LFP系で大幅な成長を見込むLGエナジー、狙いはエネルギー貯蔵システムの北米市場

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 2023年10月25日、韓国LG Energy Solution(LGエナジーソリューション)は2023年7~9月の決算会見を開催し、売上高は前年同期比7.5%増の8兆2235億ウォン、営業利益は同40.1%増の7312億ウォンと増収増益だった。営業利益にはエネルギー安全保障と気候変動対策のために始まった米国インフレ抑制法(Inflation Reduction Act of 2022:IRA)の税額控除分の2155億ウォンが含まれる。北米工場の生産ライン増加により税額控除額も増えた。受注残高は韓国バッテリー3社の中で初めて500兆ウォンを突破した。

 米アリゾナ州に建設中のバッテリー工場については、需要が伸びている次世代円筒型バッテリー46シリーズ(直径46mmの円筒型バッテリーセル)の生産拠点にすることを正式に発表した。2024年下半期の量産開始を目指している。当初予定していた2170型リチウムイオンバッテリーセルから変更した。46シリーズに変更することでエネルギー密度が高くなる。生産能力は27GWhから36GWhに高まる。韓国内の46シリーズのパイロット生産ラインは2024年下半期に量産を開始する。収益性が高いハイニッケルNCMA(ニッケル・コバルト・マンガン・アルミニウム)は熱制御技術の向上など安全性を強化し、ニッケルの割合を80%から90%へ引き上げてエネルギー密度を高めるという。高容量・高効率なシリコン陰極素材を使うことで急速充電時間を15分以下にするとした。ハイニッケルNCMAは2025年からトヨタ自動車に供給する。

 中国勢が得意とするリン酸鉄リチウム(LFP)バッテリー、高電圧Mid-Ni NCMバッテリー、マンガンリッチMn-Richバッテリーなど低価格バッテリーの生産ラインも強化する。このうち電気自動車(EV)向けLFPは2025年の生産開始予定だったが、セル構造の改善と工程イノベーションの推進を実施した後、目標を2026年とした。そこでまず、北米のESS(Energy Storage System:エネルギー貯蔵システム)向けLFPで市場を攻める。

 米国はインフレ抑制法の影響で再生エネルギー関連の支援が増え、再生エネルギーで発電した電力を貯蔵するESS市場の成長が見込まれている。英国のエネルギー・コンサルタント会社Wood Mackenzie(ウッドマッケンジー)によると、北米のESS市場規模は2022年の12GWhから2030年は103GWhへ伸びると見込まれている。

 LGエナジーソリューションは米アリゾナ州に単独でESS向けLFPバッテリー工場を新設する。2026年より年間16GWhのESS向けパウチ型LFPバッテリー量産を開始する。アリゾナ工場は年産43GWh規模のバッテリー工場であり、このうち16GWhがLFP生産分となる。同社は2022年に1.7兆ウォン前後だったESSの売上高を5年後に3倍以上へと増やし、EV向けバッテリー売上高の3割程度にまで成長させる目標を掲げている。

 韓国ではLGエナジーソリューションがESS部門の中途採用を増やしていることも話題になった。同社はEV市場への依存度を弱めるためにも、ESSビジネスを拡大させて、安定した実績を確保しようとしている。日本向けの営業人材や、プロジェクトマネジャー、マーケティング、経営戦略などの分野で幅広く募集している。

 韓国のバッテリー専門調査会社SNE Researchによると、2022年末時点で世界ESS市場シェアは中国の寧徳時代新能源科技(CATL)と比亜迪(BYD)が55%ほどを占めている。LGエナジーソリューションは7.5%、Samsung SDI(サムスンSDI)が7.3%と韓国勢のシェアはまだまだ少ない。しかし中国企業のシェアは中国内の圧倒的なシェアによるものである。中国を除く世界市場では韓国勢が成長する余地がまだあるとして、北米にESS工場を新設し、積極的に攻めていく。

 韓国内ではLGエナジーソリューションのLFPバッテリー性能が、もともと得意としているNCM(ニッケル・コバルト・マンガン)に匹敵するようになったという報道があった。ESSの充放電エネルギー効率(RTE:Round Trip Efficiency)がNCMの97%に対して、LFPが95%、競合他社のLFPは93%だという。

