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KJIBCは日韓のIT業界に携わる実務者達の交流を図るための非営利団体です。日本で留学や生活した経験のあり日本語が話せる韓国のIT業界の若手達と、韓国のITビジネスに関心のある日本のIT業界の若手が集うコミュニティでもあります。現在は主に韓国ソウルでのオフ会を中心に活動しています。
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ネットの「祭り」がリアルに炎上した韓国・抗議デモの事情

 ソウルでは、政府の米国産牛肉輸入交渉に抗議する「ろうそく集会」が50日以上も続いている。問題の発端は、韓国がBSE(牛海綿状脳症)対策で禁止していた米国産牛肉の輸入を段階的に認めると決めたことにある。BSEの発生率が高いとされる30カ月以上の牛肉の輸入を認め、BSEが見つかっても輸入を拒否できないという明らかに韓国側に不利な条件に、ネットを中心に激しい批判が巻き起こった。


■ネットから生まれたろうそく集会


 政府は「米牛肉は安全でBSEの心配はない」としきりにアピールしている。在米韓国人会の声だとして「米牛肉は安全でおいしく韓国料理にもぴったり!」などという宣伝まで新聞に載せた。


 そこへ「在米韓国人主婦の集い」と称する主婦団体が声明を発表した。「家族の健康を守る主婦として言いたい。決して米牛肉は安全でなくBSEの危険を抱えている。動物性飼料がまだ完全に禁止されておらず、非人道的で非衛生的な畜産環境も度々指摘されている。米国内でも米牛肉に不信を抱く消費者が多い。国民の健康を脅かす輸入交渉をもう一度考え直してほしい」という内容だった。







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韓国政府の米国産牛肉輸入制限の解除に抗議し、ソウル市庁前広場の集会に参加した大勢の市民=6月13日〔共同〕


 その前後から韓国のポータルサイト「DAUM」のブロガーニュースを中心に「米牛肉を食べると脳に穴が開く。輸入を止めなくては!」という過激な記事が登場し始めた。DAUMはポータルのなかで唯一、市民記者ともいえるブロガーが書いたニュースを既存マスコミのニュースと並べて表示している。マスコミのニュースもブロガーニュースも同じような比重で表示され、さらにDAUMの編集によってはブロガーニュースが初期画面の「今日のニュース」に登場することもある。


 韓国ではすべてのニュースに読者がコメントを書き込めるようになっていて、DAUMに掲載された政府の米牛肉輸入交渉に関する記事には次々と批判のコメントが書き込まれた。それはほかのポータルサイトやコミュニティーサイト、インターネット新聞などあらゆるサイトへと波及していった。記事1件当たりのコメント件数限度である4000件に達するほど反響を集めたブログニュースもたくさん登場した。



 政府は当初、このような国民の不安を「インターネットで怪談が出回っている」と矮小化し、まともに対応しようとしなかった。そこへ放送局のMBCが、欧米でBSEで死んでいく人々のドキュメンタリーを放映したことから、国民の不安が頂点に達した。


 政府はこれからの米国との安全保障問題、自由貿易協定(FTA)などの関係も考えた交渉だというが「国民の健康を売ってまで米国に媚びることはない」と、ビジネスマンやベビーカーを押した主婦、大学生、中高校生、芸能人までもがソウル市の中心部をろうそくを持って歩く抗議集会を始めた。


■警察の鎮圧も「生中継」


 ろうそく集会は2002年夏、米軍の装甲車に女子中学生2人が無残にもひき殺されたにもかかわらず、駐韓米軍地位協定により犯人が米軍に保護されるという事件が起き、2人の魂を象徴するろうそくを持って抗議したことから始まった。2004年、ノ・ムヒョン大統領弾劾反対の時もろうそくが登場した。そしてこれが3度目の大規模なろうそく集会となる。


 ろうそく集会が始まるまでの過程はいつものようにインターネットがきっかけで、とりわけ新しいところはない。しかしここからがいつもと違っていた。ろうそく集会の様子を、参加した多くの個人が個人放送局システムと無線LANやWibro(モバイル高速無線)、HSDPAといった高速ネットワークを駆使し、全国のネットユーザーに向けて動画で生中継したのだ。今やブログに掲載するより早く、この現場の勢いをありのまま、生でリポートできる個人メディアを多くの人が手にしているのだ。







