サムスン、GALAXY Tab 10.1の“手書き機能”で若者に攻勢

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サムスン電子は2012年8月16日、10.1型の大画面に手書きできる電子ペンの「Sペン」機能を強化したタブレットPC「GALAXY Tab 10.1」を韓国と米国、英国で発売した。Wi-Fiモデルと3Gモデルがあり、値段は80万ウォン(約5万5000円)。





GALAXY Tab 10.1。OSはAndroid 4.0で、幅262×高さ180×奥行き8.9mm、重さは597g



 韓国の学校の2学期は8月第3~4週から始まる。今はちょうど新学期と韓国のお盆(旧暦8月15日で2012年は9月30日)を迎える時期。お盆で久しぶりに会う親戚からお小遣いをもらい、何かいいものが買いたいという学生を狙い、スマートフォンやタブレットPC、デジタルカメラの新商品発売がこの時期に集中する。


 GALAXY Tab 10.1はSペンを使った手書き機能が売りである。太さ6.5mmのSペンで、紙に書き込む感触を最大限再現した。ペンで書き込むときは、画面のタッチ機能を停止させるので、紙に書き込むのと同じでペンを持った手をタブレットPCの上に接触させて書けるようになった。ペン先以外は画面にタッチしないよう変に手首を浮かせるような姿勢で手書きしていた時代はもう終わり。これで絵を描いたり、メモしたりと、普通に紙に書き込むのと変わらない姿勢で利用できるようなったので、とても楽になった。


 また、マルチスクリーン機能があり、2つの機能を同時に利用できる。動画を観ながらメールを書いたり、インターネットをしながら手書きメモを作ったり、写真を観ながらお気に入りをコピーしてメモ帳に貼り付け、手書きのメッセージを添えて保存したりメールで送ったりということができる。

5.3型のスマートフォン「GALAXY Note」が発売されたときは、繊細な手書きができるSペン機能を強調するため、アーティストがSペンで似顔絵をその場で描いてくれるイベントをよくやっていた。最近でもサムスン電子の展示場に行くと、GALAXY Noteで似顔絵を描いてメールで顧客に送信、Facebookやメッセンジャーのプロフィール写真代わりに使えるようにするイベントをよくやっている。


 同様に、芸能人がGALAXY Tab 10.1の使い方を教えるイベントを開催した。GALAXY Tab 10.1できれいにノートを筆記する方法、撮った写真を編集する方法、子どもと一緒にお絵かきを楽しむ方法などを紹介した。









GALAXY Tab 10.1を使ってデジタル教科書を見て、ノート筆記もできるという点をアピールするため、サムスン電子は名門大学出身の女優が教えるノート整理法イベントを開催した。このほかにも、子ども向けにSペンを使ったお絵かき教室も開催された



 「GALAXY Tab 10.1」=「デジタル教科書を利用するのに最適な端末」という宣伝も始まっている。「How to Live SMART」キャンペーンと名付けられたイベントで、サムスン電子はGALAXY Tab 10.1を使ってデジタル教科書を見ながら、手書き機能でノート筆記できるという点も強調した。同社の「ラーニングハブ」というeラーニング動画と教材を提供するアプリから、小中高校で使う教科書のPDFファイルとデジタル化された参考書を利用できる。GALAXY Tab 10.1をうまく使えば、教科書も参考書もノートも筆記道具も持ち歩く必要がなくなる。カバンが重くならないのだ。


 発売を受けて、サムスン電子はニューヨークのタイムワーナーセンターで、有名映画監督のBaz Luhrmann氏(主な作品に『ロミオ&ジュリエット』、『ムーラン・ルージュ』がある)がGALAXY Tab 10.1の使い方や特徴を説明する、大規模なローンチイベントを開催した。


 サムスン電子は、GALAXY Tab 10.1を使ってコンテンツを楽しむだけでなく、手書きや編集機能を使い、“自分でコンテンツを作る”文化を提案したいとしている。


 韓国ではサムスン電子の企業ブランド価値が、アップル、グーグル、マイクロソフト、IBM、アマゾンに続いて世界6位に選ばれたという報道もあり(ブランドファイナンス社調べ)、サムスン電子が話題にならない日はない感じである。



趙 章恩=(ITジャーナリスト)

日経パソコン
 [2012年8月24日]

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http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20120824/1060846/

スポーツ競技はテレビよりスマホで観るもの

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オリンピックといえば「テレビの買い替え」、という時代はもう終わりに近づいていのかもしれない。ロンドンオリンピックはスマホが広く普及してから初めて迎えるオリンピックだった。現地との時差が8時間と大きく深夜に試合が中継された影響もあり、韓国では「テレビスマートフォン」やタブレットパソコンを使って競技を見ながらSNS上でつぶやく人が急増した。オフラインではひとりだけど、SNSでは街角応援並みに大勢が集まり盛り上がった。

 個人放送局「アフリカTV」は、動画サイトでありながらロンドンオリンピック中継権を買い、モバイル向けに放送した。スマホからオリンピックを観たいユーザーがアフリカTVに殺到し、ユーザーが前より20%も増えたとアフリカTVは発表した。個人放送局らしく、韓国選手が金メダルを獲得した瞬間を集めて個人がコメントを付けて放送する動画も人気を集めた。


 ポータルサイト最大手のNAVERもオリンピックをストリーミングで中継した。オリンピック期間中、パソコンからストリーミングを視聴した人が3分の1、スマホやタブレットPCから観た人が3分の2を占めた。オリンピック関連情報やニュースも、モバイルから利用した人が圧倒的に多かった。NAVERのスポーツコーナーのモバイルページビューは、オリンピック期間中毎日1億を突破し、いつもより4倍も増えたという。2番目に大きいポータルサイトのDAUMは、オリンピック競技ハイライト場面のVOD再生回数が5200万回、このうち70%がモバイル端末からの視聴だったと発表した。


 男子サッカーの3位決定戦があった8月11日は、韓国のスマートフォンユーザー約2900万人のうち1000万人がNAVERのモバイルサイトにアクセスしてオリンピックニュースを読んだ。この試合はモバイルトラフィック最高記録を更新したほどだった。サッカーの試合結果を翌朝動画で観ようというユーザーも増えたことから、同試合の動画再生回数は1000万回を突破、史上最高を記録した。それまでは、キム・ヨナのバンクーバー冬季オリンピック動画が再生回数900万回で1位だった。


 各ポータル会社は、オリンピック選手団を応援するための特設ページを運営した。NAVERの場合、ユーザーが書き込んだ応援メッセージは42万件、そのうち30万件がモバイルから書き込まれたものだった。 



キャリアが提供するIPTVに脚光


 オリンピックを契機に、キャリアが提供するモバイル端末からIPTVをリアルタイムで視聴できるサービスも人気急上昇。SKテレコムの「Btvモバイル」は、全ての地上波放送とオリンピック中継、CATVの40チャンネルをハイビジョンクラスの画質でLTE端末向けに提供している。現在はリアルタイム放送が中心で、10月以降IPTVと同じくVODも利用できるようにするという。動画サイトのモバイル放送よりも画質がきれいなところが売りである。キャリアが加入者を伸ばしたがっているLTE高速ブロードバンドを宣伝するためのツールとしても、オリンピック中継は注目を浴びた。


