韓国通信大手3社がOpen RAN導入へ、ドコモや富士通など日本勢との連携も加速

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2023年2月27日から3月2日にかけてスペインのバルセロナで世界最大級のモバイル関連展示会「MWC Barcelona 2023」が開催された。韓国内では、中国の華為技術(ファーウェイ)が韓国Samsung Electronics(サムスン電子)より5倍以上も大きなブースを構えた点や、今年のMWCの主役の1つであった様々なベンダーの基地局製品を相互接続できるようにする技術「Open RAN」関連の展示が目立った点などが話題になっている。

 Open RAN は、5G(第5世代移動通信システム)から6Gに向けて進展するモバイルネットワーク市場で注目されている技術だ。Open RANを導入することで、通信事業者は適材適所で必要な製品を選べるようになる。既存の基地局は同じ会社の製品をそろえないと通信を確立できないという問題があった。通信キャリアはOpen RANによって特定のベンダーに依存せずに、最新の技術をいち早く導入できるほか、柔軟で効率のよい運用によって設備投資と運用コストを抑えられるという期待がある。

 韓国でも、韓国KTと韓国SK Telecom(SKテレコム)、韓国LG U+という通信大手3社がOpen RANに準拠した基地局のテストを進めている。ベンダー側もサムスン電子が、NTTドコモやKDDI、米Dish Network(DISH)、英Vodafone Group(ボーダフォン・グループ)などに対し、Open RAN対応の5G基地局や仮想化基地局(vRAN)製品を提供している。

 韓国科学技術情報通信部の調べによると、韓国の大手3社の全加入者に占める5G加入者の割合は、いずれも半数を超えた。

 加入者の増加に合わせて韓国通信大手は5G基地局数を増やす必要がある。韓国政府は電波が飛びにくいミリ波28GHz帯の基地局について、展開がなかなか進まなかったことでKTとLG U+の免許を取り消している。韓国ではより電波が飛びやすいSub6帯の5G基地局展開が中心だ。Open RANで5G基地局のマルチベンダー化や設備投資と運用コストの削減を見込めることは、5Gサービスの拡大において重要な要素となる。

韓国政府は中小ベンダー育成にも本腰

 韓国通信大手3社は、Open RAN導入に向けて活発的に動き出している。

 KTは今回のMWCに合わせて、NTTドコモと仮想化基地局を含めてOpen RANのエコシステムを世界に広げていくために協力関係を強化すると発表した。KTとNTTドコモは長く協力関係にある。2022年1月にはNTTドコモや富士通と共に、Open RANの技術仕様に準拠した5G基地局の動作確認を完了。2022年10月には、5Gスマホから発信した信号がOpen RAN対応5G基地局を経由し、コアネットワークに届くまでの相互接続試験に成功していた。

 KTは、Open RANの仕様を策定する業界団体「O-RAN ALLIANCE」にも積極的に仕様を提案している。2022年7月には、KTがO-RAN ALLIANCEに提案した仕様が標準として承認されている。

 ファーウェイ排除を世界で加速するためにOpen RANを後押しする米国政府も、KTのOpen RAN導入に期待する。米国のフェルナンデス国務次官(経済成長・エネルギー・環境担当)は2023年1月、訪韓した際にKTを訪問し、中国勢をけん制するためにもOpen RANの導入を広げてほしいと要請したという。

 SKテレコムも2023年1月、フィンランドの通信機器大手Nokia(ノキア)と協力し、韓国で初めてOpen RANに対応した仮想化基地局を商用ネットワーク内に設置し、安定した5Gサービスとカバレッジ性能を確認できたと発表した。同社は韓国ソウル市郊外にOpen RANテストラボをオープンし、国内外の企業の研究チームと幅広く協力を進めている。2022年12月にはSKテレコムとLG U+がO-RAN ALLIANCEが主催するOpen RAN対応機器の相互接続イベント「PlugFest」で基地局接続テストの結果を公開した。

趙 章恩(ITジャーナリスト)

 

(NIKKEI TECH)

2023. 3.

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https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00080/

韓国大手2社の5Gミリ波を取り消し、政府は「第4の事業者」参入を画策

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韓国のICT政策を担当する科学技術情報通信部(部は日本の省に当たる)は2022年12月、韓国通信大手3社のうち韓国KTと韓国LG U+(LGユープラス)の5G(第5世代移動通信システム)向け28GHz帯(ミリ波)電波割り当てを取り消した。2社が電波割り当ての際の基地局設置条件を満たせなかったからだ。韓国通信最大手の韓国SK Telecom(SKテレコム)は、ミリ波電波の割り当て取り消しこそ免れたものの、基地局展開が遅れているとして、当初5年としていた同周波数帯の利用期間を半年短縮された。