 LGエナジーソリューションは2023年6月、ドイツで開催された「 EES EUROPE 2023 」において、同国初となるLFPバッテリー搭載住宅向けESS「enblock E」を公開した。北米市場ではまずNCMバッテリーを搭載した住宅向けESS「enblock S」を発売する。拡張可能なバッテリーモジュールで、ユーザーは1人でも必要な分だけ組み立てられるので、時間と費用を節約できるのが特徴である。



 章恩(ITジャナリスト)

 

(NIKKEI TECH)

2023. 10.

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https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00097/

■「CES2024」で注目の韓国大手企業&韓国AIスタートアップ 現地参加ブースツアー参加者募集

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■「CES2024」で注目の韓国大手企業&韓国AIスタートアップ 現地参加ブースツアー参加者募集

ニューメディアツアーでは「CES2024」で米国の次に出展が多い韓国企業の中でもイノベーションアワードを受賞したAI・DX・ロボティクス・先端家電・サステナビリティに焦点をあてて1月9日と1月10日の2日間にわたって、韓国ITジャーナリスト「趙章恩」氏が同行解説するブースツアーを一般向けに参加募集させていただくことになりました。11月26日公開したCESイノベーションアワードでは全310社の内韓国企業が143社と46%を占めています。

●ブースツアープログラム
❶「CES2024」で注目韓国大手企業ブースツアー
日時:1月9日(火)16:00-17:30  ※訪問先の都合により時間延長の可能性もございます。
会場:Las Vegas Convention Center
内容:家電、スマートホーム、生成AI、モビリティ、ロボティクス、サステナビリティに焦点を当てて、韓国ITジャーナリスト「趙章恩」氏が同行解説・通訳します。

❷韓国AIスタートアップブースツアー
日時:1月10日(水)14:00-15:30 ※訪問先の都合により時間延長の可能性もございます。
会場:Venetian Expo Hall G. Eureka Park
内容:生成AI、、コンテンツ技術、ロボティクス、コンテンツ技術、メタバース、ブロックチェーン、セキュリティ、ヘルスケア、人材育成、スタートアップ育成

  
同行解説する「趙恩章」の2日間のブース訪問レポート【レポート提供は詳細をまとめたうえで1月中旬を目安に納品させていただきます。】
・1月中旬以降にオンラインセミナー参加(アーカイブ録画付き)にて解説します。日程決定次第、ご連絡します。セミナーはLIVEで参加できない場合でもアーカイブ視聴していただけます。

※上記プラン以外にもお客様希望によるオーダーメイドブース訪問プランの提案もさせていただいております。別途料金がかかります。

LGエナジーとLG化学がトヨタと組んだ理由、共に北米市場で攻めに出る

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韓国のバッテリー大手であるLG Energy Solution(LGエナジーソリューション)が2023年10月11日に発表した暫定決算によると、2023年7~9月期の営業利益が7312億ウォンとなり、過去最高を更新した。前年同期比で40.1%の増加となる。売上高は8兆2235億ウォンで前年同期比7.5%の増加だったが、前期比では6.3%の減少となり、2022年1~3月期から続いた売上高の記録更新はストップした。それでも2023年1月から9月までの累積売上高(25兆7441億ウォン)と営業利益(1兆8250億ウォン)は過去最高だった2022年の売上高(25兆5986億ウォン)と営業利益(1兆2137億ウォン)を早くも超えた。

 LGエナジーソリューションが好調なのは大きく2つの要因が影響しているとみられている。1つは北米市場における電気自動車(EV)向けバッテリーの販売拡大と気候変動対策、もう1つは4300億ドル規模を投じる米国のインフレ抑制法(Inflation Reduction Act、IRA)に関するものだ。IRAは北米でバッテリーを生産する企業を対象に税額を控除するものだ。