 LGU+もLTE対応スマホからハイビジョン画質でIPTVを視聴できる「U+HDTV」を開始している。1秒当たりの画面伝送を1.5Mbpsから2Mbpsに上げ、韓国では最も画質がきれいなモバイル放送と宣伝している。40型のテレビにLTEスマホをつなげて視聴しても違和感ないほどの画質で、ワンセグに比べると10倍もきれいな画質なのだとか。最近、電車の中でワンセグを視聴している人を滅多に見かけなくなったと思ったら、こんなに画質がきれいなモバイル放送が続々始まっていたのか。LGU+はLTEスマホ向けに1万本のVODも提供する。






LGU+のLTE対応スマホ/タブレットPC向けIPTVサービス。1秒当たり映像伝送速度を1.5Mbpsから2Mbpsにアップグレードし、ハイビジョンクラスの画質が自慢。高画質モバイル放送があるからか、ワンセグを利用している人を滅多にみかけなくなった



 次のオリンピックはテレビの買い替えよりスマホの買い替えCMがもっと頻繁に流れそうだ。





趙 章恩=(ITジャーナリスト)

日経パソコン
 [2012年8月17日]

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http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20120817/1059922/

スマートラーニング時代の差別化ポイントは「学習管理システム」

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スマートラーニング時代を反映し、韓国のeラーニング市場は拡大している。Eラーニング産業白書によると、2011年の韓国eラーニング産業の売り上げは前年比9.2%増の2兆4500億ウォン(約1700億円)だった。内訳はコンテンツが5300億ウォン(約368億円)、ソリューションが2300億ウォン(約160億円)、サービスが1兆6700億ウォン(約1160億円)の規模となっている。


 売り上げに占める割合は、企業向けeラーニングサービスが28.4%と最も多い。しかし、幼児向け3.1%、小学生向け6.2%、中学生向け4.6%、高校生向け4.5%と、幼児から高校生までの市場を合わせると18.4%と企業向けの次に大きい市場である。


 eラーニング利用率は3~7歳が38.5%、8~19歳が74.5%、20代が67.9%、30代が44.9%、40代が41.6%、50代以上が25.9%だった。3~7歳の未就学児童のeラーニング利用率は2007年に28.7%だったのが4年間で10ポイントも伸びている。もちろん家庭にインターネットが普及した影響もあるが、学校でデジタル教科書やオンラインベースの評価制度(紙のテストではなくインターネットベースのテストに変える)が導入されることが決まってから、幼児のときからeラーニングに慣れさせようとする親が増えているのも確かだ。


 スマートラーニング時代を迎え、eラーニング業界が最も力を入れているのは学習管理システム、LMS(Learning Management System)である。


 代表的なのはソウル市教育庁が無料で全国の小学生に提供する「サイバー家庭学習」。学校以外の場所でもインターネットさえつながれば、学校で学ぶ内容を予習・復習できるようにしたeラーニングで、ユーザーである子どもがテストを受け、自分の学習レベルを自ら把握して、学習難易度を選択できるようになっている。さらに、どの科目を何時間勉強したのか、“サイバー担任”である先生との質疑応答など学習管理も残せる。サイバー担任が子どもの学習レベルに応じて「こういうところをもっと勉強してみたら?」とアドバイスもしてくれるので、一人で黙々とがんばるイメージが強い既存のeラーニングとはちょっと違う。


 





ソウル市教育庁が2004年から無料で提供しているサイバー家庭学習の画面。教科書の内容を予習・復習できるeラーニングで、現役の小学校の先生がサイバー担任先生になり質問に答えたり学習アドバイスをしたりしている。先生と一緒にがんばる仕組みにしたことで子どものモチベーションを高めた




 





サイバー家庭学習の学力テストの画面。子どもたちが自ら学力テストをして、レベルにあった教材を選べるようにしている

 


いつでもどこでも子どもの学習状態を把握


 民間の教育会社も学習管理システムを差別化のポイントにしている。韓国の小学生なら誰もが知っているほど有名な「ヌンノピ先生」(子どもの自宅へ訪問する先生。日本では郵便でやりとりするのが一般的な通信学習を、韓国では全国1万3000人の「訪問先生」が家に学習誌を届け、毎週15~30分ほど訪問して採点と指導をする)は、スマートフォンを使って子どもの学習レベル評価、学習履歴管理を行う。


 ヌンノピ先生が家庭に届ける紙の学習誌を子どもが解くと、先生が採点してどの問題を間違えたのかスマートフォンに入力する。するとスマートフォンに学習評価の画面がグラフで現れ、子どもの補うべき学習項目が一目で分かるようになっている。この画面は親にも送信できるので、親もスマートフォンから子どもの学習状況を確認し、訪問先生へメッセンジャーを使って気軽に質問できるようになった。今までは訪問先生が採点をして手帳に記録し、自身の経験で子どもを評価していた。


 ヌンノピ先生の本社であるテキョのキム・ボンファン企画広報チーム課長によると、スマートフォンを取り入れた、ヌンノピ先生独自の学習評価システムを使った学習管理を行うことで、保護者の信頼度が以前よりも高まったという。


 同じく訪問先生6000人を抱える教育会社ウンジンシンクビックは、スマートフォンからもタブレットPCからも使える「アイチューター」という学習管理システムを利用する。子どもがeラーニングプログラムを利用して学習すると、先生の端末に学習履歴と採点結果が届き、それを元に今後の学習方法について相談できるようになった。いつでもどこでも子どもの学習を管理できるので、いつ保護者からの質問や相談をされても、的確に答えられるということから、他社との差別化につながっている。


 クラウドコンピューティングとビッグデータ(インターネット上に書き込まれる膨大なデータを分析して、社会問題を解決するための答えを導き出すといったことが期待されている)が全産業において流行語のようになっている。教育の分野も同じである。eラーニングやスマートラーニングで学習コンテンツが素晴らしく、分かりやすいUI、かわいいキャラクターで子どもの視線を釘付けにするといったことは当たり前。これからはその裏のソリューションの精密度が勝負となる。


 デジタル教科書、eラーニング、学習アプリで学んだことを総合的に分析して、子どもの学習能力を伸ばせるシステムを目指して、韓国は教育庁も民間企業も最新ICT技術導入を急いでいる。







趙 章恩=(ITジャーナリスト)

日経パソコン
 [2012年8月10日]

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http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20120810/1059542/

老舗教科書会社、「スマート教科書」開発にまい進

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2015年から全国の小中高校でデジタル教科書を使えるようにする、という教育科学部(日本の文部科学省に相当)と国家情報化戦略委員会のスマート教育戦略により、最も大きな変化を迎えたのは教科書会社である。