 ミリ波の電波は、帯域を豊富に使えるために高速・大容量通信を実現できる。その一方で高い周波数帯であるため直進性が高く、電波が遠くまで飛ばない。ミリ波は多くの基地局を設置する必要があるため、韓国通信大手3社は展開に二の足を踏んでいる。

 実際、韓国通信大手3社は、一般消費者向け5Gサービスを、電波がより飛びやすいSub6帯と呼ばれる3.5GHz帯のみで提供している。ミリ波の28GHz帯の展開は、法人向けスマートファクトリーなど特定企業の敷地内などにとどまる。

 韓国通信大手3社は、ミリ波の展開が遅れている理由として、28GHz帯に対応したスマホが韓国内で販売されておらず、基地局に投資しても使う人がいないと弁明する。一方で端末メーカーの韓国Samsung Electronics(サムスン電子)は、韓国通信大手3社が一般消費者向けにミリ波5Gサービスを提供しないので、スマホにミリ波機能を搭載しなかったと説明する。「鶏が先か、卵が先か」という状況に陥っている。

 こうした事態から韓国では2021年、韓国通信大手3社の5Gプランに加入した利用者による集団訴訟も起きている。韓国通信大手3社はCMで、LTEよりも20倍速いミリ波の5Gを利用できるようになると宣伝したものの、実際には一般消費者向けには提供されておらず、大手3社は不当な利益を得ているという訴えだ。訴えを起こした原告は、5G契約を無効だとして、これまで支払った料金の払い戻しを求めている。

趙 章恩(ITジャーナリスト)

 


(NIKKEI TECH)

2023. 2.

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https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00079/

サムスンが最新Galaxyに2億画素イメージセンサー、打倒ソニーへの試金石

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韓国で2023年2月7日から予約販売が始まった韓国Samsung Electronics(サムスン電子)の最新スマートフォン(スマホ)「Galaxy S23シリーズ」が好評だ。最上位モデルのGalaxy S23 Ultraは、同社が開発した最新の2億画素イメージセンサーを採用し、高品質なカメラ機能を最大の売りとする。サムスン電子にとって、イメージセンサー市場の絶対的王者であるソニーグループを追撃するための重要な製品でもある。打倒ソニーグループへ向けた弾みとなるか。

 同製品を販売する韓国の大手通信事業者3社の集計によると、Galaxy S23シリーズの予約数は前機種のS22シリーズを上回るなど好調な出足だ。予約販売のうち、6割が最上位モデルのGalaxy S23 Ultraを選択しているという。

 Galaxy S23 Ultraは、サムスン電子のスマホで初めて2億画素のイメージセンサーを採用した。2023年1月に発表したばかりの同社製イメージセンサー「ISOCELL HP2」である。0.6μm ピクセルの画素を2億個備えており、高画質で正確なフォーカスや、より素早い処理を実現した。

 Galaxy S23 Ultraは、2億画素のカメラに加えて、1200万画素のカメラ、2個の1000万画素のカメラを搭載する。動画は最大8K画質で撮影可能だ。夜景モードを使うことで、人工知能(AI)がノイズを取り除き夜間でも明るくきれいに撮影できる。新たに「アストロハイパーラプス(天体写真撮影)」を搭載し、同社は銀河(Galaxy)も撮影できると宣伝している。

 実際、Twitterでは、Galaxy S23 Ultraを使って100倍ズームで月の表面まで鮮明に撮影された写真が、驚きとともにシェアされている。

 Galaxyシリーズの手ぶれ補正100倍ズームの実力は、前機種のGalaxy S22 Ultraから定評がある。例えば韓国のアイドルファンは、普段は米Apple(アップル)の「iPhone」を使っていても、コンサートやイベント前にはGalaxy S22 Ultraをレンタルして100倍ズームで「推し」の写真を撮影するのが流行している。最新機種のGalaxy S23 Ultra は、100倍ズーム機能も向上したとして期待を集めている。

 サムスン電子は2023年2月1日に米国で開催した新機種公開イベントにおいて、「Galaxy S23シリーズは性能と品質全てにおいて過去最高だ」と強調した。イベントでは、Galaxy S23 Ultraで撮影したリドリー・スコット監督の短編映画『Behold』やナ・ホンジン監督の『Faith』も公開し、夜間でも高画質で安定した画面を撮影できる点をアピールした。

 韓国内では、風景写真こそGalaxyのほうが上だが、人物写真についてはiPhoneの方がきれいに撮れるという口コミも根強い。サムスン電子は、Galaxy S23シリーズではフロントカメラを使った自撮りでも画質を強化したと説明している。世界的な景気低迷によってスマホの販売台数が低下する中、同社はカメラ機能の強化でスマホ市場の世界シェア首位を守る考えだ。

趙 章恩(ITジャーナリスト)

 

(NIKKEI TECH)

2023. 2.

