LINEとカカオトークに負けるか! キャリア3社、合同サービス開始の本気 [2013年1月11日]

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韓国のキャリア3社、KT、SKテレコム、LGU+は、2012年12月26日より合同で「JOYN」という統合メッセージサービス(RCS:Rich Communication Suite)を始めた。

 JOYNは、加入者同士でチャット、LTE基盤音声通話(VoLTE)、テレビ電話を利用できるアプリである。グループチャットに加え、位置情報、映像、写真が共有できる。スマートフォンとPCの両方から使えるので、外回り中に会社からスマートフォンやタブレットPC宛に大容量(100MBまで可能)のファイルを送ってもらうとか、スマートフォンで撮影した動画をPCに送信して一緒に見ながら通話するといった機能はとても便利だ。しかし、ここまではLINE、カカオトークと同じサービスで、JOYNに乗り換える必要性が全く見えない。


 違いがあるとすれば、既存のアプリ経由の音声通話は音質が不安定で、通話の途中で切れたり時々つながらなかったりすることがあるが、JOYNはキャリアが提供するアプリなので、いつでも安定的に高音質で通話ができることだろうか。また、韓国のユーザーは「知らない人を友達として推薦されるのは不愉快」という人が多いので、JOYNはあえて友達をおすすめしないことにした。セキュリティとプライバシーを守りながら利用できるメッセージアプリ兼SNSを目指している。
 






キャリア3社合同でサービスを開始した「JOYN」の利用イメージ。LINEとカカオトークに対抗するためだが、無料でない限り勝ち目はないとみられている



 しかしLINEとカカオトークは無料で利用できるが、JOYNは2013年5月までの6カ月間のお試し期間だけ無料で、その後は有料になる。定額ではなく、メッセージ送信1件ごとにいくら、といった課金にしようとしている。JOYNがどんなに音質がきれいで便利だろうが、「有料ならいらない」というユーザーがほとんど。ネットでは評判がよろしくない。


 さらに、キャリア3社がLINEとカカオトークに対抗するためJOYNを始めたというニュースのコメントには、「やっと軌道に乗ったベンチャー企業のアプリを大手企業が乗っ取ろうとしている。JOYNは新しいサービスというより中小企業つぶしにすぎない」、「大手企業は大手らしくもっと技術開発に投資して、新しいことをすればいいのに。キャリアがどんなことをしても、無料のLINEとカカオには勝てない」と批判的な意見が多数書き込まれている。


キャリアのSMS送受信量は2010年の1人当たり月平均603件から、2012年上半期には347件にまで減った。日本と同様、韓国は違うキャリアに加入している人でも、メールではなく携帯電話番号宛にSMSを送受信できる。SMS送信は1件(80バイト)20ウォン(約1.6円)、受信は無料だ。SMSは短文をチャットのように送り合うので、中高生向けのSMSは月1000件定額料金なんていうプランもあるほどだ。それでも1000件をあっという間に使い終え、追加決済する中高生が多く、「SMS利用件数を追加できない料金制度」というのまで登場した。これほど頻繁に利用しているSMSなので、1回20ウォンと激安でも、月平均603件も送れば結構な料金になる。そのため韓国ではスマートフォンに加入したら、真っ先にカカオトークをインストールし、無料SMSとチャット、音声通話を利用するようになった。当然のことだが、カカオトークにユーザーが流れた分、キャリアは重要な収益源を失ってしまった。

 韓国ではLINEよりカカオトークの方が、圧倒的に加入者が多い。スマートフォン加入者のほぼ全員にあたる3500万人あまりが利用しているほどだ。カカオトークは韓国初の無料メッセージ+無料通話アプリである。海外のユーザーを合わせると、7000万人近くがカカオトークをインストールしている。海外にいる家族や友人と国際電話の代わりにカカオトークを利用する人がとても多い。カカオトークを経由したメッセージ送信は1日30億件を超えるという。カカオトークはメッセージアプリとしての機能だけでなく、モバイルプラットフォームとして、面白いゲームもたくさん提供している。国民的人気を誇るパズルゲームの「Anipang」(参照記事)も、カカオトークと連動したソーシャルネットワークゲームである。


 キャリア3社がJOYNを始めたのは、SMS収益を取り戻したいこともあるが、モバイルプラットフォームとしての役割をカカオトークに奪われるかもしれない恐怖からだというのが業界の定説だ。キャリアはコンテンツプロバイダーとユーザーをつなげ、決済代行を行うプラットフォームだった。しかしスマートフォンが登場してからは、アプリストアがプラットフォームの役割を担う。さらに、最近はカカオトーク、Twitter、FacebookのようなメッセージアプリとSNS、サムスン電子やLG電子のようなメーカーまでもがアプリストアを作り、ユーザーとコンテンツをつなげる役割をしている。


 キャリアはモバイル産業の主役から、ネットワークを提供するだけの脇役に転落するかもしれない瀬戸際なのだ。キャリア3社のJOYNはLINEとカカオトークに奪われたプラットフォームの役割を取り戻せるだろうか。2013年は「キャリアの役割」が問われる1年になりそうだ。






趙 章恩=(ITジャーナリスト)

日経パソコン
 

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20121230/1075522/