ウクライナ危機でニッケル高騰、韓国バッテリー業界がLFPに注目

.

 ロシアによるウクライナ侵攻の長期化によって、電気自動車(EV)向けのバッテリー原材料価格が高騰している。ロシアはEV向けバッテリーに使われる原材料であるニッケルの保有量が世界3位であり、世界供給の約1割を占めているからだ。米Tesla(テスラ)や中国比亜迪(BYD)をはじめとしたEVメーカーは、バッテリー原材料高騰を理由にEVの値上げを発表するなど影響が出始めた。バッテリーを半導体に次ぐ産業に育てたい韓国にとっても、対策が急務になっている。

高騰するニッケルの代りに浮上する「LFPバッテリー」

 2022年3月17日から19日まで、韓国ソウルにある複合施設「COEX」にて、韓国産業通商資源部(「部」は日本の省に当たる)などが主催する二次電池産業展示会「InterBattery 2022」が開催された。198社が展示に参加し、4万人以上が来場するなど、韓国の国を挙げてのバッテリー産業後押しを示すかのように盛り上がりを見せた。


 そんなInterBattery 2022に水を差す格好になったのが、ロシアによるウクライナ侵攻の影響だ。特にEV向けバッテリーに使われるニッケルの価格が高騰していることが、韓国のバッテリー業界に影を落としている。

 EV向けバッテリーに使われる純度99.8%以上のニッケルは、ロシア産のシェアが世界で最も高いという。韓国はロシアのほか、インドネシアやオーストラリア、南米からニッケルを輸入しているため供給が止まることはない。問題は価格高騰である。EV普及拡大でバッテリー原材料価格は上がり続けていたが、ウクライナ侵攻により一気に価格が跳ね上がった。

 InterBattery 2022では、産業通商資源部のムン・スンオク長官、韓国LG Energy Solution(LGエナジーソリューション)と韓国SK On(SKオン)、韓国Samsung SDI(サムスンSDI)という韓国バッテリー3社の代表、韓国電池産業協会会長も出席。原材料供給網問題についてコメントした。

 出席者からは「原材料価格と連動してバッテリー価格も上げるように完成車メーカーと契約をしているが、長期的に不確実性が続く場合はバッテリー側にも影響が生じる可能性がある」「合弁会社の設立などで安定した供給確保と価格競争力確保に力を入れている」「企業が原材料供給先を多様化しても限界がある。原材料供給は外交問題や資源を巡る覇権争いもあるため政府レベルでの長期対策が必要。いつどこでどのような制裁が飛び出るか分からない」といった声が上がった。ムン長官は「バッテリー供給網問題は政府の重大事項と認識している。世界ニッケル供給の24%を占めているインドネシアをはじめ、世界の供給網を確認する。省庁間で意見を共有している」と説明した。

 韓国バッテリー3社は主に、ニッケルの配合量が高いNCM(ニッケル、コバルト、マンガン)系、NCA(ニッケル、コバルト、アルミニウム)系のバッテリーを生産している。今後の事業への影響を避けるため3社は、価格が高騰したニッケルなどの原材料を含まないLFP(リン酸鉄リチウムイオン)バッテリーにも目を向けている。

 LGエナジーソリューションとSKオンは21年10月、ESS(Energy Storage System)向けのLFPバッテリーを開発すると発表した。ただ発表時点では、原材料高騰が理由というよりはバッテリー事業の多角化のためという説明だった。SK onは「需要があれば(EV向けLFPも)準備する」という立場だ。サムスンSDIは今のところ、LFPバッテリーについての発表はない。

 EVメーカー側も、LFPバッテリーの採用を増やす動きがある。テスラや独Volkswagen(フォルクスワーゲン)、米Rivian(リビアン)らがLFPバッテリーを採用することを明らかにしている。韓国メディアによると、韓国Hyundai Motor(現代自動車)も25年以降、新興国向けのEVにLFPを搭載する計画があるという。LFPバッテリーはこれまで、中国メーカーが生産する価格は安いが走行距離が短いEVに搭載されるものといったイメージがあった。だがここにきて、技術進展によってエネルギー密度が高くなり、多くのEVメーカーの選択肢になりつつある。

 韓国のバッテリー原材料を扱う企業も、原材料の安定供給のため海外投資を増やしている。韓国POSCOグループは24年上半期に、アルゼンチンのリチウム工場の稼働を開始する。年間2万5000トン規模から始め、28年には年間10万トン生産を目指す。POSCOグループは18年に、アルゼンチンのオンブレ・ムエルト塩湖のリチウム採掘権を買収し投資を続けてきた。

 現代自動車やLG エナジーソリューション、SKオンは、バッテリー原材料確保の負担を軽減するため、廃バッテリーのリユースとリサイクルにも力を入れる。韓国政府は廃バッテリー関連法を整備し、企業をサポートする方針である。

 章恩(ITジャナリスト)

 

(NIKKEI TECH)

2022.3 .