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https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00078/

半導体支援巡り二転三転、韓国政府が税額控除率25%の大型支援に踏み切る

半導体産業への支援を巡って与野党の対立が続いている韓国政府の方針が二転三転している。2022年12月末の韓国国会において可決された、半導体などの設備投資を行った大企業に対し投資額の8%を税額控除するという方針をわずか11日で撤回。2023年1月、追加控除を加えると最大25%を税額控除するという新たな方針を発表したからだ。韓国政府は当初、大幅な税額控除は難しいという立場だった。産業界の猛反発を受けて方針転換を余儀なくされた格好だ。

 韓国政府は2023年1月3日、半導体を含む国家戦略技術の設備投資を行った大手企業や中堅企業に対し投資額の15%を税額控除するという新たな税制支援強化策を発表した。中小企業の場合、25%を税額控除する。さらに2023年の期間限定で、直近3年間の年平均投資額を超えて設備投資した場合、追加で投資額の最大10%を控除する。追加控除を含めると、税額控除率は大手企業・中堅企業の場合が最大25%、中小企業の場合に最大35%となる。現在の韓国の税額控除率は大手企業の場合6%、中堅企業が8%、中小企業が16%である。そのため大幅な支援拡大となる。

 日本の財務省に相当する韓国・企画財政部は「半導体設備投資の税額控除率は米国が25%、台湾が5%であり、韓国政府は世界最高水準の税制支援をする」と強調した。支援対象となる国家戦略技術には、ファウンドリー向けの設計IP(Intellectual Property)検証技術や非メモリー半導体のテスト技術などが含まれる。加えて過去最高額である50兆ウォン(約5兆3000億円)規模の政府融資枠も用意した。

 半導体は韓国の主力産業であり同国の経済成長をけん引してきた。しかし2022年から続く景気悪化により韓国経済は大きな打撃を受けている。韓国の経済団体である大韓商工会議所は半導体産業の景気低迷は2023年末まで続く可能性があると指摘。半導体産業に対する政府支援が必要だとして、半導体設備投資の税額控除の大幅拡大や規制緩和などを求めていた。

 最大25%の税額控除率という大きな支援策を打ち出した韓国政府であるが、実はここに至るまで方針が二転三転している。

 韓国与党の「国民の力」は2022年8月当初、大手企業20%、中堅企業25%、中小企業30%という税額控除率を求めていた。しかし野党は、この方針について大手財閥優遇だと反発。大手企業10%、中堅企業15%、中小企業30%の税額控除率にするよう主張していた。

 与野党の対立が続いて硬直状態に陥る中、韓国・企画財政部は、大手企業の場合、8%以上の税額控除率は難しいという主張を始める。法人税収入の減少の懸念からだ。

 最終的にはこの企画財政部の主張が通り、韓国国会は2022年12月23日、法人税の税額控除率を大手企業の場合、8%にする方針を可決した。

 だが議論はここで終わらなかった。現状の6%よりは引き上げられるものの、8%という税額控除率は米国や台湾と比べても少なすぎると韓国産業界が猛反発。韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領も税制支援を拡大するように指示し、韓国政府は一旦可決した方針の見直しを迫られたからだ。

 結局、冒頭の通り、韓国政府はわずか11日で方針転換。大幅な税制支援策を打ち出すことになった。新たな方針には国会同意が必要だ。韓国国会は2023年1月末現在、改正したばかりの法案を再び改正するための議論が続いている。


趙 章恩(ITジャーナリスト)

 

(NIKKEI TECH)

2023. 1.

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https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00077/

CES 2023の展示から見えた韓国サムスンとLGの変化、ハードからソフトへシフト

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 2023年1月5日から8日(現地時間)にかけて、米国ラスベガスで世界最大級のテクノロジーイベント「CES 2023」が開催された。直近2回のCESは新型コロナウイルスの感染拡大の影響で規模縮小が続いていたが、今回のCES 2023は出展企業も拡大し、活気が戻ってきたという。中国勢の出展が減る中、大きな存在感を見せたのが韓国勢だ。韓国Samsung Electronics(サムスン電子)、韓国LG Electronics(LG電子)という大手に加えて、スタートアップなど韓国企業500社以上が出展した。韓国メディアが報じた、CES 2023の見逃せないポイントについて紹介しよう。

 韓国メディアは今回のCES 2023について、「韓国勢を含め、アッと驚くイノベーション製品は見当たらず、よりスマートで環境にやさしいライフスタイルを提案する目立たないイノベーションの展示が主流だった」「モビリティーやメタバース、ヘルスケア、スマート金融など産業と産業の境界がなくなる動きが加速した」などと指摘する声が多かった。例年ハードウエアの展示が目立つCESであるが、今回はソフトウエアが中心になったと評価する意見も目立つ。