 個人放送局の最大手「Afreeca.com」の報道資料によると、そうそく集会の生中継動画は100万人近い人々が集まったとされる6月10日だけで1357件が放送され約70万人が視聴、5月25日から6月10日までの累計では生中継動画1万7222件、視聴者数は約775万人に達したという。通常は平均60万人ほどが利用しているサイトなので、10倍を超えるアクセスだ。


 動画投稿サイト「PandoraTV」でも5月31日午後から6月1日までのわずか1日の間に1000件近い動画が投稿されたという。ソウル市内のろくそう集会に限らず、全国で開催されているろうそく集会を生中継し、保守団体の「ろうそく集会に反対する集会」までも生中継された。


 テレビカメラよりも早く、集会のすみずみまで映し出す個人放送の影響力は大きかった。保守勢力の一部といわれる新聞が「ろうそく集会は一部反政府組織が扇動しており、米牛肉輸入とは関係ない」といった報道をしても、ろうそく集会は続いている。



 警察による鎮圧や、女子大生が機動隊に頭を踏みつけられ負傷したこと、ベビーカーにまで容赦なく放水する警察の姿が生中継されたことで、さらに集会は激化した。個人放送局の中継動画に触発されて、もう黙ってはいられないと集会に参加したという主婦もたくさんみかけた。集会は過激になりすぎ、一部暴徒化しているとの報道もあった。


 ほとんどの携帯電話にカメラが付いていることから、警察が暴力を振るおうとすると一斉にカメラを向けて証拠写真を残したり、集会の参加者の顔写真を撮影する警察の顔写真を逆に撮影して「この人に気をつけろ」とブログに書き込んだり、ろうそく集会が始まった5月初めからポータルニュースもブログもコミュニティーも動画投稿サイトも個人放送局も、集会の様子を伝えるネットユーザーたちの写真、動画、書き込みで溢れかえっている。


■一気に進んだネット規制


 しかし突然、Afreeca.comの運営会社であるナウコムの社長が逮捕され身柄を拘束された。容疑は映画の著作権侵害。ナウコムが運営している個人放送局やストレージサービスから大量の映画ファイルが出回っているとして前々から捜査を続けてきたという。しかしネットでは当然、タイミングから考えて「逮捕は見せしめではないか」と猛反発が起きている。


 さらに、利用者数1位のポータルサイト「NAVER」がAfreeca.comを禁則キーワードにしていたことが発覚した。Afreeca.comのURLを持つ動画をニュースのコメント欄に書き込めないように遮断していたのだ。ポータルが中立を保てず政権寄りになっていると非難を浴びたが、NAVER側は「わざとではない。Afreeca.comを悪用したスパムが多すぎてそうしただけだ」と説明している。


 またさらに事態を悪化させたのは、6月16~17日にソウルで開催されたOECDのIT長官会議でイ・ミョンバク大統領が行った「インターネットの力は信頼が担保されていないと薬ではなく毒にもなりうる」という発言だ。ろうそく集会はインターネットの毒が生み出したものと受け止められかねない発言をしたのだ。







 大統領はその後「国民が嫌がることはしない」と特別会見を開いたり、「インターネット世論を人為的に統制しようというつもりはない」と釈明したりしたが、大統領のネット批判発言を受けて、ネットを規制する動きが一気に高まった。


 政府の放送通信委員会はインターネット実名制度を強化すると発表し、大統領官邸の青瓦台にはインターネット世論を担当する国民疎通秘書官が新設された。警察はインターネットの書き込みを専門的にモニタリングする組織を作ると発表し、検察はインターネット上に嘘の情報を流して社会的混乱を増幅させるサイバー犯罪に厳重に対処するとの方針を示した。


 さらに、文化体育観光部はネット上に特定の事項に関する書き込みが増えることを感知する事前警報特別チームを運営し、与党のハンナラ党も世論敏感度チェックプログラムというものを導入すると発表した。これでもか、というぐらいの素早さでネット統制を狙った対策を次々と発表したのだ。