 実際、2023年7~9月期の営業利益には米インフレ抑制法の税額控除に相当する金額2155億ウォンが含まれている。税額控除は北米内で生産・販売したバッテリーセルとモジュールに対する補助金である。セルは35米ドル/kWh、モジュールは10米ドル/kWhがそれぞれ支払われる。LGエナジーソリューションは2026年に北米で年間342GWh規模の生産ラインを完成させる。以降は生産量も伸び、米インフレ抑制法による税額控除が11兆3000億ウォン規模に上ると見込まれている。米インフレ抑制法の恩恵を最も受ける企業がLGエナジーソリューションという報道もあった。

 一方、前期比で売上高が減少した要因は欧州市場におけるEV需要の減少とみられる。LGエナジーソリューションは今後、グローバル市場での工場増設と安定的な運営、生産原価の改善、北米市場の販売拡大で売上高を伸ばしていくとした。北米工場の増設による生産性向上、トヨタ自動車をはじめ完成車メーカーとの協力を拡大するなど、売上高が伸びる要素はいくつもある。

 2023年10月5日、LGエナジーソリューションはトヨタの北米事業体であるToyota Motor North America(TMNA)と年間20GWh規模のバッテリーモジュール供給長期契約を締結したと発表した。LGエナジーソリューションはミシガン工場に約4兆ウォンを新たに投資して、2025年にトヨタ専用のバッテリーセルとモジュールの生産ラインを新設・稼働、年間20GWh規模を供給する。

 LGエナジーソリューションがトヨタとバッテリー供給契約を結んだのは今回が初めてである。これにより、ドイツVolkswagen(フォルクスワーゲン、VW)、日産自動車とフランスRenault(ルノー)、韓国・現代自動車、米ゼネラル・モーターズ(GM)と世界トップ5の完成車と全て契約を結ぶことになった。中でもトヨタとの契約は、EV用のバッテリー生産会社との合弁契約を除き、単一供給契約としては最大規模となる。LGエナジーソリューションのミシガン工場で製造したハイニッケルNCMAパウチセルを搭載したモジュールをToyota Motor Manufacturing Kentucky工場でパックに組み立て、トヨタが北米で生産する新型EVモデルに搭載する。

NCMA=ニッケル、コバルト、マンガン、アルミニウムから成るバッテリーで、ニッケルの割合を90%、コバルトの割合を10%以下にして、アルミニウムを追加して安定性を強化したもの。


 韓国では両社ともに北米のEV市場における競争力が高まったと評価する声がある。世界で最も自動車を販売しているトヨタと契約を結んだことでLGエナジーソリューションは売り上げを確保でき、トヨタは北米で安定的にEV向けバッテリーの供給を受けることで果敢に市場を攻められるからだ。北米は欧米に比べてEVの普及率が低く、政府が積極的になっているため成長が見込める市場である。LGエナジーソリューションは北米に2カ所の単独工場と6カ所の合弁工場を運営している。同社は2023年6月時点で受注累積残高が440兆ウォンと公開したが、韓国証券業界は同年9月時点で600兆ウォンに達したとしていた。

趙 章恩=(ITジャナリスト)

 

(NIKKEI TECH)

2023. 10.

 

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https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00096/

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CHIPS法の国家安全保障ガードレールが最終規定に、分かれる韓国政府と民間の反応

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米商務省は2023年9月22日(現地時間)、米CHIPS・科学法(CHIPS and Science Act)により米国の補助金を受け取る企業に対する国家安全保障ガードレールの最終規定を公表した。

関連ニュースリリース:https://www.federalregister.gov/documents/2023/09/25/2023-20471/preventing-the-improper-use-of-chips-act-funding

 米国の半導体支援補助金を受け取る場合、今後10年間、懸念国(中国、ロシア、イラン、北朝鮮)での半導体の設備投資や実質的な増産、技術協力を制限する。ガードレール規定に違反すると受け取った補助金の返却を迫られる。韓国Samsung Electronics(サムスン電子)は米テキサス州オースティン市に半導体工場があり、テキサス州テイラー市にも半導体工場を新設しているため、米半導体補助金を申請済みである。韓国SK Hynix(SKハイニックス)は米国工場建設のための敷地を探している段階である。