 ソフトウエア重視の展示は、サムスン電子とLG電子という韓国の大手2社も同様だ。両社は例年CESの展示において、「世界初」「世界最高」をうたうテレビやスマート家電を競い合うのが名物だ。世界的な景気後退によって家電の売り上げが減速する中、両社がどんな展示をするのか注目を集めていた。蓋を開けてみると両社共にハードウエアの新製品よりも、「環境」や「利便性」を強調する展示となった。

 サムスン電子は2022年からキャッチフレーズとして掲げる「Calm Technology」を前面に打ち出した発表だった。Calm Technologyとは、人が意識することなく日常に浸透した静かなテクノロジーといった意味だ。

 同社は、ネットワーク接続された家電をスマホのアプリケーションから制御できる「SmartThings」を活用した、環境にやさしい製品群などをアピールした。例えばSmartThingsを使って省エネを実現できるサービス「SmartThings Energy」については、米国コロラド州の1万2000世帯を対象に実証実験を進めている様子などを紹介した。

 充電器サイズの小型スマートハブ「SmartThings Station」も初めて披露した。パートナー会社の家電も含めて複数のデバイスと接続できる互換性を持ち、様々なデバイスを簡単にコントロールできるようになるという。

 サムスン電子独自の省エネ技術によって、利用者は同社の製品を使うだけで環境保護に寄与することになるという点も強調した。米環境保護庁をはじめとした多様なパートナーと協力し、家電使用による温暖化ガス排出量を削減していくための業界標準づくりにも力を入れているという。同社の家電部門は2027年までに100%再生エネルギーを導入し、2030年には同部門でカーボンニュートラルを達成するという発表もあった。

 ソフトウエア重視の姿勢は、サムスン電子のあらゆる家電分野に見られる。例えばロボット掃除機において、家の構造や利用者の位置など空間を認知し、よりスマートな動作を可能にするようなAI(人工知能)の開発を進めているという。ブロックチェーン技術にも力を入れており、ネットワーク接続された家電のハッキングを防止し、一人ひとりに合わせた機能を提供するために活用する方針も明らかにした。

 サムスン電子はこれまでのCESにおける主役だった大型テレビ製品について、別会場で限定公開したという。これは中国勢による技術コピーを防ぐためというのが、韓国メディアのもっぱらの見方だ。

 サムスン電子副会長のハン・ジョンヒ氏は2023年1月6日(現地時間)、CES会場で行われた記者説明会で、「(業績の悪化により)期待に応えられず残念だが、投資減縮計画はない。技術イノベーションで顧客価値を創出し続ける。新たな成長分野としてロボットやメタバースなどに期待している」「M&A(合併・買収)の計画は、ロシアによるウクライナ侵攻や米中貿易摩擦などの影響で遅れているが、良い知らせを期待できるだろう」などと説明したという。

趙 章恩(ITジャーナリスト)

 

(NIKKEI TECH)

2023. 1.

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https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00076/

米インフレ抑制法対応で揺れる現代自動車、米工場投資見直しも示唆

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米国で2022年8月に成立した、再生可能エネルギーを推進する「歳出・歳入法(インフレ抑制法)」への対応を巡り、韓国Hyundai Motor Group(現代自動車グループ)幹部の発言が注目を集めている。インフレ抑制法は、北米で最終組み立てした電気自動車(EV)を対象に、補助金(税額控除)を支給する法律である。韓国で車両を生産して北米に輸出している現代自動車グループのEVは補助金対象外となり、北米での販売が不利になる。同社幹部は2025年に稼働開始予定の米ジョージア州工場への投資見直しもちらつかせる。


 公正競争を確保できなければ、米ジョージア州の工場投資を見直す可能性もある――。現代自動車北米法人の幹部が米インフレ抑制法の対応を巡って、このような発言をしたと韓国メディアが報じたことから注目を集めている。

 インフレ抑制法は、北米で最終組み立てしたEVを対象に、補助金を支給する法律だ。韓国で車両を生産して北米に輸出している現代自動車グループや、韓国Kia Motors(起亜自動車)などは補助金の対象外となる。このままでは現代自動車らのEVは2023年から補助金対象外になるため、他のメーカーより価格が高くなる恐れがある。

 現代自動車や起亜自動車のEVは北米のEV販売台数でトップ3に入るなど好調だ。しかし株式市場は、インフレ抑制法によって両社の販売台数が落ちると見ており、株価は下落を続けている。

 インフレ抑制法が現代自動車の成長を阻害するのであれば、同社も黙っていないというメッセージとして打ち出したのが、米ジョージア州に建設中のEV専用工場「Hyundai Motor Group Metaplant America(HMGMA)」の投資見直しの可能性である。

