日本ではメールアドレスを変更しなくてはならないので面倒、手数料が高いといったことから利用はあまりないと言われているモバイルナンバーポータビリティ(MNP)だが、韓国では加入者の85%が経験しているというデータが発表された。
韓国通信事業者連合会によると、2009年12月時点で韓国のMNP利用者は約4020万人。
2004年1月に韓国でMNPが始まってから6年間で、携帯電話加入者の85%が1度は移動通信キャリアを変更したことになる。
韓国ではMNPでないと奨励金がもらえない、キャリアに関係なくショートメッセージを送受信できるので携帯電話からメールを使うことがなくメールアドレスの変更による負担がないことが理由としてあげられる。
MNPは移動通信キャリアを変更する心理的負担を軽くすることで競争を促進するのが目的であったが、韓国では奨励金競争と重なり、加入者を奪い、そして奪い返す争奪戦になってしまった。家族割りや学生割りといった加入者間通話の無料競争が始まると、ネットワークの外部性によりシェア1位のSK Telecomに加入者が集まり始め、移動通信キャリア3社の市場シェアは10年近く5対3対2のままである。
韓国の移動通信キャリアの平均解約率は3.5~4%。1%前後である日本に比べるとかなり高い。加入者の移動が激しいため奨励金が増えるのか、奨励金があるから加入者の移動が増えるのか。当然、移動通信キャリアの売上は伸びても利益率は急落している。2008年の場合、SK Telecomは営業利益2兆599億ウォンに対してマーケティング費用は3兆635億ウォンと、1兆36億ウォンも超過支出している。
2009年11月にiPhoneが発売されてからは、MNPによって加入者が流れていくのを防止するため、3社の奨励金に加えて端末ベンダーからの奨励金まで上乗せされている。単価90万ウォンほどのスマートフォンが移動通信キャリアとベンダーの奨励金により20万ウォンほどで買えるようになった。スマートフォンの値段は奨励金競争によって毎日最安値が更新されている。2~3日の間に40万ウォン近くした端末が、奨励金の増加で半額の20万ウォンにまで安くなり、その恩恵を受けられなかった加入者の反発で差額を返金する騒動まであった。
MNPで奨励金をもらうと、最低1年以上契約が拘束される約定加入となるが、代理店によっては「(その)違約金を代わりに払います」という張り紙まで出している。
移動通信キャリアが研究開発に使う費用より、マーケティング費用の方が多いことから移動通信サービスの質低下を招くのではないかという指摘があり、2008年3月に解禁された奨励金をまた規制すべきという意見も出始めた。
国会では奨励金の差等支給が問題になった。キャリアごとにA社からMNPした20代の場合は20万ウォン、B社からの移動でスマートフォンに加入した場合は55万ウォン、C社からのMNPは10万ウォン、という具合に、年齢や加入していたキャリアに応じて支給額を変えていたことが判明した。
通信政策を担当する放送通信委員会では、奨励金を支給するならば平等に、全加入者にそのメリットが行き渡るようにとガイドラインを制定した。併せて差等支給をなくすため、奨励金がどれぐらいもらえるのか、加入者にはっきりと情報を公開することも求められている。通信キャリアが放送通信委員会に提出する営業報告書の会計基準を変え、マーケティング費用の明細を販売営業と顧客サービスに分けて細かく出費の内訳を明記するようにした。
移動通信キャリアもMNPと奨励金による過剰な競争に負担を感じている。それでも市場シェアを守るためには仕方ないとしている。奨励金競争は結局端末買い替えを促進する競争でしかない。キャリアのARPUは日本ほど減っていないからだ。
5~6年前までも韓国のキャリアは、毎月のように「世界初」のモバイル放送や、モバイルホームネットワーク、モバイルヘルスケア、モバイルペイメントなどを登場させていた。それが今ではスマートフォンの話題ぐらいしかない。奨励金競争よりも、移動通信ならではの面白いサービスで顧客をつかまえて離さない競争をしてほしい。
(趙 章恩=ITジャーナリスト)
日経パソコン
2010年1月21日
-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20100113/1022154/