 ガードレールの最終規定は(1)生産能力制限と(2)技術協力制限の大きく2つがある。

(1)補助金を受け取った時点から10年間、ウエハーの投入量ベースで5%まで生産能力(設備)拡大は認める。旧世代(28nmプロセス以前)のレガシー半導体設備は10%まで生産能力拡大を認める。これらの設備で生産した半導体の85%が最終的に中国内需品として使われる場合は制限しない。

(2)懸念国との国家安全保障上でセンシティブな技術・品目の共同研究および技術ライセンシングを制限する。国家安全保障に脅威を与えない範囲で、既存の事業運営に必要な活動は対象外である。既に進行中の研究は米商務省と協議した上で継続できる。

 産業通商資源部(「部」は日本の「省」に当たる)の半導体課は2023年9月22日付けの報道資料を通じて次のように説明した。「ガードレールはあるが、国家安全保障上で問題のない正常な経営活動は保障される見通しである」「(韓国)企業が中国で運営する生産設備の維持と部分的な拡張を保障し、技術アップグレードも持続的に認められた。ウエハー投入量ベースが月単位ではなく年単位に変更され、当初は重大な取引制限としていた10万米ドル以上の設備投資が制限される件についても、米商務省と企業と協約で決めるよう変更できた」「これからもグローバル半導体の供給網強化と企業の投資・経営活動保障のため政府は米国と緊密な協議を続ける」というのが主なコメントだった。

 このように産業通商資源部はガードレール規定があっても企業の正常な経営活動は保障されるので問題ないという立場だが、韓国メディアや産業界の反応は少し違っていた。



趙 章恩=(ITジャーナリスト)

 

 

 

(NIKKEI TECH)

 

2023. 9.

 

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https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00095/

「サムスンがエヌビディアにHBM3供給」一斉報道のインパクト、車載事業も強化へ

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 2023年9月1日、韓国Samsung Electronics(サムスン電子)が第4世代の超高速DRAM技術「HBM3」を使ったメモリーを米NVIDIA(エヌビディア)に納品することが決まったと、韓国メディアが一斉に報じた。同サンプル品の性能テストは完了しており、契約手続きが終わり次第、早ければ10月から本格的に納品を開始する。エヌビディアの「H100 GPU」に搭載される見込みという。このニュースに株式市場が敏感に反応した。サムスン電子の株価は同年8月31日の終値6万6900ウォンから同年9月1日には7万1000ウォンへと約6%アップとなり、その後も7万ウォン台を維持している。

HBM=High Bandwidth Memory。広帯域幅メモリー。DRAMのダイを積層(垂直に積み上げ)して、全体のデータ転送速度を高速・広帯域化するメモリー技術。

 HBMは韓国SK Hynix(SKハイニックス)が開発で先行し市場をリードしている。2022年6月にはHBM3の量産を開始、エヌビディアに納品していた。この市場にサムスン電子が参入し、SKハイニックスを追いかけるかのようにシェアを獲得していく構図になった。今回、エヌビディアへの納品が決まったことでサムスン電子のHBMとメモリー事業の成長が見込まれて株価が上がっている。

 スマートフォンの需要鈍化などでメモリー製品の不況が続く中、AI(人工知能)向けメモリーの需要が立ち上がり伸びた。特にHBMの市場拡大に懸けるサムスン電子とSKハイニックスの期待は大きい。HBMはより⾼度の技術が必要で、価格も⾼くできる付加価値ビジネスである。これまではHBMで優位に立つSKハイニックスが高く評価され、エヌビディアとの取引により売り上げが伸び、株価も上がり続けていた。エヌビディアは生成系AIブームを支えるサーバー向けGPUの需要の高まりを受けて、予想を上回る利益を出している。そんなエヌビディアにサムスン電子もHBM3を納品するようになったことで、メモリー事業の収益が回復に向かう可能性が高い。

 サムスン電子はSKハイニックスと差別化するために、GPUとHBM3をパッケージングするサービスを提供しようとしている。現在、エヌビディアは台湾TSMC(台湾積体電路製造)にパッケージングを委託している。サムスン電子がHBMの設計から生産、パッケージングまで一気通貫の生産体制を整えたことは他社にはない同社だけの強みとなる。韓国証券業界はTSMCが抱えきれないほど需要があるためサムスン電子にもパッケージングを任せる可能性を踏まえ、HBM3とパッケージングまで提供することでサムスン電子が2023年に4~5社だったAI半導体関連新規顧客を2024年には10社前後にまで増やせるだろうと展望した。

