した家電展示会「IFA」で注目を浴びたのは、スマートフォンとタブレットPC、Windows 8のノートパソコン、ウルトラブックといった「スマート」デバイスだった。

 サムスン電子は「Smarter Life, Now」、LGは「ABOVE AND BEYOND」をテーマに参加。同社は韓国だけでなく世界各国のブロガー記者もベルリンに招待し、同社の展示内容を取材するようにサポートした。韓国の熱血ブロガー達が現地で一日数十件もIFAの展示内容を写真と動画でポストしてくれたおかげで、IFA会場にいるかのようにリアルタイムで展示会を楽しめた。








混み合うサムスンのブース



 中でも韓国で話題だったのは、サムスン電子の「GALAXY Note 2」(5.5型の大画面スマートフォン)と「GALAXY Note 10.1」(タブレットPC、前々回のコラムで紹介)、GALAXYカメラ(撮ってすぐ編集してネットに送信できるスマートカメラ)、初めて公開したWindows 8のノートパソコンだった。LGはウルトラブックと3Dディスプレイが話題だった。



IFAをきっかけに一気にWindows 8への関心が高まる


 公開されたサムスンのWindows 8搭載端末は、11.6型のコンバーチブルPC「ATIV Smart PC Pro」と「ATIV Smart PC」、10.1型のタブレットPC「ATIV Tab」、4.8型の800万画素カメラ付きスマートフォン「ATIV S」の4種類である。ATIV Sは展示会前のイベントで公開しただけで、展示会場では公開しなかった。









IFAで初公開となったサムスン電子のWindows 8スマートフォンとノートパソコン(「ATIV」シリーズ)










ATIV Smart PC Pro。ブロガー記者もプロの記者も、起動が速い、軽い、ディスプレイがきれい、とほめちぎっていた



 「ATIV」という前は、「Life」という意味のラテン語「VITA」を逆さにした。あなたのモバイルライフをより豊かにします、という意味を込めたというが、ドイツでも韓国でもGALAXYに比べて発音しにくい、インパクトがないと評判がよろしくない。


 コンバーチブルPCはタブレットPCにキーボードを装着するような形で、タブレットのようにも、ノートパソコンのようにも使える。タブレットPCはネット検索や動画を見たりするのは便利だが、仕事用のファイル作成には向いていない。それを補完するコンバーチブルPCは、カフェにノートパソコンを持ち込んでレポートを書いたり、仕事をしたりする人が増えている韓国では需要が高いと見込まれる。


 サムスン電子はATIVシリーズにGALAXYスマートフォンで人気のアプリを搭載することで、スマートフォン、タブレットPC、ノートパソコンでデータを共有して、より便利にエンターテインメントも仕事もできるようにサポートする計画だという。サムスンのWindows 8搭載端末は全て発売日が未定であるが、Windows 8の発売日が10月26日に決まったので、11月には発売されるのではないかとTwitterやブログなどで期待が高まっている。


 公開されたWindows 8搭載端末について、韓国のマスコミはほとんどが、「サムスンがアップルとの訴訟に負けたことでグーグルと距離を置こうとしている。そのためにWindows 8に力を入れている。特にサムスンのWindow 8スマートフォンは期待する価値あり」と報道した。


 サムスン電子だけでなくソニーと東芝のWindows 8コンバーチブルPCに興味を持つネットユーザーも多い。「高性能なのに安いノートパソコン」として東芝を推薦するショップが韓国では多いせいか、ソウル市内の大型カフェでノートパソコンを使っている人を見ると、サムスン製品の次に多いのが東芝だ。



スマートフォンの“ディスプレイ”になるコンパクトなノート


 通信事業者のKTもIFAに参加し、「スパイダーラップトップ」という面白い名前のノートパソコンを展示した。スマートフォンがCPUの役割をするノートパソコンで、スマートフォンとノートパソコンをケーブルでつなげると起動する。つまりスマートフォンのための持ち運べる“ディスプレイ”というわけだが、11型の大画面に8000mAのバッテリーがついているので、スマートフォンの充電池の役割もする。