-Original column

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00056/

ウクライナ侵攻で半導体生産に危機、韓国が対策急ぐ

.

ロシアによるウクライナ侵攻で韓国経済が揺れている。韓国Samsung Electronics(サムスン電子)や韓国LG Electronics(LGエレクトロニクス)、韓国Hyundai Motor(現代自動車)はロシアに生産工場を持つほか、韓国企業は家電やスマートフォン、自動車などでロシア市場においてトップシェアを占めているからだ。原材料の供給難によって、韓国の主力産業である半導体産業への影響も懸念される。韓国内では官民で混乱回避に向けた努力が続けられている。

半導体生産に欠かせない希ガスの輸入をロシア、ウクライナに頼る

 韓国経済にとって、ロシアによるウクライナ侵攻の最大の懸念は、主力産業である半導体への影響だ。

 半導体生産に欠かせない希ガスの主要生産国はロシアとウクライナである。ロシアによるウクライナ侵攻後、半導体生産への懸念からサムスン電子と韓国SK Hynix(SKハイニックス)の株価が大幅下落した。両社は常に3カ月分の原材料を確保しているため、今のところ生産に支障はないとしている。

 とはいえ韓国半導体業界は、半導体工程に欠かせないネオン(Ne)やクリプトン(Kr)、キセノン(Xe)などの希ガスについて輸入に頼っている。韓国関税庁の21年輸出入貿易統計によると、ネオンの輸入はロシアからが5.2%、ウクライナからが23%である。クリプトンはロシアからが17.5%、ウクライナからが30.7%、キセノンはロシアからが31.1%、ウクライナからが17.8%だ。希ガスの多くをロシアとウクライナに依存していることが分かる。

 ネオンは、シリコンウエハーに微細回路を刻むためのDUV(Deep UV)露光工程で使われる。DRAMでは約90%、NAND型フラッシュメモリーはほぼ100%を、DUV露光工程によって生産しているという。

 韓国最大の鉄鋼メーカーであるPOSCOは22年1月、製鉄所の酸素工場内の空気分離装置を活用してネオンガスを抽出する「ネオン生産設備」を完成したと発表した。ただPOSCOの設備でも、韓国内の需要の約16%に相当する分しか生産できないという。

 半導体のエッチング加工工程に必要なクリプトンとキセノンは、ロシアとウクライナからの輸入の割合が非常に大きい。POSCOは半導体工場に納品できる程度のクリプトンとキセノンの生産も進めているが、いつ量産できるかは未定という。

 韓国半導体業界は、原材料供給網の強靭化を図っているとする。しかし半導体製造に不可欠な希ガスは、ロシアとウクライナを除くと中国や米国、フランスくらいしか供給元がないようだ。希ガスはロシアとウクライナが緊張状態だった22年1月から、既に値上がりが止まらない状況だ。

 ウクライナ侵攻による半導体生産の先行き懸念から、今後、世界で半導体不足に拍車がかかる恐れもある。韓国メディアの報道によると現在、世界中からサムスン電子とSKハイニックスへの注文が殺到しているという。22年2月にはキオクシアと米Western Digital(ウエスタンデジタル)が共同で運営する半導体製造工場で、フラッシュメモリーの製造に不純物が混入していたことが明らかになった。さらに米Intel(インテル)は22年3月からデータセンター向けの新CPUを発売することを受けて、DRAMの買い替え需要によるメモリー半導体の価格上昇が見られることも、半導体不足に追い打ちをかけている。

 章恩(ITジャナリスト)

 

(NIKKEI TECH)

2022. 3.

-Original column

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00055/

サムスン「Galaxy S22」が韓国で出足好調、久々3000万台超なるか

.

韓国Samsung Electronics(サムスン電子)の最新フラグシップスマホ「Galaxy S22」(以下、S22)の販売が2022年2月25日から韓国で始まった。韓国SK Telecom(SKテレコム)など大手通信事業者3社は、22年2月14日から予約販売を開始。S22は、前機種であるGalaxy S21(以下、S21)と比べて予約が3倍以上となるなど出足は好調だ。中国・小米科技(Xiaomi、シャオミ)などの追い上げで、スマホ世界シェア1位キープが危うくなっていたサムスン電子だが、S22の予想以上のヒットでほっと胸をなで下ろしたところだろうか。

 S22シリーズは、前機種のS21から価格を据え置き、ディスプレーやカメラ、アプリケーションプロセッサー機能などを全体的に向上した。アプリケーションプロセッサーは、Galaxyスマホで初となる4nmプロセス技術を使ったアプリケーションプロセッサー(国によって米QualcommのSnapdragon8Gen1か、サムスン電子のExynos2200)を採用。AI(人工知能)処理専用のプロセッサー「NPU(Neural Processing Unit)」も活用することで、S21よりも約2倍の処理速度を実現したという。イメージセンサーもS21より約23%大きくし、暗い場所での撮影でも多彩な色彩を表現できるようにした。