 サムスン電子は同日、12nmプロセスによる業界最大容量のメモリー「32Gb DDR5 DRAM」の開発も発表した。生成系AIが日常的に使われる将来にわたって、必要となる大容量のDRAM需要に対応できることを示した格好になった。2023年末までに量産を開始する計画で、省エネ・大容量DRAMのニーズが高いデータセンターなどIT企業に最適なDRAMであると技術力をアピールした。

 サムスン電子の猛追に対し、SKハイニックスも負けてはいない。同社は2023年8月21日、世界初となるAI向け第5世代HBM(HBM3E)の開発に成功したと発表した。既にエヌビディアなどの顧客へサンプル提供中という。顧客の性能テストを経て2024年に量産を始める。SKハイニックスのHBM3Eは1秒当たり最大1.15Tバイトのデータを処理できる。これは第4世代に比べて40%ほど高速化している。放熱性能は第4世代より約10%向上した。一方のサムスン電子は2023年後半にも第5世代HBM(HBM3P)を公開する計画を発表済みである。


趙 章恩=(ITジャーナリスト)

 

 

 

(NIKKEI TECH)

 

2023. 9.

 

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https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00094/

韓国24年度予算は2次電池・半導体・ディスプレーなどへ集中投資、研究開発は減額に

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 韓国政府は2023年8月29日、2024年度予算案を議決した。この後、2023年12月の国会審議を経て確定する。注目に値するのは、1991年以来となる国家研究開発(R&D)予算の削減である。2024年度は前年度比13.9%減の25兆9000億ウォンとなった。科学技術情報通信部(「部」は日本の「省」に当たる)の説明によると、満遍なく投資するのではなく、国家戦略技術に集中投資する方向で予算を見直したという。

 韓国政府は「技術主権の確立」をキャッチフレーズに、もっぱら次の分野を国家戦略技術として指定している。「半導体」「ディスプレー」「2次電池」「先端モビリティー」「次世代原子力」「先端バイオ」「宇宙航空海洋」「水素」「サイバーセキュリティー」「人工知能(AI)」「次世代通信」「先端ロボット製造」「量子」である。これらの研究に関して、2024年度予算では前年度比6.3%増の5兆ウォンを配分した。


 グローバル市場をリードできるよう、より規模の大きい研究プロジェクトを推進し、海外の著名な研究機関との共同研究を支援するグローバル協力、研究インフラ投資、実証・商用化促進のための中小企業向け低利融資、若手研究者育成に予算を使い、波及効果のある成果を創出するという。

 このうち若手研究者の育成には、先端分野の企業と大学が契約して、企業の採用を前提にオーダーメード型の実務教育を行う契約学科を増やしていく。修士・博士課程の学生支援も増額する。半導体に続き「二次電池特性化大学」を新設する。現在は首都圏に集中している特性化大学を地方にも拡大する。2次電池、次世代ディスプレー、バイオヘルス、航空宇宙分野は大学内に短期集中教育課程を新設する。

趙 章恩(ITジャーナリスト)

 

(NIKKEI TECH)

2023. 9.

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https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00093/

生成AIブームを支える超高速メモリー、サムスン電子とSKハイニックスの競争過熱

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韓国Samsung Electronics(サムスン電子)と韓国SK hynix(SKハイニックス)が超高速DRAM技術「HBM†」を採用するメモリー世界市場シェアのトップ争いを繰り広げている。もともとは高性能なグラフィック処理向けに開発されたHBMだが、生成AI(人工知能)の需要拡大に伴って、大量のデータを一度に処理できるハイスペックなメモリーが求められるようになったことから、サーバーやデータセンターでHBMのニーズが高まっている。HBMは高性能なだけに一般的なDRAMより6~7倍ほど価格が高く、サムスン電子とSKハイニックスは半導体部門の赤字を改善するためにもHBMに力を入れている。