 CPUもメモリーもないノートパソコンなので値段も安く軽い。定価は29万7000ウォン(約2万1000円)。今後もっと安いスパイダーラップトップも販売するという。KTのクラウドコンピューティングサービスである「Uクラウド」を利用すれば、各種文書の編集もできるので、いつでもどこでも仕事ができる。KT側は、どんなスマートフォンとつなげてもすぐ使えるのがスパイダーラップトップなので、今後世界中のスマートフォンメーカーと協力したくてIFAに参加したとコメントした。KTは中小企業と提携して独自のタブレットPCを発売したこともある。











通信事業者のKTもIFAに参加し、「スパイダーラップトップ」という名前のノートパソコンを展示した。スマートフォンにつなげると起動する持ち運びディスプレイ+キーボードのようなもの





趙 章恩=(ITジャーナリスト)

日経パソコン
 [2012年9月07日]


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http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20120907/1062402/

サムスンとアップルの判決、韓国での反応は?

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サムスン電子とアップルの訴訟は、2011年4月から米国、韓国、日本、ドイツ、イタリア、オランダ、英国、フランス、オーストラリアで行われてきた。

 米カリフォルニア州サンノゼの連邦地方裁判所は2012年8月24日(現地時間)、サムスン電子による特許侵害行為があったとし、10億5000万ドルをアップルに支払うよう命じた。


 同日、ソウル中央裁判所の判決では、アップルがサムスン電子のデータ分割伝送に関する通信特許を侵害したというサムスン電子側の主張を認めた。サムスン電子のスマートフォンGALAXYがiPhoneのデザイン特許を侵害したというアップルの主張に対しては、ユーザーインタフェースの一部を侵害したとした。具体的には、ユーザーがタッチして画面を左右上下に動かすとき、メイン画面の外にはみ出ると何もないスペースを見せて自動的にメイン画面に引き戻す「bound back」というユーザーインタフェースだ。


 ソウル中央裁判所の判決は、アップルの方がサムスン電子の特許をより侵害しているという結果となった。そのため、アップルのiPhone 3GSとiPhone 4、サムスン電子のGALAXY SIIを販売禁止にしたが、どれも旧モデルなので、両社の売り上げに影響を与えることはないという。
 







アップルとの訴訟でデザインやUIをコピーしたとして問題になったサムスンGALAXY S。アップルが販売禁止を要請した同機は2010年6月に発売され、7カ月で販売台数1000万台を突破した



 ソウルの判決が下されてまもなく、カリフォルニアの地裁は、サムスン電子の完敗ともいえる判決を言い渡した。これには「驚き!」という反応が多かった。特許訴訟の場合、完全にどちらかが有利な結果になることはほとんどなかったからだ。


 韓国のマスコミは、「米の貿易保護主義によってサムスンが完敗した」、「サムスンがアップルに払う賠償金分を製品価格に上乗せしてスマートフォンが値上がりするのではないか」、「スマートフォン輸出は韓国の経済を支える重要な産業なので、これはサムスンだけの問題ではない」と騒いでいる。


 一般の人の反応はどうか。


 韓国のポータルサイトのニュースコメント欄に書き込まれた意見を見ると、「ひじは内側に曲がる(韓国のことわざで、良し悪しに関係なく家族の味方になること)から、韓国の判決はサムスンが、米の判決ではアップルが有利になるに決まっている」と冷静なものから、「一方的にアップルの肩を持つ評決なのでは」、「アップルに市場を独占させたい判決にしかみえない」と疑問を呈する意見もある。


 一方、「サムスンはアップルのデザインやインタフェースを真似たことを認めて、特許使用料を払うか新しく作り直すべき」、「GALAXYは箱もアクセサリーもCMも全部iPhoneにそっくり。偶然似てしまったのではではなく、わざとコピーしているとしか思えない」とサムスン電子に批判的な意見も目立った。



 サムスン電子の営業利益は6割ほどがスマートフォンから生まれている。世界市場におけるスマートフォンの市場シェアは、2012年6月時点でサムスン電子が32.3%、アップルが17.2%である。この2年ほどでサムスンがスマートフォンの市場シェアを大きく伸ばし、iOSのiPhoneか、それともAndroidのGALAXYか、という時代になっていた。