 前機種のS21は、その前のGalaxy S20との違いが分からないという評価が多かった。S22ではその反省を教訓に、手堅く機能向上を図ったようだ。

 S22シリーズはディスプレーサイズが6.1型のS22と6.6型のS22+、6.8型のS22 Ultraの3種類を用意した。予約販売で最も人気が高いのが、最もディスプレーサイズが大きいGalaxy S22 Ultraだ。SKテレコムは予約分の70%、韓国KTは67%、韓国LGU+は53%がS 22 Ultraとのことだ。3社とも予約者は30~40代の男性が圧倒的に多いという。

 S22 Ultraは、コアなファンが多い「Galaxy Note」の特徴である電子ペン「Sペン」を本体に収納できるデザインを引き継いだ。これがNoteファンの心を動かしたようだ。S21もSペンを扱えたものの、本体に収納できず不便だった。Sペンの機能も改善しており、反応速度がより速くなり、思い通りに字を書いたり絵を描いたりしやすくなった。80カ国語の手書き文字を認識しテキストに変換できる。

 韓国のSNSでは、19年発売のGalaxy Note 10や18年発売のGalaxy Note 9からS22 Ultraに乗り換えたという書き込みが目立った。ついにNoteファンを満足させるスマホが登場した喜ぶコメントが多かった。S22 Ultraの売れ行きが好調なことから、韓国内で、折り畳み形態が特徴のスマホ「Galaxy Z」シリーズにもSペンを収納できるモデルを投入するのではないかという報道もあった。

 S22 Ultraの背面カメラは、Galaxyシリーズで最大となる1億800万画素と1200万画素、1000万画素2つのクアッドカメラを採用した。暗いところで撮影すると、光が反射して映り込むフレア現象を改善したのが特徴だ。SNS投稿のために写真や動画の画質を重視するユーザーが多いことから、フレア現象の改善は、S22 Ultraの先行レビューでも高く評価されていた。写真に写りこんだ影や光の反射を消すAI消しゴム機能も話題だった。

 S22シリーズは、Galaxy Zシリーズと同様に、アーマーアルミニウム(Armor Aluminum)、ボディーの前後面に、米Corning(コーニング)製の強化ガラスを使い耐久性を強化した。S21ではポリカーボネートを採用し、本体が安っぽいという不満が漏れていたことを意識したようだ。

 S22 Ultraは、レッドとスカイブルー、グラファイトの3色をサムスン電子のホームページで販売する限定カラーにした。この3色は、予約販売初日に完売した。

 章恩(ITジャナリスト)

 

(NIKKEI TECH)

2022. 2.

-Original column

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00054/

サムスンが給与の5倍の奨励金、人材引き留めで待遇改善競争

.

 2021年に米Intel(インテル)を抜き、世界半導体市場の売上高で1位となった韓国Samsung Electronics(サムスン電子)と、歴代最多売上高を記録した韓国SK hynix(SKハイニックス)。好業績に沸く両社が従業員に支給したボーナスと基本給に上乗せして払われる奨励金(インセンティブ)が大盤振る舞いだとして、韓国内で話題になっている。報道によると、サムスン電子のメモリー事業部で課長クラスの従業員は、給与のほかに4800万ウォン(約460万円)の奨励金を受け取るという。背景には韓国内の競合はもちろん中国企業を含めて人材の奪い合いが激化しており、待遇改善で優秀な人材を囲い込みたいという狙いがある。

 サムスン電子とSKハイニックスは毎年年初に、前年度の営業利益に応じて従業員に成果報酬を支給している。両社の21年半導体部門の営業利益は約41.6兆ウォン(約4兆円)と前年比で実に2倍近く増えた。半導体需要の急増や米中貿易摩擦によるサムスン電子のファウンドリー受注増加などが背景にある。両社は半導体人材流出を避けるために待遇を競い、給与のほかに成果報酬や奨励金、激励金、特別賞与などの名目でボーナスを支給している。

 21年年初の奨励金の額は、サムスン電子の方がSKハイニックスよりも多かった。額を公表直後にサムスン電子が半導体分野の中途採用を始めたことから、SKハイニックスからサムスン電子へ転職を希望する人が増えたという。逆に22年年初の奨励金の額は、SKハイニックスの方がサムスン電子よりも多い。そのため、サムスン電子の社員がSKハイニックスへ転職したがっているという報道があった。

 両社は従業員を自社に引き留めようと待遇改善の競い合いを始めた。21年12月にサムスン電子が基本給の200%に当たる特別賞与を従業員に支給したところ、翌週にSKハイニックスは基本給の300%に当たる特別賞与を従業員に支給。これを知ったサムスン電子は、半導体メモリー事業部の従業員にさらに同300%、半導体研究所やパッケージングなどメモリーを支える部署の従業員に同200%を追加支給――といった具合だ。最終的にサムスン電子のメモリー事業部は、SKハイニックスよりも多い基本給の500%に当たる特別賞与を受け取った。