 メイン事業といえる紙の教科書を使う学校が減り、デジタル教科書へ移行するとなると、印刷会社まで抱えている大規模な教科書会社は利益を保つためにビジネスモデルを変えないといけない。


 1948年に創業した韓国の老舗教科書会社「MIRAEN」(大韓教科書から社名変更)は、政府のデジタル教科書開発とは別に、自ら「スマート教科書」の開発を始めた。MIRAENは教科書会社として国定(義務教育の小中学校は国定教科書を使用)、検定、認定(国定や検定のように教育科学部長官が認めた教科書ではなく、自治体ごとにある教育庁が認めた教科書で、教科書の判型や内容が国定・検定よりは自由)教科書の全てを制作・販売している。


 教育科学部によると、2015年以降、紙の教科書とデジタル教科書の両方を検定することを検討しているという。2015年以降デジタル教科書が広く使われるようになれば、今のように国が主導して科目ごとにコンソーシアムも結成してデジタル教科書を開発するのではなく、教科書会社が科目ごとにデジタル教科書を開発し、それを教科書検定機関に提出する方式に変える、ということである。


 MIRAENはほかの教科書会社より一足先に、自社の教科書のほとんどをアプリケーションにして公開し、教科書会社として初めて教師向けデジタル教材アプリを開発してきた。


 さらに、教科書をPDFにした単純なデジタル教科書を脱皮し、2012年からは「スマート教科書」の開発に着手した。動画、音声読み上げ、GPSなどタブレットPCから利用できるいろんな機能、直感的に使えるUIを盛り込んだのが「スマート教科書」である。学生のレベルに合わせて単元ごとに難易度を調整し、学習履歴を管理できるようにもしている。


 デジタル教科書に臆するのではなく、時代の流れに敏感になり、新しい市場を積極的に切り開いていこうとするのが韓国教科書会社の特徴である。教科書会社というと、安定した収益源があるので体質が古く、停滞しているイメージがあるが、MIRAENはベンチャー企業のような明るさ、活気があった。







MIRAENの英語スマート教科書。単元の導入部には英語を学びたくなる動機づけの動画を入れている






MIRAENの社会スマート教科書。「場所」という概念を勉強するためGPSを使う。タブレットPCから使える動画、音声認識、音声読み上げ、GPSといった機能をフルに使いこなせるようにしている




「デジタル教科書の市場を切り開こうとアイデアを練っている」


 同社マーケティング部のホン・ソンチョル次長は、デジタル教科書やスマート教科書の企画を長年担当してきた専門家として有名である。ホン次長の「デジタル教科書で重要なのは使いやすさ。直感的にすぐ使える教科書でなければならない。クラウドコンピューティングにより、いろんな教材と端末をつなげられるので、教師がそれらを使ってうまく授業の設計をできるように教科書会社が工夫しないといけない」という話はとても新鮮だった。うちのデジタル教科書にはこんな機能があります、と自慢する会社は多かったが、使いやすさにこだわり、生徒が理解しやすいよう参考資料をたくさんリンクするのはもちろん、教師が授業しやすいよう授業設計まで念頭においたデジタル教科書を開発しているという話はMIRAENで初めて聞いたからだ。








MIRAENのスマート教科書は使いやすさにこだわっているという。ページの移動やタッチる場所を直観的に分かるようUIも工夫した

 そのためにMIRAENは教育科学部からデジタル教科書用オーソリングツールに選定された「Incubetech」と手を組んで「Incubetech Publisher」でデジタル教科書を制作している。Incubetech PublisherはDTPソフト「QuarkXPress」で制作された出版物をEPUB形式に変換し、変換したファイルを修正・編集できる電子書籍制作ソフトである。このソフトによってEPUBに変換するとどの端末からも電子書籍として利用できる。Incubetechはサムスン電子のタブレットPC「GALAXY Tab」向け電子書籍リーダー「リーダースハブ」を開発した会社でもある。


 ホン次長は、「MIRAENが中心となって電子書籍技術を持っている会社、端末メーカー、通信キャリアと手を組み、デジタル教科書の新しい市場を切り開こうとアイデアを練っている。お金を投資するとなれば投資決定まで時間がかかるが、それぞれの会社が持っている技術やコンテンツを出し合って新しいビジネスモデルを作るのはすぐにでもできるし、負担も大きくない。デジタル教科書市場をリードしたい」と意欲的だ。


 ほぼ独占に近い紙の教科書市場を守ろうと頑なになるのではなく、時代をリードする会社になりたいというMIRAENは、日本のデジタル教科書関連会社にとっても参考になるところがあるのではないだろうか。スマート教科書ビジネスの動きはこれからも注目したい。





趙 章恩=(ITジャーナリスト)

日経パソコン
 [2012年8月3日]

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http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20120803/1058382/

デジタル教科書の次は……「教室」を変えよう!

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 前回紹介したケソン小学校は、サムスン電子のスマートスクールモデル学校だった。これとは別に、ソウル市教育庁が支援するスマートラーニング研究学校がある。


 ソウル市の場合、2008年から実施しているデジタル教科書研究学校に追加して、2011年末にスマートラーニング研究学校を新たに3校指定した。2011年に開校したばかりの小学校、中学校、高校1校ずつで、キャリアのLGU+が学校内どこでもWi-Fiが使えるようにネットワークを、サムスンがタブレットのGalaxy Tab10.1を、LGが電子黒板と大型3DTVを提供する。教室の壁には子どもたちがグループごとに資料を作成して発表するときに使う大型スクリーンが4つある。教室の中には学習履歴を保存するサーバーもある。


 筆者が訪問したスマートラーニング研究学校は、モクウン中学とシンド高校である。両方とも「スマート教室」という特別室が学校の中にあり、教師が必要に応じてスマート教室を使って授業をする仕組みになっている。ここに入ってびっくりしたのは、壁全部にスクリーンがあり、それを授業中全部使いこなすということだった。


 






シンド高校のスマート教室。このように教室の壁全部がスクリーンになっている。子どもたちはグループごとに資料を作成して、スクリーン上に映して発表する



 スマート教室は教室の3面が40型以上の電子黒板になっていて、正面には3DTVも設置してある。教室にはタブレットPC、電子ペン、電子ペーパー(普通の紙だが特殊なプリントをする)、3D用メガネが置いてあり、これら道具を使って授業を行う。子どもたちがタブレットPCの電源を入れて出席ボタンをクリックすると、電子黒板に映し出された出席簿の名前の色が変わり、学習履歴や端末に書き込んだ内容などがすべてサーバーに記録される。


 電子ペーパーに電子ペンで書き込むと、何を書き込んでいるのかリアルタイムで一人ひとりのペーパーを電子黒板に映して確認できる。教師はクイズ問題を電子ペーパーに印刷して、授業が終わるころ、子どもたちがちゃんと理解しているかどうか確認するためテスト用紙を配る。子どもたちが電子ペンで電子ペーパーに答えを書き込むと自動で採点が終わり、クラスの平均や成績トップは誰かといったこともすぐ電子黒板に表示できる。
 