 サムスン電子の株価は米国の判決が報道されてから7.8%ほど下落したが、8月28日にはまた値上がり始めた。米での訴訟は旧機種を対象にしているので、これからの売り上げに大きな打撃はないと分析されている。しかし影響はないとしても、サムスンの企業イメージは打撃を受けたに違いない。


 報道によると、サムスン電子は米国での判決に対して、「市場でイノベーションを通じて正々堂々と競争せず、法廷で特許という手段を利用して競合者を抑えようとした会社が消費者から認められ成長を持続した事例は歴史的にない」、「今回の評決は消費者の選択権を制限し、業界のイノベーションを遮ることになる」といったコメントをしている。


 アップルが狙っているのはグーグルで、サムスン電子がAndroidスマートフォンを代表して訴訟のターゲットになったという見方もある。いずれにせよ、これをきっかけにサムスン電子は自ら明かしたように、「イノベーション」してより使いやすい、独自のスマートフォンを発売してほしいものだ。


 iPhoneユーザーを代弁するコメントを見かけたので、最後に紹介する。「裁判のせいで、韓国だけiPhone 5の発売が遅れるようなことがあったらサムスン恨む」




趙 章恩=(ITジャーナリスト)

日経パソコン
 [2012年8月31日]

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20120830/1061504/

【韓国教育事情(後篇)】気軽に英語留学、日本人も学ぶ人気の英語村

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 前篇では加熱する韓国の英語教育熱について紹介したが、後篇では韓国に数ある英語村の中でも人気の高い、パジュ英語村とスユ英語村を紹介する。パジュ英語村は、韓国の英語村の中でもっとも規模が大きい。京畿道(キョンギド)という、日本でいうと千葉県や埼玉県のように首都の隣に位置する自治体が運営する英語村だ。スユ英語村は、ソウル市がYBMという韓国最大手の英語教育会社に運営を委託している。

◆欧米にいるかのような雰囲気が人気のパジュ英語村

 ソウルから北へ1時間ほど離れたパジュ英語村は、広い敷地にヨーロッパの町並みを再現した、きれいなテーマパークのような景観だ。ファッション雑誌やウェディング撮影、テレビ番組のロケ地としてもよく使われているという。取材した日も、子どもにかわいいワンピースを着せて写真撮影に没頭しているママが何人もいた。英語を勉強するついでに、きれいな写真も残せるというわけだ。

 パジュ英語村は2006年3月にオープンした、一度に500人が泊まれる宿泊施設を備えた英語体験テーマパークだ。英語教育(Education)・体験(Experience)・遊び(Entertainment)を提供することを目的としている。ネイティブスピーカーの先生は教育学を専攻した人ばかりで、慎重に採用しているという。

 英語村の中では英語しか使ってはならない、というルールがある。チケットを買って村に入場するところから「入国審査」といって英語でのやりとりが始まる。入り口には入国ゲートがあり、空港のイミグレーション風になっている。ここで子どもたちは英語の名前を選ぶ。英語村の中では英語を使い、名前も英語式の名前で呼び合う。

 建物はそれぞれテーマがあり、銀行、旅行代理店、飛行機の中を再現した教室や、地理、科学、工作、クッキングなどを学べる教室もある。キッザニアの英語版という感じで、銀行や国際輸送物流会社などの企業がスポンサーとなり、英語村の中にミニチュアの体験部屋を作る。

 プログラムは幼稚園児、小学生、中学生が主な対象である。教室で世界地図を見ながら首都の名前を言い当てるクイズをやっていた子どもたちは、競争がヒートアップすると、大声で英語を話していた。最初は恥ずかしくて無口だった子どもたちも、先生には英語しか通じないという環境におかれると、自然に英語で話すようになる。ホストファミリーの家に招かれたという設定で、普通のアメリカ人家庭のリビングを再現し、そこでお呼ばれした際の挨拶法や欧米のマナーを学ぶ教室もあった。

 パジュ英語村のすぐ近くには、ロッテパジュアウトレットがある。有名ブランド品を50〜70%ディスカウント販売しているアウトレットで、ソウルのおしゃれなママなら誰もが知っている名所である。

