MWC 2024は「5GよりもAI」の韓国大手3キャリア、全集中で脱・通信依存

.

 2024年2月26日から29日にかけてスペイン・バルセロナで開催された世界最大級のモバイル関連見本市「MWC 2024」。日本の携帯電話事業者(キャリア)や中国の華為技術(ファーウェイ)が5G(第5世代移動通信システム)を拡張した5G-Advancedや5.5G、次世代の6G(第6世代移動通信システム)に関連した技術を展示する中、韓国のキャリア3社はAI(人工知能)に集中した。

 韓国政府は家計に占める通信費支出の軽減を目指し、キャリア3社に何度も料金の引き下げを要求している。奨励金を規制していた「移動通信端末装置流通構造改善に関する法律(端末流通法)」を廃止する計画で、0ウォン端末の販売や加入者を奪うためナンバーポータビリティーを利用する際には奨励金を上乗せすることについても問題ないとしている。3社は通信よりその他のサービスで利益を上げるため、韓国Samsung Electronics(サムスン電子)のオンデバイスAIスマートフォン「Galaxy S24」の発売に合わせ、それぞれAIでサービスの差別化を狙っている。

 最大手の韓国SK Telecom(SKテレコム)は以前から「グローバルAIカンパニー」になると宣言しているだけに、MWCでは「通信キャリアのためのAI」をテーマにTelco LLM(Large Language Models、キャリア向け大規模言語モデル)とAIサービスを展示した。同社は汎用LLMではなくTelco LLMを利用することで通信業務の理解度が高まり、利用者の意図もよく把握できるとする。これにより、新規サービスの企画やAIコールセンターの運営、顧客管理、マーケティングなどもより的確に行えるようになるという。今の課題である利益の伸び悩み、インフラ投資・運営費用の上昇、イノベーションの停滞を克服するためにもAIは欠かせないという。

 SK TelecomはTelco LLMを利用したサービス事例として、AIコールセンターやAIアプリ、AI半導体を展示した。AIコールセンターは基本的な対応を人に代わってAIが処理し、オペレーターが対応する際もどう応えるべきかをAIが社内文書を検索して提示する。AIアプリは通話内容を録音して要約する。こうしたAIサービスを支えるのがAIサービスモデル開発企業やデータセンター事業者に向けたAI半導体「SAPEON X330」である。系列会社であるSAPEONが開発し、台湾積体電路製造(TSMC)の7nm世代プロセスで生産する。SK Telecomは同チップをAIカンパニーになるために必要なAIインフラと位置づけており、AIを誰もが安価に利用できる社会作りを目指してSAPEONの性能向上を続けるという。

 さらに同社はMWC 2024の会場で、ソフトバンク、ドイツのDeutsche Telekom(ドイツテレコム)、中東のe&(イーアンド)グループ、東南アジアのSingtelグループと「Global Telco AI Alliance(GTAA)」の創立総会を開催した。2024年内にジョイントベンチャーを設立してTelco LLMやAIサービスの開発で協力する。開発するAI言語モデルは韓国語・英語・日本語・ドイツ語・アラビア語の5カ国語をはじめ、世界中の多様な言語を支援する。GTAAのメンバーによるサービス地域と加入者数は世界50カ国の約13億人に上る。SK Telecom はGTAAに参加するキャリアを増やすことや、グローバルAIエコシステムの主導権を確保することに意欲的だった。

 

 章恩=(ITジャナリスト)

 

(NIKKEI TECH)

2024. 3.

 

-Original column

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00104/

Leave a Reply

Your email address will not be published. Required fields are marked *