†HBM=High Bandwidth Memory。広帯域幅メモリー。DRAMのダイを積層(垂直に積み上げ)して、全体のデータ転送速度を高速・広帯域化するメモリー技術。

 AIのデータ処理に使うGPU(Graphics Processing Unit、画像処理半導体)にはサーバー向けよりさらに高性能のHBMを搭載する。2023年8月、米NVIDIA(エヌビディア)はAI向けGPU「GH200 Grace Hopper Superchip」をベースにした次世代のNVIDIAプラットフォームを発表したが、このGH200にはSKハイニックスから調達したHBM3eを搭載した。HBM3eメモリーは第5世代に当たり、既存の第4世代HBM3より50%高速という。NVIDIAの「A100」や「H100」といったGPUにもSKハイニックスのHBM3を搭載している。複数の韓国メディアによると、ファブレス半導体メーカーの米AMDが2023年6月に発表したGPU「MI300X」にはサムスン電子やSKハイニックスから調達したHBM3を搭載するとのことだ。

 HBMにおいてはサムスン電子よりSKハイニックスの技術力が高いと評価されている。SKハイニックスは2013年に世界初となる第1世代のHBMを開発、2022年6月には第4世代に当たる8層の16GバイトHBM3の量産を開始、2023年4月に12層のHBM3を開発した。一方のサムスン電子は一歩遅れて2015年に第2世代のHBMから本格的な開発に入り、2023年8月時点で12層の24GバイトHBM3のサンプルを顧客に提供している。両社は第5世代に当たるHBM3e、第6世代となるHBM4の量産も準備中で、第5世代のHBM3eをサムスン電子は「HBM3P」、SKハイニックスは「HBM3+」とそれぞれ称している。SKハイニックスは一足早く第5世代のサンプルを顧客に提供していて、サムスン電子は2023年内に公開するとしている。米Micron Technology(マイクロンテクノロジー)も2023年7月26日(現地時間)、8層で24Gバイトを実現した「HBM3 Gen2」のサンプル出荷を開始したと発表したが、韓国内では第1~2世代のHBMから開発を続けている韓国勢の技術には及ばないという声がある。

 台湾のリサーチ会社TrendForceによると、2022年末時点でHBMのサプライヤー別世界市場シェアはSKハイニックスが50%で1位、サムスン電子が40%で2位、マイクロンテクノロジーが10%で3位だった。今後のシェア見通しでは、2023年にSKハイニックスが46~49%、サムスン電子が46~49%、マイクロンテクノロジーが4~6%とする。2024年には韓国2社のシェアがさらに拡大して最大95%となり、マイクロンテクノロジーは最大5%のシェアを占めると展望している。TrendForceは世界のHBM需要は2025年まで年平均45%成長を続けると予測している。2022年まではクラウドサーバー向けのHBM2の需要が最も多かったが、2023年以降はAI向けHBM3とさらにハイスペックのHBM3eの需要が拡大するという。

 韓国証券業界は、HBMの特需でサムスン電子とSKハイニックスのメモリー事業の実績が大幅に改善するというリポートを出している。背景にあるのは、米Google(グーグル)や米Amazon.com(アマゾン・ドット・コム)がAIサービス強化のために自前のAIチップ開発を進めていること。このチップにHBMを搭載するとなると、サムスン電子かSKハイニックスから調達するしかないからだ。

趙 章恩(ITジャーナリスト)

 

(NIKKEI TECH)

2023. 8.

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https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00092/

Z世代のGalaxy離れを食い止められるか、iPhone人気の若年層獲得にサムスンが注力

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香港の調査会社Counterpoint Technology Market Researchがまとめた2023年4~6月期の世界スマートフォン出荷台数によると、シェア1位は22%を占めた韓国Samsung Electronics(サムスン電子)だった。同社は1~3月期に続いて首位を維持した。2位は17%の米Apple(アップル)、3位は12%の中国・小米科技(Xiaomi、シャオミ)だった。