 パジュ英語村を案内してくれた担当者によると、子どもを英語村の一日プログラムに任せて、ママたちはアウトレットでショッピングで楽しいひと時を送ってから子どもを迎えにくることもよくあるという。英語村では、子どもを英語のレベルに応じて10人前後にグループ分けし、担当先生が引率して英語でクッキングしたり、科学の実験をしたり、工作をしたりと、さまざまなプログラムを体験する。

 ネイティブスピーカーの先生だけでも70人ほどいるので、子どもたちは常に先生の目が届くところにいる。保護者が一緒にいなくても大丈夫だ。

 最近は、日本やロシアの学校から英語を学びにパジュ英語村にやってくる小・中学生が増えているという。学校と契約して、修学旅行のように団体で英語村に入所、2泊3日ほどみっちり英語しか通じない環境を体験する。アメリカやヨーロッパに行くより、近くて費用も安い。英語村の先生は、外国人講師と英語圏の国で生まれ育った韓国人講師がいる。また日本人とロシア人、日本人と韓国人の組合せでグループを作り、2泊3日一緒にプログラムを体験し、一緒に宿題もしなければならないので、嫌でも英語を話すしかない。

 取材した日は、日本人とロシア人の小学生が3人ずつ、6人で一つのグループになり、一緒にテーマを決めて「映像作品を作る」という宿題をしていた。プログラム最後の日に、上映会をするのだという。子どもたちが使える映像編集室まであり、本格的だった。

◆自然の中で学べるプログラムが子どもに人気のスユ英語村

 スユ英語村もパジュと同じく、2006年にオープンした。数ある英語村の中でも充実したプログラムで、ママたちに大人気だ。スユ英語村の中には病院、銀行、ホテル、飛行機、空港、一般家庭のリビングルームなどを再現した場所がある。

 ソウル市内にありながら国立公園のある山麓にあり、自然環境を活かした大きな野外プールと芝生の運動場があるのが特徴だ。ほかの英語村にはない、自然の中で体を動かしながら英語を学べるプログラムが多く、子どもたちの人気も集めている。ソウル市が50年の歴史をもつ韓国最大手英語教育会社YBMに委託運営しているので、子どものレベルをより細かく分けて、英語体験に留まらず、本格的にみっちり英語を教えてくれるところも人気の理由だ。

 スユ英語村のよいところは、英語村で学んで英語を忘れないように、インターネット事後管理プログラムを提供している点だ。夏休みと冬休みに英語村の長期プログラムを利用し、学期中はYBMのオンライン英語学習を利用して、英語を忘れないようにする。

 パジュもスユも、英語村は自治体が所有する教育施設のため、他の英語塾より費用が安いという特長もある。2泊3日体験・宿泊・食事込みで、19,5000ウォン(日本円約14,000円)の破格的な安さで利用できる。夏休みと冬休みには、9泊10日の入所プログラムもある。体験、宿泊、食事込みで65万ウォン(日本円で約4万6,000円)と安い費用で10日間英語漬けの日々を送ることが可能だ。

 近隣住民を対象にした特別割引もある。地域の小中高校と提携して、年に数回、学校の児童・生徒全員が英語村に入所する団体プログラムも運営している。低所得層の子どもは無料でプログラムに参加できる。お金がないと英語教育ができない、という教育の不平等をなくすためである。海外から参加した子どもも特別料金で参加できるという。

 パジュ英語村の場合、1日プログラムであれば飛び込みで当日申し込みでもOKだという。日本語が通じない、英語しか通じない英語村だからこそ、子どもにもよい刺激になるのではないだろうか。韓国を旅行する際に、子どもは子ども同士で英語で話す楽しさを体験し、ママはアウトレットでショッピングを楽しむという新しいスタイルもお勧めだ。