 22年1月に入っても待遇改善競争は続いている。SKハイニックスは目標を超過した利益に応じて支給される成果給を、最高限度額である年俸の50%にしたと発表。サムスン電子も負けずに同水準を支給する見込みという。

 韓国メディアによると21年9月時点での両社の平均年俸は、SKハイニックスが8109万ウォン(約780万円)、サムスン電子が7500万ウォン(約725万円)で、SKハイニックスの方が上である。同じ年俸50%の成果給でも金額には差が出てしまう。

 2021年大卒初任給(年俸)もSKハイニックスの方が上だ。SKハイニックスが5040万ウォン(約480万円)に対しサムスン電子は4800万ウォン(約460万円)である。複数の韓国メディアは、「このままでは半導体業界で最高の待遇を用意するSKハイニックスに人材が流れ、10年内にSKハイニックスがサムスン電子を追い越すのではないか」というサムスン電子従業員らの不満の声を報じた。

 年俸の差にサムスン電子の労働組合も反応している。同社の労働組合は22年2月4日、韓国雇用労働部(部は省)中央労働委員会に労働争議調整申請の手続きを行った。サムスン電子労働組合は、競合他社の待遇に比べて給与や奨励金の額が少ないとし、21年10月から経営陣と交渉を続けていたが、交渉が不調に終わったからだ。労働組合の要求は、全従業員の年俸を1000万ウォン(約96万円)一括で引き上げること、年初に樹立した営業利益目標を超過達成すると超過利益の20%の範囲で支給する奨励金を年間営業利益の25%に変更すること、などである。同社の労働組合は、同社創業以来初めてとなるストライキを予告。韓国メディアは実現可能性が非常に少ないとしながらも交渉の成り行きを注目している。

 章恩(ITジャナリスト)

 

(NIKKEI TECH)

2022. 2.

-Original column

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00053/

韓国LGエナジー上場で1兆円調達、CATL猛追 ホンダと合弁報道も

.

韓国LG Chem(LG化学)の電池子会社であるLG Energy Solution(LGエナジーソリューション、以下LGエナジー)が2022年1月27日、韓国取引所に上場した。同社は公募価格だけでも12兆7500億ウォン(約1兆2000億円)という巨費を調達。電気自動車(EV)用バッテリーの世界シェアで首位の中国・寧徳時代新能源科技(CATL)を追い越そうと意気込む。LGエナジーは調達した資金を主に北米における生産設備の拡大に投じる。韓国の複数メディアは、同社とホンダが北米に共同出資会社設立を検討していると報じている。

 韓国では22年1月に入ってから、LGエナジーの新規上場の話題でもちきりだった。韓国内では、LGエナジー株の値上がりは間違いないと見て、借金をしてまで申し込む個人投資家が殺到。LGエナジー株の個人向け申込日だった22年1月18~19日の2日間、韓国では金融機関の個人向けの貸付金額がなんと7兆ウォン(約6700億円)を超えた。

 22年1月11〜12日には、機関投資家からの需要を積み上げる「ブックビルディング(需要申告)」が実施され、LGエナジー株の公募価格が1株30万ウォン(約2万9000円)に決まった。公募価格で計算するだけでLGエナジーは上場によって、12兆7500億ウォン(約1兆2000億円)の資金を調達する計算だ。

 22年1月27日の上場初日の終値は50万5000ウォン(約4万8000円)と公募価格の倍近くとなり、韓国取引所の時価総額において韓国Samsung Electronics(サムスン電子)に次ぐ2位にいきなり浮上した。

上場で得た資金によって北米のバッテリー生産量を約3倍に拡大

 LGエナジーは新規株式公開(IPO)で集めた資金について、約5割を北米地域におけるバッテリー生産設備の拡大に投じる計画だ。残りの4割を韓国と欧州、中国の生産設備拡大に、1割を次世代バッテリー研究と安全性強化のために投資する。

 上場直前の22年1月26日には、同社とGMの共同出資会社であるUltium Cells LLC(以下、Ultium Cells)が、米ミシガン州に北米で3番目のEV向けバッテリー工場を新たに建設することを発表した。26億ドル(約2400億円)を投資し、25年上半期に量産開始。最終的には年間50GWhまでバッテリー生産量を拡大する計画だ。

 Ultium Cellsの工場は、第1工場に当たる米オハイオ州の生産設備が22年下半期に稼働開始予定だ。年間バッテリー生産量は35GWh超となる見込みである。米テネシー州の第2工場は23年下半期に稼働開始予定。こちらのバッテリー生産量も年間35GWh超を見込む。