シンド高校のスマート教室にある電子黒板に、生徒が手元で電子ペーパーに書き込んだ内容を映しているところ。電子ペンで書き込むと同時にリアルタイム表示する。採点も自動的に行われる。画面左側、縦に並ぶのは配られた電子ペーパーのテスト用紙。右にあるリストは出席簿。タブレットPCから生徒が授業参加をクリックすると出席チェックを行う




「グループで話し合う・発表する」は“必須”


 スマート教室では、紙の教科書ではなく電子ペーパーをはじめデジタル教材を使う。デジタル教材は教科書のPDFファイルを元に、教師がリンクを貼り付けたり、アニメや写真を追加したりして、オリジナルの教材を作る。教育庁のデジタル教材サイトは教科内容に合わせた動画やアニメ、写真を大量に提供しているので、素材に困ることはない。ただし、最新の話題を取り上げて説明したい場合は、民間のコンテンツ事業者が提供する教師向け有料デジタル教材サイトを使うこともあるという。また、教育的に効果があると教師が判断した場合、授業中に学習アプリケーションを使うこともある。タブレットPCがAndroid OSなので、アプリストアであるGoogle PlayやSamsungappsからダウンロードする。


 子どもたちは授業中必ず、グループごとに自分たちが理解したことをパワーポイントでまとめて、大型スクリーンを使って発表する。グループの宿題として出されることもある。グループで一緒に考えて意見をまとめ、みんなの前で発表してディスカッションする、というのもスマートラーニングの重要な目的だからだ。


 






モクウン中学校のスマート教室で。子どもたちが「技術」の授業中、グループで一緒に小さい自動車を作り、その制作過程を発表している。グループで意見をまとめてみんなの前で発表、ディスカッションするのもスマートラーニングの重要な目的の1つである



 スマートラーニング研究学校の中学生たちに、スマート教室で授業すると何がいいか聞いた。「発表とディスカッションがあるから予習していこうかなって気になる」、「先生がずっと説明するより、3D動画を見たり、他の子の発表を聞いたりする方が記憶に残るから、全科目スマート教室で授業すればいいのに」、「紙の教科書だと苦手な科目はぼうっとしてしまったけど、スマート教室ではデジタル教科書をクリックして参考資料を見ればいいので授業についていける」など、授業を楽しんでいる雰囲気が伝わってきた。


 デジタル教科書研究学校の場合は、国が主導してデジタル教科書を制作した、国語、英語、数学、社会、科学といった主な科目の中から学校ごとに2~3科目を選択して、研究クラスに選ばれたクラスだけ、教室の中でノートパソコンを使ってデジタル教科書を立ち上げて授業をしていた。


 スマートラーニング研究学校の場合は、デジタル教科書研究学校と違ってスマート教室で授業をすべき科目を特に指定していない。教師がスマート教室を使った方が教えやすいと判断すれば、教室を移動して使えるようにしている。


 「リテラシー教育」というのが要らないほど、子どもたちは直感で端末とデジタル教科書を使いこなしている。教師たちも電子黒板を使ったり、子どもたちの端末をフリーズしたり、データを送信したりといった制御方法を30分聞いただけで十分使いこなせているという。


 韓国の文部省にあたる教育科学部と各自治体の教育庁は、スマートラーニングの目的は「平均的な教育ではなく、子どもたちの一人ひとりのレベルに合わせた教育をすることである」として、「スマートラーニングは教室改造ではない。IT技術が教育現場に溶け込まないといけない」という問題意識をしっかり持っていた。韓国のデジタル教科書やスマートラーニングは、教師らの積極的なフィードバッグを反映しながら、改良に改良を重ねている。


 次回は一足先に「スマート教科書」を開発し始めた老舗教科書会社を紹介する。





趙 章恩=(ITジャーナリスト)

日経パソコン
 [2012年7月27日]

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http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20120727/1057624/

世界17カ国から視察、すごい“スマート先生”の授業を見学

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韓国有数の名門私立小学校であるソウル市ケソン小学校。この小学校はサムスン電子の「スマートスクール」モデル校である(
関連記事)。4年生を対象に、デジタル教科書とタブレットPC、電子黒板を使った授業を行っている。今回、同小学校へ社会科の授業参観に行ってきた。

 学校内でWi-Fiが使え、クラスの全生徒が1 人1台のタブレットPC(GALAXY Tab 10.1)を使い、65インチの電子黒板と連動して授業を行う。子どもが席に座り、タブレットPCから「授業参加」をタッチすると、先生のディスプレイに子どもたちの画面が見えるようになる。誰が何をしているのか、戸惑っている子はいないか、一目で確認できるので、一人ひとりにレベルを合わせて教えられるのがスマートスクールのいいところである。


 2011年10月から始まったケソン小学校のスマートスクールを担当しているのは、チョウ・キソン先生。チョウ先生の“スマートな授業”は韓国だけでなく、今や世界中が注目している。ヨーロッパ各国や日本など17カ国から授業参観に来ているのだ。チョウ先生は韓国教育科学部から委嘱されたデジタル教科書開発先導委員であり、APEC教育諮問教師も兼ねている。









チョウ・キソン先生が教える社会科の授業の様子。タブレットPCと電子黒板、チョウ先生自身が編集し直したデジタル教科書を使う(ソウル市ケソン小学校で筆者写す)



 チョウ先生が使うデジタル教科書は、ほかの学校が試験的に導入しているデジタル教科書とは若干違う。政府が制作したPDF版の教科書をベースに、チョウ先生が自ら科目ごとに画像やFlashアニメーション、関連サイトのリンクを貼り付け作った、手作りデジタル教科書なのだ。










子どもたちが使うタブレットPC(GALAXY Tab 10.1)画面上のデジタル教科書。ここから選択する



 チョウ先生は「教育庁や民間の教育会社が提供するデジタル素材はたくさんあるので、そこから子どもたちの理解を助ける素材を選んでハイパーリンクを貼るだけです。とても簡単。ほかの教師もやっていて資料を共有することもあります」と笑顔で説明する。教師が本を制作するPDF作成ツールをまず覚えて、授業のために素材を毎日追加してデジタル教科書を作る。それを電子黒板と子ども用のタブレットPCに表示して授業をするという一連の作業は、「簡単」といえども相当な手間と時間がかかるだろう。


 チョウ先生は授業が終わるころ、今日学んだことについて子どもたちがちゃんと理解しているかどうか確認するため、タブレットPCにクイズ問題を送る。このクイズは電子黒板の中に入っている機能で、その場ですぐ作れるという。子どもが回答して送信すると、それをまとめて電子黒板に映してみんなで討論する。授業は本当に楽しそうで、子どもたちの笑い声が絶えない。学校関係者と保護者、子どもたちだけがアクセスできる教育SNS「クラスティング」に、授業中タブレットPCで撮影した写真を投稿したりもする。


 タブレットPCを使った授業は難しくないのか子どもたちに聞いてみると、「使い方はとても簡単です。タブレットPCがあるといろいろな資料が見られて参考になるし、自分の力でもっと勉強してみようって気になります」と立派な答えが返ってきた。