2025年までの猶予を求める

 現代自動車は2022年10月に、米ジョージア州新工場の起工式を開催した。同社は同工場に55億4000万ドル(約7360億円)を投資し、2025年上半期からEVの量産を開始する計画だ。年間30万台規模の生産を見込む。

 米ジョージア州の新工場には、AIベースの制御システムやロボティクス、環境にやさしい低炭素工法、安全で効率的な作業などを取り入れる予定だ。未来型のモビリティー工場を目指し、多品種のEVを需要に応じて柔軟に生産できるようにする。

 現代自動車は、米ジョージア州の新工場でEV生産が始まる2025年まで、インフレ抑制法の適用の猶予を求めている。この北米新工場で主力EVの量産を始める2025年以降、同社のEVはインフレ抑制法による補助金の支給対象になる。問題はそれまでの期間だ。現代自動車のEVは補助金対象外となり、その分高くなる。だからこそ同社幹部は米ジョージア州の新工場の投資見直しをちらつかせながら、インフレ抑制法の見直しを求めているわけだ。

 現代自動車は2022年5月、EVのラインアップ拡充に向けて2030年までに21兆ウォン(約2兆2000億円)を投資し、2030年にEV販売を323万台まで伸ばす。これにより、グローバルのEVシェアで12%確保するという目標を発表した。2030年までに高級車「Genesis」を含めて18車種以上のEVをそろえるとした。2022年に販売開始した同社の新型セダンEV「IONIQ 6」は好評で、2024年に後継の「IONIQ 7」を公開する予定である。ただインフレ抑制法の補助金対象外のままだと北米での販売が不利となり、これらの目標も見直しを余儀なくされる。


趙 章恩(ITジャーナリスト)

 

(NIKKEI TECH)

2023. 1.

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https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00075/


半導体産業支援を巡って与野党対立の韓国、世界の主導権を守れるのか

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米国など各国政府が半導体を戦略物資として重点施策を打ち出す中、韓国Samsung Electronics(サムスン電子)と韓国SK Hynix(SKハイニックス)という半導体世界大手を抱える韓国内が揺れている。韓国政府が打ち出す半導体産業への支援金が他国と比べて少なすぎるという声が日に日に増しているほか、半導体産業への法人税控除額を巡って与野党の対立が続いているからだ。半導体強国である韓国はどこへ向かうのか。

「海外に比べて韓国政府の支援が少なすぎる」

 米国や欧州連合(EU)、日本、中国、台湾などが半導体を戦略物資として捉え、次世代半導体の技術力と生産力を確保するために、各国の政府が多額の支援を惜しまないようになっている。

 例えば米国は2022年8月、半導体産業の技術的優位を維持するため、バイデン米大統領が半導体産業を支援する「CHIPS・科学法」(CHIPS and Science Act)に署名した。同法に基づく予算は5年間で総額2800億米ドル規模(約38兆3400億円)だ。このうち527億米ドル(約7兆2200億円)が米国内で半導体を生産する企業への支援金となる。

 EUの欧州委員会も2022年2月、域内の半導体生産拡大に向け2030年までに官民で430億ユーロ(約6兆1900億円)を投じる「欧州半導体イニシアチブ」(Chips for Europe Initiative)に合意した。EUの半導体生産シェアを、現在の10%から2030年には20%へと拡大する目標を掲げる。

 中国も半導体自立のエコシステムを目指す。台湾は早期に政府が半導体産業支援を始めた。台湾には世界最大のファウンドリー企業である台湾積体電路製造(TSMC)を中心に技術力のある半導体企業がある。

 日本も次世代半導体の国内生産を目指す新会社「Rapidus(ラピダス)」が2022年11月に発足した。ラピダスについては韓国メディアも注目している。「半導体再建、日本のドリームチーム集結」「日本半導体同盟設立、過去の栄光を取り戻せるか」「日本、先端半導体国産化始動」など詳細な報道が連日のようになされている。

 こうした中で韓国内は、半導体産業に対する韓国政府の支援が海外に比べて少なすぎると懸念する声が日に日に大きくなっている。韓国政府が2022年7月に発表した「半導体超強大国達成戦略」の主な内容は、半導体工場の容積率を現状の350%から490%へと高めるほか、半導体産業団地の造成に関する認許可は重大な公益の侵害がない限り迅速に手続きするとなっている。