 LGエナジーはUlitium Cells以外にも、北米バッテリー生産拠点の拡大を急ぐ。同社は米ミシガン州ホーランドに12年から独自運営する工場を持つ(年間40GWh)。さらに24年には、欧州の自動車メーカーであるStellantis(ステランティス、旧FCA)と同社の共同出資会社が、カナダ・オンタリオ州に建設するバッテリー工場が稼働を始める予定だ。この拠点のバッテリー生産量は年間40GWhとなる。

 LGエナジーは、自動車メーカーとの共同出資会社を中心にバッテリー生産量をさらに拡大し、25年には現在の約3倍にあたる年間430GWh超(北米で年200GWh、欧州で年100GWh、中国で年110GWhなど)まで生産能力を広げる計画だ。

 韓国の複数メディアは、LGエナジーとホンダが、バッテリー生産のための共同出資会社設立を検討していると報じた。報道によると両社は年40GWh規模のバッテリー生産拠点を米国に設置する計画という。

 ホンダとの共同出資会社が正式に決まれば、LGエナジーの北米におけるバッテリー生産能力はさらに拡大する。韓国メディアによると、ホンダは北米においてGMと協力関係にあるため、GMと共同出資会社を設立したLGエナジーに近づいたのではないかと分析している。

 実際、22年1月10日に実施されたLGエナジーの記者懇談会で、同社副会長でCEOのKwon Young-soo氏は、「GMと韓国・現代自動車(Hyundai Motor)、ステランティスとバッテリーの共同出資会社を推進中で、今は明かせないが他の企業とも合弁契約を結ぶ予定」と打ち明けた。

 章恩(ITジャナリスト)

 

(NIKKEI TECH)

2022. 1.

-Original column

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00052/

サムスンが1.2兆円投資しOLEDテレビに再参入、LGと対決か同盟か

.

韓国Samsung Electronics(サムスン電子)が巨額投資する次世代ディスプレー「QD-OLED」が、2022年1月初めに米ラスベガスで開催されたテクノロジー見本市「CES 2022」でデビューした。現在、大型で高価格帯を主とするテレビ向けのOLED(有機EL)パネルは、韓国LG Display(LGディスプレー)の独壇場であり、サムスンは新たなQD-OLEDパネルでLGディスプレーの牙城に挑む。一方で韓国内では、サムスンがLGディスプレーのOLEDパネルも採用するのでは、という観測が浮上している。背景には低価格の液晶パネル市場で中国勢が台頭し、韓国2社が有機ELを採用したプレミアムテレビ市場に活路を見いだしているという事情も見える。

CES 2022で正式デビュー、次世代ディスプレー「QD-OLED」

 サムスン電子副会長のHan Jong-hee氏はCES 2022の記者説明会で、QD-OLEDパネルを採用したテレビを発売することを正式に明らかにした。22年上半期中の発売を見込み、年間100万台を生産するという。説明会では、55型と66型のテレビ向けQD-OLEDパネルと34型のモニター向けQD-OLEDパネルを展示した。QD-OLEDテレビ自体は展示しなかったものの、同社が発売を計画する65型のQD-OLEDテレビは、CES 2022の「Best of Innovation Award」を受賞した。

 QD-OLEDは、サムスンが19年から25年までに生産施設構築と研究開発に13.1兆ウォン(約1.2兆円)もの巨額を投資する次世代ディスプレーだ。QD-OLED のQDは、電気・光学的性質を持つナノメートルの大きさの半導体粒子のこと。QD-OLEDでは、光の三原色の中で青色素子を発光源とし、ナノスケールの半導体粒子をカラーフィルターの代わりに使って、RGBで残る緑や赤を生成する。同社はQD-OLEDテレビを「現存する最高画質のテレビ」になるとする。

 実際、サムスンのQD-OLEDパネルは22年1月10日に、スイスの検査・認証機関であるSGSにより、色彩再現力が高く視野角による画質低下が少ないという認証を獲得している。

 実はサムスンにとってテレビ向けの大型OLEDパネルは再参入に当たる。サムスンは12年に、55型の大型OLEDテレビを公開した。しかしその後、製造工程に課題が判明し、大型のOLEDパネルから撤退。より低価格な液晶(LCD)をベースにした「QLED」テレビを主力としてきた。今回のQD-OLEDテレビの発売は、サムスンにとって満を持しての再出発となる。

液晶パネルは中国勢が席巻、韓国勢はプレミアムテレビに活路

 現在のテレビ市場は、価格優位性があるLCDを採用したテレビがまだ市場の主役だ。低価格なLCDパネル生産で市場を席巻しつつあるのが京東方科技集団(BOE)や華星光電(CSOT)といった中国勢だ。

 中国勢の価格攻勢によってLCDパネル生産の収益性が悪化しはじめた韓国勢は、同事業を縮小していく考えを示す。サムスンがOLEDテレビ事業を再開する背景には、収益が悪化するLCDパネルの生産ラインをQD-OLEDパネルに転換し、1台1500ドル以上といわれる大型のプレミアムテレビ市場に活路を見いださざるをえないという事情がありそうだ。

