iPhoneのターゲットはずばり日本と韓国? [2007年6月13日]

6月29日に米国で販売開始となるアップルの「iPhone」に、世界中が注目している。音楽、TVの次は携帯電話と次から次へとユーザーを虜にしているアップルは素晴らしいと、発売予定すらない韓国でもiPhoneが韓国携帯電話産業に与える影響を分析したり、音楽市場の変化を分析したり大騒ぎだ。韓国MP3プレーヤー市場でのiPodのシェアは7%ほどとサムスン電子の「Yepp」、レインコムの「アイリバー」より断然低く、iTunesですらサービスの予定もない韓国でアップルが何かする度に自分のことのように大騒ぎするのはどうしてだろう。それはアップルが世界モバイル音楽市場の4割占めている韓国と日本を狙っているという判断からだ。韓国電子新聞なんて「アップルのiPhone発売は韓国のせい?」なんていう見出しまでつけている。

 2007年1月、市場調査専門のガートナーは「世界モバイル音楽市場規模は2007年137億ドル、2010年には322億ドル規模まで成長するだろう」と発表した。その中でもアジア地域のシェアは2005年41%、2006年42%と最も高く、北米が最も少ない。ここでいうアジア市場は日本と韓国の市場規模のことのようで、SKテレコムやドコモの音楽サービスを事例としてあげている。ガートナーは「現在はまだMP3プレーヤーを利用したダウンロードサービスが主流だが、間もなく携帯電話を利用した音楽利用が主流になるだろう」と予測し、その根拠として「日本と韓国ではパソコンより携帯電話を利用した音楽サービスの方が人気、音楽再生機能が携帯電話の基本的な機能になってきた。安全なサービス方式と簡単な課金方式が人気の秘訣」と述べている。音楽もそうだが携帯電話でほぼ何でも解決できるのは日本と韓国ぐらいではないだろうか。現に、ロシアなんて着メロサービスが始まったのは2006年になってようやくだそうだ。


 もっとすごい数字もある。イギリスのSCREENDIGEST社は2006年末、全世界モバイル音楽市場規模は1億6600万ユーロで、2012年には10倍成長した16億ユーロになると発表し、その60%を日本と韓国が占めるだろうと予想している。なお、2006年末の全世界オンラインダウンロード音楽市場は9億3200万ユーロ。モバイル向けはその6分の1にあたる。当たり前だが、この市場をアップルが放っておくわけがない。


 世界携帯電話シェア3位のサムスン電子は2007年1月、P2P音楽ダウンロードサイトの「SORIBADA」と戦略的提携を結んだ。韓国のモバイル音楽サイトは携帯電話キャリアごとにサービスされているため、番号移動制度を利用すると購入した音楽が全部使えなくなる不便があった。サムスンの携帯電話を利用している人ならキャリアに関係なく番号移動制度を利用しても国をまたがっても一度購入した音楽は続けて利用できるようにし、iPhoneにも対抗するのがサムスンの狙いだ。LG電子も利用者数1位の音楽サイト「BugsMusic」と提携するらしいという噂が続いている。


 音楽サイトにとってはモバイルサービスを提供できれば安定した収益原が確保できる、ベンダーが盾になるので著作権問題も解決しやすいというメリットがある。ベンダーにとってはキャリアに左右されない独立したコンテンツを提供できるので、新たな端末を販売する際の強みになるだろう。韓国は日本と同じくキャリアの代理店でしか携帯電話は販売されないので、現時点では、ベンダー単独ではどうにもならない。だが今後は、欧州式にベンダーのショップで端末を買ってキャリアのUSIMカードを装着するだけになる可能性もある。その時に備え、自社コンテンツを揃えることで「00の端末でないと嫌」というユーザーを増やしたがっている。アップルはまさに「アップルでないと嫌」というユーザーを、焦らず着実に韓国で増やしてきた。


 東京ビッグサイトのような展示場があるソウル三成COEX地下ショッピングモールには韓国で最も大きいアップルショップがある。アップルの全製品を体験し購入できる場所だ。


 アップルのパソコンといえば韓国ではデザインはとても素晴らしいが値段がべらぼうに高く利用方法も難しいというイメージが強かったが、Windowsも使えるMacやアップルTVの登場、値段が安くなったiPodの影響から「アップルって意外といいかも」と関心を持つ人が増えている。実際にいつ行ってもガラガラだったCOEXのアップルショップは根気よくショップを運営し続けた結果、「アップルの製品ってどうして海外では人気なんだろう」と見に来る訪問者が増え、2007年からは平日でもショップは人でいっぱい、アップルパソコンの使い方講座も毎週開催しているほどだ。


 iPodをはじめアップルの製品が徐々に話題の中心になってきたのをみると、iPhoneが韓国で発売される日もそう遠くなさそうだ。2007年5月時点で、約12万円という高価格で発売されているiPhone と瓜二つのLG電子のプラダ携帯。こんなに高くても1日1000台ほど売れているそうなので、これより少しでも安く販売されればiPhoneの勝ちかもしれない。


 サムスン電子はアップルにiPhoneに搭載される4GB、8GBナンドフラッシュメモリーを輸出している。販売実績は既に4GBメモリーで5億個前後で、半導体部門の収益改善につながっている。サムスン電子はアメリカでiPhoneに対抗してタッチキーパッドを採用しながらも99ドルという激安音楽携帯「アップステージ」を発売したが、自社携帯が売れてもiPhoneが売れてもサムスン電子は儲かる。iPhoneの発売は韓国にとって新たなチャンスとなっている。

(趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/NPC/20070612/274527/