 実はこれまで韓国内の半導体工場建設を巡って自治体とのトラブルが発生し、建設が思うように進まないケースがあった。SKハイニックスが2019年2月に発表した、約120兆ウォン(約12兆円)を投資する韓国・龍仁(ヨンイン)半導体クラスター計画だ。工場用水の影響で農業用水が不足して、住民の利益が侵害されると懸念した隣接自治体が許可を出さず難航していた。2022年7月の半導体超強大国達成戦略の発表後、政府が積極的に仲裁に入り、2022年11月に自治体が許可を出し、2027年4月の稼働に向け再び動き出した。

 この他、半導体超強大国達成戦略では、2031年まで大学の定員を増員し、半導体専門人材15万人以上を養成する計画や、半導体特性化大学院を新設した大学の教授の人件費と研究用機材費、研究費を政府が支援するといった内容が含まれている。

 韓国内における2023年の半導体支援予算額は、韓国産業通商資源部(部は省に当たる)が前年比13.6%増の2507.7憶ウォン(約260億円)、韓国・科学技術情報通信部が前年比28.7%増の2440.3憶ウォン(約254億円)といずれも大幅に増額した。しかしそれでも産業界や学界からは、「海外に比べて物足りない」「政府と国会がもっと大胆に支援すべきだ」という声が相次いでいる。



趙 章恩(ITジャーナリスト)

 

(NIKKEI TECH)

2022. .12

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https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00074/

オランダASMLが韓国に大型投資、米国の中国制裁で韓国に漁夫の利

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先端半導体製造に欠かせないEUV(極端紫外線)露光装置の生産で、世界市場をほぼ独占するオランダASML。そんな同社が韓国に新たな拠点を設けた。ASMLにとっては初の海外への大型投資だ。韓国では、米国による中国に対する半導体制裁により中国から撤退する企業が増えるなか、半導体製造の中心が韓国へと移動することを期待している。韓国は漁夫の利を得ることができるのか。


 ASMLは2022年11月16日(現地時間)、韓国Samsung Electronics(サムスン電子)の工場がある韓国・華城(ファソン)で、新たな半導体拠点「ニューキャンパス」の起工式を実施した。ASMLの韓国のニューキャンパスは、面積7万3000平方メートルの広さを誇る。EUV露光装置の維持補修と部品を再利用する「再製造センター」や、半導体人材育成のための「トレーニングセンター」などが入る場所だ。同社は2400億ウォン(約248億円)を投資した。2024年12月に入居予定である。ASMLが海外で大型投資をするのはこれが初めてだ。

 今やASMLは世界でほぼ唯一、先端半導体の製造に欠かせないEUV露光装置を製造するメーカーだ。EUV露光装置は年間50台ほどしか生産できない。世界の半導体メーカーが1台でも多くEUV露光装置を確保しようと「ASML詣で」を重ねている。

 ASMLのニューキャンパスが完成すると、韓国内でEUV露光装置の維持管理がしやすくなる。修理のため装置をオランダにあるASMLの本社まで送る必要がなくなる。ASMLが半導体製造装置の部品を韓国内で調達する可能性もある。韓国の半導体産業の競争力が一段とアップするという期待もある。

 同社CEO(最高経営責任者)であるピーター・ベニンク氏は、ニューキャンパスの起工式のために韓国を訪問した。同氏は記者会見で「韓国は先端技術を保有する協力会社が多く、シナジー効果は大きい」「ニューキャンパスは知識移転の始まり。知識移転に5年から10年はかかるため、再製造センターを皮切りに韓国でR&D基盤を拡充していければ、韓国に製造ラインを作る可能性もある」などと語った。

 景気後退にもかかわらずASMLは、自動運転やクラウドコンピューティング、人工知能(AI)の成長によって2030年まで半導体市場が急速な拡大を続けるとみる。それに伴って、EUV露光装置の需要も伸び続けるとする。ただし米国による中国制裁によって、米国産部品を使う半導体製造装置の中国向け販売が規制されるなか、ASMLもある程度影響を受ける可能性がある。

 2022年11月17日には、韓国とオランダの首脳会談もソウルで開催された。両国は半導体の協力関係を強化することで合意し、サムスン電子会長のイ・ジェヨン氏や韓国SKグループ会長のチェ・テウォン氏、ASML CEOのベニンク氏も、韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領と面会し、安定的な半導体供給網管理のため政府と民間の協力方策について意見交換した。

 ASMLにとって、先端半導体を製造するサムスン電子や韓国SK Hynix(SKハイニックス)を抱える韓国はお得意様だ。この両社に対し、ASMLはEUV露光装置を含む半導体装置を1000台以上納品しており、これは同社の売上高の約3割を占めている。

 サムスン電子はファウンドリーだけでなくメモリー製造にもEUV露光装置を導入するとみられる。会長のイ・ジェヨン氏自らがオランダのASML本社を訪問し、装置確保に動いている。

 超微細工程の量産に対応するASMLの次世代EUV露光装置は、1台3億〜3億5000万ユーロ(430億〜500億円)と非常に高価だ。2024年出荷予定であるものの既に契約が殺到しており、サムスン電子とSKハイニックスに納品されるのは2026年ごろになるとみられている。もっともASMLが韓国に拠点を持つことで、サムスン電子やSKハイニックスと物理的な距離が近くなり、装置確保に有利になるという分析もある。



趙 章恩(ITジャーナリスト)

 

(NIKKEI TECH)

2022. 11.