 収益性が悪化するLCDパネルに対し、OLEDパネル市場は今後、伸びが期待できる。実際に英調査会社のOmdiaは、22年のOLEDテレビの出荷量を当初予測の650万台から800万台へと上方修正した。サムスンがOLEDテレビ市場に再参入することで、さらに市場拡大が期待できるとしている。

 現在、大型のOLEDパネル市場を席巻するLGディスプレーとサムスンが技術競争することによっても、OLEDテレビ市場を活気づけるとみられる。サムスンのQL-OLEDが青色素子を発光源にするのに対し、LGディスプレーのOLEDパネルは白色素子を発光源とする。

 サムスンの再参入を受けて立つLGディスプレーも21年末、輝度を過去製品から最大30%向上し、機械学習ベースのアルゴリズムで色彩表現力を高めた次世代ディスプレー「OLED EX」を発表した。画質だけでなくデザインも改良し、65型パネルのベゼルを6mm台から4mm台に縮めた。

 章恩(ITジャナリスト)

 

<NIKKEI X TECH>

2022. 1.

-Original column

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00051/

サムスン絶好調、半導体でIntel超え ファウンドリーでTSMC追撃

.

 世界的な半導体不足が続き、2021年は半導体チップ生産を請け負うファウンドリー(受託生産)市場がこれまでにない好況となった。メモリー半導体で世界シェア1位、ファウンドリー市場で世界シェア2位の韓国Samsung Electronics(サムスン電子)も絶好調だ。同社の21年7~9月期の業績は、売上高が73兆9800億ウォン(約7兆1000億円)と四半期ベースで過去最高を更新した。営業利益は15兆8000億ウォン(約1兆5000億円)であり、実にその約6割を半導体事業が稼ぎだした。

 米国の市場調査会社IC Insightsによると、21年の半導体企業の世界売上高ランキングにて、サムスン電子が米Intel(インテル)を抑えて世界1位になる見通しという。サムスン電子が実際トップに立てば、18年以来、3年ぶりの首位奪還になる。

サムスン電子は、半導体ファウンドリー市場で世界首位の台湾TSMC(台湾積体電路製造)を追撃する姿勢を見せる。

 同社は21年11月末、長らく懸案となっていた米国への投資を正式に決めた。約170億ドルを投資し、米テキサス州テイラー市に同州オースティン工場に次ぐ第2のファウンドリーを建設する。テイラー市の工場は、2024年下半期の稼働目標とする。

 韓国の平沢(ピョンテク)や華城(ファソン)、器興(キフン)にあるサムスン電子の半導体工場でも生産ラインや事務棟の増設を進めている。同社は生産能力を今の2倍以上に高め、幅広い企業からの受託生産に応えたい考えだ。

グーグル、エヌビディアなどに次ぎ、STマイクロからも受注

 サムスン電子から見ると、TSMCの背中はまだ遠い。台湾の市場調査会社である集邦科技(TrendForce)によると、21年7~9月期の半導体ファウンドリー市場シェアはTSMCが53.1%(前期52.9%)で圧倒し、サムスン電子は2位の17.1%(前期17.3%)だった。TSMCも24年までに1280億ドルという巨費を投じて、米アリゾナ州や日本の熊本市に生産拠点を確保する考えを示す。

 サムスン電子は、徐々にではあるがTSMCの牙城を切り崩しつつある。

 韓国メディアによると、サムスン電子は、米Google(グーグル)や米NVIDIA(エヌビディア)、米Qualcomm(クアルコム)、米IBMに次いで、米STMicroelectronics(STマイクロエレクトロニクス)から、MCU(Micro Controller Unit)の生産を受注したという。

 STのMCUは、iPhoneが採用する部品の一つだ。16nm世代プロセスの工程で生産する。既に2年先までの生産計画が埋まっているという。

 小型で高性能なMCUは、スマホやクルマなどで需要が広がっている。先端工程ではないものの、顧客の細かい要求に沿って生産する必要がある。世界のMCUのほとんどをTSMCと台湾聯華電子(UMC)という台湾勢が生産している。サムスン電子がファウンドリー市場でTSMCとの競争に勝つためには、MCUは非常に重要な品目になる。

 サムスン電子は、米Tesla(テスラ)からの受託生産も決まっている。7nm世代プロセスの工程で生産した自動運転用のチップを、22年1月からテスラに納入する。このチップは、テスラのEV(電気自動車)トラック「Cybertruck」に搭載されるといううわさだ。テスラは、ファウンドリーとの長期的な協力関係を築くために、TSMCではなくサムスン電子を委託先として選択したといわれている。


趙 章恩=(ITジャーナリスト)

 

<NIKKEI X TECH>

2021. 12.