 
【パジュ英語村】シティホールと名付けられた建物で、オフィスや講堂などがある


 
【パジュ英語村】テーマごとに教室が数えきれないほどあり、さまざまな場所やシチュエーションごとに英語でどのように話せばよいのかを学ぶ



 
【パジュ英語村】海の生物と環境問題について話し合う子どもたち


 
【パジュ英語村】世界地図を前に各国の特徴を英語で説明し、首都を言い当てるクイズをしている子どもたち



 
【スユ英語村】ヨーロッパ風の建物が並ぶ


 
【スユ英語村】後ろに見えるのは子どもたちが泊まる寮、6人1部屋で共同生活する



 
【スユ英語村】入所初日、まずはレベルテストを行い10人前後にグループを分ける



 
【スユ英語村】国立公園から近く野外プールや芝生の運動場でスポーツをしながら英語を学ぶプログラムの人気が高い






《趙 章恩》




2012年10月24日
original link
http://resemom.jp/article/2012/10/24/10483.html

【韓国教育事情(前篇)】小1から週15時間英語で授業を受ける名門私立小

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【パジュ英語村】テーマごとに教室が数えきれないほどあり、さまざまな場所やシチュエーションごとに英語でどのように話せばよいのかを学ぶ


 
【パジュ英語村】海の生物と環境問題について話し合う子どもたち



 
【スユ英語村】入所初日、まずはレベルテストを行い10人前後にグループを分ける


 
【スユ英語村】後ろに見えるのは子どもたちが泊まる寮、6人1部屋で共同生活する



 毎日、学校が終わると塾3〜4か所をはしごして、やっと家に帰る韓国の小学生。公園で遊ぶ時間もない韓国の子どもたちは、友たちとおしゃべりしたくて塾に行くという。そんな韓国の英語教育熱が非常に高いことは、よく日本でも報道されている。

 韓国では、私立小学校の場合は1年生から、公立小学校では3年生から正規科目として英語を学んでいる。

 私立小学校では、1年から英語ネイティブの先生が担任、韓国人の先生が副担任になり、全科目を英語で教える英語没入教育(immersion教育)を実施している学校がある。英語没入教育とは文字通り、学校の中で英語を使わせることで英語が自然と身につくようにし、子どもを韓国語と英語のバイリンガルに育てる教育法のことをいう。

◆バイリンガル教育で有名な名門私立小

 バイリンガル教育で有名なのがソウル市にある名門私立のヨンフン小学校で、入試競争率は5倍ほどである。私立の中でも圧倒的に授業料が高く、課外活動を含めると年間100万円以上は軽くかかる。入試も厳しく、まず保護者を対象にした学校説明会とツアーを実施し、そこで保護者の面接を行う。2次審査で保護者と子どもと一緒に面接をする。学校側は、子どもを学校に任せっきりにしないか、保護者が常に子どもの勉強を見てあげられるか、学校の行事にも積極的に参加できるか、授業料はきちんと払えるか念を押す。

 ヨンフン小学校では、1年生が週15時間英語で授業を受ける。教科書も韓国の教科書に追加して、米国の小学校で使っているものを輸入して使う。他の私立小学校も、数学、社会、科学は米国の教科書を使って米国の小学校の教科課程に沿って英語で教えるところがほとんど。英語教育を3年生から行う公立小学校の児童と、私立小学校の児童とを比べると、英語能力に大きな差が開くことになる。そのため、公立小学校に通う子どもたちは1年生から英語塾に通い、私立小学校の子どもたちに負けないように頑張っている。

◆生まれる前から予約が必要な英語保育園・幼稚園

 私立小学校のバイリンガル教育が人気を集めると、英語しか使わない「英語保育園」や「英語幼稚園」も大人気で、生まれる前から予約しないと入園できないほど繁盛している。韓国の文部科学省にあたる教育科学部の調査によると、英語の語学研修のために海外に出国する人は年間2万5,000人を突破した(2010年末時点)。語学研修のために出国する人は大学生が多いが、小学生や中学生の割合もどんどん増えている。お母さんと子どもは海外留学し、お父さんは韓国で働いて仕送りを続ける家族は、もう珍しくもなんともない。韓国では、子どもの英語教育のための費用は惜しまない。

◆成長する子ども向け英語塾と人気の英語村

 韓国の国民銀行経営研究所が調査した「外国語学校の売上」を見ると、幼児・小中高校生を対象にした英語塾の売上は2006年の1,375億ウォン(約98億円)から2011年の3,786億ウォン(約265億円)に、5年間で3倍近く成長した。一方、大人用英語塾は2006年の1,704億ウォン(約120億円)から2011年の2,138億ウォン(約149億円)とそれほど伸びていない。