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https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00073/

韓国転倒事故の初動で機能せず「災難安全通信網PS-LTE」、叫ばれる安全を守る技術

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2022年10月29日夜、韓国ソウル市の繁華街、梨泰院(イテウォン)の狭い路地にて転倒が発生し、若者を中心に150人以上が亡くなるという痛ましい事故が起きた。韓国政府は2022年11月5日までを国家哀悼期間に指定し、全国各地でイベントをキャンセルし犠牲者を追悼した。事故原因の究明や捜査が進む中、韓国のメディア「聯合ニュース」をはじめとした複数のメディアは、国の「災難安全通信網(PS-LTE)」が事故現場の初動対応で十分に活用されなかった点を問題視している。

 災難安全通信網とは、2014年に高校生ら300人以上が犠牲になった旅客船「セウォル号」の沈没事故を受けて、韓国政府が1.5兆ウォン(約1060億円)をかけて構築した公共機関の連絡用無線だ。韓国ではこれまで、警察や海洋警察、消防、自治体など災害に関連する公共機関が異なる方式の無線を利用していた。セウォル号の事故では、公共機関が別々の仕組みを使っていたため情報共有に手間取り、救助が遅れてしまった。その反省を受けて、災害救助に関係する公共機関が同じネットワークを使い、迅速なコミュニケーションを取れるようにした。公共安全用のLTEネットワークである「PS-LTE」技術を使っている。

 韓国の災難安全通信網は2021年5月に、全国規模で構築が完了した。2022年7月には関係する公共機関が災難安全通信網を使った合同訓練を実施したばかりだった。

 梨泰院の転倒事故では、災難安全通信網が初動対応の際に十分機能しなかった。災害救助に関係する公共機関が災難安全通信網経由で通話したのは、事故発生から1時間30分以上も経過した2022年10月29日の午後11時41分だった。この点について災難安全通信網を管轄する韓国・行政安全部災難安全管理本部は2022年11月4日、ネットワークやデバイスは正常作動していたが「訓練が足りなかったのかもしれない」と反省の弁を述べた。そして「今後は、災難安全通信網が十分に活用されるように、現場中心の教育や利用機関の合同訓練を持続的に実施する」と続けた。

2023年に注目するキーワードは「安全」「ネットワーク」

 韓国では梨泰院の転倒事故を受けて、人々の安全を守るような技術が改めて注目を集めている。


 例えば、韓国科学技術情報通信部(日本の省に相当する組織)傘下の研究機関である情報通信企画評価院が毎年11月に発表するリポート「ICT Top 10 Issues」の最新版では、2023年のICT分野で注目すべき点として、「安全」と「ネットワーク」が取り上げられた。

 「安全」については、韓国のIT大手Kakao(カカオ)が2022年10 月に無料通話アプリ「KakaoTalk(カカオトーク)」の大規模障害を引き起こしたことが記憶に新しい。同リポートでは、カカオトークのような「デジタル停電」をなくす安全、そして災害からICT技術を使って国民の命を守るという安全、双方について2023年は投資が増えるのではないかと分析した。

 「ネットワーク」については、5G(第5世代移動通信システム)の次の「6G」に向けて、衛星通信を使って海や空でもつながるネットワークの競争が激しくなると指摘した。

 セキュリティーを高めた「量子暗号通信」の実用化に向けたグローバル競争も激化するとした。例えば韓国の最大手通信事業者であるKTは、量子暗号通信の暗号鍵となる量子鍵配送ネットワークと、実際にデータを送るネットワークを、1本の光ファイバーで送受信できるようにする技術を開発している。量子暗号通信は、光の最小単位である光子を暗号鍵の共有に使う。通常は、この暗号鍵を共有するネットワークと、実際のデータを送るネットワークを、別々に用意するケースが多い。これを1本の光ファイバーで実現できると、費用削減や既存の光ネットワークの活用という利点が生まれる。同リポートでは、こうした技術革新によって、韓国における量子暗号通信関連のエコシステムが拡大すると分析している。



趙 章恩(ITジャーナリスト)

 

(NIKKEI TECH)

2022. 11.