 ケソン小学校のスマートスクールは韓国でも先進的なケースで、ここまで環境を整えた学校はまだ数校に過ぎない。しかし授業参観をして驚いたのは、タブレットPCやデジタル教科書といった端末の性能よりも、先生である。いろんな機材を操りながら、一人ひとりに目を配り、教科課程に沿って教えるべきことはきっちり教える授業法をマスターしているチョウ先生にびっくりしてしまった。


 チョウ先生は、「先生は道を開いてあげる存在。一方的に教え込むのが授業ではない」と話す。「タブレットPCを使って子どもたちが自ら検索して探求することで、短い時間の間にもっとたくさんのことを学べます」とのこと。スマートスクールの意義は子どもが自主的に学習に取り組むことにあるのだ。


 チョウ先生は放課後も忙しい。Facebook上でデジタル教科書情報をほかの先生と共有し、子どもたちが携帯メールに送ってくる質問に答える。放課後も仕事が続くなんて、先生はいつ休むんですか?という質問に、チョウ先生は「教師として当然やるべきことをやっているだけです」ときっぱり。


 デジタル教科書やタブレットPCはツールにすぎない。大事なのは子どもたちが自ら興味をもって学習できるように先生が導くこと、それをしやすくするのがスマートラーニングのデバイスや技術というわけだ。


 「私はすごくないですよ、韓国の先生はみんなこれぐらい使えますよ」と謙遜するチョウ先生。韓国がスマートラーニング先進国になれたのは、やっぱりチョウ先生のような“スマート先生”がいるからに違いない。



趙 章恩=(ITジャーナリスト)

日経パソコン
 [2012年7月20日]

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http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20120720/1056702/

グローバルな市場を学ぶ-今どきのヒット商品 ; 第4回:韓国 . 受験に欠かせない,学習用タブレット端末 

グローバルな市場を学ぶ-今どきのヒット商品

第4回:韓国 . 受験に欠かせない,学習用タブレット端末 


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2011/11/30 00:00

趙 章恩 = ITジャーナリスト

出典:日経エレクトロニクス,2010年12月27日号, (記事は執筆時の情報に基づいており,現在では異なる場合があります)


韓国の2010年は,スマートフォンとモバイル・インターネットなしでは語れない。特に,2010年9月末で出荷台数が500万台を突破したスマートフォンは,人々や社会を変えたとまでいわれている。

 韓国のインターネット環境は,一気にスマートフォンと無線LANに切り替わり,地方選挙では「地元をホットスポットにする」という公約まで登場した。これは,老若男女関係なくスマートフォン・ユーザーが増えているという証拠ではないだろうか。


 2010年末には,韓国でのスマートフォンの出荷台数は600万台を突破し,2011年には1500万~1600万台に達しそうな勢いである。


タブレット端末で受験勉強


 スマートフォンの次は,タブレット端末がヒットするのが世界の流れである。ただし,韓国ではまだ「iPad」が発売されていない。2010年11月に発売になった韓国Samsung Electronics Co., Ltd.の「GALAXY Tab」は,定額基本料金や端末代金を含めると毎月1万円程度必要になるため,スマートフォンほど気軽に買える状況ではない。


 そこで,韓国独自のヒット商品として売れているのが,さらに小さくて安い「PMP(portable multimedia player)」と呼ばれる学習用タブレット端末である。PMPは,電子辞書や音楽・動画再生,無線LANなどの機能を備えている。


 韓国政府は教育機会均等を目的として,公営放送である教育放送のWebサイトで大学入試講座の動画を無料で提供している。ここから大学入試の問題の一部が出題されるため,高校生はこの動画をPMPなどで見ているのだ。高校生の多くは夜10時まで学校で自習をし,それから塾へ行く。PMPをいつも持ち歩き,空いた時間にPMPで勉強するのである。








学習用タブレット端末「Buddy」は,5型液晶ディスプレイを備え,1080pのHD動画に対応する。OSはAndroid 2.1である。(写真:i-station社)

(写真:Motorola社)


PMPの中で人気なのが,韓国i-station Inc.の「Buddy」である(右上の写真)。中高生をターゲットに売り出し,1カ月で約8000台が売れた。PMPでは通常,パソコン経由で教育放送の動画をダウンロードするのに対して,Buddyは無線LAN経由でダウンロードできるのが特徴だ。価格は,32Gバイト品が42万9000ウォン(約3万円)である注1)

注1) 2010年12月10日時点の為替レート1ウォン=0.07円で換算。


 学習用端末市場に対してSamsung Electronics社は,GALAXY Sでしか利用できない無料の受験勉強用動画アプリケーション・ソフトウエアを同端末に搭載し,それが受験勉強の役に立つとして好評を得ている。PMP市場でシェア7割以上の韓国Cowon Systems, Inc.は,Android 2.2と5型の液晶ディスプレイを搭載し,無線LANと3Gデータ通信が使える端末を2011年1月に発売する予定である。このほかに,電子書籍端末や音楽プレーヤー,ナビゲーションなどのメーカーも学習用タブレット端末に目を付けており,韓国の新学期が始まる2011年3月に向けて新商品が目白押しになるだろう。


 学習用のPMPやスマートフォン,タブレット端末を実際に購入するのは,高校生の親である。就職が厳しくて名門大学に入れないとその後の人生が安定しない韓国だけに,「子供のためになる」「勉強に役立つ」という宣伝文句に親は弱いのかもしれない。


高級+省エネでヒット


 白物家電でヒットしたのが,通常よりも価格が7万~8万円ほど高い,Samsung Electronics社の高級冷蔵庫である。2010年3月の発売から同年6月までに1万台以上売れた。韓国は貧富の差がかなり開いており,価格が安い中国Haier Electronics Group Co., Ltd.の製品が売れる一方,高ければ高いほど売れる市場も存在する。


 韓国では集合住宅に住む割合が圧倒的に高く,4人家族で4LDK,バスルームは二つが基本と,間取りが広い。大きな家電を置く空間的な余裕があり,キッチンとリビング・ルームがつながっている構造なので,家電もインテリアの一部として認識されている。



 この高級冷蔵庫は,イタリアのジュエリー/時計デザイナーのMassimo Zucchi氏が設計した(図1)。以前にもデザイナーが設計したエアコンや冷蔵庫,キムチ冷蔵庫などがあったが,話題性だけで実際にはそれほど売れなかった。しかし,今回は「BVLGARI」や「OMEGA」などのブランドを手掛けてきた世界的に有名なデザイナーだったことに加えて,最新の省エネ機能を備えていたことが人気の秘訣となっている.