 2016年度の大学受験からは、修学能力試験(日本のセンター試験のような一斉テスト)の英語科目の試験が「国家英語能力評価試験」に変わる。現在の受験英語はリスニング、文法、読解のテストしか行わないが、「国家英語能力評価試験」ではこれに加えて「話す」「書く」能力も評価する。

 そのため韓国の教育ママたちは、「小学生の頃から英語で考え、英語で話し、英語ですらすら文章が書けるようにしなくては!」とさらに英語教育に熱を入れるようになった。外国まで行かなくても、英語で会話しないといけない環境を子どもに提供すれば英語が上達するのでは、という期待から人気を集めているのが「英語村」である。「英語村」は、英語が公用語のテーマパークのようなところで、英語版キッザニアともいう。1日体験から9泊10日の入所まで、さまざまなプログラムがある。

 
後篇では、韓国に数ある英語村の中でも人気の高い、パジュ英語村とスユ英語村を紹介する。パジュ英語村は、韓国の英語村の中でもっとも規模が大きい。京畿道(キョンギド)という、日本でいうと千葉県や埼玉県のように首都の隣に位置する自治体が運営する英語村だ。スユ英語村は、ソウル市がYBMという韓国最大手の英語教育会社に運営を委託している。
《趙 章恩》


2012年10月24日
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http://resemom.jp/article/2012/10/24/10482.html



【e-Learning Korea】3DやARは当たり前、進化した韓国スマートラーニング

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e-Learning Korea 2012 開幕式。中央にサイバー大学学生代表とスマート教室の模擬授業をしてくれたソウォン小学校の児童



 
3D教材。紙の本を開くと、電子黒板に3Dの動物が登場する。動物は動き、触れると反応する




 
韓国最大手キャリアのKTが展示したKibotという幼児・小学生向け教育ロボット。子供とロボットが一緒に英語で歌って踊るコンテンツを提供しており、親が選んでダウンロードする。防犯カメラ、ボタン一つで保護者の携帯電話にテレビ電話をかける機能もある



 
KTは教育コンテンツサービスに力を入れていて、スマートホームという主婦向けタブレット端末から利用できる英語教育アプリのラインアップを強化している。主婦にタブレット端末なんていらない、というお母さんたちに、子どもの教育のためにもタブレットは必要であると宣伝する





2012年9月12日から14日まで、ソウル市COEX展示場で開催された「e-Learning Korea 2012」。韓国のデジタル教科書やスマート教育環境を一通り体験できる展示会であり、海外からの参観者も多い。7回目を迎える2012年は「Smart Learning, Smart Future!」をキャッチフレーズに、教育関連省庁からベンチャー企業に至るまで、8か国から90社が参加した。同イベントの模様を、2回に分けて紹介する。

◆韓国政府が注力するスマートラーニング

 この展示会は、韓国の教育政策を担当する省庁の教育科学部、コンテンツ産業政策を担当する文化体育観光部、eラーニング産業政策を担当する知識経済部の3つの省庁が共同主催している。それほど韓国政府が力を入れている分野が、教育とICTの融合、スマートラーニングといえる。

 会場に設置された250のブースには「スマート教室」「スマートホーム」「3D教材」「学習アプリ」「Eトレーニング」などが展示してあり、昨年以上に「3D」や「クラウドコンピューティング環境」「拡張現実(AR)」「恊働学習(SNS活用)」を強調した展示が多く、大人が見ても楽しくなる教材や端末が勢揃いだ。

 政府省庁の展示も気合が入っていた。「Smart School」「Smart Home」「Smart Work」の3つをテーマに、学校と家庭の教育環境がどのようにスマートになっているのか、先生の業務はどのようにスマートになっているのかを動画で紹介しながら、実際に学校で使われている各種サイトを体験できるようにしていた。

◆保護者が学校の勉強を把握

 家庭ではスマートフォンとスマートTVから子どもの登下校情報を確認し、学校からの連絡事項もすべてモバイルで対応する。子ども達が授業中SNSに宿題や発表資料を登録すると、保護者はそれをリアルタイムで確認できるので、学校でどんな勉強しているのかも把握できる。