-Original column

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00072/

韓国国民的通話アプリが大規模障害、「デジタル停電」で阿鼻叫喚

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韓国のIT大手Kakao(カカオ)は2022年10月15日(現地時間)、運営する無料通話アプリ「KakaoTalk(カカオトーク)」の大規模障害を引き起こした。カカオトークは韓国国民の9割以上が利用しているといわれる国民的アプリだ。カカオは通話アプリのほか検索サイト、メール、各種予約、決済アプリなど生活全般に役立つサービスを幅広く提供している。これらを含めてカカオのサービスが5⽇以上の⻑期にわたって一部が使えなくなり、韓国内は大混乱に陥った。「デジタル停電」とも呼ばれる今回の甚大な被害を契機に、韓国内で再発防止の議論が活発化している。

 カカオトークは、スマホのアプリなどで利用できる無料の音声通話・ビデオ通話サービスだ。2010年にサービスを開始した。韓国は留学や移民で海外に家族がいる人が多い。通話料を節約できることから、カカオトークは韓国国民にとって生活必需品になった。現在カカオトークは、月間実行回数996億回と、10歳以上の韓国スマホユーザーがもっとも頻繁に利用するアプリになっている。

 そんな国⺠にとってライフラインとなるアプリが、実に127時間30分にわたって使えなくなった。カカオトークは2022年10月16日の夜になって部分的に機能が回復したが、カカオの全てのサービス障害が解消するまで5日以上かかった。韓国では、政府や企業のお知らせもカカオトーク経由で発信するケースが多い。社員同士もカカオトークのグループチャットを連絡に利用するのが一般的だ。個人利用にとどまらず、政府や企業の利用でもカカオトークの大規模障害の影響を受けた。

 カカオが提供するメールや各種予約、乗り換え案内、地図、決済アプリなども利用できなくなった。カカオトーク経由でタクシーや運転代行予約を受け付けていた企業、カカオの決済アプリのみに対応していた商店なども開店休業状態に陥った。カカオトークのIDと連携してログインするネットショップや、マンガやゲーム、コミュニティー掲示板などのコンテンツサイトも利用できなくなった。韓国内では今回の障害を「デジタル停電」と呼ぶほど大混乱が広がった。

 障害の原因は、カカオがサーバー管理を委託する韓国SK C&Cのデータセンターで起きた火災だ。カカオは、各種サービスを提供するために、4カ所のデータセンターで約9万台のサーバーを運用している。今回火災が発生したデータセンターは、カカオの約3万2000台のサーバーを運用する主力拠点だった。

お粗末だったデータセンターの運営体制

 カカオは、自らカカオトークを「国民的メッセンジャー」と自負するほど韓国内で圧倒的なシェアを持つ。カカオトークの強みを生かし、カカオはM&A(合併・買収)を繰り返し、ビジネスの拡大を続けた。韓国内では利便性の高さから、生活にかかわる全てのサービスをカカオトークと連携する利用者が多い。今回の大規模障害からは、カカオのシステムの運用体制は、国民のライフラインを支える存在にしてはお粗末だったことが明らかになった。

 例えばサービスを支えるデータセンターの運営体制だ。カカオは自前のデータセンターを持たず、データセンターの冗長構成も不十分だった。

 実は今回、火災を起こしたデータセンターは、カカオの競合で韓国IT大手のNAVER(ネイバー)も利用していた。しかしネイバーは火災を起こしたデータセンターには一部のサーバーを置くのみで、自前のデータセンターで冗長構成をとっていた。ネイバーは、データセンターの火災でショッピングサイトにサービス障害が発生したものの、カカオとは対照的に短時間で復旧を果たした。

 カカオは今回の大規模障害を受けて2022年10月17日に対策委員会を設置。10月19日には記者会見を開き、障害の責任を取って同社共同CEO(最高経営責任者)であるナムグン・フン氏が辞任した。カカオは会見で「これまでは売上高と営業利益を重視しすぎていた。システムは非常に重要な要素であり、もっと投資をするべきだった」と反省を述べた。

 会見でカカオは、自前のデータセンターを建設する計画も明らかにした。4600億ウォン(約470億円)を投資し、首都圏に12万台のサーバーを置く第1データセンターを2023年中に建設、2024年1月から稼働開始するという。安定的なサーバー運営のため4万kWの電力を確保し、火災が起きた場合も早期に消火できるようにする。第2データセンターも2024年に建設し、2027年1月の稼働開始を目指す。

 実はカカオは2012年にもデータセンターに起因するサービス障害を起こしていた。その際にも「自前のデータセンターを建設する」としていたが、結局10年間、手をつけていなかった。韓国メディアは、このようなカカオの姿勢に対し批判的な報道を続けている。2022年10月24日にはカカオ創業者のキム・ボムス氏が韓国国会に呼ばれて、謝罪する羽目になった。




章恩(ITジャナリスト)

 

(NIKKEI TECH)

2022. 10.

-Original column