図1 表面がきらきら光る高級冷蔵庫

著名デザイナーが設計した冷蔵庫は,水がきらきら光る様子をLEDで表現した「ジュエル・ライト」などを搭載する。(写真:Samsung Electronics社)


この高級冷蔵庫は,四季に応じて自動的に温度を調節する「季節自動モード」やユーザーの生活パターンを記憶して冷蔵庫内を最適な状態に保つ「生活自動モード」など,センサを活用する「スマート・エコ・システム」を搭載している。こうした機能により,容量737Lの高級冷蔵庫の月間消費電力は31.8kWと,世界最小クラスとした。

 ヒットしたもう一つの要因が,宣伝に「国民的息子」と呼ばれ,主婦に人気の俳優 李昇基(イ・スンギ)氏を起用したことである。冷蔵庫の宣伝に登場するのは女優が多かったが,あえて人気の男性を起用したことで「イ・スンギが宣伝している冷蔵庫」と指名買いされるまでになった。検索サイトでも「Massimo Zucchi冷蔵庫」より「イ・スンギ冷蔵庫」と検索した方が,ヒット件数が多いようだ。


最短最多販売記録を更新

洗濯機では,発売から2カ月間で3万台を売り,Samsung Electronics社の最短最多販売記録を更新するヒット商品が登場した。泡を使って汚れを落とす「バブル・エコ・ドラム式洗濯機」である(図2)。既存のバブル洗濯機に比べて洗濯時間と電気代を半減したことから,大ヒットとなった。価格は他社のドラム式洗濯機よりも2万~4万円ほど高めの設定で,13kg対応品が9万~13万円程度である。しかし韓国で「高くても環境に優しい製品を買うのがおしゃれ」という流行を巻き起こした。

 今回の洗濯機は,泡を発生させる「バブル・エンジン」を改良して,泡発生に要する時間を半分にした。さらに,泡を空気と一緒にドラムへ押し込むことで洗濯開始から約2分で泡を衣類へ浸透させ,汚れを早く落とすようにした。この結果,通常は1時間50分かかる標準洗濯時間を55分まで短縮したのである。水使用量は150L/回から98L/回へ,電気使用量は540Wh/回から270Wh/回へと減らした。


 このほかに,従来モデルから好評だった,80℃の空気でにおいやアレルギー物質を除去する「エアー・ウオッシュ機能」に加えて,今回はすすぎの水量を調整して洗剤の残りを最小限にする「スキンケア機能」や,防水加工されたスポーツウエアも洗える「バブル・スポーツ・コース」を追加した。





図2 泡で洗う洗濯機

「バブル・エコ・ドラム式洗濯機」は,19分でワイシャツ1枚を乾燥できる。乾燥時の電気使用量を従来比60%以上削減した。(写真:Samsung Electronics社)




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http://techon.nikkeibp.co.jp/article/CAMPUS/20111020/199552/.
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B to Cのヘルスケアに乗りだしたSamsung社

.B to Cのヘルスケアに乗りだしたSamsung社


2012/07/31 09:59

趙章恩=ITジャーナリスト



出典:デジタルヘルスOnline,2012年7月26日, (記事は執筆時の情報に基づいており,現在では異なる場合があります)



 Samsung Electronics社が、B to Cのヘルスケア事業に乗りだし始めた。2012年7月2日、「iPhone5」の対抗馬として注目されているスマートフォン「Galaxy S 3」を利用して、「Sヘルス」と呼ぶヘルスケア・アプリケーションを使えるようにすると発表したのである。


 Samsungグループはこれまで、B to Bのヘルスケア事業に注力していた。具体的には、次世代事業として医療機器や病院パッケージ輸出、バイオ医薬品などの分野に注力することを2010年に発表。2020年までに3兆3000億ウォンを投資する計画を打ち出していた。


 Sヘルスのプレス・リリースが流れてから、韓国ではヘルスケア・ソリューション関連会社の株が一気に上昇した。Samsung社がB to Cのヘルスケア事業を始めるということは、いよいよ同市場が本格的に盛り上がるサインとして業界関係者らが受け止めたからだ。



健康記録を管理し公開できる

Sヘルスは、血圧計や血糖値計で測定したデータをBluetoothまたはUSBでスマートフォンに転送し、手軽に記録できるようにするもの。食べた料理や運動量を記録するとカロリー消費量を計算し、アプリケーションが分析してアドバイスしてくれる機能もある。


 さらに、SNSと連動して、健康記録を家族や友達に公開できる機能も備える。Samsung社は、「24時間いつも一緒にいるスマートフォンこそ健康管理には最適なデバイス」と宣伝している。Sヘルスのサービスは、韓国の他、米国や英国など7カ国で始めた。同社のアプリストア「Samsung Apps」からダウンロードできる。



端末のアピール・ポイントと合致



 Sヘルスを利用できるGalaxy S 3は、Samsung社が「最高の自信作」と胸を張るスマートフォンである。韓国では3G対応モデルが2012年6月25日、LTE対応モデルは同年7月9日に発売されたばかり。世界147カ国で発売される予定だ。


 Samsung社は、Galaxy S 3を「人と交流する端末」「感性を持つ端末」と強調している。例えば、通常のスマートフォンは画面を一定時間タッチしないと画面が暗くなりロックされるが、Galaxy S 3はユーザーが画面を見つめている間は何の操作をしなくてもロックされない。電子本や動画を見る時に便利な機能である。さらに、メールを読んでいる途中に端末を耳に当てると、その人(メールの発信元)に自動的に電話をかける機能もある。


 今回、ヘルスケアに力を入れたのは、Galaxy S 3が人を理解して生活をより便利にする端末であることをアピールするためと見ることもできる。






Galaxy S 3で利用できるSヘルス



スマートテレビからもヘルスケア・サービス



 一方、Samsung社は、スマートテレビを利用したヘルスケア・サービスにも乗りだし始めた。「スマートテレビがあれば痩せられる、健康になれる」といった内容のテレビCMも流しているほどだ。



.Samsung社のスマートテレビからは、230本以上のフィットネス動画を利用できる。ヨガやピラティス、ダンス、ストレッチ、筋トレなどの動画はもちろん、有名芸能人が登場するダイエット動画もある。さらに、ゴルフの姿勢を正しく直してくれるトレーニング動画も100本以上用意している。

 「Virtual Mirror」という機能を備えているのが特徴だ。テレビに内蔵されたカメラで自分の動きを撮影し、テレビの画面を半分に割って自分の姿とインストラクターの動きと比較できるようになっているのである。正しい動作をしているかどうかを確認しながら動けるため、より高いダイエット効果が期待できるという。






スマートテレビを利用したフィットネスの様子

 


 スマートテレビは、パソコンのように個人ごとにIDを作ってログインできるようになっている。自分のIDでログインして身長や体重を登録しておくと、フィットネス動画を利用した時間から算出した消費カロリーを表示する。体重を記録しておけば、グラフ化してどれだけ減っているのかが分かる。Samung社の説明では、前述のCMが流れるようになってから、「スマートテレビのフィットネス機能ってどんなもの?」と売り場に足を運ぶ主婦が増えたそうだ。


本記事は、デジタルヘルスOnlineのコラム・趙章恩の「韓国スマートヘルスケア最前線」 に掲載したものです。




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http://techon.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20120731/231312/