-Original column

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00050/

クラフトビールに新風、キムチ冷蔵庫メーカーが作る梨生姜ビールとは一体=趙章恩

.

韓国 異色のクラフトビールが人気=趙章恩

 小規模な醸造所がつくる個性的なクラフトビールに、意外な食材を混ぜ合わせた異色のビールが口コミで人気を集めている。例えば、ロッテ製菓のガムに使われる原液を入れたビールや、キムチ冷蔵庫メーカーが企画した保管温度によって味が変わる梨生姜(しょうが)ビール、激辛ラーメンとのコラボレーションで生まれたマンゴービールなどに好奇心をくすぐられる人々が増えている。

 韓国でクラフトビールが登場したのは2002年。20年には酒税法改定で酒類製造免許を持つ事業者が大手ビールメーカーに生産を委託できるようになり、酒税も安くなった。

残り273文字(全文550文字)

週刊エコノミスト

週刊エコノミストオンラインは、月額制の有料会員向けサービスです。
有料会員になると、続きをお読みいただけます。

・会員限定の有料記事が読み放題
・1989年からの誌面掲載記事検索
・デジタル紙面で過去8号分のバックナンバーが読める

通常価格 月額2,040円(税込)


趙 章恩(ITジャーナリスト)

 

週刊エコノミスト

2021. 11.

-Original column

https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20211130/se1/00m/020/065000c

Netflixと韓国通信事業者が泥沼訴訟、インフラコスト巡り平行線

.

ネットワークへの投資は通信事業者だけが負うべきなのか――。韓国では、ネットワークのコスト負担を巡って、米Netflix(ネットフリックス)と通信事業者の間で泥沼の訴訟合戦が繰り広げられている。欧州でも巨大IT企業に対し、通信インフラコストの一部負担を求める声が大きくなってきた。韓国における訴訟の行方と論点を紹介する。

ネットワーク使用料を支払う義務を巡りネットフリックスとSKBが訴訟

 ネットフリックスは2020年4月、韓国SK Telecom(SKテレコム)の子会社でインターネット・サービス・プロバイダー(ISP)である韓国SK Broadband(SKB)を相手に訴訟を起こした。

 ことの経緯はSKBが、ネットフリックスに対して同社のインフラを使うことへの対価となる「ネットワーク使用料」を求めていたことにある。SKBはネットフリックス利用者のトラフィックが急増する中、他の利用者の安定したインターネット環境を守るため、ネットフリックスのサーバーがある東京と香港をつなぐ国際ネットワーク区間容量を増速せざるを得なくなったという。

 これを受けてネットフリックス は、「特定サービスにネットワーク使用料を要求するのは、(すべてのインターネットトラフィックは公平に扱われるべきだとする)ネットワーク中立性原則に反する」とし、交渉に応じたりネットワーク使用料を支払ったりする義務がない点を確認するために訴訟を起こした。21年6月に出たソウル中央地方法裁判所の一審判決は、交渉義務がないことを確認する請求は却下、その他請求は棄却という、ネットフリックスに不利な判決となった。

 ソウル地裁の一審判決の主な内容は以下の通り。(1)ネットワーク中立性は「通信事業者が自社ネットワーク上に流れる合法的なトラフィックを不合理に差別することを禁じる原則」であり、ネットワーク使用料の議論とは直接的関連がない、(2)原告(ネットフリックス)は被告(SKB)を通じてインターネットに接続するという有償役務を提供してもらっていることから、原告は被告に有償役務への対価を負担するものと認定する、(3)どのように対価を支払うかは2社間交渉で決めるべきである――、といった具合だ。

 韓国には大手通信事業者が3社あり、その内、SKテレコム以外の韓国KTと韓国LG U+はネットフリックスと提携関係にある。実はこの2社、ネットフリックスとネットワーク使用料の対価を巡る交渉を終えているもようだ。KTとLG U+は、ネットフリックスとSKBの訴訟についてコメントを控えている。

 韓国のネットサービスの業界団体であるOTT(Over The Top)協議会は、両社の訴訟について「1社でもネットワーク使用料を払わない場合は、その分をコンテンツに余分に投資できるため、全ての会社が公正に払うようにすべきだ」という意見を述べた。韓国の大手インターネット企業である韓国NAVER(ネイバー)と韓国Kakao(カカオ)も、「(ネットフリックスのような)グローバル企業も平等にネットワーク使用料を支払い、公正なインターネットビジネス環境になることを期待する」とコメントした。

 韓国ではかねて、韓国内のコンテンツプロバイダーが通信事業者に対してネットワーク使用料を支払ってきたという経緯がある。

趙 章恩(ITジャーナリスト)

 

<<NIKKEI X TECH>>

2021. 12.

-Original column

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00049/

北米投資加速する韓国バッテリー3社、原材料中国依存のリスク

.

