NTTドコモの通信障害は“対岸の火事”ではない韓国通信事情

スマートフォンから使う無料通話アプリが原因で、2012年1月25日にNTTドコモのサービスで通信障害が発生したというニュースは韓国でも報道された。韓国も同じく3Gネットワークを経由した無料通話アプリが大人気で、これが大量のデータトラフィックを誘発していることからネットワーク障害が度々発生しているからだ。

 韓国ではスマートフォンを買うと真っ先に無料メッセンジャーと、加入者同士が無料になる音声通話アプリをダウンロードするほどである。通信キャリアのLGU+からは、Skypeのように加入者同士は無料、通常の半額ほどの料金でスマートフォンから固定電話や携帯に電話をかけられる有料の音声通話アプリも登場した。






キャリアのLGU+が始めた有料音声通話アプリ「U+070」。Skypeのように加入者同士は無料で、スマートフォンから固定電話や携帯電話へは通常の半額ほどで電話をかけられる


韓国放送通信委員会は2012年2月より、韓国内の有無線データトラフィック状況を把握できる「トラフィックマップ」制作に着手する。どのサイトがどれぐらいデータトラフィックを使用しているのかを把握できるようにするためのものである。トラフィックマップがあれば、ブロードバンド、2G、3G、Wibro(韓国のWiMAX)、LTEそれぞれのネットワーク上でどのような類型のサービス(例えば音声通話・映像通話アプリ、映像配信、テキスト、ゲームなど)が、どれぐらいのトラフィックを使っているのかが分かる。

 同委員会は2012年度の主な事業としてこの「トラフィックマップ制作」を挙げているほど力を入れる。より効率的なネットワーク投資計画を立てられるデータとして活用できると期待しているからだ。


 トラフィックマップについて「通信障害を事前に防止するための処置」、「キャリアと政府系ITシンクタンク、学界が参加するモバイルトラフィック急増対策班がマップをどのように活用するか議論していく」(同委員会)としている。説明によると、トラフィックマップを作り国全体のネットワークを管理することは米国で始まり、主な先進国で既に導入されているという。マップは企業の内部資料を集めたものなので一般に公開せず、通信事業者のネットワーク投資の資料として利用するという。


何が「合理的なトラフィック管理」なのか



 また合理的なトラフィック管理のためのガイドラインも公開した。これには大量のトラフィックを誘発しているアプリやサイトに一時的にアクセスできないよう通信事業者が遮断できるという内容が含まれているため、ネットユーザーの間で反発が巻き起こっている。トラフィック増大を理由に無料通話や無料テレビ中継といったサービスをシャットアウトし、通信事業者の有料電話や有料アプリだけ使わせるのではないかという心配からだ。


 同委員会は基本的にはネットワーク中立性を守り、どのサイトやアプリにもアクセスできるようにするのが前提とした上で、利用者の権利を守るため「シャットアウトできる条件」3つを挙げている。ネットワーク障害から多数の利用者の利益を保護するために必要と認められた場合、ネットワークのセキュリティと安全性を確保するために必要と認められた場合、国家機関の法令に基づく要請や法執行のために必要と認められた場合である。トラフィックマップとガイドラインを作るきっかけとなった無料音声通話アプリのことは具体的に触れていないため、「合理的なトラフィック管理」とは何かをめぐり、当分は議論が続きそうだ。


 SKテレコムの資料によると、2011年韓国のモバイルインターネットはSKテレコムだけで月1万TBのデータトラフィックがあり、夜9時から11時にトラフィックが集中し、常に処理できる容量の95%を使い切っているという。韓国のキャリアは3社ともに似たような状況で、「データトラフィックが爆発的に増えると予測はしていたものの、あまりにも急速なのでネットワークを増設しても追いつかない」、「クラウドサービスが本格化したらもっと大変なことになる」と口をそろえている。


 ネットワーク障害を防ぐための対策として、周波数確保も話題になっている。放送通信委員会は2013年までに700MHz、1.8GHz、2.1GHzの帯域170MHzをキャリア3社に割り当てる。2020年まで600MHz以上の周波数を確保するプランも練っている。





趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
[2012年2月2日]

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20120202/1040844/