スマートスクール最前線 from 韓国 ‘ 第4回:タブレット端末を体育の授業で駆使

スマートスクール最前線 from 韓国

第4回:タブレット端末を体育の授業で駆使

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2012/08/23 00:00

趙 章恩(チョウ・チャンウン) = ITジャーナリスト
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ソウル市には、「スマートラーニング研究学校」とは別に、韓国Samsung Electronics社がサポートする「スマートスクール」がある。名門私立、ケソン小学校がその一つである。

Samsung社はケソン小学校に65型の電子黒板、タブレット端末の「GalaxyTab 10.1」、さらにはスマート教育に必要なソリューションを提供している。電子黒板からタブレット端末を遠隔で制御したり、先生が作成した資料を生徒に送信したり、先生がクイズを出してその場で採点して正解率を表示したりできる。いわゆる、「Classroom Management」と「Mobile Learning Management System」である。スマートスクールを支援することで、Samsung社はタブレット端末が教育用途に向いているという宣伝効果と、学校のスマート化において必要なソリューションと端末の機能は何かを調査できる。

 筆者はケソン小学校では体育の授業を参観した。それは、タブレット端末を活用して円盤投げの正しい姿勢を覚えるという興味深い内容だった。


 運動場に出る前、先生は子供たちのタブレット端末に体育専門教師による正しい円盤投げフォームの動画を送信し、理論的なことを教える。次に運動場に出て、タブレット端末が内蔵するカメラを使って生徒たちが互いに投げる姿勢を動画撮影する。そして教室に戻り、撮影した動画をコマ送りしながら体育専門教師の姿勢と比較する。


  特に、ここからが面白かった。生徒たちは自分の姿勢と友達の姿勢についてタブレット端末にコメントを書き込む。その書き込みはリアルタイムで電子黒板に送信される。先生は子供たちが書いたコメントを電子黒板で見せながら、意見を出し合うように誘導していた。


 次に生徒たちは各自のコマ送り写真からお気に入りの1枚を選び、それを学校の教育用SNSに授業の感想とともに投稿する。これは「クラスティング」というクローズド式のSNSで、学校関係者、学生、保護者だけが利用できる。保護者のほとんどがスマートフォンを使っているので、生徒たちがどんな授業を受けたのか、リアルタイムで確認できるところが好評だという。


ツールの導入が目的に非ず


  ケソン小学校の教師が使っているデジタル教科書は、既存のデジタル教科書とは異なる。教師がPDF形式の教科書にデジタル教材を各自追加して、子供たちが理解しやすいよう工夫されているのだ。ケソン小学校のチョウ・キソン先生は、政府の教育科学部から委嘱された先導教師の一人として、教師にとって授業を行い易い新しいデジタル教科書の開発に参加している。


 チョウ先生は、デジタル教科書が万能というわけではないと話す。「Google Earthを使うと世界各国の写真が見られます。自分では直接行けない場所でも詳しい資料が見られるので授業に役立ちます」。


 社会科のように地図を見せて授業をする場合は、デジタル教材とタブレット端末の両方を使うことで学習効果を高められる。しかし、数学の場合は問題を解く過程が重要なので、普通の黒板に紙のノートを使う方が学習効果を上げられる場合もあるという。


 チョウ先生は、「タブレット端末やデジタル教科書は、よりよい学習のためのツールに過ぎません」と、それらを導入すること自体がスマート教育の目的になってはいけないとも話す。






スマートスクールモデル校のケソン小学校。体育の授業で、円盤投げをしている生徒をタブレット端末が内蔵するカメラで撮影し、その動画をコマ送りしながら先生のフォームと各自のフォームを見比べている。




ユビキタス学校を開校へ


 韓国には2014年に開校予定の「ユビキタス学校」もある。ソウルから高速鉄道で1時間ほど離れた、行政機関を移転させた新都心の世宗市は、新しく開校する6つの学校をユビキタス学校として建設している。




ユビキタス学校は、スマートラーニング研究学校のような設備に加えて、スマートグリッド、環境にやさしい建築材の使用、仮想現実感(VR)を使った授業、鏡のように見える校内案内用のモニター「スマートウォール」、登下校管理・位置追跡システムなどを導入する計画だ。世宗市では2012年3月に一部の学校を先行的に開校し、教室でタブレット端末とデジタル教科書、3D対応のTV、電子黒板などを使い始めている。


 国を挙げて取り組んでいる「スマート教育推進戦略」の最も重要な要素は、機材ではなく、スマートな教育をできる教師を養成することである。ケソン小学校のチョウ先生は、電子黒板の機能を自由自在に使いこなし、デジタル教科書まで編集できるほどのスキルを持っている。同氏は、「これぐらいのことは韓国の教師なら誰でもできます」と言うが、これは教育科学部と教育庁が教師の研修に力を入れてきた成果だ。


  韓国のスマート教育研修は、教師ならば誰もが受けないといけない義務となっている。これは電子黒板や端末の使い方を教える研修ではなく、教師と学生が双方向でコミュニケーションするスマートな授業の開発、デジタル教科書を使った授業設計について考える研修である。韓国では、教師は大変人気のある職業で、社会的地位も高い。教師は社会をリードする階層であるため、スマートデバイスを使いこなし、最先端のことができて当たり前という自負がある。


 韓国には教員の評価制度があり、研修を履修した教師が少ないと学校の評価まで下がってしまう。加えて、学校評価の結果で年末のインセンティブ額が決まる。つまり、評価が低いと教師全員のインセンティブ額が減るわけだ。自分が研修を受けないと同僚まで収入が減ってしまう仕組みなので、研修をさぼるのは難しい。


1年間で世界17カ国が視察


  韓国のデジタル教科書とスマート教育は、世界からますます大きな注目を浴びている。実際、ケソン小学校はスマートスクールのモデル校になって1年強の間に、世界17カ国からの視察を受け入れた。


 2012年5月、慶州で開催された第5回APEC教育長官会議では、付帯イベントとして韓国のスマート教室が展示された。スマート教育の模擬授業も行い大盛況だった。韓国がスマート教育のリーダーとして、教師のIT活用能力を高めるための研修内容や、スマート教育の資料を公開し、APEC会員国と共有することも同会議で決まった。


 韓国は、学校や校務の情報化、デジタル教科書の導入などスマートスクールの分野で、世界の一歩先を行く。評価できるのは、携帯端末や電子黒板、デジタル教科書を導入することを目的とするのではなく、教師と生徒、そして生徒たちが双方向でコミュニケーションしながら進める授業のような教育のスマート化の推進、そしてそれを実現するために不可欠な人材育成に力を注いでることである。この点は、これから教育のスマート化に本格的に取り組む他国に非常に参考になる。








この日撮った写真の中でお気に入りを選択し、教育SNS「クラスティング」に投稿。ほとんどの保護者がスマートフォンを使っているので、子供達が学校で何をしているのかをSNSでチェックできる。



