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韓国のIT大手Kakao(カカオ)は2022年10月15日(現地時間)、運営する無料通話アプリ「KakaoTalk(カカオトーク)」の大規模障害を引き起こした。カカオトークは韓国国民の9割以上が利用しているといわれる国民的アプリだ。カカオは通話アプリのほか検索サイト、メール、各種予約、決済アプリなど生活全般に役立つサービスを幅広く提供している。これらを含めてカカオのサービスが5⽇以上の⻑期にわたって一部が使えなくなり、韓国内は大混乱に陥った。「デジタル停電」とも呼ばれる今回の甚大な被害を契機に、韓国内で再発防止の議論が活発化している。
カカオトークは、スマホのアプリなどで利用できる無料の音声通話・ビデオ通話サービスだ。2010年にサービスを開始した。韓国は留学や移民で海外に家族がいる人が多い。通話料を節約できることから、カカオトークは韓国国民にとって生活必需品になった。現在カカオトークは、月間実行回数996億回と、10歳以上の韓国スマホユーザーがもっとも頻繁に利用するアプリになっている。
そんな国⺠にとってライフラインとなるアプリが、実に127時間30分にわたって使えなくなった。カカオトークは2022年10月16日の夜になって部分的に機能が回復したが、カカオの全てのサービス障害が解消するまで5日以上かかった。韓国では、政府や企業のお知らせもカカオトーク経由で発信するケースが多い。社員同士もカカオトークのグループチャットを連絡に利用するのが一般的だ。個人利用にとどまらず、政府や企業の利用でもカカオトークの大規模障害の影響を受けた。
カカオが提供するメールや各種予約、乗り換え案内、地図、決済アプリなども利用できなくなった。カカオトーク経由でタクシーや運転代行予約を受け付けていた企業、カカオの決済アプリのみに対応していた商店なども開店休業状態に陥った。カカオトークのIDと連携してログインするネットショップや、マンガやゲーム、コミュニティー掲示板などのコンテンツサイトも利用できなくなった。韓国内では今回の障害を「デジタル停電」と呼ぶほど大混乱が広がった。
障害の原因は、カカオがサーバー管理を委託する韓国SK C&Cのデータセンターで起きた火災だ。カカオは、各種サービスを提供するために、4カ所のデータセンターで約9万台のサーバーを運用している。今回火災が発生したデータセンターは、カカオの約3万2000台のサーバーを運用する主力拠点だった。
お粗末だったデータセンターの運営体制
カカオは、自らカカオトークを「国民的メッセンジャー」と自負するほど韓国内で圧倒的なシェアを持つ。カカオトークの強みを生かし、カカオはM&A(合併・買収)を繰り返し、ビジネスの拡大を続けた。韓国内では利便性の高さから、生活にかかわる全てのサービスをカカオトークと連携する利用者が多い。今回の大規模障害からは、カカオのシステムの運用体制は、国民のライフラインを支える存在にしてはお粗末だったことが明らかになった。
例えばサービスを支えるデータセンターの運営体制だ。カカオは自前のデータセンターを持たず、データセンターの冗長構成も不十分だった。
実は今回、火災を起こしたデータセンターは、カカオの競合で韓国IT大手のNAVER(ネイバー)も利用していた。しかしネイバーは火災を起こしたデータセンターには一部のサーバーを置くのみで、自前のデータセンターで冗長構成をとっていた。ネイバーは、データセンターの火災でショッピングサイトにサービス障害が発生したものの、カカオとは対照的に短時間で復旧を果たした。
カカオは今回の大規模障害を受けて2022年10月17日に対策委員会を設置。10月19日には記者会見を開き、障害の責任を取って同社共同CEO(最高経営責任者)であるナムグン・フン氏が辞任した。カカオは会見で「これまでは売上高と営業利益を重視しすぎていた。システムは非常に重要な要素であり、もっと投資をするべきだった」と反省を述べた。
会見でカカオは、自前のデータセンターを建設する計画も明らかにした。4600億ウォン(約470億円)を投資し、首都圏に12万台のサーバーを置く第1データセンターを2023年中に建設、2024年1月から稼働開始するという。安定的なサーバー運営のため4万kWの電力を確保し、火災が起きた場合も早期に消火できるようにする。第2データセンターも2024年に建設し、2027年1月の稼働開始を目指す。
実はカカオは2012年にもデータセンターに起因するサービス障害を起こしていた。その際にも「自前のデータセンターを建設する」としていたが、結局10年間、手をつけていなかった。韓国メディアは、このようなカカオの姿勢に対し批判的な報道を続けている。2022年10月24日にはカカオ創業者のキム・ボムス氏が韓国国会に呼ばれて、謝罪する羽目になった。
趙 章恩=(ITジャーナリスト)
(NIKKEI TECH)
2022. 10.
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