 世界のスマホ出荷台数は2021年7~9月期以降、減少が続いている。端末の性能向上により機種変更の周期が長くなったことや、中古端末の売買も盛んになったことが影響している。こうした状況の中、サムスン電子はフラッグシップモデルの「Samsung Galaxy S23」シリーズとエントリーモデルの「Galaxy A」シリーズが好調で、毎年着実にシェアを伸ばしてきた。2023年7~9月期もサムスン電子は1位の座を死守すべく、折り畳み(フォルダブル)スマホ「Galaxy Z Fold5」「Galaxy Z Flip5」を2023年7月26日に発表した。そして今回、その発表の場として、これまで欧米各地で開催されていた新機種公開イベント「Galaxy Unpacked」を初めて地元ソウルで開催した。

 世界で最も売れているサムスン電子のGalaxyシリーズだが、同社のお膝元である韓国では異変が起きている。

趙 章恩(ITジャーナリスト)

 

(NIKKEI TECH)

2023. .8

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https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00091/

業績好調の韓国電池3社が参加、官民共同の協議体で「2030年に次世代電池で世界1位」

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2023年7月13日、韓国で「2030年に次世代電池で世界1位の国家になる」ことを目指した「次世代二次電池官民協議体」が発足した。この協議体は「国家戦略技術育成に関する特別法」の具体策として2023年4月に発表された3大主力分野の超格差研究開発戦略によるものである。世界的に技術覇権競争が熾烈(しれつ)になる中、先端産業の発展と安全保障のために国家の総力を結集して対応する必要があるとして、韓国政府は「半導体」「ディスプレー」「二次電池」を研究開発の3大主力分野に指定、今後5年間に官民合わせて160兆ウォンを投資する。さらに、産業界のニーズと意見を反映して積極的に新規研究開発を進め、人材養成と国際協力の基盤をつくるため、それぞれ協議体を発足して産学官が力を合わせることにした。

 次世代二次電池官民協議体は、韓国のLG Energy Solution(LGエナジーソリューション)、Samsung SDI(サムスンSDI)、SK On(SKオン)のいわゆるKバッテリー3社と、科学技術情報通信部(「部」は日本の「省」に当たる)、産業通商資源部、韓国バッテリー産業協会、韓国電気化学会など、産学官を代表する企業と機関が参加する。科学技術情報通信部は「協議体の発足により産学官が常時協力し、次世代電池の世界1位国家を2030年よりも前倒しで実現できることを願う。政府も戦略的に研究開発支援を強化する」とコメントした。

 発足に当たっての記念イベントではLGエナジーソリューションのソン・グォンナム次世代電池開発センター長が開発状況について発表した。同社は、高容量リチウム硫黄電池や高分子系半固体・全固体電池の開発に重点を置いており、2030年までの商用化ロードマップを発表済みである。例えば、2028年には液体電解質を最小限にした高分子系全固体電池を量産、2030年には硫化物系全固体電池を実用的な水準に高めて商用化する。

 高容量リチウム硫黄電池に関しては、2027年に重量エネルギー密度が500wh/kgのセルを開発し、アーバンエアモビリティー(都心航空モビリティー)に適用する計画である。プラスチック素材の高分子を活用した全固体電池は既存のリチウムイオン電池の製造工程をほぼそのまま活用できることから、新規工程開発の負担が軽くなる。高分子固体電解質と酸化物系固体電解質をハイブリッド化することで性能向上を狙った取り組みもあり、液体電解質を一部混ぜた半固体電池を開発中である。安定性を高めるため液体電解質の割合を減らす研究を進めているという。

 全固体電池の商用化に向けて素材の研究にも力を入れていて、固体電解質の価格をより安くするために様々な企業と協力している。バッテリー分野のスタートアップに投資するバッテリーチャレンジや、世界の大学や研究機関を対象に開発費を支援するバッテリーイノベーションコンテストも実施している。

趙 章恩(ITジャーナリスト)

 

(NIKKEI TECH)

2023. .7

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https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00090/

サムスンが米韓の自社イベントで2nmプロセスの細部にわたるロードマップを初披露

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韓国Samsung Electronics(サムスン電子)は、2023年6月27・28日に米シリコンバレー、7月3・4日には韓国ソウルのそれぞれで、「Samsung Foundry Forum(SFF) 2023」と「Samsung Advanced Foundry Ecosystem Forum(SAFF) 2023」を開催した。