 また工業高校や実業高校で使っているシミュレーション「Eトレーニング」も各種展示してあって、興味深かった。高校生らが授業で学んだものを生かして、製造現場での研修前に、オンラインゲームのような装置を使って工場の機械作動を一通り体験し、身につけるため、生徒が怪我をしたり、事故が発生したり、といったこともかなり減ったという。

◆3Dになった電子黒板、拡張現実(AR)教材も活用

 電子黒板は今やほとんどが3Dになっていた。拡張現実(AR)の教材も多く、電子黒板を見ると私の隣に、いないはずの熊が立っていたりして驚いた。実際の授業では、動物、化石、建築物を理解するために使われているという。

 本を開くと特殊なコードをカメラが認識して、電子黒板に3Dの動物が登場。餌が描いてあるカードを動物に近づけると、動物がパクっと食べたり、棒が描いてあるカードでつつくと反応したりするのも面白かった。去年までは、3Dといっても停止した状態だったが、今年は動くデモが多く、とても新鮮だった。


《趙 章恩》



2012年9月21日
original link:
http://resemom.jp/article/2012/09/21/9960.html

【e-Learning Korea】 日本のデジタル教科書の現状…格差拡大に懸念

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2012年9月12日から14日まで、ソウル市COEX展示場で開催された「e-Learning Korea 2012」。展示の中で一番「すごい!」と思ったのは、スマート教室での模擬授業だ。江原道フェンソンという、ソウルから北へ3時間ほど離れた山里にあるソウォン小学校の4年生が教室を会場に移して「科学」の模擬授業を行った。

 机の上には、サムスンのGalaxy Note 10.1と電子ペン、バーコードが描いてあるカードだけが置かれ、鉛筆もノートも、紙の教材も一切ない。先生も同じくGalaxy Note 10.1を手に持ち、電子教卓と電子黒板を駆使して授業を進めた。



 

スマート教室は未来の教室ではなく、実際にソウォン小学校で使われている端末とプログラムをそのまま会場に移動させたもの。このような環境で勉強する学校はまだ全国で7校ぐらいしかない


 
電子黒板に映っているのがARの化石。実際には何もないが、子ども達の前に巨大が化石が現れ、ぐるぐる回したり、ARの道具を使って化石を割り、骨を掘り出すことができる



 
先生からのクイズ問題。恐竜の骨を見て名前を当てる


 
自分の化石から出てきた恐竜の骨を見て、どの恐竜なのかをデジタル教科書や教育サイトを検索して調べる。その結果を電子本にまとめ、皆の前で発表する




◆ARで化石を発掘・調査

 授業は、学習目標の説明から始められた。「恐竜と化石」について勉強する時間だという。子どもたちは自分のタブレット端末を使って、「ARで現れた化石をARの道具を使って掘り」、その化石から出てきた骨を見て「デジタル教科書と教育サイトを検索し、どの恐竜の骨なのかを調べ」、「3D電子本にまとめて皆の前で発表する」という、小学校4年生とは思えない、高度な授業だった。

 小さい手で、ピアノを弾くようにキーパッドで文字を入力し、自分がARで発掘した恐竜の化石がどの恐竜のものなのか、アニメや写真を編集して電子本を作り、それをクラスの教育クラウドに保存、先生のタブレットからファイルを呼び出して電子黒板に送信し、皆の前で発表する。作成した資料は、クラウドにアクセスするだけでいつでもどこでもどの端末からでも利用できる。次の授業では、皆が作った電子本を組み合わせて、仮想の恐竜博物館を作るという。

 子どもたちがすべて自分の手で作ったという電子本は、子どもらしいアイデアで溢れていた。友達が飼っているイグアナの写真と、デジタル教科書の恐竜の写真を比較して、恐竜の特徴をわかりやすく説明する子もいた。小学生のプレゼンのアイデアに驚いた。

◆過疎地でも平等な教育機会を実現

 ソウォン小学校は、4年生が6人、全校児童36人程度という小さい学校だ。隣の学校まで車で2時間かかるほどの過疎地である。そのために、塾に行きたくても行けない、参考書を買いたくても市内まで買いに行くのが大変、という環境の中で、平等な教育機会を実現するためにスマート教室が導入された。タブレットとデジタル教科書さえあれば豊富な資料を使うことができ、一人で勉強しても十分な学習効果をあげられるという、実証実験を行っている。