 放送通信委員会は少し前まで、個人情報ハッキング、なりすましの問題が多発しているので、住民登録番号を使わない形で個人認証を導入したいとの方針を示していた。ところが大統領の一言で手のひらを返して、住民登録番号で個人を特定する強力な実名制度を導入しようとしている。実名制度を導入しても悪質な書き込みは減らないという研究結果はたくさん報告されているにもかかわらず。


 さらに、国民疎通秘書官として採用されたのは、ろうろく集会の発信源ともいえるDAUMの元副社長だった。DAUMの社長も政府の国家競争力委員会の民間委員として選任された。これでDAUMも政府の味方になるだろうかとも言われている。


■国民の本当の声はどこに







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混乱で政府人事を刷新した李明博大統領(手前)=6月24日、ソウルの青瓦台〔共同〕


 専門家らは、ろうそく集会を「アナログ政府とデジタル市民の激突」と論評している。ネット上に分散している個人が、自律しながらもつながることで力を発揮する。ネットの「毒」はユーザー同士がコミュニケーションを重ねるうちに自然に浄化されているのに、政府が人為的に統制しコントロールしようとすればこの循環を止めてしまう。政府が押さえ込もうとすればするほど陰湿な毒を生み出すだけと、過剰な統制案に反対している。


 著名な小説家であるイ・ムンヨル氏は「ろうそく集会は偉大ではあるがおぞましいデジタルポピュリズムの勝利。少数の意見がインターネットを掌握することによって世論とみなされ勝利を収めた。すべてをこんな方式で決定するとなれば本当におぞましく、とても不安で怖い社会になるだろう」と発言した。これでまたネットの議論が燃え上がっている。



 確かにコピー&ペーストを繰り返すことで、少数の意見を多数の意見のように作り上げることはできるが、双方向のコミュニケーションはそうはいかないだろう。ブロガーニュースとコメントと討論掲示板が循環することでインターネット世論は生まれているが、これをネットだからポピュリズムに終わると言い切れるだろうか。電話による世論調査だけが世論なのだろうか。


 政府はインターネットは特別な空間だから取り締まらなくてはと思っているようだが、ネットもオフラインも人間のいる場所は変わらない。いろんな情報のなかから自分の意思で判断して取捨選択しているし、違法なものは締め出されることが多い。


 一方的に押し付けられていたニュースや情報から開放され、自分から書き込んだり、その書き込みにまた反応してくれる人がいて嬉しくなったり、コミュニケーションしたがるのは人間の本能でもある。もちろんネチケット(ネット+エチケット)を守らなかったり、でたらめなことを書き込んだりといった問題もある。だからといってそれを政府の力で規制できると思っていること自体が危ないのではないだろうか。おしゃべりでストレスを発散するように、ネットでのやりとりの中で悩みを解消し、勇気付けられ希望を持てることだって多い。


 「毎年7%の経済成長、国民所得4万ドル、世界7大経済強国になる」という「747公約」で韓国の景気回復と豊かな生活の実現を描いて、イ・ミョンバク大統領は選ばれた。しかし、韓国銀行が発表した2008年の消費動向は2000年以来の低水準で、韓国経済研究院が発表した物価上昇率はIMF経済危機があった1998年以降で最高の5.6%、経済成長率は3.3%と典型的なスタグフレーション状態に陥っている。


 これは韓国だけの問題ではなく、大統領の責任というよりは外部的な問題が大きすぎた部分もある。しかし米牛肉問題から始まったネットでの政権批判は、いろいろな不満が重なり合い爆発した結果だ。


 まだ大統領に就任して4カ月ちょっとだというのにもう不満だらけというのも酷ではあるが、ある市民がテレビの討論番組で語った「CEO出身だから国民も自分の言う通り従う社員にしか見えないんじゃないの」という言葉の中に国民の不満が集約されている。国のためにやっていることは確かなのだが、一方的すぎるのだ。国民の声にもっと耳を傾けること。その国民の声はどこにあるかといえば、便利なネットに集まっている。


– 趙 章恩  

NIKKEI NET  
インターネット:連載・コラム  
2008/07/01  


Original Source (NIKKEI NET)
 
http://it.nikkei.co.jp/internet/column/korea.aspx?n=MMIT13000001072008&cp=1