韓国LG Energy Solution(LGエナジーソリューション、LGES)と韓国SK on(韓国SK Innovationから分社)、韓国Samsung SDI(サムスンSDI)という韓国バッテリー3社が米国内の生産拠点拡大を加速している。バイデン米大統領は2021年8月、30年までに米国で販売する乗用車と小型トラックの50%以上を電気自動車(EV)と燃料電池車(FCV)にする目標を盛り込んだ大統領令を発令した。米国で生産したバッテリーセルを搭載したEVは追加控除が認められる見込みであり、韓国バッテリー3社は今こそが北米に生産拠点を拡大するチャンスとみる。欧米の自動車大手と相次ぎバッテリー生産のための合弁会社設立に動く中、韓国内ではバッテリー生産の原材料を中国に依存するリスクがささやかれている。

LGはGM、ステランティスと合弁、25年に年150GWhの生産能力

 EV向けバッテリーで韓国最大手のLGエナジーソリューションは、米国におけるバッテリー生産拠点を順調に拡大している。同社は既に韓国の現代自動車(Hundai Motor)や米GMなどから多くのEV向けバッテリーを受注している。22年1月には新規株式公開(IPO)を計画し、IPOで調達した資金を生産設備に投資する。

 GMと韓国LG Chem(LG化学)の共同出資で設立した「Ultium Cells LLC」は、米オハイオ州と米テネシー州にそれぞれ年間35GWhのバッテリー工場を建設。24年に年間70GWhのバッテリー生産能力を確保する計画だ。LGエナジーソリューションは、GMとの間に起きたリコール問題も乗り越えた形で、両社は良好な関係を保っている。

 実際、バイデン米大統領が21年11月17日(米国時間)、米ミシガン州にあるGMのEV工場「Factory ZERO」を訪問した際のエピソードにもそれがうかがえる。バイデン氏は、Ultium Cells LLCが生産した200kWhのハイニッケルバッテリー「NCMA(ニッケル、コバルト、マンガン、アルミニウム)」を搭載したEVピックアップトラック「Hummer」に試乗。急発進するなどして記者らの前で「いい車だ」と絶賛した。NCMAバッテリーは、ロングセルでバッテリーパック内部のセル配列を既存の3段から2段に単純化したのが特徴だ。構造の単純化で物理的容量が増えエネルギー密度を10%以上向上したという。

 LGエナジーソリューションは21年10月、欧州の自動車メーカーであるStellantis(ステランティス、旧FCA) とも合弁会社設立に合意。年間40GWh規模のバッテリーセルとモジュールを生産する工場を米国に建設する計画を発表した。22年夏に着工し、24年1~3月期からステランティスが米国やカナダ、メキシコで生産する次世代EVに、このバッテリーを搭載する計画である。

 LGエナジーソリューションは単独でも米ミシガン州にバッテリー工場を追加建設する。そのため同社のバッテリー生産能力は25年に、北米だけで年間150GWh規模のバッテリー生産能力に達する見込みだ。

SKはフォードと合弁、米国で年150GWh規模の生産能力を確保

 韓国バッテリー2番手、SK onも負けてはいない。同社と米Ford Motor(フォード)は21年9月に合弁会社「BlueOvalSK」を設立。27年までに約114億ドル(約1兆2800億円)を投資し、米テネシー州と米ケンタッキー州に年間129 GWh 規模のバッテリー生産工場とEV生産工場を建設する計画を発表した。

 SK onは米ジョージア州に単独投資したバッテリー生産工場を持つ。この工場のバッテリー生産能力が年間21.5GWhであるため、同社は米国内で年間約150GWh規模のバッテリー生産拠点を確保した形になる。SK onは全世界でバッテリー生産能力を23年に85GWh、25年に220GWh、30年に500GWh以上に伸ばす計画を打ち出している。旺盛な米国投資によってこの目標を上回りそうだ。

 SK onは21年12月から、ニッケル含有量を高めたバッテリー「NCM9:1/2:1/2」の量産を開始する。22年上半期出荷するフォードのピックアップトラック「F-150 Lightning」に搭載するという。これまでの同社のバッテリー「NCM8:1:1」バッテリーよりもエネルギー密度を約20%高め、その分走行距離が長くなる。韓国バッテリー3社は、ニッケルの含有量を90%以上にするコバルトフリーに近いバッテリーの開発を競ってきたが、SK onがその口火を切った。

 SK onを含む韓国SKグループは30年まで米国に520億ドル(約6兆円)を投資する計画だ。同社はこれまで、韓国バッテリー3社の中で最も米国におけるバッテリー生産量が多かった。しかしLGエナジーソリューションの追い上げとサムスンSDIの新たな米国投資によって、同社の米国内の立場が揺らぐ懸念がある。そのため追加投資の可能性もありそうだ。

趙 章恩(ITジャーナリスト)

 

<<NIKKEI X TECH>>

2021. 11.

-Original column

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00048/