 Samsung Foundry Forumは半導体ファウンドリーの顧客向けに半導体技術と今後のロードマップを公開したり、パートナー企業が技術展示を行ったりするイベントである。一方のSamsung Advanced Foundry Ecosystem Forumは、サムスン電子のファウンドリーに協力しているパートナー企業が半導体エコシステムの発展に向けて集うフォーラムである。サムスン電子は両フォーラムを毎年秋に開催していたが、2023年は早期に顧客を誘致するためか6月末から7月初めに前倒しして開催した。同社は2022年6月に世界初とうたう「GAA(Gate-All-Around)」技術による3nmプロセスの先端半導体の量産を開始した。2024年には第2世代の3nmプロセス量産、そして2025年からは2nmプロセスの量産を目指している。

2nm以下プロセス量産のロードマップを発表

 サンノゼで開催されたSamsung Foundry Forum 2023では、「Innovating Beyond Boundaries」をテーマにAI(人工知能)時代の最先端半導体の限界を克服するとして、2nm以下プロセス量産のロードマップを重点的に発表した。

 サムスン電子は2025年にモバイル向け2nmプロセス(SF2)の量産を始め、2026年にはハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)向けの量産、2027年に車載向けの量産を開始するという。最先端となるSF2プロセスは現在のSF3プロセスに比べて性能は12%、電力効率は25%向上し、面積は5%減少する。同社が2nmプロセスのロードマップを細部にわたって公開したのはこれが初めてである。その次となる1.4nmプロセスは既に発表している通り、2027年に量産を始める。韓国ではサムス電子が既に顧客を確保していて技術に自信を持ったということから、今回のロードマップ公開に至ったと分析する意見がある。

 2nmプロセスはサムスン電子以外に、台湾TSMC(台湾積体電路製造)が2025年の量産、米Intel(インテル)が2nm世代の「20A」を2024年上半期、続く下半期に1.8m世代の「18A」の量産をそれぞれ予定している。日本のラピダスは2025年に2nmプロセスの試作品生産と2027年の量産を目標にしている。

 このほかサムスン電子は2025年に8インチGaN(窒化ガリウム)の生産を始める。コンシューマーやデータセンター、車載向けである。次世代のパワー半導体とされるGaNは、現在のシリコン半導体の限界を克服し、システムの高速スイッチングと省電力を大幅に高められる。

 現在商用展開中の5G(第5世代移動通信システム)の次世代となる6Gに向けては、5nmのRF(Radio Frequency)プロセスを開発し、2025年上半期に量産する。5nmのRFプロセスは既存の14nmプロセスに比べ電力効率は40%以上の向上が見込め、面積は50%減少するとの期待がある。現在量産中の8nm、14nmのRFプロセスをモバイルや自動運転など様々な応用先に広げていく。

 サムスン電子はプロセスの拡大、2023年下半期の平沢(ピョンテク)工場第3ラインファウンドリーの稼働、2024年の下半期には米テイラー市の半導体工場第1ラインの稼働、現在造成中の韓国システム半導体国家産業団地の中に生産拠点を追加するなど、絶え間ない設備投資で安定した生産能力を確保、顧客の需要に積極的に対応するとした。サムスン電子の半導体を製造するクリーンルームの規模は2027年には2021年の7.3倍になる見通しである。

 同社はファウンドリー事業のパートナー、メモリー、パッケージ基盤、テスト分野の企業を集め、先端パッケージのアライアンスであるMDI(Multi Die Integration)を発足することも発表した。MDIの狙いは、異なる機能を持つ半導体を1つの半導体のように動作させるパッケージ技術である2.5D・3D異種集積パッケージ技術のエコシステムを構築して積層技術のイノベーションを続け、最先端パッケージをワンストップのターンキーサービスで提供することにある。サムスン電子はパートナーと一緒に最先端プロセスと異種集積パッケージ技術で設計の複雑度を最小限にできていると説明した。

趙 章恩(ITジャーナリスト)

 

(NIKKEI TECH)

2023. .7

-Original column

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00089/