 ソウォン小学校は児童の人数が少ないため、先生が自律的に教育課程を調整できるイノベーション学校にも指定されている。紙の教科書に縛られることなく、先生は電子黒板、タブレット、3DやAR教材を使って、4年生が1年間に学ぶべき内容を教えればよい。学校教育に対する発想の転換が「スマート教育」を支えているのかもしれない。

◆テレビチャットで他校と交流

 ソウォン小学校の子どもたちは、隣の学校の子どもたちに会えるチャンスがなかなかないので、教室にある電子黒板とタブレットを使ったテレビチャットで、他校と交流しているのだそうだ。先日は2つの学校をネットでつなぎ、セミナーのようにそれぞれの学校の子どもたちが調べた宿題を発表し、お互いにテレビチャットで質疑応答をする授業を行ったという。

 模擬授業を終えた子どもたちに「タブレットで授業するのは難しくない?」と聞いてみた。すると全員、「このおばさん、何でそんなこと聞くのかな?」と首をかしげて笑っている。「これのどこが難しいのか、その質問が理解できない!」という表情だ。「紙の教科書に比べると使い方が複雑なので、慣れるまでに時間がかかるのではないか」というのは大人の勝手な思い込みに過ぎなかったようだ。

 ソウォン小学校では、端末を配る前に、子どもたちに端末とデジタル教科書の使い方を教えたが、直観的に使い方がわかるため、まったく問題がなかったという。タブレットを使った授業は「3DやARの資料をたくさん使うからすごく楽しい!」「全科目タブレットで授業すればいいのに!」と皆おおはしゃぎだ。しかし中には、「模擬授業の練習のために先週ずっとタブレットで科学の授業しかしていないから、ほかの勉強もしたい」と正直に不満をもらす子もいた。

◆自宅のPCでクラウドにアクセス

 授業用タブレットは学校に置いたまま使い、家には持って帰れないのだとか。自宅では自分のパソコンを使って、クラウドに保存したファイルをダウンロードして宿題をし、親のスマートフォンを使っているという。4年生6人の中で自分のスマートフォンを持っている子は1人だけだったが、パソコンは全員、自宅に1台以上持っていた。

 このほか、eラーニングの授業だけで単位がもらえ学士号がとれるサイバー大学、先生の動きを追いかけるカメラを使い自動的にeラーニング講座を録画してくれるシステム、紙の教材を簡単に3Dに変えられるツール、国家英語試験(韓国は2016年の受験からセンター試験の英語科目が国家英語能力評価試験に変わり、読む、書く、聞く、話すの4つの力を見る。現在は英語で話す試験は行っていない)対策として、英語を話すと、ネイティブの発音との違いを比較し、直してくれるタブレットとプログラムも面白かった。手間ひまかけずに、よりスマートに効果的に教育できる技術もたくさん展示されていた。

◆重要なのは先生のやる気

 日本では教育現場でのICT活用がゆっくり進んでいるように見えるが、韓国は何でもパリパリ(早く早く)精神で突撃するので、取材する方も大変だ。しかし、展示会で出会った学校の先生や電子黒板メーカーの担当者は、皆同じことを強調した。

「電子黒板やタブレット端末といったものは、あくまでもよりよい教育をするためのツールにすぎない。重要なのは先生のやる気です。先生が変わらないと子どもも変わりません。先生がよりスマートに教育したいと意欲的に端末を導入する学校は、設備が最新のものでなくても、子どもたちの好奇心、集中力を高める授業をしています。ICT機材や端末を導入することがスマート教育の目的になってはいけません」

 そうなのか。それで展示会に現役の先生たちもたくさん視察に来ていたのか(胸のカードに学校名と教師と書いてあった)。技術と端末を展示する展示会で、韓国の先生たちの熱意と意欲までも見ることができたe-Learning Korea 2012。来年もリセマムで紹介する予定だ。

《趙 章恩》


2012年9月21日
original link :
http://resemom.jp/article/2012/09/21/9964.html