iPhone登場がキャリア間の競争を一層激化させる

SKテレコム5、KTF3、LGテレコム2。韓国移動通信キャリアのシェアは、ここ数年0.1~0.2%以内での変化しかなく、固着状態が続いている。シェアの固定化は移動通信市場成長の停滞を招き、サービスの質を落とすとして懸念されていた。有線ブロードバンドのKTと移動通信キャリアKTFとの合併による有無線通信サービスの同時加入によるバンドル割引や、料金値下げによるシェアの動きも微動たるものだった。

 それがiPhoneの発売から10日が過ぎ、大きな転機を迎えることになった。韓国通信事業者連合会によると、12月1日~3日の3日間ナンバーポータビリティでキャリアを変更したユーザーが5万6768人。そのうちの57.4%がiPhoneを発売しているKTへ流れ込んだのだ。


 11月に比べ2倍のユーザーがKTに切り替えている。いつもは40%以上がSKテレコムへと流れていたのに。今までは最新端末はSKテレコムが真っ先に出して、それから時差をおいてKT、LGテレコムで発売されていたので、ほしい端末のために長期加入割引を諦めてでもSKテレコムに変える人が多かった。韓国の平均機種変更は1年ほどであるが、実際には20~30歳代のユーザーだと6カ月もしないうちにころころ変えるたり、2台持っている人も少なくない。


 端末補助金競争でナンバーポータビリティを利用する人が急増し、マーケティング費用による赤字が話題になったことは何度もあったが、ナンバーポータビリティのシェアが動いたのはこれが初めてで、韓国では大きなニュースとなっている。


 4700万件もある携帯電話加入件数全体でみると、1位のSKテレコムにとっては痛くもかゆくもない数字ではあるが、クリスマスから始まり2月の卒業式、3月の入学式まで続く春の商戦でiPhoneだけで少なくとも50万台は売れると見込まれているだけに、このまま見過ごすことはできないだろう。


 それに全社員にiPhoneやOMNIAといったスマートフォンを支給する企業も増えている。大手企業やネット企業、出版社では、業務の効率を高め、同時に最新の端末でモバイルライフをいち早く体験させることで、マーケティングや新規ビジネス企画につなげるためスマートフォンを使わせている。ライバル会社が全社員にスマートフォンを買い与えたというニュースが流れると、うちもスマートフォン体制に変えるべきではないかとそわそわしてしまうのだろうか。「全社員にスマートフォン支給」の見出しがついたプレスリリースが毎日のように届いている。KTもビジネスユースを促進するため、iPhoneから利用できる無線LANスポットを、現在の1万3000カ所から2010年には5万カ所に増やすとしている。

SKテレコムはiPhoneの代わりとなるAndroid搭載端末の発売を急ぐ一方で、データ通信もコンテンツ利用料も無料の「フリーゾーン」サービスに力を入れている。月1000円ほどの定額で、「フリーゾーン」にある4000件ほどのコンテンツを通信費や情報利用料を気にせず使えるサービスである。


 続いてクレジットカード会社への出資も決めた。SKテレコムはHANAカードの株49%を取得し、モバイルクレジットカードサービス、モバイルコマース、位置情報を利用したクーポン・広告を強化するとしている。2400万人のSKテレコム加入者と、SKグループのマイレージサービス会員3000万人をターゲットにしたモバイルクレジットカードサービスとの相乗効果を狙う。


 HANAカードの複数のカードをUSIMに保存しておいて、決済する瞬間、ポイントが貯まるとか割引特典があるとか、もっともメリットのあるカードを自動的に選んで決済する。ここが、ただUSIMにカード情報を保存するだけだった既存のモバイルクレジットカードサービスと違うところである。


 プラスチックカードを発行しないのでカード制作や配送の費用を節約できるという点と、クレジットカード代金はSKテレコムの料金と一緒に請求されるので、携帯電話を使うためにもクレジットカード代金を払わねばならず、カード代金の延滞を減らせる効果も期待できる。KTもクレジットカード会社を買収するのではと噂されている。スマートフォンに続いて移動通信キャリアの金融ビジネス競争が韓国をにぎわすだろう。

(趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2009年12月10日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20091210/1021230/