出典:日経エレクトロニクス

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http://techon.nikkeibp.co.jp/article/FEATURE/20120820/234512/

スマートスクール最前線 from 韓国 ; 第3回:デジタル教科書の次は教室のスマート化

スマートスクール最前線 from 韓国

第3回:デジタル教科書の次は教室のスマート化


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2012/08/08 00:00

趙章恩(チョウ・チャンウン)=ITジャーナリスト


韓国の国家情報化戦略委員会と教育科学部(日本の文部科学省に相当)が、2011年6月に「スマート教育推進戦略」を発表してから1年が経過した。2015年を目標に、全国の小・中・高校でデジタル教科書を導入し、学習ツール、教育方式、教育課程のすべてを刷新するというこの構想は、着実に進んでいる。

 スマート教育推進戦略において、2012年の課題は5つある。(1)デジタル教科書の開発と教育現場での適用、(2)スマート教育研究学校の運営と教授学習モデルの開発、(3)教員のスマート教育実践力量強化のための研修、(4)クラウド教育サービス基盤の造成、(5)教育統合プラットフォームを運営するとともに教育コンテンツの安全で自由な利用環境を醸成する、ことだ。


 2007年からデジタル教科書研究学校を指定して本格的に実証実験を進めてきたデジタル教科書は、改良に改良を重ねて、現在バージョン3.0のテストが行われている。


 バージョン3.0は、教科書のPDFファイルをベースに、現場の教師が子供の学習達成度に応じて参考資料を追加できるようになった。教科過程や教えるべき教科書の基本内容は忠実に守りながら、子供たちが理解しやすいよう、教師が画像やアニメーション、ハイパーリンクを貼り付ける。教科書を楽に編集できるオーソリングツールも一緒に配布する。デジタル教科書のビューアとオーソリングツールは公募し、標準を決めるための作業が行われている。このデジタル教科書3.0の開発には、教育科学部の先導教師(自治体ごとにリーダー役の教師を選抜)120人が参加している。


 韓国ではデジタル教科書の開発がある程度進んだところで、教室のスマート化作業が始まった。ソウル市教育庁は、2011年に新規に開校した小学校、中学校、高校の1校ずつを、「スマートラーニング研究学校」に指定し、学校の中にスマート教室を作った。仁川市では既存のデジタル教科書研究学校を、「スマート研究学校」にアップグレードしている。


 今回筆者が取材したスマートラーニング研究学校は、ソウル市のモクウン中学校とシンド高校である。両校とも建物自体が「スマート」を意識した作りになっていた。韓国の一般的な学校とは違い、商業ビルのようなおしゃれな校舎で、学内の無線LANや電子図書館、グループ活動に使える教室がたくさんあった。学生は必要に応じてスマート教室に異動し、授業を受ける仕組みになっている。学校内はどこでも無線LANが使えるようになっており、教室の正面には3D表示に対応したテレビと電子黒板が設置されている。この「スマート教室」は、韓国の通信事業者であるLG U+社が協賛している。







モクウン中学校のスマート教室での授業の様子。「技術」の授業で、各自タブレット端末やスマートフォンを使って先生が送信した資料を見ている。


 学生には1人一台、韓国Samsung Electronics社製のタブレット端末「Galaxy Tab 10.1」が配布されている。タブレット端末は学校に置いたまま、スマート教室にいる時だけ使うシステムになっている。2015年以降は、低所得層の学生には政府が端末を購入して配布し、その他の学生は自分で端末を購入して持参するというのが、現在の方針である。


 韓国では2012年5月時点で、既に国民の約5割がスマートフォンを所有している。2014~2015年になれば家庭に1台以上はスマートフォンかタブレット端末、もしくはノート・パソコンが普及すると見られている。韓国の教育庁は、政府の予算で国民全員に端末を配布しなくても、各家庭にある端末を使えばいいという方針である。


 スマート教室には、学生たちがタブレット端末や電子ペーパーに書き込んだ学習履歴を保存するサーバーも設置されている。今は学校の中にサーバーがあるが、2015年からは学習履歴をすべて政府が管理する教育クラウドに保存し、いつでもどんなデバイスからも呼び出して使えるようにする。

スマート教室の壁には、大型スクリーンが2つずつ、左右合わせて4台が設置されている。机は4グループに分けられており、学生たちがグループで一緒に資料を作成してスクリーンを作って発表し、みんなで討論するようになっている。

 スマートラーニング研究学校のスマート教室が他の教室と違うところは、タブレット端末や3D対応テレビなどを使うところである。しかし、スマート教室の狙いはモバイル端末の利用を促進することではない。


 真の目的は、先生が一方的に説明する授業ではなく、子供達一人ひとりの状態を把握しやすくすること、子供達が参考資料を検索して自ら探求し幅広く学ぶ授業にすること、グループで協力し発表・討論させることでコミュニケーション能力や協業する能力を高めることにある。そのために一人1台端末を使いながらも、机を4つのグループに分け、壁にスクリーンを埋めたのだ。


 モクウン中学校のスマート教室では、ちょうど「技術」の授業が行われていた。技術用語を先生が口頭で説明するのではなく、まずは3D対応テレビの鑑賞から始まった。概念を理解してから、タブレット端末と電子黒板を連動させて、デジタル教科書を見始めた。デジタル教科書の参考資料を見ながら先生の説明を聞く。


今日の授業をちゃんと理解しているかどうか、デジタル教科書の中にあるテスト問題を解く。この日は学生たちが製作したミニチュア自動車の制作過程と特徴についてパワーポイントで資料を作り、教室の壁にあるスクリーンを使って発表した。

 スマート教室では電子ペーパーと電子ペンも使う。電子ペーパーに先生がテスト問題をプリントして学生に配る。電子ペンで答えを書くと電子黒板からリアルタイムで書いている内容を確認できる。この日は「スマートフォンが登場してから不要になったもの」について書き込む時間があり、誰が何を書いたのか電子黒板に映して討論した。スマートフォンが登場してからデジカメ、MP3プレーヤー、時計といったものがいらなくなったと書いた学生が多かった。

タブレット端末でデジタル教科書を使う授業は難しくないか、と聞くと、「何が難しいの。なんで難しいと思うの?」と逆に質問されてしまった。韓国では中学生でもスマートフォンを使っている子供が多いので、学校でタブレット端末やデジタル教材を使うことに何の違和感もないという。3D対応テレビやデジタル教材を使った授業の方が、従来の紙の教科書よりも理解しやすく集中できるので、「他の科目も全部スマート教室で授業すればいいのに!」というのが子供達の反応だった。





モクウン中学校のスマート教室に設置された3D対応テレビと電子黒板。授業の冒頭で3D対応テレビを使い、その日に学ぶ内容の概要や概念を理解する。




モクウン中学校のスマート教室に設置された3D対応テレビと電子黒板。授業の冒頭で3D対応テレビを使い、その日に学ぶ内容の概要や概念を理解する。







出典:日経エレクトロニクス


Original link
http://techon.nikkeibp.co.jp/article/FEATURE/20120808/232951/

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